知的障害をもつ人の自己決定・自立生活を支えるしくみ
                       寺本 晃久

                    『ノーマライゼーション』1997-5

 昨年秋、障害をもつ人々の状況を権利という点からとらえ直し変えていこう
と取り組んでいる市民団体「リーガル・アドボカシー育成会議(LADD)」
の海外派遣研修プログラムの援助を受け、アメリカ西海岸に滞在することがで
きました。介助者として同行したということもあり、十分に勉強できたわけで
はありませんが、めったにない経験をさせていただきました。今回は、知的障
害をもつ人が自分の生活を自分で決められるための方法についてまとめます。

 自分の受ける援助を自分で決める

 カリフォルニア州では、州政府と契約している非営利組織が、知的障害をも
つ人々に対する援助サービスを提供しています。この非営利組織はリージョナ
ルセンターと呼ばれ、州全体で21あります。ただし、リージョナルセンターが
直接サービスを行うのではなく、ほとんどは地域にあるサービス供給主体から
サービスを買い、それを必要な人々に必要なだけ、無料で提供しています。つ
まり、センターは援助を必要としている人と援助を提供する人とをつなぐ役割
を果たすのですが、そのときに、どのような援助を受けるかは援助を受ける人
自身が決めることができます。
 その人が障害をもっており、何らかの援助が必要だと認められれば、3才ま
でなら、個別家族サービスプラン(Individualized Family Service Plan(I
FSP))で、援助の内容を決めます。学齢期(4才9ヶ月〜22才)になれ
ば、地域の学校区が特殊教育サービスを提供しますが、そのときにも個別教育
プラン(Individualized Educational Plan(IEP))を作成して、親と学
校区の間で教育の内容とそのためのサービスを決めます。
 成人すれば、基本的には本人が自分の生活を決めていくことができます。生
活していくために何らかの援助が必要なら、個人別プラン(Individual
Program Plan(IPP))を作って援助の内容を決めていきます(ここで「基
本的に」としたのは、後見人がついた場合、本人の権利の一部が後見人によっ
て代行されるからです)。

 人間主体の計画づくり(person-centered planning)

カリフォルニア州でも、ついこの間までは、サービスを提供する側の都合で
援助の体制が決められていました。しかし、現在では、援助を受ける側のニー
ズが最初にあって、それにしたがって援助の体制が決められるようになってき
ています。
 何をしたいかがはっきりしていて、そのためにどのような援助やサービスが
いるかがわかっていれば、それをリージョナルセンターのワーカーに話して、
相談の上、どのようなサービスを受けるかを決めればよいのですが、自分が何
をしたいか・どんな援助が必要かが不明確だったりうまく言えない場合、何か
ら話していけばいいか、どのように本人からニーズを聞き出していけばいいか
ということを解説したマニュアルがいくつか出ています。IPPの話し合いで
は、生活をする上での問題点・課題、生活の中でかかせないこと、まわりの人
の評価、健康のために必要なこと、好き嫌い、普段の生活でやること(どんな
服を着るか、どんなところで働くか、どんなテレビを見るか、どんなことをし
て楽しむか、週末の過ごし方)、やりたいこと・やりたくないこと、必要なこ
と、やってほしいこと・やってほしくないこと、言われたくないこと、夢、目
標、施設や親の心配や懸念、などを本人や関係者から出していくことによって、
その人の現状を把握し、そこから具体的な将来像や必要な援助の内容を考えて
いきます。ここで大切なのは、自分やまわりの状況が把握できるように、たと
えば話していることを模造紙に絵で描いたりすることで、障害をもつ本人にも
わかりやすく話をすることです。
 また、当事者の希望を最大限実現する方向で考えていくことです。「あなた
はこれができないからだめ」「こんな援助は制度にないからだめ」だというの
ではなく、できないことがあればどうやってそれをカバーしていけばいいか、
地域に必要なサービスがなければどのようにその援助体制を作っていけばいい
かということを考えなければなりません。

