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「第12回PSW大会・総会中止を省みての反省と課題(案)」

日本精神医学ソーシャル・ワーカー協会 常任理事会 19761126


(第12回PSW大会 総会中止を省みての反省と課題)についての全国理事会審議経過報告

 日時 昭和51年11月26日 27日
 場所 東京(みやこ荘)
 出席理事(順不同)、小松・関・渡辺・垂石・助川・西沢・大野(和)・谷中・門屋・岩本・中越・恩田・新宮・津田・田村・林・.坪上・柏木・大野(勇)
 この議題については,恩田理事が議長に選ばれて,すすめられた。
理事長は,開会にあたって,およそ次のように挨拶した。
「『総会中止を省みての反省と課題』(以下,総括案)を常任理事会でまとめたので,検討していただきたい。なお,協会の方向性については,まとめることができなかったので,それについては,全国理事会で討論してほしい。」
『総括案』はあらかじめ各理事に配布され,読了してきたことを前提にして討論に入った。
初め,大会中止をめぐっての議論が行われたが,これは,秋の全国理事会の議論内容のくりかえしであったので,ここでは省略する。
『総括案』討論にあたって,理事長より「時間的余裕がなかったので、あらかじめ地区からよせられていた意見を反映させることができないままにきてしまった。そこで,討議を深める意味で,ここで各地区からの報告がなされた。
 イ、新潟地区 ― Y問題については,その中で提起している「本人不在」「入院先行」「現行法体系」は,現在の精神医療上,重要な課題である。しかし,この問題を単に,観念的に危険性を指摘し,安易な自己批判」や,Y裁判斗争支援という形では,真の継承にはならない。我々の日常実践で検証することである。
 また,身分(資格)制度については,当協会発足以来の課題であり、協会はもっと積極的にとりくむべきである。
ロ、東北地区 ― Y問題は,日常業務の教訓としてうけとめる。当地区琴では,一般化資料と精神医療問題委員会の資料をまって,今後共,じっくり検討していく。
しかし,協会の最近の動きについて,会員の多くは,協会がY問題にふりまわされがちと感じ,今後もY問題中心の議論に集中なら,会費も払いたくないという意見も多い。協会の今後の運営は,各地区のP・S・Wの実情には,大きな落差がある事実をうけとめ,各地区の会員の切実な要求である業務,身分(資格)制度への取組を中心にすえるべきである。
 ハ、静岡地区 ― 島田事件にとりくんだが,これはY問題とつながることと思う。協会の運動は業務内容や身分を向上させるものであるべきである。専門家集団だから,Y裁を支援するといった一つの立場でいくべきではない。多様な立場を認めるべきである。
 以上の報告をもとに,『総括案』については,こうした地方の実情を充分くみ入れるべきであるとか,Y問題と身分(資格)制度のとりくみをことさら対立的に分けて書くべきでないとか,Y裁判を支援する人々への傾きがめだつなどの発言があった。
 これに対し,『総括案』の基本線を承認し支持するいくつかの発言があった。そして,この二つの対立する発言をもとに基本線論議に集中し,第一日目は『総括案』の内容について十分に討論を深めることができないままに終ってしまった。
 第二日目の冒頭に,理事長が,討論をまとめる方向に進めたいという理由から次のような提案をした。
1.今回の総括をするにあたって,第12回大会・総会中止になった経緯から,常任理事会が,Y問題の継承ということを中心にすえて『総括案』をまとめようとした基本線は全国理事会としても了承する。
2.しかし,総括のまとめ方,表現の仕方などについて,多くの意見が出された,常任理事会は,それをふまえて,『総括案』について加筆修正を行う。
3.全国理事会は,常任理事会の『総括案』をめぐって出された多様な意見を整理しながら,今後に向けてのとりくみの方向を明示した文書を作成し,それを前文にして,全国理事会の名前で常任理事会の提出した総括案を公表する。
 この提案をもとに討論がなされたが,提案を支持する,『総括案』の基本線を了承しなければ,協会活動が存続できないという賛成意見と,『総括案』の基本線自体を承認することができないという反対意見が出された。
賛成意見は「身分制度のとりくみは,Y問題との関連をぬきにしては意味がない。関連づけながら身分制度の問題にとりくむべきである。このことは新潟大会において決定ずみのことであり,『総括案』の基本線を認めることができないとする意見は新潟大会の決定をほごにするものである。」という趣旨であった。
 それに対し,反対意見は,「『総括案』の基本線は身分{資格)制度のとりくみの評価をY問題の一般化(継承化)との関連で行ない,Y問題にかたよりすぎている。この点で認めることができない。新潟大会では両者を平行させながらすすめていくことが確認されていた。その点からしても両者を一応きりはなして評価し,身分(資格)制度のとりくみを積極的に行なうべきである。協会は,内部に多様な考え方がある以上それらを包括していく必要があるのではないか。」という趣旨であった。
このような二つの意見を中心にさまざまな主張がなされたが,結局,意見の一致をみることができなかった。しかし,今後,協会活動を存続させるために,民主的な討論をにつめることにより,共同できる可能性をさぐっていかなければならないという観点から,次のことを決定した。
1.『総括案』は常任理事会で字句などの若干の加筆修正をした上,常任理事会名で公表し,会員の討議に付す。
 2.その際,この全国理事会の審議経過をまとめたものをつける。
 3.会員の討論をふまえて,昭和52年3月末に総会を東京で開催する。


