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人工呼吸器利用者への派遣




「自薦ヘルパー(パーソナルアシスタント制度)推進協会の事業者向けマニュアル(その3)」より
『全国障害者介護制度情報』2001年1月号掲載


 筋ジスやALSなどの進行性の障害が重度になり、自力で呼吸できなくなる
と、人工呼吸器を使用する事になる場合があります。人工呼吸器とは、肺の筋
力が弱って息が十分にできなくなり、体内に酸素が不足して来る時に、機械を
使って肺に空気を送り込むものです。
 自力でどのくらい酸素が取り込めるかにより、使用する機械の種類も違いま
すし、送り込む酸素の量も違ってきます。当然、障害が重くなるにつれて変化
していくものでもあります。
 日本では人工呼吸器を使用している人は、過半数が病院に入院したままで
す。在宅で人工呼吸器を使用している人も増えてきました。(例えば北海道で
は100人ほどがいます)。在宅の場合、ほとんどは同居家族がいて機器の管
理を行っています。
 一方、自立生活運動を行なう障害者団体の中には一人暮らしで人工呼吸器を
使用する障害者を自立支援しています。団体設立から1年未満で人工呼吸器利
用者の自立支援を行なった団体もあり、きちんと取り組めば、決して不可能な
ことではありません。

 人工呼吸器利用者の自立支援や人工呼吸器の情報はベンチレーター利用者
ネットワークの人工呼吸器マニュアルをご覧ください。

 この項では、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などで、発語による会話ができな
い障害者で、さらに呼吸器を使う、特に重度の障害者への介助者の派遣につい
て述べていきます。(注:呼吸器利用者で会話できる障害者はたくさんいます
がここでは呼吸器をつける前から発語ができなくなった方の例を述べます)。


介助サービスの前に
 まず、障害者が地域で暮らすことを選択した場合、周囲(家族、医者など)の
人たちが、心配して在宅は無理だということがあります。このようなときには
自立生活センターでは、当事者のはっきりした意思のもとで、制度的にも技術
的にも在宅生活は可能ということを実際の例を挙げて当事者と一緒に周囲に説
明する事もあります。周囲はもしものときの責任を誰がどう取るのかと心配し
ますが、このような場合は当事者が自分の意思であることをきちんと話して説
得するしかありません。医療、看護、介助が連携する事になるので、信頼しあ
える関係をきちんと作っていきます。(当事者事業所のジェネラルマネージャ
ーとコーディネーターが病院と話をつけます。最終的には当事者の意思に沿っ
て、介助者は家族と同じと考えてもらい、病院での技術研修などを受け入れて
もらいます)。

介助者を選ぶ
 障害者自身がその時々で何をして欲しいかの指示を出しますが、話ができな
い、体が動かないという状況の中で、呼吸器の管理と、吸引の作業を介助者が
していきますので、介助者を誰にするかということはかなり重要な事です。す
なわち、障害者が何を求めているかをきちんと理解し、相手の身体状況を把握
した上で手早く確実な作業ができる介助者が求められます。また24時間介助
を必要としますので、夜に介助に入る人は自分が寝られるということはほとん
どない事を自覚しなければなりません。なぜなら、パソコンを使ってコミニ
ケーションをとっていても、マウスの位置が少しずれてしまうなど、いつも使
える状態にあるというわけではありませんし、瞬きで伝えるときには、いつも
相手を見ていないとわかりません。自分が寝てしまうと、指示が出ても分から
ないままになってしまう可能性があるからです。このような細心の注意を払わ
なければならない介助内容は派遣される介助者の体力的なことにも配慮が必要
となってきます。また、万が一介助者が都合で休むような事になったとき、代
わりに入る介助者の体力的な負担をできる限り少なくするために、また、いつ
でも介助に入れる人を確保しておくためにも、普段からなるべく多くの熟練の
専従介助者が関わっていたほうが良いといえます。以上のような事を考えて介
助者を選んでいきますが、実際の作業は病院での研修を経て(訪問看護婦から
習う場合もある)から、介助に入る事になります。
 病院では、呼吸器については、その仕組み、管理の方法、アラームが鳴った
時の対処の仕方などを学びます。また、吸引については、吸引器の使い方、清
潔でなくてはならない事の意味、吸引のやり方などを学びます。また障害の進
行が進んでいる場合には、経管栄養や胃ろう(胃の部分に穴をあけ直接チュー
ブを入れて口、食道を経ないで栄養剤を入れる)が必要になったりしますので、
その処置も習得する事になります。
 病室で実習する事になる場合は、介助者が多いと一度に研修できないので、
何人かに分けて研修します。また一度ですまないことが多いので何回か研修を
重ねます。日時など病院の担当者と相談しながら計画を立てます。

