97/12/11 第4回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録        第4回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 1.日 時:平成9年12月11日 (木) 14:00〜16:00 2.場 所:厚生省特別第1会議室 3.議  事:生殖医療に関する意見聴取 4.出席委員:高久史麿部会長 (委員:五十音順:敬称略)     木村利人 柴田鐵治 寺田雅昭   (専門委員:五十音順:敬称略)         入村達郎 金城清子 廣井正彦 松田一郎 森岡恭彦 山崎修道 5.出席団体:日本小児科学会   会長(理事) 松尾 宣武  理事  岡田 伸太郎 日本小児神経学会 理事長  鴨下 重彦  理事  竹下 研三 評議員  大澤 真木子 日本マス・スクリーニング学会 理事  松田 一郎  理事  北川 照男 日本先天代謝異常学会 理事(倫理問題担当) 松田一郎 日本先天異常学会 理事  黒木 良和   評議員  佐藤 孝道 ○事務局 それでは、定刻になりましたので、ただ今から第4回厚生科学審議会先端医療技術評 価部会を開催いたします。 本日は、加藤委員、曽野委員の2名の委員の方々が御欠席でございます。また、柴田 委員が少し遅れられるということでございます。 最初に、本日配付いたしました資料につきまして、種類がいろいろございますので、 事務局から簡単に御説明申し上げます。「厚生省」と書いた封筒に入った資料が本日の 意見聴取の際に使う資料でございますが、まずこれを用意いたしております。その中に は、議事次第と、それから資料といたしまして各団体からの意見の概要、それから説明 用参考資料といたしまして、日本先天代謝異常学会、日本マス・スクリーニング学会か ら御提出をいただきました資料、その3点で構成されております。それから、お手元に 二つのファイルがあろうかと思います。そのうち赤色のファイルにつきましては、前回 私どもがまとめました資料をそのまま提出させていただいたものでございます。それか ら黄色のファイルでございますが、これにつきましては、これまで意見聴取をした団体 等からの意見、あるいは文書で送られてきた意見などを綴っております。  それでは、部会長、よろしくお願いいたします。 ○高久部会長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。  本日は、生殖医療の問題につきまして、関係する団体並びに専門家の方々をお招きし て御意見を伺うことになっております。早速お話をお伺いしたいと思います。 まず、本日御出席の方々を事務局から紹介をお願いします。 ○事務局 本日は、日本小児科学会から会長の松尾先生、理事の岡田先生。日本小児神経学会か ら理事長の鴨下先生、理事の竹下先生、評議員の大澤先生。日本先天代謝異常学会から 理事であり、また当部会の専門委員でもございます松田先生。なお、松田先生には、日 本マス・スクリーニング学会の理事としても御出席していただいております。また、日 本マス・スクリーニング学会から理事の北川先生にもお越しいただいております。そし て、日本先天異常学会から理事の黒木先生、評議員の佐藤先生。以上の皆様にお越しい ただいております。なお、皆様よりあらかじめ御意見の概要をいただいておりますので 先程御説明しましたとおり、資料としてお手元にお配りしているところでございます。 どうぞよろしくお願いいたします。 ○高久部会長 今、事務局から説明がありました様に、各学会の代表の方々から20分程度お話をお伺 いいたしまして、残りの時間を委員と御出席の学会の先生方との質疑応答に使わせてい ただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。 では、まず日本小児科学会から御説明をよろしくお願いいたします。 ○日本小児科学会(岡田理事) それでは、日本小児科学会から、見解を発表させていただきたいと思います。お手元 の1ページにまとめておりますけれども、若干これに説明を付けながら進めたいと思い ます。 日本小児科学会は、ご存じのように、会員数は大変多うございますけれども、小児科 全体という専門領域の広い分野をカバーしております関係もありまして、大変残念なこ とですが、小児科医全体の生殖医療に関する問題というのはまだ認識が深いとは言えな いようでございます。それの一番大きい原因は何かというのを考えますと、情報がまだ 十分行き渡っていないんじゃないかということを考えまして、私たちも今後、情報をで きるだけ正確に各会員に伝えたいということを今回痛感しております。 ただ、小児科の側から幾つかの問題点を提起しておきたいと思いますが、それは生殖 補助医療技術がこれほど普及してまいりますと、多胎というものがかなり増加してまい ります。その際の危険性、特に子どもに与える危険性というのは非常に増えてくるだろ うということを小児科の立場からも心配をしております。また、資料の2)に付けてお りますように、近年、悪性腫瘍の治療にかなり強力な化学療法等が用いられるようにな りまして、その結果として、長期予後の中で性腺機能不全、性腺機能異常というものが かなり目立つようになってまいりました。そういったことが不妊ということをもたらす 訳でありまして、この点に関しては、今後十分議論を尽くして、その対策を講じていく 必要があるだろうというふうに考えております。 私たち小児科医にとって最も関心が深いポイントとしては、出生前診断ということで ございまして、これに関しては何回かの議論を経て、以下のような見解をまとめており ます。 まず1番といたしまして、何よりもこの件に関しましては、「当該夫婦」と書 いてございますが、これはいわゆる法律的な夫婦というのではなくて、ペアというふう に考えていただければよろしいかと思いますが、その2人の完全な自由意志というもの が基本であるべきだろうというふうに考えております。先程のことと重なりますけれど も、やはりこのためには正しい知識を客観的に与えられるようにするべきであって、現 在はそれがまだまだ不足しているというふうに考えております。どうしてもこの問題は 技術が先行してしまいまして、それに社会、倫理、あるいは法律というものが引きずら れる形にならざるを得ないということでございますので、出来るだけ知識というものを 相対的な形で学会あるいは関係者から公表をするということが必要であろうと思います こういったベースの上で、十分カウンセリングが出来るように支援体制を組んでいただ きたい。これは、やはり資格の問題が絡んでまいりますので、公的な資格というものを 出来るだけ早くつくり上げていく必要があるだろうというふうに考えます。我が国では この支援体制が非常に遅れているのではないかという懸念を持っております。その結果 いわゆるインフォームドコンセント(説明と同意)という形でこの一連の行為をきっち りと客観的に残していくということになる訳ですが、その後の個人情報というものがど んどんたまってまいります。これは言うまでもなく保護されるというのが一番大事であ るというふうに考えますけれども、ある面では、この情報を何かの形で開示していく。 例えばその家系内で開示するとか、そういった必要がどうしても出てくるというふうに 思います。その範囲あるいは条件といったことについて、出来るだけ客観的な取り決め をしておく必要があるだろうというようなことを考えております。 2番目に、出生前診断技術というものの評価でございますが、これは幾つかの方法が ございますけれども、既にかなりの方法が安全性、その他について客観的評価が可能に なっているということはご存じのとおりでございまして、私たちとしては、これを前向 きに、ただ、慎重にはしていただきたい、そして、進めていこうという方向で思ってお ります。ただ、技術的に一番最先端をいくであろうと思われる受精卵の着床前診断とい うことに関しては、まだ私たちにはそれをどう考えたらいいかということの結論を出す だけの自信がございません。安全性とか確実性については、まだ十分な評価が得られて いないのではないかというふうに思いますが、これも出来るだけ正しい知識といいます か、そういうものを出していっていただいて、皆でそれを評価出来るようにしていただ きたいというふうに思います。もう一つ、3番目に挙げてあります対象疾患の選択でご ざいますが、これは大変難しい問題だと思います。やはり時代とともに対象疾患の選択 というのはどんどん変わっていくということを前提に考えるべきであろう。そして、そ の時代の客観的なガイドラインを出していくということは大変大事だろうと思っており ます。これは、やはり疾患に対する治療、あるいは社会的なサポートというものが変わ ってくるからでございます。 4番目として、そのときに性別検査をしていいかどうかということでございますけれ ども、ここに書いておきましたように、X連鎖の遺伝病の診断ということで、やむを得 ない場合を除いては行うべきではないだろうというふうに考えております。 以上、いろいろ述べてまいりましたけれども、やはり知識の不足というのが現在どう しても目立ちますので、それを出来るだけ公表して、そして多くの人に知識を正確にと ってもらおう。そして、それを出来るだけいろいろな角度から評価して、客観的なガイ ドラインをつくって、それにのっとった生殖医療を行っていただきたいというのが日本 小児科学会の見解でございます。以上です。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、日本小児神経学会から よろしくお願いいたします。 ○日本小児神経学会(鴨下理事長) 日本小児神経学会理事長の鴨下でございます。私どもの学会は、形の上では、ただ今 お話のございました日本小児科学会の分科会の一つでございますが、会員数も 3,500名 歴史的にも古く、独自で日本医学会にも加盟をいたしておりまして、分科会の中でも一 番主要な学会とお考えいただいてよろしいと思います。私どもの学会員が診療にあたる 患者は主として脳神経系の疾患でございまして、病名で申しますと、脳性麻痺、てんか ん、あるいは精神遅滞といったものが主なものでございます。生殖医療に直接的には関 係いたしませんけれども、予後不良な疾患の出生前診断であるとか、遺伝相談であると か、そういう点で非常に深く関わっております。 今回のお話は大変急でございましたが、一応、理事会のメンバー約20人に至急アン ケートをとりまして、意識調査といいますか、その結果をまとめました。しかし、非常 に意見のばらつきがございまして、全く相反するような意見もあった訳でございますが ともかくそれをまとめたものが資料の2ページにございます見解の概要でございます。 一番専門性の高い竹下理事にこの辺をお願いいたしましたので、御説明を竹下理事にや っていただき、また、これは生殖医療で女性も当然関与すべきでありますので、大澤評 議員から補足的なことがあればお願いしたいと考えております。よろしくお願いします ○高久部会長 それでは、竹下先生、よろしくお願いします。 ○日本小児神経学会(竹下理事) 日本小児神経学会理事の竹下でございます。今、理事長がおっしゃいましたように、 私どもは疾患との関わりが大変深うございましてその立場からの考え方が出ていると思 います。一部、私の意見なども入ってくるかもしれませんが、御説明させていただきた いと思います。 理事長がおっしゃいましたように、生殖補助医療技術については、私どもの学会の理 事の中でも知識の深さに差がございまして、意見が錯綜しております。そのことがディ スカッションが始まったときに誤解を招く一番の問題ではないかというふうに思ってい ます。