第12回PSW大会・総会中止を省みての反省と課題(案)
常任理事会

総括のための討議資料を公表するにあたって
1.はじめに
2.問題の所在
 (1) 身分制度に関する本協会のとりくみの総括
 (2) Y問題の継承に関する本協会のとりくみの総括 
(3) 組織活動等に関する本協会のとりくみの総括
3.今後の方向性(未完)

 (総括のための討議資料を公表するにあたって)
 先般,会員に送付した「大会・総会中止にいたる経過概況」に示されているような事情で,第12回大会・総会をやむなく中止したが,その結果,協会はかつて例をみない深刻な事態をむかえ,そして会員のなかに戸惑いといらだちが生まれ,また協会の存続とそのあり方について多くの論議がまき起っている。
 このような状況のもとで理事会は,先の緊急全国理事会の決定に基づき,第12回大会・総会中止の事態をふまえて,これまでの協会活動にみられた問題点を整理,確認するとともに,今後の協会活動の方向を明示するために総括を試みることになった。
 いうまでもなく,これはきわめて重要でかつ困難な課題であり,理事会としてもまだこの段階において統一的な見解をもつまでにいたっていないが,会員の討議に付し会員の意見を反映させていくために,これまで常任理事会においてすすめられてきた検討の結果を,総括のための討議資料としてあえて公表することにする。
理事会の意のあるところをくんで,各地で積極的に討論をおこし,建設的な意見を提起されるよう切望する。
 それをふまえて,本年度の総会を開催し,協会活動の針路を決定したいと念じている。

昭和51年  月  日
日本精神医学ソーシャル・ワー力―協会
理事長 小松源助

 1.はじめに
 本協会は第9回横浜大会でY問題が提起されてから現在にいたるまで,「Y問題調査委員会報告」ならびに,それに基づく「一般化資料」などを作成し,Y問題が提起した諸点を各会員に明らかにする努力をしてきた。
 また,一方では,専門職制度の実現をめざした活動を展開し,特にその一環として,いくたの問題点を指摘しながらも,「社会保険診療報酬改定に関する要望書」を公私病院連盟に提出するといった社会的活動を展開した。
 しかし,両者の関連性について必ずしも明確にしえないままきてしまったことから,とりわけY問題に関してのとりくみ方に大きなバラつきが出てきてしまった。そのために,Y氏と「考える会」より,関東甲信越ブロック研究会で,Y問題の継承に関する基本的な見解を問われた時に,それに対し明確な態度をうち出すことができなかった。そのことが,結果的には,関ブロ研究会を開催不能にする事態をもたらし,第12回大会・総会をも中止せざるをえなくさせてしまった。
 このようなことをふまえ,あらためて,Y問題を通して提起されてきた主張が何であったかについてふりかえってみる必要がある。そこで,その主張を整理してみると次のような諸点に要約することができる。
 第一に,精神医学ソーシャル・ワーカー協会という職能集団を構成している人びとは,現行の精神医学・医療をいったいどのようにみすえているのか。これについては,単に,すぐれたところもあり,改善すべきところもある,といったようなとらえ方ではなく,どこがどのように悪く,それに対してどうしょうとするのかを明らかにすべきではないか。
 第二に,主観的な意図はどうあれ,客観的に精神医学ソーシャル・ワーカーのおかれている現場での役割をどうとらえているか。地域管理・保安処分体制をになわされているのではないか。
 第三に,精神障害者と言われる人びとと自己との関係をどのように認識しているのか。現在の社会のしくみでは,主観的意図がどうであるかにかかわらず,援助される者とする者の関係は,管理される者と管理する者の関係=差別構造の関係にあることを踏まえるべきでは左ないか。
 第四に,そうした点を明らかにしたうえで,精神医学ソーシャル・ワーカーは,精神障害者と言われる人びとに何を目的に,どのようにかかわろうとしているのか。
第五に,その行為の中味である,いわゆる精神医学ソーシャル・ワーカーが行なうサービスを,患者・障害者と言われている人びとから逆にとらえ返した場合,一体何であるのかを明らかにすべきではないか。
 こうした問題提起は,単に「二度とくり返さないで欲しい」とか「裁判支援を要請する」といった性格のものではなく,むしろ,一つめ職能集団になかば期待をこめながら,精神医学ソーシャル・ワーカーの立場性・思想性を根底から問うものであった。
 従って第12回大会・総会中止の総括をするにあたっても,それらをふまえ,かつまた,10年間の当協会の歴史をふまえ,基本的にみなおすところからとらえなおしていかねばならないと考えられる。

