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障害者の外出支援サービスの調査研究

武井 美里・森本 敏恵・若月 美樹・和田 ゆかり
(1998信州大学医療技術短期大学部看護科3年)
卒業研究レポート 19981225提出



はじめに

 私たちの日常生活において移動は様々な欲求を満たし、また、個人と社会との交流を保つことができる。これにより生活・人間性が豊かになる。移動は不可欠なものであり、身体障害者・高齢者が地域における生活範囲の拡大のために自由に移動できる交通手段の確保が必要である。移動の確保により病院と在宅を結ぶこともでき、退院してからも継続した治療(看護)が受けられ、また生活範囲の拡大にもつながっていくと考えられる。
移動には、@リフトを付けたり床を低くして車椅子での乗降を容易にするなどの対応がない公共
交通機関、A身体障害者を含めた全ての人を対象とするリフト付バス、リフト付タクシーなどの公共交通機関、B障害者等を対象とした交通機関がある。@では障害者は自分で移動することができない。そこでAが必要だが、その整備はまだまだである1)。こうした現状ではBが求められる。
 今年(1998年)、松本市の民間団体である「自立支援センターちくま」(以下「ちくま」と略す)は、ボランティアではなく事業として有料システムにより「移動サポート」を開始した。これは松本市内で初めての試みである。この「自立支援センターちくま」の移動サポートについて調査したので、その結果を報告する。

I 研究方法・対象・経過

 「自立支援センターちくま」の所長、移動サポートのスタッフ2名、利用登録者4名に対するインタビュー調査を行った。また「ちくま」から資料、データを提供していただき、それを検討した。
 サービスの実際を知るために、インタビューもかねて、計4回、移動サービスに同行した。他に、移動サポート提供者には「ちくま」を訪問しインタビューを行った。サービスの利用者には、移動中に車内で、または自宅へ訪問してお話をうかがった。以下はその概要であるが、それ以外にも電話やファックスで問合に答えていただいたり、データを送っていただいた。
 7月30日 「ちくま」訪問、所長と移動サービ      スのスタッフにインタビュー。
 8月6日 Aさんの送迎に同行。スタッフへの      インタビュー。
 9月10日 Cさんの送迎に同行、インタビュー。
 9月20日 Bさんの帰宅に同行、インタビュー。
 9月21日 松本市役所訪問。
 9月23日 Bさんの帰院に同行。
 9月26日 Hさん宅を訪問、インタビュー。
 12月17日 「ちくま」訪問。

II 結果

1 「ちくま」と移動サービス
 1981年に「筑摩工芸研究所」が、その2年後には「ちくま福祉会」が設立された(1994年までの活動について筑摩工芸研究所編『アマチュア福祉実践録・こちら“ちくま”』、現代書館、1994)。
市内にいくつかの作業所や店舗などをもって活動するこのちくま福祉会から、障害をもつ当事者を主体とするサービス提供組織(「自立生活センター」)として、1996年6月24日新たに設立され、ちくまグループの一翼を担う活動を始めたのが、「自立支援センターちくま」である。(だからこの組織を「ちくま」と略すのは誤解をまねきやすい。「自立支援センターちくま」は「ちくま」の一部である。)
 その(自立支援センター)「ちくま」は、住宅探し・家の改造や自助具・年金や制度・旅行などについての各種相談、介助者の紹介、自立生活プログラム、ピア・カウンセリング等、地域で自立生活をする、あるいはそれを目指している障害者へのさまざまなサポートをしている。また自立生活センターの全国組織である「全国自立生活センター協議会」の会員団体でもある。松本市宮田に事務所がある。運営委員長、事務局長ともに、電動車椅子を使って生活している人たちでもある。
 この「ちくま」が、あらたに「移動サポート」を1998年6月24日に始めた。これは、車椅子のまま乗れるリフト付車両などを身体障害者・高齢者など一般の公共交通機関を使えない人のために運行して交通手段を提供するサービスである2)。同時に、「ちくま」は「移動サービス市民活動全国ネットワーク」に加盟した。「ちくま」の所長は、現在このネットワークの代表でもある。

