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刑法全面「改正」作業に国民の批判を
―法務省主催・「刑法改正について意見を聴く会」の状況と問題点―

日本弁護士連合会 刑法「改正」阻止実行委員会 1978/08/15


目次
要請書(日本弁護士連合会)・・・・・・・・・・・・3
〈資料一〉申入書(日本弁護士連合会)・・・・・・・6
〈資料二〉質問書(日本弁護士連合会)・・・・・・・7
〈資料三〉質問書に対する法務省の口頭回答要旨・・・8
〈資料四〉「刑法改正について意見を聴く会」について(仙台弁護士会)・10
〈資料五〉仙台における「刑法改正について意見を聴く会」の報告・・・11
〈資料六〉申入書(札幌弁護士会)・・・・・・・・・・・・・・・・・15
〈資料七〉要請書(札幌弁護士会)・・・・・・・・・・・・・・・・・16
〈資料八〉札幌における「刑法改正について意見を聴く会」の報告・・・17
〈資料九〉札幌地区「意見を聴く会」に参加して・・・・・・・・・・・20
〈資料一〇〉福岡地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告・・・・22
〈資料一一〉名古屋地区「刑法改正について意見を聴く会」の経過報告・27
〈資料一二〉申入書(名古屋弁護士会)・・・・・・・・・・・・・・・29
〈資料一三〉名古屋弁護士会の申入れに対する名古屋高検あからの回答・30
〈資料一四〉声明書(名古屋弁護士会)・・・・・・・・・・・・・・・31
〈資料一五〉申入書(日本弁護士連合会)・・・・・・・・・・・・・・32
〈資料一六〉「意見を聴く会」についての報告(日弁連刑法「改正」阻止実行委員会)・・・・・・・・・33
〈資料一七〉広島地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告・・・・35
〈資料一八〉高松地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告・・・・50


要請書
法務省は、昭和四九年五月二九日の法制審議会答申以降、国民各層の厳しい批判にもかかわらず、「改正刑法草案」に基づく刑法全面「改正」の政府案作成作業を着々と進め、昭和五一年六月一一日には「中間報告」を発表しました。
そして、現在、法務省は、全国八個所で「刑法改正について意見を聴く会」(以下、「意見を聴く会」とよびます)を開催し、昭和五二年度中に完了させる計画を進めています。
この「意見を聴く会」は、昭和五二年二月二五日、すでに仙台で実施されたほか、四月一五日に札幌(札幌地区)、六月二三日に福岡(九州地区)で実施される日程となっています。
法務省の説明によれば、この「意見を聴く会」は、「最終的な政府案の作成に当っては、今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」という「中間報告」の一環として実施されているものです。しかも、法務省は、政府案(法務省案)が確定するまでの間、人を集めてその意見を直接に聴く機会としては、これ以外に実施できないし、何も計画していないというのです。
そうであるだけに、この「意見を聴く会」の実施要領における次のような欠陥は、きわめて重大であるといわざるをえません。
一、意見を述べるべき参加者の構成が国民各層・各分野の意見を代表するようになっていない。
二、議事は非公開であり、報道機関の傍聴を禁止するものであって、記録の公表も十分に保障されていない。
このような「意見を聴く会」のあり方は、まさに、現在進行中の刑法「改正」作業が国民から大きく遊離していることをはっきり示すものであって、根本的に批判されるべきものであるといわなければなりません。
日本弁護士連合会と関係各弁護士会は、今日まで、この「意見を聴く会」に出席して弁護士会の意見をきちんと述べるという基本的態度を維持しつつ、右の欠陥を早急に是正するよう、強く申入れてきましたが、法務省はこれにこたえようとしていません。
日本弁護士連合会としては、このような刑法「改正」作業のあり方について、その実情と問題点をひろく国民各層のものとし、これに対する国民的な批判を大きく展開していくことが、重要であると考えています。
何卒、皆さまにおかれましては、この問題に関する日本弁護士連合会の態度を御理解頂き、法務省に対し、ひろく批判と申入れの活動を進めて頂きますよう、切に要請する次第です。
昭和五二年三月三〇日
日本弁護士連合会
会 長 柏 木 博
各 位 殿

〈資料一〉
申入書(日本弁護士連合会)
法務省主催の「刑法改正について意見を聴く会」が、昭和五二年二月二五日(仙台高等検察庁会議室)以降、本年中に全国八個所で実施されると伝えられ、この度、その開催要領も明らかにされた。
これは、「最終的な政府案の作成に当っては、今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」との昭和五一年六月一一日付「中間報告」にそう企画として、立案されたものと推測される。
しかし、その開催要領によれば、意見を述べるべき参加者は、地元有職者五名程度(そのうち、三名を高等検察庁が人選)、刑事法学者二名、裁判官・検察官・弁護士各二名、警察・矯正・保護関係者各一名であり、裁判所・検察庁・弁護士会などからの参列員も数名指定されている。
また、その実施については、一般市民の傍聴を禁止するばかりではなく、報道機関にさえもその門を閉ざしたうえ、記録の作成・公表も考慮されていないと伝えられる。
このような開催要領では、刑法全面「改正」の影響を最も大きく受けるべき国民各層・各分野の意見を直接に反映させることがほとんど不可能である。法務省が、人事権を掌握している参加者の発言をことさらに聴いてみるという姿勢も、とうてい、公正なものとはいえない。しかも、非公開とされるのであるから、これでは、どこからみても、国民の意見をよく聴くという実質はなく、その形式だけを整えようとするものといわざるをえない。
もし、刑法全面「改正」については、真に国民各層の意見を聴くというのであれば、すくなくとも、次の二点を明確に是正すべきである。
一、国民各層、各分野を代表すべき参加者の数を大きくふやすべきである。
二、議事を公開し、記録も作成・公表して、さらに国民の意見をよく聴くための資料とすべきである。
日本弁護士連合会は、これまで、刑法全面「改正」について意見を述べることのできる機会があれば、それがどのような場合であろうと、必ず発言してきたし、その態度は今後も変ることはない。
それにしても、今回の法務省の企画によれば、弁護士会の立場から発言することの意義があまりにも小さなものにならざるをえないという点を痛感する。
よって、法務省が速やかに右の二点を改善するよう申入れるものである。
昭和五二年二月四日
日本弁護士連合会
会 長 柏 木 博
同刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 江 尻 平 八 郎
法務大臣 福田 一 殿

〈資料二〉
質問書(日本弁護士連合会)
日本弁護士連合会は、昭和五二年二月四日、法務大臣に対し、「刑法改正について意見を聴く会」の開催要領を、すくなくとも、次の二点において明確に是正すべきものである旨、文書で申入れました。
一、国民各層・各分野を代表すべき参加者の数を大きくふやすべきである。
二、議事を公開し、記録も作成・公表して、さらに国民の意見をよく聴くための資料とすべきである。
しかし、昭和五二年二月二五日、仙台高等検察庁で開催された右会合の状況をみると、右の申入は遺憾ながらまったく考慮されなかったものといわざるをえません。
その運営は、法務大臣官房参事官があいさつと司会を兼ね、刑事局参事官・局付担当官各一名が陪席し、一七名の参加者(一名欠席)が約一五分間づつ意見を述べただけで、法務省側もこれをたんに聴きおくに止まり、他に裁判所・検察庁・弁護士会などから参列員七名が出席して控えているというものでした。
この参加者についていえば、すでに日本弁護士連合会が指摘しているように、「改正」刑法の適用・執行を受けるべき国民の側を代表する参加者がすくなく、法務省にとっては、部内意見ともいうべき検察官・保護観察所長、および密接な協力関係にある警察官などが、合計六名(内一名欠席)もふくまれています。
また、参加者による自由な意見の交換もなく、報道陣をもふくめて傍聴は禁止されました。これでは、いったい何のために、「刑法改正について意見を聴く会」を開催するのかその趣旨がわからないというべきです。それは、どこからみても、真に「国民の意見を聴く」という意思もなく、その形式だけを整えようとする法務省の姿勢を、より、明らかにしているものといわなければなりません。法務省は、その姿勢を変えることなく、さらに札幌(四月)、福岡(五月)でこの会合を開催し、引き続き全国各地でこれを実施しようとしています。
このように、国民に対する誠意を欠く法務省の態度はまことに遺憾であるといわざるをえません。
そこで、日本弁護士連合会としては、このような事態を放置しておくことができないと考え、改めて、次の質問を提起するものです。
1 昭和五一年六月一一日付「中間報告」によれば、「最終的な政府案の作成に当っては、今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」とのことですが、今回の「刑法改正について意見を聴く会」は、そのためのものなのでしょうか。また、国民の意見を聴く機会を他に計画しているのでしょうか。もしそうであれば、それはどのようなものでしょうか。
2 結局、先般の「刑法改正について意見を聴く会」は、誰が、何のために、誰から意見を聴くものなのでしょうか。
3 国民各層・各分野を代表する参加者数をふやす必要があるとみられるのに、それを実行しないのはなぜですか。
4 法務省・検察・警察関係者を参加者から除外することが適当であると考えられるのに、これを参加させるのはなぜですか。
5 裁判所・検察庁の長官たちをふくむ参列員は、どうみても不要であると思われますが、なぜ必要なのでしょうか。
6 参列員にかわる一般市民の傍聴こそ、真に必要であり、重要でもあるのに、これを認めようとしないのはなぜでしょうか。
7 高等検察庁など、一般市民が自由に立入ることのできない検察庁庁舎は、会場として不適当であるとみるほかないのに、これを使用するのはなぜですか。
8 従前の「刑法研究会」の例によれば、弁護士会代表の数も多く、参加者の自由な意見交換もおこなわれたのに、その運営方式が、今回にかぎり、変更されたのはなぜですか。
9 この会合の記録を正確に作成して公表すべきものであると考えられますが、この点については、どのような措置が予定されているのでしょうか。
10 この会合の改善にかんする弁護士会の申入れについては、法務省・検察庁ともに実務上の責任の所在を明らかにしようとしませんし、誠意ある対応措置もまったくみられないのですが、弁護士会の申入れを真剣に検討し、具体的に善処する意思はあるのでしょうか。
法務省は、これらの質問事項に対し、昭和五二年三月二五日までに、文書をもって、明快で責任のある回答をしてください。
右申入れます。
昭和五二年三月一四日
日本弁護士連合会
会 長 柏 木 博
法務大臣 福田 一 殿

〈資料三〉
質問書に対する法務省の口頭回答要旨
昭和五二年三月二五日午後三時       日弁連において
(刑法「改正」阻止実行委員会全体会議報告資料)
出席者
法務省側
藤 永 幸 治(法務大臣官房参事官)
土 屋 真 一(法務省刑事局参事官)
飯 田 英 男(法務省刑事局局付)
間 瀬   博(法務事務官)
日弁連側
柏木博会長、江尻平八郎刑法「改正」阻止実行委員長、内田剛弘同副委員長、管沼隆志同副委員長、渡辺脩同事務局長、小野田六二日弁連事務総長、神谷威吉朗同事務次長、馬場英彦同事務次長
去る三月一四日、日弁連が法務大臣に対し提出した質問書に対する回答は、三月二五日、法務大臣代理として、藤永幸治法務大臣官房参事官が、口頭をもって示した。
質問事項と回答要旨は、以下のとおりである。
1 昭和五一年六月一一日付「中間報告」によれば、「最終的な政府案の作成に当っては、今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」とのことですが、今回の「刑法改正について意見を聴く会」は、そのためのものなのでしょうか。また、国民の意見を聴く機会を他に計画しているのでしょうか。もしそうであれば、それはどのようなものでしょうか。
A 今回の「意見を聴く会」は、「中間報告」における右方針の一環である。政府案(法務省案)が確定するまでの間は予算上の問題もあり、他に人を集めて意見をきく計画はない。但し、出版その他の方法による各界の意見はきく。
最終的に政府案(法務省案)が出来れば、公聴会の実施を考えているが、公聴会は、国会上程の際行うべきものであり、また、予算的にも無理であるので、実施は不可能であろう。今回の「意見を聴く会」についても前例がないということで、対大蔵省交渉は難行したが、やっと認められた。
2 結局、先般の「刑法改正について意見を聴く会」は、誰が、何のために、誰から意見を聴くものなのでしょうか。
A 1と同趣旨である。
3 国民各層・各分野を代表する参加者数をふやす必要があるとみられるのに、それを実行しないのはなぜですか。
A 参加者を増やすことにこしたことはないが、予算上の問題がある。
4 法務省・検察・警察関係者を参加者から除外することが適当であると考えられるのに、これを参加させるのはなぜですか。
A 法務省関係者を除くと同じ予算でできるので、その辺を検討している。なお矯正・保護関係者については、役所の代表というわけではなく、個人の意見としてその見解を聴いている。全員をはずすということは今のところ考えていない。
5 裁判所・検察庁の長官たちをふくむ参列員は、どうみても不要であると思われますが、なぜ必要なのでしょうか。
A 会場借用の関係上、儀礼として参列願っている面もあるが、それだけではなく、法曹会の地元の代表者に出席いただいて、直接生の意見(参加者の)を聞いてもらうことにも意義があるし、法制審議会の委員に参列願っているのでそのバランスも考慮した。
6 参列員にかわる一般市民の傍聴こそ、真に必要であり、重要でもあるのに、これを認めようとしないのはなぜでしょうか。
A 公聴会でないのと、会場との関係でできない。法務省案が確定していれば、前に述べたようにそれも可能と考える。
7 高等検察庁など、一般市民が自由に立ち入ることのできない検察庁庁舎は、会場として不適当であるとみるほかないのに、これを使用するのはなぜですか。
A 公聴会形式でないことと、予算との関係で余裕がないためである。
8 従前の「刑法研究会」の例によれば、弁護士会代表の数も多く、参加者の自由な意見交換もおこなわれたのに、その運営方式が、今回にかぎり、変更されたのはなぜですか。
A 従前の研究会は、法律専門家に集まってもらったので意見交換したが、今回は、政府案をまとめるために一方的にきくだけである。
9 この会合の記録を正確に作成して公表すべきものであると考えられますが、この点については、どのような措置が予定されているのでしょうか。
A 議事は記録してある。全国八ブロックでの「意見を聴く会」終了の段階で意見要旨を公表する予定であるが、自由な発言を確保するため、氏名と意見との結びつきを発表することはさし控える。
10 この会合の改善にかんする弁護士会の申入れについては、法務省・検察庁ともに実務上の責任の所在を明らかにしようとしませんし、誠意ある対応措置もまったくみられないのですが、弁護士会の申入れを真剣に検討し、具体的に善処する意思はあるのでしょうか。
A この会は、法務省の主催であり、法務省の私どもの責任と権限で実施している。
その後の質疑応答の中で、次の点も明らかにされた。
「法務省案ができあがった段階で法制審議会にかけることはない。同案は、法務省の権限と責任において完成させる。但し、草案と大幅に差異ある点については、了承を得る。」
以上の回答に対して、日弁連側は、各論点につき、真に国民の意見を聴くという姿勢に欠けているという厳しい批判を卒直に述べた。

