98/02/16 第6回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録      第6回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 1.日 時:平成10年2月16日 (月) 14:00〜16:00 2.場 所:全社協第4・5会議室(新霞が関ビル5階) 3.議  事:生殖医療に関する意見聴取 4.出席委員:高久史麿部会長 (委員:五十音順:敬称略)     木村利人 柴田鐵治   (専門委員:五十音順:敬称略)         入村達郎 金城清子 廣井正彦 松田一郎 森岡恭彦 山崎修道 5.出席団体:社会福祉法人 全国重症心身障害児(者)を守る会        会長  北浦 雅子 副会長  秋山 勝喜 財団法人 全国精神障害者家族会連合会         地域事業部長  越智 哲夫   業務部長  田所 裕二 社会福祉法人 全日本手をつなぐ育成会         常務理事・人権擁護委員会委員長  松友 了  人権擁護委員会委員  名児耶 清吉        社団法人 日本筋ジストロフィー協会         理事長  河端 静子   事務局員  米園 弥生        日本ダウン症協会         理事長  玉井 邦夫   副理事長  石黒 敬子        日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会         事務局長  長谷川 良夫           神奈川青い芝の会 会長 横田 弘 ○事務局 それでは、定刻になりましたので、ただいまから第6回厚生科学審議会先端医療技術 評価部会を開催いたします。 本日は、寺田委員、曽野委員が御欠席でございます。 なお、交通事情等によりまして若干の委員の方がお遅れになっているようでございま す。今回は議事を公開で開催することといたしておりますので、よろしくお願いいたし ます。 まず初めに、マイクについて御説明いたします。皆様方の前にマイクを設置しており ますけれども、発言の前にボタンをお押しいただきますと係の方でスイッチのオン、オ フを行うことになっておりますので、御発言前にボタンをお押しいただきますようにお 願いいたします。 続きまして、配布資料の確認をさせていただきます。本日の配布資料でございますけ れども、資料1といたしまして「生殖医療に関する見解の概要」ということで、本日御 出席の各団体の皆様から御提出いただきました意見の概要を資料として提出いたしてお ります。 それから、委員の先生方のみにお配りしておりますが、資料2といたしまし て遺伝子治療臨床研究関係の資料が入っております。 それから、説明用の参考資料といたしまして本日御出席の「全日本手をつなぐ育成 会」並びに「日本筋ジストロフィー協会」から参考資料をいただいておりますので、そ れを併せて提出させていただいております。 それから今、更に手元に「日本筋ジストロフィー協会」から2種類のものを御提出い ただきましたものですから、それを配布させていただいております。 それからもう一点、参考資料といたしまして前回の部会でも御報告いたしましたとお り、障害者団体並びに女性団体の方から御意見を募集いたしております。これまでに寄 せられました15団体の御意見すべてを参考資料としてお手元に配布しているところでご ざいます。 なお、この団体からの御意見の提出につきまして、非常に短時間であったということ で、まだ十分意見もまとめられていないというような御意見も私ども頂戴いたしており ます。この点につきましては、一般の方々からの御意見と同様に、今後も意見の募集を 続けておりますので、また適当な時期に事務局の方で取りまとめをいたしまして、適宜 部会に報告させていただきたいというふうに考えております。 それから、最後に今後の日程等につきましての簡単な1枚の資料を用意してあります 以上でございます。もし資料等で欠けておりましたら事務局にお申出いただければと 思います。 それでは部会長、よろしくお願いいたします。 ○高久部会長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。本日は、生殖医療の問題につきまし て関係する団体、専門家の方々をお招きいたしまして御意見を伺うことになっておりま すのでよろしくお願いします。 早速お話をお伺いしたいと思いますが、まず本日の出席の方々の御紹介を事務局の方 からよろしくお願いします。 ○事務局 本日は、「全国重症心身障害児(者)を守る会」より、会長の北浦雅子さん、それか ら副会長の秋山勝喜さん。 続きまして、「全国精神障害者家族会連合会」より、地域事業部長の越智哲夫さん、 業務部長の田所裕二さん。 それから、「全日本手をつなぐ育成会」より、常務理事で人権擁護委員会委員長の松 友了さん、人権擁護委員会委員の名児耶清吉さん。 続きまして、「日本筋ジストロフィー協会」より、理事長の河端静子さん、事務局員 の米園弥生さん。 続きまして、「日本ダウン症協会」より、理事長の玉井邦夫さん、副理事長の石黒敬 子さん。  続きまして、「日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会」より、神奈川県青い芝の会会長 横田弘さん、事務局長の長谷川良夫さん。 以上の6団体の方々にお越しいただいております。 なお、皆様よりあらかじめ御意見の概要をいただいておりまして、先ほど御説明いた しましたとおり、お手元に資料としてお配りしております。誠に失礼でございますが、 時間の都合がございますので、各団体の方々それぞれ15分程度づつのお時間で御説明を よろしくお願いしたいと思います。以上でございます。 ○高久部会長 ありがとうございました。それではまず全国重症心身障害児(者)を守る会の方から 御説明をよろしくお願いします。 ○全国重症心身障害児(者)を守る会(秋山副会長) それでは、ただいま御紹介いただきました全国重症心身障害児(者)を守る会でござ います。よろしくどうぞお願いします。 本日は、このような意見を申し述べる機会を 与えていただきましたことを心から御礼申し上げます。私から初めに当会の見解につい て説明をさせていただきまして、引き続き会長の北浦から意見を申し述べさせていただ きます。 私どもの会は名称が示すとおり、心身に重い重複の障害を持った子どもたちの命を守 り、人間としての幸せを願って活動いたしております。極めて情緒的なことになるかも しれませんが、いつも命の重さを感じて活動に取り組んでいるところでございます。 私どもの会としましては、団体としての意見を取りまとめておりませんが、日ごろの 活動におきまして最も弱い者を一人も漏れなく守るというのが私たちの会の理念でござ います。 生殖医療につきましては、携る者の倫理感にかかっているというふうに思いますので 人の生命、尊厳を冒涜することがないように、倫理規範を整備するとともに、また卑し くも商業的に利用されることがあってはならないというふうに考えているところでござ います。 以上のことを踏まえまして、論点のうち次の2点について意見を述べさせていただき ます。 1つ目は出生前診断の意義、目的と適用範囲についてでございます。診断の目的が人 の生命、尊厳に影響を与えるものであるときは原則として認めるべきではない。また、 障害の発生予防ないし治療準備の目的で行う場合を許容範囲とすべきであるというふう に考えております。 2つ目は先天性異常、遺伝性疾患等々と診断された場合の対応についてでございます が、診断の結果によって出生が左右されるものであってはならないというふうに思いま す。それは、障害や疾患を理由として生命の価値、命の価値が決められるということに なるからでございます。 また、男女の性別検査が行われるようになりましたけれども、男女産み分けという人 為的調整に利用されることが多いということもございますし、これは自然の摂理に反す るものと考えます。それと同時に、その結果は生命の抹殺を伴う場合がありますので、 問題視せざるを得ないというふうに考えておるところでございます。 この後、引き続き北浦会長から申し述べさせていただきます。 ○全国重症心身障害児(者)を守る会(北浦会長) 北浦でございます。私の主人も科学者でございまして、科学とは人類の幸せと世界平 和のためにあるものだということを常に言っておりました。アインシュタインが1955年 にこの世を去りましたけれども、自分の研究によって原爆がつくられ、戦争に利用され たということを大変悲しんだと聞いております。科学の進歩とともに、それにかかわる 方々が思想も持たずに常に前進することのみに走るならば自然を冒涜し、人類の幸せに はつながらないんじゃないかと思う。このことを私はお話申し上げたいと思います。 殊に今回の生殖医療問題は、障害を持つ人々の人権が守られるために生命の倫理感を 確立することが最も重要と考えられます。人間は、こうじっとしておりましてもいかな る瞬間でも心臓は鼓動し、そして血液、分泌液は常に自然に流れていて、自分で操作し ようと思っても出来ないような自然のもので、人間の構造は非常に不思議で神秘的なも のだと思います。 そうしたものを人間のクローンとか、そういう言葉を聞きますときに、逆に科学の恐 ろしさに心を痛めている方が今いっぱいいらっしゃるように思います。それで、私は重 い障害の方々やその家族と三十年余接してまいりましたけれども、最近超重症児といっ て気管切開をして、人工呼吸が必要で、常に入退院を繰り返している非常に障害の重い 方がございますが、その方々を見ていますと、私たちでも心を痛めてしまいます。その 若いお母さん方が最近『「障害児」の親ってけっこうイイじゃん』という本をまとめま した。このグループは、重い子どもたちばかりを抱えているお母さんたちなのですけれ ども、この子どもたちってすごいよ、いろいろなことを教えてくれて、私たちを元気に してくれる大切な存在なのよということをごく自然に語り合っているんです。 このお母さん達は福岡に住んでいますので、博多どんたくにおみこしをつくってその 子たちを乗せて、周囲をお医者様、看護婦さんが囲みまして、高校生もバンドを組んで 音楽を奏で一緒に参加したりするんです。こんな障害の重い子どもでも私たちには大切 な存在なのよということを、こういう行事などに参加して知ってもらう。私などは非常 に心を打たれるんですが、なぜこのような心境になっていくのか。 実は私も重症児の親でございまして、次男が終戦後の翌年に生まれました。生後7か 月目に種痘接種をしましたところ、その後脳炎を起こして、右半身麻痺で言葉を失う重 症児になってしまったのです。 今年51歳になりますけれども、私は驚いたんですが、40歳になって自分で寝返りをう ったんですね。そのときのうれしさといったら、自分の体を自分で自由に動かせる喜び というのは大変なもので、彼も非常ににっこりと喜んでおりました。 そして、もっと驚いたことには2、3年前のことですが、うつ伏せになって左手に絵 筆を持って、殴り書きをするようになったのです。その絵にはすごい力があって訴える ものがあるものですから、私はそれを絵はがきにしたりテレホンカードにしてお世話に なった方々にお送りしたのですが、皆さん大変感動してくださいました。本人には何か を訴えようとか、そういう気持ちは全然ないんです。