2 移動サービスがめざすもの
 なぜ「ちくま」はこのサービスを始めたのか、何を特色とし、めざしているのか。所長のお話をまとめてみた。
 「移動サポートを始めたのは、身体障害者・高齢者の自立生活に移動はかかせないからです。またリフト付車両を持っていて、うち(ちくま)のスタッフが介助に慣れているからです。ホームヘルパーのような日常生活介助者は見つかりやすいのですが、移動に限定した介助者は見つかりにくいのが現状です。けれども、うちには車両があり移動に関して経験豊富なスタッフがいるので、移動サポートを始めようと思いました。
 しかし、「ちくま」のような組織が増え、障害者の足になることが最終的な目的ではありません。公共交通機関がすべてバリアフリーになることが本来望ましいことです。街が全てバリアフリーになるまでの間、身体障害者・高齢者の足を確保していこうと思っています。」
 「ボランティアの場合は、もしボランティアの都合がつかなければ行くことができないという欠点があります。しかし、事業の場合は継続でき、利用者の予定に合わせて提供できるので利用しやすいという利点があります。
 今までの日本の場合、障害者は弱者と見られていて、弱者に対してはできるだけ無料で奉仕をしてあげようということがよいことのようにとらえられてきました。しかし、そこには対等な関係はなく、やってあげようとする側の思いや都合だけがいかされているのです。制度として、「ちくま」のような民間団体にサービス提供者を雇用するだけの金額が渡され、その人たちに直接給料を支払うことができれば、本当に対等な関係になり、サービス提供者側もそれで食べていくことができるのです。そのため、提供者と利用者が対等な関係になってサービスを提供していくことができればいいと思います。そこで本当の社会参加となりうるのだと思います。
 東京では、都の考え方でサービス提供者を雇用するための十分な補助金が出ています。長野県では、一人暮らしや働くことができない身体障害者は、年金暮らしか生活保護ぎりぎりで生活しています。それに加えて、介護補償の部分のお金がたいしてないため、どうしてもボランティアに頼らざるを得ないという現実があります。そのため、有償のサービスに利用者の人たちがなじまないという部分があります。経済的にも人々の気持ちという意味でも、私たちが始めたサービスにすんなり当事者たちが飛びついてくるわけではありません。それは、安いほどいいと思っている部分があるからです。身体障害者も障害があるからという考えではなく、もっと変わって行くことが必要だと思います。
 「ちくま」は、サービスを提供する側の努力として、ガイドヘルプサービス(後述)を適用するところまでは獲得しました。後は、利用者の負担が大きいので補助金を出してほしいという声が利用者側から出てきてほしいと思います。また、利用者側が自分たちの問題として提供者側と一緒に動くことが必要だと思います。自分で自分の生活を改善していくために、身体障害者は情報をキャッチする能力を高めていってほしいと思います。」

3 サービスの概要
 サービス利用規約等から、まずサービスの概要をまとめる。
◆利用条件:登録し、会員になった人(会員制)。松本市在住者で、移動(外出)に介助が必要な人や車椅子のまま乗れるリフト付車両が必要な人。感染症がある場合は、申し込み書に書き入れる必要がある。
◆対象者:松本市に在住する身体障害者・高齢者。
(ただし、全国ネットワークに加盟している障害者が長野県に旅行に来た場合にも利用することができる。後述)
◆利用方法:予約制。申し込み時にコース・時間だけを知らせればよい。
◆利用目的:制限なし。(ケガや急病の際の緊急車両としては不可)
◆運行地域:松本市内
 ※市外・長距離は相談による。
◆運行日時:月〜金曜日 午前8時〜午後8時
 ※時間外等は相談による。
〈登録時に必要な費用〉
◆入会金:2000円 
◆年会費:5000円(車検代、自動車保険料、消耗品費、修理費など)
◆保険料:2400円(年額)。全国社会福祉協議会の「送迎サービス補償制度」に加入する。
◆利用料金:2000円(1時間)。運転を兼ねる介助者1名の場合。
 ※市内での移動は1時間2000円(最初の1時間以内は一律2000円、1時間後は30分ごとに1000円加算)、市外の移動は基本料金1000円に1kmあたり 150円と高速料金等。
◆その他
・移動に関わる介助のみで、生活介助(外出のための着替え、食事の用意等)は行わない。
・原則として玄関から玄関までの移動とする。院内移動なども行うが、この場合も介助時間としてカウントされる。
・車椅子用リフト付車両のため、ストレッチャー等の寝たきりの人は利用できない。
・県外など遠方から電車などで松本市に旅行で来た時などのサポートもできる。(この場合、ガイドヘルパー制度は適用されないため、全額自己負担となる。)
・松本市から遠方に旅行などする人には、現地の移動サポートを紹介することができる。(ただし、各組織でシステムは異なる)

