HOME >

インターネット上における母乳育児支援の状況把握

中水文恵 安木有紀 山根綾子 2002/01

信州大学医療技術短期大学部助産学専攻科・助産学研究報告



<要約>
助産婦として育児中の母親に関わり情報提供する際、情報収集、コミュニケーション方法の一部分としての充足したインターネットの利用方法を伝えるために、インターネット上でのホームページの充実度を把握し現状を明らかにする目的で本研究を行った。育児中の母親が、母乳についての情報を収集する手段としてホームページ<以下HP>にアクセスすることにより、有効な情報を得ることができるのか、またインターネットの機能の特性を生かした育児支援がなされているのかについて検討した。その方法として、母乳に関するホームページ144件についてアクセスしその質と内容について考察し、また開設者ごとにその傾向を調べた。

その結果は以下の6点に要約できた。
@ HP上での母乳に関する情報は母親が情報を入手する際に有効なものが存在した。
A 母乳についてまったく間違っている情報を流しているHPはなかった。多くのHPは母乳について正しい情報を提供していた。
B HPによって母乳に関する情報発信・情報収集だけでなく、コミュニケーション手段として活用されていた。
C HP開設者によって特色のあるHPの内容展開がなされていた。
D HP上の母乳に関する情報は莫大な量であり、目的とする情報にすぐには結びつかないこともある。
E HPから松本市という地域性のある情報や人材へ結びつくことはなかった。
 以上より、散在している情報をまとめ、母親がHP上で情報を入手しやすいシステムを立ち上げ、さらに地域へとつなげていく必要がある。

T.はじめに
21世紀は、情報化社会といわれ、日本のみならず世界各国で情報通信が急速に進む中で、人々が情報を収集する方法も多様になってきた。
 平成13年度に報告された情報通信白書によると平成12年度末におけるインターネット利用者は、4708万人(人口比率の約40%)とされておりその数は年々増加し続けている。また平成17年には8720万人間での増加が見込まれている。これほどまでに、人々の生活に密着しつつあるインターネットには、既存の情報収集方法と同様にメリット・デメリットが存在する。
 インターネットのメリットとしては、匿名性がありアクセスに時間や場所を取らない、自分が欲しい情報を瞬時に手に入れることができる、世界へと繋がっているなどが上げられる。デメリットとしては、情報量が多いために目的とする有用な情報が収集しにくいことや、発信されている情報の信憑性が疑われることなどもあげられる。インターネット利用は各種情報収集や個人間の情報交換であるメールといった場面に限られる傾向が多く、これら以外の生活場面へのインターネットの浸透はこれからの課題である。
インターネットの機能にはインターネットコンテンツ(HP)による「情報の送発信源」としてHPの電子掲示板やメーリングリスト、チャット機能を使用し、情報の共有と親睦や懇親を図ることができることから「コミュニケーションが可能」である点が期待されている。
 
U.目的
 我が国では少子化が急速に進む中で、子育て中の母親における育児不安が大きな原因として注目されている。その原因として、情報不足や育児の不慣れ,コミュニケーションの不得意などが挙げられる。そのような母親が情報収集やコミュニケーションを図ろうとする時の一つの方法として、今後インターネットの機能が生かされていくものと考えられる。さらに、実生活で役立つ情報を入手し少しでも育児不安を軽減できるのではないだろうかとも考えられる。そこで今回私たちは、助産婦として育児中の母親に関わり情報提供する際、情報収集、コミュニケーション方法の一部分としての充足したインターネットの利用方法を伝えるために、インターネット上でのHPの充実度を把握し、現状を明らかにする目的で本研究を行ったので報告する。

V.方法
 今回インターネットによる育児支援ということであるが、一言に育児支援といっても領域が広いので母乳支援に絞ることにした。とりわけ情報が必要と思われるのは、育児に対して不安を抱えている人であると考えられる。文献によると、不安の最も高い時期は産後1から3ヶ月の期間であり1)私たち助産婦学生が実習中に母親との関わりの中で、母乳に対しての不安や疑問が多いことに気づいた。そのため、今回は特に産後1ヶ月以内の母親に最も必要とされる母乳周辺のテーマに絞り検索にあたることにした。実際に母親が母乳に関して情報を得たいと思ったときに、どのようなキーワードを用いてHPを検索していくかを考えると「母乳」「ミルク」「おっぱい」等が挙げられると予想し、その3つのキーワードで検索をしてみた。その結果「ミルク」に関しては牛乳関係、「おっぱい」に関しては「母乳」とほぼ同一のHPとなったために、キーワードを「母乳」に絞ることにした。
さらに、今回インターネットによる育児支援ということで、それぞれの地域からの育児支援情報も考慮に入れる必要があると感じた。そこで、私たちが籍をおく信州大学医療技術短期大学部がある松本市における育児支援情報をインターネット上から調べることからも、そのことの裏づけとなると考え情報収集した。その際、母乳についての情報を収集する目的で「母乳」というキーワードを入力し検索した。