特に母体或るいは胎児のリスクとその後に引き続いて生じてくる問題については いろいろな考え方、いろいろな経験がございまして、一つの枠に決めるということが難 しいであろうというふうに思いますが、最低守られるべき規制の不十分なことだけにつ いては、不安を感じている理事が多かったと理解しております。商業利用については、 ここに書いてありますように、少し言葉がきつうございますが否定的な意見が多くござ いました。ただ、私自身は非常に良心的に動いておられる方もいらっしゃるということ だけは一言追加しておこうかと思っております。 出生前診断については、今、小児科学会の方からもおっしゃいましたように、進歩が 著しく日進月歩で動いておりますために、このことについて、今、意見を恒久的に言え るかといいますとなかなか言えないような気がいたします。それで、安全性と確実性、 このことが一番の枠として決められることではないかと思います。出生前診断は、遺伝 相談の過程の一つでございまして国際的に認知された行為でございます。十分なカウン セリングのもとに、クライアントの自己決定を中心にその意志を優先すべきであるとい うふうに考えます。それで、異常と診断されてからどうするかということについては、 これはクライアントと医療者側が十分協議した上でその後の行為については双方の同意 が必要であろうというふうに思います。残念ながら、ここでは患者さんの意識のレベル がございます。しかし、胎児は日一日と成長している現実が目の前にありますと、この 問題を文字で決めるということは大変難しい事例が一例一例出てきているというのが現 実ではないかというふうに思います。 それから、出生前診断と、その後にしばしば出てまいります中絶という行為でござい ますが、これは基本的に次元の異なる問題であります。私たちの国が発展途上であると いうようなこともございまして、この問題が非常に難しいところであります。具体的に 言いますと、産婦人科の先生1人でカウンセリングをして、その人で中絶をする。アメ リカでは、こういうふうに1人で何もかもやってしまうということはない訳でございま して、こういうシステムが現実に日本で行わざるを得ないという現実を理解しておくべ きだというふうに思います。中絶の問題は基本的には生命倫理の問題でございまして、 これは行政や学会が安易に結論を出せる問題ではないのではないかと思っております。 世界的な規模で、国際的に納得されるような、かつ日本人の特性として、それが国際的 にも表現出来るような形で進むべきであろうというふうに思っております。 研究利用のあり方についてでございますが、体外受精に用いなかった卵や胚を使った 研究については許容範囲について学会や行政から独立した機関で、ある程度検討しなが ら認可するといいますか、ある程度のリコメンドをするような形に移されるべきではな いかというふうに考えます。ただ、この問題は、人類の幸せにつながる可能性を持って いる領域でございますので、この領域の研究の推進については、日本が先進国の孤児に ならないように十分な配慮をしておくべきではないかというふうに思います。クライア ントが「日本は頼りない」ということで外国に解決を求めるような事態だけは避けてい きたいというのが、私たちが障害児を扱っていて家族の意見を聞いているときに、しみ じみ感じる問題であります。 その他のことでございますが、プライバシーの保護が最優先されることは当然のこと であります。また、診断技術或るいは進歩、問題点は常に公開されることが必要である というふうに思います。生殖医療を巡る問題に国がどこまで関与するかという問題につ いては、どちらかというと、クローン人間のような非常に特殊な問題についての関与は 必要であろうという意見でございました。ただ、WHOなどの国際的な規制ということ も意識すべきであろうというふうに思います。 結論として、生殖医療を求める人々というのは、日本社会の中では人数的にマイノリ ティー(少数派)でございます。彼らの持っている背景というのは個々の家庭、夫婦ご とに、一般の人たちの理解を超える深刻な悩みがございます。従って、これを多数意見 で一括して抑えるということは問題であろうというふうに思います。この問題で悩むマ イノリティーの人たちに、幸せであるような可能性を持たせた上での結論に持っていっ ていただきたいというふうに思います。ここで最も気になりますのが、例えば隠された ような事態、例えば親のない子ども達の収容施設の女の子がときどきアビュース(虐 待)されて妊娠しております。そういった数値はほとんど出てこない訳であります。経 験的に恐らく日本で毎年500を下らないだろうと推測しています。その子ども達は、施設 としては遺伝相談を受ける訳でありますが、往々にしてその主導権を握っておりますの は児童相談所でありまして、ほとんどが中絶という方向をたどっていると思います。こ ういったことに対してまでどう配慮するかというところが必要でありましょうし、また 奇形の子ども達の中絶を禁止した場合、親が育児を放棄した場合にはどうなるか。その 子に対して外科的な緊急手術が必要であっても親に親権があり、手術の可否の承諾を親 に問わざるを得ないことになります。親の決定がダラダラとなると、子どもは生後に障 害をますます増やしていく。こういったときの解決は、結局、厚生省と法務省の縦割り 行政の狭間で揺れていくことになる。奇形を持った子どもたちに対する配慮、そういっ たところまで深く配慮しながらこの問題を考えていっていただきたいというのが私の考 え方であります。 以上です。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。大澤先生、何か御追加されることがおありでしょう か。 ○日本小児神経学会(大澤評議員) 特別なことはございませんけれども、例えば出生前診断で病児であるということが判 明したとき、その後どうするかということの相談の上で最も大事なことは、病児であっ て妊娠を継続した場合、その生まれてきた子ども達が、その後どのような支援体制のも とで、どのようなケアを受けて育っていけるかということだと思っております。従って 出生前診断などの技術を進めるということと同時に、生まれてきても、その子たちが十 分にケアをされて育っていける体制を同時に整えていくということが、まず基本的に重 要なことだと思っております。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、日本先天代謝異常学会 日本マス・スクリーニング学会からの御説明をよろしくお願いいたします。 ○日本マス・スクリーニング学会(北川理事) それでは、最初に日本マス・スクリーニング学会の見解を申し上げたいと思います。 見解の概要では「日本新生児マス・スクリーニング学会」となっておりますが、正式名 称は「日本マス・スクリーニング学会」でございますので御訂正をお願いしたいと思い ます。 日本マス・スクリーニング学会は、フェニルケトン尿症(常染色体劣性の遺伝性疾患 で、高度の知能障害、赤毛、色白等のメラニン色素欠乏を来す。マススクリーニングに よる早期発見、治療が可能である。)をはじめとします治療可能な先天性代謝異常症及 び先天性甲状腺機能低下症を代表といたします治療可能な先天性の内分泌異常症の早期 発見、早期治療を目的とした学会でございます。マス・スクリーニングの方法及び発見 された症例の事後措置について研究しております。従いまして、直接、生殖医療に関係 した研究医療は行っておりません。しかしながら、主なマス・スクリーニングを代表と します疾患は遺伝病でございますので、この検査を遺伝テストとして位置付けまして、 これを巡りまして、生命倫理の立場から審議を重ねまして、その施行並びに今後の対応 などについて学会としてのガイドラインを制定いたしました。 説明用参考資料の最後に、「マス・スクリーニングの施行に関するガイドライン」と いうのが載っておりますが、これについて一番細かく立案していただきましたのは松田 先生でございますので、後程日本先天代謝異常学会のガイドラインも含めまして、松田 先生から御説明をお願いいたしたいと思います。 日本マス・スクリーニング学会として、昭和52年から行政レベルで実施されておりま す新生児マス・スクリーニングで早期発見・早期治療され、適切な治療を受け成長しま した先天性代謝異常症或るいは内分泌代謝異常の女性の方々がそろそろ生殖年齢になっ てまいりました。例えばフェニルケトン尿症などでは、正常に発育し結婚しまして、そ して妊娠するということになってまいります。このフェニルケトン尿症の女性が全く何 も治療せずに、自分の障害については治療が必要なくなってまいりますが、妊娠します と、血中のフェニルアラニンが非常に高いということから、胎児障害を起こしまして、 知能障害、発達障害、或るいは心奇形までも起こしてくる訳でございます。従って、妊 娠前から適切な治療をして、再びフェニルアラニンの少ない食事を与えて、そして血中 フェニルアラニンをなるべく正常に近くして正常な子どもを持つということが必要にな ってまいります。実際にそのように適切に妊娠中の治療を行いまして子どもを持たれた 女性も経験出来るようになっております。 私どもがこういうマス・スクリーニングをしております内分泌代謝異常、内分泌機能 異常症、先天代謝異常症のいずれの疾患も、生殖年齢になると再び適切な治療をしなけ ればならないというので、治療のガイドライン等も必要になってまいりますが、フェニ ルケトン尿症の母体の胎児障害を予防するためのガイドライン等も学会として検討して おるところでございます。ここに書きましたように、我が国では一部の妊婦の甲状腺機 能低下症のスクリーニングも、妊婦が甲状腺機能低下症であるために胎児障害を起こす というものについて予防のための研究もしておりますが、現在、日本マス・スクリーニ ング学会として行っておる生殖医療と関係のある研究は以上のとおりでございます。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、松田委員、よろしくお願いいたします。 ○松田委員 では、引き続きまして御説明いたします。日本先天代謝異常学会は、日本小児科学会 の分科会という形をとっています。従って、私どもとしては、常に日本小児科学会と密 接な関連でディスカッションを進めてきている訳ですけれども、それ以外にも、日本人 類遺伝学会とも大変密接な関係があります。この見解の概要に述べておきましたように 単一遺伝子の疾患である単一遺伝子病につきましては、一番大きな問題になってくるの は遺伝テストということになります。それについての位置付けから説明したいと思いま すので、説明参考資料の方に移っていただきたいと思います。 1ページ目をめくっていただきたいと思いますけれども、遺伝テストというのは、こ こに書きましたように、遺伝テストと生殖医学とちょうど二つの輪が重なったようなと ころに出生前診断がございます。外国では、この前に妊娠前テスト(プレコンセプショ ンテスト)というのがありますけれども、日本人の場合にはこれに相当するものはござ いません。というのは、日本人の場合は発症率が低い遺伝疾患がほとんどですので、こ れがございません。理論的には結婚前テストというのがありまして、それが行われてい る国もあります。このうちの出生前診断というのは、ここに書いてありますように生殖 医学の中の一部分を占めますが、それ以外に保因者テスト、発症前診断、それから新生 児マス・スクリーニング等があります。従って、外国では、特にアメリカなとでは、ジ ェネティックテスト(遺伝子診断)全体のエバリュエーション(評価)を行うという方 法が行われています。一つの例を申し上げますと、今年の7月にNIHから出されまし たのも、ジェネティックテストそのもののエバリュエーション(評価)のタスクフォー スから出されている次第です。従って、そういう観点から先天代謝異常を見ていきたい と思います。 次のページをお願いいたします。