4 サービス利用の流れとガイドヘルプサービス
 サービス利用の契約を結ぶ時は、スタッフが利用を希望する人の家に行き、細かく下調べ(障害の状況・介助方法やその注意点・家の構造・感染症の有無・家の前まで車両が行けるかなど)を行う。感染症がある場合、利用後は車両の消毒をしなければならないため事前に調べておくようにしている。
 説明を受けて利用することに決めた人には登録して、会員になってもらう。
 利用は通常は電話による予約制である。車両に制限があるため、予定が決まれば早く予約してもらった方がよいが、突然でも車両が空いていたり、車両が出払っていても少し待てるようであれば利用することができる。
 「ちくま」の移動サポートは原則として運転を兼ねる介助者1名による介助であるが、背負う、抱えるなどの介助が必要な人は、1人介助の限界を超えるので、もう1〜2人身体介助ができる人を自分で手配するか、「ちくま」の介助者を依頼する。(「ちくま」の介助者が1名増えるごとに1時間1500円、家族が介助者となる場合は無料。)
 スタッフが少なく事務も兼ねているため、後日料金を請求することは難しいので、料金はその日払いでもらっている。
 ガイドヘルプサービスの制度を利用している人については、そのサービス実績に応じて市から1時間あたり1450円が「ちくま」に支払われ、利用者は規定料金からこの額を差し引いた1時間あたり550円を払うことになる。
 ガイドヘルプサービスとは、障害者の外出を手助けするサービスであり、法律上の制度だが、実施主体は市町村。松本市の「ガイドヘルパー派遣事業」の事業要綱では、視覚障害者(2級以上)や単独で外出困難な全身性障害者が「官公庁・病院・学校等に一時的な所要のため外出する時の介助」とされている。1998年、松本市は自動車での移動サービスをガイドヘルプサービスとして認めた。これは全国に先駆けたものである。「ちくま」の移動サポートのスタッフは、松本市内のガイドヘルパーとして登録されている。
 この制度が適用される場合には、1時間に1450円が、市からガイドヘルプサービスを提供する側にわたる(財源は国1/2、県 1/4、市1/4)。「ちくま」は規定料金からその分を差し引いて利用者に請求するので、自己負担は、2000円から1450円を引いた1時間550円に軽減される。