 2.問題の所在
 第12回大会・総会中止を省みての反省と課題は,大きく,本質に関わる問題と,運営に関わる問題の二つに分けることができる。
本質的な問題については,第一に,PSWのあり方や立場性に関する側面と,第二に,専門性をめぐる身分・資格にかかわる側面が含まれている。
 こうした問題は,PSW協会発足以来たえずとりあげられてきた問題であり,そのつど,それぞれの委員会で検討がなされてきた。そこで,その内容について,以下の項目に分けて検討を加えてみたい。
  @ 身分制度等に関する本協会のとりくみの総括
  A Y問題の継承・精神医療問題に関する本協会のとりくみの総括
  B 組織活動等に関する本協会のとりくみの総括

(1) 身分制度に関する本協会のとりくみの総括

 これについては,各委員会の活動により五つの時期に分け,それぞれについて,各委員会の設置の趣旨・とりくみの経過・およびそれらに関する現時点での評価ないし問題点についてのべることにする。

1.「身分制度委員会」(39〜43年頃)「身分制度調査合同委員会」(41年)の活動の時期
<趣旨と経過>
 本協会は,39年11月,専門家協会として,日本医療社会事業協会とは独立の形で発足したが,社会の評価に耐えうる専門性を具現するような身分制度を確立してゆくために「身分制度委員会」を設置した。
 また,それと関連して,会員資格の基準を「社会福祉4年制大学卒業後2年間のPSWの経験を経た者」においたが,これは,46年に,基準を「社会福祉4年制大学卒業」に改めるまで続いた。
 40年,日本ソーシャル・ワーカー協会,日本医療社会事業協会,日本社会事業学校連盟とともに「精神衛生技術指導体制の確立に関する陳情書」を協会として厚生大臣に提出し,また,専門家ソーシャル・ワーカーをもって,精神衛生相談員,医療社会事業員に充てられたい旨の陳情書・要望書を都道府県知事,日本社会事業学校連盟に提出した。
 41年には日本ソーシャル・ワーカー協会,日本医療社会事業協会とともに「身分制度調査合同委員会」を設け,「医療社会福祉士法(案)」を検討作成したが(41〜43年),MSWの中心的機能に関しての合意には至らず,MSWの業務に関し,「疾病の予防・診断・治療より社会復帰までの全過程を通して,医療関係者と協力し,社会福祉の技術を用いてつぎの各号の業務を行なう」と規定した。
 <評価・問題点>
 この時期の協会は,ワーカー・クライエント関係を中心とする専門的援助活動を重視し,それによってソーシャル・ワーカー一般の身分制度確立の突破口をつくろうとしたが,現場の実情からみていちじるしく遊離していた。
 一方,業務の検討をすすめるなかで,業務の性質,内容を不明確のまま制度化することは危険であると意識しはじめ,同法(案)の実現の推進よりも,その性質,内容等の検討に関
心が移ってきた。現時点で考えるとき,社会福祉の「技術」を用いて医療関係者と協力しながら業務を行なうというように規定したことは,その後,業務の検討が重要な課題としてとりあげられる契機となったが,しかし,この段階ではまだ,アメリカの技術主義的専門性に関して批判的に検討をすすめる視点が不明確であり,また関心も薄かった。

