HOME > 全文掲載 >

北全病院告発の闘いから

新村 悟(札幌の精神医療を明るくする会) 1975/01/29  『精神医療』第2次4-2(16):25-31


◇新村 悟(札幌の精神医療を明るくする会) 1975/01/29 「北全病院告発の闘いから」,『精神医療』第2次4-2(16):25-31(特集:裁判闘争・行政闘争)

 *全文
 開院間もない新興精神病院で、2名の患者にロボトミーがなされたというショッキングなニュースが流れてから、1年余が経過し、ロボトミーされたAさんらの提訴した損害賠償請求は、去る11月1日に第5回口頭弁論をおえるに至っている。私達は、この問題のきっかけをもたらした脱走患者の1人であるKさんらと共に、昨年7月〈札幌の精神医療を明るくする会〉を結成、以来、〈北全病院告発〉の闘いを主要な軸として活動を行なってきている。今回は、とりわけ私達の会の活動のテーマを明らかにしながら、いわゆる〈告発運動〉の延長として、一体何が問われているのかを考えてみたいと思う。

 Kさんの脱走事件が報道された昨年6月の段階で、日本精神神経学会・病院問題調査委員の3氏が詳細な調査を行なった*1が、その結果、道衛生部は精神衛生法第37条に基づく北全病院への立入り審査を行ない、30名に及ぶ退院命令と、医療内容に関する指導として「…診療内容については、診療録の記載不備のため総体的なものは了知できなかったが、全般的に標準薬効として許可されていない病名に対し薬剤を使用しているほか、同種または、類似薬を重複して使用しているので、各種薬剤の通常使用量並びに適応範囲を考慮のうえ診療されたい。」「…この病院発足にあたって病棟及び管理棟の建築に1億6000万円の融資を受けたほか…これら借財の償還及び人件費、薬剤費等は、月額概ね1300万円程度と予測される。これに対する収入は、老齢患者が多いことから、月1人平均10万円程度が見込まれるところであり、定床数146であるから月額1460万円程度であり、今後特に大きな変化がない限り一応安定した運営が続けられるものと思料される。」*2という具合に、極めて了寧な指導を行なった。
 一方、日本精神病院協会も、これを受けた格好で、協会誌に会長名による声明文を提出し、「…北精協の報告後早急に何等かの処分をすべきであるとありますし、社会的のタイミングもありますので、とりあえず…『退会勧告』いたしたい…」と内部通達を出すに至った。〈これほどの悪者とは一緒にやっていけない〉というポーズを明らかにしたのである。さらに、その直後、道衛生部長は、各病院長宛に「精神病院の適正管理について」と題する達示を出している。しかしながら、私達は北全病院糾弾のスローガンを掲げつつも、北全病院をただ、ただ悪者にすることに終止し、他病院との関係、あるいは地域周辺における〈アル中問題〉の根深い側面さらに従前の行政面における〈医療施策〉の矛盾等々を同時に追及しきれないままであった。もちろん、そうした闘いの方向には、極めて不満足な印象を持ちつつも、ともかく私達の活動の対象をどこに限定していくかということで、闘いの不充分さを克服していくことに傾注したのである。すなわち、この段階で〈告発〉の意図は、既存の医療の場には反映されず、結果として当事者間の〈喧嘩〉にとどまらざるをえなかったということであろう。
 他病院においてさえ、当然問題としてあった<0025<中毒性精神障害、退行性精神障害の患者の処遇にしても、北全病院の場合には、ロボトミーとして突出しているかの印象を持ちつづけ、従来より、設立間もない病院にはありがちといわれてきた〈薬づけ〉、〈定員オーバー〉等々という問題も、根こそぎ消えていくという結果を招き、北全病院を切り捨てようとする医療者らの姿勢に抗しきれなかったわけである。これは、私達がもつ非力さのみならず、それまで有していた〈ロボトミー〉に始まる〈保安処分体制〉への批判に裏打ちされた〈告発運動〉の限界であったと思うのである。つまり、これを担う私達の〈精神医療というテーマ〉に対する矛盾の把握の内容に、そもそもの限界があったと考えられるわけである。