5 事業の運営
 リフト付車両が2台ある。そのうち1台は、1992年に24時間テレビ「愛は地球を救う」からの寄贈で、もう1台は1993年に個人から譲ってもらった車両で、車椅子専用に改良されている。また、1999年1月には、日本財団から軽自動車のリフト付車両が寄贈される予定である。
 「2台の車両のうち1台にはクーラーが付いていないため体温調節が必要な人には対応できません。また、基本的にはストレッチャーが利用できません。車の装備をもっと充実させたいです。」(スタッフへのインタビューより)
 「現在移動サポートのスタッフは男1人と女3人です。今は作業所の仕事と兼任して行っていますが、これから利用が増えていくと移動サポート専門のスタッフを雇用しなくてはいけなくなります。運転手として雇用した場合、時給1000円以上を確保することが必要であり、ガソリン代・事務手数料を引いたりすると利用料が1時間2000円ないと雇用することはできないので、1時間2000円にしました。
 全国の移動サービスは車庫から車庫までですが、「ちくま」の特別な措置として、迎えに行くまでの時間は料金に入れていません。市外は別ですが、市内だけは、利用者に張り付いている時間だけ料金をもらっています。
 県外の障害者の場合、単純に1時間いくらではなく、行き先・人数・1日貸し切りなどにより、ケースバイケースです。
 所得が少ない人など、困窮しているがやむを得ない事情で行く時には、利用者の状況を考慮しています。」(所長へのインタビューより)
 移動サポートを行う上では、事故の危険性を考えにいれなければならない。事故が起きた時には、
その責任は「ちくま」や運転手等にかかってくる可能性もある。そのため、事故が起きた時、提供者・利用者両者が自分たちで身を守る方法を考えておくことが必要であり、保険に加入して万一の場合に備えている。
 「現在は、利用者が少ないのでスタッフの数は足りていますが、車両が3台になったり利用者の数が増えると足りなくなってしまうでしょう。しかし、現在はお金がないために専門のスタッフを雇うことはできていません。」(スタッフへのインタビューより)
 「経費は、有料システムによる料金収入、バザー・絵画展などのチャリティー企画の収入、活動を維持し安定して行うため援助してくださる賛助会員の賛助会費などでまかなっています。金銭的には苦しいのが現状です。
 国の制度では、外出支援事業に対する補助制度が設けられていますが、その制度を応用するかどうかは最も末端の行政である市町村の考えとなります。東京では移動サポートを行っている団体は、平均 500万円の補助金が出され、また有料制で行っています。しかし、現在うちには補助金がないので、身体障害者みんなが「ちくま」の会員になって、自分たちの足は自分たちで確保していきましょう、というところです。」(所長へのインタビューより)
6 全国ネットワークへの参加
 先にも触れたように、「ちくま」は「移動サービス市民活動全国ネットワーク」という組織に加入し、移動サービスの充実を訴え実現していくための活動に参加している。同時に、このネットワークがあることによって、松本市の人が遠くで別の団体のサービスを利用したり、県外の組織の会員が松本市で「ちくま」のサービスを利用することができるようになっている。
 このネットワークは1998年3月15日に発足した。身体障害者・高齢者が移動の自由という基本的人権を取り戻すため、全国各地でリフト付車両などを使った「移動サービス」が市民団体によって行われているが、運営費の不足や、道路運送法80条の問題、事故の際の有効な保険開発など、様々な課題を抱えたまま、綱渡りの運行をしている。それらの問題を、移動サービスを提供している民間の非営利団体同士が、連携して共通の問題解決を図り誰でもいつでもどこでも行ける社会を目指して発起した。問題の解決とともに、質の向上、安定運行のための研修なども行っている。そして最終的には、特別なサービスがなくても、あらゆる公共交通機関が身体障害者・高齢者にとって時を選ばずバリアフリーとなる社会作りが目標である。
 この会は会員制で、移動サービスを実施・支援している団体、関心のある団体・個人よりなる。1998年3月15日現在の会員数は、団体84団体、個人11名、賛助8団体、計103会員。
 そしてこのネットワークに加入している移動サービス提供組織の会員は、旅行の時などに、現地のネットワーク加入団体のサービスを利用することができるようになっている。
 しかし問題点もある。まず移動サービスが全国的に少ないことである。遠くから移動サービスを利用すると、利用者・提供者両方に負担がかかるため、各地域に点々とあることが必要である。また、各組織でシステムや料金が統一されていない。全国の各組織が、システムの統一化に向けて話し合う機会を多くし、統一化が実現すれば、全国ネットワークが利用しやすくなって障害者の活動範囲は拡大されてくだろう。しかし地域間格差の問題や団体の性質(民間・個人・ボランティア等)の違いにより、統一化は難しいのが現状である。