 「生活の質を見る」 − 監視の必要性

 このように、援助を受ける側が自分の生活やそのための援助の内容を決める
ことができるのですが、現実には、まだまだ十分に機能しているわけではあり
ません。当事者の希望に添わない援助が行われたり、IPPを作るときにリー
ジョナルセンターの職員が当事者を無視したり、必要なサービスが得られなか
ったりしました。
 こうした問題に対処するために、障害をもっている人の生活をチェックする
必要が生まれました。そこで1996年11月に始まったのが「生活の質を見る
(Looking at Life Quality)」という生活の質に関する調査です。
サービス提供者以外のボランティアを中心として、あらかじめ定めた25項目
の基準をもとに聞き取りをしていくもので、今後3年間で2000人を対象として
います。この25項目の基準には、たとえば、次のような質問が含まれています。
 「あなたは自分が必要なもの・欲しいもの・好きなもの・嫌いなものを決定
していますか」
 「あなたは地域社会の一員として、統合された環境の中で生活し、働き、遊
んでいますか」
 サービスの内容をチェックするということについては、たとえば日本でも、
入所施設で倫理綱領がつくられる場合があります。これは、支援体制や生活環
境の改善、職員の対応の仕方や虐待などの防止などの目的で、主に職員の取る
べき態度や禁止事項がまとめられている、いわば職員向けの施設内規則(指針)
です。しかし、こうした倫理綱領と比較して、「生活の質を見る」の特徴とし
て、第一にこれがひとつの施設の中で通用する基準ではなく、州レベルで通用
するという点があげられます。第二に、当事者にも見える形で存在しており、
当事者が自分自身でこの基準に基づいて自分の生活を評価できる点があります。
「生活の質を見る」には、対象者用とは別に、援助を行う側が自分で自己評価
をするためのガイドブックも用意されていますが、それは同じ基準で作られて
います。さらに、調査で吸い上げられたものはその人自身の支援のあり方や、
州全体のサービス提供のあり方にまで反映される資料となります。倫理綱領の
場合、施設内だけでなく、さらに職員に限定して、職員がどう行動するか/し
てはいけないかを定めているにすぎず、しかも、しばしば言葉遣いは難解で入
所者が使うようなものにはなっていません。また、入所者側からのニーズや問
題の提示が行われるのではなく、むしろ提供者側の消極的な約束事にとどまっ
ているために、限界があります。
 従来からIPPのチェックは行われてはきましたが、それは単にリージョナ
ルセンターのケースマネージャーが、IPPに書かれたサービスが正しく提供
されているかどうかを確認するだけにとどまっていました。しかし、サービス
が正しく行われていることと、援助を受ける本人が生活に満足していることと
は、必ずしも一致しません。新しいチェック制度は、当事者の視点から生活の
満足度を見るものなのです。だから、これによって新しいニーズがあるとわか
れば、そのためのサービスを新たに作り出すこともできるのです。

 障害をもつ人々の権利を明確化した法律

 IPPや「生活の質を見る」は、その根本的に、障害をかかえ援助が必要だ
としても皆が地域で普通に暮らすという思想をもっています。それは、すでに
州法(ランターマン発達障害者サービス法)が、「隔離されないこと」「暮ら
し方や将来を自分で決めること」などを知的障害をもつ人々の「権利」として
認めているからです。最初に基本理念が明確化されているために、いちいち同
じことを訴える必要はないし、もし基本理念に反した扱いがなされたときには、
法に基づいて訴えを起こすことができます。
 それに比べ、日本では、こうした理念がサービスの中に含まれていないし、
それどころか、知的障害に限らず障害をもつ人々の権利が明確化されていませ
ん。障害の重い軽いに関わらず、地域の中で自立して暮らしたいという願いを
実現するためには、当事者の個別のニーズにあった多様で柔軟な援助・サービ
スがなくてはならないでしょう。しかし、それを作りだし、保証していくため
に、実際に活動しなければなりません。その具体的な方法として、ランターマ
ン法やIPPや「生活の質を見る」があるのです。

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   寺本 晃久  ID:95516821@people.or.jp
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