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南九州のK市で毎日15時間保障に

 九州では、24時間保障の熊本市に続き、ほかの県でも介護制度がのびつつあります。
 先月号でお知らせした南九州のK市では、8月より、最高毎日6時間以上のガイドヘルパー(自薦で外出先自由)が使えるようになりました。一人で交渉しているSさん(単身で全身性障害、24時間要介護)に対し、毎日6時間程度のガイドヘルパー利用を市が認めました(とりあえず、「この時間数で使ってみてください」となった)。また、県外への自立生活プログラムの受講時のガイドヘルパー利用など、臨時的な利用についても「その都度ご相談ください」(ものによっては認める)という事になりました。
 Sさんは自薦登録ヘルパー(老人ホーム併設の在宅介護支援センターに、自分の確保した専従介護者を自薦の非常勤ヘルパーとして入れている:課長と交渉の結果、課長が委託先に同行して話をつけてくれた)の利用もしており、生活保護の介護制度と合わせて、毎日15時間の介護制度が利用できるようになりました。


◆K市で(単身の全身性障害者で15時間以上の要介護障害者が)使える介護制度
(毎日15時間)

 生活保護の大臣承認介護 毎日4時間
 自薦のホームヘルパー  毎日5時間
 自薦のガイドヘルパー  毎日6時間

(来年4月からの介護人派遣事業と自薦ヘルパー時間数アップの交渉中で来年24時間保障を目指している。交渉中につき、K市への問合せはしないでください。)


◆非大都市圏での介護者確保と指示のノウハウ

 Sさんは介護を主に専従介護者(Sさんの介護の仕事だけで生活する介護者)で確保しており、これで、週35時間勤務の専従介護者を3人雇えるようになります。(残りの時間は学生等のボランティア)。専従介護者は新聞広告や職安のパートバンクを使って雇っており、募集のたびに10〜20人の応募の中から面接して選んでいます。(同じようにやりたい方は当会にお電話を。ノウハウあり)。
 現状の悩みは、介護者にきちんと指示を出して、(事実上の)「介護者の雇用主」としての能力と責任を身につけることで、少しずつ実践しながら雇用管理を身につけていっています。K市では自立生活している全身性障害者はほかにはおらず、自立を目指す障害者の団体もないのでノウハウ交換も行えません。
 近くの県の自立生活センター(CIL)で実施しているILプログラムには参加することもありますが、介護者への指示の出し方や雇用管理の方法などの項目が実施されていないので、この項目が学べません。(北欧の自立生活センターなどでは必ず「雇用主プログラム(ボスコース)」として重要視され実施されている)。
 そこで、当会のフリーダイヤルで当事者の担当者(東京のCIL小平で雇用主プログラムを行っている)等と介護者への指示の出し方や雇用管理の方法などの項目を話しています。(早い時期に九州のCILでこのプログラムが行われることを望みます)。

◆ガイドヘルパー交渉の方法(新しい方法で行いました)

 K市ではガイドヘルパー制度(行き先が公共機関と病院のみ)はすでに昔からあったので、交渉は、2ヶ月前の6月に行いました。(新規事業ならば、前年度の4月〜6月ごろに行わなくては予算化されません。逆に、すでに制度化されているヘルパー・ガイドヘルパーの制度改善の交渉は1年中いつでも行えます)。
 K市の予算書を市役所文書課でもらい確認するとガイドヘルパー予算を毎年消化し切れていなかったので、たった2ヶ月で制度化できました。(皆さんの市でもヘルパー関連の予算書を市に行ってもらってください。議会事務局や文書課や情報公開室など、市によってもらえる場所が違いますので、受付で聞いてください)。
 K市での交渉方法は、要望書などは従来通りのやり方で、(資料集3巻「ガイドヘルパー」を使い、その中の要望書セットを利用)、厚生省の基準のとおりの「外出先自由・時間上限なし」の制度にするように、また「重度者の特殊な介護の仕方」に対応できるように自薦を認めるように交渉しました。(他薦のガイドヘルパーが来ても介護できないと訴えた)。
 ここからが新しい方法で、厚生省から97年に出た新しい事務連絡「ガイドヘルパー関係実務問答集」の中で策定が義務付けられた、ガイドヘルパーの「個別派遣計画」をうまく使いました。「個別派遣計画」とは、個々人ごとのガイドヘルパー利用計画を月ごとや週ごとに事前に市町村が策定し、その計画に応じてガイドヘルパーを派遣するものです。(もちろん、臨時で外出が必要になったら柔軟に外出時間数は追加できますし、利用時間帯の変更等も自由に行えます。計画表のとおりに外出しなくてはならないわけではありません)。ホームヘルパーでは個別援助計画というものがあり、それのガイドヘルパー版です。
 97年に出た新しい事務連絡「ガイドヘルパー関係実務問答集」では、ガイドヘルパーの派遣時間数の考え方として、ホームヘルプと同様、個々の障害者によって派遣時間数が違うということを示しています。つまり、