7 利用の実際
 利用と利用者の概要は次のようである。
・登録者14名
 (うちガイドヘルパー制度の適用8名)
・実際の利用者7名
 (うちガイドヘルパー制度の適用4名)
・利用内容 通院    41回
      帰宅・帰院 5回
      買物・食事 3回
 私たちはこの14人の登録者のうち4人の方にお話をうかがうことができた。
■Aさん 61歳、女性、3人暮らし(本人、夫、息子)。視覚障害(1種1級)があり、また転倒により骨折したため車椅子生活をしている。通院で利用。スタッフ2名が運転・介助。
■Bさん 64歳、女性、3人暮らし(本人、夫、息子)。Y病院に入院中で、気管切開をしており、人工呼吸器を使用している。指先だけ動かせる程度。身体障害(1種1級)。帰宅・帰院で利用。スタッフ1名・同乗者3名(医師、看護婦、夫)。
■Cさん 79歳、女性、2人暮らし(本人、娘)。身体障害(1種1級)があり、車椅子生活をしている。通院で利用。スタッフ1名。
■Hさん 68歳、男性、2人暮らし(本人、妹)。脳性麻痺による身体障害(1種1級)があり、車椅子生活をしている。登録しているが、まだ利用したことはない。
 このインタビュー結果をまとめる。
◆利用目的
 通院2名(透析、外来受診)、帰宅・帰院1名
◆利用回数
 週1回2名(A・B)、不特定2名
◆ガイドヘルパー制度
 適用3名(A・C・H)、不適用1名(B、入院しているため)
◆移動サポートを知ったきっかけ
 娘さん(「ちくま」のボランティアをしていた)から知らされた:1名(A)。
 「ちくま」から手紙・電話をもらって(タイムケア事業の時3)から利用):2名(C・H)。
 医療ソーシャルワーカー(本人が入院している病院に勤務)から知らされた:1名(B)。
◆利用する前の移動手段
 近所の人(A)。他の業者(B)。ヘルパー、タクシーを利用していた(C)。市役所の無料貸出車を利用し、学生ボランティアに頼んだり、社会福祉協議会の運転手付きの無料移動サービスを利用していた(H)。
◆今までと利用してからの外出頻度
 今までとあまり変わりなく、必要最低限の利用時のみ使用している(A・C)。
◆料金についての意見
 特にないという意見が多く、「やってもらえるだけでありがたい」(C)、「タクシーの3分の1の料金で済むので安い」(B)との声があった。
◆移動中に感じたこと
 怖いという感想はなかった。車の揺れに関しては「はじめは酔った」(C)、「あまり乗り心地がよくない」(H)、「気にならない」(B)といった様々な声が聞かれた。
◆利点と欠点
 利点:タイムケア事業の時と比べ利用時間の制限がなくなったこと(C)。車椅子専門の移動車を使用していること(B)。
 欠点:急な利用に対応してくれない時があること。土曜日・日曜日には利用できないこと(H)。
◆「ちくま」の移動サポートに望むこと、その他の移動に関して望むこと
 「ちくま」に:「送ってもらえるので特にない」(C)「もっと車を大きくしてほしい」(B)
 公共交通機関に:「1人でも利用できるように整備していってほしい」(H)

8 サービス提供の推移
 サービス開始から1998年11月までのサービス実績の推移をまとめる。
      サービス提供実績の推移
月 利用者 回数 利用時間 料金
7 1人 7回  14時間  8,400円
8 2人 8回 14.5時間 12,200円
9 3人 11回  20時間 14,300円
10 5人 12回  28時間 22,125円
11 6人 11回  27時間 31,900円
計 49回 103.5時間 88,925円

  利用者別サービス実績
A B C D E F G
7月
回数 7
時間 14
金額 8400
8月
回数 6 2
時間 12 2.5
金額 7200 5000
9月
回数 5 2 4
時間 10 2 8
金額 5800 4000 4500
10月
回数 5 4 1 1 1
時間 10 7 4.5 2 4.5
金額 5700 3850 2475 1100 9000
11月
回数 4 1 3 1   1  1
時間 8 1 6.5 3.5 6 * 2
金額 4400 2000 3575 1925 12000 8000

