地域社会学 レポート

担当 : 立岩教官

 
 
 
 
大糸線の各駅に見る車椅子対応状況

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
提出日 : 平成132000)年34

提出者 : 理学療法学科 2

99P4007C 茅野 和彦

 
 
1. はじめに

私は現在、通学にJR大糸線を利用していますが、最近は松本駅で跨線橋とホームとを結ぶエレベータが整備されるなど、いわゆる「バリアフリー」な設備や建築物が鉄道施設においても随所で整備・建設されてきているように思います。しかし、安曇野在住の身体障害者の方々は松本駅だけを利用しているのではないでしょう。例えば大糸線沿線に住んでいる身体障害者の方も大勢いらっしゃるはずです。そのような方が、果たしてローカル駅を、例えば車椅子で利用することはどこまで可能なのでしょうか。また、事前に鉄道会社などへ話を通しておけば誰でも電車に乗って出かけることはできると思いますが、ある時突然思い立って車椅子利用者の方が電車で出かける、というようなことはどこまで可能なのでしょうか。

今回は、私が日々利用しているJR大糸線の穂高〜北松本駅間をサンプルとして、車椅子利用者の「ローカル線ぶらり途中下車の旅」がどこまで可能なのか調査してみることにしました。なお今回は、「突然思い立ったお出かけ」をメインのコンセプトとしましたので、JR側には特に許可や事前の連絡などはせずに、あくまで独自の調査を行なってみました。

2. 調査について

(1) 調査日 : 平成132000)年33日(土曜日)

(2) 調査方法

JR大糸線の穂高〜北松本間の各駅に赴き、各駅で設備の状況を見て調査しました。定規や巻き尺で計測したりしていると“不審者”と思われそうでしたので、あくまで目測や「見た感じ」での印象にて判断することとしました。

また、駅係員などに対してこちらからアプローチすることはないものとしました。事前、あるいはその場で連絡したり協力を求めたりすれば、もしかしたら利用できる施設やサービスはもっとあったかもしれません。しかし、そういうものは今回すべて無視し、「突然思い立ったお出かけ」というコンセプトを大切にすることにしました。「お出かけ」というものは、えてしてさしたる理由もなしに、突然必要になって行なったりするものでしょうから。

なお、調査項目に関しては、調査者がこのような調査に慣れていないこともあり、事前にチェック項目を検討しておいてそれに基づいて調査を行なうこととしました。まず、車椅子で電車に乗り降りするために必要なことは、

a. 駅舎玄関からホームまで車椅子で走行して行ける。

b. 車椅子に座ったまま切符が買える。

c. 車椅子で電車に乗り移ることができる。

d. 駅を快適に利用できる。困った状況になってもなんとか乗り切れる。

4点と考えました。これに基づき、今回のチェック項目を以下の10項目としました。

@通り道(ホーム上やホームへのアプローチも含む)の段差は解消済みか。

A通り道(ホーム上やホームへのアプローチも含む)の幅は充分か。

B通り道(ホーム上は除く)の路面状況はよいか。

C通り道に扉がある場合、その扉の開閉は車椅子に座っていても支障ないか。

D切符売り場の高さは車椅子対応か。

E窓口の下には車椅子用のスペースがあるか。

Fホーム上(駅舎内やホームまでの通路は除く)の路面状況はよいか。

Gホームと電車との高さは合っているか。

H車椅子でも使用できるトイレはあるか。

I雨よけは整備されているか。

3. 結果

(1) 総合結果

次ページの表1に示します。駅ごとの詳細については後述します。

(2) 設備別の評価

@車椅子走行のための設備について

車椅子でホーム上まで自力走行で上がるには、駅舎玄関からホームまで段差がないこと、通り道やホーム上の路面状況が良いこと、扉が引き戸で開閉もスムーズであること、などが必要です。さらには安全のため、通路やホーム上には、できれば方向転換可能なスペースが確保されていることが望ましいと思われます。