ただ無心で書いたものがかえって 人の心を動かしているのです。 この子どもたちには言葉がないのですけれども、人の愛を感じるとにっこり笑って笑 顔でお返しをする。その瞬間に相手の方は大抵涙をこぼされますね。それは何なんだろ うかと思いますし、小学校の生徒や中学校の生徒で登校拒否を起こしている子どもたち が障害のある子どもに接しますと心が癒されて元気になっていくんですね。 また、この子どもたちに接している職員からも本当に心が洗われるという言葉を最近 聞きますし、私自身も生きるとは何か、幸せとは何かということを常にこの子どもたち から語り掛け教えられているように思っております。  そうした子どもたちの姿を見て宮城県の浅野知事は、重い障害の人々を基点として社 会の意識改革をしようということを言ってくださいましたし、また柳田邦男先生が私た ちの会の30周年の記念講演をしてくださいまして、「20世紀は科学の時代であった。21 世紀には人間の時代と言いたい。それには弱者の問い掛けを大切にしましょう。」とい うことを言っていただいて非常にうれしかったのですけれども、この生殖医療によって 救われる方もあるかもしれませんが、逆に本質的な人間の尊さが失われることのないよ うに、また障害の方々への差別的発想につながることが決してあってはならないと思い ます。 妊娠中に検査したところ、胎児に障害があると言われて非常に悩んだお母様が心ある お医者様に相談しましたら、もしそういうことがあったら私たちがみんなでお守りしま しょうという言葉に励まされて出産なさったら健常児であったというお話も聞いたりい たします。障害があると、それはすべて不幸につながり、また社会に貢献出来ないとい うマイナスばかりのイメージでとらえてしまう社会の土壌、在り方というんでしょうか それを私どもは少しでも変えていきたいと日々運動を展開しております。 この点を踏まえて、生殖医療についても十分に御検討くださいますように心からお願 い申し上げます。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。 それでは、引き続きまして全国精神障害者家族会連合会からよろしく御説明をお願い いたします。 ○全国精神障害者家族会連合会(田所業務部長) 財団法人全国精神障害者家族会連合会の田所と申します。本会に対しまして、本日は このような意見発表の機会を賜りましてありがとうございます。 まず初めに、私の方から本法人の立場と、簡単な団体の概要と趣旨について御説明さ せていただきまして、意見の詳細につきましては引き続いて地域事業部長の越智の方か ら説明させていただきます。 本法人は精神障害者、特に精神分裂病者を中心とした精神病障害者及びその家族の福 祉の増進を目的として昭和40年に発足し、運動30周年を迎えています。全国に約1,367 の家族会を持ち、約14万人の会員で組織している全国組織でございます。平成6年に精 神保健福祉法に基づいて精神障害者社会復帰促進センターという指定を受けており、精 神障害の社会復帰に関する団体としては公益性の高い団体と自負をして活動しておりま す。 今回のテーマにつきまして、特に生殖技術をめぐる論点の中の出生前診断技術、その 中でも出生前診断の意義、目的と適用範囲、許容条件というところに関して意見をまと めさせていただきました。 お手元の方に大きく4点をまとめてお届けしてあると思います。  その1つ目は、出生前診断は障害を持つ人の生命の尊厳を守るためのものでなければ ならない。 2つ目に、その結果は第1に胎児治療、第2に出生後の子ども及び家族を含めた医療 や福祉的なケア体制のプランニングに用いるべきである。 3つ目に、出生前診断の適用範囲を論ずる前に、まず根本的な問題として障害や障害 者に対する正しい知識が共有されることが前提である。 4つ目に、特に精神疾患についてですが、精神疾患が遺伝する疾患であるかのように 間違った社会的認識を持たれていることが多く、そのことに苦しめられている家族の立 場から、障害者を隔離、排除する可能性を持つ法ですとか制度が成立することに対して は反対をする。 この背景として一昨年でしたか、優生保護法、現在の母体保護法ですけれども、この 改正の議論がなされましたときに、本会としては法文上に「不良な子孫」という言葉が あるということに、これらは明らかに法文に書かれるには不適当な言葉であって、優生 思想というのは病気や障害を持った人を排除するもので、私たちの要望としては障害者 への偏見をなくすためにも優生思想の部分を削ってほしい。また、その法文の中で精神 障害者が遺伝病であるかのような誤解を招く表現があるというようなことについて意見 を申し上げた経緯がありまして、今回のことに関しましてもこのような考え方が根本に あるということで、そのような視点でこの意見をまとめております。 あとは、細かいところを越智の方から説明させていただきます。 ○全国精神障害者家族会連合会(越智地域事業部長) よろしくお願いいたします。 今日入っている参考資料の9ページぐらいから、全国精神障害者家族会連合会の意見 の詳細について書いてあります。これに若干、私なりに加えまして読ませていただいて 御意見とさせていただければと思います。 まず、厚生省より提示がありました生殖技術をめぐる論点のうち、出生前診断技術に つきまして本会の意見を提出いたします。 なお、以下に記した意見内容は主として出生前診断技術の項目のうち出生前診断の意 義、目的と適用範囲に関するものであります。 まず第1に出生前診断の意義と目的についてですが、出生前診断の検査自体の目的は 言うまでもなく出生前に胎児の健康状態を診断することにあります。問題はその診断結 果がどのように利用されるか、あるいはいかなる意味を帯びやすいかという点にありま す。出生前診断により胎児に特定の疾患の存在が予測された場合、その結果は第1に胎 児治療に、第2に出生した後の子どもあるいは家族を含めた医療、福祉ケア体制のプラ ンニングに用いられるべきであります。そのほか、胎児、母体の状態等を考慮すること により、適切な分娩方法を選択するために用いられるべきであります。 言い換えれば、出生前診断は障害を持つ者の生命の尊厳を守るためのものでなければ なりません。私たち精神障害者の家族は、精神疾患の発症が遺伝によるものであるかの ような間違った社会的認識に苦しめられてきたという歴史的な状況の中で、精神障害者 に関する正しい知識の普及と、普通に暮らせる社会づくりのための福祉施策の充実を求 めております。 厚生省におかれましても、近年障害者基本法の成立、そして障害者プランの策定によ り、障害者の社会参加、社会復帰の推進に御尽力されております。これらはノーマライ ゼーションの理念こそがその施策の大前提にあるものであり、障害を持つ者、持たない 者が分け隔てなく社会の成員として共に生きることが目指すべき社会の真の姿であるこ とを意味するものであります。 その施策の推進状況につきましては質、そして量の問題など、課題として残している 点は決して少なくありませんが、障害者を隔離、排除する旧来の施策の方向性に明確な 終止符を打ったという点において、大いに評価されるべき前進であったと考えています しかし、出生前診断を障害を持つ胎児を発見し、中絶するための手段としてしまうこ とは、障害を持つ者の生すら認めないというまさに根源的な排除でしかなく、近年厚生 省が御尽力されている障害者の社会復帰、社会参加を求める施策の推進を後退させるこ とでしかなく、当会の運動の蓄積を根幹から揺るがす方向へと向かうことを予期させる ものであります。 近ごろ新聞紙上や、あるいはテレビなどで出生前診断に関する報道が頻繁に行われて おります。その内容は、羊水検査、胎児採血法、絨毛検査、そして検査手法の簡略さか ら最近、特に広がりつつある母体血清マーカー検査等の出生前診断の方法の解説、ある いは諸外国の取り組み、そして出生前診断をめぐる問題点などであります。これらの導 入に当たっては、インフォームド・コンセントやその環境整備が必要であることが述べ られているようであります。 しかし、ここで考えなければならないことは、妊婦や夫婦、カップルによる何物にも 拘束されない自由な意思決定とはいかなる場合に可能なのでしょうか。出生前診断につ いて、妊婦や夫婦に対する伝達すべき情報の充実と、その情報を十分かつ適正に伝える 体制や、出生前診断に関し専門的な知識を十分身に付けた専門職の創出などといった条 件整備の必要性が当然のように考えられます。 しかし、このような各論的な論議を先行させる以前に、根本的な問題として障害や障 害者に対する正しい知識が社会的に共有されていることが大前提であるべきです。障害 者プランでは、バリアフリーが重要な施設目標として挙げられています。バリアフリー は当プランに記されているように物理的、建設的な意味で障壁を取り除くということで あると共に、心の障壁を取り除くことであります。障害を持つ者も、持たない者も互い が隔絶した空間に生きるのではなく、等しく交流して共に生きる社会環境が整備されれ ば、障害者をめぐる偏見、差別は大いに払拭されるはずです。 こうしたプロセスを経て初めて障害者に関する正しい情報が社会に共有され、障害を 持つことがその子どもにとって不幸なことであるといったありがちな考え方は社会的支 持を失うはずです。つまり、障害に対する正しい理解の共有がなされていない状況では 出生前診断に関する情報が開示され、遺伝カウンセラー等の専門職の設立や配置がなさ れたとしても、それは障害を持って生きることは不幸である。それから、出生前診断の 実施、それから胎児の障害の存在の可能性イコール中絶という社会的文化的文脈は依然 として強固に残り、妊婦や夫婦の意思決定に重大な影響を与えます。 こうした根源的な問題を見過ごし、いたずらに自己決定やインフォームド・コンセン トという言葉を用い、出生前診断の意義を主張しても、妊婦や夫婦が何物にも拘束され ない自由な意思決定を保障したことにはならないことはお分かりのことと思います。 出生前診断の適用範囲についてですが、まず先に出生前診断は障害を持つ者の生命の 尊厳を守るためのものであり、胎児治療、出生した後の子どもあるいは家族を含めた医 療、福祉的ケアの体制のプランニング、胎児、母体の状態等を考慮した適切な分娩方法 選択のためであることを述べました。そして、その大前提となるのが障害を持つ者、持 たない者が分け隔てなく社会の成員として共に生きていく社会の実現であり、こうした 社会の実現によって障害者に対する正しい理解が社会的に共有されることが急務である ことも述べました。 こうした社会が実現し、更に自由な意思決定をさせる仕組みが十 分に整った上でも、出生前診断の結果、胎児に障害の存在を予測した場合、中絶を選択 すると願う妊婦や夫婦はあるかもしれません。しかし、こうした問題は何物にも拘束さ れない自由な意思決定によってなされるべきものであります。よって、出生前診断を義 務化するとか、広く普及されるための条件を整えるとか、適用される疾患を特定し、法 文化するといった法的な枠組みによって対処すべき問題ではありません。 我が国では、いまだ観念的に男は外、女は内といったいわゆる性別役割分業意識が社 会的に固持されており、妊娠、出産、育児は女性の仕事の責任と位置づけられる状況に あります。また、家族は日本特有の家系意識により、障害者を出した家、出した家庭と いう差別的な感覚はいまだ社会からなくなっておりません。