・単身障害者は家族と同居の障害者より決定時間数が多い (家族介護資源)
・より障害が重度の者は決定時間数が多い        (ADL)
・外出が多い生活実態の障害者は決定時間数が多い    (社会参加の度合い)

ということです。
 つまり、
  @一人暮しか障害者夫婦等で、
  Aより重度の全身性障害で、
  B例:毎日CILに行って仕事をしている場合
     (たとえば立ち上げ期のCILで無給で通う場合)、
他の、同じ市内の全身性障害に比べ、最も多い時間数が決定されます。

 逆に、親と同居で、社会参加を希望しない(例:嗜好品の買い物くらいしか外出しない)全身性障害者の場合、少ない時間数が決定されます。(注:社会参加の希望はいつでも変更できますので、社会参加を希望したら市に話に行けば変更できます)。

 このような新しい考え方(個別派遣計画)を使うと、自立生活センターを作ろうとしているような自立障害者はより多くの時間数を使えるようになります。
 現在、全国の半分ほどの市町村では「市内のどの「全身性障害者・重度視覚障害者」も同じく(例)月60時間、ガイドヘルパーを利用できます」というような制度になっています。これは、非常に不公平です。ホームヘルプ制度は、長時間必要には長時間派遣、短時間でいい人には短時間派遣が平等であるというのが原則の制度です。(ガイドヘルパーはホームヘルプ制度の内部の制度です)。
 親元の障害者が月に60時間も外出できるのでしたら、旅行や遊びに十分ですが、かたや単身者は毎日の食料品の買い物を1日2時間使えば、月60時間使い切ってしまいます。
 時間数として、このようなことのほかにも、社会参加を積極的に行っている場合も加味すべきです。(「社会参加」は厚生省によると、障害者の介護施策の目的の1つ。高齢者の介護施策は「生活の維持」のみ。障害は「生活の維持」のほかに「自立と社会参加」がある)。

◆K市の「個別派遣計画」を使った交渉成功の実例 

 まず、「ガイドヘルパー関係実務問答集」とともに、課長にSさんの1週間の外出ローテーション表を提出しました。この表には、病院、市役所、障害者グループの勉強会、買い物、ボランティア募集のポスターをはりに行く、等の外出で、毎日平均6時間の外出(+外出準備等)を現在無給介護者で行っていると書きこみました。
 介助内容も、こと細かく書き入れ、誰が見ても、ガイドヘルパーがつきっきりでないとだめだということがわかるようにしました。(「ガイドヘルパー関係実務問答集」では、

 ・コミュニケーション介助…外出先での代読、代筆等
 ・食事・喫茶介助…外出先での食事の介助(メニューの代読、テーブルオリエ
  ンテーション、食事姿勢の確保、摂食介助等)
 ・排泄介助…トイレへの移動による排尿・排便介助
 ・更衣介助…外出中の上着等の更衣介助
 ・姿勢の修正介助…移動中の坐位姿勢の修正介助
 ・買い物支援…服の色のコーディネート、材質等の説明、値段表の代読等の援助