 これをさらにわかりやすく説明するために、22年前にロボトミーされたHさんの例を紹介したいと思う。彼は、昭和27年8月、札幌市中江病院(現在、道内で病院規模は1位である)でロボトミーをされ、以後、手術に対し疑問を持ちつづけ、執刀医を始めとして道衛生部、法律事務所等々へかけあったが、甲斐なく、昨年になって北全病院問題が報ぜられるようになって、私達と出会うことができ、ようやく自らの主張を闘いの中に合流させるに至ったものである。

 表1

S23.12. 前頭葉切載療法の治癒成績と手術減動期に対する2.3の実験 中川秀三 精神神経誌 No.50-3
24. 3. 精神外科の現況 中川秀三 臨床外科 4-3
  5. 前頭葉白質切開法の血糖代謝機能に及ぼす影響 佐藤玄一 医学と生物学 No.14-5
  10. 極めて簡易な精神病の手術療法(1) 太田清之 日本医事新報 No.1331
  11. 眼窩経由脳切開術 中川秀三 手術 3-11
  12. 進行麻痺と Lobotomy 太田清之 北海道精神神経学会報 No.1-5
   精神外科余談 中川秀三 北海道精神神経学会報 No.1-7
    前運動領遊離手術と痙攣閾 中川秀三 和田淳 北海道精神神経学会報 No.1-4
    精神分裂病に対するビタミンB1の頸動脈竝に脳室内注射療法の検討 中川秀三 他 北海道医学雑誌 24-12
25. 3. Horizontal Lobotomy 及び Transorbital Lobotomy の経験 中川秀三 精神神経誌 No.51-5
    Lobotomy Electric Shock Amytal Soda の血糖調節に及ぼす影響 佐藤玄一 精神神経誌 No.51-5
   4. Lobotomy の胃液に及ぼす影響 島岡 明 総合医学 7-7
   8. 分裂病の病的機転に対するロボトミーの効果 吉川万雄
  10. 精神外科は何故効くか 中川秀三 日本医事新報 No.1382
27. 5. 前々頭葉白質切載術後にみられる痙攣発作の臨床的観察 千葉寿良 市立札幌病院医誌 No.13-1
   9. ロボトミーの遠隔成績(183例中分裂病適応146例)小野豊利 他 市立札幌病院医誌 No.13-2
28. 3. 精神病質者に対する精神外科的経験(前篇) 妹歯量平 他 市立札幌病院医誌 No.13-3
29. 3.      〃          (後篇)   〃       〃
 No.14-3
      (15例中9例は中江病院において行なわれている)<0026<