〈資料四〉
「刑法改正について意見を聴く会」について (仙台弁護士会)
「刑法改正について意見を聴く会」についての参加者選出についての御依頼がありましたが、次のとおり意見を申し述べるとともに回答します。
右会の開催要領によれば、意見を述べるべき参加者は地元有職者五名程度(そのうち二、三名を高等検察庁が人選)、刑事法学者二名、裁判官・検察官・弁護士各二名、警察・矯正・保護関係者各一名であり、その他裁判所・検察庁・弁護士会などからの参列者が数名指定されているのみであり、右開催の趣旨、目的・根拠が明らかにされておりません。
また、その実施について、一般国民の傍聴を禁止するばかりか、報道機関にもその門を閉ざしたうえ、記録の作成・公開も考慮されていません。
このようなやり方では、刑法改正の影響を最もうける国民各層・各分野の意見を反映させることが不可能であります。また法務省が人事権を掌握している参加者の発言を、ことさらに聴いてみるというあり方も到底公正なものとはいえません。しかも非公開とされるのであるから、これでは国民の意見をよく聴くという実質はなく、その形式だけを整えようとするものといわざるを得ません。
よって、次の点を是正していただきたい。
一、広く国民に周知させて傍聴を認めること。
二、国民各層、各分野を代表すべき参加者の数をもっと大幅に増加すること。
三、議事を公開し、記録を作成・公表すること。
四、刑事法学者に荘子邦雄氏が予定されていますが、同氏は法制審議会刑事法特別部会第二小委員会の幹事として改正刑法草案の作成に参画したものであり、氏から意見を聴くなどということは、意味をなさないものであります。
五、聴取方法は意見の陳述と討論の双方を実施せられたい。
右の申入れとあわせ
弁護士 小野寺照東    小林 昶
地元有職者
木村栄八郎 (宮城県労働組合評議会常任幹事)
関  武止 (生活と命を守る県民会議議長)
を推薦しかつ刑事法学者小田中聰樹氏も参加させられるよう要望します。
昭和五二年二月八日
仙台弁護士会
会 長 菊 池 一 民
仙台高等検察庁
検事長 羽 山 忠 弘 殿

〈資料五〉
仙台における「刑法改正について意見を聴く会」の報告
日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会は、次のとおり、小野寺照東副委員長(仙台弁護士会)から、「刑法改正について意見を聴く会」の仙台における実施状況の報告をうけた(昭和五二年二月二八日、同年三月一〇日)。
一、経過
去る昭和五二年二月二五日、仙台高等検察庁会議室において、標記会が開催された。
参加者は別項名簿のとおりである。時間は午前一〇時より午後四時までで、各約一五分程度の意見を述べさせるだけのものであった。
報道関係者には、開始後三分間ぐらいの写真撮影を認めたのみで、一般傍聴は認めないやり方であった。
なお、地元有職者五名のうち、二名は弁護士会推せんを求められ、県労評幹事と生活を守る県民会議議長を推せんし、弁護士も会からの推せんによるものである。
冒頭に法務大臣官房参事官藤永幸治氏が法務大臣に代って「あいさつ」の代読をし、その後、参加者に事前に配付されていた「刑法改正草案の解説」と「刑法全面改正についての検討結果とその解説」にもとづき五分ぐらい簡単な改正作業についての説明がおこなわれた。その中で草案と代案のどちらがよいのかについて意見を聞きたいということであって、代案をよしとするものではないという点の説明がなされている(この点についても批判意見が述べられたので、草案・代案の是非そのものについての意見をも聴くものである旨、最後に説明を修正した)。
ついで藤永参事官の司会で、地元有職者五名がまず指名された順序で各一〇分ないし一五分の意見が陳述された。
そのあとは、アイウエオ順で、参加者から意見陳述が行なわれた。予定時間は約一〇分から一五分という指定であったが、各自最低一五分、人によってはそれを超過して意見が述べられたが、時間を制限するということはなされなかった。
なお座席はコの字型にしつらえられたものに、参加者がアイウエオ順に座り、それと向きあった形で参事官ら三名が着席した形で意見陳述が行なわれた。

二、参加者                       (敬称略)
臨済宗向泉院住持       川 崎 清   洲
宮城県労働組合評議会常任幹事 木 村 栄 八 郎
東北地方更生保護婦人連盟会長 栗 原 喜 代 子
生活と命を守る県民会議議長  関     武 止
河北新報社取締役       二 階 堂 義 孝
東北大学教授         阿 部   純 二
新潟大学教授         沢 登   桂 人
山形大学助教授        小 松     進
仙台高等裁判所判事      三 浦   克 巳
仙台地方裁判所判事      野 口   喜 蔵
仙台高等検察庁検事      有 元 芳 之 祐
仙台地方検察庁検事      熊 沢   泰 倫
弁護士            小 野 寺 照 東
弁護士            小 林     昶
宮城県警察本部刑事部長    船 形 千 代 松
東北管区警察局公安部刑事家長 栗 城   幸 八
宮城刑務所長         川 口     譲
仙台保護観察所長       中 村   四 郎
(参列員)
仙台高等裁判所長官      木 下   忠 良
仙台地方裁判所所長      畠 沢   喜 一
仙台高等検察庁検事長     羽 山   忠 弘
仙台地方検察庁検事正     安 田   道 夫
東北弁護士会連合会長     綱 沢   利 平
仙台弁護士会長        菊 池   一 民
東北大学教授         荘 子   邦 雄
(法務省員)
法務大臣官房参事官      藤 永   幸 治
刑事局参事官         浜     邦 久
同 局 付          飯 田   英 男
同   法務事務官      間 瀬     博
同   法務事務官      田 中   克 巳
同   法務事務官      水 間   純 一
三、参加者の意見の要旨
1 地元有職者五名
(1)川崎清洲(僧侶)
改正に賛成。法律は国民にわからない。わかり易くすることはよいこと。新しい型の犯罪に対し社会の変化に応じた改正には賛成、企業間のスパイ暗躍はとり締まるべき、企業秘密の漏示は企業の命取りとなる。準恐喝については暴力団の横行は許せない。
善良な市民の迷惑をとり除くべき。憲法の精神に貫かれた権利と義務と自由とを考えなければならない。
(2)木村栄八郎(宮城県労評常任幹事)
改正に反対、これまでの刑法と労働運動とのかかわりを具体的に検討する必要がある。刑法は大衆運動、労働運動に対し、常に弾圧の機能を果してきた。暴力法、建造物侵入、不退去、脅迫、傷害、公務執行妨害、器物損壊など。
現在、犯罪は増加していないのに新しい犯罪を沢山つくり、刑を重くしている。抑圧を狙ったものであり、人権にとっては危険なものである。多衆とか、二人以上という表現は大衆団体とか集団を狙ったもの、共謀共同正犯については松川の例がある。機密漏示も同じく大衆運動に対する抑圧の口実とされる解雇による弾圧など。騒動予備、不解散罪も集団行動に対するもの。
結局、国民の生活を守るという口実のもとに諸運動を弾圧するための改正といわざるを得ない。
(3)栗原喜代子(更生保護婦人連盟会長)
刑法の言葉がむずかしくてわからない。みようともしなかった。冷い感じをうける。改正に賛成。
改正案はわかり易くしてあるが、読んでみるとやはりわかりにくく頭が痛くなってきた。
総体的に何故反対するのかわからない。運用する人の考え、人柄を信じていかなければならない。
(4)関 武止(生活と命を守る県民会議議長)
改正に反対。現在の日本において住民運動が何故おきてきたのか考えなければならない。治安維持法の下で戦争に反対できなかった。それを思い起こさせる。
このような改正では表現の自由が厳しく制限される。法の一人歩きの危険性がある。
民法行政法はザル法である。これらの法律をそのままにしておいて罪を重くするとは何事か。公害、薬害、食品添加物の被害など法の不備が日本ほどひどいところはない。スモン病の裁判で生産会社のあり方を鋭く指摘している。騒動予備、多衆累犯、不解散罪など問題である。企業について何らかの方法で知らなければ何もできない。企業秘密漏示罪の「正当な理由」ということなど、これまでの例からみて信頼することはできない。「改正」とはいえない。憲法九九条により憲法尊重の精神によって改正を考えて貰いたい。
(5)二階堂義孝(河北新報取締役)
社会機構の複雑化、明治生れの刑法、一般の人には判断つきかねる。最初は批判的であったが、法文をわかり易くする努力がよく出ている。保安処分その他処罰の増加、秩序が維持されることが必要、妥当性がある。活用の仕方が問題ではないか。
みなし規定の存続ー代案に賛成。本当のことを知らせていないという新聞に対する厳しい批判がある。隠されていては真実の報道ができない。企業秘密漏示罪によって制限されることとなるのは問題である。外交、国防については一定の必要があると思うが、それ以外については限定することが必要と思う。報道の制約にならないように。
憲法二一条の精神を尊重し、取材の自由を保障すべきである。
2 学者三名
(1)阿部純二(東北大学教授)
堕胎罪についてのみ言及。刑法典からきり離して単行法とする。違法宣言をする。処罰でなく宣告をすることが必要。優生保護法一四条とつながる。
(2)沢登佳人(新潟大学教授)
改正に全面的反対。国民的合意がない。まず関係者の中では日本弁護士連合会が一致して反対している。学者の多くも反対している。一般国民の中でも、ジャーナリズム、精神神経学会、労働団体、消費者団体が反対している。積極的に推進する声は微弱である。
国会でも与野党が伯仲し、野党は反対している。
改正案は犯罪理論の発展を全く考慮していない。ナチス時代の域に低迷している。三五条、三六条、四八条など社会防衛的解釈の仕方は容認できない。
仮りに理論的に正しいとしても運用機関の水準がなっていない。例えば保安処分が正しいとしても精神科医の実態から運用上は砂上の楼閣である。
(3)小松 進(山形大学助教授)
改正は必要だと思う。対案をもって批判するのが正しいと思うが対案はない。代案で削除を提案しているのには賛成である。みなし規定はつけ加えた方がよい。法律の錯誤を主要な問題に挙げたのは理解できない。勾留三〇日以上九〇日未満というのは論理が逆転している。刑を軽くする方向で考えるべきである。
改正には賛成であるが、草案には反対である。その重罰化、構成要件など憲法の精神からみて疑問が多い。
代案の方向で、草案全体について検討し直してみることに賛成である。
3 弁護士二名
(1)小野寺照東
日弁連は、昭和四九年五月二五日の定期総会における宣言をはじめ、草案に対し全般的に人権侵害の危険が著しく大きいことを強く批判してきた。そして、草案に基づく刑法全面「改正」を阻止するための実行運動をひろく国民とともに全国各地で粘り強く進めてきた。
「中間報告」の基本的な態度は、その解説によると、すこしも草案と違っていない。従って、これまでの草案に対する批判がそのまま妥当する。以下制限された時間内で以下のことを指摘しておきたい。
中間報告も、「全国的再検討の必要性」を強調しているが、「全国的再検討」の必要性が、そのまま「全国的改正の必要性」に結びつくわけのものではない。とくに「現行刑法は明治四〇年に制定され、翌四一年に施行された」というにとどまっている解説の立場は、日本国憲法の制定にともない昭和二二年の刑法一部改正が刑法のあり方を国家主義から民主主義へと原理的転換させたものであることの意義づけを完全に欠落させている。
中間報告の解説は、草案が「罪刑法定主義の見地」と、「責任主義の原則」を徹底させているとする。しかし、もともと「改正刑法準備草案」の理由書は、「わが国において戦時の厳しい時代においても、未だかって罪刑法定主義が否定されたことはない」としていた。治安維持法をはじめとする抑圧法が人権侵害の暴威を振ったという歴史的事実についても罪刑法定主義の適用があったと主張するのであれば、それは、罪刑法定主義の完全な形骸化でしかない。
草案と中間報告による罪刑法定主義についても全く同様の批判がなされなければならない。
中間報告の解説は、また非民主的秘密審議の非難には「十分な根拠がない」と主張するが、準備会、審議会の各構成・審議の具体的あり方からいえば、非民主的秘密審議であったことはあきらかで、中間報告の主張こそ「全く根拠がない。」
(2)小林 昶
@ 与えられた時間では充分な意見が述べられないこと。
A 当局側に意見を聴く姿勢があるかどうか疑わしいこと(「会」開催に至る経過について)
B 代案と草案の可否についてのみ意見を聞くこととされていること。
C 「公聴会」を開くべきこと。
D 今回の改正そのものが人権に対する配慮を全く欠如して、処罰の必要性のみを追求したものであることを多衆犯の規定の構造を取り上げて主張。
4 裁判官二名
野口喜蔵―仙台地裁部長判事
ほぼ代案に賛成、草案では人権侵害のおそれありを理由三浦克巳―仙台高裁部長判事
ほぼ草案に賛成
5 検察官二名―仙台高検、地検各一名、
6 警察関係二名
7 保護一名―保護観察の所点
 5、6、7はすべて草案賛成、人権侵害のおそれなど、全くないと断言する。
以上

〈資料六〉
申入書
(札幌弁護士会)
法務省主催の札幌地区「刑法改正について意見を聴く会」につき、参加者の推薦方依頼を受けましたが、右会の開催について次のとおり申入れます。
右意見を聴く会は、「最終的な政府案の作成に当っては、今後における各界からの意見及び批判を十分に考慮する」との、昭和五一年六月一一日付「中間報告」にそう企画として、立案されたものと推察いたします。
しかし過日仙台市において行なわれました「刑法改正について意見を聴く会」は、仙台弁護士会からの報告によれば、仙台高裁長官、同高検検事長等の参列のもとに刑事法学者三名、裁判官、検察官、弁護士各二名、警察関係者二名、矯正・保護関係者各一名、地元有職者五名(内三名は法務省推薦、二名は弁護士会推薦)の計一八名が、各一五分づつ意見を開陳したにすぎなかったとのことです。報道関係者も含め一般の傍聴は禁止され、記録の作成公開も不明確なものであったとのことであり意見発表者の顔ぶれからみても各界からの意見を十分に聴取するためのものとは到底いい難い会と断ぜざるをえません。
当弁護士会は、札幌における「意見を聴く会」が、真に札幌市民の意見を聴くものとなるよう、仙台での経験を踏まえ、次の三点を是正されるよう強く申入れます。
一、国民各層、各分野を代表すべき参加者の数を増やすこと。
二、議事を公開すること、又記録を作成公表すること。
三、参加者の意見陳述時間を最低三〇分は確保し、質疑応答の時間を設けること。
なお右三点について貴庁の回答を書面をもって、当弁護士会宛なされるようあわせ要望いたします。
昭和五二年三月一六日
札幌弁護士会
会 長 渡 辺 敏 郎
同刑法「改正」対策特別委員会
委員長 山 根   喬
札幌高等検察庁
      御 中