出生前診断にはもう一つ問題がありまして、プレネ イタル・スクリーニング(出生前診断)があります。これは、現在問題になっている母 体血清を使ったマーカーテストによるスクリーニングであります。それから、現在少し ずつ進んでまいっておりますけれども、まだ定着していませんが、母親の母体血液の中 に存在している胎児の血球を用いたテストが行われています。それから出生前診断は、 皆様、御承知のとおりでございます。特に先天代謝異常では、羊水中の酵素、ホルモン の測定、それから羊水細胞の酵素測定、それから絨毛細胞、羊水細胞を用いたDNA診 断が出てまいります。従いまして、出生前診断で問題になってくるのは、遺伝カウンセ リングと出生前診断とDNAを用いた遺伝子診断、この三つが出生前診断として大きな 問題になってくると同時に、日本先天代謝異常学会でも問題になってくる項目でありま す。現在、出生前診断として行われている主な疾患のうち、染色体異常を除きますと、 筋ジストロフィー、21ハイドロキシレースの欠損症、血友病、オルニチン欠損症など、 そこに書いてあるとおりです。 次のページをめくっていただきたいと思います。従いまして、日本人類遺伝学会と大 変密接な関係がありますので、私どもは、日本人類遺伝学会が出しました二つのガイド ライン、「遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドライン」、もう一つはDN Aを用いた「遺伝性疾患の遺伝子診断に関するガイドライン」、前者が平成6年、後者 はもっと前に出されています。少なくとも、そういう出されている二つのガイドライン を慎重に討議いたしまして、このガイドラインは、われわれの日本先天代謝異常学会で もアクセプタブルであるというふうに考えております。 その中に盛られている大きな問題は、そこに幾つかピックアップしてありますが、ま ず遺伝相談に関する問題。日本の国は、先程来ディスカッションされていますように、 まだこのシステムが十分に整っておりません。従いまして、このシステムをしっかりし なければいけないというふうに思います。 2番目は、インフォームドコンセントにつきましても、我々の日本先天代謝異常学会 も、日本人類学会と同じように情報の開示、それから署名入りのコンセントが必要だろ うというふうに考えています。その次には、「知る権利」と「知らないでいる権利」と いうのが問題でありまして、これはガイドラインの中に書いてありますので詳しい説明 は避けますが、そのことは大事にしなければいけないと思っております。それから、守 秘義務がありますが、その取り扱いと書いてありますのは、先程も問題になっておりま したけれども、ただそれを守るというだけではなくて、他者に危険が及ぶ、特に家庭内 の他者に危険が及ぶというような場合には、条件次第によってはそれを開示した方がい いのではないかということを考えております。これも、その条件その他につきましては ガイドラインの中に記載してあります。その次は、使用後のサンプルの取り扱いでござ いまして、このサンプルの取り扱いにつきましても、ガイドラインの一番最後の12項目 めに記載されてあります。 そこで、そういった問題がディスカッションされておりますけれども、実際に一般の 方たち、それからメディカル、ノンメディカル、患者さん及びその家族が出生前診断の 技術についてどのように考えていらっしゃるかということを是非知っておいていただき たいと思いますので、参考資料の後ろの方にアンケート調査を載せています。これは厚 生省の埜中班で現在進行中でございまして、来年の1月にファイナルリポートを出すこ とになっておりますが、その概要が10ページからございますので、ちょっと見ていただ きたいと思います。 対象人員は、メディカルが459名、ノンメディカルが526名、トータルで1,000名を超え ております。患者及び家族は103名、主としてドゥシャンヌ型の筋ジストロフィーの方と 無痛無感症の患者さんの家族です。ダウン症の患者さんについてはまだ行っておりませ ん。見てもらいますと分かりますが、『出生前診断技術があるのを知っている』と答え ている方が、メディカル95.4%、ノンメディカル74.7%、この間には有意な差がありま す。患者及びその家族は96.1%で、最も高い数字で出生前診断技術があることを知って いると答えています。 次のページをお願いします。『妊娠したときに遺伝相談を受けるべきと思いますか』 という質問に対し、84〜95%の方が妊娠のときに遺伝相談を受けるべきであるというふ うに思っていらっしゃいます。 次のページをお願いします。『胎児がそのような病気にかかる危険性があると知らさ れれば検査を受けたいと思いますか』という質問に対し、メディカルが93.8%、ノンメ ディカルが93.1%、そして患者及びその家族が82.5%が受けたいと思っていらっしゃい ます。 その次のページをお願いします。『遺伝病にかかっているとしても、そんなに重いも のでなく治療もある程度可能なら産みたいと思いますか』という質問に対して、メディ カルでは87.5%、ノンメディカルでは74.7%、障害の方たちの家族では82.8%が産みた いと答えていらっしゃいます。 その次、『出生前診断を受けた後、病気に罹っていて治療法がないと知らされたなら どうすると思いますか』について、それでも家族の一員として受け入れたいと思う、つ まり産んでいただいて受け入れたいと思うのが、メディカルで23.1%、ノンメディカル で11.7%、患者及び家族の場合には30.4%の方が産んでその方たちを引き受けるという ふうにおっしゃっていらっしゃいます。 次のページをお願いいたします。そこで、さらに出生前診断から妊娠中絶までの問題 を掲げておりますので、胎児は生きる権利を持っているのだから、病気ということで中 絶すべきではないという絶対中絶反対という意見の方がa。それから、産む産まないと いうのはお母さんが決めることであって、つまり女性が決めることであるというふうに 考えているのがb。どちらとも言えないのがcというふうに聞いてみますと、絶対中絶 すべきでないと考えていらっしゃる方がメディカルで16%、ノンメディカルで13.1%、 患者及び家族の方が27.2%。当然だと思いますけれども、そのような答えが出ておりま す。 その次のページをお願いします。そこで、『c.どちらとも言えない』という理由に ついて更に深くいろいろ聞いてみますと、御夫婦で話し合った方がいい。それから障害 児を受け入れる環境の問題がある、つまり環境がアクセプトであるならば産んだ方がい いのではないかという環境の問題。それから障害の程度によって変わるのではないか。 実際に自分が直面しないと分からない。障害児と分かれば中絶した方がよいとかなり強 い意見を持っていらっしゃる方がいらっしゃいまして、それは下の方の表を見てもらえ ば分かりますが、患者及びその家族の中に3名いらっしゃいます。この意見は他のグ ループにはいらっしゃいません。つまり患者さんを抱えている方たちの中にはかなり深 刻に悩んでいる方がいらっしゃって、このような病気の子どもがいることを大変悩んで いらっしゃる方が現実にいらっしゃるということだと思います。 その次、日本では、中絶に関しましては現在、優生保護法がなくなって母体保護法に なっています。『日本では理由なく妊娠中絶することは堕胎罪になります。出生前診断 後の中絶は法律では明確にされていません。法律に「胎児が重い病気に罹っていると き」という項目を設けるべきだと思いますか』について聞きました。法律などできちん と条項を出した方がよいと考えていらっしゃる方がa。それから、法律を変える前にも っと出生前診断、妊娠中絶について討議をした方がよいと考える方がb。これまでやっ てきたのだから、今のままでいいじゃないかと考える方がc。実に 5.5、 5.5、 7.9% のわずかな方たちが現在の法律のままでいいというふうに考えていらっしゃいます。法 律などできちんとした方がいいと考えられている方が、メディカルで21.6%、ノンメデ ィカルで28.2%、患者家族でも26.3%の方がそう思っていらっしゃいます。 次のページをお願いします。『「遺伝病」と聞くとどのような印象を持ちますか』と いうことについて伺いましたが、一番多いのはcでして、結婚して、もし遺伝病の子ど もが生まれたら困ると思うということに○を付けていらっしゃる方が多いと思います。 その次、『遺伝子検査について、その検査を受ける人の立場でお考えください』とい うことで、『病気のことを説明してもらうのに、口頭のみではなく書いたものがほしい か』ということを聞きますと、実に95%弱の方が当然、口頭のみではなくて書いたもの で説明してほしいというふうに答えています。 その次のページをお願いします。そのときにリトゥン・コンセント(書面による承 諾)が要るかどうかというと、メディカルが87.7%、ノンメディカルが81.2%、患者及 びその家族は84.3%の方がサインの入ったものが必要である、つまりリトゥン・インフ ォームドコンセントでなければいけないというふうに答えています。 それから、今度は守秘義務の問題ですが、『あなたが遺伝子検査を受けた結果を家族 の方に知らせるべきだと思いますか。もしも何か遺伝子の変異があった場合、そのこと を家族に伝えるべきだと思いますか』という質問に対して、aが「はい」で、メディカ ルは42.7%が伝えるべきであると。ノンメディカルは57.4%、障害の方はむしろ非常に 高くて、68%の方がもしも変異遺伝子が見つかった場合には家族に伝えるべきであると いうふうに答えていらっしゃいます。 その次、今度は『遺伝子検査の結果を結婚する相手の方に伝えるべきだと思います か』という質問に対しましては、メディカルが49.9%、ノンメディカルが55.2%、障害 及びその家族は67%の方が結婚相手に伝えるべきだというふうに答えていらっしゃいま す。 その次にいきます。遺伝子検査について、受ける人の立場でお考えくださいというこ とで、検査後の組織などのサンプルの保存の問題です。かなりの方が保存した方がよい と答えていらっしゃいますが、その次のページを見ていただきますと分かりますように 保存するにしても、きちんとした説明をしてほしい。説明をした上ならば保存してもよ いというふうに答えています。 また、それに対して、前もって説明してほしいという方が次のページに出てまいりま すし、ほとんどの方がbの前もって説明した方がいいと答えています。つまり保存する にしても、遺伝子の診断が終わった後のサンプルにしても、前もってこれは保存する必 要があるから保存するという説明を受けた上でしてほしいということだと思います。 時間がありませんのでそろそろやめたいと思いますが、このようにかなりの方たちが この問題について真剣に考えていらっしゃるというふうに答えることが出来るだろうと 思います。 続きまして、日本マス・スクリーニング学会からの説明をさせていただきたいと思い ます。先程差し上げました参考資料の3ページ目の一番上に書いてありますが、日本マ ス・スクリーニング学会では、先程北川先生から紹介がありましたように、独自のガイ ドラインをつくりました。これは、一つはアメリカから出されている、ここに持ってま いりましたけれども、大統領の諮問機関として出されました「スクリーニング・アン ド・カウンセリング・フォー・ジェネティックコンディション」とか、ここに書いてい ますCIOMS(Council International Of Medical Sciences)の「エシックス・アン ド・エピディミオロジー・インタナショナル・ガイドライン」、こういったものを参考 にして、ディスカッションの上つくったものであります。 これは現在、日本の国の新生児マス・スクリーニングというのは自由意志によって参 加することになっています。アメリカでは、メリーランド州だけがそうでありまして、 他の州は全部強制的にスクリーニング検査が入ることになっています。