今回調査した駅においては、通路やホーム上の路面状況は概して舗装部分が多く、管理状況も良好で車椅子走行に問題となるような凹凸はあまり見られなかったのですが、それ以前の問題として、誰でも必ず通る部分に階段や段差があってなおかつスロープが整備されていなかったり、スロープがあっても傾斜が急だったり、という駅が多かったという印象がありました。特に豊科と梓橋ではホームに上がるには地下通路を通る必要があり、地下通路へ降りるところとホームへ上がるところに階段があって車椅子走行を著しく阻害する要因となっていました。一日市場でもホームに上がるところで階段が使われていました。豊科と一日市場ではかつて使われていた通路がスロープであり、そちらも温存されてはいましたが、豊科では駅員への申し出が必要であり、一日市場では路面の管理が悪く走行は難しそうであって、自力走行にこだわった場合には走行に適さない設備となっていました。また、中萱駅では外部から駅舎に入るためには玄関前の階段を上る必要があり、スロープもないため、車椅子使用者にとっては利用できない駅になっています。

スペース的には、特に駅舎内ではほとんどの駅で潤沢に確保されており、車椅子の方向転換も容易に可能であると思われました。ホーム上のスペースも多くの駅で同じような状況であると思われましたが、南豊科・中萱・梓橋・島内の各駅では傾斜があり、柏矢町・一日市場の両駅ではカマボコ型の断面になっていて、安全面でやや難ありと言えなくもないという状況でした。

扉はほとんどの駅で引き戸が使用されており、車椅子利用者にとっては使いやすい設備にな



っていると思われました。しかし中萱では開閉がかなり重く、使いにくそうでした。また、島高松では待合室の入口に引き戸がありましたが、敷居部分が5cm程度盛り上がっており、待合室を利用するためにはキャスター上げが必須であって、待合室を利用できる車椅子使用者は障害の質や程度によって限定されるように感じました。

A切符購入のための設備について

一般的に、車椅子利用者が水を飲むためには、シンク上面の高さが地面から80cm程度であることと、シンクの下に奥行き50cm程度のスペースが確保されていることが必要とされています 1)。今回切符売り場のカウンターに関してもこの基準を参考とし、私自身が椅子に座った状態でカウンターを見た時の印象を交えて、車椅子に座ったままで切符を購入することができるかどうか判断してみました。

穂高・豊科・島内・北松本の各駅ではカウンター上面までの高さが1m未満に抑えられているようで、カウンター上面に上肢が置けるため、窓口での切符購入が容易に行なわれると思われました。このうち、穂高・豊科・北松本の各駅では自販機も備え付けられていましたが、これらは窓口よりもさらに低い位置に設置されており、一層使いやすくなっていると考えられました。これ以外の駅では概してカウンターの位置が高めで、カウンター上面に上肢を出すことも困難そうであり、駅係員の特別な対応が必要になるのではと推測されました。

一方、カウンター下のスペースに関しては、多く取られている駅でも30cm程度であり、車椅子使用者にとっては不足気味と思われました。しかし、これはあくまでカウンターに向かって対面する場合に必要となるわけで、横付けする場合には特に大きなスペースは必要ないとも判断されますので、あまり重要な評価項目でなかったとも思われました。

B電車に乗り込むための設備について

ホームと電車との乗り移りをスムーズに行なうには、ホームと電車との高さが同じであることが必要です。今回の調査では北松本を除く全駅でホームが電車より低くなっており、さらに穂高と島内以外の駅ではその差が10cm以上あるため、乗り移りは事実上不可能ではないかと思われました。また、穂高と島内の各駅では差が5cm程度ではあったのですが、この段差を乗り越えるにはキャスター上げができることが必要であり、障害の質や程度によっては、この程度の差でも充分に乗り移りを障害する要因になりうると考えられます。

現在、大糸線では新型と旧型の2種類の普通電車が運行されていますが、旧型の電車ではホームとの差が新型よりもさらに開く傾向にあり、一層の乗り移りの困難が生じる可能性が推測されました。なお、新型・旧型どちらの電車も車内は車椅子対応型への改造がほぼ完了しているのですが、そういう状況であるからこそ、ホームとの高さの差が大きくて乗降に支障をきたしている状況であることは残念であるとしかいいようがありません。