彼は「自分は人に乱暴したとか、悪いことをしたという憶えが全くないし、なぜ手術されたのかわからない」ということを根拠として、「元に戻らない手術を何の理由も告げずにやった」ことに対する怒りを放ち、二十余年の失意の心境を訴えている。〈北全病院で行なわれた2名のロボトミー〉を批判する内容でもって、このHさんの例をも批判しうるであろうか。あるいは慢然と〈ロボトミーは不可逆的侵襲であるからやるべきでない〉といって、批判は完璧であろうか。
 私たちは、その答を出す前に一つの経過を説明せざるを得ない。それは〈北海道における精神外科研究の流れ〉である。すでに本誌においても第3巻4号に特集が組まれているが、ここに現実的課題としてある、北全・市立病院ロボトミー、並びに中江ロボトミーの関連を明らかにする意味で、一連の研究論文をみる必要がある。〈表1〉により推察せられることは、Hさんのロボトミーの行なわれた医療状況においては〈精神外科〉は代表的な〈治療手段〉として確立せられるべく、努力が払われていたということである。
 Hさんの診断名が精神分裂病であったことからしても、手続上の問題は別として、〈一般的〉で、しかも当時の医学界では常識的な手段であったことがうかがわれるであろう。逆に、そうした流れが市立病院精神科・脳外科に脈打っている証しとして竹田ロボトミーがあったと考える方が妥当であろう。
 竹田保は、学会の場でも「頼まれただけ」と答えているが、ともかく〈頼まれればロボトミーは行なう〉といっているに過ぎなく、単に迂闊に引きうけたなどというものではない。答弁書で彼は、ロボトミーに対して「現実に病気によって歪められ、あるいは生来の性格異常のために社会生活に背を向け、そのため自ら悩みまたは他人に迷惑を及ぼすといった悲惨な状態にある人たちがおり、かつその人たちの中には、薬物やショック療法では治療効果が期待できない人たちのいることも否定できない。その場合の治療法としては、精神外科療法以外にないということも十分に考えられる。」という絶対的評価を与えるが、これこそ、まさに市立病院に在職して以来手がけた論文にもあらわれている彼の〈医療観〉そのものである。
 彼の個人的背景としてある旭川医大脳外科教授への道と、さらにそれを実体として支えうる〈医療観〉が、実は私たちの危機意識〈ロボトミー〜保安処分〉を超えるほどの勢いで、横たわっていたといえるのである。要するに、ここにおいて明らかなことは、私達のロボトミー批判なるものが、その技術論的批判としてのみ終止しておれば、決して〈現在の〉あるいは〈過去の〉ロボトミーをも批判し尽したとはいえないということである。北全病院での〈悪徳医療の結果として〉なされたロボトミーと、中江病院で〈常識的に〉なされたロボトミーとを比較する中で、私たちは再度〈ロボトミーを批判することの意味〉を問い返す作業を余儀なくされたのである。

 言いかえれば、ロボトミーという手段は、いかなる背景のもとに考え出されたのかを問うことになるであろうか。ロボトミーは、他の治療行為と不断にわかち難い存在としてあるにも拘らず、問われつづけてきた結果としてあったのは、〈技術〉そのものに対する切り貼り的批判であったのではないかということである。北海道の精神医療は、この二十余年の間に、一体何が変ったのであろうか。〈ロボトミーの数が減った〉と答えるより、他に表現しうるものがあるのであろうか。
 「今時ロボトミーをやるなんて」とは、ある札幌の開業医の感想である。つまり、これは「ロボトミーをしたくなっても、やったらまずい、他にもっといい方法がある」ということの裏返しだとすれば、〈もっといい方法〉の内容を検討しなければ、私たちの批判は、恐らく二度とはやらないであろう比田勝・竹田らのため<0027<の批判に終止してしまうものである。薬物療法・作業療法と次つぎに点数化が進んでいく中で、病院中心の医療の場において合理化が拡大しているわけであるが、その医療の質の中で問われるべきものは、まさしく〈ロボトミー的発想〉そのものの存在の如何ではないだろうか。すなわち〈管理・抑圧的発想〉の存在をである。

 法務省刑事局の編集*3による最近の精神医療の動向に対する評価を参考としてみると、次のようである。
 「精神病院における治療は、最近では次第に開放的処遇に向かってきていますが、このようなオープン・ドア・システムでは、医療的な効果は期待できるとしても、危険な犯罪性精神障害者が脱院して再犯をする可能性はどうしても高くなります。しかしそれだからといって、措置入院における開放的処遇を後退させることになると、一般の患者の治療的効果を妨げるおそれも生じます。また都道府県知事の行政的処分によって、保安上の要請をも考慮した入院措置を長期間継続することには、人権保障の観点からの問題も起こってきます。」開放という雰囲気づくりを〈精神医療の進歩〉としつつ、刑事法的規制としての治安確保の必要条件をより一層明確な形で表わそうという狙いが、ここに窺われるのではないだろうか。
 そもそも、一貫したイデオロギーとは無関係に成立してきた商品経済の発達は、必然的帰結としてインフレを引きおこし、さまざまな矛盾を抱えつつも、常に内包化していく力を有しているが、一方でより徹底した合理化が追求されている。これに伴い〈社会管理〉という政策的意図は、いわばより確実な形で実現されねばならないという必要性をも導きだしているといえよう。
 現在的段階は、法務省が簡潔に述べているごとく、すなわち「刑法の最も大きな任務は、国民の一人一人が他人の不法な言動によって生命や身体や財産にいわれのない危害を加えられることなく、安全で平和な生活を送れるようにする点にある」。この建前の裏側には、〈合理化〉への一連の技術的施策に基づく〈分類・分化〉作業がさまざまな形でもって推し進められていると言わざるを得ない。
 精神病院においては精障者を、〈迷惑をかけるから〉という形で収容していく社会的任務を負荷し、北全病院のような大衆的批判の浴びせられた悪徳病院は、前述のように行政的手直しを施された形で体裁よく、〈医療の民主化〉ヘ向けた再編過程の中に組み込まれているという具合にである。このような〈福祉的方策〉により穴埋めされていく〈国民総管理体制〉への一環として〈精神医療〉は位置づけられ、〈医療〉と称する〈管理〉が、着々と進行しているのである。ここに至って、精神医学が担いうるものとして、充分なる〈技術的解明〉を誇示するとなれば、問題は雰囲気のよくないロボトミーにとどまらず、私達自身が、意識的にかかえ込んでいた〈医療〉への把え返しの作業をすすめていかざるを得ないのである。よしんば〈人