しかし、日本の 国はそうではなくて、自由意志ということになっています。 それから、一つの大きな問題は、このマス・スクリーニングに使った後の血液サンプ ルであります。これを外国ではDNAバンクとして使っているところもたくさんある訳 ですけれども、これをどのように使うのがいいのかという問題をディスカッションしま して、それが「マス・スクリーニングの施行に関するガイドライン」の1.3)に記載 されています。『検査検体は、本来の目的以外に使用してはならない。ただし、次の2 つの条件を満たす場合には、研究者が所属する施設の倫理委員会(または日本マス・ス クリーニング学会倫理審査委員会)、及び自治体(マス・スクリーニング委員会)』で 認められた場合は使っていいだろうとしています。一つは、『その目的が医学の進歩発 展のための調査・研究である場合』、もう一つは『個人名及び個人情報に関する部分は 削除された状態で提供される場合』というふうに私どもは考えています。 もう一つの問題は、新しいスクリーニング法を今後はやらせていく場合ですが、その 場合にはどのようにしなければいけないかということを2.から3.にかけて書いてあ ります。直接生殖医療の問題には関係しませんけれども、非常に密接な関係があります し、先程北川先生からお話がありましたように、子どもたちが大きくなったときに必ず 遺伝性疾患を抱えた患者さんが直接対象となる生殖医療が問題になりますので、決して 今日のディスカッションと無縁ではないというふうに考えています。 以上です。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、日本先天異常学会の方 から御説明よろしくお願いいたします。 ○日本先天異常学会(黒木理事) 日本先天異常学会理事の黒木でございます。日本先天異常学会としての公式の見解を 取りまとめる時間的な余裕がありませんでしたので、今回は、ここに出席しております 私と佐藤、それから二、三の理事で検討した結果を出しております。従いまして、学会 の公式見解ではないことをまずお断りします。それから、私が主に説明いたしますが、 生殖補助医療であるとか、あるいは受精卵の利用など、産婦人科に関わることが多いの で、補足があれば佐藤先生からまた補足をしていただきます。最初の生殖補助医療技術 に関しましては、日本産科婦人科学会等の見解が出ておりまして、これが妥当なものだ と考えております。ただ、今まで御指摘されておりますように、多胎妊娠が増えるとい うことがありまして、この多胎妊娠率を低下させるという努力は大変必要です。それか らもう一つは、生殖補助医療技術というのはどんどん進歩します。このこと自体は悪い ことではございませんが、例えば卵子に穴をあけて入れる、あるいは精巣の中からまだ 未熟な精子を取り出して受精させるなどの方法もございますので、そのことが自然選択 (ナチュラル・セレクション)を減弱させる可能性があります。この辺を注意する必要 があるだろうと考えます。それから、こういう先端医療技術を応用する場合に、患者に 十分情報を提供し、また、十分な遺伝カウンセリングを事前にやるということ、そのた めの体制を整えることが非常に不可欠であるというふうに考えられます。また、確立さ れていない生殖補助医療、先程言いましたようなものですが、この実施にあたっては症 例ごとにきちんとした審議をする必要があるだろうというふうに思います。 2番目に出生前診断でございますが、基本的には、これも私たちの学会も日本人類遺 伝学会等とかなりオーパーラップしておりますので、日本人類遺伝学会のガイドライン がいいのではないかと考えます。また、同じように暫定的ではございますが、WHOが ガイドラインも大変参考になると考えております。現在、我が国で行われております出 生前診断としては、羊水検査、絨毛検査、胎児血検査、それに超音波検査などがござい まして、いずれも確立されたもので、安全性も十分あると思いますけれども、これに関 しましては、厚生省の研究班が日本の実態を調べております。これは、ここにいらっし ゃる松田先生を班長とする「出生前診断の実態に関する研究」というのが進んでおりま すので、その結果に注目したいと思っております。 出生前診断の運用にあたっては、まず原則として医療における倫理原則というのがご ざいます。これは別に生殖医療に限ったものではございませんが、これを遵守するとい うことがまず大前提で、それと人の多様性、これは障害があるとかないということだけ ではなくて、いろいろな決断をする、その行動の多様性を含めて尊重することが必要で あるというのが前提であります。そして、出生前診断適応条件についてはかなり厳しい 基準を設ける。その基準というのは、まず出生前診断が確実に出来、そして、精度が高 いということが第1にあります。それから、胎児が重篤な遺伝性疾患等に罹患している 可能性がかなり高い。この重篤というものが実はかなりあいまいなものでございますが どちらかというと、患者側の判断で重篤ということでございます。我々としては、致死 的なもの、或るいは治療法がないものというのを原則としますが、当事者の判断という ものがかなり大きなウェートを占めます。そして、適切で十分な検査前のカウンセリン グがなされた上で、決断をするのはあくまでもクライアントといいますか、被検者の自 主的な判断で出生前診断が強く希望される場合に出生前診断はなされるべきであろうと 思っております。 検査前のカウンセリングでは、検査そのものに関する説明、それから精度と限界、危 険性、そしてクライアントがどういう方法をとれるかという選択肢を説明しまして、そ れぞれの利害得失といいますか、メリット・デメリットなどを十分話すということはも ちろんですが、それと同時に、予想される疾患の生命予後であるとか、臨床経過などの ナチュラルヒストリーをきちんと説明致します。それから、治療法があるのかないのか その疾患を巡っての社会の支援体制などがどうなっているかなどの疾患を取り巻く総合 的な情報を提供して、クライアントが自主的に問題解決のための決断が出来るように支 援する、ということが前提になります。 検査結果に関しては、すべてクライアントに開示されることを原則とはしますが、や はり出生前診断をやっている時というのは、当事者は心理的にも非常に不安定で揺れ動 いております。羊水検査を受けた後でも、結果を聞きたくないという場合があります。 ですから、クライアントの知る権利、知りたくない権利、どちらも重視されなければい けないと思っております。検査結果は当然、個人情報に入りますので守秘義務の対象と なります。特に、この結果が何らかの差別に利用されるようなことがあると絶対にいけ ませんので、これを慎重に配慮する必要があると思います。検査結果を告知した後でも 産むとか産まないとか、その他いろいろな選択があると思いますが、この決定はクライ アントの自主的判断に任せるべきで、その決定に主治医やカウンセラーが関与してはな らないということであります。 それから、遺伝スクリーニングのことですが、不特定多数の妊婦を対象にしたスク リーニング検査を行うべきではないというふうに感じています。例えば最近、母体血清 マーカーの問題がありましたが、トリプルマーカーなどで、どういう検査をやるのか。 実態、あるいはその結果が何を意味するのかということの説明も十分なされないままに それが商業ベースで進んでいる場合もあります。その結果、当事者に非常に大きなマイ ナスといいますか、被害が起こっていることもございますので、この辺を十分考える必 要があります。検査対象は厳密に選んで、そして事前の適切で、かつ十分なカウンセリ ングを行わないとだめであるということです。それから、男女の生み分けというか、性 だけのチェックは原則的に行うべきではありません。先程日本小児科学会からも説明が あったのと同じでございます。出生前診断というものは、本来、個人の利益のためのみ であって、優生学的な目的には絶対に用いないというのは当然でございます。 そういうことの前提として、下に書いておりますが、「出生前診断が公平に普及・発 展するための背景として、社会に先天異常を持つ人に対する差別がないこと、社会的支 援が十分に行われていること、先天異常や遺伝などについて適切な教育が行われている こと」等が必要であろうと思います。この適切な教育といいますのは、医学部教育の中 でも遺伝医療・医学研究の倫理などをきちんと教育されるべきであろうと思っておりま す。そういうことで、ガイドライン等の作成にあたっては、障害者団体あるいはサポー トグループの意見をも十分取り入れることが必要であると考えます。 次のページをあけていただきますと、研究利用のあり方について述べてあります。受 精卵の実験的使用については、これも日本産科婦人科学会から一応見解が出ております が、これらの配偶子や初期胚を用いる研究というものはやはり学会の指定した書式に順 じて報告する義務がある、これは当然であろうと思います。それで、2週間以内という ことも限定されているようであります。これについてもし追加があれば、後で佐藤先生 からお願いします。 その他として、生殖医療に関わる守秘義務というものは十分遵守されるべきでありま す。特に第三者による本人の差別に利用されることがないように注意する必要がありま す。得られた情報を伝えないことで、その家族或いは家系の中に重大な結果をもたらす 可能性があり、これを伝えることによってそれを防止できるようなときは、それを開示 することが出来ると考えております。ただ、守秘義務の解除というものは、1人の主治 医、あるいは1人のカウンセラーが下すものではなくて、然るべき倫理委員会などの議 を経て、開示することが本当に妥当であるかという慎重な議論が必要であると思います 生殖医療や遺伝カウンセリングに実際に国や地方自治体が関与すべきかどうかという問 題は、これはノーだと考えております。ただ、これらの機関が先端医療技術の倫理基準 の作成であるとか、あるいは、これに対する情報センター的な役割を担うことについて は大変いいことだろうと考えております。 以上です。 ○高久部会長 佐藤先生、どうぞ。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 1点だけ追加をさせていただきたいと思います。基本的には黒木先生が言われたとお りでございますけれども、人間の多様性の尊重というのはこれからの時代、非常に大事 なことだと思うのですが、そのために自主決定ということが言われていて、どの学会も 尊重しようというようなことになっていると思うんです。それから、そのためのインフ ォームドコンセントの重要性ということに関しても、私も全く異論はございません。 ただ、現状で一つの非常に大きな問題というのは、インフォメーションの内容に問題 があるということだと思います。具体的に言いますと、インフォメーションというのは 誰かが集めるというステップがあって、その集められたものが医者に届けられて、医者 から患者さんに説明をされるということがあると思うんです。例えば最初のステップの ところで言いますと、無月経の患者さんの中に性染色体異常の患者さんがどの程度いる かという情報はあっても、実際に性染色体異常の方が100人生まれたときに、その方々が どういうような発育をしているかということに関する情報というのは非常に限られてお ります。最初のステップではそういうところに問題があります。 それから、集められた情報が例えば特定の学会誌に出ることがありますが、一般の第 一線でカウンセリングをやっている医者のところにはその情報がなかなか配達されない というか、届かないというふうな問題があります。また、そこに企業が絡んできますと 企業は自分に都合のいいデータしか流さないという問題が実際にはございます。だから そこにも問題があります。 