@インターネット情報を分析するために、日本最大の検索サービス会社である『Yahoo!JAPAN』から発信されているHPを用いて検索を行なった。
A得られた各々のHPについてはその質(信頼性、充実度、即効性、実用性等)を明らかにするために、開設者(公共団体、病院、医療者、専門職、一般、個人、企業)、リンクの有無とその数、メーリングリストの有無、電子掲示板の有無、チャットの有無、HPに寄せられた質問に対してHP上での回答の有無、開設者・利用者の体験談の有無、HPの会員制の有無、HP利用者間の通信発行等の有無、本の紹介の有無について開設者ごとに分類しその傾向を検討した。
Bまた、これら「母乳」によって検索されたHPについて資料1に示すように、母親が入手できたらよいであろう情報について項目を挙げ、それらについて各HP上でその項目の有無を調べ、開設者ごとに分類しその傾向を調べると共に、発信されている情報の質について検討を行なった。 
 なお、検索期間は平成13年12月6日から12月18日である。

W.結果
『Yahoo!JAPAN』には14の分類があり母乳という部分については「生活と文化」という項目の中で関連性が強いため、まず、「母乳」というキーワードで入力してみると38件のHPが存在した。次に分類なしで「母乳」を入力すると49600件のHPが検索結果として登場した。しかし、検索結果の上位ほど母乳に関連した内容のもので、下位になるほどその内容が母乳とかけ離れたものとなるので、今回は上位100件についてそのHPを分類することとした。100件中、その24件については「生活と文化」の中のHPとの一致がみられた為、76件について検索した。加えて、「生活と文化」で存在した38件と先の76件の計114件を1群として検討した。
最後に「母乳」というキーワードに「松本市」を絞り込み検索した結果71件の登録サイトが出現、これも下位はほとんど母乳とかけ離れたものとなっている為に、上位30件を分析することとした。この30件を2群として検討した。
1) HPの質について
・1群について
114件の結果について述べる。114件中、HPアドレスの記載がされていながら、そのHPを開くことができなかったものや、開いても白紙であったものが11件であったため、最終的に103件について検索した。
情報の幅を広げ、よりよい情報を求める上でリンクの有無を調べた。ひとつのHPであってもリンクがあることによって、そのHPに記載されていない内容についても情報を得ることができる。リンクは全体で33%が保持していた。メールアドレスは、開設者へ連絡や質問する場合に必要である。HPの信頼性のひとつとしてメールアドレスの明示を確認した。このメールアドレスは、開設者へ連絡や質問をする場合に必要である。全体の71%が保持していた。その内訳は病院94%、医療者62%、企業80%であった。団体や一般団体に比べて、病院や企業に比べ病院や企業などにメールアドレスが多い。コミュニケーションを図る指標として電子掲示板の有無とチャットの有無、質問形式の有無や体験談の表示を調べた。電子掲示板は全体で19%、そのうち医療者は46%、個人は20%が開設。チャットは全体で5%であり、医療者15%、個人10%であった。質問形式は33%であり、病院38%、医療者62%である。体験談は全体で25%、医療者が31%、一般団体48%、個人40%。全体の13%が会員制のHPであったが、会員制のHPは情報を見ることができる人が限られてしまい、手軽にHPを見ることができなかった。今回は手軽さをみる指標として会員制の有無を調べた。通信の発行についてはHP以外のコミュニケーション方法手段を知る目的としてその有無を調べた。全体で11%、本の紹介も全体で32%であった。(表1参照)

・2群について
1群と同様に検索したが、30件中8件が開設者不明であったため、開設者による違いは明確に出すことはできなかった。25件の検索結果は以下の通りである。(表2参照)