そういう苦しい状況の中で 社会生活を送っている状況にあります。こうした状況において、繰り返し述べているこ の論議の大前提を無視し、法制度化論議を持ち出すことは、国がこうした女性や障害者 の家族の苦悩を理解しない、あるいは更に助長するものであることを十分自覚するべき です。 周知のとおり、厚生省を含めた各関連団体が尽力し、有意義な意見交換を活発に行い 母体保護法が成立しました。今回の審議におきまして、くれぐれも診断の義務化、疾患 の特定といった法制化への論議を安易に持ち出すことのないように要請します。飽くま でも厚生省及び国が取り組むべきことは、障害を持つ者、持たない者が共に生きる社会 の現実と、障害者に対する正しい理解の普及と促進であり、そして公正な意思決定を可 能にする環境整備であるはずです。 改めて、当会の意見としまして、第1に出生前診断は障害を持つ人の生命の尊厳を守 るためのものでなければならないこと。 2つ目に出生前診断の結果は、第1に胎児治療に、第2に出生後の子ども及び家族を 含めた医療的な福祉ケアの体制のプランニングに用いるべきものであること。また、胎 児や母体の状態に考慮した、より適切な分娩方法を選択するために用いられるべきであ ること。 3つ目に、出生前診断の適用範囲を論ずる前に、まず根本的な問題として障 害や障害者に対する正しい知識が社会的に共有されていることが大前提であること。そ して、国民レベルで障害を持つ人と持たない人が分け隔てなく社会の成員として共に生 きていくというノーマライゼーションの理念こそが、目指す社会の真の姿であるという 合意がなされていかなければならないということ。 最後に、精神障害者のすべてが遺伝する疾患であるかのような間違った社会的な認識 に苦しめられてきている家族の立場から、そのような障害者を隔離、排除する可能性を 持つような法や制度の成立には反対するという意見を述べさせていただきまして、終わ りとさせていただきます。ありがとうございました。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。 それでは、引き続きまして全日本手をつなぐ育成会の方々よろしくお願いいたします ○全日本手をつなぐ育成会(松友常務理事) 全日本育成会の私、常務理事の松友でございます。まず最初に私から発表させていた だきまして、その後、私たちの会の人権擁護委員会の委員であります名児耶の方から発 言させていただきます。 まず最初に、このような機会をつくっていただいたことに対して大変うれしく思い、 感謝申し上げたいと思います。とともに、率直に言いまして戸惑いというか、私として は心理的負担を持って今日ここにいることをお許しいただきたいと思います。 といいますのは、ここにも書いておりますが、私たち育成会としてはこの問題につい ての結論を出しておりません。二つ、三つ程議論はしておりますが、組織的にきちんと 議論をしようという段階でありますので、飽くまでも今日お持ちした意見は従来編集委 員会とか、あるいは各委員会等で議論されたものを集約したものであります。 もう一つは内容的に後で申し上げますが、いわゆるこの問題につきましてはかなり倫 理的というか、思想的というか、人間の生き方にかかわる部分を含んでおりますので、 必ずしも一致したクリアカットの結論が出し切れないという現実を私は認識するからで あります。その2点を踏まえながら現状といいますか、お話させていただきます。 まず会の概要でありますが、私たちはおよそ50年近い、47年ほど運動をやってきた団 体であります。そういう意味では大変古い団体でありますが、知的障害、知的発達障害 ですね、知的発達機能障害の親を中心とした各地の親の会の、言うなれば全国組織であ ります。会員総数としては33万人、それから市町村の親の会としては2,300団体というふ うに言われております。そういう意味では大変古い、そして知的障害全体を包括する団 体としては唯一といいますか、団体であろうかと思います。 それゆえに、率直に申しましていろいろな問題について議論をし、そして方針を出す ということには慣れておりません。更には、こういう微妙な問題につきましてはかなり 個人の間で意見の差があるというのも事実であります。ある面で一本にまとめていくと いうことは、逆に言うと大変厳しいこともある訳でありまして、そういう意味で先ほど 申しましたようにこの問題に限らず、いろいろなことについて育成会として方針を出し ていくということには余り慣れていないということがあります。 もう一つは、率直に言いまして歴史的に四十数年の歴史の中で、かつての兵庫県の施 策を始めとしてかなりのいわゆる否定的な政策に、育成会の、あるいはその親御さんた ちの考え方が歴史的に反映してきました。今から思うと否定されるようなこともあった のではないだろうか、そういう運動として、あるいは親としての否定的な歴史を引きず ってきているということも、やはり率直に認めるべきではなかろうか、と思う訳であり ます。 私自身、約30歳になる障害のある子どもの父親でありますが、その前に私は、兄が知 的障害があるので、言うなればずっとそういう意味では、家族としてかかわってきて、 そういう議論あるいはいろいろな問題に絡んでまいりました。そういう流れの中で、先 ほど言ったような育成会自体の現状のあいまいといいますか、いろいろな複雑な考え方 あるいは思い、あるいは責任性ということを背負いながら今日来ている訳であります。 さて、お手元にお配りいただきましたように、一応形として意見という形で出させて いただいております。これは、主な論点を踏まえて出してほしいということですので、 それを踏まえて書かせていただきました。ここに書いてありますように、とにかく今も 申しましたように十分議論は尽くされていない。 しかし、会の基本的方針としては、私たち育成会として、育成会21世紀プランという これからどういうふうに育成会はやるべきか、政府としてはやってほしいかという意見 を一昨年まとめた訳でありますが、その中では予防と療育という形で、実はこのような 提言をしております。 そこでは、障害を劣ったものとする考えは克服されなければなりません。そのため、 優生保護法は名称を含めて抜本的に改正される必要があります。これは実現した訳であ りますが、また遺伝子診断の試みはその意図や手段、決定のプロセス等が十分に論議さ れることが求められます。こういう非常に抽象的な、しかし理念的なことを私たちの長 期プランの中で出している訳であります。 そういう議論を踏まえて、資料として添附されているように機関誌の編集委員会、こ れは毎月1回やっておりますし、私たちの委員会の中で最も重要な中心を担う委員会に なる訳でありますが、そこで今月の問題という社説に変わるもので2度、今年及び昨年 議論をしてきました。この中でもお分かりのように、非常にあいまいというか、もう一 つ不十分な意見になっているかなと思う訳でありますが、今のところ書かれたものとし て私たちの会の意見が示されるのはこれだけかと思います。 それで、先ほど言いましたように論点2に則して言いますと、これは非常に生殖医療 として範囲が広い訳でありますが、私たちにとって関心が高いというのは、この出生前 診断技術に関してでありまして、このインフォームド・コンセントということについて もこの件に沿って論じられている訳であります。 しかし、疑問というか論点はその意味に向けられておりまして、まずは障害があるゆ えに初めから生きることを認められないということに対しては大変問題である。これは 当然ながら障害は不幸であり、家族に負担を強いるという考え方に基づく訳であります が、その考え自体が間違っているのではないか。あるいは、少なくとも因果関係の理解 に誤りがあるのではないかという、まさに基本的な理念的な考え方を持つ訳であります これは各団体が既に言われたことと同じかと思います。 それで、事実として障害があるということが本人や家族に大きな負担を強いています けれども、その因果関係が単に機能、形態あるいは能力障害という個人の生物学的、あ るいは特質、個性によってもたらされているということではなくて、社会との環境にお いてもたらされ、それゆえに私たちとしてはまさに援助というものを前提とした、ある 面ではその障害を受け入れて、その援助によって人間としての事実といいますか、社会 参加とすることを考えていく、そういう社会システムでなくちゃいけないだろうという ことを、私たち戦略としてのインクルージョン(包含、包括)という考えの中で打ち出 してきている訳でありますので、その文脈から見て、この生殖医療に対してもそのよう な理解をする訳であります。これは言うなれば基本的な、ある面では非常に自ら卑しい 言い方をしますと、建前として打ち出されているものであって、これはだれでも総論と して賛成するものであります。 しかし、一方、科学の進歩に基づく予測性によって、どのような因果関係であろうと も予測される困難は避けたいという個人の本音が個々の親の中に存在をするということ は率直に言って否定出来ないというふうに思う訳であります。そのため、たとえ医師に よる誘導的な説明であったとしても、現実的にトリプルマーカー等の検査を高い率で受 診されている方がいる。ですから、それは逆に言うと子どもさんが障害があるというこ とでもって、経験があるゆえにその困難を、また2度も困難な経験をするのかというこ とに対する拒否感があるのかなというふうに思う訳であります。 そういう現実的なというか、現実に因果関係において非常に誤った形で苦しめられて いるということがあったとしても、その苦しみがある中で、この問題についてはその意 味、あるいは検査対応そのもの、それを受けるかどうかということよりも、どうしても 論点としてはその制度や安全性、あるいは医師等の説明が不十分であるという、ある面 では末端的な批判というか、議論ということになっていってしまっている現実があるの ではないだろうかというふうに思う訳であります。そういう二面性というか、あるいは 三面、四面性もあろうかと思いますが、そういう矛盾を含んだ考え方というか、実態が 育成会の現状ではないだろうかということで報告させていただき、あるいは意見を発表 させていただきました。 あとは、名児耶の方から付け加えさせていただきたいと思います。 ○全日本手をつなぐ育成会(名児耶人権擁護委員会委員) 今、松友の方から育成会の方の基本的な考え方としては申し上げたとおり、育成会と しては非常に多種の障害を網羅している団体ということで、必ずしも一枚岩の形ではな いということでなかなか問題は難しい。少なくとも2週間ぐらいの短期間でもって意見 をまとめるということはとても出来なかったということが事実でございます。 私は難しいことは言えませんので、ごく卑近な例を申し上げます。私の娘は今、出生 前診断の一番のターゲットになっているダウン症を持っております。35歳です。 ところが、実に偶然というか、昨日になって急に今までやったことのない料理を始め てオムライスをつくってくれたそうです。私はいなかったんですが、とても上手に出来 たそうです。それで何か非常に自信を持って、今日もまたやってくれたそうなんです。 私の娘は、知能指数は34です。ですけれども、パートタイマーとして仕事にも行って おりますし、いわゆる障害が重いからといって出来ないことがそのままずっと続くとい うことはない。