回数 27  5   11 2  1 2   1
時間 54  5.5 21.5 8 2 10.5 2
金額 31500 11000 11925 4400 1100 21000 8000
             (*消毒代1000含む)
 7に見たように、比較的高齢の方の利用が多く、また49回中46回までが通院・病院からの帰宅・帰院といった病院に関係するサービスである。特に、気管切開をし人工呼吸器を付けて現在病院に入院されているBさんの移動サポートは、慎重な準備と移動時の配慮を必要とするものである。スタッフに感想を聞いた。
 「ふだんは気づかないけれど、道路がこんなに凹凸しているのかと新たな発見もありました。少しの車椅子の揺れも影響を与えてしまうので、利用者の状態をバックミラーで見ながら運転し、とても神経を使う作業でした。他の利用者と違い、医療措置が必要で、医療器具もいっしょに積み込まなくてはいけないため、医療器具を車内にきちんと固定することが大切だと感じました。これからは重度な疾患をもった利用者も扱っていく予定なので、車椅子をきちんと固定してくことや、急ブレーキを踏んでもよいように対応しておくことが常に必要でしょう。また、今回のように人工呼吸器を使い医療措置が必要な人は移動中に電源が切れてしまった場合命にかかわってしまうのでよりいっそうの車内装備も必要となってきます。」

III 考察

 サービス実績は次第に増えてきている。ただ、移動サービスの活動の歴史があり事業を発展させてきたところに比べると、実際の利用はやはりまだ少ない。例えば東京都三鷹市の「みたかハンディキャブ運営委員会」(1978年設立)の利用は月 340件ほど、国分寺の「国分寺市ハンディキャブ運営委員会」(前身の組織の活動開始は1977年)のサービスの利用は月約1000件である。開始半年でまだなんとも評価できない段階だが、今後、松本での利用が増えていく条件を探ってみたい。
 まず「ちくま」のような形態のサービスを受け入れる態勢や、サービスの認知である。
 非営利民間の有償サービスという形態に慣れていないという事情もあるかもしれない。IIの2に紹介した所長の発言にあったように、有償であることへの抵抗感もあるようだ。しかし、20年ほど前にこうした形態の移動サービスが、10年ほど前に介助サービスが登場し始めたころはどこでもそうだった。そうした時期を経て、それなりに全国各地で定着しつつあるのだから、松本でも次第に変わっていく可能性はある。
 次にこのサービスへの認知度を高める努力が必要だろう。もちろんこれまでも宣伝をしなかったわけではない。移動サポートを開始する前に、タイムケア事業の一環として移動を利用していた人たちに口頭・封書で宣伝した。あとは口コミで知らせた。実際、インタビュー調査をした4人のうち、2人はこのサポート事業を始める以前のサービスの利用者、1人は家族がボランティアとして関わったことのある人であり、「ちくま」のこれまでの活動があって、それが利用に結びついた人たちである。そういう意味では、まったく新規に組織を立ち上げてサービスを始める団体よりも、需要をとらえられたと言えるかもしれない。
 そしてテレビや新聞でもこの事業の開始は報道された。ただ「ちくま」を利用する人には高齢の方が多い。積極的に広告に接したり、広告を見てもすぐそれを利用しようとはならないこともあるだろう。現在のところ、医療に関係したサポートが多い。高齢者の増加にともない、自分で運転できない、あるいは身のまわりに運転手がいないが、通院は欠かせないといった人たちはさらに増えていくことが予想される。潜在的な需要を実際の利用に結びつけるためには、ソーシャルワーカーや保健婦に説明して広めてもらうのが有効であろう。「ちくま」もこうしたつながりを徐々に作りつつあり、そうした経路で実際に利用を始めた人もいる。また、行政の側からも情報提供を積極的に行ってよい。来年度から「市町村障害者生活支援事業」を市が民間団体に委託して行うとも聞く。この事業は様々なサービスについて情報提供を行うことを主眼としている。そうした経路を使ったサービスの周知も行われていくことが期待される。
 このように医療に関わるサポートが今後も多いこと、また増えることが予想される。(「ちくま」ほどではないにせよ、これは全国的な傾向のようだ。)この場合、移動サービスの少なくともある部分は、単に車椅子をリフトに乗せ車に固定して移動するというだけのものではなくなる。
 現在移動スタッフは医療知識を持っていないが、医療的な問題が関わる場合には、医療処置についての講習会への参加によって知識を習得したり、医療従事者との情報交換が必要になってくる。
 また道路環境の整備とともに、車両設備の改善も必要である。「ちくま」の2台の車両はストレッチャーの利用ができず、寝たきりの人には対応できない。また1台にはクーラーが付いていないため、体温調節が必要な人にも対応できない。そして医療器具をしっかりと固定できるだけの十分な装備が整っていない。
 そして、こうしたサポートは人も必要であり、時間もかかる。医療そのものは保険でカバーされるが、医療を利用するために不可欠なサービスは自己負担でよいという理由はない。車両の整備や人的なサービスへの財政的な支援が求められる。
 他方で、遊びや仕事の行き帰り等に気軽にこのサービスを使うことがもっと増えてよいだろう。松本市のガイドヘルプ事業は、自動車による移動サポートを認めた点で先進的なものだが、この事業の適用範囲がさらに拡大されることが望まれる。 もちろん、外出はこの「ちくま」の移動サポートのような手段に限らないし、限られてはならないだろう。公共交通機関の整備はまだ不十分であるため身体障害者・高齢者の活動範囲は制限されているのが現状であり、そのために「ちくま」のような移動サービスを行う組織が必要とされ、それが増えることはよいことだと思うが、それだけでは自立生活を完全なものにするには限界がある。
 今回、インタビュー調査の中でも「手足が不自由だったり、言葉が不自由だったり、電車とホームの間に段差があって公共交通機関を利用するのが困難である」という意見を聞いた。公共交通機関がすべてバリアフリーになれば、人の手を借りずに気軽に利用でき、また低額な料金で時間を制限されずに行動できる。そもそも「ちくま」の目指すのは事業自体を拡大することではなく、社会全体のバリアフリー化である。そしてその一部に設備の整った車両を用いたドアからドアへの移動も位置づけられることである。