2)HPの内容について
・1群について
HPの内容について1群として「母乳」というキーワードより分析有効な103件について結果を出した。また、2群として「母乳 松本市」というキーワードより分析有効な25件のHPについて検索し分析を行い、また、1群と2群を比較し、その傾向を分析した。
 1群で一番項目が多かったのは29件のHPが挙げていた母乳の免疫学的意義、母乳保育と母子相互作用、母乳とダイオキシンについてである。乳汁が出る仕組み27件、母乳の生理学、母乳の利点はともに22件、WHO・ユニセフの母乳についての10か条、断乳について、授乳時間と量、追加量がそれぞれ20件であった。(表3参照)

・2群について
30件中授乳について相談にのってくれる施設が最も多く6件(20%)、母乳に関する講演会について4件(13%)、母乳によい食事、母乳とダイオキシン、その他のイベントについてそれぞれ2件(6%)、母乳とSIDS、母乳と虫歯、WHO母乳の10か条がそれぞれ1件(3%)であった。
3)開設者の違いによる検討
 母乳の生理機能に関する項目が開設者全体に多く、母乳に関する基本的事項を押さえた後に、それぞれの開設者が個別性をいかした内容が増加していた。病院や医療者については「医療」という専門性がいかされており、専門職(保育士)では「保育」「育児」という視点から母乳育児に関する生活観のある情報提供をしていた。企業は商品の説明の項目が多った。(表4参照)

X.考察
1) 母乳に関連する項目を調べた結果について
・1群について
1群全体に関する母乳の項目に対してであるが、昨今話題とされているダイオキシンについて項目を挙げているHPが多かった。これはダイオキシン等の環境ホルモンが母乳中に含まれており母乳の是非が問われていることも関係しているのだろう。また、母乳の免疫学的意味を表示するものや母子相互作用を表示するものが多いのは、母乳の利点を積極的にインターネット上でアピールするには適した項目であるからだと思われる。そして授乳量や時間、断乳について、相談に乗る施設などの具体的な援助項目についてのHPが掲載されていた。その後、母乳育児と仕事や乳房・乳頭のトラブルについての項目が続いている。反対に、外出先の授乳場所や搾乳の仕方、ミルクの作り方などの項目、多胎児への授乳方法、ハイリスク児への授乳方法などの項目はそれぞれわずか1項目しかなかった。しかし、多胎児やハイリスク児の親はマイノリティであるため、その児らに対する情報はもともと少ないことは予想できる。だが、情報が少ない分、当事者が感じる不安や問題も多いと思われる。この項目に対しての掲載がないのは情報を必要としている人に必要としている情報が伝わっていないということがいえるのかもしれない。これは何もHPだけではなくすべての情報源についてもいえることである。

・2群について
授乳について相談にのってくれる施設が最も多かったということで、地域の施設紹介が多いのではないかと受け取りがちであるが、HPに記載されている施設については名称だけで、問い合わせの時間、担当者の名前などがなく、宣伝広告の一部分に取り上げられている程度であった。また、講演会などの内容は記載されているものの、すでに終わっているものもあり、インターネットの利点である即効性という点で見れば有効に利用されていないと言える。したがってHP上の内容はほとんど母乳と松本市に一致せず「母乳 松本市」というキーワードからは松本市という地域性を見ることはできなかったと言える。また、キーワードが母乳と松本市なので人間の母乳だけでなく、こうもりや鹿の母乳についてのHPも出てきてしまった。これらより松本市の母乳に関する情報を育児中の母親が入手するのは、かなり困難なことだと言える。