身体状況を把握する
 ALSや筋ジストロフィーなどの筋力の障害は、呼吸ばかりが困難になるだ
けではなく、体中の筋力が落ちてくるので、手足が自分の力では動かない、内
臓の働きも弱ってくるなど個々の状況により身体状況はずいぶん変わってきま
す。比較的緩やかに筋力が落ちていく場合には、自力呼吸の程度により、気管
切開をせず、マスク型の呼吸器を使用したり、チューブで鼻に直接酸素を送る
などして対応できる時期もあります(この場合は会話可能です)。また、一日
中酸素を送らなくても、1日1回、2時間程度でも充分という事もあります。
しかし、ALSの場合などは、発病からの進行がとても早く、1年や2年で気
管切開をして呼吸器を使っていく事も十分にあります。この時には発語をする
ための筋力がすでに無くなっていることが多く、または呼吸器利用開始後数年
で会話をする喉の筋力がなくなります。会話を通してのコミニケーションをと
る事はできません。しかし、コミニケーションは、会話によるものだけではあ
りませんので、時間はかかりますが、パソコン、文字盤などを使いながら十分
に意思の疎通は可能です。
 また、自力で身体を動かす事もできませんので、体位交換も頻繁に必要にな
ります。この場合の体位交換は、かなり身体が落ち着く場所が厳密ですので、
位置がきちんと決まらないと、何度も変える事になります。さっき変えたばか
りなのに、また体位を変えてくれといわれると、つい「またですか」と言いた
くなる介助者もいるようですが、このときには本人も自分の身体をどうしてい
いか分からなかったりしている事もあるので、何度でも、落ち着く位置に変え
ることが必要です。体位交換をきちんとしないと、辱創を作る事にもなってし
まいます。(辱創=血液が回らず、細胞が壊死していく 床づれともいう)

呼吸器・吸引器の管理
 介助に入る障害者がどんな機械を使っているのか把握します。気管切開をし
て呼吸器を使っている場合は、痰が通常よりも出やすくなっていますので、呼
吸器と同時に吸引器も使います。呼吸器は基本的に、呼吸の回数、送り込む酸
素の量の設定を医者がしますので、介助者は機械がきちんと働いているのか、
空気が漏れていないかをチェックし、異常があればあらかじめ説明を受けてい
る通りの適切な対応をする事になります。しかし、吸引器は、気管切開をした
部分から、チューブを入れて痰をとる作業をしますので、その時々で介助者が
気をつけなければならない事がたくさんあります。

吸引器の使用について
 吸引器の使用方法や吸引のやり方は、病院か訪問看護婦から介助者一人一人
が説明を受け、さらに研修を受けてきちんとできるようになるまで練習しま
す。
 気管切開をしていると、その部分から不潔になる要素(雑菌、ごみなど)が
入り込む事を防がなければなりません。口の中とちがい、直接体内に入ってし
まうので、肺炎などにすぐなりやすくなります。そのため、清潔な手袋をは
め、カテーテルも殺菌したものを使い一度気管内に入れたら、痰が取れなくて
も再び使う事はせず、新しいものと交換するという指導をする病院もありま
す。
 吸引をするときには気切部分(気管切開したところ)から一時的に呼吸器を
はずします。自力呼吸がどのくらいできるかによりますが、かなり障害が進行
しているばあには10秒くらいを目安にして、手早くカテーテルを気管に入
れ、側壁についている痰をカテーテルをまわすようにして取っていきます。一
度でうまく取れなかったら、もう一度同じようにしてカテーテルを入れなおし
ます。

体位交換について
 体位交換をするときには、呼吸器が外れないようにします。外れやすい機種
の場合は、あらかじめ呼吸器をはずして行います。はずしたときには、やはり
手早く作業を行う必要があります。どの位置にするのか確かめて、細部にいた
るまできちんとクッションやタオルなどを使い位置を決めます。位置が決まっ
ていないままにすると、かなり頻繁に何度も変える事になりますので、そのと
きには何度でも体位を変えます。

まとめ
 このような重度の障害者は地域でサポートする体制がないため在宅で暮らす
選択がなかなかできないのが現状です。しかしどんなに重度の障害をもってい
ても自分の意志で地域で暮らす選択ができる事はとても重要です。介助者への
医療処置に関する正しい知識を習得するための研修をはじめとして、地域で支
えていくための理念などをしっかり伝え、医療、看護、介助と連携を取りなが
ら在宅生活を支える体制をとっていきます。
 推進協会加盟事業所では、このように、どんな重度な障害者からの依頼が
あっても、からならず対応することを憲法にして、(団体の介助システムさえ
変えていき)、対応することが求められます。

REV: 20170129
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