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静岡市の「全身性障害者登録ヘルパー制度」が発足して2年

『月刊全国障害者介護制度情報』1997年11月号



(静岡障害者自立生活センターの通信より転載)

 全身性障害者登録ヘルパー制度が発足して2年、自立生活センターの介護派遣シ
ステムを利用し、24時間介護者を入れて自立生活を始めた障害者は、昨年から今
年にかけて3人おります。しかし、自立生活をしている重度障害者が一旦入院して
しまうと介護制度(登録ヘルパーや、生活保護の他人介護料)が使えなくなってし
まうという大きな問題があります。病院内の基準看護では、点滴・注射・投薬等、
医療処置が中心でその他の入院生活に関すること殆ど出来ません。

 SK病院は、1病棟40人程の患者数に対して看護婦の数は、日勤6〜7人、夜
勤数2人。これでは、いくら献身的に看護婦が対応しても多くの介護を必要とする
重度障害者が入院した場合、絶対介護者が必要になります。それも日常的に、介護
に入っている介護者が必要になります。
 筋ジストロフィーのK氏は、5月中旬に自立生活を始めた矢先、肺炎で5月26
日入院、そして、肺の機能低下のため血液中の2酸化炭素量が増え危険な状態にな
り、やむをえず気管切開の手術を行い、人工呼吸器を使用する状態になりました。
K氏の入院前の介護体制は、2交代制で、入院中も同じ体制で、介護に入ってもら
いました。介護の内容は、体位交換、食事介護、排尿、排便等で、痰の吸引は基本
的には、当初看護婦がやっていましたが、退院後の生活も考え自立生活当初からの
専従介護者は、看護婦の指導のもと人工呼吸器の取り扱いと、痰の吸引も行なうよ
うになりました。

 一番困ったことは、本人がナースコールが押せないため常に誰かが付き添ってい
なければならないことでした。又、気管切開をしているため、コミュニケーション
がうまくとれず、口の動きか、又、50音の片仮名の表を介護者が一つ一つ指差し
言葉を拾って行くしかなく、体位交換と吸引は常に必要で、介護者は昼夜休む暇が
ありません。しかし、利用する障害者にとっては、入院する前から介護に入ってい
て、介護について方法とかコミュニケーションも十分にとれ安心した介護を受けれ
る、自ら推薦した介護者が中心でしたので、なんとか入院生活を送る事ができまし
た。しかし、入院中は登録ヘルパーも利用できない。又、制度上有料の介護者を入
れることも出来ず、先に述べたように重度障害者の介護の特殊性もあり、普段から
介護に入っている、登録ヘルパーでなければ、安心した入院生活をおくれません。
入院生活も日常生活の延長線上にあるものです。登録ヘルパーも専従として入って
いる以上、入院中は制度が使えないからといって、ボランティアというわけにはい
きません。

 介護者捜しには、つねに頭を悩ませており、ローテーションを組むのには本当に
苦労をしていました。
 介護制度が利用できないことについては、全ての障害者の介護保障を実現するこ
とを目指して設立された、静岡公的介護保障要求者組合の内部で緊急の話し合いが
持たれ、以下のことを確認しました。
1、介護支援基金の設立
2、介護料の緊急カンパを募る
3、この現状を打開するために、行政や、社会福祉協議会、病院に働きかけ協議の
  場をもうける。という内容でした。

 「3」については、6月18日に話し合いが持たれましたが、制度の壁があり、
「現状では入院中の介護料を出すことは出来ない」という答えでした。しかし、こ
の中で重度障害者の介護の大変さは、お互い確認することが出来たので、「現状の
中で最善をつくし、今後検討していく」ということで、確認されました。

 他都市の入院中の介護制度においては、北海道の札幌では、96年6月、すでに
市単独事業で全身性重度障害者介護料助成事業として制度化され、上限1ヵ月38
時間まで利用できます。制度化の背景は、在宅障害者からの「入院中の介護は劣悪
で生命の危険すらある」との指摘がありました。これは、当事者と行政・病院側と
の粘り強い話し合いにより出来た制度で、自立生活をしている重度障害者が、入院
した場合、生命を維持し、身の回りの事や、介護に関して、コミニュケーションを
自由にとるには、常に介護をしている介護者しかいません。こんな当たり前のこと
をその度訴えていったそうです。
 介護費用が支払われないというのは、介護者の仕事がなくなり、解雇されなけれ
ばならないということです。あまりにも不安定です。介護者の保障も考えて行かな
ければなりません。専従として、登録ヘルパーを職業とする人達もだんだん増えて
きております。全身性障害者登録ヘルパー制度が出来たきっかけは、今までのホー
ムヘルプ事業では、重度障害者の自立生活の視点に欠け、利用しにくいと以前から
当事者が訴えて来ていました。それを受けて厚生省は、94年3月2日、社会福祉
関係主幹課長会議で、以下のような指示を出しています。