2.秋の全国理事会による「スーパービジョン及び業務指針の検討」(44年,45年)および,「業務指針検討委員会」(46年,47年)の活動の時期
 <趣旨と経過>
44年秋の全国理事会で,PSWによる一定基準のサービスを保持するためには,学校教育と現場でスーパービジョンが必要であるという意見から,スーパービジョン制度の実施を当面の研究課題としてとりあげた。しかし各理事の宿題報告と討論を通して,スーパービジョンについて理事の間に共通の理解がなく,教育分析から実務指導に至るまでさまざまのとらえ方がされていることが明らかとなった。そのため45年にはスーパービジョンそのものよりも,その拠り所となるPSWの業務をとりあげられることになり,その検討結果を「PSW業務基準(原案)」としてまとめ,各支部や地区で検討してもらうために配布した。その結果2,3の地区から表現が抽象的すぎる等の意見が出たが,全体的な反応としては消極的であった。
ついで46年に業務指針検討委員会が設けられたが,47年の第8回仙台大会において,委員会の目的が必ずしも明確でなく,理念と努力目標を明らかにするのか,職務の現状を問題にするのか,会員の意見を集約するのか,委員会の討論を提供するのか,それらの諸点について討議を必要とするとして,協会として委員会設置の趣旨を明確にすることが必要であると厳しく指摘するとともに,今後検討をしてゆく際に留意すべき事項として次のような諸点が提示された。                             
(イ)労働・福祉・教育に関し一連の政策が打ち出されている現状に注目する必要がある。
(ロ)クライエントが制度を利用する主体として立ち現われてきているという意味で,社会福祉の実践の質が変ってきている。
(ハ)ケースワーク技術中心のスーパービジョンによる専門性の追求から日常実践の中にPSWの本質を探る方向へ,44年第五回名古屋大会以降視点が変ってきている。その際,
 (a)仕事の意味を従来の専門性の視点にとらわれずに問う。
 (b)患者および家族の担う生活問題のその解決の方向を基準とする。
 (c)関連領域との関係を「重なり,焦点の違いの組み合わせ」として理解する。

〈評価,問題点〉
第5回名古屋大会において,協会として,クライエントとワーカーのおかれている社会的諸条件をふまえてゆく(社会科学的)視点を明確にすることができていない点が指摘され,さらに45年には「Iさん問題」に対応しきれず,また朝日新聞による大会記事の波紋への対応に忙殺されたこと等を通して,協会は現状認識の転換を迫られた。
こうしたなかで協会は「業務指針検討委員会」を設けたが,同委員会報告の提案の趣旨を生かして会員に滲透させることが大変不十分なまま終っている。同委員会の趣旨を現時点での課題にかかわらせて生かしていくことが必要であるように思われる。

3.「身分制度委員会」(43年後期頃〜47年),「PSW待遇実態調査委員会」(47年)の活動の時期
〈趣旨と経過〉
 46年9月に中央社会福祉審議会,職員問題専門分科会から「社会福祉士法制定試案」が公表されたが,その前後から協会は「身分制度委員会」を中心に検討をすすめ,そして”身分制度とはわれわれにとってどういう意味をもつものであるか””社会福祉の専門性の確立をどのようにすすめてゆくか”という二点に問題の焦点をしぼって討論をすすめることにした。その際,次のような視点を設定した。
(1)国民大衆の生活権保障に依拠した社会福祉論と実践
(2)国民大衆が生活権を守ってゆくために専門家の生活権をも含めて保障されることの必要性
こうした提起に会員の反応は少なかったが,少数ながらも出された意見をもとにして,「社会福祉士法制定試案に対する意見」をまとめ,47年3月,中央社会福祉審議会事務局に提出した。そこでは“現在の社会福祉従事者による実践主体確立の努力を中心にすえ社会福祉の基盤整備の施策を優先させること”を次の6点にわたって提起している。
@ 現行の関係法規が完全に守られていない現状の把握と,国民福祉の実質的な向上をめざす視点からの改善の努力
A 社会福祉施設の物的充実
B 社会福祉サービスの公私格差の是正と最低基準の引上げ
C 社会福祉施設の民主的運営の促進と確保
D 社会福祉職員の必要性および任用制の確立
E 社会福祉職員の労働条件の改善
以上のような経過のなかで,協会48年に資格制度とは別に労働の観点から社会福祉従事者の問題に接近する意図で「PSW待遇実態調査委員会」を設けた。その委員会活動は東北支部が担当し,PSWの業務と給与等の労働条件と専門性志向職種としての研究活動の保障等を中心にPSW待遇実態の把握と検討を行なった。
その結果,大卒モデル賃金に比して給与水準が低くばらつきの大きいこと等が明らかにされ,今後の課題として次の諸点が指摘された。
イ)身分と定数の確立
ロ)業務内容の確立
ハ)新人の研修
二)現任訓練,スーパーバイザーの養成
<評価、問題点>
「社会福祉士法制定試案」にっいて「身分制度委員会」は積極的にとりくんだが,会員間の検討は不充分だった。その理由として次の三点が指摘できる。
1) 時間の不足(46年9月に公表され,47年3月までに意見の提出を求められた。)
2) 会員の間で検討する際の会員の層の薄さと組織の未熟さ,そうした実情についての認識の不充分さ
3) 同委員会の投げかけた検討課題の先行のしすぎ
また同制定試案に対する意見として提起した“社会福祉の基盤整備”については,そのうちのD,Eについてのみ「PSW待遇実態調査」によって着手したに止まり,労働の中味の問題について検討をすすめるまでにはいたっていない。

