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厚生省・筋ジス研究班での報告

19971201
玉井真理子



前半の遺伝カウンセリングのおさらいのところは省略

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(スライド略)次にカウンセリングにおいて問題となる守秘義務の解除に関してですが、アメリカ大統領委員会による遺伝カウンセリングとスクリーニングに関する報告書にみられるものが、守秘解除の原則としてしばしば引用されます。クライアントの同意なしに、家系内の特定の血縁者に対して遺伝的リスクを開示することができるのは、その血縁者にとっての重大な不利益をそのことによって回避できる可能性が明らかである場合に限ってであります。私は、これを「健康上の直接的な重大な不利益」と解釈しております。しかし、大統領委員会レポートは感染症モデルであると考えられ、しかも1983年のものであることから、90年代に入ってヒトゲノムプロジェクトが開始されてから以降の現在の遺伝病モデルとして妥当かどうかはわかりません。
(スライド略)そのためになら守秘の解除が例外的に容認されるとされているのは、そうすることでしか守れない「当該の個人の利益」のためでありますが、そのなかに、遺伝性疾患の子どもの出生を回避したいと考えている親がその希望をかなえるという利益が前提として含まれているのでしょうか。さらに、避けなければならないものとしての「当該の個人の重大な不利益」に関しては、そのなかに、児が遺伝性疾患で生まれることは含まれるのでしょうか。いずれについても、現段階では、十分に吟味されているとは言えません。したがって、大統領委員会の枠組みを、現在の遺伝病をめぐる守秘の解除について、単純にあてはめるのは若干無理があると言わざるをえないと思います。あくまでも当該の個人の、直接の、健康上の、利益・不利益、を前提にするならなおさらのことと思います。
(スライド)------------------
◆Assesing Genetic risks 1994
serious harm =irreversible or fatal harm
◆The Genetic Privacy Act 1995
There is no obligation,and should be no obligation,on practitioners
to disclose genetic information to persons who are not their
patients.
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遺伝病の場合どのような基準で守秘の原則を遵守すべきであり、またどのような基準で例外的に解除されるのかに関しては、海外の文献を見る限りその要件は厳しくなっている印象があります。

(スライド)----------
◆There is high probability of harm to the relatives (including futuer chil
dren) if the information is not disclosed, and there is evidence that
information could not be used to prevent harm.
◆大統領委員会レポートを参照しながら、それにはなかったfutuer children を relatives に加えている
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ただし、WHOガイドラインは逆であり、したがって、いまだ合意に達しているとは言えません。「自己決定の意味を問い直さざるを得ない」という遺伝情報の特殊性に配慮しつつ、これが差別に利用されないよう、誤解や偏見を生まないよう、むしろ差別を是正し、誤解や偏見を解くような形で、遺伝病との豊かな社会的共存も含めて、いかに利用していくかという課題を、現代の遺伝医療が避けて通ることはできないと思います。またそのためには、遺伝カウンセリングのあり方を、どう制度化していくかということも含めて、検討することが急務の課題であると考えます。その際に当事者団体の関与が不可欠であることはもちろんですが、親が当事者の人権をよかれと思って奪ってきた歴史のいくつかを謙虚に振り返るなら、決して当事者に成りえることはない親の立場ではなく、当事者そのものの視点で吟味されなければならないと思います。

配布資料

着床前診断についてのVSOP(遺伝性疾患および先天異常症の支援団体連合)立場 1996

原題:Standpunt VSOP inzake pre-implantatiediagnostiek(オランダ語)
VSOP: Ducth Alliance of national support groups concerned in genetic and
non genetic congenital disorders

 着床前診断(PID)とは、試験管の中の受精卵(IVF)に対して用いられる、出生前診断(PND)の一方法である。PIDでは、受精して間もない胎芽から1〜2個の細胞を取り出し、遺伝子上に異常がないかを検査する。異常が認められなかった受精卵だけが子宮へと移植される。移植は受精卵が八分分割(試験管の中で約3日間培養後)になってから行われる。
 PIDはまだ実験段階にあるため、妊娠後に、現在用いられているPNDも同時に行われることとなる。この分野が今後どのように発展していくかを判断するためには、(テスト・プロジェクトとして)限られた機関でのまとまった適用が必要となる。

 VSOPとしては、PIDそのものについて述べる前に、特に以下の点を指摘する。

A.医療技術及び分子生物学の進歩状況に起因する、非常に複雑で微妙な移植上の問題がある。そのような問題に対して胎児の両親が適切な選択を行うことは事実上困難である。
B.新しい技術の利用を過度に楽観視することにより、新たな社会的規範を生み出してしまう危険性がある(モbirth made childモ )。
C.PIDなどの技術の発達が、深刻な遺伝子上の病気の発生を今後防止するという考え方を改める必要がある。
D.診断の際の検査費用が、間接的に、本来診療や治療に当てられるべき予算から捻出されるという、望ましくない可能性がある。
E.この診断を受けるか否かの選択を自由に行える権利は極めて重要である。
F.PIDを受けるにあたっては精神的な負担が生じる。

 VSOPは、VSOPの“倫理上の見解”のなかで述べているように、選択の自由の保障という原則を出発点としている。
 特に上記A~Fの点を考慮し、かつ予め検討された厳しい条件が満たされた場合にのみPIDを限られた人々を対象に適用する、をいうのがVSOPのとる立場である。適用のための条件とは、以下の通りである。

1.対象となる家族の、すでに判明している、あるいはこの検査で判明する遺伝子上の病気について、話し合いを持ち、検討すること。
2.関係者に対して、この診断の限界や不利な事柄を含め、十分な情報を提供すること。3.PIDは、現在行われているPNDと同等の信頼性を得たとしても、尚、最低限の適用に留められること。
4.将来生まれてくる子供に対する、PIDの安全性を極めて慎重に見守ること。
5.関係者による書面での同意(インフォームド・コンセント)。
6.心理社会的な影響についての問題点を提示すること。
7.国によって定められた医療機関でのみ、適用されること。
8.十分な記録を行うこと。
9.この診断方法の安全性を確立させるにあたり、最低1年間の完全なフォローアップ(4.で指摘した点を、8.のやり方で)のための、組織面及び財政面の保証が必要である。
10.PNDの根本方針に準じた、総括的または部分的な診断の基準枠を、例外なく、対象となる家族に適用すること。

注)VSOPでは、当事者本人や外部からのメンバーを交えた議論を経でこうした立場表明を行っている。


REV: 20161231
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