それから、30になろうが、40になろうが、その人たちはごくゆっくり成 長していて、その可能性にはいわゆる限界はないと、私はそれこそ本当に卑近な例を通 じて思っております。 それから、1月19日の『AERA』に載りましたけれども、アメリカのアンドレア・ フリードマンというダウン症の女性ですが、その方は女優であり、大学を卒業して今カ ウンセリングの仕事をしたいというようなことまで言っております。 それからまた、更に1月30日の朝日新聞に載りましたけれども、ダウン症の女性が4 年制の大学を卒業したという例もあります。 そのように、出生前にダウン症というようなことを言われて、いろいろ確率や何かの 問題というのはまた問題は別だと思いますが、ともかくそういうことで本当にダウン症 でもって生まれた人がこのような可能性を秘めているということです。勿論だれもがそ ういうことになるということではないんですが、それを出生前に抹殺してしまっていい のかというのが、私たち親としての実感でございます。 それから、大変僣越ではございますけれども、この意見聴取で各障害者団体当事者か ら意見は聞きましたよということでもって胎児条項とか、それからそういうようなこと の免罪符、または言い訳にしていただきたくないということが私の率直な意見でござい ます。よろしくお願いします。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。 それでは、引き続きまして日本筋ジストロフィー協会の方々からお願いしたいと思い ます。よろしくお願いします。 ○日本筋ジストロフィー協会(河端理事長) 理事長の河端でございます。 遺伝問題と世評で言われた場合、まず疾病で取り上げられるのは筋ジストロフィーの デシャンヌ型でございます。最近、とみにそういう言葉が新聞紙上その他に出ておりま すが、私どもは協会が出来ましたのが昭和38年から39年にかけてでした。そして、最初 はそんなに患者さんがこの世の中にいないんじゃないかと思ったんです。四十数人の会 員でつくりましたが、そのうちまたたく間に1,000人になり、2,000人になりということ で、この協会が出来ましたが、遺伝の問題はタブーでございました。 と申しますのは、やはり母親の遺伝によってこの子らは出来るんだと。それで、私ど も母親は本当に身の細る思いでした。そして、中には離縁される家族もございますし、 本当に女性だからということで私たちは苦しめられました。しかし、だんだん医学が進 歩し、また厚生省で速やかに研究班を組織してくださいましたので、これが私たち患者 家族の大きな生きがいとなりました。その研究班は日に日にいろいろな問題を研究して まいりまして、今やジストロフィーのいろいろな型、それぞれ先天性だとか、デシャン ヌ型、肢帯型、その他の疾病の遺伝子の所在、遺伝子座というものを突き止めるほどに なったんです。このことは、私たちがこの協会を作ってよかったなと実感し、また協会 に入っていない方もこの問題を自分たちのある程度の生きる支えに出来ているんじゃな いかと思っております。 それからまた、この筋ジスの研究が進むにつれまして、ほかの難病の方の遺伝子座も 発見されてまいりましたので、私たちが運動をしてきて35年になりますけれども、運動 をしてきて本当によかったという考えを持っております。 それで、実は参考資料の43ページに書きましたけれども、確かに医学の進歩により生 まれくる子どもの障害や病気を知ることが可能となり、出生前診断、受精卵遺伝子診断 障害胎児の中絶等、生命倫理にかかわる大きな問題がそれぞれの学会の専門部会で次々 と発表されておりますが、私たちはその発表の度に筋ジストロフィーという難病のデシ ャンヌ型の病気が出ますので、戸惑いと不安と怒りを感じております。 これらの状況の中で、厚生大臣の諮問機関としての厚生科学審議会への期待は大きく 生命倫理を踏まえ、十分な論議を重ねていただきたいと思います。インフォームド・コ ンセントを何よりも大切なことと考えております私たち当事者としての協会は、審議会 のこの度の意見募集に対しては開かれた審議会として本当に大きな期待を寄せておりま すのでよろしくお願いいたします。 それからまた、生殖医療に関する社団法人日本筋ジストロフィー協会の見解の概要を 書くようにと言われましたので、ここへある程度書きました。書きましたが、この中身 は1、2、3、4、5というふうにまとめてございます。それで、協会は患者と家族の 協会でございますので、この1番に書いてありますように、患者と家族は必ずしも意見 が一致することは少なくて、むしろ患者と家族は生殖医療にかかわる倫理的問題に関し ては相対立する傾向さえ見られます。親は生みたくない、患者の場合は何で中絶するん だとか、何で出生前診断の必要があるんだとか、やはりそういう患者の方々の考えもご ざいますので、私たち協会としてもどういうふうに考えていったらいいかということで アンケート調査を毎年のようにやっております。 それで、説明用参考資料の中に1992年と95年の2回のアンケート調査を添附してござ います。説明するよりはこれを見ていただいた方がはっきり分かるんじゃないかと思い ますが、とにかく筋ジストロフィーがDNA病である、遺伝病であるということを知っ ていたか、知っていないかということを問いましたときに、患者も家族も70%以上の 方々が知っているということを答えております。遺伝というものはタブーだったんです けれども、昭和49年から50年にかけましてタブーが研究班の研究発表により段々薄らい でまいりました。あくまでもこれは遺伝子の病気で遺伝子のいたずらであると。 それは、江橋節郎東大名誉教授が、「筋ジストロフィーというのは人類の生成の過程 において必ずや何%かは生まれるんだ。あなた方の遺伝もあるけれども、何%かは必ず 生まれるんだ。」と、そういうことを言われまして、私たち母親はほっといたしました 「何%かは生まれるそうよ、それは突然変異という形でもあるし、いろいろな形で何% かは生まれるんだから、何も母親だけのせいじゃないんだ」と、むしろ「生まれた子ど もたちをこれからどう育てていくかということを我々は考えようじゃないか」と、50年 ごろから考え方が変わりました。そして、家族は本当に明るく過ごしております。この 子はやはり我が家の宝だというようなことで、この子が生まれたことによって命の大切 さ、それから子育てがいかに難しいものであるか、また楽しいものであるか、夫婦はこ の子を育てることが一つの人生の目的であると、そこまで我々親は言えるようになりま した。 また、患者自身も自分は何のためにこの世に生まれてきたのか。人のお世話になるだ けじゃない。自分たちもやはり自分たちの生き方を考よう。ボランティアもしよう。そ れぞれ後輩も生まれてまいりますから、後輩のために我々先輩患者は何をすべきかとい うことで、地域活動、社会活動、これらを積極的にするようになりました。そこで、や はり患者自身の人生の意義を家族と共に考えるというような方向になりましたので、私 はこれは人間としてすばらしいことじゃないかと思います。 ですから、遺伝病だからと言って必ずしも世の中に卑下することはないと思います。 必ずや何%は生まれるんですから、健康な方々はその何%として自分が生まれなかった からよかったと、何%かの遺伝病を持って、その苦しい遺伝病を持って生まれなかった からよかったということではなく、そういう恵まれない人達あるいは遺伝病を持って生 まれた人たちの住みよい社会にするべきだという考え方を持ってほしいと思っています そして、何も恐れることなく、恥ずかしがることなく、やはり積極的にこういう問題 は外へ出て叫ぶし、また厚生省に対してもこういう子たちが、こういう親たちが本当に 安心して住めるような福祉施策を進めてもらいたいというのが私たちの一番の願いでご ざいます。 次に、2番目はとにかく医学の進歩というのは抑えることは出来ません。ですから、 その中でいろいろなことが発表されますから、その発表は逐一出来るだけ患者たちに伝 えております。そして、患者たちがその発表をよく熟知して、自分の考えをその中でど ういうふうに生かしていくかということを取り上げる、生かしていく方法を自分らで考 えようじゃないかと、そういうことで出来るだけ情報は提供しております。 それだけに、いわゆるアンケート調査、それから講演会、遺伝相談カウンセリング、 パソコン通信「夢の扉」、「何でも医療相談室」などと本当に出来るだけいろいろな方 法をもちまして患者、家族の方に情報を提供することを原則としております。ですから 段々と患者自身が自分の障害を受容しております。先程申し上げましたけれども、昭和 40年代は14、15歳までしか生きられないと私たちは言われました。それが、昭和50年代 には20歳くらいまでは何とか生きられるわねということになったんですね。それから、 今の平成の時代は何とか30まで届くかしら、どうかしらということで、医学の進歩によ りまして本当に延命効果というものがものすごい成果として現れてまいりました。 残念ながら、私の子どもは27歳で中央大学を卒業したんですが、翌年亡くなってしま いました。そういうことで、やはり患者たちは自分自身の障害を受容せざるをえない。 人工呼吸器も付けまして、次に気管切開もして、40年近く生きている患者さんもいらっ しゃいます。 しかし、ここで私たちが一番感動いたしますのは、国内27カ所の国立療養所内に筋ジ スベットが出来ておりまして、これも厚生省研究班等のお陰なんですが、とにかく緊急 な場合は電話一本で国立療養所に入院させてくれる。そして緊急処置をする。これが私 たちにとってやはり大きな救いでございます。肺炎などを起こしました場合に、その辺 の開業医に連れて行きますとすぐおかしくなってしまいます。 私の娘も、具合が悪いときに救急車を呼びました。そうしたら地域の病院へ入院させ るというので、「冗談じゃないわ、専門病院が10キロ先にあるんだから専門病院に連れ て行ってください。」と申しましたところが、「それは区域外ですからだめですよ。」 と言われたんですけれども、その時に私はもう一押しいたしました。「そんな区域内の 病院に連れて行ってうちの子が亡くなったら、救急班の責任で私は裁判を起こします。 もし区域外の、私が連れて行ってほしいと言った病院に連れて行って亡くなっても、私 は納得いたします。」ということで消防署員に強引に強く申し入れしました。そうしま したら、国立療養所の方へちゃんと連れて行ってくれました。 それが、先々月でしたか、埼玉で現実に起こりました。やはり地域の消防署が自分の 管内の病院に生後3か月の子どもを連れて行こうとした。それで患者の親たちは、「そ うじゃなくて20分くらいかかるかもしれないけれども県立の小児病院へ連れて行っても らいたい。」と言ったら、それを消防署員が拒否した訳です。そして、そこで25分もあ ちらの病院へかけ、こちらの病院へと電話を掛けているうちに遂にその子は命を落とし てしまった。 やはりそういうことがございますので、私の経験上、「少し押しを強くやりなさい、 東京都内だって何だっていい、あなたが信頼する病院に速やかに連れて行くことが患者 の命を守ることなんだから、しっかりしなさいよ。」といって、私たちは情報を提供し ながらやっております。 そんなこともございまして、4番に書いてございますが、遺伝子診断で障害者を排除 するのではなく、障害を治してほしいと考えております。