それからもう一つは、情報を受け取った医者から今度は患者さんにいくところになり ますと、これは、例えばノンディレクティブ(非指示的)なカウンセリングをやろうと いうようなことになっている訳ですけれども、そういうふうなカウンセリングの仕方に ついて医師がトレーニングを受ける機会が非常に限られている。それから、カウンセリ ングそのものに関するトレーニングも非常に限られているというようなことがあります ですから、インフォームドコンセントというのは非常に大事であります。それから出生 前診断にしろ、生殖補助医療技術にしろ、その枠組みを決めるということも非常に大事 ですけれども、やはり現状の問題点をはっきりと認識をした上で問題を解決していかな いといけないんじゃないかというふうに考えております。 以上です。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。各学会の先生方からいろいろ御意見を伺いました。 お願いしてからの時間が非常に短かくて、先生方がいろいろ御苦労されて情報を集めら れたということでありまして、その点について御礼申し上げたいと思います。幸い、あ と1時間ほど時間がありますので、我々の方から学会の先生方にいろいろ質問し、教え ていただきたいと思います。また、出席の先生方の間でも御意見をいろいろ交わしてい ただければと思います。まず最初に、学会の先生方に対して委員の方々から何か御質問 がおありでしたらよろしくお願いします。 ○木村委員 どうもありがとうございました。大変貴重な御見解をいろいろお伺いすることが出来 ましてありがたく思いました。一番最後の佐藤先生の御報告の中でも触れておられまし たが、特定の学会誌に出て、なかなか一般に情報が行き渡らないということに問題があ ると思います。これは、図らずも一番最初に岡田先生からなかなか情報が行き渡らない ところに問題があるというようなお話があったこととも重なってくることだと思います そのことに関連しまして、何が一番大きい理由で情報が行き渡らないのかということで ございます。私もアメリカ、スイス、いろいろな国に住んだのですが、先進医療諸国に おきましては、例えば卒後や認定医の研修を義務付けまして、日本小児科学会のような ところでは単位を義務づけるような新しい新進医療についてのフォローアップの教育を していると思いますが、日本小児科学会としては、そういうようなことを今まで多分お やりになっているかと思うんです。そういうことの具体的な状況と、それから、そうい う知識不足に伴うフォローアップを具体的にどういうふうに今までおやりになってきた のかという点をお伺いしたいと思います。これは日本医師会としても対応が非常に難し いところだと思うのですが、日本小児科学会というのも恐らく専門医としての認定をし ているのだと思います。そこで第一にその点に関連して現状をお伺いしたいと思います それから、前回の当部会で、日本医師会並びに日本産科婦人科学会その他から御報告 いただいた中にございましたけれども、それぞれの学会が倫理委員会を、これはいろい ろな問題がございますけれども、理事会の中の特定の委員だけの倫理委員会とか、公開 されていない倫理委員会とか、医師外の部外者を入れた倫理委員会とか、そういうこと がほとんどないという状況もあるということでございましたが、本日御出席の先生方、 特に一番最初の非常に重要な日本の小児科の専門医のほとんどの方が参加していらっし ゃる日本小児科学会としては、そういう倫理委員会というのがもしございましたら、ど ういうメンバーで、今までどういうことをなされたか。この2点につきまして、お話を お伺いしたいと思います。 ○日本小児科学会(松尾会長) 最初の御質問の研修のことですけれども、日本小児科学界は学会が認定いたしました 研修施設において卒後4年間の臨床研修を行うことを若い小児科医に求めております。 この初期研修終了後、学会認定医試験を受験する資格が与えられます。認定医試験は筆 記・口頭試験によりますが、この試験制度を5年前に導入いたしました。その中で、こ ういう関連の問題も当然試験の問題になりますし、研修の達成目標というところに入っ ておりますので、ある程度はカバーされていると思います。 それから、2番目の倫理委員会の問題でございますが、日本小児科学会の理事会が倫 理問題を討議する一つの場所になっており、様々の問題を議論して参りました。この中 に外部の委員を導入する必要があるということは数年来議論をしておりますけれども、 現在、実行はされておりません。今日報告いたしました岡田理事が中心になって倫理問 題を検討させていただいております。 ○高久部会長 他にどなたか。 ○松田委員 今、大変大事なところを御指摘いただいたと思いますけれども、まず遺伝という問題 を考えると、これだけ遺伝という問題が大きくなってきているにも関わらず、医学部の 中に臨床遺伝学の講座を持っているところがほとんどありません。これは大きな問題だ と思います。また、当然、看護婦さんたちの学校と思っていいと思いますが、看護学部 とか看護学校、こういうところでも恐らくカリキュラムの中に遺伝というのが入ってい るかどうか問題があると思いますし、それから最近、社会福祉学部というのが結構あち こちに出てきていますが、その中でも多分教えていないだろうと思います。従って、遺 伝学そのものを基礎からしっかり教えるためのカリキュラム、そういったものが医療関 係の教科として定着させるということがまず大きな問題だと思います。これは、例えば 大学の設置審議委員会の中で、いろいろ学部がありますけれども、医学部に関して言え ば、解剖病理学とか生化学等ありますけれどもそこに遺伝というものはありません。こ れは、これからは是非ともしなければいけない問題だろうというふうに思っています。 それから、倫理委員会の問題ですが、日本人類遺伝学会は倫理委員会という名前を使 っておりませんで、一番最初に遺伝相談、それから出生前診断に関する委員会というも のをつくりました。これで今まで二つガイドラインをつくりましたけれども、先生のお っしゃるように、これから倫理審議委員会に名前を変えることになりまして、それにつ きましても外部の方に入っていただこうということになりまして、現在その方たちにお 手紙を差し上げて、入っていただくようにお願いしているところです。それに基づきま して、今度は改めて倫理審議委員会という名前をつくりまして、そのもとで今出されて いるトリプルマーカーの問題についてのディスカッションをしようというふうに今、準 備中でございます。 以上です。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。私の方から一つお伺いしたいのですが、これはどな たでも良いのですが、黒木先生の日本先天異常学会の御見解のところで、「検査結果告 知後の生殖行動(産む・産まないなど)の決定は、クライアントの自主的判断に任せる べきで」というふうに書かれております。私もそう思うのですが、クライアントが産ま ないと決定をしたときに、ドクターは堕胎罪に問われることを覚悟して人工流産をやる のかということです。実際には別な理由を見つけておられるのでしょうが、現実にはど ういうことが行われているのか。これは産婦人科の先生の方がお詳しいと思うのですが ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 今、先生がおっしゃられたことは、母胎保護法では21週のおしまいまでは、母体の身 体的・経済的な理由によって中絶が可能な訳ですね。妊娠21週のおしまいよりも以前の 時期の話ではなくて、それ以降の話ですか。それより以前の話であれば、法律的にはお 母さんの身体的・経済的理由にあてはめて中絶が行われているということです。 ○高久部会長 お母さんのことを理由にして人工妊娠中絶をしている訳ですね。その後になりますと ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 妊娠22週以降は法律的に人工妊娠中絶は出来ません。 ○高久部会長 やらない訳ですかね。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) はい。 ○高久部会長 分かりました。 ○金城委員 それに関連してですけれども、どうしても両親は産みたくないと思われる場合もある かと思います。その前に、21週未満で障害のある可能性がきちんと分かるケースは何% ぐらいでしょうか。21週を過ぎて初めて分かるというようなケースがあるのかどうかと いうことです。それについてはいかがでしょうか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 多分、その正確な数値というのはどこにも出ていないし、私もよく分かりませんけれ ども、単に印象で申し上げて申し訳ないんですが、よく調べれば分かるというのがあり ますよね。それから、単に調べなかったから分からない、後になって調べたら分かった というのもあるかと思うので、全体の把握は非常に難しいかと思うんですが、例えば 100人ぐらい先天異常のお子さんが生まれるとすると、これは廣井先生に少し追加してい ただけると助かるのですが、多分、20〜30人ぐらいは中絶可能な時期に見つかり得るん じゃないか。それから、残りのもっと圧倒的に多い部分は後になって気づくという形だ と思います。どちらかというと、実際には調べなかったということと、調べても気がつ かなかったということの両方が重なって、わりと後になるまで分からないという方が圧 倒的に多いと思います。 ○金城委員 そちらの方が多いんですか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) はい。 ○金城委員 では、そういう場合に、現状では出生前診断をして分かっても、もう中絶可能期間で はないということで、産まざるをえないケースが非常に多いということですか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 産まざるをえないということになると思います。ただ、例えばこういう場合があり得 るかと思うんですが、お腹の中にいるときに腹水がたまってきた、あるいは胸水がたま ってきて、お腹の中に胎児を置いておくことが非常に危険であるというふうな可能性が あるときには、出して治療をするという可能性がありますよね。だから、必ずしも全部 が全部、満期までいかないといけないんだということではないと思うんです。現実的に 難しい対応を迫られる問題は、提示が致死的な疾患である可能性が高い場合ですね。つ まり、致死的な疾患である可能性が高いと考えられるが、確定診断がつかないような場 合です。間違いなく致死的な疾患と診断される場合、例えば無脳症の場合は、妊娠22週 を過ぎていても人工妊娠中絶を行うことは、母体保護法でも可能です。母体保護法では 「人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に 人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出する」こととなっており、その「生命を 保続できる」一応の限界として妊娠21週の末というラインがあるわけです。しかし、こ のラインは、厚生事務次官通達によって個々の事例について客観的に決めることが出来 ます。つまり、無脳症の場合は、妊娠のどの時期であっても母体外では生命を保持でき ないので、人工妊娠中絶が可能ということになります。困るのはむしろ確定診断がつか ない、或いは生命予後が推定できないような場合です。 ○金城委員 そうすると、胎児条項などということについてはどういうふうにお考えでしょうか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 胎児条項に関して言いますと、一般的に言えることは、例えば「重篤な疾患」という ふうに言っても、これを定義づけることは非常に難しい。