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精神衛生法撤廃=精神保健法弾劾!

全国「精神病」者団体 1978/05/08



いま一度理事会見解を想起せよ!
 一九八六年三月二六日、日本精神神経学会理事会は「精神衛生法『改正』についての見解」を厚生省へ提出した。この「見解」において日本精神神経学会理事会は、現行精神衛生法を「精神病」者に対し社会防衛のための強制収容と強制医療を押し付ける法であるとし、現行精神衛生法の撤廃を要求した。この「見解」は会員諸氏も記憶に新しいところであろう。
 ところがこの三月、政府はこの日本精神神経学会理事会の「見解」を一切顧みることなく精神保健法なる精神衛生法改悪案を国会上程した。「『精神病』者の人権に配慮した改正」と鳴り物いりで発表された政府案は、私たち「精神病」者の警戒した通りの改悪案であった。政府案を一読すればそこには措置入院も同意入院(医療保護入院と名を変えて)も現状と変わりなく存続しており、私たち「精神病」者がそして日本精神神経学会理事会が批判した、社会防衛のための強制収容強制医療制度という精神衛生法の本質には一切手をつけられていない。むしろ現行精神衛生法以上に強制収容強制医療制度を強化したのがこの政府案である。

この政府案のどこが人権保障か!
 たとえば新設された「応急入院」という条項を見てみよう。これは一人の医師の判断で「精神病」者を七二時間強制入院できる制度である。この「応急入院」制度はいわば逮捕状なしに「精神病」者を予防検束する制度であり、このもとで「精神病」者はいつ精神病院にぶちこまれるか分からない反人権的状況におかれることとなる。この「応急入院」制度によって地域の「厄介者」とされがちな「精神病」者へのかりこみは今まで以上に容易となるであろう。そしてこの制度と、昨年五月一五日警察の要請により厚生省が出した「医療中断者への訪問指導事業」の通達と合わせれば地域に「精神病」者への監視網を引き、治安的視点から権力の意のままに無権利状態で「精神病」者を強制入院させたり出したりする体制が完成することとなる。この一点を見るだけでも政府の「人権に配慮した改正」という宣伝の嘘は明かである。「改正」の過程で出された公衆衛生審議会の「中間メモ」では「精神病」者の人権が語られたが、それが単に、反保安処分戦線に幻想をばらまき、戦線の分断を図る政治的宣伝であったことがここで白日のもとに明かとなった。

精神科医は優生思想全面化と対決せよ!
 これもまた新設の国民の義務(二条の二)も、国家にとって役に立たない人間はいわば人工淘汰によって殺していくという、優生思想を根拠とした医療費削減政策と考え合わせると恐ろしい意図が明らかである。現行の精神衛生法においては強制入院を正当化する条文はあったが、強制医療を正当化する条文はなかった(運用実態はともかく少なくとも条文上は)。ところがこの「国民の義務」の条項は「精神的健康の保持及び増進に努める」ことを国民の義務としており、私たち「精神病」者に対しては「国民の義務」として「健康」であることが強いられ強制医療が現状以上に公然と行われることとなるであろう。現在厚生省は一九九〇年をめどに全科において、ある一定年数以上は保険点数をつけないという形で長期入院患者を病院から追い出そうともくろんでいるという。「病気になったのは国民の義務を果たさない自分の不心得のせい、病気は自分の金で治せ、金のない奴は殺せ」が厚生省の本音である。かねてから厚生省の懸案である精神科病床一〇万床削減はこうした形で行われようとしている。生活保護の諦め付けに象徴される福祉切捨て政策とあいまって病床削減政策の中で、私たち「精神病」者は不十分であれと?かくは医療の場である精神病院からも追い出され、医療を受ける権利さえ奪われたままで野垂れ死にを強制されることとなる。「浮浪者」虐殺や山谷等の寄せ場で「行きだおれ」という形で殺されていく下層労働者の姿がその先駆である。かつてナチスが「健康であることは国民の義務」であるとして強制医療を行い、さらには「精神病」者「障害」者を虐殺していったことは記憶に新しい。
ナチスと違ってもっと目だたないスマートなやり方で「精神病」者が「障害」者が病人が殺されていく時代がやってきたのである。「障害」者の発生予防を目的とした優生保護法を頂点とした「障害」者抹殺の歴史がここに極まり、「何をするか分からない危険な精神障害者」への治安的意図とあいまってこの「国民の義務」の条項が新設されたのである。この政府案のもとで私たち「精神病」者は強制医療か死かの選択を迫られることとなる。全ての精神科医は、「国民の義務」条項新設を、「精神病」者抹殺の優生思想全面化の一環としてとらえ、徹底批判対決すべきである。

精神科医は国家権力の手先となるのか!
 そして特に精神科医に訴えたいのは新設された「指定医制度」である。この「指定医」は厚生大臣が任命するものであり、その権限たるや措置入院や医療保護入院(現行の同意入院)の決定、行動制限の決定、はては措置入院の解除にまでも及ぶ資格である。「指定医」は精神保健法を守らない場合にはその資格を厚生大臣により剥奪される。「指定医」とは精神保健法の本質である社会防衛の任務を国家権力から委託された存在である。現行精神衛生法下でも精神科医は患者本人のための医療というより、社会の要請国家権力の要請による社会防衛的強制医療をさせられてきたが、この「指定医」制度のもとではよりその任務が強化され、精神科医は任命・資格剥奪という手段で徹底管理され、統制されていくこととなり、国家権力の社会防衛の意図は医療現場のすみずみまで貫徹することとなる。
私たち「精神病」者は今こそすべての精神科医に訴えたい、「われわれ『精神病』者と共に歩み医師本来の道である患者本人のための医療を行う道へ立ち帰るのか、あるいは今まで通りに国家権力の末端として社会防衛のための医療を行うことに甘んじるのか」と。
 日本精神神経学会理事会の「見解」が単なる美辞麗句でないとするなら、日本精神神経学会員があくまで医師であろうとするならば、日本精神神経学会は今こそ敢然と精神衛生法改悪案である「精神保健法」弾劾の態度を明らかにし政府に対し精神衛生法「改正」案廃案を迫るべきである。

一九八七年五月

第八三回日本精神神経学会総会にむけて

全国「精神病」者集団
連絡先 名古屋市南区呼続町七−七六 健康荘A三〇一 大野方

スローガン
精神衛生法撤廃! 精神保健法弾劾! 廃案に追い込むぞ! 保安処分新設粉砕!
優生思想全面化と対決せよ!
 優生保護法撤廃! 母子保健法改悪粉砕!
岐阜大胎児人体実験糾弾! 一・五歳児心理テスト粉砕! 
 「医療中断者」に対する地域管理監視網の強化を許さないぞ!
天皇訪沖に伴う「精神病」者狩りを許さないぞ!
「浮浪者」の虐殺を許さないぞ! 「精神病」者の行路死を許さないぞ!
「精神病」者の人権と防禦権を奪還するぞ!


*再録:桐原 尚之
UP: 20120527 REV:
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