遺伝子治療、ですから私ども の理想とすれば胎児、お腹の中にいる赤ちゃんのうちに遺伝子治療が出来たらいいなな どというふうに夢のようなことを考えておりますが、やはりこの医学の進歩の将来には 必ずやそういう時代も来るんじゃないかなという大きな期待も持ちながら夢を持ち続け 生活をしております。 5番は医学の進歩、生殖医療の進歩は人類の種の保存のために必要なこととは思いま すが、障害者なるがゆえに社会の隅に追いやられることなく、障害者が一人の人間とし て共に生きられる福祉施策の充実した優しい社会づくり施策の実現を大いに期待するし 私たちは協会の運動をしております。何はさておいても、やはり厚生省の一つの方針と いうのが私たちの命を大変左右するというのが我々の考え方でございまして、今、厚生 省の名前を労働福祉省にしようかどうかという問題も出ておりますが、私どもは大反対 です。労働が先にいくんじゃなくて、やはり福祉の方が先にいくべきだと。人間の命は 労働によって支えられるものではございません。福祉的な考え方で生命というのは守ら れるんじゃないかしらと思っておりますから、よろしくお願いいたします。 それからもう一つ、43ページにも書きましたが、日本産科婦人科学会の受精卵遺伝子 診断、それから日本母性保護産婦人科医会の障害胎児の中絶容認ということはいずれも 慎重に論議してもらいたい。必ずしも我々は賛成ではないということを申し入れました 特に受精卵診断の場合は、医学が進歩をしたと申しましてもまだまだ私は未成熟じゃな いかしらと思っております。母体に与える影響、卵子に与える影響、これなども考えな がら、ある程度の研究は必要だと思うんです。ですから、十分な研究をすすめ、これな らば大丈夫だというような発表を私たちは希望しております。それにいたしましても協 会としては中絶しろとか、あるいは診断しろとかということは一切会員には強制はして おりません。やはり一人一人の倫理観というものがございますので、どうしても生みた い、どうしても中絶したいというそれぞれの家庭の考え方がおありでしょうから、それ はそれぞれでお考えいただきたいと思っております。とにかく障害があっても育てるん だ、筋ジスであっても育てるんだという会員たちが、協会に登録してあるだけで3,000人 おります。ですから、私たちは患者と家族と共にその子の幸せのために何とか運動をこ れからも続けてまいり、研究の推進を本当にお願いしたいと思います。 それから、母性保護改革案の障害胎児の中絶容認につきましては私たちは大反対です なぜ障害胎児を中絶しなければいけないのか。これを法律でなぜ盛り込まなければいけ ないのか。せっかく母体保護法というものが出来まして、この条項が消えたにもかかわ らず、またここで再び出てきた。私は、母親の体のために中絶をするというんだったら 話は分かります。ですけれども、やはり障害胎児だからということで中絶することは全 く容認しておりません。 なぜかと申しますと、実は私は在宅で筋ジストロフィーの子どもを27年間育てました それで、当時は今のような養護学校はありませんでしたので、小学校、中学校、高等学 校すべて普通学校に行きました。私が全部送り迎えをし、1日に学校に5回ぐらい行っ たことがございます。教室移動、これは1階から5階までおぶってまいりました。大学 もしかりです。そういうことで、まず両ひざが先にいかれて、そして今、股関節がいか れ歩行が困難になっています。障害児を在宅で抱えた場合、母親の苦労というのは大変 なものでございます。このように母体の健康が著しく害されるおそれがあるという理由 であれば、私は中絶も仕方がないんじゃないかなというふうに思っております。 そんなことで、いろいろアンケート調査もたくさんいたしました。資料はここに出て おりますから、これをご覧いただきたいと思います。 あともう一つ、一番最近のアンケート調査は遺伝子バンクのことにつきまして調査の 結果が出ておりますので、もう時間もございませんようですから、それを簡単にお話さ せていただいて、私たちの協会の意見を終わりにさせていただきます。ありがとうござ いました。 ○高久部会長 では、簡単にお願いします。 ○日本筋ジストロフィー協会(米園事務局員) それでは、出来るだけ簡単に申し上げます。 遺伝子バンクについてアンケートを昨年の秋にとりました。アンケートのお願いと内 容は先ほどお配りいたしましたけれども、これは患者、家族各500名に行ったところ、回 答率は66.2%と63.6%でした。その中で、DNA検査を受けたいという人の理由ですが 遺伝相談のためというのが患者で51%、家族で63%でした。また、医学研究のためとい うのが患者、家族ともに60%を超していました。 今回のテーマは生殖医療ということなんですけれども、遺伝子の病気である筋ジスト ロフィーなどの患者の家族の場合は保因者であるということ、それを知りたいためにD NA検査を受ける方が多いんです。保因者であるということは、出生前診断の前段階と して自分が保因者であるということを知りたい。保因者であるけれどもどういう人生を 選ぶか。子どもを生むか、生まないかを選ぶということは、今までDNA検査のなかっ た時代に比べてそれだけ考える選択肢が増えたと言えます。そして保因者である人が更 にその胎児診断を受けて患者の親となる覚悟を決めるかどうかということも、また選択 肢が増えたと言えると思います。そういったところでございます。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。 それでは、引き続きまして日本ダウン症協会の方からお話をお伺いしたいと思います よろしくお願いします。 ○日本ダウン症協会(玉井理事長) 日本ダウン症協会の理事長をしております玉井と言います。副理事長の石黒と同席さ せていただいています。 生殖医療についての私どもの意見を述べさせていただきます。お手元の参考資料は47 ページからが当協会の資料になっております。 私たちの意見は大きく3点に集約されます。 まず第1に、母体血清マーカーテストを含めて、現在審議会において審議されている ような先端的な出生前診断技術の臨床応用は現代の日本においては時期尚早ではないか ということ。 第2に、母体保護法にいわゆる胎児条項の導入が図られるという点については、明確 にこれに反対するということ。 第3に、こうした問題を議論していくに当たっての審議の在り方、情報の公開のされ 方についての疑義が我々の方にはあるという3点です。 以下、これらの点につきまして既に提出してあります意見書及び参考資料に触れなが らその理由を述べさせていただきたいと思います。 私ども日本ダウン症協会が生殖医療にかかわる議論に最も先鋭的に直面しましたのは 母体血清マーカーテストが予想を上回る速度で普及していったという事態によってです このテストは言うまでもなく、明らかにダウン症をメインターゲットの一つとしている というふうに考えております。私たちは、このテストの普及を凍結するよう既に厚生省 の方に意見書を提出してありますが、この意見書につきましては添付の資料として提出 してありますので御参照ください。 このテストの重大な問題点の一つは、それによって下される判定が確定診断ではなく 確率的なものだということが指摘されております。この点につきましては様々な問題を 含むということで、既に日本人類遺伝学会等でも見解として出されているかと思います 私どもは、この日本人類遺伝学会の見解に関しましては一定の評価をしております。 ただし、日本ダウン症協会といたしましては母体血清マーカーテストが、今言ったよ うな意味の、その他の出生前診断技術とは異なるという理由で、これが違う議論で済ま されていい問題だとは思っておりません。 といいますのは、検査を受け、その検査結果の告知を受ける我々にとっては、おなか の中の胎児がダウン症であるということが確率であろうと、確定診断であろうと、決し て本質的な差にはならないというふうに考えるからです。 なぜ本質的な差にならないかということを申し上げます。その最大の理由は、現代の 日本の社会の中で障害を持った子どもが生まれるということに対する価値観と、医療現 場における人権意識や倫理意識の低さにあるというふうに考えております。 この検査が商業ベースに乗って普及し始めてから、私どもの協会には全国の会員や、 あるいは会員外の方からもこの検査の受診を奨められたり、あるいは実際に受診をした りという方たちからの声が届けられております。その一部は参考資料として添付いたし ました。検査会社が定めた倫理規定に従ってこの検査を実施していると称している医療 機関でさえ、この検査を受診した方たちを一堂に集めて、他の人間の見ている前で確率 を告知していくというような驚くべき人権意識の欠如がうかがわれるような実例もあり ます。 あるいは、この検査の受診を奨めるに際してダウン症の説明として、ダウン症の子ど もを持った家族が筆舌に尽くし難い悲劇に陥りますという文章を書かれている病院すら あります。 こうした実例を私どもが挙げますのは、このような例があるから、だから出生前診断 に対して適切な規制が必要だということを単に述べたいのではありません。勿論、出生 前診断に対して適切な規制が必要だという認識は、私ども協会も持っております。 ただし、それ以上に私どもが言いたいのは、このような議論をすることがそのまま、 規制イコール胎児条項に代表されるような、極めて抑圧的な条項の導入に使われてしま うのではないかということを危惧しております。 最も主張したいのは、出生前診断や、あるいは予防医学のその意義を支える一種の キー概念になっていると思われます自己決定という行為が、現在の日本社会の価値観の 中では極めて困難な行為なのではないかということを訴えたいと思います。 私どもは本日、日本ダウン症協会という立場で参加しておりますので、主に知的障害 を持った子どもとその家族の立場から発言させていただきますが、現在の日本において 彼らと、そして彼らを取り巻く兄弟、家族たちは生活の上で非常にさまざまなハンディ キャップを負わされております。 委員の皆さんに是非想像していただきたいんですが、子どもの誕生を迎えたときに、 その子に障害があるというだけの理由で、自分が一生かけるはずだった仕事を辞めるの が当然だという言葉を投げつけられる母親の気持ちというのはお分かりでしょうか。就 学時健診を迎えるときに、この国では私たちの子どもにだけ義務教育の入り口に入学試 験があるんだと言われる親たちの心情というのは御理解いただけますでしょうか。入学 式の日に、他の子はだれもが預かってきた学童保育所の入所手続の書類を自分の子ども だけが預かってこなかったという、そのときの驚きというのは御理解いただけますでし ょうか。共生の社会がうたわれながらも、現実には遅々として知的障害を持つ方たちの 社会参加が進まない現状があります。 一方にこのような明らかな生きにくさを残したまま、自己決定という名で障害を持つ 胎児の選別を個々のカップルや母親に委ねるということは出来ません。仮に、おろせと いうふうに語っている夫のそばで初孫の誕生を楽しみにしている舅の姿を見たとき、彼 女にとっての自己決定というのは誰のためのものなのか、何が自己決定なのかという議 論を、我々はもう一度していただきたいと思っております。