生まれる前に胎児の「障害」や「病気」がある程度分かるようになってきた。出生前診断(胎児診断)と呼ばれる方法である。ダウン症の子の親であり、信大医療技術短期大学部講師(心理学、生命倫理学)の玉井真理子さん(35)に、訪問した英国の事情と現場の声を報告してもらった。
英国では出生前診断が比較的普及し、胎児の重い「障害」や「病気」を理由にした中絶が合法とされ、妊婦の半数以上が、母体の血液検査(スクリーニング)を受けているという。
この検査で分かるのは、ダウン症などの染色体異常や二分脊椎(せきつい)などの神経管奇形と言われるごく一部の疾患の、あくまでも可能性であり、しかも確率でしか示されない。確実な診断のためにはさらに検査が必要となる。
私が最初に訪問した英国ダウン症協会でも、出生前診断に関する相談は増えていた。母体血によるスクリーニングが普及したことによって、胎児がダウン症である確率が高いと診断された家族が、不安のために協会に問い合わせてくるからだ。
協会では、出生前診断だけを取り上げたパンフレットを独自に作っていた。その中で、ダウン症の子どもを家族に迎えて楽しく心豊かに暮らしている家族の生の声や、ダウン症の本人がサポートを受けながら社会生活を送っている様子が写真入りで載っている。しかし出生前診断やその後の選択は、あくまでも当の親の考え方を尊重する立場を貫いていた。胎児の異常を理由に中絶という選択をした家族のための相談の窓口も紹介していた。
その相談の窓口は、SATFA(胎児異常による中絶の相談機関)と呼ばれる民間支援団体だ。
ちょうど私が訪れたときも、胎児の病気を理由に明日にでも中絶しようと考えているカップルから切羽詰まった内容の相談の電話がかかってきた。不安と罪の意識でいっぱいの胸のうちを吐き出したあとは、もう少しだけ考える時間を持ってみるということになったということだった。
また中絶という苦渋に満ちた選択をした人のためには、お互いの体験を語り合える場も作っているという。
出生前診断専門の病院のカウンセラーや、開業している日本人助産婦の方にも会うことができたが、どこへ行っても、「どんな選択も、だれのものでもない、あなた(方)自身のものですよ。でも、どんな選択をしても、いろいろな形の援助は受けられますよ」というメッセージを伝えるために心を砕いている印象を受けた。
医療機関だけでなく、グウン症協会をはじめとする障害者団体や、SATFAその他の民間団体など、複数の相談窓口がある。それらが相互に連携し合うことで、相談を受けにきた人たちを支えようとしている。出生前診断の技術は進むが、それに伴う心のケアがまだごく一部でしか行われていない日本にとって、学ぶべき点は多い。

英国ダウン症協会のカウンセラー、スザーナさんと筆者(左)。後ろの棚には英語はもちろん、在住外国人のために外国語で書かれた協会発行のパンフレットなどがある=ロンドンの英国ダウン症協会
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