4.「あり方委員会」の活動の時期(48年)
 <趣旨と経過>
48年の第9回横浜大会において,協会のあり方に関して根本的な再検討を集中的に行なうことを意図して,「あり方委員会」が設けられた。同委員会における検討の結果は49年の第10回神戸大会で報告されたが,協会の目的と性格,当面なすべき課題についてはおおむね次の通り提示された。
 1) 今から反省すると,われわれの身分確立のための運動をすすめるにあたり,協会は精神障害者の福祉を中心にすえていたとは言いがたい。
 2) 専門職団体は,ワーカーとしての業務の向上をはかるために必要であり,またその仕事の性質上運動体でもある。
 3) 次の課題について検討すべきである。
 @ 精神障害者の福祉に関する諸条件の検討(就業促進,経済的保障,法的差別の撤廃)  
A ワーカーの専門職化に関する諸条件の検討(資格制度,業務の点数化)
こうした「あり方委員会」の報告に関し,会員より理事会に対し,“資格制度・業務の点数化を含む個々の課題についてPSWの基本的なあり方を問うにあたり,現在の精神医療のあり方そのものに対する検討ぬきにはなされないのではないか”との疑問が出され,それらについてさらに理事会で検討をすることが要望された。また49年の「Y問題調査委員会」による報告では,“現行精神衛生法における措置・同意入院の問題の点検”,“本人の立場に立った業務の基本姿勢の確立”,“およびそのような業務が保障される身分の確立”の三点が結びとして提起された。
 <評価・問題点>
「あり方委員会報告」におけるワーカーの専門職化の条件提示に関しては,精神障害者といわれる人びとの福祉を中心にすえ,その視点から現状を把握し,それに対応する活動があり,その活動を支えるために身分的な保証が必要となる,という順序をふまえなければならなかったにも拘らず,その中間の段階を欠落させてしまっていた。理事会に対する要望およびY問題調査報告の提起も,この点を指摘していると考えられる。また,こうした課題の投げかけに対して会員の関心が全体的にみて薄かったが,その理由について検討を加えないままになっている。

5.「専門職制度委員会」(50年)の活動の時期
 <趣旨と経過>
50年第11回新潟大会において,専門職制度の裏づけとしての専門性について検討をすすめるとともに,すくなくともその確立をめざすという展望をもってとりくんでいく必要があるという理由から,「専門職制度委員会」を設け,東海支部がこれを担当した。同委員会は資格制度問題について現実的にとりくむことを中心とするが,絶えず「専門性」に関する問題との関連を念頭において作業をすすめることとし,次のような活動を行なった。
(1)常任理事会による,協会がこれまで行なってきた資格制度の課題に関する活動の総括
(2)実践例の集録としてパンフレットの作成
(3)ワーカーの実態把握として,国公立病院PSWに関するアンケート調査
(4)他団体の状況把握として,日本医療社会事業協会の討議資料の利用と,全国公私病院連盟 による「病院診療報酬改訂要求案(50年)」の検討と対応
なお,同改訂要求案に関しては,協会として次の諸点を含む「社会保険診療報酬改訂に関する要望書」を同連盟に行なった。
(1)ワーカーの相談指導料の新設の促進
(2)PSWの配置について基準加算の新設
(付) 協会のいう一定の任用資格の採用
なお,上記要望書の作成に当っては,改訂要求案の検討を通して次の問題点が指摘された。
(1)改訂要求案では,PSWが看護業務補助者の一員として位置づけられていると解せられるが,ワーカーの業務は社会福祉の業務である。
(2)ワ一カーの業務は院内における相談指導にとどまらないので,相談指導料のみの設定は業務を一部に限定するおそれがある。
(3)ワーカーの資格要件に関し規定がなされていないと解せられるので,業務の質が低下するおそれがある。
(4)ワーカーの業務内容について,@看護業務補助,A相談指導,B医師の技術に伴なう事務処理の3点を予想していると解せられるので,社会福祉の業務を混乱し停滞させるおそれがある。
 こうした病院ワーカー活動の点数化の問題に関し,「東京PSW研究会」より,PSWが“制度に組み込まれる”ことにかかわる重大な問題であることを認識するとともに,望ましい形でこれが実現されるよう協会は積極的にとりくんでほしいとの要望がなされた。
<評価・問題点>
病院に勤務するワーカーの活動の点数化問題に関しては,すでに述べた「社会福祉士法制定試案に対する意見」にそくし,3にのべた社会福祉職員の必置制,任用制等の確立への一歩あるいは一つの対応として明確に位置づける必要があったが,この点が不充分であったし,会員の意見を十分に反映させえなかった。
また,「あり方委員会報告」「Y問題」等に関連して確認されてきた課題,すなわち,精神障害者といわれる人びとの福祉を中心にすえた現状の把握と,対応をしてゆくことを保障するための身分制度である,ととらえねばならなかったのに,必ずしも適切に認識されていたとは言いがたい。

