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英語圏の「障害者」表現
―世界から・第9回―

長瀬修
『福祉労働』79 1998年6月25日



 米国では Americans with DisabilitiesAct (ADA)のように、「米国人」や「人」
という表現をまず打ち出し、次に付随的にディスアビリティ、障害を持ってくるとい
うのが現在、最も一般的な表現である。障害女性なら women with disabilities、
障害生徒なら、students with disabilitiesである。まず何をおいても「米国人」、
「人」、「女性」、「生徒」であることを強調する指向である。ある意味で、普遍性
の強調である。同じ「米国人」、同じ「女性」であるとするのである。これ以前は 
the disabled や the handicappedという障害だけが強調される表現が使われてい
た。
 普遍性への指向は、知的障害者本人の運動である「ピープル・ファースト」とも符
合する、それは、「障害」にばかり焦点を当てられ、同じ「人間」であることが無視
されてきたことの反映でもある。特に、知的障害者の場合、それは顕著である。
 しかし、最近になって 障害者を disabled people とすることも多くなってき
た。これは自らの大切なアイデンティティとして障害を受けとめる意識の反映であ
る。with というような付随的なものではなく、自らを規定する核として障害を見な
す意識である。日本でも例えば樋口恵子は「障害は、私の豊かな個性」(「エンジョ
イ自立生活」)と語っている。これはピアカウンセリング、自立生活運動、障害文化
・ディスアビリティカルチャー運動の広まりとも密接に関係している。障害者として
の自分に誇りを持つからである。
 これに関連して言えば、ろう者の場合に世界ろう連盟が The World Federation of
the Deafとして、the deaf/Deafという伝統的な表現を変えようとせず、「ろう」で
あることに最大の拠り所をおいているのと共通性を感じさせる。
 さて、目を英国に転じるとこれがまた厄介である。英国では70年代のUPIAS
(隔離に反対する身体障害者連盟)以来、身体面(後に「知的」、精神をも含む)を
インペアメント、社会面をディスアビリティで表すという伝統がある。とは言っても
ハンディキャップも使われていて、例えば、障害学、ディスアビリティスタディーズ
の英国でのはしりとされるフィンケルシュタインのオープン大学(通信制)のコース
は"Handicapped Person in the Community"だった。
 86年に発刊され、障害を社会の産物と見なす社会理論の発展に貢献してきた研究
誌の当初の誌名は"Disability, Handicap & Society”であり、ハンディキャップが
除かれ、"Disability & Society"(ディスアビリティと社会)となったのはつい最近
の94年のことである。
 このように特に英国ではディスアビリティで社会的不利を示す用法が広まってい
る。したがって people with disabilities は不自然とされ、disabled people が
好まれる。英国発行の Disability Awareness in Actionという障害に関する国際的
ニュースレターが "with disabilities" 型の表現を排除しているのはそのためであ
る。
 ちなみに英国に関して言えば、国際障害者年は国連の正式名称で International
Year of Disabled Persons だが、最後を People としているのに出くわす。集合的
意味あいの強い people が好まれる傾向は英米共に確かにあるが、オリバーやアバ
レーなど、著名な指導者が誤った表記をしているのは不可解である。(意図的である
可能性もある)
 障害者インターナショナル(DPI)のディスアビリティ、ハンディキャップの定
義を英国だけ国内的に変更していること(それぞれインペアメント、ディスアビリ
ティに変えてある)を含め、不思議である。その英国が国際的に最も通用する英語と
いう言葉の母国であり、しかも障害の理論面でも指折りに進んでいるために、厄介き
わまりない。
 なお「ハンディキャップ」は桑名敦子が本誌75号の「アメリカに暮らして第3
回」でも述べているように、米国そして英語圏では物乞いを連想させるとして、障害
者から否定的に受けとめられているので、使われることは少ない。
 現在進行中のWHOのICIDH(国際インペアメント、ディスアビリティ、ハン
ディキャップ分類)改訂作業では、ディスアビリティがアクティビティ(活動)、ハ
ンディキャップがパーティシペーション(参加)と提案され、ディスアビリティはな
くなるようである。用語の混乱はさらに深まる様子である。
           (文中敬称略)


REV: 20161229
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