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「精神病院問題を考える市民運動の会」発足する

樋田 精一 19710310 『精神医療』第1次5:15-17


 ※その社会的・歴史的意義に鑑み、以下、全文を収録させていただいています。

◆樋口 精一 19710310 「「精神病院問題を考える市民運動の会」発足する」,『精神医療』第1次5:15-17

 精神病院問題を考える市民運動の会が、2月5日、渋谷の青学会館において集会をもって発足した。この集会には、烏山病院斗争委員会をはじめ、身体障害者の「青い芝の会」の人々、精神障害者、その家族、学生、労働者、一般市民、精神科看護者、臨床心理士、ソシアルワーカー、精神科医、など、広汎層から66名が参加した。この集会の主題は、「烏山病院斗争委員会からの報告と討論」であり、少ない時間の中で不充分ではあったが、畿つかの重要な問題提起がなされ、当面、烏山病院斗争委員会を支援しつつ、独自の精神病院問題を考える市民運動を展開していくこととなった。以下、この会についての報告と問題提起をあわせておこなう。
 烏山病院斗争は、昨年来の松島医師解雇処分により新しい局面をむかえている。この斗争の経緯については、烏山病院斗争委員会の労作、パンフ「治療管理社会」No.1〜No.3までに、症例報告も含めて出ているので是非、読んで頂きたい。ただ、2月5日の集会で参加した患者と家族から提起されていた問題についでだけ、それが我々、医師連合に対しても提起されている重要な問題であると考えるので、ふれておきたい。但し、私が主観的に受とめた問題であることを断っておきたい。
 ある患者の発言「烏山斗争委員会は患者がよくなったというが、患者がどうなったのか。今、どうしているのか。証拠を見せて下さい」――この発言には、次の問題が含まれている。
 患者がよくなるとはどういうことなのか。
 患者はこれからどうなるのか。
 この集会に烏山病院斗争委員会側の患者がきていないが、それはどういうことなのか。つまり、精神病院における、医療従事者と患者との<0015<関係はどうあるべきか。患者をあくまでも守るべき対象とする運動、その姿勢自体の中に問題はないのか。
 ある家族の発言「松島先生が解雇された時に地位保全の仮処分申請の訴訟をおこさなかったのはどういうわけですか」――この発言とそれに続くやりとり、その背後にある問題は次のようなものと考えられた。
 烏山病院斗争委員会が、どこまで斗争を続ける決意をもっているのか。
 同斗争委員会が、力関係をはかりつつ現実的に有効な斗争を継続してきたか、これからはどうか。つまり、心情が先きに立ってこれに支配されているのではないか、状況の分析と方針の設定が正しくおこなわれるのか、という危惧。
 もし、斗争が永続しない場合、その病院に残された患者と家族はどうなるのか。
 斗争が医療従事者の個人ないしは集団のエゴイステックな欲求、心情の満足のためにおこなわれてはいないか。
 この他にも、身体障害者からも重要な問題提起がなされていたが、それは、別にその機会がぜひ与えられるべきであると思う。
 ともかく、我々、精神科医師連合は、そしてそのメンバーである一人々々は、これらの問題提起に、理論的にも実践的にも充分にこたえていかないことには、やがてはその欺瞞性云々と告発されるようなことになっても仕方ないことである、と感じた。
 さて、精神病院問題を考える市民運動の会は、昨年12月12日、烏山病院で同病院斗争委員会の召集でもたれた集会に端を発する。この日、約40名の人々が集まったが、そのメンバーは、患者・家族をはじめ、沖縄青斗委員会のメンバーまで含め、全く多彩な顔ぶれであった。この日の討論で、精神病院問題や精神医療の問題を医療従事者だけにまかせておくことはできないということから、今後、精神病院問題を深く根底から考え行動していく運動を展開していくことが確認され、世話人会が組織されたのである。この世話人会を中心とする会合、討論(時に、30名に達する討論集会となることもあった)のつみ重ねの上に、会の運動の方向性が確認され、2月5日の青学会館での集会となったものである。会の運動の方向性については呼びかけのパンフレットにまとめられている。全文、ここに転載したいところであるが紙面が許さないので、会の行動に参加したいと考える方は求めて読んで頂きたい。基本的には精神科医師連合がこれまで確認し追求してきた思想と同じ方向性を持つものであると私は考える。
 それは、精神病院問題を、「抑圧と収奪」「管理支配体制」の問題としてとらえ(「差別と偏見」の問題というよりは)、あらゆる斗かう部分の連帯、共斗を目指するものである。
 ここで、二、三、会のため、はっきりさせておきたい点について述べておく。
 まず、あらゆる部分の連帯、共斗であるがそこでは、各部分、一人々々が、それぞれの場所で最後まで斗かい抜くということが前提になっ<0016<ていることは言うまでもない。一人々々が日常的に内面的にも、周囲に対しても斗かい続けること、医療従事者にあっては日常的な医療の営みが、同時に斗争であり、自らを鍛え向上させていく研鑽の営みでもあること、が要請されているのである。斗争は、その時により場所により、情況に応じて様々な形態があることは勿論であるが。
 それから、呼びかけパンフに、市民の精神衛生相談所の構想が出ているが、これについては次のように考えている。
 市民運動の会発足を報ずる小さな記事が、新聞に出て以来、各地から、支持・激励、連帯の使りが続々と寄せられている(1ヶ月足らずの間に100を越しそうである)。その中の約半数近くが1患者、家族からのものであり、その殆どが、それぞれが直面している情況(病気について、あるいは病院、医師等の問題)に関する相談を含んでいる。これは、当初予想した通り、どこに問題を持っていってよいか分らないで孤立している患者、家族が非常に多いことを物語るものである。こうした情況に応ずるものとして精神衛生相談所が考えられているのである。そこでは、個々の問題がバラバラでは決して解決を得られぬことをふまえた上で、バラバラな人々の力の結集をはかることが当然、目標になってくる。この相談の活動は医師のみがあたるものではなく他職種の者、時に、家族、患者もあたり、この活動の全体が新たな家族会運動のようなもの(家族以外も入るという点で)として考えられている。この中で、医師の提供し得る力のうちの注射投薬などの狭義の医療行為は、当面、それぞれが勤務するところでおこなうものとする。この活動の過程を通じて、医療従事者と患者・家接の、病院と市民社会の連帯組織の形成をはかる。この活動の蓄積の上に、市民運動の会の診療所ができることも考えられている。
 市民運動の会は、その後、昭和大学理事会に対する要望書、公開質問状の提出、昭和大学へのビラいれなど、をおこないつつ、同志の結集を呼びかけている段階にある。機関紙発行、市民の精神衛生相談所発足、やる気のある者なら誰でも参加できる勉強会の発足、などの準備に取組んでいる。
 精神医療の情勢はますます厳しく、精神科医師連合をはじめ、あらゆる斗争が、今後の経過の中でその質を問われていくであろう。わが国一般の情勢と共に、精神医療の情勢もいま、大きな転機をむかえようとしているのである。
 この時にあたり、本誌の読者の一人でも多くの方がこの運動に積極的に参加されることを期待する。
 精神病院問題を考える市民運動の会(世話人)
千葉県習志野市津田沼4の1223
         石 川 晋 吾
茨城県古河市旭町2066 小柳病院内
         渭 原 武 司
東京都府中市南7-25
         佐 藤 綾 子
東京都武蔵野市吉祥寺南町1-21-7
         樋 田 精 一
東京都港区白金台5-4-22 斉藤方
         山 本 健 一
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UP:20110814 REV:
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