以上・身分制度に関する協会の活動を劫かえるとき,その方向が技術主義的な専門職制度への志向から,社会科学的視点をすえた社会福祉的援助ないし活動のための身分制度への志向に変わりつつあり,またその際に,現場の実践を含む実態を出発点とし,精神障害者といわれる人びとの福祉を中心にとりくもうとする動きの加わってきていることをみてとることができる。
同時に,こうした経過のなかで,協会としてはその時どきの事態への対応に追われ,理念および検討すべき課題の提起に傾き,会員による検討をも含めた実質的なとりくみへの配慮が不十分であったことがうかびあがらざるをえない。さらにこうした課題へのとりくみは,われわれの実践の背景をなしている精神医療自体の問題性を視野にいれることをも意味している。
以上の総括から,みずからの背景を含めて身分制度の問題を検討し対応していくために,協会.としてその基本的な枠組みを改めて確認する必要があり,同時に,こうした課題を,さしあたっては“いかに会員の実情にそくして検討したらよいのか”を考えて努力する必要がある。そしてまた,この2つの課題は,身分制度の問題に関しあらたな意味付与をおこなう問題でもあり,協会活動のすべてに共通した課題であると考えられる。

(2)Y問題の継承に関する本協会のとりくみの総括

第9回横浜大会でY氏と母親および支援グループからY問題が提起され.“二度とY氏のような事件を起こさないでほしい”との要望がなされた。協会はそれに応えるべく「Y問題調査委員会」を発足させた。そして第10回神戸大会においてその調査報告がなされたが,そのなかで「Y問題の特記すべき事柄は本人不在・入院先行にある」とし,われわれはY問題についての検討は単なる行政行為のみに注目してはならないこと,精神衛生法上の手続きの整合性をいう限りでは問題の明確化にはならず,決して解決されないこと,措置入院や同意入院制度の問題に深くたち入らなければならないこと,また,ワーカ一の対応については@ニ一ドの焦点化の誤り,A本人・家族との問題の共有化の欠落,B入院先行主導の地域医療管理体制にくみこまれた動きがあったこと,を指摘し,協会に対し次の3点の提案がなされた。
1)現行精神衛生法における措置・同意入院(保安処分)の点検を行なうこと。
2)「本人」の立場に立った業務の基本姿勢の確立を目ざすこと。
3)そのような業務が保障される身分の確立を目ざすこと。
これらの提起に応えるかたちで,第10回神戸大会においては,“保安処分に反対する決議”と“精神障害者の人権を守ることを基本的なあり方としてその歩みを進める”という決議がなされた。               ・
そして,第11回新潟大会をむかえるにあたって.常任理事会は10回大会からの1年を省みて,自らの反省をこめて2つの総括提起を行なった。
第1の総括点は,「Y問題」が提起する課題はワーカー・1人1人がその日常実践のなかで,いかに自らに教訓化し生かしていくのかを示唆するものとして極めて重要であり,自らの日常業務を今後点検することに踏み切ったのではあるが,それらは十分に深められたとは言い難いこと,常任理事会のとりくみをみても,患者,障害者の人権を守るという一般的理念は持ちえても,第10回神戸大会決議に基づき会員の意見を十分に集約しながら,精神医療における問題性に関するY氏の提起した趣旨を十分にくみ取り,明確な方向性を打出すまでは至らなかったこと,その原因は「Y問題」に対する一般会員の対応の困難さと,会長と理事の,あるいは理事会と常任理事会との意思疎通の不十分さに多くあったと考えられること,などがあった。
第2の総括点は,専門性に関するものであるが,あり方委員会報告によって当協会がPSWとしての業務の向上をはかるための専門職団体であること,また仕事の性質上当然精神障害者の福祉のための運動体であることが確認されたが,この確認も多くの問題性を有しており,とくに次の討議が早急に必要であることとした。
第1に,ワーカーの業務とは何なのか,それは精神障害者に向けたものなのか,政策側の意図するものへの協調をいうのかについて文明にしえていない。