皆さん言っておられるように 自主決定にしようというふうなことになりますと、重篤さということに関しても、ある 意味で言うとそれぞれのカップルが判断をするということになります。それを法律的に 胎児条項という形で定義するのは非常に難しいというふうに思っております。 ○廣井委員 この問題についてちょっと追加いたしますと、胎児の異常が発見されるのは多くは21 週以降の妊娠後半期でないかと思います。ですから、例えば35歳を過ぎたり、或いは体 外受精などをしてやっと妊娠したという者に対しての特別な例については羊水検査とか 絨毛検査などを勧めますけれども、殆どの例は超音波でお腹の上を診ておかしいという ことに気づくというので、21週以降がかなり多くなってしまうだろうということです。 先程金城委員が言われましたように、ある面では胎児条項というのがあった方が、母体 保護法その他について大変実際的な面もあるのではないかと思います。例えば無脳症で 全然生きていけないということが判っていながら末期まで持ってこなければならないの は非常に問題点が多いのも事実でございます。 ○高久部会長 他にどなたか。これは岡田先生にお伺いしたいのですが、受精卵の着床前診断は、確 か去年か一昨年の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」にかなり多 数の受精卵の着床前診断をして戻して、6割ぐらいが生まれて、異常はなかったという 報告があったと思うのですが、それでもまだ受精卵の着床前診断では安全性、確実性に ついて問題があるというふうに考えておられるのでしょうか。 ○日本小児科学会(岡田理事) 確かに先生がおっしゃったトライアルがありまして、非常にうまくいったということ は私も承知しております。ただ、他のテクノロジーに比べまして、圧倒的にまだ未開拓 といいますか、症例数はそれほど多くありません。何といいましても対象になる疾患も 限られておりまして、日本で考えても、どれぐらいそれを積極的にやって、例数を重ね られるかということについては私も疑問です。ですから、理論的にはもちろん私も安全 性があると思っておりますけれども、実際にということになると、どうしても感情的に 少し危なっかしいんじゃないかという感じが拭えないものですから、ああいう表現にさ せていただきました。 ○高久部会長 他にどなたかご質問は。 ○木村委員 竹下先生にちょっとお伺いしたいんですけれども、大変具体的に詳しい内容で御報告 いただいた訳ですが、障害児との関わりが大変多いということがよく理解できました。 そこで、具体的に障害児という場合の病名な何でしょうか。それから、先生のお話の中 で年間500件はチャイルドアビューズ(幼児虐待)、或るいはインファントアビューズ (乳児虐待)によるいろいろな妊娠の問題があって、データには出てこないけれども、 これが倫理的な問題と重なってくるということでした。これはインセスト(近親相姦) 或るいはレイプということになるかと思うんです。刑事事件にもなるかと思うんですけ れども、そういう場合、これは全くの予想ですけれども、加害者というのはどういうこ とになっているのか。先生の方でもし何かそういうことについてのコメントがございま したら、これは大事な問題ですので、是非お伺いしたいと思います。 ○日本小児神経学会(竹下理事) 最初の病名でございますが、後の方の御質問とも関係いたしますが、脳性麻痺で知的 にいい方の場合は自分の自己決定が出来ますし、進行性脊髄疾患などの方も自分の自己 決定が出来ますのでいいんですが、一番の問題は、やはり自己決定の出来ない方々に対 してどう対応するのかというのが一番の具体例であります。その方々は、精神遅滞の 方々であります。それで、先程のアビュースの問題でありますが、要するに被害を受け た方が自分で訴えることが出来るだけの知的な能力を持っておられる場合には、ほとん ど我々の前には出てこられません。ほとんど刑事的なレベルで話が動いておりまして、 示談にしろ訴えにしろはっきりとしたルートで動いております。一番の問題は、軽い精 神遅滞といいますか、実際に外に出て行ける、簡単な就労も出来る、そういった方々が 隠された形でアビュースされた場合には、先程、金城先生から御質問が出ましたように 発見するのも遅れます。これは非常に困った問題でありまして、いろいろな地域で主と して福祉関係の方々の中にそういったことを担当しているエキスパートがおられるかと 思います。私どもの地域の場合にはほとんど私の前に連れて来られます。私自身は割に 相手が特定できるのでジェネティックな背景をいろいろ聞いています。その後は、自己 決定能力が多くはない訳でありまして、結局そこの施設の方々と相談をしたりしてやっ ております。以前は、ほとんどが児童相談所の方と園医との相談によって処理されてい ただろうというふうに思います。 出生前診断で更に遺伝相談の立場から異常の可能性の高い場合には本当に悩みます。 どうしても流産にもっていかざるを得ないときには、妊娠週数を変更せざるを得ないこ ともあり得るようです。 遺伝的に問題がほとんどない場合には積極的に施設の方々を説得して、あるいは行政 を説得して産む方向で動きます。そういうケースが恐らく我が国で年間最低500は生じて いるのではないかと推定しております。 ○木村委員 その場合の遺伝的な病気の症状は具体的にどういうことになるんですか。 ○日本小児神経学会(竹下理事) 精神遅滞の場合は、身体上にはほとんど何も出てまいりません。染色体異常が稀に入 っておりますので、染色体異常の検索をするだけで、後は超音波で奇形があるかないか ということだけに絞られてまいります。 ○木村委員 その場合の奇形というのは、いわゆる四肢などですか。 ○日本小児神経学会(竹下理事) そうです。一番はっきり分かるのは水頭症です。脳の中が障害を明らかに受けている という水頭症の場合とか、二分脊椎の場合。あと、四肢の奇形がありますけれども、四 肢の奇形はほとんど分かりませんで、アビュースを受けた女性の持っている奇形に似た 奇形がないかという選択的な方向でそこを調べることはあります。例えば女性の手に幾 つかの奇形があった場合には、選択的にそこをチェックしてくれというふうなことにな ると思います。 ○高久部会長 竹下先生にお伺いしたいのですが、先天代謝異常の方のカウンセリングが小児科の先 生にとっては非常に大変であるということは聞いておりますし、私も、ある病院でそれ を専門にやっている小児科のドクターは、カウンセリングのために非常な時間を取られ て、しかも日常の診療と両方あるために、プライバシーはほとんどないというふうなこ とを聞いて非常に大変だと思ったのですが、どういう方がカウンセリングをやったらい いか。そういう職業の人が本当はあるべきではないかと思うのですが、どういう方がカ ウンセリングをすれば、こういう問題が今よりはもっとスムーズに出来るというふうに お考えですか。もしお考えがあったら教えていただきたいと思います。 ○日本小児神経学会(竹下理事) これは、既に日本人類遺伝学会でカウンセリングをするための認定をやっておられま すし、そういうカウンセラーを育てる施設も指定しておられます。そういうところで教 育していくのが、我が国では原則であろうというふうに私は思っております。 ○高久部会長 それは、メディカルドクターですか。 ○日本小児神経学会(竹下理事) 私は、それは必ずしもメディカルドクターにこだわる必要はないと思いますが、現在 は、まだメディカルドクターに制限されていますね。アメリカあたりでは、もうメディ カルドクターにこだわっておりませんので、私自身はメディカルドクターにこだわる必 要はないというふうに思います。 ○日本先天異常学会(黒木理事) ちょっと追加でよろしいですか。今の問題ですが、日本人類遺伝学会では、遺伝カウ ンセラー制度をつくるという動きをしておりますが、そこの中では遺伝カウンセリング の中心にはやはりメディカルドクターがいます。しかしながら、当然それと共同して行 うのは、ノンメディカルドクターのカウンセラーも考えられます。といいますのは、ど うしてもドクター、あるいは主治医というものと患者との関係よりは、少し距離のある 立場の方が遺伝カウンセリングに関与するということは非常に重要である。それは心理 の人であったり、さまざまな職業が考えられると思います。そのためには、やはりきち んとした教育をしていく必要があると考えています。 ○高久部会長 カウンセリングが保険の点数に入っていないため、やればやるほど病院の方は大変で 赤字になりますね。 ○日本先天異常学会(黒木理事) そうなんです。 ○入村委員 2点ほど質問があるんですが、一つは黒木先生に、御見解の概要の中に「自然選択の 減弱による先天異常の増加に留意する必要がある。」とございます。この委員会は、先 回は、どちらかといえば生殖補助医療技術の方に関する話が主だったんですが、こうい う点は実は今まで出てきていなかったんですが、具体的にこういうことが予想されると いうことなんでしょうか。 ○日本先天異常学会(黒木理事) 例えば未熟な精子を使って受精をするような場合、普通、精子のもつ奇形であるとか 或るいは染色体異常というのはかなり高い確率でございます。しかし、一般の受精の場 合には、正に生存競争で受精出来る精子というのは限られてきます。運動性もいいし、 すべてに健全な精子というものが受精に関与します。しかし、精巣内穿刺法でやるとか そういうものでは当然すべての精子というものが関与する可能性があります。ただ、そ れに関しては、ヨーロッパの方でかなりデータを蓄積しつつございますが、まだ数が多 くありませんので、統計的にどうであるかということはまだ難しいと思いますが、理論 的には明らかにそれは異常が起こる可能性があります。それからもう一つは、メカニカ ルといいますか、機械的に卵に傷をつける、あるいは精子を取り出すこともそうですが そのようなことが減数分裂とか細胞分裂そのものに障害を与える可能性もございますの で。 ○入村委員 今のお話は、やったその回に異常が起こるということだと思うんですけれども、これ に関しては、第2回当部会のときに事務局から御報告があって、確かそういう事実はな いということだったような気がするんです。このコメントは、そうじゃなくて、自然選 択ということですから、一般にそういうことでやられた者から生まれた者に異常がなく ても、何らかのセレクションがかかっていて、それが次の代、またその次の代に伝わっ ていく可能性がある、そういうニュアンスのことが書いてあるような気がするのですが そうではないんですか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) まず事実としてあるのは、黒木先生が言われたように、ICSI(イクシー:卵細胞質内 精子注入法)についてはヨーロッパで比較的多いデータがありますが、これは乏精子症 の患者さんが対象になりますけれども、その患者さんの中の5〜6%ぐらいに染色体異 常があるというデータがあるんです。これは日本人についてもあります。それから、Y 染色体上のDNAに異常がある人が含まれているということも入っています。それが一 つの事実です。 それからもう一つは、イクシーで細胞質の中に精子を入れる訳ですけれども、それで 生まれたお子さんの1%ぐらいに性染色体異常があるという報告もあります。ですから 今のDNAの話などになると、多分子孫にずっと引き継がれていくような異常がつくら れていくということになりますので、これは1代限りの問題ではないということになっ ていくかと思います。 今述べたのはむしろイクシーによってセレクションが障害されるということになるか と思うんですが、別の意味で、ここから以降の話はちょっと理論的な話になるんですけ れども、イクシーという操作をすることによって紡錘糸を障害する可能性があるんじゃ ないかという基礎的なデータもあります。