等を行うと書かれており、「サービスの種類には以下のようなものが考えられます。すべてを網羅するものではありません」とも書かれていますので、上記の介護内容は全部書き入れ、それに加え、独自に必要な項目を書いていきました)

 また、ガイドヘルパーの仕事に含まれると「ガイドヘルパー問答集」ではっきり明示された「外出準備」には、

「・外出準備確認…補装具、福祉機器、介護用具、その他持ち物の確認、
  戸締まり、火気などの安全確認」

と問答集に書かれていますが、「外出前の排泄20分・外出のために着替え20分」などとほかにも書き加え、時間数まで書きこみ、外出準備に1時間**分、帰ってきてから1時間が必要であると、具体的な時間数を「分単位」まで書き入れました。

 このようにして、当会のアドバイスをもとに自分で個別派遣計画を作成し、課長はそれをそのまま採用し、派遣時間数を決めました。(「活動単位の設定については、利用者ごとの援助の必要性を考慮し、サービス所要時間等を決める必要があります」と書かれています)。自分で緻密な計画書を作り、交渉すれば、予算さえ解決すればその時間数が受けられます。K市でも、8月からの新制度では、親元の障害者や外出計画のない障害者は1日3時間程度までしか認めない方針のようですが、「Sさんはとりあえず提出した計画表(毎日6時間)のとおりに使ってみてください」という事になりました。

 なお、「ガイドヘルパー問答集」では「継続的な外出に係る派遣の申し出に対しては、派遣日を月を単位として決定する」とありますが、その後に、以下のようにも書いて臨時の利用の時間を上乗せできると書いています。

「急な事情の変更により、派遣日を変更せざるを得ないような場合には、利用者本意の柔軟な対応が望まれます。
 また、臨時的な派遣の申し出があった場合にも適切に対応できるようにしておくことが必要です。」

つまり、Sさんの場合は1日6時間(月180時間)の基本外出時間数以外に、県外へのILプログラム受講時などは個別に加算できうるということです。
 これについては今後の利用申請ごとの話し合いによります。どの自治体でも、このような個別の派遣決定の例では、予算のかかるもの(多くの障害者が利用する項目)は認められにくいので、たとえば、「気晴らしに遠くの海岸に遊びに行く」というものは却下されやすく、逆に、「CIL(注1)を作るための学習会を受講に行きます」というものはOKが出る可能性が高くなります。

(注1)市の課長には、「CILは交渉団体ではなくて、サービス提供団体で、市と協力して障害者福祉を推進する団体です。東京・長野・千葉県などでは市町村障害者生活支援事業の委託先になっています」などと話をして、「いっしょに市の福祉を推進していきたいので協力していきましょう」といっておきます。

 四国や北関東では、CILへの通い(無給)などに毎日8時間(月240時間)のガイドヘルパー利用ができる市もあります。従来、CIL事務所(無給)(注2)などへのガイドヘルパー派遣はガイドヘルパーの業務なのかどうか自治体にとっては指標がありませんでしたが、今回の「ガイドヘルパー関係実務問答集」には、目的地滞在時の介護(排泄、車椅子上の姿勢の修正介助、食事の介助、外出先での代読、代筆等、温度調節に必要な外出中の上着等の更衣介助)などが軒並み明示され、さらにこれらは「すべてを網羅するものではありません」(ほかにもありますよという意味)とも書かれています。
 これだけはっきり書いてくれると、自治体も抵抗なく同じ制度を導入できます。ぜひ皆さんの自治体でも交渉してみてください。 

(注2)CILが発展して市からの委託を受けるなど、職員給与が最低賃金を上回る「有給」になるとガイドヘルパーは使えなくなる。ただし労働省の制度を利用できる。

「ガイドヘルパー関係実務問答集」は、資料集3巻「ガイドヘルパー」に掲載しています。
ぜひお求めください(会員等:500円)。交渉の要望書セットも掲載。


REV: 20170131
『全国公的介護制度情報』 
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