C車椅子使用者でも駅を快適に使用するための設備について

今回の調査では最低限必要な設備として、トイレと雨よけを取り上げました。

トイレについては、各駅ともトイレ自体はあるのですが車椅子対応のトイレはほとんどなく、多くの駅ではトイレの出入り口に段差があるという状況でした。よって、障害の程度が比較的小さい方で、車椅子が近づけば何とかなるという方の場合であっても、そもそも車椅子でトイレに入ることができず、事実上トイレ使用が不可能な状況になっていました。穂高・北松本の各駅では車椅子対応のトイレが整備されていましたが、特に北松本では駅舎玄関口という少々離れた場所ではありましたが2室の車椅子対応トイレが設けられており、またトイレまでエレベータを利用して行けるという先進的な構造になっていました。

一方雨よけに関しては、各駅とも整備が遅れているという印象を強く受けました。駅舎から電車に乗る場所まですべて雨よけが設けられている駅は豊科・梓橋・北松本の各駅に限られ、豊科と梓橋では「通路」が地下通路であるためにそもそも車椅子での移動が著しく障害されうることを考えると、「雨よけまでは手が回っていない」という状況にあるように推測されました。なお、ホーム上の全面に雨よけが整備されている駅は全くなかったのですが、大糸線には長編成の普通電車は運行されていないため、雨よけがホーム上の一部にしかない穂高・豊科・一日市場・梓橋・北松本の各駅においては、乗降位置が限定されはしますがホーム上の雨よけは必要充分に機能していると考えられます。

(3) 駅ごとの詳細

@穂高

駅舎入口は階段ですが、スロープ完備。ホームとの連絡スロープを含め、傾斜はゆるやかで、走行に支障はないと考えられます。駅舎内・ホーム上ともに、方向転換可能なスペースは確保されていますが、ホーム上はラッシュ時には狭いかもしれません。通路やホーム上は全面舗装で、路面も良好。ホーム上は傾斜もなく、問題ないと思われます。引き戸が2ヶ所あり、開閉はスムーズです。

窓口のカウンター上面まで1m弱程度で、手がカウンター上に届く高さのように見えます。自販機はさらに低く、車椅子に座ったままでも使いやすいと思われます。カウンターの下には奥行き30cm程度のスペースがありますが、車椅子使用者にはやや不足気味のようにも思われます。

ホームと電車との高さの差は5cm前後で、キャスター上げができれば問題なく乗降可能であると思われます。

トイレは1ヶ所で、車椅子用のトイレも整備済み。駅舎とは別棟ですが、途中の通り道には段差やきつい傾斜はありません。雨よけはホーム上の一部と駅舎のみ。

駅構内の略図を、次ページの図1に示します。

A柏矢町

駅舎入口に段差あるがスロープはありません。ホームへのスロープは傾斜が急で、車椅子の自力走行は難しそうです。駅舎内は方向転換可能なスペースが確保されていますが、ホーム

上は一方通行には充分と思われますが方向転換は困難であり、ラッシュ時には狭いかもしれません。通路やホーム上は全面舗装で管理状況も良好ですが、駅舎玄関外の路面は傾斜があり、またホーム上はカマボコ型断面で柵も一部しかなく、転落の危険性も考えられます。2ヶ所の引き戸は開閉はスムーズですが、レールがやや出っ張っているようにも見えます。

窓口のカウンター上面まで1m数十cmあり、やや高いという印象です。自販機はありません。窓口のカウンターの下には奥行き30cm程度のスペースがありますが、車椅子使用者には不足気味かもしれません。

ホームと電車との高さの差は15cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり難しそうです。

トイレは1ヶ所ありますが入口に段差があり、車椅子での使用は難しそうです。車椅子対応トイレはなし。雨よけは駅舎のみです。

駅構内の略図を、前ページの図2に示します。

B豊科

駅舎からホームへは地下通路を通るしかなく、地下への下りとホームへの上りは階段になっているため、車椅子走行は不可能。ホームへのスロープは、地下道開通前に使用していた通路をそのまま温存してスロープとしているようですが、調査時には閉鎖されていて、使用には駅係員の許可や補助が必要であるように思われます。

