母子保健法(1965.08.18 法律第141号) 第一章 総則 (目的) 第一条 この法律は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母 子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する 保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もつて国民保健の向上に寄与す ることを目的とする。 (母性の尊重) 第二条 母性は、すべての児童がすこやかに生まれ、かつ、育てられる基盤であるこ とにかんがみ、尊重され、かつ、保護されなければならない。 (乳幼児の健康の保持増進) 第三条 乳児及び幼児は、心身ともに健全な人として成長してゆくために、その健康 が保持され、かつ、増進されなければならない。 (母性及び保護者の努力) 第四条 母性は、みずからすすんで、妊娠、出産又は育児についての正しい理解を深 め、その健康の保持及び増進に努めなければならない。 (2)乳児又は幼児の保護者は、みずからすすんで、育児についての正しい理解を 深め、乳児又は幼児の健康の保持及び増進に努めなければならない。 (国及び地方公共団体の責務) 第五条 国及び地方公共団体は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進に努 めなければならない。 (2)国及び地方公共団体は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進に関 する施策を講ずるに当たつては、その施策を通じて、前三条に規定する母子保 健の理念が具現されるように配慮しなければならない。 (用語の定義) 第六条 この法律において「妊産婦」とは、妊娠中又は出産後一年以内の女子をい う。 (2)この法律において「乳児」とは、一歳に満たない者をいう。 (3)この法律において「幼児」とは、満一歳から小学校就学の始期に達するまで の者をいう。 (4)この法律において「保護者」とは、親権を行なう者、後見人その他の者で、 乳児又は幼児を現に監護する者をいう。 (5)この法律において「新生児」とは、出生後二十八日を経過しない乳児をい う。 (6)この法律において「未熟児」とは、身体の発育が未熟のまま出生した乳児で あつて、正常児が出生時に有する諸機能を得るに至るまでのものをいう。 (児童福祉審議会の権限) 第七条 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第八条に規定する児童福祉審 議会(中央児童福祉審議会、都道府県児童福祉審議会(同条第二項ただし書に規 定する都道府県にあつては、地方社会福祉審議会。以下この条において同じ。) 及び市町村児童福祉審議会をいう。)は、母子保健に関する事項につき、調査審 議するほか、中央児童福祉審議会は厚生大臣の、都道府県児童福祉審議会は都道 府県知事の、市町村児童福祉審議会は市町村長の諮問にそれぞれ答え、又は関係 行政機関に意見を具申することができる。 (市町村長の協力) 第八条 市町村長は、この法律の規定により都道府県が行う母子保健に関する事務に ついて、必要な協力をするものとする。 第二章 母子保健の向上に関する措置 (知識の普及) 第九条 都道府県及び市町村は、母性又は乳児若しくは幼児の健康の保持及び増進の ため、妊娠、出産又は育児に関し、相談に応じ、個別的又は集団的に、必要な指 導及び助言を行う等により、母子保健に関する知識の普及に努めなければならな い。 (保健指導) 第十条 都道府県又は保健所を設置する市は、妊産婦又は乳児若しくは幼児の保護者 に対して、妊娠、出産又は育児に関し、必要な保健指導を行い、又は医師、歯科 医師、助産婦若しくは保健婦について保健指導を受けることを勧奨しなければな らない。 (新生児の訪問指導) 第十一条 都道府県又は保健所を設置する市の長は、前条の場合において、当該乳児 が新生児であつて、育児上必要があると認めるときは、医師、保健婦、助産婦又 はその他の職員をして当該新生児の保護者を訪問させ、必要な指導を行わせるも のとする。ただし、当該新生児につき、第十九条の規定による指導が行われると きは、この限りでない。 (2)前項の規定による新生児に対する訪問指導は、当該新生児が新生児でなくな つた後においても、継続することができる。 (健康診査) 第十二条 都道府県又は保健所を設置する市は、満三歳を超え満四歳に達しない幼児 に対して、毎年、期日又は期間を指定して、厚生省令の定めるところにより、健 康診査を行わなければならない。 第十三条 前条の健康診査のほか、都道府県又は保健所を設置する市は、必要に応 じ、妊産婦又は乳児若しくは幼児に対して、健康診査を行い、又は健康診査を受 けることを勧奨しなければならない。 (栄養の摂取に関する援助) 第十四条 市町村は、妊産婦又は乳児若しくは幼児に対して、栄養の摂取につき必要 な援助をするように努めるものとする。 (妊娠の届出) 第十五条 妊娠した者は、厚生省令で定める事項につき、速やかに、保健所を設置す る市においては保健所長を経て市長に、その他の市町村においては市町村長に妊 娠の届出をするようにしなければならない。 (2)市町村長(保健所を設置する市の市長を除く。)は、前項の妊娠の届出を受 理したときは、速やかに、その旨を保健所長を経て都道府県知事に報告しなけ ればならない。 (母子健康手帳) 第十六条 市町村は、妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければ ならない。 (2)妊産婦は、医師、歯科医師、助産婦又は保健婦について、健康診査又は保健 指導を受けたときは、そのつど、母子健康手帳に必要な事項の記載を受けなけ ればならない。乳児又は幼児の健康診査又は保健指導を受けた当該乳児又は幼 児の保護者についても、同様とする。 (3)母子健康手帳の様式は、厚生省令で定める。 (妊産婦の訪問指導等) 第十七条 第十三条の規定による健康診査を行つた都道府県又は保健所を設置する市 の長は、その結果に基づき、当該妊産婦の健康状態に応じ、保健指導を要する者 については、医師、助産婦、保健婦又はその他の職員をして、その妊産婦を訪問 させて必要な指導を行わせ、妊娠又は出産に支障を及ぼすおそれがある疾病にか かつている疑いのある者については、医師又は歯科医師の診療を受けることを勧 奨するものとする。 (2)都道府県又は保健所を設置する市は、妊産婦が前項の勧奨に基づいて妊娠又 は出産に支障を及ぼすおそれがある疾病につき医師又は歯科医師の診療を受け るために必要な援助を与えるように努めなければならない。 (低体重児の届出) 第十八条 体重が二千五百グラム以下の乳児が出生したときは、その保護者は、速や かに、その旨をその乳児の現在地の都道府県又は保健所を設置する市に届け出な ければならない。 (未熟児の訪問指導) 第十九条 都道府県又は保健所を設置する市の長は、その区域内に現在地を有する未 熟児について、養育上必要があると認めるときは、医師、保健婦、助産婦又はそ の他の職員をして、その未熟児の保護者を訪問させ、必要な指導を行わせるもの とする。 (2)第十一条第二項の規定は、前項の規定による訪問指導に準用する。 (養育医療) 第二十条 都道府県又は保健所を設置する市は、養育のため病院又は診療所に収容す ることを必要とする未熟児に対し、その養育に必要な医療(以下「養育医療」と いう。)の給付を行い、又はこれに代えて養育医療に要する費用を支給すること ができる。 (2)前項の規定による費用の支給は、養育医療の給付が困難であると認められる 場合に限り、行なうことができる。 (3)養育医療の給付の範囲は、次のとおりとする。 一 診察 二 薬剤又は治療材料の支給 三 医学的処置、手術及びその他の治療 四 病院又は診療所への収容 五 看護 六 移送 (4)養育医療の給付は、厚生大臣又は都道府県知事が次項の規定により指定する 病院若しくは診療所又は薬局(以下「指定養育医療機関」という。)に委託し て行なうものとする。 (5)厚生大臣は、国が開設した病院若しくは診療所又は薬局についてその主務大 臣の同意を得て、都道府県知事は、その他の病院若しくは診療所又は薬局につ いてその開設者の同意を得て、第一項の規定による養育医療を担当させる機関 を指定する。 (6)児童福祉法第二十一条及び第二十一条の九第六項から第八項までの規定は、 指定養育医療機関について、同法第二十一条の二から第二十一条の四までの規 定は、養育医療の給付について、同法第二十一条の五の規定は、養育医療に要 する費用について準用する。