第2に,障害者の福祉とは何なのか,現状を踏まえてどの方向にわれわれはかかわるべきなのか。
第3に,精神医療における差別の構造の問題に「福祉」がどのように関連するのか。
このうえに立って,さらに専門職団体という規定は,専門職の意味内容の検討と洞察を欠くとき,ソーシャルワーカーのあり方を一層あいまいにするものであると注意を喚起すると共に,精神障害者の人権をたえず念頭におきながらも,ワーカーの労働条件のあり方についてはさまざまの考え方があると指摘し,そして今後は,専門職団体とは何か,資格制度とは何かを十二分に検討されなくてはならない。
しかしながら,現時点で考えれば,そうした指摘は指摘のみで終ってしまい,今だにPSW協会の内実たり得るまでにはいたっていない。
第11回新潟大会以降,協会はY氏本人の権利侵害と訴えをどう評価するのか,社会的発言を行なったY氏を支持するのかしないのかを明らかにしないまま,また当事者の請求権の行使をどう考えるかの評価もしないまま,裁判支援の決議を採択しないという方向で歩み出した。しかし理事会,Y問題をワーカー1人1人が自らの日常実践のなかで,自らに教訓化し生かしていくために,「Y問題調査報告により,提起された課題の一般化について」と題する資料を各会員に配布し,各ブロック研究会において検討を開始する旨を要望することになった。
ここでは「Y問題調査報告書」の結論からすれば,現行の精神衛生体制下にくみこまれているわれわれが,第2第3のY氏を生み出さないために,「患者との関わりを主軸に制度へのとりくみを行うことが重要であるとの問題意識を背景に,日常業務の点検の基本姿勢・理念「本人の立場にたつ」というところにおきながら,会員全体がとりくめる課題として,業務の問題と現行精神衛生法とりわけ入院制度にかかわる諸問題がとりあげられている。
ただし「Y問題一般化資料」のなかでは,日常業務に関わる問題と精神衛生法上の問題を羅列的に述べただけで,そのとらえなおしの作業と具体的日常実践の細目にわたる提起は十分でき得ていなかった。さらに人権の問題に関しては,Y問題の提起する人身拘束にかかわる問題にとどめず,精神障害者の生活上の諸権利をも含めた広義の人権の問題と関連させてとりあげたことがかえってY問題を人権一般の諸問題にうすめさせる傾向を生み出したのではないかと考えられる。そうした動きは同時にY問題が生活権・労働権のなかにたやすく内包されてしまうと共に,市民社会と患者の人権は現代社会にあってはなかば相対立する構造になりがちだとの視点を欠落させ,ついには患者の人権も,PSWの人権もという寄妙な図式を成立せしめることになってしまったのではないかと考えられる。
ここに至って省みれば,44年第5回名古屋大会以降,協会がめざしてきた社会科学的視野の確立という大きな飛躍が実はいわゆる社会的な視野を持ち,大きく物事をみなければという中味でしか会員の中に滲透していなかったと言えるのではなかろうか。 
われわれは,現在もなおPSWとしての理念共通性や業務における共通基盤の弱さをもっていることを素直に認めなければならない。しかし,そうした弱さを認めつつも何から出発するのかを問われた時,それは明らかに精神障害者と言われる人びとの人権を,現代社会のありようを見定めた上で擁護するといった基本的立場から出発すべきであると考えられる。
それは同時に現在の精神医療に対する批判や,自己をみつめなおしながらの現実的諸問題との格闘を覚悟しなければならない。これには多少の勇気が必要であると共に,旧来の視座の転換を強いられる場面も多く,精神医療をどうとらえるのかという大きな課題との闘いでもある。
PSWの基本的共通理念,そこからみちびき出される業務指針の確立は,われわれの立場性・対象の認識・社会の状況認識と,それに規定された各現場の個別状況の把握,換言すれば現行の精神医療をどうとらえるかという議論の深化なしにはできないことを,Y問題を通して確認することが必要である。

