ブトロス=ガリ事務総長は昨年12月の訪日の際にも、脚光を浴びる政治・安全保障分野にともすればかすみがちな国連の経済・社会面での活動の重要性を訴えている。日本でも触れたが事務総長は大きな反響を呼んだ「平和への課題」に引き続く、「開発への課題」(AGENDA FOR DEVELOPMENT)を準備中である。
社会・経済部門の部局を単一の経済・社会局に統合した現事務総長の第1次の改革に引き続き行われた第2次の改革は、ウィーンの社会開発人道問題センターの解体をもたらし、政策調整・持続的発展局(前回の93年8月号で部としたのを訂正する。以後DPCSDと略。)をはじめとする3つの局が新たに生まれた。DPCSDはインドのニティン・デサイが事務次長として統括する。
事務総長によればDPCSDはまとまりある政策立案能力を持ち、総会の第2・第3委員会、経済社会理事会、社会開発委員会、女性の地位委員会、持続的発展委員会等の政府間機関に一層、効果的な支援を行う。特に開発への統合されたアプローチを促進する。
障害者班が含まれることになった社会政策・開発部(DIVISION FOR SOCIALPOLICY AND DEVELOPMENT)では、部長が95年3月にデンマークで開かれる社会開発世界サミットを担当し、部長直轄でサミット事務局が編成されている。ウィーンから移転した障害者、青年、高齢化、社会福祉等のプログラムは、副部長が統括している。
障害者班は移転の影響で本稿執筆時点(1月末)で、ニューヨークが3名、予算や家族の叙情で移転できない3名がウィーンという変則的な状態が続いている。ちなみに私は10月中旬に外務省の特別の支援を得て移転することができた。他の2名の職員は8月に移転している。
8月に梱包され、おもに船便でニューヨークに送られてきた障害者班の約350箱の資料の大半は現在もスペース不足・人手不足で廊下に積んだままである。
この状態の中で障害者班では、9月にルーマニアで東欧・バルト諸国を対象とした国内調整委員会に関するセミナー、12月にマレイシアでアジア太平洋を対象とした、障害法制に関する専門家会議を開いている。
2、決議
(1)障害者の機会均等化に関する基準規則
大きな節目となった「機会均等基準」決議(48/96)の採択については前号でも取り上げられているので、ここでは触れない。
焦点の特別報告者の任命については、現在検討中である。同基準の実施に関する予算は多少、94・95年予算(国連は2年毎の予算サイクルである)に計上してあるが、特別報告者に関しては何らの予算措置もない。第3委員会での審議では、「特別報告者をはじめとする機会均等基準の通常予算による実施」を求める声が加盟国からあがったが、同委員会で同基準の採択時に「予算への影響を考慮する必要(追加的予算措置)を含んでいない」という議長からの説明があり、そのまま採択された。機会均等基準の実施・モニタリングに重要な役割を果たすことになる特別報告者だが、加盟国からの特別拠出を待って任命を行うことになった。第3委員会ではカナダ政府が拠出を表明している。
事務局としては当面、同基準の広報、普及並びに同基準実施、なかでも特別報告者の任命へ向けて加盟国からの支援を得るのに力を注ぐ方針である。
既に障害者組織からはいくつかの動きが報告されている。障害者の日の12月3日にブリュッセル(ベルギー)の欧州議事堂で開かれた第1回欧州障害者議会の決議では、同基準の実施を訴え、実施状況の報告を求めている。南部アフリカ障害者連盟(SAFOD)からは、同基準を中心テーマとするセミナーを本年3月上旬にジンバブエで開催するとの連絡が届いている。
同じく3月上旬には国連主催でラテンアメリカ・カリブ海対象の国内調整機構と障害法制に関するセミナーをコスタリカで予定しているが、同基準の同地域での普及も大きな目的となる。
6月にはアイスランドの政府と障害者組織が共同で「ノーマライゼーションを超えて全員参加の社会(A SOCIETY FOR ALL)へ」と題する国際会議を計画中で、国連も協力するが、この会議でも同基準が大きなテーマとして取り上げられることになった。
多くの時間と努力が費やされた「機会均等基準」だが、これが真に意味を持つー各国の障害者が均等な機会を得るーか否かは、加盟国政府、そして障害者のNGOにかかっている。
日本内外での実施に読者の協力を心からお願いする。
(他の決議)
国連の障害者プログラムの強化(48/95)国際障害者の日(12月3日)の実施(48/97)、世界行動計画の継続的実施(48/99)それぞれに関する決議が採択された。
ヘランダーの「偏見と尊厳:CBR入門」
WHOの「地域社会での障害者の訓練」の共著者としても知られる、UNDP(国連開発計画)のアイナー・ヘランダーの新著が12月3日の国際障害者の日に正式に発表された。
「偏見と尊厳:コミュニティ・ベイスト・リハビリテーション(CBR)入門」(PRIDE AND PREJUDICE:AN INTRODUCTION TO COMMUNITY-BASED REHABILITATION)は、世界、特に途上国の障害者の状況、障害者のニーズ、現在の途上国でのリハビリテーションシステムの問題点、歴史的視点、偏見、選択肢としてのCBR等を取り上げ、豊富な経験を持つ筆者の筆は鋭い。障害者の数やリハビリテーションの定義等でも非常に興味深い労作であり、英語の壁があるかもしれないが、CBRに関心のない読者にもすすめられる。
巻末の「人権宣言の見直し」では、精神薄弱者の権利宣言と、障害者の権利宣言を取り上げ、現代の視点から厳しいコメントを加えている。
関心のある方はUNDP東京連絡事務所(港区南青山1ー1ー1新青山ビル22階。電話03ー3475ー1619)もしくは左記にお問い合わせ頂きたい。
UNDP, DIVISION FOR GLOBAL AND INTERREGIONAL PROGRAMMES, TWO UNITED NATIONS PLAZA, N.Y. NEW YORK 10017 U.S.A.
TEL. 1-212-906-5312, FAX. 1-212-906-5364
最後に障害者班の新住所を参考に記す。
DISABLED PERSONS UNIT
DIVISION FOR SOCIAL POLICY AND DEVELOPMENT
DPCSD, U.N. NEW YORK, N.Y. 10017, U.S.A
TEL/1-212-963-3897/4798
FAX/1-212-963-3062/1010
(国連事務局政策調整・持続的発展局)