2)次に母乳の項目を開設者ごとに分類した結果について
公共団体・・・・・・地域性のある項目、例えば授乳について相談に乗ってくれる施設などの掲載があると予想していたが皆無であった。また、公共団体がHPに挙げている母乳に関する項目自体が少ない。このことからも公共団体の母乳育児支援について、HP上からアクセスすることは母親にとって難しいといえる。公共団体こそ母親に対して母乳相談にのってくれる施設やその日時・施行者・料金等の詳しい内容をHP上で情報提供する必要があると思われる。
病院関係・・・・・・挙がっている項目からも、母乳推進の傾向が強く、教科書的な専門知識を説明している内容のものが多い。印象としてやや硬く、共感というよりは相談という機能を果たしているようであった。しかし、メールの比率がそれぞれ94%と大部分が開設しており、母親が専門的知識についてアクセスしやすく、正確な知識などについての情報が得られやすい環境にあるといえる。だが、実際にそれぞれの病院についてメールを送信みたわけではないのでメール返答の即効性やその内容について言及することはできない。また、イベントや講演会など、病院独自のアピールの場としてHPが利用されている現状があった。
最近、育児不安の強い母親に対して病院によっては電話相談の形で保健指導や精神的援助を行っているようである。しかし、電話相談は1対1の対話形式のため、援助の対象人数が限られている。また、互いの時間調節が難しい。HPによる情報発信では複数の人に同時に発信できるし、時間を選ばなくてよい点も便利である。特に医療における社会的なサービスに関する情報は手に入りにくいものではないかと予想していたが、思ったよりも多くの病院がHPを所持しメールアドレスも完備していた。「敷居が高いと思われがちな専門職に対しての関係を埋めるにも、HPのよる保健指導や援助は有効であると思われる」2)と報告されている部分に加えて、現代のコミュニケーションが不得意な母親には相手がわからない分、より正直な気持ちを相談することができる。だが、実際にHPで指導や援助を展開する時に注意する点としては、文字でのやり取りであり、顔が見えない意見交換はトラブルにつながる可能性もあるということだ。医療者が母親の相談に乗るとき、顔色や状態を把握できない状態で母親の不安が本当に理解でき、不安を軽減する援助ができるのかという疑問も残る。
 医療者・・・・・・医療者として主に助産婦や産科Dr.として分類したが、病院関係と比較して、教科書的な知識というよりは、生活に密着した項目が多く挙げられていた。これは助産婦が作っているHPが多く、特に1番項目が多かった授乳の時間と量・追加量という項目は私たち学生も母親の不安としてよく感じられていた部分である。それらの部分についての項目が多く挙げられていることからも、母親にとっては不安が軽減しやすく頼もしいHPだといえる。
 専門職・・・・・・今回は保育士が開設しているHPがあったが、1件だけであるので傾向などを述べることは難しい。しかし、助産婦や産科Dr.以外の専門職でも母乳について重要視しているという社会状況(保育士の場合は女性の社会進出等の影響で授乳を必要とする子供をケアしている)があるのではないだろうか。このように他の専門職が母乳について触れる機会が増えているのだろう。今後母子関係の専門職の人が母乳に関するHPを開設していくこともあると思う。また、母親にとっても多くの専門職が母乳について把握しているほうが心強いと思われる。
 一般団体・・・・・・ダイオキシン等の社会的状況があり、その項目について記しているHPが多かった。母乳育児支援というよりも、現状報告や研究成果の発表という、私たちが求めている育児支援という視点からは少しずれているように思える。2番目以下の項目についても、詳しい内容が述べられているというよりも、説明のみに終始しているものが多かったことから、情報発信の対象者が母乳育児中の母親というよりも広く世間に対して発信されているような傾向がある。
 個人・・・・・・件数の差が上位と下位でないので傾向を述べることは難しい。しかし、個人のHPでは開設者が体験したこと等を書き込んでいる傾向があり、このHPをみて同様の悩みや体験をしている母親にとって共感できる部分の有効性は大きいと思う。
コミュニケーションということに関連して個人のHPの中で活発にチャットやリンク集を組み、母親同士の情報交換や交流の場としているものを見つけた。ホームページアドレス(http://cat.zero.ad.jp/~aq14484/)。このHPは非常に内容が豊富で、資料1で挙げた母乳に関する項目に対しての網羅が全体の中でもトップクラスであった。またこのHP上で、チャットや掲示板等を通じてコミュニケーションをとっている母親たちの中には、自宅で児との引きこもりがちな生活を送っている人や、都市化のため希薄化した近所付き合いを送っている人もいるようだ。このような背景のある母親たちにとって紹介したようなHPは大いに役立っているだろう。またこのHP上で多くの母親が持ち寄った育児への技術的なアイデアは独自性がありすぐに生活に活用できるというメリットがある。だが、個人のHP全体をみて知識を習得するという点から行くと今ひとつ正確さに欠ける部分もある。
 企業・・・・・・授乳に使用する道具等の項目が多かった。これらのHPで母親は授乳に必要な道具を知ることができるが、母乳に関する知識や技術を得られることは難しいと考えられる。また、企業のほとんどがメールを開設しており、HP利用者への開放性がある。ただ企業がインターネットを媒介に売り込みに出ているのは当然であり、そのためか企業のHPは写真や色使いが効果的であり利用しやすかった。
 開設者不明・・・・・・病院関係とその傾向が似通っていた。それだけに情報発信側が必要と思う母乳に関する項目は、結果通りであるかもしれない。しかし、開設者不明ということで今ひとつ信頼性に欠ける。