〈資料七〉
要望書
(札幌弁護士会)
法務省主催の「刑法改正について意見を聴く会」が、昭和五二年二月二五日、仙台市で開催されたのを第一回として、以後本年中に全国八箇所で実施されることになりました。
右会の第二回は、札幌市において本年四月一五日に開催されるとのことであり、当会に対し、弁護士二名および地元有職者二名の参加者推薦依頼が法務省よりありました。
当弁護士会は、右会に参加し発言するつもりでありますが、本会の開催形式につき重大な問題があると考え、別紙のとおり申入書を作成し提出いたしました。
本「意見を聴く会」が真に札幌市民の意見を聴く会となるためには、当弁護士会の申入れを法務省が受け入れ、その開催形式を改めなければ無意味と考えますので、是非とも当弁護士会申入書をご理解頂き、貴会も法務省に対し同様の申入れをされるよう、要請いたします。
昭和五二年三月一六日
札幌弁護士会
会 長 渡 辺 敏 郎
同刑法「改正」対策特別委員会
委員長 山 根   喬
各 位

〈資料八〉
札幌における「刑法改正について意見を聴く会」の報告
昭和五二年四月一五日
御報告
札幌弁護士会
弁護士 馬 杉 栄 一
日弁連刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 江 尻 平 八 郎 殿

一、昭和五二年四月一五日開催されました「刑法改正について意見を聴く会(札幌)」について御報告します。
参加者は別紙のとおりで席図のとおり並び、浜参事官のあいさつのあと、一般有職者を先にアイウエオ順で発言しました。発言内容は以下のとおりです。
浜参事官
刑事局長あいさつ代読
刑法改正は、国民の日常生活と密接な関連があるので、国民の意見を広く聴く必要がある。その一環として本日の会合をもった。
草案と代案といずれがよいかという趣旨でおききしているのではなく、本日はどのような問題点についても開陳願いたい。
伊藤弘子(賛成)
改正作業に敬意を表する。草案は、人間尊重、社会秩序を守るという精神が各条文にはいっている。保安処分については、自分たちの生命・財産を守るために、罪を犯し、又犯すおそれのある精神障害者のための独自の施設、治療が必要と思う。
一部の人の意見では、草案の保安処分は、特定の思想をもっている人をとじこめることができるのではないかというおそれがあるということであるが、そんなことはない。読みが足りない人の意見だ。
上野武治(反対)弁護士会推薦
札幌弁護士会からの推薦で意見発表の機会が与えられたが、保安処分は刑法改正のひとつの柱なのだから、精神科の医師らに直接意見を発表させることを要求する。
草案の保安処分は、保安優先で危険なものであるから反対する。
川合一成(賛成)
草案に賛成。口語体になったこと。新しい犯罪に対処しうるようになったこと。刑罰の適切化などは評価できる。企業秘密漏示罪については、取締の対象を、経営内容や販売方法のことさらな暴露にも広げるよう考えて欲しい。
栄 英彦(反対)弁護士会推薦
刑法改正は、一度改正されると簡単にはかえられないので、子供達のためにも充分慎重に考えなければならない。
草案は、わかりやすくということを通じて、処分範囲が拡大され、刑も重くなっている。過去、私達の先輩が法の拡張解釈により、信教の自由を抑圧されてきた経験からみると、草案は拡張解釈の恐れのある条文が多く、危険性を感じる。
林  武(反対(or)慎重)
社会的な情勢の変化から、刑法の全面的な洗いなおしには賛成。今後とも国民の意見をきいたうえで、納得のいく改正をして欲しい。
言論の自由への制限となるような改正草案の名誉侵害罪、企業秘密漏示罪、公務員の秘密漏示罪には反対。保安処分は草案は治療優先でないので疑問。慣重にやってほしい。
口語化についてもまだまだ配慮が足りない。
平山亮夫(批判的)
ある程度の改正はやむをえない。医師としての立場から保安処分は左の問題があると思う。治療優先とすべきこと、診断(判断)基準を明確にすること、人権侵害への歯どめを充分にすること、保安処分自体は必要だと思うが、右の点を考えてほしい。
谷内口正義(反対)弁護士会推薦
本会は議事を公開し、討論を確保し、又参加者の構成も考えなおすべきである。今後もこの形式で行なうならば、総評はじめ全国の労働組合は、これをボイコットする考えがある。
又、法務省は、労働組合に対し、直接参加を求めるのがすじである。
労働者の立場から発言する。現行刑法でも数組の事件等で不当な過剰捜査がなされていることを見ると、今回の草案は、労働組合、大衆運動にとって、治安維持法が出てきたのと同じである。全面撤回すべきである。
内田文昭(反対)
準備草案、改正草案に批判的な学者グループに属している。
歴史的な目で見た改正が必要である。その際、二一世紀の国家はどうあるべきか、刑法の守備範囲はどうあるべきかを考える必要がある。
草案は、他の領域(道徳などの)にはいりすぎているのではないか。
榎本 厳(賛成)
騒動予備罪は必要。法定刑について、草案と代案では、草案に賛成。
爆発物に関する罪、草案一七〇条二項は、下限五年を七年にして欲しい。又、致傷もいれて欲しい。
粕谷俊治(賛成)
新憲法下での全面改正は必要(尊属殺)。新しい犯罪にも対処しなければならず、判例と現行法との秉離も埋めなければならない。この面からも全面改正は必要であり、又草案はその方向で検討が加えられていると思うので、作業が進められることを望む。
栢原淑雄(賛成)
1 八六条は代案に賛成。
2 代案で法定刑を下げた部分は、草案に賛成。
3 一五三条は草案どおり必要。
4 死刑、心情的には廃止して欲しいが、世論などからみて存続はやむをえないと思う。
5 懲役・禁錮は、将来一本化すべき。
6 懲役・禁錮・拘留の上限、下限は草案は妥当である。
7 不定期刑に賛成。
8 集団反抗罪賛成。
小暮得雄(批判的)
草案に口語化などメリットはないわけではないが、全体としては、メリットを減殺する内容が多い。刑法の処罰範囲を広げすぎていること、判例・学説が熟さないうちに一方的に規定する部分が多いこと。
保安処分そのものは否定しないが、草案のとおりだと危険を感じる。
刑法全面改正は、国家的大事業であるから法律的検討のみならず、各層の意見を充分に聞き、慎重に行うべきであって、余り急ぐべきではない。天の時、人の和を待つべきである。
高橋健宏(賛成)
草案の中での保護観察の規定、又、執行執予の規定、不定期の規定は賛成。
馬杉栄一(反対)
日弁連や札弁の申し入れを法務省が受け入れなかったのは極めて遺憾である。本会への参加の有無を、再検討しなければならないと思っている。
騒動予備罪の削除を中心に代案批判。
三島嘉蔵(賛成)
1 準恐喝罪、営利目的わいせつ罪、賛成。
2 人質による強要罪は代案賛成、刑はもっと重く。
3 賄賂の推定規定は必要。
三ツ木健益(賛成)
現実の事件処理を通じて、現行精神衛生法では無力な面があることを痛感する。保安処分制度を導入すれば妥当な処理ができる。累犯者の処遇については不定期刑が必要である。
山根 喬(反対)
国民の人権を守る観点から弁護士は反対している。国民各階、各層各団体もこぞって反対している。
全面改正の必要性はない。草案を白紙撤回し、改正理念をうちたててから改正作業に着手すべきである。
渡辺一弘(賛成)
自分の経験から見て改正の必要はある。現行刑法の不備な点に毎日悩んでいる。早く改正してほしい。
反対の声の大きさにまどわされず、社会秩序の維持の観点から、最大公約数をまとめて早く改正すべきである。実務は保安処分、不定期刑を望んでいると思う。拡大解釈の恐れがあるというのは考えすぎである。
浜参事官
会のもち方について批判があったので説明する。会は、公聴会、討論会として企画してはいない。個人の見解を求めているのであって、団体の意見発表を求めてはいない。
会の内容については、何らかのかたちで公にする。
参加者については、一般有職者の数をふやし、専門家をへらすことは考えているが、全体の数は予算の関係上この位としたい。
二、発言の賛否は
賛成 九名
伊藤、川合、榎本、粕谷、栢原、高橋、三島、三ツ木、渡辺反対 七名
反対 七名
上野、栄、谷内口、馬杉、山根、(内田)、(小暮)
批判的 二名
林、平山
しかし法務省は、
賛成一二名、反対五名、慎重一名
と記者会見で発表、非公開の「聴く会」の危険性を明らかにした。
三、テープのもちこみ
谷内口氏がテープをもちこみ、自分の意見発表について、後日のために録音したが、事前に承諾はとらず、最後にその旨を明らかにしたところ、法務省からの発言はなかった。
四、その他
弁護士会に二名の推薦依頼があったが、三名とした。これにつき、高検からのクレームはなかった。
刑法改正について意見を聴く会(札幌)名簿
(参加者)     (敬称略)
藤女子大学教授 伊 藤 弘 子
北海道大学医学部附属病院精神神経科医師
        上 野 武 治
小樽商工会議所会頭 川 合 一 成
日本キリスト教団牧師 栄 英 彦
北海道新聞社社会部次長 林  武
斗南病院消化器血液科長 平 山 亮 夫
全北海道労働組合協議会事務局次長 谷内口 正義
北海道大学教授 小 暮 得 雄
北海道大学教授 内 田 文 昭
札幌高等裁判所判事 粕 谷 俊 治
札幌地方裁判所判事 渡 辺 一 弘
札幌地方検察庁検事 三ツ木 健 益
弁護士       山 根   喬
弁護士       馬 杉 栄 一
北海道警察本部警備部参事官 榎 本  厳
北海道警察本部刑事部刑事企画課長 三 島 嘉 蔵
札幌矯正管区第二部長 栢 原 淑 雄
札幌保護観察所長 高 橋 健 宏
(参列員)
札幌高等裁判所長官 桑 原 正 憲
札幌地方裁判所長  沖 野   威
札幌高等検察庁検事長 山 根  正
札幌地方検察庁検事正 稲 田 克 巳
北海道弁護士会連合会理事長 渡 辺 敏 郎
札幌弁護士会長 水 原 清 之
(法務省員)
刑事局参事官 浜 邦 久
同 局  付 本 江 威 憲
同 法務事務官 間 瀬  博
同 法務事務官 森 田 泰 生

〈資料九〉
札幌地区「意見を聴く会」に参加して
札幌弁護士会 馬杉栄一
(日本弁護士連合会刑法「改正」阻止実行委員会は、昭和五二年四月二三日、馬杉副委員長(札幌弁護士会)より、札幌における「刑法改正について意見を聴く会」の問題点につき、以下のとおり報告をうけた。)
「意見を聴く会」に参加して、以下の問題点を感じましたので御報告いたします。
一、まず参加者の構成ですが、一般の有職者の参加を広げる必要があると思いました。参加した一般有職者は、それぞれの分野からの発言をしましたが、参加している人が限られているため、刑法改正に関するごく一部の分野しか意見が出されていないということになってしまっています。
また各分野の人々の中でも、刑法改正に対する考えは多様だと思いますので、各分野から複数の人が出て意見発表をすることも必要なのではないかと思いました。
二、参加者の構成もそうですが、参加者の参加方法そのものにも問題があると思います。これは弁護士会推薦の精神科の医師、労組役員の方がおっしゃったことですが、自分が弁護士会から推薦されて初めて、「意見を聴く会」に参加できることがそもそもおかしい、精神科の医師も、労働組合も各々独自に、刑法「改正」問題ととりくんでいるのだから、法務省はそれぞれの団体に対し、直接意見発表を求めるべきだといわれるのですが、当然のことだと思います。
三、次に発言時間が一五分ということについてですが、この重要な刑法「改正」問題について、僅か一五分でまとまった話をしろといわれても不可能だと思います。
また一五分では充分に意見を言い尽せませんから、言っている方も言い足りなく、聞いている方もよくわからないといったことになってしまいますので、最低三〇分の時間確保は必要だと思います。
四、本会は、意見発表に対する質疑応答が確保されていません。しかし他の人の意見を聞いていて、どうも理解できないことが出て来ますので、理解の正確さを期す意味からも、質疑、応答の時間の確保が必要だと思います。
五、別添資料のとおり、法務省浜参事官は、「意見を聴く会」終了後記者会見をし、改正賛成一二名、反対五名、慎重一名と発表しました。
しかし私が理解した内容としては、賛成九名、反対七名、慎重二名で慎重二名は、反対に近い慎重論であったように思います。
議事の一切を公表せず、質疑応答もなく、法務省が一方的に賛成、反対を数であらわすのは、発言者に対する不当な行為だと思いますし、この「会」の危険性、又法務省のねらいが明らかになったと思われます。法務省のみが発言内容の資料を持ち、これを適当に処理して、賛成者が多かったという結論を導くとしたら、これは絶対に許せません。このことからも議事の公開は必要不可欠だと思います。
また全道労協の事務局次長が、自らの発言内容を今後のために正確に残しておく必要があるからとの立場から、会場にテープレコーダーを持ちこみ、自分の発言を録音されましたが、これに対し法務省からは何の応答もありませんでした。今後はできるだけ多くの参加者がテープレコーダーを持ちこみ、少くとも自分の意見、あるいは録音されてもかまわないという参加者の発言は録音し、それにもとづいて、意見内容の正確な再現をする必要があるのではないかと思います。
六、参加者のうち裁判官の発言内容について感想を述べたいと思います。
仙台でも札幌でもいずれも参加者二名とも改正賛成論者であり、仙台での発言ニュアンスはわかりませんが、札幌でのニュアンスは、かなり強い改正賛成意見であると感じましました。
裁判官のなかにも色々な意見があるだろうと思いますが、恐らく今後ともこの「会」では賛成意見が続くものと思われます。
その場合、裁判官は全体として草案ないし代案賛成であり、濫用の恐れなどないと言っているのではないかという法務省のキャンペーン材料に使われる可能性があるとともに、裁判所内部での本改正問題に対する意見統制にも使われる恐れがあることは明らかですし、改正草案の現行法への密輸入、先取りが判決を通じて進行する可能性があるのではないかと思います。従って今後裁判官の発言には、その参加の是非を含め充分規定する必要があると思います。

〈資料一〇〉
福岡地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告
昭和五二年九月五日
福岡県弁護士会
会長 国府敏男
日本弁護士連合会
会長宮田光秀殿
「刑法改正について意見を聴く会」(報告)
法務省主催の標記会が去る六月二三日福岡高等検察庁で開催されましたので、その結果を左記のとおり御報告致します。