「1」ヘルパーが提供するサービスの内容をめぐって、利用者から種々の問題提起
がなされている。
(ア)日常生活のニーズに対応したサービスが受けられない。(量の不足)
(イ)身体障害者の身体介護のための体力や技術に欠ける者が派遣される。
(ウ)障害の特性についての理解に欠ける者が派遣される。
(エ)コミュニケーションの手段に欠けるため十分な意思の疎通が出来ない。
(オ)同性ヘルパーを派遣してほしい。
 これを受けて厚生省は次のように指示しています。
「2」今後の事業運営に当たっては、こうした利用者の深刻な問題を踏まえその改
善に努める必要があるが、その際、次のような視点が重要である。
「重度の身体障害者の中には、身体介護やコミュニケーションに当たって特別な配
慮を必要とするものが少なくない。こうした派遣決定に当たっては、利用者の個別
の事情を十分考慮し適任者の派遣を行なうように努めることは当然であるが、こう
した対応が可能となるよう実施体制について十分な検討が必要であること。この際、
身体障害者の身体介護やコミュニケーションの手段について経験や能力をすでに有
している者をヘルパーとして確保するような方策も検討に値すると考えられる」

 この指示でもわかるように、重度障害者の介護者は、障害を持った人自身が選ん
だヘルパーが一番適任ということを厚生省が認めていることになります。しかし、
入院してしまうとこの制度も利用できません。それに変わるべき内容の介護が用意
されているのなら、なんら問題ないのですが、先に述べた、現状の基準看護は「病
院または、診療所においてその施設の‥‥‥‥‥家族が付き添う必要がないと認め
られる程度の看護を行なうこと」とあります。しかし、現状の基準看護では、K氏
をはじめとする重度障害者は、対応できないのは明らかです。私たちはこの問題を
きっかけに誰もが安心して、入院生活を送れるように、又、登録ヘルパーが継続し
て、登録ヘルパーの仕事が行なえるように、制度の改革に向けて粘り強く運動を続
けていきます。今後とも皆様の支援をよろしくお願いします。

 私事ですが、昨年半年ほどの長期入院したおり感じた事を少し書きたいと思いま
す。入院は、県外のあるリハビリ病院です。私は、頸髄損傷という障害で四肢麻痺
ですので床擦れになりやすく、昨年3月入院し、その間4度手術を行ない、一度は
退院したものの再度入院、12月に退院するまで、計6カ月の入院となりました。
一度手術をすると、1カ月以上車椅子に乗れないので、ほとんどベッドに寝たきり
の毎日でした。看護体制も、患者の付き添いの家族は、20時には帰らなくてはな
らず、その後は、すべて、病院側の対応になります。私は、場所が県外でしたので、
家族も面会に来れませんでした。入院中の1日の日程は、3度の食事中心に、その
間の体位交換、排便、医療処置といった、生命を維持するための最低限の看護の繰
り返しでした。そんな中たった一つの心の支えは入院する前まで入ってくれていた
介護者が週に1度、遠路面会に来てくれたことです。この時とばかり、ジュースや
雑誌等、必要なものを売店に買いに行って貰ったり耳掃除、爪切り、髭剃りの掃除
等頼んでいました。医学的な恩恵は絶大ですが、実は、これがある意味で私の長期
の闘病生活を支えてくれたのです。K氏の介護量と私の介護量とはだいぶ違います
が私も毎日介護者を必要としていました。
 いずれにせよ、入院中にも介護費用が支給されるよう行政側の速やかな対応が望
まれます。


編注:東京都でも97年度後期(注)から全身性障害者介護人派遣事業が改正され、
入院時でも必要がある場合、制度が使えるようになりました。(これまでは、各市
区町村で使えたり使えなかったりバラバラだった。もちろん交渉を行ったところだ
け使えるようになっていた。いままでも都は実施主体の判断があれば認めるという
立場だった。今後は全自治体で使えるようになる)



自立生活センターが介助派遣をやり始めて丸2年

 静岡全身性登録ヘルパー制度が出来て丸2年。自立生活センターが介助派遣をや
り始めて、丸2年経ったことになる。試行錯誤の2年でいまだに試行錯誤している
途中である。
 が、そんな事をしているうちに自立生活を始めた人が去年から今年にかけて3人、
他に家族と一緒に暮らしながら、家族の中で自分の役割を果たす為に介助者を入れ
た生活を始めた人が1人、そして家族の介助力軽減を目的として介助派遣を利用し
ている人が1人というように利用者が増えた。という事で介助者も増えた。最近で
は口コミやビラで介助者を見つけていくことも難しくなっているのでアルバイト情
報誌を利用して介助者を募集している。
 そして面接の段階で自立生活センターの説明と介助者としてのスタンスを説明す
る。「利用者は単にお世話されるべき対象者ではなく、介助者を雇っている雇用主
である。利用者の意思決定を最優先してほしい。そして失敗する事も一緒に付き合
っていける方を望んでいる。」といった説明の後2、3回実際に介助を経験し、ロ
ーテーションを組んでいく。

 利用者は筋ジストロフィーの人が多く、2人が気管切開をしている為24時間の
介助が必要である。今のところ介助者を確保していくことが最大の課題になってい
る。何とかローテーションが組めるくらいの介助者では、急に介助者が病気とかで
これなくなった時、代わりに入れる人が少ない。泊まり介助が特に大変なのでなり
手がいない。その分、介助料金を増やす事が出来ればいいのだが、財源がない。
 全くナイナイ尽しなのだ。
 そんな中で苦労している事務所と利用者、介助者であるが、今まで障害者に接し
たことがなかったり、福祉にあまり関心がなかったりする人達が介助者をやってみ
て、『障害者が地域に生きるって当たり前のことなんだ』と多くの人に肌で感じて
もらえればそれが一番の財産なのかもしれない。

(転載は以上)


REV: 20170129
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