ホーム上と駅舎内は方向転換可能なスペースが確保されていますが、ホームへの通路は狭く、方向転換は難しそうに見えます。通路やホーム上の状況は全面舗装で管理状況も良好ですが、駅舎から改札を抜けたところに走行方向と直角方向への傾斜があり、走行に支障をきたす可能性があります。2ヶ所の引き戸は、そのうち駅舎から改札へ出るところの引き戸が重く、車椅子使用者には開閉が難しいかもしれません。

窓口のカウンター上面まで1m前後で、切符購入は行ないやすそうです。自販機はさらに低い位置に設置されています。カウンター下の奥行きは30cm程度のスペースがありますが、車椅子使用者には不足気味かもしれません。

ホームと電車との高さの差は15cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり難しそうに見えました。トイレは入口に段差があり、車椅子での使用は困難です。車椅子対応トイレはなし。雨よけは駅舎・通路・ホームの一部にあって雨に濡れずにホームまで出られますが、そのためには地下通路を通る必要があり、そもそも車椅子には向いていないように思われます。

駅構内の略図を図3に示します。

C南豊科

ホームに上がるまでの通路に段差はありませんが、ホーム上へのスロープは傾斜が急で、車椅子の自力走行は難しそうです。ホーム上の2/3および駅舎内は方向転換可能なスペースが確保されています。路面は全面舗装されていますが、スロープの直下に幅5cm、深さ数cmの溝があり、車椅子走行においては障害要因となりそうです。またホーム上には線路と反対方向への傾斜があり、線路へ転落する危険性は低くなっていますが、乗降の際などには不便そうです。なお、引き戸が2ヶ所ありますが、駅舎を利用しなければ開閉不要であり、また開閉もスムーズです。

窓口のカウンター上面までは高さが1m数十cmあり、車椅子使用者にとってはやや高いように思えました。自販機はありません。カウンターの下に、床面に向かって斜めの板が取り付けられており、車椅子がカウンターに近づくと邪魔になりそうです。

ホームと電車との高さの差は10cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり難しそうです。

トイレは入口に段差があり、幅も狭いため、車椅子での使用は不可能と思われます。車椅子対応トイレもありません。雨よけは駅舎と改札部分にあるのみです。

駅構内の略図を図4に示します。

D中萱

駅舎の玄関口は階段で、スロープがないため、車椅子では駅舎へは入れない構造になっています。ホーム上および駅舎内は車椅子通行に必要なスペースはありますが、ラッシュ時には問題になる可能性があります。改札口の幅が50cm程度しかなく、車椅子通行には障害になるかもしれません。駅舎内やホーム上は全面舗装で、管理状況も良好ですが、線路と逆方向への傾斜があり、線路へ転落する危険性は低くなっていますが、乗降には不便そうに思われます。2ヶ所の引き戸はどちらも開閉しにくく、車椅子使用者にとっては障害となりそうです。

窓口のカウンター上面までは1m数十cmあり、車椅子利用者にとっては高すぎるように思われます。カウンター下には10cm程度のスペースがあるのみで、邪魔になるかもしれません。自販機はありません。

ホームと車椅子との高さの差は10cmくらいあり、車椅子での自力乗降には困難が伴なうものと思われます。

トイレは1ヶ所あるが、駅舎に隣接する小公園内にあり、駅舎からはいったん階段を下りて外へ出る必要があるため、車椅子では行き着くことができません。駅舎内にも職員用のトイレがあるようだが、出入り口が狭く車椅子では入れないと思われます。雨よけは駅舎のみ。

駅構内の略図を図5に示します。



E一日市場

駅舎からホームへの上り口が階段になっていて、車椅子では走行不可能。ホーム端にはスロープ(かつての通路を温存したもの)もありますが、管理が悪くアスファルトがめくれ上がっていたり、踏み切り部分の幅が著しく狭いため、車椅子走行は事実上不可能と思われます。ホーム上と駅舎内には方向転換可能なスペースが確保されており、全面舗装されていますが、改札口が狭くて車椅子が通れない可能性もあります。また、改札口の外は線路側へ急なスロープとなっており、線路へ車椅子が落ち込む可能性があって、危険性が高いと思われます。2ヶ所ある引き戸は開閉はスムーズです。

窓口のカウンター上面までは高さが1m20cm強あり、車椅子利用者には高すぎると思われます。カウンター下には10cm程度のスペースがあるのみで、車椅子使用者には邪魔になる可能性があります。