一、参加者(二名欠席)は別紙のとおりである。
二、この会の特徴は次の点であった。
(一) 参加者のうち二名がこの会について抗議を表明して欠席したこと。
弁護士会推薦の山川康人氏は精神障害者と呼ばれる人とともに歩む会通称「わらびの会」の代表世話人であり、会に出席して保安処分を中心に反対意見を述べるとしておられたが、当日になって急に声明書を発表し欠席となった。その抗議の内容は、「公開をせず、賛成多数となるように構成されているような会では、発言の自由は保障されていない」という趣旨であった。
佐賀大学教授直鍋毅氏は、はじめは午後には出席されるとのことであったが、遂に午後も出席されなかった。真鍋氏からは正式な欠席理由は表明されていないが、従前からこの会の構成及び開催方法には反対の意を表明され、個人的には欠席すべきであるという意見であったので、これもやはり抗議の為の欠席と思われる。
(二) 賛成意見として代案より草案に賛成という強い意見が出されたこと
仙台、札幌の会においては、草案はともかく代案であればよいという意見が多かったようであるが、福岡においては、賛成意見として代案ではだめだからぜひ草案の線に戻せという意見が強く出された。これは我々が代案は決して修正案ではなく、場合によっては又草案に戻る可能性があると指摘したことが正しかったことを示している。今後十分注意を要する点である。
三、会の進行は先ず土屋真一刑事局参事官が刑事局長の挨拶を代読した後、同参事官の司会により地元有職者(アイウエオ順)学者、法曹の順で発言がなされた。
但し参加者の都合により順序に若干の変更があった。
四、参加者の発言内容の要旨
(一) 阿世賀千鶴子(草案、代案ともに反対)弁護士会推薦
草案、代案ともに反対である。犯罪は減少しており、刑法改正について国民の要望はない。草案は処罰範囲を拡大しており国民を愚民視し、集団行動を敵視している。福岡県の母親は高校増設運動をしているが、この陳情行動に対し準恐喝罪その他の多衆犯の規定が適用される危険性がある。又少年の行動には奔走性があり開放性があるが、それが無賃乗車罪等で処罰されることになり、更に少年法改正で締付けられるのは反対である。値下げ運動には原価調査が必要であるし公害反対運動には原因求明が必要であるが、企業秘密漏示罪、公務員機密漏示罪によりそれが不可能となる。
この意見を聴く会について次のことを要望する。
 (一)国民の代表特に母親の参加を増加させること。
 (二)会を公開すること。
 (三)一般市民の傍聴を許すこと。
(二) 安東ヨ子(草案に賛成)
概ね草案に賛成、表現が平易で解りやすい。草案は国民生活の安全のための配慮が行われているので感謝する。刑法は時代に即応して改正せらるべきものである。死刑の存続には賛成。わいせつ罪については性風俗の純化のため賛成。尊属殺の廃止には一抹の不安を覚える。堕胎罪の存続は賛成。淫行動誘罪については未成年保護の見地から賛成。
草案と代案の関係については一部を除いて概ね草案に賛成。
法定刑については一四三条は代案に賛成。その他は草案に賛成、死刑の執行方法につき自決を認められないかという提案があった。
(三) 岩崎隆次郎(草案・代案ともに反対)弁護士会推薦
刑法改正作業の全てに反対である。この会にも根本的に反対であり、本来出席すべきでないと思っていたが、日本国憲法にそって民主主義を大事にしていこうとしている弁護士会の幾分なりと国民の声が反映されるようにとの努力を多として出席している。法制審議会の委員構成が問題であり、単に長期間にわたって審議されたことをもって刑法改正が正当化されるべきではない。この会も出席者の平均年令による憲法感覚の相違が問題である。草案は団結権、団体行動権否定の傾向につながる、刑法改正の要請は国民のものではなく、取締当局の要請としか思えない。
(四) 本吉邦夫(概ね代案に賛成)
個人的見解であるがと前置きして全面改正の必要を認める。三一七条を除いて代案に賛成。実務の立場から、死刑の減少には賛成、三二九条二項も死刑を除いた方がよい。常習累犯については、自分が担当した事件を実に長々と説明した後、強姦罪にも認めるべきであると発言、不定期刑については一般的に賛成ではない。刑の下限を上げればよい。執行猶予については草案により合理化された。但し執行猶予の期間と保護観察期間を一致させる必要はない。保安処分は賛成である。但し刑の執行を先にする必要はない。堕胎罪については疑問がある。強盗より強姦がひどいことがある。両者の法定刑を近づけること。刑の範囲が広くなったことは裁判官に対する信頼である。
(五) 釘宮昌平(草案、代案ともに反対)弁護士会推薦
この会の非公開に対し批判、刑法改正作業の基本について疑問がある。消費者運動を例にあげ、企業秘密漏示罪に反対。集団犯罪については、集団は憲法上の権利であってこれを犯罪とすることに反対。企業をこれ以上保護する必要はない。
(六) 白木正元(賛成)
この会に反対する集会の新聞記事を紹介し、日本の自由もここまで進んだのかと思った。刑法改正に反対するのは理解できるが、この会にまで反対するのは不可解である。反対論者の理論は飛躍している。国家の使命は、個人の権利と公共の福祉の確保であり、自分は国家を信頼している。保安処分については、すなおに読めば、治安維持法的な心配はおこらない。草案についてはこういう罪が必要かまた全般的に刑が重いのではないかという疑問はあるが、審議の経過とそれに関与する人達は立派であり、司法に対する信頼があるので運用、解釈の面で拡大解釈されたり悪用されることはないと思う。速かなる刑法改正を希う。
(七) 近見敏之(賛成)
全面改正の必要がある。中間報告は概ね賛成。戦後一部改正はあったが新憲法の理念に合った刑法改正が必要である。公害罪については草案より強い規定を設けるべきである。両罰規定、推定規定が必要であり、処罰対象の拡大が必要である。暴力事犯については草案に賛成であるが、もっと強化せよ。保釈、仮釈放の制限、重罰化が必要である。保釈、仮釈放については地方公共団体の意見を聴くようにされたい。公職者の名誉は保護されるべきである。言論が暴力となることがある。
草案に賛成である。
(八) 楢崎健次郎(草案に賛成)
日本ほど都市の安全性が保たれ、治安が維持されている国はない。国民の不断の努力によるものである。各国の都市の治安の悪さはひどい。この傾向が数年後には日本に入ってくるだろう。それを今から防ぐ必要がある。
準恐喝罪賛成。ポルノ、賭博は他の犯罪に走る危険が大であるから処罰が必要である。保安処分は賛成である。現在の処遇の欠陥を補うべきである。被疑者、犯罪者の人権はいたれりつくせりで保護されており、被害者の人権は侵害されている。刑法が改正されても、現在の当局者のあり方よりすれば、その濫用はあり得ない。改正は当然で最小限度である。
(九) 納田豊三郎(賛成)
全面的に改正に賛成である。日本は司法、立法、行政部がそれぞれ立派である。その中でも特に司法部(弁護士を含めて)がすばらしい。その司法部の中でも検察は田中前首相を逮捕した程ですばらしい集団であり、これを信頼している。若者と話したが刑法改正をよく知らないし、むしろ重罰化を求めている。草案は非常によく出来ている。自分はマスコミ関係者であるが、名誉侵害罪におけるみなし規定も必要ではない。
(十) 水崎嘉人(草案、代案ともに反対)弁護士会推薦
日弁連の刑法「改正」阻止運動は一部弁護士だけの反対ではない。法制審議会の審議には疑問がある。刑法は基本的人権と接触する法規であるからその改正は国民の納得する方法と内容でなければならない。憲法改正手続と同様の手続を考えてもよいほどのものである。
刑法を適用される国民の意見を先行させるべきであり、刑法の解釈、適用にあたる専門家の意見はあとまわしにすべきであろう。
この会について反対である。せめて公開すべきであろう。現行刑法が最良のものと思っているわけではないが、草案及び代案による改正には反対である。
(十一) 江藤  孝(反対)
刑法全面改正の必要はない。草案及び代案の憲法感覚に疑問がある。現代の要請による改正の必要性があるか疑問である。形式面から言うと解りやすい現代語による表現という問題にしても、草案三五八条と現行法二五六条を対比した場合は問題はないが、草案一六七条と現行法一〇六条を対比した場合、「騒動」と「騒擾」とは単なる表現を解りやすくしたというだけでなく、意味の変更である。
実質面からみると、刑法理論の発展を取入れる場合にも、法律の錯誤、結果的加重犯というように不処罰なものの採用は問題ないが、草案二七条二項の共謀共同正犯は例外として認めていたものを原則として採用するもので問題がある。刑事政策の面から言うと、刑法学者は当初保安処分に好意的であったが、神経学界がこれを問題とする以上問題視せざるを得ない。
新しい処遇の方法は保安拘禁でない方向で考慮されるべきであろう。刑罰と保安処分は両立しない。
現在の科学では保安処分は反対である。新しい類型の運法行為の犯罪化については(自動車不法使用、自動設備不正利用、無賃乗車等)、一部改正の積重ねでやるべきである。憲法感覚から言って、集団を主体とする犯罪という発想は、集団行動の自由という考え方に違反する。集団による犯罪ではなく、集団に対する犯罪というものを考えるべきである。草案は集団を罪悪視している。
(十二) 高木  茂(草案、代案ともに反対)弁護士会推薦
まず今日の発言は議事録にまとめるかと質問したところ、土屋参事官は発言は全部記録していると回答したので、日弁連の草案に対する意見書、中間報告に対する意見書、意見を聴く会に関する資料を提出し、発言の一部として記録に添付するように要求した。まずこの会が非公開であること、参加者が当日はじめて公表されることに対して抗議した。
参加者には法務省の意見書は配布されながら、日弁連の意見を知らせる機会を奪われたことにも抗議した。札幌で法務省が新聞発表した参加者の賛否の数が、日弁連の調査と食違うが、これも公開しないからおこる問題である。次後この会の公開を求める。次いで内容に入り、日弁連の意見書に基き反対意見を陳述、山川氏が不参加であったので、保安処分の問題点を指摘し、その濫用の危険性から反対であると述べた。
(十三) 棚町祥吉(草案に全面賛成。代案に反対)
口語化賛成。現代の要請である。死刑存続はやむを得ない。ハイジャックは新しい犯罪である。コンピューターの現状を見れば文書偽造罪では不十分である。自動設備不正利用罪、無賃乗車罪は必要である。社会の進展につれて実効性のある刑法を必要とする。特別法の導入にすぎず重罰化ではない。保安処分については治療処分と禁絶処分があるが保安処分は世界の大勢であってこれがないことは文明国の恥である。精神衛生法の設置入院は保安処分ではないか。執行猶予の取消(七三条二項)は当然である。企業秘密漏示罪は公共の福祉のため必要であり、フランス刑法は一八〇〇年代にすでに規定している。
問題は運用であるが、戦後三〇年間の司法運用に信頼している。
(十四) 寺崎芳彦(保護観察に付き草案に賛成)
保護観察に関してのみ意見を述べ、草案は保護観察に関し詳しい規定を設けているので賛成である。
(十五) 堀  博(草案に賛成、代案に反対)
全面改正に賛成。騒動予備罪の新設に賛成、代案に反対。既遂になってから警察力を導入しても無意味。善良な市民の利益を守る必要がある。他の法令で処罰することは困難。濫用の恐れはない。戦後正当な集団行動に騒擾罪が適用されたことはない。共謀共同正犯の規定賛成。判例は確立しており不便はないが明文化が望ましい。常習者に対する刑の加重賛成。犯罪者に常習者が多い。
準恐喝罪は草案に賛成、代案に反対。暴力団、会社ゴロ、押売りの取締りに必要。暴行、脅迫の法定刑については草案に賛成、代案に反対。緊急逮捕が必要の場合が多い。
(十六) 山田岩雄(草案に賛成)
草案八十六条だけは代案に賛成。あとは草案に賛成。法定刑は草案に賛成。暴力団は一般人と価値観が違う。死刑は心情的にはいやだが草案によるものはやむを得ない。懲役禁固の下限を三月としたことは適切である。
個別的処遇のための人格調査に三月は必要である。常習累犯者に対する不定期刑は草案に賛成。集団反抗罪について草案に賛成。安心して仕事ができる。
五、参加者の意見陳述終了後、土屋参事官はこの意見を聴く会に関する公開等の要求等に対し、概ね以下のとおりのべた。
この会は意見を聴く会であるから傍聴の必要はない。将来は公聴会、説明会を行うことはある。法務省の今後の作業進行のため、意見を承わる趣旨のものである。一般有職者及び法曹関係者も参加しており、公正は保たれており、参加者によって報道もされており秘密会ではない。代案に対する意見のみを求めたものではない。公開要求等の意見は法務省に伝達する。この会は刑法改正作業の一環として行われたものであり、本日の意見陳述は十分参考にする。本日意見として述べ足りなかった点については書面を提出されたい。
以上

刑法改正について意見を聴く会(福岡)名簿
(参加者)
福岡県母親連絡会事務局長 阿 世 賀 千 鶴 子
福岡市人権擁護委員・婦人問題協議会委員長 安 東 ヨ 子
福岡県労働組合評議会事務局長 岩 崎 隆 次 郎
福岡市民生活協同組合専務理事 釘 宮 昌 平
有限会社白木駐車場代表取締役 白 木 正 元
久留米市長 近 見 敏 之
福岡中央魚市場株式会社社長 楢 崎 健 次 郎
サンケイ新聞九州総局長 納 田 豊 三 郎
わらびの会代表世話人 山 川 康 人(欠席)
佐賀大学教授 真 鍋  毅(欠席)
鹿児島大学助教授 江 藤  孝
福岡地方裁判所判事 本 吉 邦 夫
福岡高等検察庁検事 棚 町 祥 吉
弁護士 水 崎 嘉 人
弁護士 高 木   茂
福岡県警察本部刑事部長 堀  博
福岡刑務所長 山 田 岩 雄
九州地方更生保護委員会事務局長 寺 崎 芳 彦
(参列員)
福岡高等裁判所長官 宮 田 信 夫
福岡地方裁判所長 淵 上 蕁
福岡高等検察庁検事長 高 瀬 礼 二
福岡地方検察庁検事正 西 尾 善 吉 郎
九州弁護士会連合会理事長・福岡県弁護士会長 国 府 敏 男
(法務省員)
刑事局参事官 土 屋 真 一
同  局 付 飯 田 英 男
同  法務事務官 間 瀬  博
同  法務事務官 酒 井 優 吉

〈資料一一〉
名古屋地区「刑法改正について意見を聴く会」の経過報告
報告書
名古屋弁護士会が、六月二九日に開催予定されている名古屋地区「刑法改正について意見を聴く会」への不参加、及び地元有職者五名の推せん依頼の拒絶を決定した経過について御報告致します。
昭和五二年六月二五日
名古屋弁護士会
辻 巻 真
日弁連刑法改正阻止実行委員会
御中

