虹の会機関紙「にじ」98年4月号より転載
虹の会機関紙「にじ」98年4月号より転載
浦和市の推薦登録ヘルパーの現状について
松沢純子+佐藤一成
浦和市は、昨年の8月から、当会副会長の松沢に対するヘルパーの推薦登録派遣
を認めてきた。
その後、今年4月からは、推薦登録を必要とする3人に対しても認められること
になった。
この導入については、県内では初であり、後に書くが、自立生活における推薦登
録派遣の重要性と併せて考えると、大変意義深い。
まず、浦和市には敬意を表しておきたい。
推薦登録派遣とは
経過報告に先立って、ヘルパーの推薦登録派遣について説明をしておく。
ヘルパー事業は、介助保障施策の要である。
しかし、そのヘルパー派遣が利用者本位で行われているかというと、そうはなっ
ていない。
詳しくは、別項(※1)に譲るが、これらヘルパー派遣の問題点を解決するもの
が推薦登録派遣である。
介助は、大変プライベートな問題であり、本来、信頼する介助者にしか依頼した
くないものである。また、障害者の介助に関しては、画一的な研修などを受けただ
けの介助者では対応できないことが多い。
「ヘルパーよりも、自分が確保してきたボランティアのほうが自分にとっては格
段にいい介助者である」という声はよく聞く。
推薦登録派遣とは、その「自分が確保している介助者」をヘルパーとして派遣さ
せる方法である。
厚生省も、こうした介助者の有用性を十分認識しており、県あてに指示文書など
を出している(※2)。
もちろん、埼玉県も昨年度、市町村に対して同様の内容の指示文書(※1)を出
している。
自立生活と推薦登録派遣
推薦登録派遣は(※3)、これまでの一方的な定時派遣とは違い、実際に弾力運
用が行えるため、全国の地域で生活する障害者にとって必要不可欠なものとなって
いる。
自立生活と切り離せない派遣方式と言ってもいいだろう。
浦和市でもガイドヘルプに関しては推薦登録方式が導入されているが、ホームヘ
ルプに関してはまだであった(浦和には、いわゆる「全身性障害者介護人派遣制度」
はない※4)。
これまでのような行政側から一方的に派遣されるヘルパーの場合、時間変更はお
ろか、当初の派遣時間の設定ですら利用者の思うようにならないのが現状である。
推薦登録は、そうした「利用者の生活ニーズに応えていない」ヘルパー派遣体制
を、利用者本位の方向に変えるものである(※1)。
そして、そのように変わらねば、「必要に応じて介助者を使って生活する」こと
は不可能なのである。(もちろん、毎日ヘルパーが来るのを待って、外出もしない、
友人も呼ばない生活を365日続けるのであれば、現状の行政側からのヘルパー派
遣でも生活できるのだろうが、それでは「地域で一市民として社会に参加しながら
生活している」ということにはそもそもならないだろう。)
そして、それは前項で述べた通りに、厚生省・県も今後の一つの方向として認め、
進めようとしている方法である。
もちろん法的にも何ら問題はない。
推薦登録が認められる前 〜 一昨年までの経過
具体的に推薦が動き始めた97年度以前にも、虹の会は推薦登録の必要性につい
て市と話し合ってきた。
その経過も重要と思われるので、振り返っておきたい。
94年3月、虹の会は浦和市へ、ヘルパーの時間拡大などを求めた要望書を初め
て出した。
それが実質的な、虹の会のヘルパーに対する運動の幕開けと言える。
それまでの介助保障施策は、県単の介護人派遣事業(※5)とホームヘルプ事業。
しかもホームヘルプは、9〜5時の「午前・午後のどちらか派遣」「一回3時間週
18時間程度」といった、旧然としたものだった。
当然、この派遣では「生活の安定」などというには程遠い。
とにかく当初は夜間までの時間拡大や柔軟対応を求めて折衝を続けた。
そして、そうした運動をやっていく中で「推薦登録派遣」という方法を知り、要
望に取り入れていくことになった。
そして翌年の95年、浦和市のヘルパー事業は大きく動く。
9〜5時といった枠から、7〜7時までに拡大。モデルケースとして、虹の会事
務所近辺の障害者に対しては夜11時までの派遣が始まった。
時間数も「一回三時間程度」と言ったことではなく、利用者に合わせて一日に一
〜二時間程度の派遣が数回受けられるようにもなった(※6)。
この動きは、旧然としたヘルパー派遣から脱却したという意味で、大きな意味を
持っていたと思う。
しかし、こうして派遣される時間が増えたことで、必然的にヘルパーとの衝突が
多くなる。
「やってあげる的な接し方をする」「専門家然として障害者を指導したがる」ひ
どい話では、「障害者を子ども扱いする」などのヘルパーが多く、一気に不満が噴
出することになる。
このことで、より推薦登録の必要性が浮き彫りになった。
翌年の96年にも、ヘルパーの質の問題に関する要望書提出・話合いを行うとと
