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「スロバキア共和国の手話立法」

長瀬 修 199710
日本手話研究所所報
『手話コミュニケーション研究』1997年10月、第25号、日本手話研究所



 フィンランド、ウガンダと、憲法で手話を認知する動きが最近目立つが、以下に9
5年6月26日に成立したスロバキア共和国の手話法を紹介する。現在のところ、国
レベルでの手話に関する世界で唯一の独立した法律であると思われる。なお、スロバ
キアは以前チェコスロバキアとして連邦を構成していたが、93年に分離、独立し
た。人口は95年の数字で536万人である。

「ろう者の手話に関するスロバキア共和国法」
 第1条、本法の目的は手話の使用をろう者のコミュニケーション手段として認知
し、その実現のための条件を保障することである。 第2条、ろう者
 ろう者とは、補聴器を着用しても音声によるコミュニケーションができない聴覚障
害を持つ者である。
 第3条、手話
1、手話とはろう者のコミュニケーションの言語である。
2、ろう者の手話は自然な視覚・ジェスチャー言語体系であり、規則的動作、重複、
手と指の動作、顔の模倣を持つ。
 第4条、ろう者は次の権利を持つ。
1、手話を使用する。
2、手話を使用して教育を受ける。
3、手話を使用してテレビ放送、図書館、ビデオの情報を利用する。
 第5条、
1、ろう者は手話通訳者を利用する権利を持つ。手話通訳者は、ろう者が自らの生活
上の問題を解決するために、政府、地方自治体、個人、法人と接する際に、公用語と
手話間相互のコミュニケーションを保障する。
2、省令が支払を求めない場合には、ろう者への通訳サービスは無料で提供される。
 第6条
スロバキア共和国福祉省は省令により、以下を規定する。
1、第4条、第5条に規定されているサービスに関する支払方法、並びに無料でろう
者に提供されるサービスの範囲。
2、手話通訳者養成の範囲と内容
 第7条
本法は成立日をもって発効する。
(本法は、スロバキア共和国大統領、議会議長、総理大臣が署名している)
(Ruckay, 1996)

 スロバキアの手話事情を簡単に付け加えたい。1990年にスロバキアろう・難聴
連盟が成立し、95年度には政府から9万ドルの援助を得て、32名の手話通訳者
(うち7名が同連盟職員)で手話通訳サービスを提供している。手話法は同連盟の働
きかけの成果である。手話は同法成立以前から初等、中等教育で使うことが可能だっ
たが、成立以後は高等教育でも使えるようになった。手話法の成立により、教育の他
でも、テレビニュースの手話での提供など手話の社会認知の進展が期待されている。
(Ruckay, 1997)

付記、本稿のためスロバキアろう・難聴連盟に問い合わせたところ、会長 Monika
Balogova, 事務局長 Mgr. Milan Ruckay 両氏から丁寧な返事を頂いた。深く感謝す
る。

参考資料
"Law on Sign Language" WFD News, No. 1, (April 1996), p.37
Ruckay, M. (1996) "Sign Language in Slovakia" Disability Awareness in
Action, March 1996, p. 3,
Ruckay, M. (1997) "Sign Language Interpreting Services in the Slovak
Republic" Proceedings of the XII World Congress of the World Federation of
the Deaf, pp. 555-557
Vlug, L. (1995) "ASL/LSQ Laws and Deaf Laws" Canadian Association of the
Deaf

(長瀬修 障害・コミュニケーション研究所)


REV: 20161229
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