この場合において、同法第二十一条の三第四項及 び第二十一条の四第二項中「都道府県」とあるのは、「都道府県又は保健所を 設置する市」と読み替えるものとする。 (費用の支弁等) 第二十一条 都道府県又は保健所を設置する市が行う第十条の規定による保健指導、 第十二条の規定による健康診査及び前条の規定による措置に要する費用は、それ ぞれ、当該都道府県又は当該市の支弁とする。 (2)国は、政令の定めるところにより、前項の規定により都道府県又は市が支弁 する費用のうち、第十条の規定による保健指導及び前条の規定による措置に要 する費用についてはその二分の一を、第十二条の規定による健康診査に要する 費用についてはその三分の一を負担するものとする。 (3)第一項の規定により第十条の規定による保健指導又は前条の規定による養育 医療の給付に要する費用を支弁した都道府県又は市の長は、当該措置に要する 費用を、当該措置を受けた者又はその扶養義務者(民法(明治二十九年法律第 八十九号)に定める扶養義務者をいう。)から徴収することができる。ただ し、これらの者が、経済的理由により、その費用の全部又は一部を負担するこ とができないと認めるときは、この限りでない。 (4)前項の規定による費用の徴収は、徴収されるべき者の居住地又は財産所在地 の都道府県知事又は市町村長に嘱託することができる。 (5)第三項の規定により徴収される費用を、指定の期限内に納付しない者がある ときは、地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合におけ る徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。 第三章 母子保健施設 第二十二条 市町村は、必要に応じ、母子健康センターを設置するように努めなけれ ばならない。 (2)母子健康センターは、母子保健に関する各種の相談に応ずるとともに、母性 並びに乳児及び幼児の保健指導を行ない、又はこれらの事業にあわせて助産を 行なうことを目的とする施設とする。 第四章 雑則 (非課税) 第二十三条 第二十条の規定により支給を受けた金品を標準として、租税その他の公 課を課することができない。 (差押えの禁止) 第二十四条 第二十条の規定により金品の支給を受けることとなつた者の当該支給を 受ける権利は、差し押えることができない。 (削除) 第二十五条 削除 (大都市の特例) 第二十六条 この法律中都道府県が処理することとされている事務又は都道府県知事 その他の都道府県の機関若しくは職員の権限に属するものとされている事務で政 令で定めるものは、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条 の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)においては、政令の定め るところにより、指定都市が処理し、又は指定都市の長その他の機関若しくは職 員が行なうものとする。この場合においては、この法律中都道府県又は都道府県 知事その他の都道府県の機関若しくは職員に関する規定は、指定都市又は指定都 市の長その他の機関若しくは職員に関する規定として、指定都市又は指定都市の 長その他の機関若しくは職員に適用があるものとする。 (2)前項の規定により指定都市の長がした処分に係る審査請求についての都道府 県知事の裁決に不服がある者は、厚生大臣に対して再審査請求をすることがで きる。 (市町村長への委任) 第二十七条 都道府県知事は、政令の定めるところにより、この法律の規定による事 務(第十九条の規定による未熟児の訪問指導及び第二十条の規定による養育医療 の給付に関する事務を除く。)を市町村長に委任することができる。 (2)都道府県は、政令の定めるところにより、前項の規定により委任を受けて市 町村長が行なう第十条の規定による保健指導及び第十二条の規定による健康診 査に要する費用を負担するものとする。 (3)国は、政令の定めるところにより、前項の規定により都道府県が負担した額 のうち、第十条の規定による保健指導に係るものについてはその二分の一を、 第十二条の規定による健康診査に係るものについてはその三分の一を負担する ものとする。 1993.02.04登録