生むことへの不利益を残し たまま出生前診断が普及することは、巧みに責任を個人に転嫁した優生政策にほかなら ないと日本ダウン症協会は考えています。 このような社会の状況に対して今、取り組めることが2つあると思っています。1つ は、制度的な差別を完全に撤廃する作業です。もう一つは、一人一人、個々人の心の内 にある差別意識についての変革を迫るということです。 ただし、個々の人間の意識の変革というのは容易なことではありませんし、何よりも 物事を区別し、比較し、分類するという作業は人間の認識活動には必要不可欠のものだ と考えております。とすれば、心の内なる差別意識というものは未来永劫にわたって取 り組み続けなければならない、言わば終わりのない課題だというふうに思います。 しかし、その終わりのない課題を遂行していくためには、制度的な差別が完全に撤廃 されなければならないと考えています。 私たちの第2の論点である胎児条項は、このような意味合いからも断じて許容するこ とは出来ません。いかなる言葉やいかなる論理で正当化されようとも、胎児条項が障害 という属性の有無によって人間を選別する行為であることは疑いがありません。それは 新たな制度的な差別を設けることになります。そして、それは現在、国が進めている障 害者プラン等の施策と真っ向から対立する価値観だと私たちは信じております。日本ダ ウン症協会は胎児条項の導入に明確に反対しますし、この審議会においてもその導入を たとえ示唆するだけのものであっても、そういった結論が出るということは許容出来な いと考えております。 先ほどから、現在の社会で知的障害を持った子どもが生活することの困難さ、そうい ったものを強調してまいりましたが、これから私どもが最も伝えたいと思っている事実 についてお話しします。  確かにその困難さが存在することは事実です。しかし、もう一つ決定的な事実もあり ます。それは、そのような困難があるにもかかわらず、なおかつ私どもはダウン症を持 つ彼らと出会ったことを感謝しておりますし、当たり前の生活をしているということで す。ダウン症であるということは、なぜ出生前診断の対象になるのでしょうか。ダウン 症で生まれたことがいけないという根拠はどこにあるのでしょうか。子どもがダウン症 であるということを知ったときの両親の落胆の表情から、あるいはそういうふうに思わ れるのかもしれません。 けれども、彼らや彼らの家族を取り巻く困難さは、ほとんどが社会的施策の不備や一 人一人の心のありようによるものです。何度でも申し上げますが、私たちはごく当たり 前の生活をしております。 ちなみに、私が今日しているネクタイは私のダウン症の長男である卓也が修学旅行で 持参金の半分をはたいて買ってきてくれたお土産です。添えられた手紙は、「パパ、毎 日お弁当ありがとう」という手紙でした。決してこれは美談でお話しているのではあり ません。中学生を修学旅行に送り出した家ならば、だれもが経験している話としてお話 ししています。 ダウン症の出生が不幸であるという考え方は明らかに間違いです。そして、治療出来 ないものであるから生まれてくる意義が少ないと考えるとしたら、それもまた間違いで す。私たちはその子が治るか、治らないかという論理だけで生活をしていません。生活 や幸福というものは、治療が可能かどうかというものとは別なロジックの上に成り立っ ていると私たちは信じておりますし、それを彼らから教えられてきています。 出生前診断はあくまでも生かすための技術であっていただきたいと思います。カウン セリングの大切さがいかに説かれようと、知らずにいる権利の保障がいかにうたわれよ うと、初めに中絶ありきという価値観が横たわる限り、出生前診断は差別を強化する装 置となってしまうはずです。 WHOなどの文章にはよく、出生前診断が普及しても障害者差別にはつながらないと いう考え方が示されます。しかし、我々にとって、これはほとんど現実的な説得力を持 ちません。 先日、NHKでイギリスの出生前診断システムを紹介する番組が放映されました。1 人の人間が誕生から四十数年を生きる間に、年間500名生まれていた二分脊椎の方々がた った2名になってしまうという、その事実にも勿論驚かされましたが、それ以上にある 意味で我々がショックだったのは、そのたった1人の人間が壮年期に達する間に、二分 脊椎に適切なケアが出来る医師がいなくなったという事実です。対象者が少なくなれば サービスは低下するはずです。そしてサービスが低下すれば、その中にその子を生む勇 気を我々からくじき取るものになります。その悪循環に入ったときには、もはやどんな に言葉を飾ろうとも、その障害を持った子どもたちが淘汰されていくという事実に変わ りはないと思います。 今、現在ですら多くの不備を抱えると思われる障害者施策が現状のままの社会で、出 生前診断が普及制度化された場合、更に今以上に残された障害者への施策が充実してい くという根拠なり、過去の実例がもしあるのでしたらば是非お聞かせいただきたいと思 います。 私どもが恐れますのは、一方でこうした社会的生活の困難さを強調すること で、それが出生前診断に対する規制付きの普及のための根拠にすり替えられること、そ して逆に彼らが当たり前の生活が出来るのだということを強調することによって、今の まま自己決定を御旗にして出生前診断のシステムがつくられること、その両面のすり替 えを恐れております。 どんな障害があろうと、どんな子どもを抱えようと、私たちは自分たちの与えられた 環境の中で幸せを求めていく力を持っています。そして、そういう方たちを助けようと する力もだれもが持っています。そのような力を引き出す努力こそが求められるのであ って、今、安易に出生前診断が普及すれば、それは妊娠や出産というものから素朴な喜 びを奪い取って、ひいては現在問題になっている少子化の問題にすら大きな影響を与え かねないと私どもは考えております。 最後に、この問題に対する審議の在り方についての意見を述べさせていただきます。 先ほど事務局の方からも冒頭にお話がありましたが、このような高度な議論に対しまし てわずか2週間足らずという形での準備期間で意見を発言するというのは極めて困難な ことでした。そして、私どもは全国に抱える4,000名を超える会員たちに対して、今日の ヒアリングの情報を伝え、再度会員たちからの意見を集め、それを厚生省や審議会の皆 さんにお伝えしたいというふうに思っております。果たしてこうした当事者団体のヒア リングというのは今回1回で終わるのか。そして、どういう形で今後審議が進んでいく のか。更には、第6回を数えるこの評価部会の議事録が現在インターネット上に第3回 までしか公開されていないのはどういうことか。今回の議事録はいつ公開されるのか。 そういったさまざまな点についてより柔軟な、そして即応的な情報公開をしていただき たいというふうに考えております。 審議の進め方その他につきまして、最後に副理事長の石黒の方から補足があるようで したら補足させていただきますが、日本ダウン症協会としては先ほどの3点を今回の意 見陳述の柱とさせていただきます。私どもの生活を共にする者たちの思いが委員の皆さ んに届きまして、そしてそのことが翻って、我々が十分に受容、許容し得るような審議 会の意見として返ってくることを切に希望しております。 ○高久部会長 石黒さん、何かありますか。どうぞ。 ○日本ダウン症協会(石黒副理事長) ありがとうございます。ほとんど玉井理事長の方から網羅したかと思いますけれども 私の方から1つ厚生科学審議会事務局の方へ御質問させて頂きます。 事務局の方へお尋ねしましたら15団体の意見が今日もここにありますけれども出され ています。その中でこの6団体が今回選ばれましたその理由というのをひとつお伺いし たいと思います。 それから、先ほども玉井が申しましたように、このスケジュールというものに非常に 困難さを感じております。又、今回の意見の募集は、第3回の議事録がインターネット で私どもの方に見ることが可能な状態の中でございました。確かこの審議会は公開の原 則というものを大変うたっていらっしゃるんですけれども、やはりその時点で議事録が 出ていないということは公開ということに実質的にはなっていないのではないかという のが1つ疑問点としてございました。 それからまた、先ほど玉井が私どもの協会の趣旨として申し上げたものについてもう 一つ、私自身考えていることで少し補足になると思うんですけれども申し上げます。よ く専門家の方々が遺伝子研究であるとか臨床応用の際に、決して損なわれることのない ものとして人類の多様性ということをおっしゃいますけれども、そういう視点から多様 性という中に障害を持った者を決して排除することなく、その構成員であるということ を専門家の方々から私たち一般の生活者に対して明確に明示をしていただきたいという のが要望としてございます。 と申しますのは、いわゆる治療を望まれる病気というものと障害というものを非常に 混同して論議されているんじゃないかということを私どもは感じるんです。と申します のも、今日松田先生がいらして恐縮なんですけれども、実は第4回目のヒアリングのと きに日本先天異常学会の方の資料として提出されましたアンケートですが、実は私ども 日本ダウン症協会の方にもその協力要請がございまして、私どもそれを理事会で検討い たしました結果、幾つかの疑問点がありますので、その協力を御辞退した経緯がござい ます。 その論点に関しましては、もしまたチャンスがあればお話させていただきたいんです けれども、私どもは母子保健課の方へこの資料に関しては提出しているんですけれども 実はその議論などはこの審議会ではどのように扱われているのだろうという疑問がござ いまして、そのことに触れられていないままそれが一つの資料として提出されていると すれば、私ども一般の意見をインターネット等で聞かれるというふうにはありますけれ ども、実質的にそれがどう保障されるんだろうなという、事実的な不安があります。そ のことに対して、多少お教えいただければと思います。以上で補足を終わらせていただ きます。 ○高久部会長 ありがとうございました。今の御質問の件につきましては日本脳性マヒ者協会の御報 告をお伺いしたあと、質疑のときに事務局からお答えしたいと思います。 それでは、日本脳性マヒ者協会の方、よろしくお願いします。 ○日本脳性マヒ者協会(長谷川事務局長) 日本脳性マヒ者協会全国青い芝の会事務局長をやっています長谷川です。あとは、同 席している神奈川青い芝の会会長の横田の方から、旧優生保護法の改正をめぐって障害 者の生存権の闘いというところで補足を後で説明します。 まず、青い芝の会として全国的に組織化するに当たって一番最初にやってきたのは、 障害者の生存権を保障する闘いであったと思います。やはり障害者の中でも特に脳性麻 痺は、自分から言いたくないけれども重度となれば寝たきりでコミュニケーションもと れない。終始収容施設か、もしくは、昔はやりのように行われていた親が子どもを殺す という障害児殺し、親子心中、その他、要するに脳性麻痺がいたら家庭はつぶれ、不幸 のどん底のように、30年前はそういう脳性麻痺の生存に関して最悪の時代があった訳で す。 それを法文化したのが旧優生保護法の条文にもあった「不良な子孫の出生予防」です もうその中に、障害者は生殖活動に参加出来ないように優生手術があり、女性の障害者 特に施設で身の回りの世話を受ける人は生理のときなど世話がやけるからということで 子宮が未発達とか、治療的なこととして子宮を取られるといった脳性麻痺の女性の悲惨 な事実があるように、障害者、特に脳性麻痺者の人権は生殖活動から排除されてきた。 