(3)組織活動等に関する本協会のとりくみの総括

PSW協会にとって,組織の問題は古く,且つ新しい課題であり毎年総会ごとに組識のあり方を求めて検討がなされてきた。すでに述べてきたように,第12回大会・総会を前にしてわが協会は太きく二つの対外的動きを行っている。一つは第9回大会以降ひきつづいた「多摩川保養院を告発し,地域精神医療を考える会」との接渉であり,もう一つは公私病院連盟への要望書提出をめぐる動きである。さらに,全国レベルでの各会員は,第11回新潟大会で決定をうけた形で医療社会事業協会との統合化をめざす方向での理念なり原則を日常実践の中での組織問題として考えていくということであった。それらは当然現在の精神医療状況を如何に認識し,如何に改善していくのか,精神障害者といわれる人々およびその家族の要求にどのように対応していくのか,ということをふまえて,その際に起ってくる諸問題にどのように取り組み,どのような体制(組織)が望ましいかが問われていた。また,諸制度の実現や改正などの要求に対して,関連団体とどのように提携していくのか,最も関連領域として近い存在である医療社会事業協会との統合化をめざしてどのような理念・原則を樹立するのかが問われたと言える。そこでここでは,対外関連団体との接渉の経験不足からくるまずさにとどまらず,協会の組織実態を考えながら上記の問題にそくして考えてみたい。                      
PSW協会が先にのべたように組織上の問題意識は,協会発足後10年をむかえた第10回神戸大会において,協会の組織活動の反省にたって始めて明らかにしえたといえる。すなわち、「あり方委員会」報告において,「本協会は,昭和39年11月発足以来,PSW専門職化をめざしてきた。しかし,今日の時点から反省すると精神障害者の福祉を中心に対応したわれわれの身分確立のためなどの運動をしなさすぎたと言えよう」と反省し,「専門職団体はワーカーとして業務の向上を計るために必要であり,ソーシャルワークの仕事の性質上,その専門職団体は当然運動体でもあるはずである」として検討を加えた。そこで組織の問題も内部組織については「現実的に機能できる組織であるべきであり,かつ,支部組織については協会員としてface to faceの関係が保てるような組織であるべきである」とし,「機能しやすい支部にするため、各県一支部を目標とすべきである」とした。    
また外部に関連した問題は「本協会のみの課題ではなく,他の協会との関連もあるので,会員の充分な討議を要する将来の課題である」とし,「将来MSWとPSWの協会が合流すべきという基本線が確認された。」同時に,選挙区割についても県単位で理事が選出される方法を示した。こうして,従来研究会を中心にしていた地区組織連絡委員会は支部ができしだい廃止すべきであると決めた。
常任理事会では昭和49年あり方委員会で示された方向にそって組織強化のために組織担当理事2名を決定し,地区理事と協議しながらその実態に見合った現実的な支部組織化をはかることになった。しかし,担当理事の報告では,県単位支部組織化については種々の問題があり慎重を要するとし、                  
1)理事会先導型でこれを進めることは従来と同じ型になること
2)医療社会事業協会との関連について,どのように対処するか
3)県によっては会員の層が薄く,事務局等の体制について弱体であることなどが指摘された。
したがってこの段階に拾いては,県支部結成の用意のある県との連絡をとるにとどめ,強力に県別に働きかけることはひかえた。この中で県単位支部結成の用意があるとして進めていったのが新潟・静岡であり、それぞれ、50年2月と5月に結成をみている。
そして,県単位の支部組織化をめぐって出現した諸問題,とりわけ医療社会事業協会との関連をめぐる諸問題に対処するため,協会は組織検討委員会を設置することになる。
そこでは主要に,「医療におけるソーシャルワーカーの統合化のための理念と原則を確立すること」が求められた。同委員会では組織の検討をすすめるにあたって、県単位の支部結成について各県の会員はどのような受け取り方をしているか,また地域における問題(社会復帰活動や人権問題などの運動)に対してどのような取り組みがなされているのかということを調査した。
その結果,全国的にみわたせば,県単位の支部結成への目標達成は困難をきわめることが明らかになった。そしてこの調査を通じて遂に組織の実態が明らかになったのである。
 各県の状況は
 1)会員の数が少なく、組織化できない。
 2)支部組織化で運動を指向する意識がうすい。
 3)運動の必要は認めるが,PSWの立場が弱いので動けない。
 4)そのため,まず資格制度等,身分保障を優先して検討してもらいたい。
 5)M協会と一諾の活動を行なっているので、分断のような形になるのでこのましくない。
等の意見が出された。しかし一方では人権問題や社会復帰活動など県単位で会員の意見を集約したり,組織的な動きを要請される県もでてきている。今後,これからの動向から支部であれ,支部という形でないにしろ、県単位において,PSWの組織化がこれらの対応にとって必要欠くことのできないものになりつつある。
そこで,まず協会組織への課題を整理し,その取り組みを検討することが急務である。以下要点のみあげると
 1)いまだ理事会先導型を脱しきれていない協会組織の問題性
 2)県単位の組織化への具体的援助    `
 3)各県における種々の活動や運動の情報交換の活発化   
 4)当面,MSW協会との統合化を検討する共通の課題について取り組めるものは共通の運動として進めること
 5)他団体との関係においても必要によって検討すること
 6)他職種との関係においても,自らの専門的領域を持ちつつ関連して取り組めることへの検討 
7)県単位の組織でそれぞれの問題に対応出来る組織化を中心にし、理事会および理事の役割を再検討することなどである。
以上のことから,現在の協会組織実態を検討した結果は,すぐに統合化のための理念と原則の確立をみちびき出しえなかった。まず支部あるいは県単位の地区活動を支援することに具体的に取り組み,今後の協会活動の中に各地区の問題をもりこんでいくことが組織としての責任ある態度であり,さまざまな問題に対応しえる態度を明確にしないで統合化はあり得ない。統合化の理念と原則については,これら課題解決をしつつ,重要な課題であるので会員の意見を集約しつつとりくんでいくことが必要である。


*作成:桐原 尚之
UP:20120905
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