 表2
   分裂病% 中毒性% 老人性% 中毒性+老人性%

A  31.4   27.5   23.5   51.0
B  67.2    3.9    0.8    4.7
C  36.6   25.6   23.8   49.8
D  45.3   25.8    2.3   28.1
E  38.4   25.9   10.7   36.6
F  30.6   36.1    2.8   38.9
G  34.0   15.1   14.2   29.3
H   8.8    6.9   52.0   58.3
I  37.0   13.8   14.5   28.3
J   2.8   48.9    0.0   48.9

 計 32.8   24.1   11.9   36.0

全道 52.6    9.6    7.3   15.9

 札幌市にS45年以降新設された新興精神病院入院
者の疾病別分類〜一つの例外を除いて、ことごとく
中毒性あるいは老人性精神障害の割合が高いことが
わかる。<0028<

間が人間をいかに管理するか〉という命題のもとに、その技術が問われているわけであるとしても、私たちは既成の医療総体に対する認識を点検し、〈管理〉とは異質の〈治療〉あるいは相互の〈関係〉を求めていくことが問われていると考えるのである。

 管理社会の一員として〈支援者〉が〈患者家族〉と共に行動しながら、同時に〈より積極的な形でもって管理していた〉とすれば、ここにおいて告発運動を担う各自の関わりが問われなくてはならないだろう。すなわち実体として〈管理していく〉ことに目的を有する〈医療〉に、実際はアカデミックな形容詞を持ち合わせた、雰囲気の豊かな新しい技術が確立されていく過程の中に、私たちまでもが、日夜協力していたとすれば、これは、果して運動というに価するかどうか疑わしいのではあるまいか。〈新しい医療を〉と私たちが志向する限りにおいて、こうした本質的把握を徹底しない以上、行動実践の内容は、もはや、いずれに還元するものでもなく、結論が先走りする傾向に陥り易いと誰しも想像するに難くないであろう。
 私たちのこの1年有余の過程の中にあっては、常に患者家族との関わりが主要な課題として設定されてきたが、例えば、〈アル中患者と私たち〉との間には、〈つきあい〉と呼べるほど、本音をいって楽なものではなく、逆に私たち自身が〈つきあいきれない〉と思い込むようになればなるほど、事は簡単で結果的に楽であることになるわけである。私たち自身が、そう感じる以前に、比田勝考昭は恐らく〈楽になる〉関係を望んでいたに違いない。彼の場合は貧困な〈技術量〉をまざまざと露呈して、〈精神病質と慢性酒精中毒〉の印を使いわけるに終止したのだが。〈もっといい方法を〉とうそぶく〈技術屋〉は、市内には、いくらでもあるようである。(表2)
 おおよそ〈アル中治療〉と称するものが、大学精神医学にもられる教科書の技術・知識では、全く役立たないことを私達は体験していくわけだが、ここにおいて、私達の〈ロボトミー批判〉の不充分性と〈管理的医療への批判〉とが一体化していく運動が求められていると理解したのは、実はほぼ1年を経てからである。