ホームと電車との高さの差は15cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり難しそうです。

トイレは入口に2段の段差があり、車椅子で入るのは難しそうです。車椅子対応トイレはありません。雨よけはホームの一部と駅舎にあります。ホームの雨よけは、電車が停車する部分に設けられており、機能的には問題ないものと考えられます。

駅構内の略図を、次ページの図6に示します。



F梓橋

駅舎からホームへは地下通路を通るしかありませんが、地下への下りとホームへの上りは階段しかなく、車椅子では走行は不可能です。加えて、スロープ(かつての通路)は完全に閉鎖されていて、使用は不可能。ホームには方向転換可能なスペースが確保されているが、駅舎内はやや狭く、ラッシュ時には多少問題があるかもしれません。通路の路面は全面舗装で管理状況も良好ですが、駅舎玄関口が急スロープになっており、駅舎自体が坂に建っていることもあって車椅子走行には困難が伴なうことが考えられます。一方ホーム上は一部が舗装ですが、電車が停車する部分はほとんど舗装部分にかかっており、乗降には問題ないように思われます。舗装されていない部分は線路側への傾斜があり、場合によっては危険要素となる可能性があります。2ヶ所の引き戸の開閉はスムーズで支障ないと思われます。

窓口のカウンター上面まで高さが1m2030cmあり、車椅子利用者にとっては高すぎるように思われます。カウンター下の奥行きは10cm程度のスペースがあるのみで、車椅子使用者には邪魔になる可能性があります。

ホームと電車との高さの差は10cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり難しそうです。

トイレは入口に段差があり、またトイレまでの通路には進行方向とは直角の傾斜があり、車椅子走行はかなり困難と考えられます。車椅子対応トイレはありません。雨よけはホームの一部と駅舎および通路にあり、雨に濡れずに乗降が可能ですが、そもそも地下通路を通らなければホームへ出られないため、駅自体の構造が車椅子走行に向いていないと考えられます。

駅構内の略図を、次ページの図7に示します。

G島高松

今回調査した中で、唯一の無人駅です。

ホームへ上がるスロープは全面舗装で管理状況も良好ですが、傾斜が急で、車椅子自力走行は難しそうです。通路やホーム上には車椅子が通れるだけの幅は確保されていますが、ラッシュアワーには問題が生じる可能性があります。道路からのホームに向かう通路はタイル舗装でやや凸凹があり、走行の障害になる可能性もあります。ホーム上の路面はよく管理されており、走行の障害になるものは見あたりませんでした。

ホーム上に待合室の小屋があり、入口に引き戸があります。開閉はスムーズですが、敷居が出っ張りすぎており、車椅子で待合室へ入るためにはキャスター上げができることが必要です。

窓口やカウンターはありません。設置されている乗車証明書発行機は、やや高すぎる位置に据え付けられているようにも見えます。

ホームと電車との高さの差は15cmくらいあり、車椅子での自力乗降はかなり困難であると思われます。

簡易トイレがホームわきにありますが、入口に段差があり、また非常に狭いため、車椅子での使用は困難です。雨よけは待合室にあるのみです。

駅構内略図を図7に示します。

 
 
H島内

駅舎玄関口および改札からホームへと向かって出たところに段差があります。駅舎玄関にはスロープが併設されていますが管理状況が悪く、ゴミが置いてあって、使われた形跡はありません。スロープ周辺には駐車場の位置決めのロープが張ってあることもあり、スロープへ車椅子で近づくこと自体難しそうに見えます。改札の外にある段差は高さ5cm弱程度の1段であり、キャスター上げが可能であれば乗り越えることはできそうです。

ホームへのスロープは急で、自力走行は困難と思われます。また、改札口が幅1m以下で非常に狭く、車椅子走行にとって障害となる可能性があります。ホームへの通路は全面舗装されていますが管理があまりよくなく、アスファルトが凸凹しています。一方、ホーム上は管理状況も良好。わずかに傾斜があるのが気になるところではあります。2ヶ所ある引き戸は開閉もスムーズで問題ないと思われます。