一、去る五月九日付で、名古屋高検次席検事名をもって、六月二九日に「意見を聴く会」を開催すること、参加者のうち、地元有職者一〇名のうち五名及び弁護士一名を推せんをするよう名古屋弁護士会々長宛申入れがあった。
二、名古屋弁護士会の刑法改正阻止実行特別委員会(以下委員会という)は、右文書を受けて以来、問題の重要性に鑑み、何度も委員会及び打合せの会合をもち、対応について協議を重ねた。
委員会では、「意見を聴く会」に参加する弁護士及び地元有職者の推せんをするにしても、従来から日弁連が申入れている線にそって、参加者の構成に問題があるということや、議事の公開要求など開催要領の是正を求めるべきであるということになり、法務省の窓口ともいうべき名古屋高等検察庁に対し、文書及び口頭でその旨の申入をした。
三、また、参加者に裁判官一名が予定されているところ、現職の裁判官が賛否の意見が鋭く対立している刑法改正問題について、裁判所を代表するかのような立場で意見の陳述をなすことは必ずしも適切ではないとの判断から、名古屋地裁、高裁に対し、この点についての見解を求める照会をなした。
これに対しては、裁判所としての意見を述べることは差し控えたいとの回答が電話でなされた。
四、名古屋高等検察庁に対する前記の申入書に対し、同検察庁次席検事名をもって、六月六日付の回答が名古屋弁護士会に寄せられた。これによって、申入事項のほとんどが是正されないものであることが明らかとなった。
五、一方愛労評からは、六月一〇日付で、名古屋弁護士会に対し、名古屋弁護士会が、非公開、非民主的な「意見を聴く会」を中止させるため、あらゆる努力をなすことを要望する旨の要望書が提出された。
六、六月一六日開かれた委員会において、現状のままで、「意見を聴く会」に参加する弁護士及び地元有職者を推せんすることは妥当でなく、更に開催要領の是正を求めるとともに、六月二九日までに適当な参加者を推せんすることは事実上困難であり、仮に可能であるとしても、十分な意見陳述をなすための準備が期待できないのであるから、開催日の延期を申入れるべきであるとの意見が大勢を占め、同日委員長及び担当理事者からその旨を名古屋高検に申し入れた。
右申入れに対し、翌一七日午前中に、延期することはできない旨電話で回答があった。
七、六月二一日、臨時常議員会を開き、「意見を聴く会」に対し名古屋弁護士会として如何に対応するかを協議したところ、法務省が六月二九日に開催要領を是正することなく強行するという以上、名古屋弁護士会としては、弁護士及び地元有職者の推せんをせず不参加にすべきだという意が大勢を占めた。
尚、名古屋弁護士会長や中弁連理事長が参列員として参列方を要請されているが、この弁護士の参列員が参列するかどうかについては委員会及び理事者に一任するということになった。
八、六月二二日委員会を開き、参列員を含め、弁護士は一切六月二九日の「意見を聴く会」に参加せず、有職者の推せんも拒否することを出席者の全員一致できめた。
そして、六月二二日の毎日新聞の朝刊に、名古屋弁護士会の出席拒否がスクープとして載ったということもあって、早急に名古屋弁護士会の声明書を出すべきだということになり、その日のうちに声明書を書きあげて公表した。
九、翌日の新聞は、中日、毎日、朝日の各社が名古屋弁護士会の出席拒否を報じた。

〈資料一二〉
申入書(名古屋弁護士会)
過日参加者の推薦方御依頼のありました当地区における「刑法改正について意見を聴く会」について、次のとおり意見を申し述べ、又申入れをします。
右「意見を聴く会」は昨年六月に公表された、いわゆる刑法全面改正についての「中間報告」に「最終的な政府案の作成にあたっては、今後における各界からの意見及び批判を十分に傾聴・考慮するつもりである」とあるのをうけて実施されるものと伺っています。
ところで、すでに終了した仙台・札幌地区における実施状況をみるに「各界からの意見及び批判を十分に傾聴・考慮する」とは名目だけの、はなはだ形式的なものと言わざるを得ないものであります。
即ち、仙台・札幌地区で実施された「意見を聴く会」は、日本弁護士連合会、仙台弁護士会、札幌弁護士会の申し入れにもかかわらず
一、本来最も重視、尊重すべきである、国民各層、各分野からの巾広い意見、批判を求めるという配慮に欠けているうえに、参加者の人員構成人選が必ずしも公正なものとは思われないこと、
二、国民に対し、刑法改正問題に関する判断資料を広く提供すべきであるにもかかわらず、そうした配慮はなされておらず、一般国民の傍聴は許されず、報道機関に対しても非公開であることなど、いわば国民不在の姿勢が顕著でありました。
更に札幌地区においては、「意見を聴く会」終了後、主催者側である法務省の参事官によって、改正賛成者、反対者の数が恣意的に発表されるという「秘密会」の弊害が露呈しています。
そこで、当地区で開催される予定の「意見を聴く会」につき次の諸点を再考されたく申入れます。
一、国民各層、各分野の意見を代表すべき参加者を更に増加すること。
二、法務省が人事権を掌握し、又は密接な協同関係にある参加者の意見をことさら聴く意義は乏しく公正さに疑問があるのでこれらの関係者は参加者から除外すること。
三、議事は公開とし、記録を作成公表すること。
四、議事公開にふさわしい会場を設定すること。
五、参加者の意見陳述の時間を増やし、且つ質疑応答を可能ならしめること。
右各点に対し、書面をもって明快な回答をお寄せいただくよう要望いたします。
昭和五二年六月二日
名古屋弁護士会
会長 小 川  剛
同刑法「改正」阻止実行特別委員会
委員長 大 脇 保 彦
名古屋高等検察庁 御中

〈資料一三〉
名古屋弁護士会の申入れに対する名古屋高検の回答
貴職からの申入書を拝受しましたので、回答致します。
一 国民各層、各分野からの幅広い意見、批判を求める趣旨から従来より若干名増加して、合計一〇名とし、当庁推薦五名、貴会から五名の人選をお願いした次第であり、日時場所等の都合もあり、これ以上の増員は困難と認められますのでご了承願います。
二 法務省管下あるいは密接な関係にある参加者の意見を聴くことは無意味ではなく、むしろ刑法の実務を運用する立場にある者からの意見批判を聴くことは必要不可欠なところであり、これらの人から自由、かつ達な意見を述べていただこうとするもので不公正な意見を述べるというおそれはないと信じます。
三 議事は、参加者に自由活発な意見を述べてもらうためという趣旨から非公開としたものであり、従来この方法で実施して来ております。御了承願いたいと存じます。記録の作成、公表の要否等については別途本省に進達することを御約束致します。
四 会場は、当庁会議室が適当と存じます。決して議事密行といったような感を抱かれることはないと信じます。
五 参加者の意見陳述時間は、日程の都合上原則として一人約一五分間であります。
本会は、公聴会、討論会として企画されたものでなく、あくまで意見を聞くための会でありますので、今回は右の趣旨に鑑み質疑応答を行なうことは相当でないと思われます。
以上回答申し上げますが、すでに期日も切迫しており、貴会からの推薦者に対し早急に依頼書及び参考資料などを送付する必要がありますので、なるべく速かに御推薦を賜りたくお願い致します。
昭和五二年六月六日
名古屋高等検察庁
次席検事 長 谷 部 成 仁
名古屋弁護士会
会長 小 川  剛 殿
同刑法「改正」阻止実行特別委員会
委員長 大 脇 保 彦 殿

〈資料一四〉
声明書(名古屋弁護士会)
一 去る五月九日付で名古屋高等検察庁より、名古屋弁護士会に対して、法務省主催の「刑法改正について意見を聴く会」を名古屋地区において六月二九日に開催すること、右「意見を聴く会」に出席する弁護士一名と地元有職者五名(全体の参加者は一八名)の推薦を依頼したい旨の文書が届けられた。
二 ところで、右「意見を聴く会」は、法務省の説明によれば、同省が昨年六月に公表した刑法「改正」についての、いわゆる「中間報告」において、「最終的な政府案の作成に当たっては、今後における国民各界からの意見及び批判を十分に傾聴、考慮する」としていた方針の一環として、全国八ケ所で開催するものであるとのことであり、すでに仙台、札幌の二ケ所で実施されたものである。さらに法務省は右「意見を聴く会」についてそれ以外に、政府案が確定するまで国民から直接に意見を聞く機会について何らの計画もないとしており、国民が刑法改正について公式に意見を述べる最後の機会となることも考えられる。
三 日本弁護士連合会は、法務省に対して、右「意見を聴く会」が、参加者の人員、構成において、国民各層の意見及び批判を傾聴するというにふさわしてものとなり得ていないこと、又議事は一般市民の傍聴が禁止され、報道機関にも公開されない「秘密会」的性格が強いことなどから、その運営方法を厳しく批判し、運営方法を是正するよう申入れをなしている。
また、すでに実施された各地区においても、各地区の弁護士会が、日本弁護士連合会と同様の趣旨の申入れを事前に行なったが、運営方法はほとんど是正されることがなかった。
四 刑事基本法たる刑法の全面改正が、国民の基本的人権、更に国民生活全体に及ぼす影響は計り知れないものがある。さればこそ刑法改正は憲法の理念の下での慎重な民主的討議と、国民的な合意によってのみ成し遂げられべきものなのである。
しかるに法務省がすすめる刑法「改正」作業は一貫して非民主的であり、国民不在のものであったし、法制審議会が法務大臣に答申した国家主義的、治安立法的な改正刑法草案を基礎とする刑法「改正」は国民の基本的人権を脅すものとして広範で且つ厳しい国民的批判にさらされたのである。
五 法務省が企画し、実施しつつある「意見を聴く会」の運営方法にも、刑法「改正」作業における右の如き非民主的態度が如実に示されている。
名古屋弁護士会は前記の通り名古屋地区における「意見を聴く会」の日程及び参加者の推せんの依頼を受けて以来、仙台、札幌地区における開催状況及び示された名古屋地区における開催要領を検討した結果、「意見を聴く会」の非民主的性格は基本的に変更されていないと判断し、運営方法の是正を求めて次の申入れを行なった。(名古屋高等検察庁宛)
(一)国民各層、各分野の意見を代表すべき参加者を更に増加すること。
(二)法務省が人事権を掌握し、又は密接な協同関係にある参加者の意見をことさら聴く意義は乏しく、公正さに疑問があるのでこれらの関係者は参加者から除外すること。
(三)議事は公開とし、記録を作成公表すること。
(四)議事公開にふさわしい会場を設定すること。
(五)参加者の意見陳述の時間を増やし、且つ質疑応答を可能ならしめること。
しかし、右申入に対する同検察庁よりの回答により、右申入れの各点のほとんどが法務省の受容するところでないことが判明した、
六 名古屋弁護士会はかかる事態の中で、「意見を聴く会」を真に公正かつ民主的なものとし、実質的に国民の意見を聴く会としてふさわしいものにするためには、前記申入各事項の実現等慎重な検討と準備が必要であるから、少くとも開催期日を延期されるよう申入れをしたが、これも受け容れられなかったので「意見を聴く会」に参加者を推せんすることを断念するに至ったのである。
もとより名古屋弁護士会は、「意見を聴く会」が法務省の主催であること、その一事の故に参加者の推せん等を行なわないという狭量な態度をとるものではない。「意見を聴く会」の運営方法が、実質的にも形式的にも、余りに非民主的であるが故に、積極的にこれに参加、関与することが、弁護士会の良識に対する市民の期待に背くことになることをおそれるのである。
法務省が非民主的な「意見を聴く会」を六月二九日に強行することなく、民主的で国民の幅広い意見を聴く会にふさわしいものとして開催することを強く要望する。
右声明する。
昭和五二年六月二二日
名古屋弁護士会
会長 小 川  剛
同刑法改正阻止実行特別委員会
委員長 大 脇 保 彦

〈資料一五〉
申入書(日本弁護士連合会)
日本弁護士連合会は、かねてから「刑法改正について意見を聴く会」(以下、「聴く会」とよぶ)が真に国民各層の意見を聴くためのものとなるよう、参加者の構成・運営の方法などに関して、くり返し改善を求めてきた。
これに対し、法務省は、参加者の構成についてごくわずかながら改めてきたことは認められるものの、基本的には今日にいたるまで、日本弁護士連合会をはじめとする各界の批判にこたえようとしていない。
このことは、刑法全面「改正」の政府案作成作業がもともと国民の批判を無視し、国民から遊離しているということの一端をはっきり示しているものである。
とくに、名古屋地区の「聴く会」(昭和五二年六月二九日予定)について、名古屋弁護士会が、「実質的に国民の意見を聴く会としてふさわしいものにするためには慎重な検討と準備を必要とするので、すくなくとも開催期日を延期されたい」と申し入れたにもかかわらず、これさえ受け容れなかったという法務省の対応は、まことに遺憾である。
その結果、名古屋弁護士会による代表の出席と参加者の推せんなどが不可能となる事態を招いた責任は、すべて、主催者としての法務省にあることを強く指摘しておかなければならない。けだし、この原因は、「聴く会」のあり方に関する国民の批判と改善の要求にこたえようとしない法務省の姿勢に根ざしているからである。この点における法務省の反省がないかぎり、今後とも、不測の事態がおこらないという保障はない。
以上のとおり、日本弁護士連合会は、法務省が名古屋地区で非民主的な「聴く会」を六月二九日に強行することなく、民主的で国民の幅広い意見を聴く会にふさわしいものとして開催することを強く要望して、反省を求める。
昭和五二年六月二七日
日本弁護士連合会
会長 宮 田 光 秀
法務大臣 福 田 一 殿

〈資料一六〉
「意見を聴く会」についての報告
昭和五二年七月二八日
日弁連刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 江 尻 平 八 郎
委員各位
法務省主催の「刑法改正について意見を聴く会」のあり方に関し、左記のとおり、法務省にたいし会談を申入れ、実施したので報告します。

一、日 時 昭和五二年七月二二日午後二時?三時四〇分
二、場 所 法務省参事官室
三、出席者 日弁連 江尻委員長、島田・内田副委員長、渡辺事務局長
          馬場事務次長
      法務省 藤永・土屋・浜 各参事官
四、会談の内容
日弁連側は、従来から「意見を聴く会」のあり方について改善を申入れてきたこと及び名古屋地区の経過を指摘しつつ、「残された広島・高松・大阪・東京でも開催すると聞いているが、いつ、どのように実施する予定であるのか」を質することに重点を置いて、会談を進めた。
その結果、法務省側が明らかにした方針は次のとおりである。
(1) 広島・高松では、名古屋と同様の実施要領で、はやくても九月下旬以降に開催する。
○報道機関にたいする公開も考えていない。
○報道機関の前でも意見を述べることを嫌がる人が多く、意見を述べる人がいなくなる。
○参加者が報道機関に公開することを了解してくれるのであれば問題はない。
○右の点につき、参加者の意向を打診することを検討する。
(2) 東京・大阪では、参加者二〇名のワクを全部有職者にあてて公開することを検討している。
○東京・大阪には、公開の席上で意見を述べてくれる有職者がたくさんいる。
○東京・大阪は各界とも多士斉々であって、この点が他の地域と大きくちがっている。
(3) 八地区における今年度の「意見を聴く会」を終了した後、来年度予算でその他の地区において引続き「意見を聴く会」を実施することを予定している。
(4)来年度は、この間、第二次代案を作成・発表するかもしれないが、いずれにせよ、拙速はとらない。
(5) たとえば、不定期刑・保安処分などを他の改正部分と切離し、単独立法で先行させるようなことは考えず、あくまで全面改正で進める。
(6) 外部の圧力が強い現状では参加者の氏名を事前に発表することはできないが、日弁連の希望があり届けてもらえるならば、日弁連の資料を法務省から事前に配布してもよい。
(7) なお、福岡地区の「意見を聴く会」について、九弁連宛に推せんを依頼したのは、手続をまちがえたものである。
以上の諸点に関連して、公開をめぐる問題が最もはげしく論議された。
○法務着側は、八地区終了後要約を発表するほか、現在でも会の内容が事実上国民に伝えられていること及び各種集団による参加者への圧力や座りこみの実情などを強調した。
○これに対し、日弁連側は、国民の眼からみて法務省が密室でなにをしているのかわからないという状態そのものが、根本問題であり、報道機関の前や公開の席上で述べることのできない意見は無責任なものであって、そういうことでは真に国民の意見を聴いたことにならない、などの点を強調した。