 アル中患者〜既存の精神病院であれば、入退院をくり返すか、2、3年は投薬のくり返しにあうと思われる〈症状〉を呈する人たちとの関係*4についてであるが、一口に言って、私たちは彼等へ病院を頼ることをあきらめさせようと働きかけてきたつもりである。関西で活躍中の告発運動の旗手たる某先生が、「アル中は警察にまかす他はない」といっていたけれども、私達はそうした〈結果〉を問題にすることを敢えて避けてきた。私たちが、それほど力があるとは思っていなかったのも事実であるが、それより表2で示したように矢継ぎ早に急ピッチで札幌郊外へ建てられている新興精神病院にも〈収容〉しきれない患者がいるという事実が横たわっていたからである。
 患者らが酒を飲むという生活と、私達の一人一人が、医師として、学生として、あるいは他の職業を有している者としての生活とが、交錯していく中で、ともかくそれ以前に持っていた〈アル中観・医療観〉が例外なく崩れ、何かとってかわるものを求めざるを得ないのである。〈比国勝・竹田・中江はロボトミーをやったから悪い〉といっていた一人一人が果して、比田勝的医療観を持たないと言い得る自信を少しでも有していくには、未だ結論が出ない状況ではある。しかし〈精障者〉へのイメージばかりでなく、〈何らかの欠点を有した人間〜もちろん自分も含めて〉への働きかけといったような、より広い対人関係の質がいやがうえにも要求され、論議を呼んでいることは確かである。〈医療〉を考えるにあたり、〈医療スタッフ〉という肩書でもって考えていくという、慣らされた思考でもっては、なんら〈新しいもの〉は獲得されないということが、わかりかけてきたとい<0029<えるであろうか。
 とりわけKさんに対しては、福祉事務所のケースワーカーを中心とした病院収容の策動が、間断なく続けられる中で、いくどか緊張関係をくり返し、証人として法廷に立つことの予定されていた彼を、最後には「もし法廷に出れば生活保護を打ち切る」といった恫喝さえ飛び出す有様であった。
 一方で〈告発運動〉をやっているからといいながら〈目立つこと〉に主力を注ぐ、非常に粗野な考えが右往左往することも確かであり、〈差別・偏見をなくする〉と語りつつも〈アル中〉との生活を通して苦い経験を経ていく中で、そうした考えそのものが問い返されていくのである。従前の〈病院〉でしか考えられぬ医療の姿を打破し(保安処分制度は、その医療の変貌を予見したものとして正に設定されている)、実践の場で、いかに表現していくかというテーマで追求していくことに新しい意味を見出すに至ったのである。
 逆に〈つきあい〉において最も苦しむ家族に対し、自分らの考えを理解してもらうことがテーマとしてあるということであろう。その成果とはといっても、これはなかなかことばで表現しがたいものであるが、いえることは、考えるよりも他に対して〈アル中〉であることを理解し、わからせることの難しさがわかってきたといえるまでである。この同質の問題は、実はロボトミーされて間もないAさんとの関わりにも存在し、月1回の外泊につきそいつつ、既存の病院にもほとんど入院しているロボトミー患者に対する看護というテーマがわれわれにも設定されている。
 広瀬貞雄も論文中で語っているように、ロボトミー後の人格像は、後療法というべき内容を明らかにできるほど一様でないようである。現在のところ、一家が共同生活を営める方向で、働きかけていく取り組みが成され、奥さんと共に、外泊の意味を考えていくことが行なわれている。ここにおいて前述した一体化される基盤といったものが、明らかにされつつあるわけである。