もに推薦登録の必要性について共通認識を作るために市と話合いは重ねていた。
しかし、具体的に推薦を行う人やその介助者を挙げていなかったために、具体的
には動きがなかった。
そして翌年、昨年97年に、副会長の松沢に対しての推薦登録派遣を行うよう具
体的に動くことになり、ついに推薦登録が認められることになるのである。
今になって考えてみれば、推薦登録派遣とは、制度ではなく、派遣の運用の仕方
(やりかた)の問題である(※3)。 だから、総じて話を進めるより、具体的に
話を進める必要があったのだ。
ただ、私たちが97年以前に、市に「推薦登録」という言葉を理解させていたこ
とや、その必要性を認識させていたことは松沢の話が具体的に上がって、すぐに認
めさせるための力になったという風に思っている。
当時の松沢の介助の状況
それまで、松沢も浦和市のヘルパー事業の委託先である民間会社から来るヘルパ
ーの介助を受けていた。
が、会話に文字盤を使うという言語障害ゆえか、本人不在の介助を行われること
や人格を無視したような接し方をされるなど、ヘルパーとの衝突が絶えなかった。
もちろん松沢はそれを黙っているようなことはせず、実際に数人のヘルパーを変
えさせるなどの実力行使的な動きもしており、また、そうした問題が起こるたびに、
市には足を運び、問題を訴えていた(※7)。
また、毎日そうした問題が起こるゆえか、身体が緊張してしまうなどのこともあ
り、その分を、ヘルパー外の時間に虹の会の介助派遣システム(※8)の介助者に
介助を依頼しなければならないという悪循環も起こっていた。
そうした、松沢を取り巻くヘルパー外の介助者が数人いたわけで、その人たちが
ヘルパーとして認められるならば、時間的な問題や介助の中身・質の問題などの余
計な心配は必要なくなる。
また、文字盤を使わずとも会話で通じるヘルパー外の介助者もいたことから、具
体的に推薦登録の方向で動こうということになったのである。
また、松沢の場合、主治医から「身体のことを考えると介助者は信頼のおける人
間に固定したほうがいい」というアドバイスもあり、早急に推薦への移行が必要で
あった。
推薦登録第一号 誕生
97年4月、松沢に対する推薦登録という絞った形で話を進めたいということを
市に伝える。
同時に、主治医にその必要性について一筆かいてもらった。
6月13日。松沢・村山・佐藤の三者で市と交渉。とにかく「松沢に対しての推
薦登録を行うこと」しか言わない。
とりあえず、係長には理解をしてもらい、「課内で相談する」ところまで話を進
める。
6月17日、課内ではまとまったとのことで、「これから委託先に相談する」と
のこと。
6月20日、「委託先と細かいことを決めてほしい」と市から連絡。
6月30日、委託先と松沢・村山・佐藤で話し合う。
7月8日、最終的に会社と調整。時給などについて確認。
松沢側の介助体制作りなどの都合などもあり8月スタートということになる。
この導入に当たって、市は、「会社(委託先)と利用者・介助者(ヘルパー)三
者の合意の上に基づいて行われているもの」ということで考えており、直接手を下
していない状況にしている。
時給についても会社と松沢+介助者側で決めており、市はタッチしていない。
市は、いろいろと法的なことも気にしているようだが、(どこに問い合わせても)
まったくそんなことはなく、もっと浦和市は胸を張って声高に「利用者個人個人の
ニーズに応えた派遣をしている」と言っていい。
浦和が県内の先鋒であることに、我々としても敬意を表したい。
浦和市の推薦登録の形
昨年8月、松沢に対して始まった推薦登録は、彼女が受けていたそれまでの時間
数(月140時間程度)で始まった。 形態については、下図の通りである。
以下注釈。
●注1)介助者は、これまで来ていた人を登録した。
●注2)派遣時間数は、これまでの派遣と同時間で、月140時間程度。単価
1280円。時間数は市が決めた時間数で単価は市は関係なく会社と協議して決
めた。
●注3)松沢の場合、給料は一括して一本の通帳に振り込むようにしている。
●注4)介助料の振込は、月ごとに介助時間数を報告し、振り込んでもらう。具体
的には介助者が誰であれ関係なく一本の通帳に総時間数が振り込まれる形(生活
保護の他人介護料と同じ方式)。
●注5)契約書は、松沢・介助者・委託会社の3者で交している。内容は、そんな
に特別なものではなく、通り一遍なこと。
●注6)介助者は、これまでも介助に当たっていた人なので、「特別介助の内容や
責任などが変わるわけではないが、松沢に入ってくる介助料のために、契約書な
どを交わすことになってしまうが、よろしくおねがいしたい。」と話してわかっ
てもらった。
推薦登録の効果
昨年8月に松沢に対して推薦登録が実現した背景には、「何度、人を変えてもヘ