〈資料一七〉
広島地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告
昭和五二年一二月一七日
広島地区「刑法改正について意見を聴く会」について
広島弁護士会
会長 外 山 佳 昌
刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 阿 佐 美 信 義
日本弁護士連合会
刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 江 尻 平 八 郎 殿
第一、経過について
法務省主催、広島地区「刑法改正について意見を聴く会」に関する広島高等検察庁ないし法務省と当弁護士会とのやりとりの経過はつぎのとおりであります。
一、九月六日付広島高検次席→広島弁護士会長宛参加者推薦依頼書
○一一月一五日に広島高検会議室において、広島地区「刑法改正について意見を聴く会」を開催する旨一〇月三日(月)までに参加者として、広島弁護士会所属弁護士一名及び地元有職者四名ないし五名を推薦されたい旨の要望あり。
なお、右要望の際の参加者の予定はつぎのとおりであった。
地元有職者     八ないし一〇名
刑事法学者          二名
裁判官、検察官、弁護士   各一名
警察、矯正、保護関係者   各一名
二、九月一四日付弁護士会長→広島高検宛申入書
○前記広島高検からの参加者推薦依頼に対し、参加者の増員、議事の公開、参加者として予定されている法務省関係者の排除等五項目の要望をなす。
三、九月二四日付広島高検次席→弁護士会長宛回答書
○前記申し入れに対する回答。地元有職者の人員増の点については、日時・場所等の関係から困難、法務省管下あるいはこれと密接な関係にある参加者の意見を聴くことも必要、議事非公開の点については、参加者に自由、かつ達な意見を述べていただく趣旨であり、議事内容は、できるだけ正確に記録し、発言者の氏名を結びつけない形で公表する用意あり、参加者の意見陳述時間は、一人おおむね一五分間としたもので、日程の許可範囲において若干の延長もやむを得ない、他の県下における開催は、本会終了の段階において再検討する。
四、一〇月六日付弁護士会長→広島高検宛要望書
○公開の点について再度強く要望する。
五、一〇月六日付弁護士会長→広島高検宛参加者の推薦
○弁護士会の参加者推薦名簿を提出
内訳 弁護士二名、地元有職者六名
なお、地元有職者六名の内の一名は、広島大学教授大野平吉氏である。
六、一〇月一二日付広島高検次席→弁護士会長宛参加者について要望
○前記弁護士会からの参加者の推薦に対し、つぎの二点の要望があった。
1 弁護士二名の推薦があったが一名にして欲しい。
2 地元有職者の内広島大学教授大野平吉氏については、他の一般有職者に変更して欲しい。
七、一〇月一三日付弁護士会長→広島高検宛要望
○前記高検からの参加者の推薦人員の減員(弁護士を一名に)ないし変更(大野平吉氏を一般有職者に)の申し入れに対し、
1 弁護士二名については、他地区における「意見を聴く会」においてすべて認められてきていること
2 広島大学大野平吉教授については、あくまでも「地元有職者」として推薦したものであること、またどうしても同氏につき「有職者」としての参加が困難であるときは、同教授を参加者として予定されている二名の刑事法学者の内一名は同教授を指名されたいこと
の二点を再度要望した。
八、一〇月一七日
前記のような経過の後、広島弁護士会副会長と高検次席及び総務部長と交渉した結果高検側から
1 弁護士を二名にする点については検討する。
2 刑事法学者については日本刑法学会に推薦・依頼して、本省において選任することになっているので、大野平吉氏は一般の有職者に変更してほしい。
との口頭による回答があった。
九、一一月九日
○当弁護士会としては、以上のような経過をもとにして、地元高検との交渉によっては、大野平吉氏の件は進展しないとの判断に達し、日弁連会長ならびに日弁連刑法改正阻止実行委員会に対し、文書をもって、「法務省と交渉し、必要があれば刑法学会の推薦を取りつける等の手だてを取っていただき、是非大野教授に意見を述べていただくことができるようご配慮いただきたい」旨の要望をした。
一〇、一一月一一日付をもって法務省刑事局長から各参加者宛に「意見を聴く会」への参加の要望と開催要領ならびに参考資料として、つぎのような資料が送付された。
1 法務省資料
法制審議会「改正刑法草案の解説」
法務省「刑法全面改正についての検討結果とその解説」
2 日弁連資料
「改正刑法草案」に対する意見書
―刑法全面「改正」に反対し、国民の人権を守るために―
刑法全面「改正」についての「中間報告」に対する意見書
なお、送付された開催要領には参加者はつぎのとおり記載されていた。
地元有職者        一二名
刑事法学者         二名
裁判官、検察官      各一名
弁護士           二名
警察・矯正・保護関係者  各一名
※右参加者宛に送付された開催要領によると地元有職者は一二名となっており、当初弁護士会に推薦依頼のあった際の開催要領に地元有職者八?一〇名となっていたのよりも増加していることに注意する必要がある。何故増加したかは不明である。
一一、結局、大野平吉教授については、未解決のまま一一月一五日の「意見を聴く会」が開催され、同教授には参加者として意見を述べる機会は与えられなかったのである。
※「意見を聴く会」終了後の法務省刑事局浜邦久参事官のつぎのようなあいさつがあった。
1 本日の「意見を聴く会」は、草案について意見を拝聴する趣旨で開いたものであり、したがって、自由な意見を開陳する雰囲気を確保するため、傍聴方式をとらないで、非公開としたものである。
ここでの意見については、「意見を聴く会」が終了した段階で、何らかの形で公表する。しかし、誰がどういう意味を述べたかが重要ではなく、どのような意見があったかを公表することが重要であると考える。
2 本日の「意見を聴く会」は、いろいろな意見を聴くために開催したものであり、賛成する者の意見のみを聴く趣旨ではない。
大野教授の参加をご遠慮願ったのは、大野教授がどのような意見を持っているかとの関係がない。ご遠慮いただいた理由は、大野教授が刑事法学者であるため、日弁連などから要望のあった、専門家の意見よりも一般の有職者の数をふやせとの方針に添って改善してきたつもりである。また刑事法学者については、刑法学会から推せんしていただくことになっているので、ご遠慮いただいたものである。
3 大野教授に代えて一般有職者を推薦いただきたい旨要望したが、推薦がなかったので、一般有職者一二名の予定であったので、高検推薦者を一名増やし七名にしようとも考えたが、当初の予定どおり六名とした。
4 なお弁護士二名の推薦に対し、一名にしてくれるよう要望したが、どうしても二名というので、弁護士については二名を認めた。
第二、一一月一五日の広島地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告
一、(参加者)
中国電力株式会社社長室長事務代行 阿 部   秀 男
広島YMCA総主事        相 原   和 光
広島県議会議員          石 川   俊 彦
中国新聞社報道部長        大 西     操
児玉病院院長           児 玉   昌 幸
広島地区労働組合会議議長     迫 田   正 利
日蓮宗妙法寺 住職        関 根   竜 雄
中国新聞社論説委員        新 見     豊
広島県教育委員会委員長      松 井   五 郎
広島県青少年出版物対策委員長   松 浦   寛 次
日本婦人有権者同盟広島支部長   美 藤 志 津 子
島根大学助教授          森 本   益 之
広島修道大学助教授        熊 谷   烝 佑
広島高等裁判所判事        干 場   義 秋
広島地方検察庁検事        原   伸 太 郎
弁護士              藤 堂   真 二
弁護士              阿 左 美 信 義
広島県警察本部刑事部長      中 村   盛 人
広島刑務所長           山 口   久 一
広島保護観察所長         和 田   敏 男
(参列者)
広島高等裁判所長官        矢 崎   憲 正
広島地方裁判所長         西 俣 信 比 古
広島高等検察庁検事長       山 根     正
広島地方検察庁検事正       外 村     隆
中国地方弁護士会連合会理事長   外 山   佳 昌
広島弁護士会長代理        山 口   高 明
広島大学教授           森 下     忠
二、参加者の意見概要
1 阿部秀男(高検推薦)
○現行刑法は七〇年前に施行されたものであり、その後の社会情勢の変化は刑法の改正を必要としていると思われるが、同時に刑罰による取締りを必要としなくなったものもある。
○社会情勢の変化で、もっとも大きなものは憲法の改正であり新憲法は、国家主義から個人主義への価値観の転換をもたらした。刑法改正問題も、もし改正するとすれば、このような方向で改正することが必要である。
○日本国憲法のもとにおいては、個人の生命、身体、自由及び財産こそが重視されなければならない。この観点から草案をみると、国家法益に対する罪についてはゆき過ぎの感があり重罰化、処罰範囲を拡大している感がある。この点謙抑主義がよろしい。
○また、草案は、あたらしい処罰規定を設けようとしているがこれらは、国民サイドでその是非が論じられなければならないし、国民のコンセンサスを得るのでなければ、国家法益優先の疑念を抱かせることになる。
○刑法典のなかで、すべての犯罪を整備するのは困難であり、特別刑法を存置することも必要である。
○たしかに、工業化、都市化などの現象もみられ、新しい問題も発生してきているし、この意味では法律の果たすべき役割も拡大している。しかしながら、刑法の処罰範囲の拡大は、日本国憲法の理念に反する。個人の法益の尊重こそが必要である。
○現行刑法は施行後七〇年を経過しているので、新しい情勢にマッチした改正が必要かも知れない。しかし現在のように価値観が多様化している時期に刑法全面改正することには疑問がある。刑法全面改正については、国民のコンセンサスを得る必要がある。
2 相原和光(弁護士会推薦)
○日本の犯罪情勢は、欧米諸国に比し非常に少ない。東京は奇蹟的に少ないといわれている。ニュージランドなどの実情からすると、今後も日本の犯罪は減少の方向に行くことは間違いないと思われる。
○日本の生産力は今や、自由主義諸国のなかで第二位である。これは、@日本人が非常に勤勉であること、A教育水準が高いこと、B戦後三〇年間平和が続いたこと、Cそしてその間に日本の民主々義が発展したことが大きな要因である。
○これからの日本は、自国さえよければよいという国家主義的な考え方では国際的にも通用しない。日本の将来は、世界の諸国から尊敬され、信頼される国にならなければならないし、このような日本は、刑罰による威迫や、刑罰を増やすことや重罰化によってできるものではない。
○草案には、明治以来の国家主義思想が底流にあるように思う。とくに草案一三二条、一三三条の外国の元首、使節に対する暴行脅迫、侮辱罪の削除を強く要求する。
これらの規定は、戦前の天皇に対する不敬罪復活の導火線になるおそれがあり、戦前自分がクリスチャンとして経験した愛国者ではない≠ニ中傷、誹謗を加えられたにがい体験からしても、人間の良心の尊重こそが重要であり、この規定の存在を是認することは到底できない。
○草案の内、わいせつ物に関する処罰の拡大、重罰化に反対する。これらの行為につき刑罰をもって対処することには疑問がある。デンマークの経験によれば、ポルノの自由化は決して青少年に対し悪い影響を及ぼしていないといわれている。むしろ、これらの国は青少年教育を重視し、ポルノの青少年への影響を充分防止しているのである。
3 石川俊彦(弁護士会推薦)
○草案による刑法の全面改正に対する日弁連その他の反対運動に対し、法務省は耳を傾けるべきである。
○草案は全体的に国民の集団行動に対する抑圧を目的とする刑法全面改悪を指向するものである。
とくに刑法の全面改正作業の経過をみるとまず、刑法改正準備会の刑法改正作業は、戦前のあのファシズムと侵略戦争の前夜に制定された改正刑法仮案を土台としてなされ、また、その時期は、憲法改正と小選挙区制を強行しようとする動きと軌を一つにしたものであること、そして、法相が法制審議会に刑法改正について諮問した時期は、日米安保条約の改正による日米軍事同盟がようやく確立されようとしていた時期であった。このようにみてくると、刑法改正のねらいは国民の民主的権利や集団行動抑圧にあることが明らかである、
具体的にいえば、草案の騒動罪の処罰範囲の拡大と騒動予備罪の新設は国民の基本的権利、表現の自由、集団行動の自由を、抑圧するおそれがあり、多衆不解散罪は、現場の警察官の判断によって、国民の集団行動が不当に抑圧され、乱用のおそれが大きい。他に準恐喝罪の新設も労働組合運動、住民運動、消費者運動に乱用される危険があり、これらの規定には、強く反対する。
とくに、刑法という国民の権利に重要なかかわりのある基本法典を改正するか否かについては、国民のコンセンサスを得ることが絶対に必要であるが、「意見を聴く会」の実態は、非公開であり、また、国民の多くの意見を聴くことにはなっていない。
4 大西 操(弁護士会推薦)
報道機関に携わる者として、草案及び中間報告のなかで、表現の自由にかかわるいくつかの問題について意見を述べる。
○言うまでもなく、思想・表現の自由は、民主々義社会におけるもっとも重要な基本権であり、「知る権利」は、主権者としての国民が国政に参加するに当って欠かすことのない重要な権利である。そして、「知る権利」は、報道の自由によって担保されるのである。
○ところで、草案及び中間報告は、この報道の自由が大きな制約を受ける危険がある。
(1) 名誉侵害罪について
(イ) まず名誉侵害罪のみなし規定の削除の点である。
現行刑法のみなし規定は、起訴前の犯罪に関する報道の大きなよりどころである。勿論報道機関内部においては、行き過ぎがないよう充分な努力を払っているのであって、この自主規制で充分所期の目的を達していると考える。もし、みなし規定の削除が捜査の必要性を理由とするものであるとすれば、この削除は論外であるといわざるを得ない。
中間報告が、みなし規定の復活案を併立させているが、この方向を更に進めることを要望したい。
(ロ) 草案の私事規定の新設には反対する、削除することを強く要望する。
公務員の場合、公務と私事とは明確に分ちがたい。とくに汚職事件の場合は、この感が強い。
(2) 公務員の機密漏示罪
現在においても、公務員の守秘義務があり、これ以上強化することには反対である。とくに機密漏示罪の「機密」の概念があいまいであり、不明確である。この規定の新設は、国民の知る権利を浸す危険が大きい。
(3) 企業秘密漏示罪
企業は、企業秘密を理由に報道機関を寄せつけず、その壁は非常に厚い。
オイル・ショック時の企業の物隠し、価格のつりあげについての報道や、公害報道は、世論の支持があってはじめて報道できたものである。
企業秘密漏示罪の新設、立法化は、企業に関する報道を一層困難にすることになり、報道の自由、国民の知る権利を著しく制約するおそれがあり、新設に強く反対する。
○法律は制定されてしまうと一人歩きし出すことは歴史の証明するところである。草案も立法者の意思はどうであれ、乱用のおそれ、拡大解釈のおそれは充分ある。したがって、このような意味からしても草案には強く反対する。
5 児玉昌幸(高検推薦)
○現行刑法は施行後七〇年を経過し、その間の時代の変遷、社会情勢の変化、価値観の転換があり、刑法改正は、あって然るべきである。
○とくに保安処分についていえば、現在の措置入院制度は、精神病院の在院期間が短く、治療効果にも問題がある。これらの解決は、精神衛生法のもとでは困難である。現在の精神病院では、その施設、規模、医療技術の水準その他の条件がまちまちである。
現在広島市内に司法精神科医は六名いるが、再犯予測ができるか否か疑問がある。また、現在は、犯罪精神障害者と一般の精神病者とが一緒に治療を受けている。しかし現行精神衛生法は、看護人を置くことを認めていないので、保安的意味をもたして治療を施すことは困難である。退院については病院長に一任されているが、犯罪精神障害者については、病院の秩序を乱すので、すぐ退院させている。いわば未治のまま退院させているし、家庭でも放置されているので再犯に結びつかざるを得ない。
犯罪精神障害者については、精神障害者の保護と社会防衛の二つの観点からの考察が必要であり、とくに善良な社会人の人権保護を重視すべきである。
○草案の保安処分についていろいろな問題点がある。
再犯予測を如何にするか、これは非常に困難である。精神障害者の治療の場として一番適しているのは病院であるが、拘置と治療の両立は困難である。また期間の問題にしても、治療処分の期間は二年とされているが、現行の措置入院の場合は六ヶ月毎に症状を県知事に申告することになっていることを考えると、治療処分の二年という期間については妥当であるか疑問である。中間報告的なものを必要とするのではないか。また、治療の経過により症状が軽快したときは、一般病院へ転医させることも考えるべきか。
しかしながら、現時点では保安処分を設けることに反対できない。
また、禁絶処分(アルコール中毒を含む)の期間は、三?四ヶ月、最長六ヶ月に限定する必要があり、期間二年の点は再考する必要がある。
6 迫田正利(弁護士会推薦)
現行改正についての法務省の考え方は、社会情勢の変化などを云々しているが、しかしながら、日本国憲法の制定とこれに伴う価値観の変化こそ最も重要な変化である。
草案は、保安処分による予防拘禁制度にみられるように治安維持重視や、国家法益、企業利益の優先と処罰万能主義がみられ民主々義や基本的人権の侵害の危険がある。
具体的に指摘すると
○共謀共同正犯の規定は、共犯者の自白などによって、無実の者が不当な処罰を受けるおそれがあり、とくにこの規定は労働組合の諸活動の弾圧に使われるおそれがある。
○常習累犯と不定期刑は労働組合の活動家が不定期刑の対象にされるおそれがある。
○外国の元首・使節に対する暴行・傷害・侮辱罪の新設は国民の政治的表現の自由を侵害するおそれがあり、また、外国の元首などを特別に保護することは、不敬罪復活の導火線となるおそれがある。
○多衆不解散罪については、暴行また脅迫の目的のない合法的な集会でも「暴行または脅迫をする切迫した危険」というきわめて主観的であいまいな要件で一切の集会に対して刑罰を背景に解散を求めることが現場の警察官にできることになり国民の集会の権利を侵害するおそれがある。
○企業秘密漏示罪の新設については、公害反対運動や消費者運動などの内で重要な労働組合などによる内部告発などを刑罰によって封じ込むことになり、大衆運動や労働運動を弾圧する危険が多分にある。
7 関根竜雄(高検推薦)
○国は体制を維持することが、企業は国民生活の活力を維持することが必要である。戦後、日本国憲法が制定され、また産業も発展し、国民の意識も著しく変化している。このような時代の変化に即応すべきが重要であり、草案のように改正企図されたことも当然と思われる。
○刑法全面改正については、われわれの生活をより広汎に、安全を守ってもらうことが必要であり、草案は現在の社会情勢に即応した規定を用意していると思われる。
また、草案は、処罰のみでなく、犯罪者の更生その他収容者の保護をも図っている。処罰の加重もやむを得ないものと思う。
処罰範囲の拡大についても、犯罪の種類も多く、かつ多発している現状からすれば、新しい処罰規定の新設も、範囲の拡大も必要である。
○わいせつ罪、堕胎罪については、青少年などに与える影響も大きいし、とくに性道徳の低下は、民族の危機につながるおそれがあり、存置する必要がある。
○死刑を科する犯罪を減少させていることは、国民の権利を保護する観点から当然であり、歓迎できる。
○公務員機密漏示罪についていえば、国の機密は、国民生活にも重要な影響を与えるものであるから、国民の知る権利に優先するものであり、必要。
企業秘密漏示罪については、企業の保護があって、はじめて市民の生活は維持できるのであるから必要である。
○草案の多衆犯類型の新設は、今日の社会情勢における当然の措置である。
騒動予備罪の新設も必要、また準恐喝罪、無賃乗車、自動設備不正利用罪なども、日常生活の安全の保持のため当然必要である。
○基本的人権の尊重は、当然のこと、しかしながら被害者の人権が無視されることは、憲法の無視につながる。
8 新見 豊(高検推薦)
草案の名誉侵害罪についてのみなし規定の削除、私事規定の新設、企業秘密漏示罪、公務員の機密漏示罪、外国の元首、使節に対する暴行、傷害、侮辱罪の新設について意見を述べる。
○新聞協会は、中間報告がなされた後、名誉侵害罪のみなし規定の復活に賛成し、私事規定の存置には遺憾の意を表明し、公務員機密漏示罪、企業秘密漏示罪の削除を強く求めている。また外国の元首、使節に対する暴行、傷害、侮辱罪については、削除することを求める。
9 美藤志津子(弁護士会推薦)
戦争中は、特高や憲兵によって、国民の表現の自由や民主々義が否定されたが、この体験からすると、自由にものが云えることが民主々義の第一歩であると実感している。日本は敗戦の日を境にして、新憲法のもとに主権在民、基本的人権の尊重、議会制民主々義国家として出発し、社会は一変した。
このような新憲法の理念に照らしながら刑法改正草案をみるとびっくりせざるを得ない。
まず草案のルーツは、大正デモクラシーの抑圧のために、また戦時体制、軍国主義のもとに作られた仮案にあり、新憲法のもとで準備草案を作る際に「貴重な遺産」としてこれを承継したことに不審の念を禁じ得ない。
