1998年2月10日
日本弁護士連合会会長
同人権擁護委員会会長
同第4部会会長殿
同生命倫理小委員会会長殿
厚生科学審議会先端医療技術評価部会に提出された貴会の意見書に対する質問
(2月8日バージョン)
玉井真理子(信州大学医療技術短期大学部)
貴会におかれましては、時下益々ご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、去る1月29日に行われた厚生科学審議会先端医療技術評価部会「生殖医療に
関する意見聴取」に際に、貴会の人権擁護委員会第4部会から提出された意見書に対
して、若干の質問をさせていただきたく、これを書いております。意見聴取際して、
同時に今回の審議会を通して、問題になった/なっていることは、「生殖補助技術」
と「出生前診断」に大別できます。わたくしが質問したいのは、主に後者に関して貴
会が言及された部分についてであります。
貴会の意見書には、その4項目の「生殖技術に対する個別の規制」に、「出生前
診断は重い遺伝病等を除いては禁止する」とあります。わたくしは、この点をどうし
ても看過することができませんでした。「重い遺伝病等」とは、何を想定してのこと
なのか甚だ不明瞭であるという印象を禁じ得なかったからであります。同時に、以下
で述べるような、「重い遺伝病等」という規定の仕方そのものに必然的に内在する様
々な問題に関して、まったく言及されていないと感じたからでもあります。
現在、本邦におけるいわゆる出生前診断の実施状況をめぐっては、様々な混乱が
あることは事実です。したがって、ごく常識的な感覚にのみ頼っても、それらに何ら
かの実効性のある規制が必要であることは明らかでです。しかし、単に適応を限定す
ることで、しかも「重い遺伝病等」という形でのみこれを限定しようとすれば、「重
い遺伝病等」をどう定義するのか、誰がそれをいかなる手続きで運用するのか、そう
した定義および運用手続きの妥当性はどのような仕組みのなかで監視されるのか、等
々、さらなる混乱が起きることは必至です。「重い遺伝病等」に関して、「出生前診
断の適応」との関係においてそれらを規定しようと意図することそのものが持つ、当
該疾患に対する偏見や差別の助長という社会的問題もあります。
出生前診断との関連における「重い遺伝病等」の定義をめぐっては、疾患単位で
これを限定することが不可能であることは、すでに緒家によって指摘されている点で
もあります。どんな疾患にも臨床像としてはかなりの幅があることは、言うまでもあ
りません。また、医学的には一般に重篤とされる疾患と、その疾患を有して現実の社
会生活を送っている当事者の価値観によってとらえられる疾患の現実との間には、大
きな相違もあります。
法曹界を代表する団体の医療問題を専門とする部会として、いかなる背景のもと
に「重い遺伝病等」という表現をされたのか、いかなる資料およびその他の情報に基
づいてこのような限定のあり方を妥当と考えるに至ったのか、ご教示ください。私見
を述べさせていただければ、「重い遺伝病等」という言葉の選び方・使い方は、この
問題の性質を考慮するなら、少なくとも言葉の選び方・使い方としてきわめて粗雑で
あると言わざるを得ないと思います。「重い」とは何か、という問いだけではなく、
すべての疾患が遺伝的素因を有していること、一般的慢性疾患に関与する遺伝子が次
々と同定されていることなどを考慮するなら、そもそも「遺伝病」とは何か、という
問いさえ成り立ち得るでしょう。
さらに申し上げるなら、これは、言葉の問題としてそれが粗雑であり、したがっ
て、いかようにも解釈ができる、ときには誤解を招く、というだけにとどまるもので
はありません。法曹界を代表する団体の発言であることを考えるなら、法整備という
レベルで「出生前診断の適応は重篤な遺伝病に限る」という方向の規制が必要とされ
る、という主張と受け取られる可能性もあります。意見書の1項目「法規制の必要性
」には、「生殖医療法を制定すべき」とも、述べられています。なんらかの形での法
整備というレベルでこれを実現しようとするなら、それは現行の母体保護法へのいわ
ゆる「胎児条項」の導入を考慮に入れてのことなのかどうか、この点についても貴会
の姿勢をお伺いしたいと思います。
今後も引き続き、審議会での意見聴取が行われるとうかがっております。わたく
しは現在米国ワシントンに滞在中(3月中旬まで)のため、傍聴することはできませ
んが、貴会の姿勢は、今後の審議のみならず世論の動向にも少なからぬ影響力を持ち
得ると考えます。つきましては、上記の点に関して、可能な限り早急にご回答いただ
きたく存じます。また、しかるべき機会を通し、それらの回答、すなわち「重い遺伝
病等」というものに対する貴会の考え方を、広く一般市民に対して明らかにしていた
だけることを切に願っております。
付記:なお、意見書には「現段階では、まだ第4部会の意見にとどまっている」とあ
りましたが、「近いうちに連合会の意見としてまとまると思われる」ともありました
ので、上記四者に対してこの質問状を送付させていただきます。
添付書類:日本弁護士連合会の意見書(公開資料)
…以下,筆者による…
★ 去る1月29日に行われた厚生科学審議会先端医療技術評価部会「生殖医療に関す
る意見聴取」の際に、日弁連人権擁護委員会第4部会から提出された意見書に、看過
できない疑問点がありましたので、以下のような質問状を出そうと思っています。こ
の意見書を読んで私と同様に感じている人はおそらく他にも少なからずいるとは思い
ますが、私は個人で出すつもりです。ただ、このことはぜひ、いろいろな立場からこ
の問題にかかわっておられる方に知っていただきたいと思いましたので、お送りしま
す。今後多少問言を修正することはあるかもしれませんが、骨子はこのままです。