おわりに

 今回、身体障害者の外出支援サービスの調査研究を行い、「ちくま」のような身体障害者・高齢者の足を確保している組織は、今の時点では必要なものだと感じた。私たちも移動車に乗ることができ、実際に移動の状況を体験することができた。もちろん、6カ月間の調査には限界があったが、移動サポートは事業としてまだ完全に確立されていないため、身体障害者・高齢者にとって移動が困難であることを理解し、「ちくま」のような存在があることを知り、またバリアフリーについて関心を示していただければ幸いである。
 最後になりましたが、この研究を行うにあたりインタビューにご協力くださいました「ちくま」のスタッフ及び利用者の皆様、松本市役所社会部社会福祉課の係長様に心よりお礼申し上げます。また、ご指導くださいました立岩教官、百瀬教官に深く感謝申し上げます。


1) 松本市内ではごく一部のバスにリフトが付けられているにすぎない。なお、リフト付バスは乗降に手間と時間がかかる等の理由で利用者からもあまり評判はよくない。比較して「超低床バス」が高い評価を得ている。これなら電動車椅子などでも一人で乗り降りできる。これは日本では熊本市などで導入されている。
2) 全国で 900以上の団体が移動サポートを行っている。最近の調査報告書として、(財)運輸経済研究センター『スペシャルトランスポートサービスに関する調査研究報告書』、1998年3月。
3) この事業は、近隣・知人や民間団体などが家族に代わり一時的に障害者の介護を行うことにより、障害者とその家族の地域生活を支援することを目的としたもので、「ちくま」はこの事業を委託され、1人年間 110時間に限り無料で介護・移動を行っていた。現在は制度の改正により移動サービスはこの事業から切り離されている。

  cf.
  ◆自立支援センターちくま
  ◆アクセス・まちづくり
  ◆信州大学医療技術短期大学部
  ◆住民参加型在宅福祉サービス


REV: 20170127
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