敗戦によって、旧憲法から新憲法に大きく変った。しかるに、新憲法の理念にもとづいて、徹底的な人権と民主々義の洗い直しがなされたうえでの刑法改正でないとすれば、権力者はわれわれ国民からみると非常にものぐさであり怠慢であるといわざるを得ない。
草案の各条文をみると、お国のためにものが云えなかった昔にお国の都合によって逆もどりしようと思えば、何の支障もなくまわれ右できる態勢が、到るところにはめ込まれているように思われる。
○第二に驚いたことは、この「意見を聴く会」が非公開であることである。
刑法改正問題はわれわれ国民にとって重大な問題であり、まして日本は民主々義国家であるから、誰にでも知らさなければならないし、国は知らせる義務がある。とくに、刑法は基本的人権と国との対立であるから、国が決定する前にもっともっと多くの国民から意見や批判を聞くべきであり、国民に知らせるべきである。
○草案では、常習累犯などのように内容のはっきりしないものや不明確な犯罪類型がふえ、更にその刑は現行刑法よりは異常に重い刑罰が科せられている。この意味で草案は国の力は必要最小限度に止められるべきであるとする罪刑法定主義の原則に反するといわざるを得ない。これでは権力者にますます力を与え国民は非常に些少な事でも権力者の顔色をうかがわざるを得ない、人権無視さながらの生活にもどされてしまうおそれがある。
○わいせつ文書所持罪が懲役二年、かけマージャンは拘留九〇日、キセル乗車、自動車一時無断使用などについても懲役三年など国民の間で許しあえる程度の不正や、話し合っておさまる程度のものにまで国が刑罰をもって介入することなど、我々の日常生活への干渉、言論表現の自由の抑圧など、どれをとってみても刑は重く、それも現行法の運用で事足りるものが改正の対象になっている。
○日本婦人有権者同盟の会員として、正しい選挙によって、人格識見ともすぐれた人を国会や、地方議会に送ろう、常に政治に目をそそいで市民の立場から注文を出そうという活動を進めている。
多衆不解散罪についていえば、現行刑法では「暴行又は脅迫の目的」で集合した場合でなければ成立しないのに、草案では、「多衆が集合して暴行又は脅迫をする切迫した危険」のある場合という要件に変っているが、この点は重大である。「暴行又は脅迫をする切迫した危険」とは、人それぞれの主観によって左右される全く主観的要件であり、そう思ったから解散を命ずる、罰するというのでは、罪刑法定主義の否定以外のなにものでもない。また、市民運動や集会がこのようなあいまいな要件のもとに刑罰を背景に解散させられるとすれば憲法で保障された集会の権利のはくだつである。
さらに、草案の不解散罪は、参加者全員を無差別に最高二年の懲役刑に処するというのであるが、この点は、通りかかりの人、野次馬をも含めて全参加を大量に逮捕勾留することをねらい、以後の集会を二度と開かせまいとする治安・予防の目的をも果たそうとしているものといわざるを得ない。
また持っているプラカードやおしゃもじも現場の警察官の心証で兇器とみなされるおそれもあり、このようなことで罰せられるとすれば、市民運動は手も足も出なくなってしまう。
○新憲法の理念のもとに、人権の侵害を極力さけた、新憲法にふさわしい方向での刑法改正を考えるべきである。
10 松井五郎(高検推薦)
○三〇年間の企業の経営者としての経験にもとづき意見を述べる。
参加者に対して、日弁連の資料が送付されたことは疑問である。
なお、「意見を聴く会」が非公開で開催されたことに感謝したい。
○最近子供達の犯罪が増加している。最も多いのは窃盗罪であり、その半数は万引である。このような状態にあるので、ポルノが解禁されたらと考えると頭が痛い。したがって、わいせつ罪は、処罰の対象にしていただきたい。とくに青少年の非行化問題は、手も足も出ない。自動販売機の不正利用は取締まりの方法がない。
○企業秘密漏示罪の新設を希望する。ノーハウは企業にとっては大変な財産であり、これが漏れると企業の存立がおびやかされる。したがって、企業にとっては特許やノーハウは是非とも保護してもらいたい。また本罪の構成要件も明確であり乱用の危険はない。
○集団犯罪についての処罰規定も必要である。民主々義、自由主義社会においては、人権は守らるべきであるが、社会の安全秩序を守ることもおろそかにしてはならない問題である。
11 松浦寛次(高検推薦)
○青少年の健全育成の見地から意見を述べる。
性についての表現の自由の限界とポルノ排除の必要性の二点について述べる。
○性に関する表現の自由も当然ある。しかし憲法二一条の表現の自由は、一二条によって制限されるのである。
青少年の健全育成は、日本民族の将来にとって、最も重要な問題である。
出版物やテレビの実態は、表現の自由の乱用の域に達しているといわざるを得ない。青少年の自由のはき違えは、テレビその他の出版物の影響であると思われる。
○ポルノの排除のため、出版元と卸売の制限を目的とする特別法を設けることを提案したい。
業者に自粛させる必要があり、そのために軽度の刑罰を定めた特別法が必要である。そして自粛の通念が完成したら、その特別法を廃止してもよいと考える。
12 阿左美信義(弁護士)
○本「意見を聴く会」が弁護士会の要求にかかわらず、有職者の増員をせず、かつ非公開で開催されたこと、しかも、弁護士会が有職者として推薦した広島大学大野平吉教授について、有職としての参加を当局が認めなかったことは極めて遺憾である。そのため、結果的に有職者の員数が弁護士会推薦者五名、高検推薦者六名という不均衡な結果になったことに抗議する。
○草案及び中間報告ともに反対である。
そもそも、草案は、戦前作成された改正刑法仮案を「貴重な遺産」として検討し作成された改正刑法準備草案を土台として作成されたものであり、その意味で草案は、旧憲法的な国家主義イデオロギーと治安立法的性格を濃厚にもっていることは否定し得ないところである。
昭和一五年の仮案発表以後今日に至る迄の間における最大の社会的変化は日本国憲法の制定であり、これに伴う価値観の転換であった。したがって、今日刑法を改正するとすれば、それはまさに国民主権、平和主義、基本的人権の尊重の憲法理念を基礎にしてなさるべきであるし、国家の刑罰権の行使は人権尊重の立場に立って必要最少限度に止められるべきであるのに、草案は、この点をまったく考慮していない。
また、法制審議会における審議も、まず刑法全面改正の要否がまず論じられるべきであったのに、この点がほとんど審議されず、全面改正を既定方針として「準備草案」を逐条審議して草案が作成されたことはまったく遺憾である。
○尊重の重罰主義と処罰万能主義について
イ まず草案は、総則における刑罰そのものを一律に底上げしており、これが草案の重罰化の基礎となっている。
ロ 草案で、現行刑法の法定刑が引きあげられている罪が五五、特別刑法から草案に導入されている罪も加えると、実に六五の罪の法定刑が引きあげられている。
ハ 草案は、拘留刑の上限を九〇日に引きあげると同時に拘留刑を法定刑とする罪を現行刑法の三から二一の罪に大幅に増やしている。
このことは、処罰における人身の自由の剥奪を簡便ならしめ、かつ弾圧に使われる犯罪類型に多く用いられていることは重大である。
ニ つぎに草案は、現行刑法にない多衆犯類型、常習犯類型を多数新設し、それらの罪につき、通常の犯罪よりも刑を著しく重くしている。
○草案の重罰主義の特徴
まず、草案は、国家法益優先の立場に立って、国家作用に対する罪を著しく重く罰し、また新たに国家犯罪を拡大している。
他方、国家機関の犯罪を手厚く保護している。
これらの草案の特徴はまさに国家主義イデオロギー、治安優先の思想の表れであり、同時に量刑の実際が法定刑の下限に集中している現状に対し。法定刑を一律に引きあげることにより、宣告刑を重くすべきであるとの非難の表われでもある。
○草案の集団ないし団体行動敵視の基調について
草案は、その重要な基調として国民の集団行動ないし団体行動に対する敵視と、これに対する強権的抑圧の姿勢がみられまさに治安優先の思想が濃厚に表われている。
多衆犯類型の新設と重罰化がこれであり、これらの規定の構成要件のあいまいさは、官憲による乱用の危険を包蔵し、国民のあらゆる集団行動の権利を抑圧し、否定することになりかねない。
また、草案は、その他の集団犯罪についても、何らかの形で現行刑法よりも処罰範囲を拡大するとともに法定列を著しく引きあげているのが特徴である。
○中間報告について
中間報告は、草案のうち、とくに批判の集中した騒動予備罪、準恐喝罪などいくつかの罪につき、これを削除し、あるいはいくつかの罪の法定刑を引き下げることを代案として提案しているが、これらによって、草案の基調が変ったとは決していえず、むしろ中間報告は、草案発表の前後から批判の集中した規定につき、別の行き方もあることを示唆して批判の声を静めながら、結局において全体として草案の線に添った刑法全面改正をあくまでも実現しようとするものに外ならない。刑法改正作業をただちに中止すべきことを強く求めるものである。
13 藤堂真二(弁護士)
イ 保安処分について
まず保安処分の要件としての「精神障害者」「将来再び禁固以上の刑にあたる行為をするおそれ」についての適格な鑑定自体が困難であるし、また精神科医の協力も望めない。また、保安処分を科する手続規定がまったくない状況下においては、その審判手続がどうなるのか、弁護人選任権や、弁護人の権利はどうなるのか、証拠のあつかいはどうなるのか(通常の訴訟手続に中途から移行したり、また中途から保安処分手続に移行した場合)などなど、元来手続規定が整備されてみなければ、そもそも保安処分の可否を論ずることはできない。
草案の予定している保安処分は、拘禁処分であり、内実は自由刑とまったく変わらない。保安施設に収容して精神障害者の治療などできるものではない。
精神障害者に対する処遇は、現行精神衛生法による入院制度の活用、精神病院の施設の整備などによる運用が本筋である。また、保安処分は精神的欠陥者にも科されるおそれがあり、幅広い乱用の危険のあるものであり、このような規定を刑法典に設けることは、取り直しのつかない結果と招来することとなる。
ロ 常習累犯と不定期刑について
草案は常習累犯者に対して不定期刑を科することとしているが、そもそも常習累犯における「常習性」罪種の同一性を必要としないのであり、しかも不定期の仮出獄は長期刑の半数ないて六?七割の期間の経過が必要となるから、重罰主義とならざるを得ない。したがって、常習累犯者に対する不定期刑は近代刑法の基本原則である責任主義と罪刑法定主義に反するものといわざるを得ない。
○重罰主義と処罰範囲の拡大をねらう草案には反対である。
14 熊谷烝佑(刑事法学者)
○このような抗議活動のなかで、「意見を聴く会」に参加していることにわり切れないものを感ずる。草案については、法制審議会での審議経過や、草案の内容さらに「意見を聴く会」について批判がなされているが、刑法のような重要な法典の改正については、国民的視野に立って検討することが必要である。
○学生などの考え方としては、悪いものは罰するのは当然であるという者が多く、また、刑法の謙抑主義は、一般の人々にはなかなか理解されない。
刑法規範と道徳規範との区別が理解されないのである。
また、権力者にとっては、刑法は魅力的であるが故に権力者には刑罰万能主義者が多いのである。
○しかしながら、悪い子であっても、学校教育、家庭教育などによって、あるいは話し合いによって解決できることもあり民事的手段でまかなえるものもあるのであり、刑法は、この意味で最終段階で出現するものである。
(刑法は最低限度の倫理)。
○このような観点からすると草案・代案とも問題が残る。代案の内容そのものには賛成できるものを含むが、理由づけないし方向づけには問題が残る。
草案の総則中、とくに不作為犯、原因において自由な行為、共謀共同正犯の規定には、学説の多数が反対している。
死刑の廃止の点については、もっと積極的に検討すべきである。
○各論の問題点については省略するが、思想・表現の自由が認められている今日、刑法改正問題が国民全体にとって重大な問題である以上、国民全体のコンセンサスを得ながら、じっくり時間をかけて検討し結論を出すべきである。
なお、現行刑法の口語化は必要であると考えるが、現行刑法については、最少限度の修正に止めるべきである。
15 中村盛人(県警刑事部長)
○自動車等不法使用罪の新設に賛成する。
モータリゼイションの現在、自動車等の不法使用の事件が増加しており、被害も大きい。現行刑法では、自動車等の無断使用については、窃盗で処罰される場合とされない場合があり不均衡である。また自動車等の不法使用、一時使用についてはなかなか窃盗として処罰できないので警察に対し被害者の非難が集中している。とくに窃盗は使用窃盗が発端となることがままあり、これを放置することはできない。
○自動設備の不正利用、無賃乗車罪の新設に賛成する。
最近、自動設備(自動販売機や電話、旅館のテレビなど)の不正利用や、バス・電車のワンマンカーの無賃乗車が増加している。
こうした行為は、社会的に非難される行為であることに間違いないし、これらの行為を処罰しないことは被害者に説明できない。元来、これらの設備は、不正使用されないとの社会的信用が前提になっている。
○準恐喝罪について、代案が削除しているのは納得できない。同罪が復活されるよう希望する。
テキヤの事件などで畏怖の度合いで恐喝罪として起訴されない事例もあり、困る場合があるからである。
16 原伸太郎(検事)
○草案が総則において、罪刑法定主義と責任主義を明文化したことは積極的に評価できる。
また、他の総則規定の新設も賛成である。例えば、法律の錯誤の規定の明文化は、違法性の錯誤について、知らないことに相当の理由がある場合を不処罰としたことは積極的に評価できるし、結果的加重犯についての規定も責任主義の原理を徹底したものであるから賛成であり、猶予期間経過後の猶予の取り消しができるとしている点も賛成である。但し、保護観察は執行猶予者につき再度の猶予が可能とした点には疑問がある。
○草案の総則の保安処分の新設に賛成する。現実に検察の仕事に携わっていて、保安処分の必要性を痛感している。殺人や放火など重大事犯については再犯者が多い。しかしながら、現行刑法では心神喪失で無罪となった精神障害者については措置入院制度があるが、この制度のみでは扱いがまちまちであり、二人以上の鑑定医の鑑定を必要とし、しかも入院期間が短期間である点などきわめて不充分である。
したがって、保安処分については、賛成であるが、厳格な手続規定の整備、収容施設の人的・物的設備の充実、再犯のおそれの有無の判断を慎重にすることが重要である。
○草案の各則については、ほぼ代案に賛成する他、常習詐欺、常習恐喝罪など常習者類型の新設については、常習性の認定についての基準がなく、しかも一律に刑が加重されているので、やや疑問が残る。
17 干場義秋(裁判官)
○現行刑法は、一般国民にとっては理解し難いものであり、まず口語化する必要がある。また刑法は、全面的に改正する必要に迫られていると認識している。
○草案の作成経過についてみると、これを審議した法制審議会、刑事法特別部会とも、その構成メンバーは今日の最高級の学識経験者がそろっており、構成に問題はないし、審議会の審議自体も不公正なものでない。審議会の方々に対し、多大の労苦に敬意を表する。また、草案は内容的にも社会情勢にマッチしたものとなっており、優れている。
○草案についての具体的意見としては、まず懲役・禁固の下限を三月とし、拘留刑の上限を九〇日としたことに疑問がある。現行法どおりがよい。とくに拘留刑を科する罪が多くなっており、したがって、当然に拘留刑の宣告も多くなると思われるが、拘留刑の執行方法がどのように是正されるのか判然としていない。
拘留刑についても執行猶予が必要である。但し科料については執行猶予の必要はない。
○草案は、現行刑法にある罪について法定刑を引きあげているが、科刑の実情が頭打ちになっていることはないから、法定刑の引きあげは必要ない。
この点草案が重罰化といわれるのもやむを得ないと思う。
○不定期刑の新設には疑問がある。
常習累犯における常習性の認定が困難であるとの批判があるが、この点は判例上は一定の基準が確立されており問題はない。しかしながら、不定期刑は釈放の時期が一定していないため犯罪者が精神的にも不安定な状態におかれ、行刑効果としてもマイナス面がある。
常習者については、現行刑法の累犯加重と仮釈放制度の適切な運営で足りると考える。
○草案の保安処分は削除すべきである。現在精神医学界は混乱しており、保安処分の新設は時期尚早である。
○その他の点については代案に賛成する。
18 森本益之(刑事法学者)
○ 「意見を聴く会」の持ち方について疑問がある。公開すべきである。
元来、国民の声を充分に聞くことは民主々義の根幹である。
なお、参加者に対して、日弁連資料も添付されていたことは反対意見を知る機会を得られた意味で妥当であった。
○草案については、刑法の基本原則をどうとらえるか、刑事政策の観点からどのように評価すべきかの二点について意見を述べる。
イ まず、罪刑法定主義との関係で草案はどうか。法務省は、刑法全面改正の要否について「その後における社会情勢および国民感情の推移、法律制度の変遷、刑法に関する判例・学説の発展、刑事政策思想の進展などからみて、これを現代の要請に適合したものとするために全面的に再検討する必要がある」と述べているが、ここにいう「社会情勢の変遷」は実質的にとらえる必要があり、この意味の変遷としては、敗戦と日本国憲法の制定がもっとも基本とされなければならない。したがって、草案についての評価も憲法基準に照らしてなされる必要があり、この見地が刑法における罪刑法定主義に忠実な立場である。
草案第一条は、罪刑法定主義に関する規定であるが、同条は、法律の規定がありさえすれば処罰できるとの考えであり、真の意味の罪刑法定主義の原則をうたったものではない。
罪刑法定主義の原則は、@刑法の謙抑主義、A構成要件の明確性、B罪と刑との均衡の三つを内容とするものである。この観点から草案をみると、まず草案は多くの新しい犯罪類型を刑法典に新設・導入しようとしているが、とくに騒動予備罪、公務員機密漏示罪、企業秘密漏示罪、準恐喝罪、集団反抗罪など、どれをとってみても、どこまでが処罰される行為であるのかが明確でない。この点代案は一定の評価ができるが、なお疑点が残る。また、草案の常習者類型は認定が困難であろうし、そもそも刑法は人格的判断をさけるべきである(危険は刑法といえる)。
草案の保安処分についても同様のことがいえ、再犯の「おそれ」の概念もきわめて不明確である。
かくして、近代刑法の基本原則である罪刑法定主義の背後は、草案にはみられないといわざるを得ない。
ロ つぎに、刑事政策との関連で草案をどう評価すべきかであるが、この観点は、刑法の社会的機能という広い視野の問題であり、最近の刑事政策思想の潮流は、犯罪者の社会復帰のためどうしたらよいか、そのため、処遇を一般人の日常生活に近いものにし、受刑者の権利を保護する方向にある。また最近は、非犯罪化、非刑罰化の方向が叫ばれている。
草案には、このような最近の刑事政策思想の潮流は反映されておらず、この辺の理解もない。例えばわいせつ罪やだ堕胎についてこれをみることができる。
また、草案は非刑罰化の方向に対し、逆に法定刑を著しく引きあげ、処罰を強化しており、最近の刑事政策の潮流に逆行している。非刑罰化の方向は、刑罰によっては、犯罪者の教育は困難であるとの考え方を前提としており、拘禁による改善という旧い思想は見直すべきであるとの指摘がなされているのである。
草案の不定期刑についても同じ指摘ができる。不定期刑の場合、改善効果があがらないとの理由のもとに必然的に刑期が長期化し、保安刑にならざるを得ない。不定期刑は、短期自由刑の弊害が強調されていることに対する逆行であり、廃止えさるべきである。
草案の集団反抗罪は受刑者に対し取締り的観点のみから対処しようとするものであり、犯罪者の社会復帰の要請に逆行するものもある。
保安処分については、まず再犯の「おそれ」の認定は科学的にもむつかしいことであるし、かつ拘禁施設における改善という効果に疑問があり、そもそも拘禁状態における治療などは不可能であるから支持できない。
○草案の考え方は、一昔前の刑事政策思想を根底とするものであり、また代案も基本的には草案の思想を受継しているので草案、代案ともに反対であり、草案の白紙撤回を求める。
19 山口久一(広島刑務所長)
○行刑との関係において、草案の四つの点について意見を述べる。
○死刑の存置の点は賛成する。
死刑執行に立合った経験から、死刑によって被害者の感情が救われることになるし、死刑は正義の最後の担保ということができる。
○草案が第四七条において「行刑上の処遇」の規定を新設していることに賛成する。この規定は刑法と監獄法とを結ぶ橋となるものである。
○草案の不定期刑については、運用をうまくやらないとデメリットが多くなる心配がある。また、不定期刑は仮釈放の時期が長期化するおそれもある。長期の拘禁には賛成ではあるが、運用をうまくする必要がある。
○草案の法定刑の引きあげの点については、とくに反対意見はない。
○集団反抗罪についていえば、治安を守る立場からすると、刑務所ないし収容施設は、治安の最後のトリデである。処遇困難者は近年増加しつつあり、したがって本条に賛成である。
20 和田繁男(広島保護観察所長)
○社会内処遇としての保護観察対象者の実態を踏まえ、草案についての意見を述べる。
○まず、草案は、保護観察処分の刑事政策的意義を現行刑法に比し一層強調しているので、保護観察に関する総則規定全体として賛成である。
○草案第四八条が刑の適用についての一般基準を規定したことに賛成する。
また草案第八八条が保護観察制度の趣旨について規定したことも賛成である。
○草案の常習累犯者に対する不定期刑の新設に賛成する。元来犯罪者中、累犯者の占める割合は五八・三%にも達し、またこのような累犯者については、環境調整は困難である。