 ロボトミー訴訟は、現在まで5回の口頭弁論がおわっているが、若干、経緯に触れておくと、原告・被告の他に出廷が予定されているのは、被告側から、病院職員、福祉事務所吏員、北大精神科諏訪教授、脳外科都留教授、札医大精神科中川名誉教授、原告側から、学会病院問題調査委のメンバー、入院先の病院長、青木薫久氏らである。すでに原告側よりAさんの奥さん、姉さん、元患者Kさんが証言し、Aさんの入院の背景、病院内の劣悪な内容が再現されている。提出された書面等は「北全病院糾弾」のパンフ、並びに訴訟ニュース「ロボトミー」に詳しいので参照されたい。
 法廷という土壌で代理人らが論じあい、裁判官が決断をするのが裁判というものであり、私たちは先ほどまで述べてきた〈告発運動の基調〉としてあるものと、この〈裁判闘争〉とは、異なった質がすでに存在していたことを認めざるを得ない。当事者間の利益・不利益を審査するにあたり、不必要とみなされるものは、それを弁明するまでもなく、法廷の外へと押し戻されてしまうのが、民事訴訟の有する性格の一つといえよう。しかし逆に判決を導く判断材料の中に、どれだけ関連づけを明確にしえたかが問われているとも言えよう。それほど法廷へ向けた準備は、周到でなければならないといえるわけだが、ここで明らかにされることの限界を見究めた上で代理人、原告、そして私たちの担互の役割、テーマを問うこと、原則ともいうべきものが、踏まえられていくのである。
 私たちの主張が「ロボトミーは実は、精神医療の根底的矛盾の露見された形で把握されねばならない」ものとしてあるが、これを当事者間の利害を越えたところで論じることなく、むしろ利害そのものを規定してある因子として存在していることに展開の起点を据えておく必要があるだろう。これまでの他の医療訴訟・公害訴<0030<訟にせよ、当事者間で和解成立か補償金支払いという、支援者にとっての答がえられぬままで法廷闘争の結末をかかえている現状を受けとめ、根拠のない期待をかかえ込まないようにすることは、すなわち次のような弁護士からのアドバイスにも基いている。〈法廷と法廷との間で一体何が得られたのか〉が闘いのメルクマールではないかという示唆である。行政的手直しと同じ質でもって、裁量がなされていく、いい換えれば、司法的手直しそのものとして訴訟評価しつつ、口頭弁論を準備していくということであると、私たちは解釈している。
 ブルース・エニス*5による、いわば弁護士にとっての〈代理人とは何か〉の解明は、その意味で格好の参考たりえているが、この際私たちにとって訴訟を手助けすることの意味を限局してみれば、より一層弁護団が弁護士活動に左右されえない独自の動きをも可能にするのではなかろうかと考えるわけである。つまり私たちの活動の目標が、勝訴=司法的手直しと同質のものにとどまることでないものであるとして、弁護士らとの不断の討論が要求されていると感じてきている。〈医療〉をテーマとした〈訴訟〉が一体どこまで問題を明らかにし、〈金〉でしか〈解決〉を説明し得ないそもそもの限界を相互に認識していく作業が問われていると思うし、いずれにしても主たる実践の場に依らずして、〈裁判闘争〉に対する評価を成立しえないとは、私たちの一年有余の経験的結論である。
   参考文献
*1:精神神経誌74年1月
*2:ロボトミー No.3、掲載
*3:刑法改正をどう考えるか、法務省刑事局編
*4:病院精神医学、第38集
*5:精神医学の囚われ人(ブルース・エニス著)
・「北全病院糾弾」パンフ 送料共570円
・ロボトミー訴訟ニュース「ロボトミー」隔月刊、(創刊号、第2号残部僅少)

 〒065 011-711-1161(内5860)年間6号分送料共500円
 〜札幌市北区北14条西5丁目北大病院内青医連ルーム気付、
 札幌の精神医療を明るくする会内
  Aさんロボトミー訴訟弁護団事務局(振替口座No.小樽22340)<0031<

■紹介・言及

◆立岩 真也 2013/12/10 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社,433p. ISBN-10: 4791767446 ISBN-13: 978-4791767441 2800+ [amazon][kinokuniya] ※ m. [91]


UP:20111009 REV:
北全病院ロボトミー訴訟  ◇『精神医療』  ◇精神障害/精神医療 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)