窓口のカウンター上面までは高さ1m弱であり、車椅子でも楽に利用できそうです。カウンターの奥行きは15cm程度あり、車椅子使用時には邪魔になるかもしれません。

ホームと電車との高さの差は5cmはないように見え、キャスター上げができれば乗降に障害は感じないかもしれません。むしろ、電車が傾いて止まるため、その傾きによる乗降の障害が大きいようにも思われます。

1ヶ所あるトイレは駅舎と同じ高さに設置されており、駅舎玄関外に渡り廊下が設けられていて、駅舎からは段差なしに行くことができます。男子小用用には手すりがあり、障害の質と程度によっては利用可能と思われます。雨よけは通路の一部と駅舎のみ。

駅構内の略図を、前ページの図9に示します。

I北松本

今回調査した中で、唯一の橋上駅です。

駅舎玄関と改札口、改札口とホームとの間にそれぞれエレベータが完備されており、自由に使える状態になっています。よって、それぞれの場所には階段が設置されていますが、車椅子使用者は階段を使用することなくホームまで走行していくことができます。通路やホーム上の路面管理状況も良好で、全ての場所で方向転換に必要なスペースが確保されています。ただし、駅周辺は工事中で砂利道であり、そもそも駅へ近づくのが難しそうではあります。なお、この駅には扉が1つもなく、開閉の困難やレール部分での走行障害は構造的に起こり得ません。

窓口のカウンター上面まで高さは1m弱であり、車椅子でも楽に利用できそうです。併設されている自販機はさらに低い部分に設置されています。カウンターの下には奥行き10cm程度のスペースがあるのみで、車椅子使用時には邪魔になるかもしれません。

ホームと電車との高さはほぼ一致しているように見えました。乗降の際に障害となるようには思えませんでした。

トイレは2ヶ所(3室)あり、うち車椅子対応トイレは1ヶ所(2室)あります。残りの1つも手すりが設置されており、障害の質と程度によっては利用可能であると思われます。難を言えば、トイレは全て1階の玄関口に設置されており、ホームからトイレに行こうとするとかなり長い距離を移動する必要があることであると考えられます。雨よけはホームの一部と駅舎およびホームへの通路に設置されていて、雨に濡れずに乗降することが可能です。

駅構内の略図を、前ページ図10に示します。

4. まとめ

今回調査を行なってみて、事前に予想していたように、「車椅子での思いつきによるお出かけ」というのはまだまだ困難が伴なうものであることが確認されました。今回調査した駅は敢えてローカル駅ばかりを選んでおり、このことと関与する部分も大きいかもしれません。しかしまた同時に、設備更新に伴なって確実に、身体障害者対応の設備も増えてきてはいるということが判明しました。たとえば、昨年供用開始された北松本駅ではエレベーターや身障者用トイレ、広い通路などが完備されており、時代とともに確実に「バリアフリー」、さらに1歩進んで「ユニバーサルデザイン」の考え方が一般的なものになってきているという印象を受けました。その広がり方や認知度向上のスピードに関してはともかくとして。

しかし、そのような流れがあるとしても、やはり無人駅などではなかなか設備更新がなされず、またなされたとしても中萱駅のようにまだまだバリアフリーとはほど遠い設備が建設されてしまうことも多いとも思われます。この点については、やはり今後の「バリアフリー」に関する社会的認知度の向上を待たなくてはならない部分だと思われます。

さらにこのことからは、このような背景があるからこそ、車椅子使用者にとって自家用車の使用はその活動範囲を飛躍的に向上させる最も良い手段であるということがよく理解できるといえましょう。しかし今後は、環境問題などとも併せて、鉄道のバリアフリー化、駅舎などのユニバーサルデザイン化が重要な課題となってくることは間違いなさそうです。

5. 参考文献

  • 1) 社団法人 長崎県身体障害者福祉協会連合会 監修,長崎バリア・フリー研究会 編著 : バリア・フリー・デザイン −21世紀の豊かな住環境をめざして,三輪書店 1997

  • 2) 山田昭義・星野広美 著,愛知県建築部建築指導課 監修 : 人にやさしい街づくり,風媒社 1997

  • 3) もっと優しい旅への勉強会 編,草薙威一郎 監修 : 障害者旅行ハンドブック,学苑社 1995

以 上

  ……以上……


REV: 20170127