〈資料一八〉
高松地区「刑法改正について意見を聴く会」の報告
昭和五三年七月三一日
高松弁護士会
会員 飛 田 正 雄
日本弁護士連合会
刑法「改正」阻止実行委員会
委員長 江 尻 平 八 郎 殿
「刑法改正について意見を聴く会」
法務省主催の高松地区における標記会が去る昭和五二年一一月二五日高松高等検察庁で開催されたので、その結果を次のとおり報告します。

一、当日は、公開を要求する学生デモが大挙して押しかけてくるとの情報で会場に充てられた法務合同庁舎及び隣接する裁判所合同庁舎は全て臨時閉鎖された。
そして四国四県から集まった数百名の機動隊員が会場附近一帯に配置され、近くの商店街も警察からの要請で、臨時休業するといった有様で会場内外は当日平和な地方都市としては異様な雰囲気に包まれていた。
二、当日の「参加者」は一七名(一名欠席)で氏名等は次のとおりである。
四国新聞社取締役編集局長    阪 根 義 雄
香川県教育委員会委員      管   重 義
四国電力株式会社常務取締役   前 田 忠 利
株式会社 百十四銀行専務取締役 三 野   博
真言宗釈王寺住職        宮 川   明
(以上法務省推せん地元有職者)
香川大学経済学部助教授     土 田 哲 也
香川県医師会理事        西 絞   孝
四国学院大学助教授       根 本 博 愛
農林省中四国農政局技官     宮 武   実
児童福祉施設職員        山 田 フジ子
(以上弁護士会推薦地元有職者)
愛媛大学法学部教授       江 口 三 角
(刑事法学者)
高松地裁判事          大 下 倉 保 四 郎
高松地検検事          小   浦   英 俊
弁護士             飛   田   正 雄
香川県警刑事部長        永 江 繁 夫
高松矯正管区第一部長      堀     雄
四国地方更生保護委員会事務局長 岡 本 定 武
なお「参列者」として次の諸氏が列席された。
高松高裁長官          岩 野   徹
高松地所長           松 浦 秀 寿
高松高検検事長         笛 吹 亨 三
高松地検検事正         小 縄 快 郎
四弁連理事長          岡 本 真 尚
高松弁護士会々長        河 村 正 和
三、参加者の内、法務省関係の公職に就かれている諸氏の意見は立場上勿論「刑法改正」に賛成であったが、学者は全て反対の立場をとった。
そして法務省推薦の地元有職者の内、二名の方が全体として「改正草案」が処罰の範囲が拡くなり且つ重くなっているとの感は否定出来ないと述べられていたのが印象的だった。
参加者につき敢えて賛否の数をとれば、賛成者七名、反対者一〇名という結論になると思う。
なお参加者に法務省側の資料だけでなく日弁連側の資料も事前に配布されていたのは「改正草案」につき客観的判断をするにつき有益だったと思う。
以上


*再録:桐原 尚之
UP: 20120507 REV:
精神障害/精神医療  ◇反保安処分闘争  ◇全文掲載 
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