つまり、セレクションの障害だけではなく、 異常を作り出している可能性もあるわけです。例えば生まれた子どもの性染色体異常の 頻度と、乏精子症の患者さんの性染色体異常の頻度の間に少しギャップがあるのですが これもそれが関与している可能性があるんじゃないかと思います。 ○入村委員 ありがとうございました。もう1点、高久先生から今お話があったのとちょっと関連 するのですが、カウンセリング体制が非常に大事であるということを皆さん申し上げら れたように思うんですが、診断技術といいますか、こういうものは本来それで診断され た結果が何か出たときに、それをどうするかということがあらかじめ分かった上でやる というのが前提のような気がするんです。ただ、それをカウンセリングという非常にあ いまいな形でしかフォローアップ出来ないというのは、ある意味ではちょっと不思議な 気がしまして、きちんとした情報があって、その情報に基づいて、こういうふうにする んだというところまでが本当はあってやるような技術なのではないか。技術というのは そうであるべきじゃないかと思うんですが、そうではないんでしょうか。 ○木村委員 今の御見解については、カウンセリングをして、しかし、結果が例えばモノジーンの ハンチントンズ・コレアみたいに治療の方法がない場合もあるんですね。これは先生方 は御専門ですからご存じかと思います。ですから、治療の方法がある場合のカウンセリ ングの仕方、ない場合のカウンセリングの仕方がいろいろあると思うので、やはり事情 によって違ってくると思うんです。ですから、カウンセリングというのは、例えばジェ ネティックカウンセリング(遺伝相談)とか、あるいはアボーション(妊娠中絶)に関 するカウンセリングというのがプロフェッションとして例えばカナダとかアメリカで既 に成立して、医療と提携しながらきちんとした対応をしている訳ですので、先程から私 も非常にショックを受けているのですが、例えば遺伝学の講義が医学部にないとか、生 化学でもやっていないということになりますと、これは医学教育の問題にも関わってく るわけです。そういう中で日本の母体保護法に実際上決められてある規則が現実には機 能しておらず、第一線にいるお医者さん方が大変な苦しみの中でいろいろ対応していら っしゃる現状が図らずも本日の報告で出てきた訳で、やはり私は高久部会長が言われた ように、カウンセリングの重要性を医学教育、あるいは看護教育の中でやることの意味 が非常にあるのではないかというふうに思うんです。 それに関連しまして、スピナビィフィダのケース(二分脊推の症例)でも、大脳に障 害のない子どもについては、むしろ選択的に産む方にというようなスコットランドのド クター・ローバーの報告などもございますが、一律的に遺伝障害があるからということ で中絶を選択することについては当然いろいろな問題が生じてくると思うんです。それ で、大澤先生の方から先程支援体制のお話がございましたけれども、出生前診断に伴う 支援体制がどういう形で現実にあり得るのか。例えば重症遺伝欠陥について、その方々 が生まれた場合の対応が全くないという状況で、やむを得ずそういう決断をせざるを得 ないのか。それとも、日本のいわば先端医療の分野に関わる問題について、現状では支 援体制というのは相当あるというふうにお考えなんでしょうか。そこら辺のところは現 実にどうなんでしょうか。 ○日本小児神経学会(大澤評議員) 先生の御質問を正確に捉えていないかもしれませんけれども、私が申し上げた支援体 制というのは、もし病児が生まれてきた場合の支援体制ということです。私個人として は筋ジストロフィーの患者さんをたくさん拝見していまして、その人たちに対する遺伝 相談ですとか、出生前診断ですとか、そういうことに関わっております。実際問題とし て、彼らは歩けなくなっていく訳ですけれども、その歩けなくなった子どもたちが学校 に通っている。その場合に、知能は正常で普通小学校に十分通える状況にありながら、 学校の体制によっては非常に冷たくあしらわれていて、ある一定の年齢にいったら養護 学校に行くことを勧められる。あるいは、学校に行ってもほとんど毎日、母親が付き添 って朝から晩までというか、学校にいる間は介護していなければ普通学校には通えない というような現実がある訳ですね。 よく私が御家族と話すことですけれども、御家族の方から訴えられてくることは、病 気自体はある意味では患者さんも自分の本質と言うと変ですが、一つの個性というふう に受けとめている部分がある。しかしながら、その個性があることによって社会の中に 十分に自分自身を生かしていくことが出来ない。その状況から受けている不幸の方がよ り大きい。例えば、よく夏休みその他にそういう患者さんたちが外国に旅行に行ったり しますけれども、外国に行けば、交通手段一つにしても、電話一本でタクシーが迎えに 来てくれて、車いすであっても市営のバスなどにも自由自在に乗り降りすることが出来 て、全く自由に動けるし、むしろ車いすの人は優先されるというような状況がある。そ ういう状況であるならば、そういう子どもたちを2人でも3人でももっても自分自身は 問題ないと。これは一つの個人的な感想かもしれませんけれども、実際にはそういうふ うに思っていらっしゃる患者さんたちの御家族、患者自身がいる訳です。出生前診断の 技術その他が進むことは、ある意味では、そこから恩恵を被っている御家族もたくさん いらっしゃいますから、それはそれで大事なことなんですけれども、それと同時に、忘 れてはいけないのは、その人たちがその障害があることによって差別される、あるいは 利益を受けられないという社会体制の問題、先程黒木先生が先天異常学会の最後の方に おっしゃいましたけれども、社会体制の整備を同時に進めてゆく必要があると思います ○高久部会長 個人的な意見ですけれども、支援体制は病院の中にもない。先天異常だけじゃなくて 例えばがんの患者さんでも告知した場合のアフターケアをどうするかというと、それが ほとんど全部主治医にかかってきてしまう。先天性異常の場合もそうですね。病院の中 に支援体制がないし、今、大澤先生がおっしゃったように、社会の中の障害者に対する 支援体制が非常に貧しい。日本の社会は、それをむしろ差別して除こうとする。家族の 人も、ひどい場合には隠してしまうというような事があって非常に悲惨な状態になって しまう。 私が以前に勤めていた国際医療センターのそばに障害者の施設がありました。みんな 家族がついて来ているのです。私は、それを見るたびに「お母さんが亡くなったらこの 子はどうなるのだろう」と思っていました。非常に貧しい支援体制の下で障害児も幸せ なんだという様な議論は本当はおかしいと。もう少し正直な議論が日本でなされるべき ではないかというのが私の個人的な感想です。 ○森岡委員 竹下先生がさっき言われたんですけど、胎児に異常が見つかった場合、現実的には妊 娠21週以後でも時によっては人工流産させることが考えられますね。22週以後でもある 条件のもとに法律を改正してはっきりとさせ認めるべきなのかどうか。これはちょっと 難しいかも分かりませんけれども。 ○日本小児神経学会(竹下理事) アメリカでは、レイプされた婦人が妊娠された場合、妊娠週数が21週を超えても流産 できることが法的に認められている州があります。 ○松田委員 皆様の参考資料に、WHOからのガイドラインの日本語訳がありまして、その70ペー ジのところに「妊娠後半第3半期の中絶」という項目があります。今の話はその項目に 当たる訳ですけれども、日本語訳の70ページです。WHOは、むしろそのことを認めて いるというか、簡単に言えばそういうことです。第3半期以降であっても、胎児に異常 がある場合にはそれを認める方がいいのではないか、そういう言い方をしています。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 今の問題は、私も現場の医者なので、妊娠22週以降について胎児が致死的である可能 性が非常に高いという場合の中絶については別個に検討しないといけないというのは確 かだと思うんです。ただ、その問題を全ての妊娠週数を含んでまた胎児の異常全般を含 めて包括的に考えることには問題があります。致死的な異常とそれ以外の胎児の異常の 区別は慎重にしないと、混同されては困るというふうに私自身は思っております。21週 以前の問題についても、例えば治らないからこれは中絶していいんだというふうなこと を胎児条項として法律で決めるのだとすれば、それは先程から出ているような、そうい う人たちへの支援体制とか、いろいろな問題で、カップルに対する社会的なもっと広い 支援体制がきちんと出来てからはじめて考えられる問題です。今、緊急避難的な問題と 人々の将来に係わる重大な問題とを混同されないように是非お願いをしたいと思います ○金城委員 「平成5年度厚生省心身障害研究班調査」というのがありまして、その中に、出生前 診断で異常と出た数が出ているんです。この異常と出たケースが現実にはどうなったか ということについては分からないというのがこの間のお答えだったんですけれども、大 体の場合はどうなっているというふうに言えるんでしょうか。私は、出生前診断をする 場合には、異常があるかどうかということよりも、安心するために診断をするんだとい うことをよく言われる訳です。ですから、診断のときには、最終的に異常が出たときに は中絶するんだというような決定までしないで、ともかく診断という方もいらっしゃる と思うんです。それで、異常と出た。そこで改めてどうするかということを御両親は決 めることになると思うんですけれども、現実にはどうなっているのか。何か分かれば教 えていただきたいんですけれども。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) すみません。最初の方をちょっと聞き逃したんですが。まず、こういう出生前診断の カウンセリングは、さっきどなたか委員の先生が言っておられたように、ある程度その 後のことまで考えてやるものじゃないかと思うのです。大事なことは、出生前診断に関 するカウンセリングのときは、必ずその後どういう結果が出る可能性があるか、出たと きにどういう選択肢があるのかということまで必ず最初のカウンセリングの段階で、出 生前診断を受ける前のカウンセリングの段階で、お話をするべきだというふうに思うん です。ですから、後になって結果が出てから何かを決めるというのは、まず基本的なス テップとして違うというふうに私自身は思っています。 ただ、結果が出た後、気持ちが変わる人がいます。それから、予測しない結果が出て くることがあります。例えば高齢で羊水検査を受けたけれども、先程ちょっとお話しし た性染色体異常が出てきたとします。ダウン症のことは考えていたけれども違っていた という場合などは、これはまた考え方が非常に変わる可能性があると思いますから、そ れはその段階でまた話をしないといけません。選択肢はかなりばらつきがあると思いま す。ですから、私、先生の御質問にきちんと答えていないのかもわからないですが、私 自身のところでは、例えば出生前診断で羊水検査を受けて、実際に異常と出て、最終的 にもし中絶という選択肢をどのぐらいとるかということになると、95%は超えていると 思います。それは多分、私のところは基本的には最初のカウンセリングが重要であると いうふうに考えているからです。 ○金城委員 そうすると、最初のカウンセリングのときに、異常が出ても産むという人は出生前診 断をしないという感じになりますね。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) 羊水検査にしろ、絨毛検査にしろ、副作用があります。