そういうことを念頭に置いてもらいたいと思います。 それで、厚生省とずっと優生保護法撤廃並びに改正に向けて交渉を何回も持ちました その中で、「不良な子孫」というのは障害者のことを指しているんだろうということを しきりにこちらが問い掛けていったんですけれども、厚生省としては、風邪を引いてい るような不健康な状態だとはぐらかしにはぐらかしていた。そういう時代から、旧優生 保護法第14条の中絶の許容条項に関しても障害児の存在否定として青い芝の会では真っ 向から反対してきたんです。 脳性麻痺者は緊張が強いし、緊張の度合によっては言葉も言えない状態とか、本当に 手とか足が硬直して筋肉が痛く、緊張緩和剤をほとんど常用しなければ自分の意思も言 えない、コミュニケーションもとれない、そういう状態なので、それを重篤という言葉 とか、不治の病というか、そういう範疇でとらえたらとらえられないこともない訳です だから、体外受精が始まったときから青い芝としては厚生省にそれに対して反対して きた事由の一つは、やはりそういう健康な子ども、幸せな家庭をイメージしてどんどん そういう障害児の出生予防、障害者のいない社会を幸せな社会、健康な社会と位置づけ る、そういう優生思想に対して危惧してきたんです。 それで、厚生省に対して「なぜ不妊治療に歯止めを掛けられないか」という質問をし たところ、「親御さんがやっぱり子どもが欲しいと言われますので」という返答でした それならば里親制度があるし、障害児を結構捨てる親御さんがいるから、そういう障害 児を里親で育てるとかの支援をしたらどうだということを言いますと、それは福祉の問 題と医療の倫理的な問題と取り扱う課が違うと厚生省の縦割りを盾に何も受け付けなか った、そういう時代を踏んでいます。 また、去年の5月に、出生前診断に関する研究班設置に対する質問状を厚生省に出し た時、5月19日の新聞にフランスでの出生前診断で障害(児)者の排除につながらない よう、別の法律で歯止めを掛けているという記事を元に、それに対して今の日本社会は 全然障害者の人権、生存権すら認められていない状態である。だから、出生前診断によ り完璧な人を造り出す遺伝子診断とか治療が定着することに対して、やはり歯止めを掛 ける別な法律を考えていかなければならないという話をしたんですけれども、そういう やりとりがここの厚生科学審議会の方にどのように伝わっているのか、はなはだ疑問な んですけれども、それもまた後で聞いてみたいと思います。 あとは体外受精ですが、特に顕微受精というところで、その技術が出てきて同時期頃 に胎児減数中絶というような明らかに異常のある受精卵、将来障害児として生まれるで あろう、そういうものは廃棄処分するという選別が堂々と行われるということに対して これまた厚生省に対して差別であると抗議したんですけれども、これも厚生省としては 歯止めを掛ける倫理的な場所ではないと逃げられました。 そういうことで、一体厚生省と厚生科学審議会は、出生前診断全体の倫理的なものと してどういうふうに調整し、意見のやりとりをやっているのか、そういうのもちょっと 気掛かりなんです。 また、アメリカなどでは脳性麻痺者が尊厳死を遂げていく事実があります。これも30 年前なんですけれども、カレンさんの安楽死事件とはちょっと違うんですが、この場合 脳性麻痺は身の回りの世話をしてもらうのが苦痛であるから、死ぬ権利という言葉で解 決しようとする。アメリカ映画でもあった『この命だれのもの』の中で、交通事故で脊 椎を損傷して口だけしか動かない。異性との接触が出来ないし、生きているに値しない と自分で思ってしまう。そうした社会風潮に対して生きること、生命そのものの生きる 価値みたいなところが曲げられて、死ぬことが幸せかのように「尊厳死、安楽死」とい う言葉で障害者は生存を脅かされる。そういうものが全て安楽死、尊厳死が死ぬための 合法的なものだったら、この出生前診断は生まれるときの明らかな選別であり、やはり 合法的な要するに出生に関する医療費の削減、地球資源の平等な分配みたいな、そうい うきれいな言い方で、何か障害者がいない世界は理想であるかのように死ぬときも生ま れるときも選別され、合法的選別がされることは絶対阻止しなければいけません。 それと、いろいろな受精卵の研究に関してのことなんですけれども、受精卵の研究に 反対する論理として、要するに生命はどこから生命かとか、そういう話があるんですけ れども、青い芝の会としてはそういうものとは違って、やはり障害児、障害異常児とか 重篤であれ、不治の病でその存在、生まれて生きて育っていく、そういう可能性を否定 する考え方そのものに対して反対するものであって、そういう受精卵の研究に関しても 全面的に反対します。 遺伝子診断によって発見される難病の撲滅というところにおいてですけれども、先ほ ど日本ダウン症協会の人もおっしゃいましたが、やはり脳性麻痺も20年前、30年前、重 度と言われる状態が今の社会ではもっと重度扱いされる。養護学校で特別に10倍以上の 予算を掛けて特別教材で分けられて何をやるかというとお遊戯をやったり子ども扱いで 幾らでも健常児と共に生きられるのに、そういう中で人間としての可能性、治ることが いい、悪いは関係なく、そういう共に生きる同世代の人間と関わりを持つことを最初か ら断ってしまう。それは何でかというと、やはり脳性麻痺に対する障害の認定をする医 者の見方がどんどん変化していると思うんです。30年前は脳性麻痺を手術して治療しよ うというような医者がわんさかいて、お陰で50、60の時代の脳性麻痺の人がその被害を 受けてより重度になって寝たきりになった。頸椎に損傷を起こしたりして、人為的に治 療という名の下で実験され、切り刻まれて、やはり人生を曲げられたというところにお いては医療不信は根本にあります。 だから、ポリオも小児麻痺も撲滅されたかのように吹聴され、もしもポリオが今、出 てきたら、それこそ二分脊椎と同じようにポリオを診るいい経験の医者がいないからい いケアが出来ないというふうになると思います。 そういうことで、脳性麻痺も要するに今の医療現場からしたら重篤で不治の病である というとらえ方をすればされると思うので、絶対、遺伝病もしくはそういう胎児に障害 があるからという理由で堕胎したり、中絶したり、治療的にいじくったり、そういうの は全てやめてもらいたいと思っています。 では、横田さんにあとしゃべってもらいます。 ○高久部会長  皆さんがお伺いする時間が無くなってまいりまして、短くそれでは。 ○日本脳性マヒ者協会(神奈川青い芝の会 横田会長) 青い芝の横田です。時間がないということなので簡単に言います。 今日こうやって出生前診断に対する公開ヒアリングが行われたということは一つの進 歩だと思います。しかしですね、出生前診断という障害者にとっては重大なヒアリング の場に障害当事者の団体が青い芝の会だけなんです。あとはみんな家族の方、関係者の 方なので、ここにおいてもこういう場面においても障害者は排除されていくわけですよ まして社会においては、障害を持っているということだけで、どれだけ差別を受けて いますか。これはね、障害者が悪い訳じゃないんです。障害を持つことが不幸なことだ と言われる皆さんのお考えが私たちを不幸にしているわけです。今の時代でさえ、こん なに差別、抑圧を受けているのに、もしも、出生前診断が行われたら、おなかの中で障 害があると分かった場合は恐らく95%以上障害胎児はこの世から消えていくことになる と思います。優生保護法と同じようにこの出生前診断は障害者の生存権を確実に奪って いくものだと、そういう効果がものすごく大きいんだということを、委員の皆様によく お考えいただきたいと思います。 本当はもう少し長く時間が欲しかったんだけれど、時間がないということなので、こ れで終わります。 ○高久部会長 お話にくいところをお話いただきましてどうもありがとうございました。 一応4時 ということになっておりますので余り時間はございませんが、今日は各団体の方々、御 出席いただきましてありがとうございました。せっかくの機会ですので、委員の方から 皆さん方にいろいろと時間の限りお伺いしたいと思いますが、その前にダウン症協会の 方から事務局の方に御質問がありましたので、事務局から答えていただけますか。 ○事務局 まず、団体の選定の件でございますけれども、15団体から御意見をいただいていると ころでございます。それで、今回は障害者の方、あるいはその家族の方を中心とした団 体から、それから、次回に女性を中心とした団体からヒアリングをお願いすることにし ておりまして、大体10以上、十幾つかの団体からお話を聞けるんじゃないか。私どもな るべく多くの方から意見をいただきたいと思いまして、そのような格好にさせていただ いております。 ただ、全部の団体から御意見をいただくのはなかなか困難でございましたので、全国 的な活動を行っている団体を中心に御意見を伺わせていただいております。 それから、議事録の件でございますが、大変お叱りを受けたというふうに私ども考え ておりますが、実は第4回目の議事録が先週の金曜日に出来上がりまして、インターネ ットの掲載の担当部局の方に送っているところでございますが、非常に掲載の分量等が 我々だけではなくて他の部局のものもあるものですから、もう少し時間が掛かるようで ございます。それで、実はこの議事録につきましては非常に詳細なものでありますのと それから専門用語が非常に多くてチェックなどに時間が掛かるというようなこともござ います。更に、このままでは分からないという用語につきまして事務局の方でいろいろ と工夫させていただきまして、定義とか中身についての解説を付けるというふうな膨大 な作業が伴っておりますものですから、どうしても遅れがちになったりします。 そういう欠点を何とかしたいということから、私どもの方は実は概要につきまして御 提出いただいたものをすべてその日の内に記者クラブの方を通じて広報をするという格 好で、速報性を何とか保ちたいということで努力している訳でございます。 今後も、議事録自体の公表につきましても急ぎたいというふうに考えておりまして、 実は当初よりは私ども作業が慣れてまいりましたので、だんだん掲載までの期間という のは短縮を図っているのでございますが、今後も努力させていただきたいと思いますが どうしてもそういうタイムラグが生じてしまうことを御了承いただければというような 次第でございます。 ○高久部会長 議事録は委員の方に全部お回しして、補足とか訂正をしていただいているものですか ら、そのための時間も大分掛かりまして、必ずしも事務局の手数だけではないという点 も御了解願いたいと思います。 それでは、せっかくの機会ですので委員の方からどなたか御質問がございましたらど うぞ。 ○木村委員 本日は本当にそれぞれの各団体の方々、御家族、そしてまた御本人の方々を含めて、 大変に率直で心の込もったお話をお伺い出来まして私も教えられた訳でございます。 それで、今日の御報告を全般的にお伺いしますと、全体的に技術として出生前診断を 一応は認めるけれども、現段階で臨床応用はやや早いというのがダウン症協会、それか ら青い芝の方はこの資料を見ますと遺伝子診断技術を含めてややそれについては懐疑的 であるというふうにお伺いした訳です。 