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>HOME >BOOK (医療と社会ブックガイド・2) 立岩 真也 2001/01/25 『看護教育』42-2(2001-2): http://www.igaku-shoin.co.jp http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/ 前回は、人体実験に関わる医学内部からの批判をきっかけとした米国での「バイオエシックス」の始まりを扱った本を紹介した。日本でも同様に現在につながる重要な動きがあった。このことについても述べようと思うが、前回紹介したような本はないから(米国の歴史の本が何冊も出て日本についての本がないのは変だ)、こちらで探してまとめなくてはならない。時間をいただくことにし、今回はその後の米国のことから。 ものごとを考えていく時、α:基本的な方向が定まっていて後はその実現のための手段を考え実行していくという方向と、β:どちらに行ったらよいのか自体から考えないとならない場合と、二つある。(関連する私の文章として「闘争と遡行」。最近、トップページhttp://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htmからこの連載のコーナーに入れるようにしました。この文章他、追加情報もあります。どうぞよろしく。) 「バイオエシックス」と言われる時には、β:ことの「よしあし」を考える「学問」というイメージが強いかもしれない。だが、「患者の権利」を明確に打ち出し、その実現をはかっていこうとする流れもまた大きくあり、「普通」の病気の人にとってはこちらの意義の方が大きいとも言えるだろう。前回に紹介した動きもこの流れに関わる。そして一九六〇年代以降の社会運動があった。人種差別に抗議する公民権運動があり、フェミニズムの運動があり、環境破壊に抗する運動があり、学生運動、反戦運動があった。これらのある部分を体制は受け入れることはなかったが、「消費者主権」は誰もが(ではないかもしれないが)否定できない流れになっていく。医療のための社会学と一味違う「医療社会学」(別の回にとりあげる)の登場もこの「叛乱」に関わる。また「バイオエシックス」についてこの側面を強調してきた人として木村利人がいる。 「消費者主権」に生理的?拒否感を示す人も(意外にたくさん)いるし、パターナリズムといった主題を考え出すと、これも先で述べたβの主題だと言えなくはない。ただ、これについてはどこかでふれることにし、ここでは議論の出発点だと考えることにしよう。とすると課題は現状の分析と方法の提示である。 日本ですぐに役に立つのは日本で最近出たものだ。本だけでなくいくつかホームページもある。そういうものをこれから紹介していきたいと思う。ただ、一つには行きがかり上、一つには参考になるところがあると思うから、まずは米国から出た本。 『アメリカの医療告発――市民による医療改革案』。刊行時に8年の歴史があり会員数 175,000名の民間団体「市民医療協会」(People's Medical Society)から刊行されている。著者はこの協会の会長インランダー、イェール大学医学部(「訳者あとがき」では公衆衛生学部)の教授レヴィン他。 この本はそんなに多くの人が読んでいないだろう。値段も高い。原著の発行は1988年だから、最新情報が盛られているというわけでもない。米国では訴訟が多いと聞くからきっとそのような事例が並べられていて、日本にはそのまま関係がないと思うかもしれない。しかしそうではない。意外におもしろい。 第I部「序文」に続き、第II部「証拠ならびに専門家による証言」。第III部「要約ならびに結論」には弁護士で協会の理事会副会長であるロリー・アンドリュース(代理母出産についての著作等でご存知の方もいるだろう)の立案になる「病院開示法案」が全文掲載されている。悪いところばかりあげつらっているとか、日本はそんなにひどくないと言いたい人もいるかもしれない。けれど、思い当たるふしがないかと問われて、全面的に否定できる人はいないだろうと思う。そしてなによりこの本がおもしろいのは、またさきに参考になると思うと述べたのは、どこに問題、問題の背景がある(と考える)のか、その分析に立ち入り、それを受けて医療における消費者主義の主張が正面から、そして具体的に論じられているところである。 「われわれがだらしない消費者だったから、間違った医療がおこなわれているのである。」(p.256) 徹底した消費者主権主義に貫かれ、そこから様々な方策が提示される。 例えば「消費者が同僚審査の過程に含まれるべき… 連邦政府との契約によるどんな同僚医療審査機構も、理事会の少なくとも50%は消費者代表が占めるべきだ… より進んで、同僚審査チームのメンバーの少なくとも50%――そのグループは実際に医療を審査する――が消費者であるべきだ…」(p.250) 「訳者あとがき」にも、「一見過激ともみえる改革案…の中には、わが国で現実的ではないようなものもある」(p.307)とある。ただ(とりあえず)現実的でないところから発想しないとだめな時があると思う。また非現実的なことがやがて意外にそうでなくなることもある。この本はそういう視座を得る参考になる。消費者側が不利な位置にいるのは病気だからでなく、供給側が強い立場にいるのは立派な仕事をしているからではない。例えば消費者側が時間と場所と情報量とで不利だからだ。ならば大学院を消費者教育あるいは消費者による研究の場として機能させられないか。