HOME >

障害者の権利条約実現を

長瀬修(障害・コミュニケーション研究所)2002/01/21

『毎日新聞』2002/01/21朝刊・「発言席」



 昨年12月に国連総会は、障害者の権利条約を検討する特別委員会設置を決定した。
障害者が暮らしやすい社会に変えていくため、この条約の実現、日本政府の積極的な
貢献を求めたい。
 1981年の国際障害者年以来、障害者問題の位置づけは大きく変わってきた。そ
れまでの障害者個人の社会への適応を問題とする視点から、障害者を取りまく社会、
環境をどのように変えるのかを問題の焦点とする視点への移行である。この視点か
ら、障害者が差別されず、障害者の権利が保障されるために、国際的な条約が必要で
あるという声が、世界の障害者組織を通じて、80年代後半から国連総会の場でも訴え
られてきた。
 そうした願いが形を変えて実ったのが93年に国連総会で採択された「障害者の機会
均等化に関する基準規則」である。これは当初、障害者の権利条約として提案された
が、国連加盟国間で合意が得られず、結局、強制力のないガイドラインとして採択さ
れた。
 基準規則は障害者の社会参加を妨げる障壁(バリア)が全ての国にあるとし、障壁
を取り除くことが政府の責任である、と明記した。主な内容は建物・乗り物・情報を
誰もが使えるようにすること(アクセス)、統合教育の原則(手話を用いる聾学校は
別)、職業に関する差別禁止、性的関係・結婚に関する差別禁止である。
 基準規則の実施には、自ら視覚障害者である特別報告者や障害者組織が積極的に取
り組んできた。しかし、ガイドラインではなく、批准国政府に義務を課す国際条約の
実現も障害者側からは訴えられてきた。そうした要請を受けて、2000年には中国
政府、アイルランド政府が国連で条約提案を行ったが、実現しなかった。またもや挫
折かと思われたところ、昨年秋の国連総会で、今度はメキシコ政府が条約提案を行
い、ねばり強い説得工作をして、特別委員会を設置する決議の採択にこぎ着けたので
ある。
 この決議は、障害者の権利を国際的に保障するための歴史的前進である。この決議
を受け、今年の秋の国連総会までに「条約を検討する特別委員会」の開催と、検討作
業の開始が予定されている。
 気になるのは日本政府の態度である。日本政府は資金やスタッフ面で、国連や「ア
ジア太平洋障害者の十年」に貢献してきた貴重な実績がある。他方、条約、基準規則
などの国際的基準作りには消極的な態度を示してきた。特に文部省(現文部科学省)
は、国際的な政策決定の場でも、日本国内での強制的な分離教育政策を正当化すべく
担当官を派遣し、必死で防戦に努めてきた。それは私も国連事務局職員当時に目撃し
たことがある。そうした後ろ向きの姿勢は障害者の国際的組織(NGO)からも批判
にさらされてきた。バリアをなくすという視点からの政策推進をこそ求めたい。
 国内では障害を理由として資格、職業から障害者を排除している「欠格条項」の見
直しが「障害者欠格条項をなくす会」、全日本ろうあ連盟等の取り組みにより成果を
あげてきた。また、この10月には国際的連帯組織である障害者インターナショナル
(DPI)の世界会議が日本で初めて、札幌で開かれる。アジア太平洋では、第2の
障害者の十年が「障壁からの解放」をテーマとして提案されようとしている。まさに
大きな節目の時期である。
 障害者をはじめ誰もが安心して暮らせる社会、世界にするために、日本にいる私た
ちとしても、国際的な障害者の権利条約作りという重要な動きに注目し、積極的な働
きかけをしていきたい。


障害者の権利条約
TOP HOME (http://www.arsvi.com)