これは、赤ん坊を流産してし まうというリスクがある訳ですから、ただ単に知りたいということのウエートと、赤ん 坊にかかるリスクのウエートをよく考えた方がいいというお話はします。 ○高久部会長 95%というのは、95%の人は人工流産をするということですか。 ○日本先天異常学会(佐藤評議員) そうです。 ○寺田委員 もとの話になりますが、生殖医療のあり方と出生前診断で、出生前診断に関しまして は、学会がガイドラインを出すべきであって、国が関与すべきじゃないと書いてござい ますね。その場合に、個々の学会はどういうところで連合体をつくって出すのがいいと いうお考えを持っておられるのかというのが一つ。もう一つは、生殖医療のあり方につ いても、国はそういうガイドラインを持つべきじゃなくて、やはり学会でやった方がい いというお考えか。ちょっとお考えを聞かせていただければありがたいと思います。 ○高久部会長 どなたか代表して御返事いただけますか。 ○松田委員 具体的なことだけ説明します。まず、日本人類遺伝学会で二つガイドラインをつくり ました。そのガイドラインにつきましては、それを発表する前に、関連する幾つかの学 会にドラフトを見ていただきまして、具体的には日本産科婦人科学会、日本小児科学会 それから日本先天異常学会、日本先天代謝異常学会、遺伝子治療学会、多分もう一つぐ らいあったかもしれませんけれども、その学会に見ていただきまして、そしてドラフト の段階で、特に日本産科婦人科学会にはドラフトの段階でかなりインボルブしてもらい まして、そしてディスカッションを詰めました。それで、多分これならいいだろうとい うことで、皆さんのアグリーメントを得た上で出した訳です。他の学会の方たちはまた 他の関係があると思いますけれども、私たちがつくった段階で、一つの学会だけに出す のは危険といいますか、問題があるのではないかということで、そこはそういうプロシ デュアを踏みました。 ○寺田委員 それに関しましての質問ですが、そうしますと、例えばそれのガイドラインはどれほ どの拘束力を持つものなのか。或るいは、日本の医学界との関係というのはどういうふ うになさっているんですか。 ○松田委員 大変大きな問題で、それはみんなで議論しました。しかしながら、ガイドラインとい う性質上、もしも違反した場合にどうしようかということは実際は出来ないんですけれ ども、少なくとも基本の態度だけは決めておこう、基本線だけは決めておこうという程 度の考えだったと思います。 ○日本小児科学会(松尾会長) 関連することですが、そのようなガイドラインの前に、基本的に出生前診断を認める かどうかという国のコミットメントが今までなかったと思うんです。ですから、ある一 定の条件を満たしたときに、国としてはそれを是認するかどうかということがまず最初 にこなければいけないだろうと思うんです。ガイドラインは各学会によって微妙に違う ということが大事ではないかと思います。 ○日本マス・スクリーニング学会(北川理事) 私、日本先天代謝異常学会にも関連しておりますので、先程金城先生からの御質問に 答えさせていただきたいと思いますが、日本での遺伝性疾患の出生前診断の4分の1ぐ らいは私どもの施設でやってまいりました。これは、マス・スクリーニングというのが ございますが、治る遺伝性の病気は早く見つけて早く治すということで今までやってま いりました。それに関連しまして、いろいろな代謝病の患者さんが私のところに参った 訳です。そうすると、中には当時の医学的なレベルでは治すことが出来ないものがあり ました。そうしますと、その次の子どもについて家族は大変心配する訳でございます。 次に子どもを産めば、劣性遺伝のものが多いんですが、そういたしますと、4分の1の 確率で子どもが同じ病気にかかってくることになります。そういうことなので、2人同 じ病気をもつことはとても耐えられないから出生前診断をしてほしいという希望が出さ れ、そういうものでだんだんと頼まれては出生前診断をしてきて、中には病児であり、 それを続いて産んで育てるのは耐えられないからとする訴えもあります。私は小児科で ございますから中絶は出来ませんので、御理解いただける婦人科の先生にお願いし、そ の実情を訴えまして中絶していただきました。中には、1人の子どもが遺伝病であって 3歳か4歳で亡くなりましたけれども、幸いにして次の子どもは正常であり、そして、 子どもをもてたということで喜んでくれた訳でございます。しかしながら、そういう御 家庭の方を見ます、その生まれたきた子どもも出生前診断されて、そして正常だとわか って育てているということは言わないようでございまして、その後、私のところで2歳 ぐらいまで健康診断で参りますけれども、その後はひっそりとその子を育てて、幸せな 家庭を営んでいるというのが実情のようでございます。そういうふうなことがございま すので、やはり出生前診断は、不幸な子どもをもった家庭に正常な子どもをもたせるこ とが出来るということで、私はこれまで出生前診断をしてまいった訳でございます。 ○廣井委員 日本小児科学会とか日本先天異常学会にお聞きしたいのですけれども、私ども日本産 科婦人科学会では、かつて新しい生殖医療技術が出来たときにはその後にいろいろ調査 しておりまして、例えば体外受精その他を含めて、先天異常の頻度は正常の妊娠と変わ らないという結論を出しております。ここに「奇形などの重大な障害の発生が多い」と いうことが書いてあるんですけれども、学会で調査してあれば、その点を教えていただ きたいと思います。「可能性がある」ということなので、本当に多いかどうかというこ とは、それほどではないというのが我々の結論でございました。 ○高久部会長 どなたかお答えになりますか。 ○日本小児科学会(松尾会長) 具体的なハードデータを今日申し上げることは出来ませんが、ここに書かれておりま す中で現在一番問題なのは多胎妊娠が増えたということでありまして、これは各NIC U(新生児集中治療室)どこも認めている事実だと思います。それから、奇形などの重 大な障害ということにつきましては、私たちの関連している病院の中で実際にそれを統 計学的に検討したことはございませんが、不妊治療技術が進めば進む程、自然淘汰を経 ない児の出生が増加することは避けられないと考えております。 ○日本小児科学会(岡田理事) 一言だけ追加させていただきます。これは、実は「多胎の増加やそれに伴う奇形など の重大な障害」という感じで私は書いたつもりでありまして、多胎に伴う減数というこ とが行われると奇形につながるであろう、そういう可能性を言っているつもりでありま す。 ○木村委員 先程の松尾会長の話によりますと、国としては出生前診断に基本的なスタンスをとっ ていなかったということですが、ある地方自治体では、相当前のことになりますけれど も、例えば兵庫県とか神奈川県では積極的に染色体異常を調べましたように、特に高年 齢出産につきましては、ノンディレクティブなカウンセリングという形ではあったんで しょうけれども、中絶を勧めるというようなことをかつてやったケースがある訳です。 それとの関わりで先程の御発言をフォローアップしますと、現在のところ、出生前診断 については、国としてやっていないということは保険が適用されないことになるわけで す。しかし、高年齢出産で妊娠したということで医療機関へ行きましたら、「では、出 生前診断しましょう」ということですぐ金額を向こう側から言われて、例えば6万円と 言われたというケースがあるんですが、そういうお金との関わりで日本小児科学会とし ては何か対応があるのでしょうか。均一の料金を規定しているとか、そういうことがあ るのでしょうか。 ○日本小児科学会(松尾会長) 私の理解している範囲では、小児科のこういう関係の医療サービスは全部無料で、私 たち関係者の研究費を使ってなされているのが現状だと思います。それを患者さんに請 求したということは私は一回もございません。 ○木村委員 しかし、現実にあるんですよね。請求してお金を取られて、機関によって、場所によ ってずいぶん違うようですけれども。 ○日本小児神経学会(竹下理事) 大学とか公立の病院では確かに取っておりません。しかし、一般の染色体検査という 項目ではいただいております。それから、羊水検査は少なくとも公的な機関は羊水穿刺 という技術料で収入を上げ、そして染色体検査という項目で収入を上げていると思いま す。しかし、それは非常に微々たるものでありまして、国立・公立は恐らくこれ以外は みんな無料で行っていると私は理解しております。私立はまた別でございますが、恐ら くおっしゃりたいことを私はよく理解しております。 ○日本先天異常学会(黒木理事) 先程の出生前診断、あるいは生殖補助医療で先天異常は増えないという話がございま したけれども、私たちのところでも、長い間、先天異常モニタリングというのを実際に やっておりまして、多胎妊娠においては奇形の頻度は2倍ぐらい高くなっております。 しかも、多胎の増加と生殖補助医療の進歩というのは完全パラレルですから、そういう 意味で、現在、一卵性双生児は全く変わりませんが、二卵性以上は非常に増えておりま す。しかも、多胎の中で奇形の頻度が増えている事実はございます。 ○木村委員 先程いろいろ御報告いただいた中で、松田先生からCIOMSのインターナショナ ル・ガイドラインも参考にしているということで、私も立案の委員の一人だったもので すから大変うれしく思った訳ですが、それとの関連で、北川先生にもお伺いしたいんで すけれども、日本マス・スクリーニング学会というのは、例えば現在、妊婦が出産した 場合に、各病院ではガスリ法によってほとんどマス・スクリーニングをやっていますね これは厚生省の方の計画でそうなっているかと思うんですけれども、それに関連して、 その場合、妊婦は出産に伴って当然のこととしてそれを受けているような状況にあるよ うに私には見受けられるので、果して妊婦にインフォームドコンセントがあって新生児 の踵のところをちょっと傷つけるというようなことがあるのかどうか。そこら辺のとこ ろをお伺いしたいんですが。 ○日本マス・スクリーニング学会(北川理事) 先程松田先生から御報告されましたように、これは強制ではなくて、こういう検査が 出来るということを婦人科に入院されますと、それについての一応のインフォームドコ ンセントが与えられているだろうという程度でございます。それは、一つ一つのやり方 は病院によって違うかもしれないと思いますけれども、一応の情報は与えられていると 思いますし、これは昭和52年から行われておりますので既に定着したものではないでし ょうか。それから、母子手帳の中にこの結果が記入されることになっておりますので、 既に確立されたシステムだと私は理解しております。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。かなり時間も経過いたしましたので、この程度で質 疑は終わらせいただきたいと思います。本日は、説明をしていただきました先生方、お 忙しいところ、御出席いただきまして、いろいろ御意見を賜りまして本当にありがとう ございました。私どもも非常に勉強させていただきました。 それでは、これで部会を閉会したいと思います。長時間にわたる御討論、どうもあり がとうございました。次回は1月29日木曜日ですが、午後2時からということになって おりますので、よろしくお願いしたいと思います。事務局の方から何か。 ○事務局 第6回、第7回の部会の会場の変更につきましてお手元にお知らせを配付しておりま すので、御注意願いたいと思います。会場は新霞が関ビルでございますので、よろしく お願いいたします。 ○高久部会長 それでは、どうもありがとうございました。 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 坂本(内線3804) 電 話 (代表)03−3503−1711 (直通)03−3595−2171