3)インターネットのメリット・デメリットについて
母親の生活は子育てに追われ、情報収集している時間などないのが現実であろう。また、入院中にいくら指導を受けていたとしても実際にその場に遭遇すると不安や戸惑いが生じてくるものである。入院中と異なり、的確なアドバイスがその場で受けられないと考えられる。その点インターネットは気軽に利用できるし、短時間での利用が可能である。また、不安が生じたからといって病院や保健所等の施設に足を運ばなくとも情報を聞けるシステムになっている。
さらに、HPは誰でも検閲なしに情報を発信できることから、書籍と異なり、迅速な発表や内容の更新ができる点がある。加えてアクセスに時間や場所をとらず、必要なときにいつでも情報が得られるという特徴がある。しかし、中にはHPを開くのに時間を費やしたり、アドレスはあるものの開いても白紙であったりで情報を得られないこともあった。
 インターネットからは膨大な情報を入手することができる。今回は「母乳」とキーワードを入力しただけで約5万件ものHPが存在した。「育児書・雑誌等多大な情報が反対に母親を不安に陥らせている」3)という報告がある。加えてインターネットでのこれだけの情報は母親にとって不安増強につながらないだろうか。さらに、HP上でも膨大すぎる情報のため自分が欲しい情報にたどり着くまで時間がかかる例もあった。また、今回調べてみたHP上の情報で医学的に間違っているものや、怪しいものは少なかったが、HPを利用する以上、その情報が「絶対ではない」と念頭に置いておかなければ誤った情報を鵜呑みにしてしまう可能性もある。しかし、母親にとってその情報、例えば母乳についての情報が正しいのか、間違っているのかという判断ができるであろうか。HP情報と母親との間に道しるべのような何か媒介となるものが必要である。それはリンク集でもよいし、それでも足りなければ、新たにHPを作成することも必要かもしれない。それができるのは母乳についての専門職である助産婦であり、適役といえる。

4)今後の課題について
 今回の研究の目的として情報提供、コミュニケーション方法の一部分としてのインターネットの現状を把握することであったが、研究を進めていく中でそれらの情報は、具体的な支援や人材へとつながりにくいことが明らかになった。2群のHP上からも実際に母乳相談や具体的な支援情報へとつながらなかったのは、育児支援という視点でいくとインターネットの弱点である。
 HPはあくまでもHPである。ある文献には「褥婦はサポートしてくれる人の存在によって感情を表出し、需要されることによって不安を減少させ、自己概念を高め母親としての課題を達成していく」4)といわれている。HPでいくらコミュニケーションが可能であるといっても、それだけでなく、実在するマンパワーや支援団体などへの具体的な支援へとつなげていくことも大切となってくる。

5)方法に対する考察について
1つ目に、今回の資料1で上げた母乳についての項目が、本当にこれのみで母乳について網羅できているのかという問題である。しかし、HP上で母乳に関する項目について調べていく過程においては、足りないと実感できるほどではなかった。しかし、母親の不安や疑問は私たちが考えている以上に幅広いものであり、今後これらの情報を知りえたからといって、母親の不安が解決できると思い込まないようにしたい。
2つ目に、インターネット上からの育児支援ということで本研究を進めてきたが、母親がどのくらいの割合でインターネットを利用しているかの把握ができていない。また、長野県自体のインターネット利用率等を把握できなかった。同じように、退院後すぐにまた、1ヶ月以内にインターネットへと気が向かうのかの把握もできていない。しかし、本研究はどんなにわずかな利用者しかいなくても、利用者にとって正確に情報が伝わっているかに重点を置いている。
 最後に、今回検索したサーチエンジン(検索サービス)を『Yahoo!JAPAN』に絞ったことである。他のサーチエンジンとして『goo』や『LYCOS japan』等が存在するがそれらのサーチエンジンを用いるとまた違った結果になったであろう。

Y.おわりに
今回の調査を通して、インターネット上でのHPは情報発信・収集だけでなく、コミュニケーション手段として活用されており、多くのHP情報は信憑性があり、母親にとって有用なものであった。しかし、様々な立場にある人がHPを開設しており、母乳に関する情報を提供するゆえに、その情報が特色のあるものとなっていた。さらに、情報量は莫大なものであった。加えて、地域性のある情報がほとんどなくマンパワーや支援団体などの具体的な支援へと結びつかないことから、散在している情報をまとめ、母親がHP上で情報を入手しやすいシステムを立ち上げ、さらに地域へとつなげていく必要性を感じた。今後、インターネット利用率が増加する中、そのHPの存在自体を世間に広める必要もある。そのため、私たちは今回の研究を足がかりに、HPの立ち上げを検討している。