それと同時に、今日お伺いしていて各団体の方々が大変に前向きに取り組まれて、例 えば筋ジストロフィーの河端さんのお話にも大変教えられた訳ですが、一番最初にお話 いただいた障害者を守る会の家族の方で北浦さんがおっしゃったことが大変私は印象に 残ったので1つだけそれをお伺いします。 赤ちゃんが生まれたらみんなで守ってあげるというふうにお医者さんが言ったと言う んですね。それで、実際は障害でない赤ちゃんがお生まれになった。赤ちゃんが生まれ たということはとってもよかったと思うんですが、どんな赤ちゃんでも生まれていいと いうふうに私も思っている訳ですけれども、北浦さん御自身が1946年に赤ちゃんをお生 みになって、そして最近もいろいろな寝返りをうったとか、そういうお話を大変感銘深 くお伺いした訳ですが、この52年の間、みんなで支えてあげるからねというような形で の状態というのは変化があったんでしょうか。 先ほど筋ジストロフィーの河端さんのお話では、厚生省を含めていろいろなところで 社会的な変革、あるいは個人的な、例えば遺伝というようなことも含めて認識の変革そ の他があったというふうにお伺いしましたが、その点、北浦さんは御自身でお子様をお 育てになって、社会的にみんなで支えてあげるからねという状況がどういうふうに変わ ってきたのか。この52年間、御自身の御体験がもしございましたら簡単にお教えいただ ければ大変にありがたいと思います。 ○全国重症心身障害児(者)を守る会(北浦会長) まず私が一番最初に運動を始めましたのが昭和36年なんです。それで、私の子供もそ のときは14歳でしたから、この子はもし私が死んだら一体どうなるかという不安で、多 くのお母さんたちがこの子を残して死ねないという気持ちで運動を始めた訳なんです。 そのころに方々にお願いに行きますと、その種痘のときに死んじゃったらよかったね とか、そういう子がいたんじゃかわいそうだねとかというのがほとんどの反応でして、 その上にそういう非常に重い障害の子どもたちを国の税金で面倒をみることは出来ない 国というのは社会復帰出来て必ず働く人間に金を出すんですよというムードだったんで す。その頃に私たちも大分ぴしっとした考え方が出来ていたものですから、もしそうで あったら一番重い人を抹殺してしまうということは、その次の人がまた抹殺されていく だから、一番底辺の人を守る社会ほどすべての人が幸せになるんじゃないんですかとい うのが反論でして、厚生大臣のところに行っても、国会議員のところに行っても、その 社会の変換というのを真剣にお話ししたんです。 つまり、日本の社会福祉というのは軽度からこう三角形に来ているんです。ですから 軽度の人が幸せで、いつもうちの子どもたちのようなものは抹殺されていた訳ですね。 それを逆転して、一番重い子どもを社会が守るということがみんなの幸せにつながると いう運動を展開した訳です。 それで、たまたまそのときが高度成長期で、佐藤総理が生命尊重論というので、それ を政治生命にしてくださったんですね。そこからどんどん対策が進みまして、国立療養 所に80か所、現在では民間施設が80か所、そしてその先生方が生活を豊かにする医療と いうことをおっしゃってくださいまして、つまり医療と福祉がいつも接点を見つけて一 緒にその子を守っていくというムードをつくっていただいた訳です。 そういう意味で今、施設も国療が80か所、民間が80か所、約1万6,000人ぐらいが施設 に入っているんですけれども、今度学校が出来ましたので学校へ行って卒業後どうする かという問題になって、今は在宅でどういうふうにケアしていくかという方向に転換し てきている訳です。ですから、その在宅支援がちょっと遅れておりますけれども、それ もだんだん徐々に変わっていくんじゃないかと思います。 ただ、そのときにただ金が欲しいからという権利の要求をするのではなくて、私たち は自分の義務は義務として果たす。それで、我々は何をなすべきか。そうしたら社会に もっと呼び掛けて、皆さんが賛同する理論の中でこの問題を進めるべきじゃないか。そ ういう考え方で、親の心得とか、いろいろつくりまして、うちには守る会の3原則とい うのがありまして、最も弱い者を守るということと、この運動に参加する者は党派を超 えること、それから争ってはいけない、争いの中に弱い子は生きられないという3原則 を決めました。ですから、職員の方たちもその3原則の中で施設の先生方と親とが車の 両輪になって運動をしているということなんです。 ですけれども、まだまだ地方に行きますとこれの格差が広くて問題はまだたくさんご ざいます。 ただ、そのときに結局社会の土壌がよくなれば親も出てくるんですね。でも、社会が 冷たいとみんな引っ込んじゃう訳なんです。ですから、社会の意識を変えていくという ことが運動の原点としては最も大切なことだと、そういういうふうに考えております。 ○高久部会長 残念ですけれどもちょうど時間になりました。本日は各団体の方々、御出席いただき まして貴重な御意見をありがとうございました。また、わずかな期間の間に御出席をお 願いして、また御意見をお伺いするようにお願いしたということに対しましておわびし たいと思います。 一応これで団体の方々からの御意見をお伺いするのは終わらせていただきまして、事 務局の方から報告を簡単によろしくお願いします。 ○事務局 お手元の資料2の部分でございます。この部会のもう一つの任務であります遺伝子治 療臨床研究関係について2点御報告をさせていただければと思います。 委員の方々のお手元にあります資料2でございますが、既に実施中であります北海道 大学におきますADA欠損症のお子さんに対する臨床研究でございますが、計画の中心 を占めておりました北海道大学医学部の小児科学教室の崎山助教授がこの度、退官され ましたことに伴いまして、研究の主柱となります実施者を当該教室の教授であります小 林邦彦教授に変更致します。実施能力等については、学内の審査委員会において審査を したということが資料として添附されております。計画そのものに変更はございません 以上、御報告申し上げます。 それから、同じ資料2の末尾のページ、8ページでございますが、前回のこの部会に おきまして口頭で御報告いたしました熊本大学におきまして研究の実施を予定しており ましたHIV感染者に対する遺伝子治療の実験的治療研究でございますけれども、これ に関しまして熊本大学医学部附属病院長から、正式に書類といたしまして、計画を断念 した旨の通報が来ておりますので、御報告申し上げます。以上、2点でございます。 ○高久部会長 私の不注意でしたが、先ほどダウン症協会の方から松田先生に御質問がありました。 それに対して松田先生は御回答されるということですので、よろしくお願いします。 ○松田委員 時間がありませんので手短にお話いたします。 実はアンケート調査を行いまして、その要旨はインターネットに載っていると思いま すけれども、これは埜中班という研究班がございまして、ここで筋ジスの方たちの遺伝 子診断についてどういう態度を持っていらっしゃるかというのを聞くために行ったアン ケート調査です。したがって、タイトルは遺伝子診断となっています。 しかし、同じような内容のこともありますので、出来たらいろいろな人の意見を伺い たいということでダウン症の親の会にもお願いした訳です。それが理由です。 それで、内容は出ておりますので、これ以上時間もございませんし申し上げませんけ れども、一言言わせてもらうというと、一般の方たちから得られた情報というよりも、 筋ジスの患者さん及び親から得られたデータというのは大変私自身には胸を打つといい ますか、大変貴重なデータだったというふうに思っています。そのことは詳しくは報告 書にまとめて厚生省に出してありますし、また筋ジスの方から近々出るというふうに言 われています文書の中にも転載という形で載せていただくことになっております。以上 です。 ○高久部会長 松田先生、どうもありがとうございました。 それでは、これで終わらせていただきます。団体の方々、本当にありがとうございま した。 最後に、事務局の方から次の日程についてお願いします。 ○事務局 今日お越しいただきました団体の皆様方、非常に時間も短く、準備期間も短くて大変 申し訳なかったというふうに考えておりますが、まだこの審議会における審議は今後も 継続される予定になっておりまして、まだ下部の団体等の御意見も十分にまとまってい なかったというような事情も多々あろうかと思いますので、どうかそういった御意見に つきまして取りまとめて事務局にお寄せいただければ、部会に資料として提出いたしま して今後の審議に反映していただけるように事務局として努力いたしたいと思いますの で、今後ともどうかひとつ貴重な御意見をよろしくお願いいたしたいと思います。 それで、日程でございますが、お手元に日程の案を一応用意してございます。次回は 3月18日にこの場所におきまして、ご意見をいただいた15団体のうちの女性団体を中心 に、また5つぐらいの団体になろうかと思いますけれども、お招きいたしまして御意見 をお聞かせいただきたいというふうに考えております。 それから第8回、4月24日でございますが、委員の先生方の中からやはり宗教的な背 景、そういったような見地からも御意見を伺っておきたいという御意見もございました し、あるいは仮にこれは都の遺伝相談員等となってございますけれども、まだこちらか らお願いしている訳ではないのでちょっと不適切だったかもしれませんが、行政関係等 でも相談をいろいろ受けている方もいらっしゃるという方から、まだこれまでお伺いし たことがございませんので、そういったところからも少し御意見をいただいてはどうか という御意見をいただいておりますので、ヒアリングとして1回追加をいたしましてこ のような格好でヒアリングをしてはいかがかというふうに考えております。 その後、9回、10回、11回、12回につきまして仮に予定を入れてございますけれども この場におきましてはまだヒアリング等をする必要もあろうかと思いますし、いろいろ な資料も集めなければいけないと思いますが、一たんここで委員の皆様方でこれまでの ヒアリングなどを基に御議論を一度していただくという趣旨で、これで決定とか、そう いうことではない訳でございますけれども、いろいろな意見を一度闘わせていただいた 上で、更に論点を明確にしていくという趣旨から3回から4回程度の審議の時間をひと まず置こうということで、こういう日程を用意いたしております。以上でございます。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。 ○木村委員 もし事務局の方で差し支えなければ、女性団体の意見聴取ということですが、現段階 でどういう団体が来られるかということをお伺いしていいでしょうか。 ○事務局 15団体の意見の概要というのをいただいている中から5団体ぐらい選びたいと思って おりますが、まだこちらから御了解を得ていないものですから、そういうことで具体的 な団体名を申し上げなかったんですが、この残りの団体の中からお願いすることにして おります。 ○高久部会長 それでは、本日はどうもありがとうございました。 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 坂本(内線3804) 電 話 (代表)03-3503-1711 (直通)03-3595-2171