といったことも(まずは考えるだけなら)考えられる。 同時に必要なのは徹底的に具体的な情報である。毎年『週刊読書人』が年末に今年の3冊、みすず書房のPR誌『みすず』が新年号に昨年の5冊というアンケートを掲載する。私が後者の最初にあげた2冊(前者には間に合わなかった)が、大阪精神医療人権センター『大阪精神病院事情ありのまま(第2版)』。そして『東京精神病院ありのまま』(最新版2000年7月、郵便番号190-0022 立川市錦町3-1-33東京都地域精神医療業務研究会。ファックス042-524-7566。郵便振替00120-8-27114、定価2000円。ちなみに他に挙げたのは、D・ハラウェィ『猿と女とサイボーグ――自然の再発明』(青土社)、A・セン『集合的選択と社会的厚生』(勁草書房)、藤正巖・古川俊之『ウェルカム・人口減少社会』(文春文庫)。各々についてのコメントはホームページでどうぞ。 例えば大阪の方の本は、府内六四病院のうち公開されているデータを六一病院について記載した後、六一病院から得られたアンケートの結果、四二病院についてはセンターのスタッフや精神病院への入通院の経験者たちが訪問し入院者に話を聞いてまとめられた調査結果が載っている。 本人の選択が大切だくらいは誰だって言う。しかし、あてずっぽうに選ぶしかないなら選んだことにならない。また供給側にしてみれば、知られ、比べられ、選ばれることによって、自らを高めていかざるをえない。別言すれば、こうした動きは、少なくともよい仕事をしている医療機関にとっては、また自らの場をよくしていこうとしている医療者にとっては、歓迎すべき動きである。 各々の病院についての記述はそう長くはない。一度の訪問でどれだけわかるかという指摘もあるかもしれない。しかし固有名を明かして評価するこのような本があることの意味は大きい。私が看護学にせよ医療社会学にせよ不満なことの一つは、実名を記した調査がほとんどないということだ。実名公表では調査させてくれないという事情はわかる。しかしそれでは変わらないものは変わらない。法的な強制力がないとできないこともあるだろう。ただ民間でもかなりのことはできる。調査への協力を断わられても、断られたことを記すことができる。読者もなぜこの病院は入っていないのか、回答が無愛想なのと考えることはできる。場合によったら調査に応じないこと自体が評判を落とすこともあり、それ考えると民間の調査でも応じざるをえない、ということにもなりうる。(つまり、ここまでやれる調査があってはじめて実名公開ができる。ならば研究者はこうした調査に協力・参加することで日頃のもどかしさを解消できるかもしれない。) また公的な調査は公平性、客観性に束縛されてしまうことがあるが、その場で体験した「感じ」が、それを誤解と思う側は反論できるという条件が必要だが、大切なことがある。この調査からは精神病院の依然きびしい状況、あの匂いがかなり伝わってくる。「はじめに」に、調査に協力的な病院が増え改善も見られる一方、格差が広がる傾向があると述べられている。こうした調査は、その格差を少なくし全体を底上げしていく、一つの、しかし重要な手段だ。書かれることで、当たり前になってしまっている当たり前でないことに気づかされることもある。こういう本を買わないとならない、と思う。 (購入額の約3%が、また以下の[boople]のところから買っていただけると5%が、寄付されます。) [表紙写真を載せた本] ◆Inlander, Charles B.; Levin, Lowell S.; Weiner 1988 Medical on Trial: The Appalling of Medical Ineptitude and the Arrogance That Overlooks It, People's Medical Society=19971125 佐久間充・木之下 徹・八藤後 忠夫・木之下 明美 訳,e『アメリカの医療告発――市民による医療改革案』,勁草書房,307p. ISBN:4-326-70043-2 4725 [boople]/[bk1] ※ http://www.keisoshobo.co.jp/ □内容説明[bk1] アメリカ医療の不合理、不法、ひどい医療過誤、冷淡、信じられない尊大さについての驚くべき実態報告。医療の現状を厳しく審判し、医療を市民の手に取り戻し、最良の医療システムの構築を目指す。 □著者紹介[bk1] 〈インランダー〉市民医療協会会長。 ◆NPO法人大阪医療人権センター 200012 『大阪精神病院事情ありのまま(第2版)』(扉よひらけD),A4版155p.,1500円+送料500円を郵便振替口座00960-3-27152・加入者名NPO大阪精神医療人権センターに送金すると送られてくる。センター事務所は〒530-0047大阪市西天満5-9-5谷山ビル9階 06-6313-0056 fax0058 cf. ◆(NPO法人)大阪精神医療人権センター ◆立岩 2000/03/25「闘争と遡行」 『STS NETWORK JAPAN Yearbook '99』:43-48 1998/10/31 STS Network Japan シンポジウム「医療問題は科学論で語れるか」の記録 ◆立岩 2000/12/15「二〇〇〇年の収穫」 『週刊読書人』2366:2 ◆立岩 2000/01/15「二〇〇〇年読書アンケート」 『みすず』42-1(2000-1) ◇医療と社会ブックガイド ◇書評・本の紹介 by 立岩 ◇医学書院の(白石正明が担当した)本 |