<謝辞>
 最後になりましたが、今回の研究に際しご指導頂きました先生方に深く感謝いたします。

<引用文献>
1)島田三恵子、日暮眞:育児不安、Perinatal
  Care、13春季増刊号p25
2) 斎藤進、小山修、加藤忠明、高野陽:情報化社会と子育てに関する研究
3)田中裕子、名田佳子、坂田めぐみ、只熊秀子、
南谷寿江:妊婦の求める情報源―なぜ、マタ
ニティ雑誌が売れるのかを考える−、愛知母
性衛生学会誌、第12号、10、p75−79、1994
4)丸山知子ほか:産褥期の意識に関する調査研
究(第1報)、母親の心配および関心事項につ
いての検討、母性衛生、4(27)、p717.1986

<参考文献>
1)松本病院 山崎静子、高橋真知子、上嶋祐子、大宮茂美:これからの地域母子保健活動における国立病院看護婦の果たすべき役割、
2) 斎藤進、小山修、加藤忠明、高野陽:情報化社会と子育てに関する研究1、
3)斎藤進、小山修、加藤忠明、高野陽:情報化社会と子育てに関する研究2、
4)斎藤進、小山修、加藤忠明、高野陽:情報化社会と子育てに関する研究3、
5) 藤恭子、伊藤文子、富樫清、石黒ミハル、菅原京子:産後1ヶ月までの褥婦の不安の援助、母性看護、p32-p34、1999
6) 上裕子、赤間三津枝、清田瑞枝、藤井克子、山口桂子、吉住英子:退院後の褥婦の不安軽減のための検討、母性看護、p148-p150、1996
7) 筒井三和、入江妙子、大前和己、林千恵子、松浦利子、三木智恵、中西三季、正野寛子、金山はるみ:産褥期の母親の不安に対する退院指導の検討、母性看護、p118-p120、1997
8) 藤原千恵子、日隈ふみ子、石井京子:3ヶ月児をもつ父親の育児家事行動と母親の父親に対する期待との関連、助産婦雑誌、51(6)、p527-532.1997
9) 田秀雄:パソコンが開く現代コミュニケーション論、助産婦雑誌、51(5)、p363-p366、1997
10)梶田光春:小児医療の現場から発信するインターネット、助産婦雑誌、51(5)、p367-p372、1997
11)佐山光子、湊孝子、佐藤悦:助産婦とマルチメディア、助産婦雑誌、51(5)、p373−p378、1997
12)三宅はつえ:ようこそ「産婆の井戸端へ」!、助産婦雑誌、51(5)、p379-p382、1997
13)奥田朱美:パソコン通信でホームパーティを開設、子育て相談にのる、助産婦雑誌、51(5)、p383-p388、1997
14)中根直子、中沢裕里、赤山美智代、田口眞弓:パソコン通信で「JIMONネット」やっています、助産婦雑誌、51(5)、p389-p394、1997
15)佐藤雄次、山本創、石井伸明、戸田律子:妊産婦に向けた、企業のインターネットホームページ、助産婦雑誌、51(5)、p395-p400、1997
16)野口美智子:グローバルなマルチメディアには「地球でできる子育て」を支援してほしい、助産婦雑誌、51(5)、p401−405、1997
17)戸田律子:私のインターネット活用記、助産婦雑誌、51(5)、p406-p411、1997
18)加藤尚美:地域母子保健を担っていくために 助産婦(開業・市町村・病院)はもっと連携しよう、助産婦雑誌、52(8)、p698-p704、1998
19)長坂典子:乳児期の子育て支援−地域保健、
地域保険サービスの立場から、周産期医学、
23(6)、p833−837、1993
20)巷野悟郎:現代の子育て、Perinatal Care、
  13春季増刊号、p43−47
21)田中裕子、名田佳子、坂田めぐみ、只熊秀子、南谷寿江:妊婦の求める情報源―なぜ、マタニティ雑誌が売れるのかを考える−、愛知母性衛生学会誌、第12号、10、p75−79、1994
22)日本インターネット協会:インターネット白書2000、株式会社インブレス、2000

……以上。以下はホームページの制作者による……


REV: 20170127
信州大学医療技術短期大学部  ◇助産婦/男性助産婦?  ◇出産・出生とその前後
TOP HOME (http://www.arsvi.com)