ルパーと松沢がうまくいっていない」という現実から、市の現場サイドに「推薦の
ほうがお互いいいのでは?」といった雰囲気が既にあったことがあげられると思う。
推薦を行っている人の場合、時間数などのことは別として、介助者の質の問題な
どに関して、市に問題がいくことはないからだ(介助者を自ら推薦しているのだか
ら、あたりまえのことだが)。
また、会社側にとっても、「ヘルパーの募集/コーディネート」といった最も手
のかかる部分を利用者サイドが行うということで、ぶっちゃけた話、悪い話ではな
い。
事務費がいくらかでも会社に流れてると考えれば、その分は浮くことになる(と
はいっても、契約書を作ったり、金の計算/振込などの作業はある。が、これも人
数が増えてきてマニュアル化していけばもっと楽になるはずだろうと思う。確かに
推薦は今は始まったばかりなので会社としても頭をひねっている最中だとは思うが。
※9)。
加えて、障害者計画やゴールドプランなどを見ても、市はヘルパー数を増やした
いという現実がある。
しかし、ヘルパーはなかなか増えていないようだ。(これまで、派遣時間の変更
などを行おうとした場合「できない」原因は「ヘルパーがいない」「ヘルパーのほ
うの調整がつかない」と市に言われることが多かった)
そうした視点からも、利用者本位のヘルパーが確保できるのであれば、市として
も反対する理由はないはずである。
98年度 松沢に続け!
推薦登録を必要とする障害者は、別に松沢だけではない。
仕事が忙しく、ほとんどヘルパーをキャンセルせざるを得ない(時間変更ができ
ないのだから、キャンセルしかない。結果、その分を自力で介助者を捜し、介助料
を支払っている)人や、男性ヘルパーが少ないことで(現在、浦和の委託先企業で
は一人しかいない)ほとんど派遣を受けることが「できない」男性障害者などであ
る。
そうした現実から、当会の会長/副会長の工藤・村山・見形についても認めるよ
う、8月以降も市と話合いを続けていた。
9月には要望書を提出(※1)、11月には具体的に推薦を必要としている人と
市との話合いを持った。
その他、窓口では度々折衝は行ってきた。
2月になっても具体的な動きが見えてこない状況の中で、推薦を必要としている
利用者サイドから、一定の具体的な提案などをしながら、市と話合いを詰めていっ
た。
そしてやっと3月の中旬になって、4月開始の方向で話が決まった。
現在、浦和市では、方式は松沢時と同じで、前述3名を加えてヘルパーの推薦登
録派遣が行われている。(時給は1400円になった。)
残された課題
まずなにより、浦和市にはヘルパー派遣の上限があり、それを撤廃させなければ
ならない。
本来、介助とは時間上限などというものとは無縁でなければならない(※10)。
厚生省なども、上限撤廃についてはここ数年、強く指導をしているようだが、浦
和市は上限を撤廃させていない。
この件については、次号以降に論を改めてお伝えしたいと思っている。
次に、浦和市の推薦登録は、時給に関して市の意向が反映されていない。あくま
で「会社・利用者・介助者」の合意の上で決められている、という姿勢なのである。
その形については、仕方ないのかもしれないが、そうなると問題なのは、時給の
件に対しては、利用者サイドは会社へ要求を出さなければならないということなの
である。
私たち利用者サイドとしては、会社とは喧嘩するいわれもないし、したくもない。
我々の生活権を保障するのは行政・市である。
こと時給は、「適切なヘルパーを確保する」ための重要な懸案。そういった意味
では時給に関しては市が口を出せるような形を作っていかなければならないと思っ
ている。
最後に、今後、推薦登録を希望する人についてである。
推薦登録とは、自分で介助者に対して責任を持つという派遣体制であり、よっぽ
どヘルパー外の介助体制が充実していなければ何のメリットもない。デメリットば
かりである。
そういう意味では、浦和の中で、こちら側(利用者サイド)がもっと力を持って
介助体制を作ることが必要だ。
特に私たちとしては、推薦登録の内容とこちら側に何が必要か、をきちんとヘル
パー利用者に伝えていかなければならないと考えている。
(以上●文責/松沢+佐藤)
推薦登録派遣は、自立生活に必要不可欠な派遣体制である。
浦和で、この方式が広まっているのは浦和の自立生活運動にとってたいへん意義
深いことである。
私たちは、この体制を、きちんと守り育てていきたい。
もし、推薦登録に関して「やりたい」「この点がよくわからない」といったこと
があったら、市に問い合わせず、まず虹の会に連絡をください。
この件に関しては、市に直接問い合わせないで、まず、必ず虹の会へ連絡をくだ
さい。市は「利用者・ヘルパー・会社で合意してやってるだけのこと」としか答え
てくれません。
REV: 20170131