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1996




■1996/06/07 優生思想を問うネットワーク「市民公開シンポジウム「着床前診断を考える」に関する抗議文


   1996年6月7日
   市民公開シンポジウム「着床前診断を考える」に関する抗議文

鹿児島大学医学部部長
鹿児島大学医学倫理委員会委員長
     田中弘允殿
鹿児島大学医学部産婦人科学教授
永田行博殿
        優生思想を問うネットワーク
         代表 筒井 純子
                      事務局 大阪市城東区東中浜2-10-13
       全国障害者解放運動連絡会関西ブロック                      06-969-2580 FAX06-969-2544

 貴大学は、さる4月27日に市民公開シンポジウム「着床前診断を考える」を開催されました。私たちは、以前より、この技術が重大な問題をはらんでいることを指摘し、いったん臨床実施を凍結したうえで、あらゆる情報を公開し、当事者である障害者や患者・女性達、市民、医学関係者、他の分野の専門家等を巻き込んだ幅広い論議を行うべきであると訴えてきました。
 しかしながら今回のシンポジウムは、大学側から臨床実施に関する具体的な情報がなにひとつ明らかにされなかったこと、参加した障害者・市民らの発言を封じたり問題提起を無視するなど、「市民公開」とは程遠い内容及び姿勢でした。これでは、臨床実施を前提とした上で、最終的結論に向かうための単なる手続きだったのではと思わざるをえません。 私たちは、次の点について強く抗議いたします。

1.私たち優生思想を問うネットワークでは、「受精卵の遺伝子診断臨床応用の凍結を求める意見書」(1995年10月23日付)「命の価値に〇×つけないで やめろ!受精卵の遺伝子診断 集会決議」(1995年11月12日付)を送付し、着床前診断の問題点を指摘してきました。
 さらに今年1月には、「受精卵の遺伝子診断に関する話し合いのお願い」を送付し、私達の意見書に対する貴大学の返答、日本産科婦人科学会の「体外受精・胚移植に関する見解」をめぐる貴大学と学会医学倫理委員会とのやり取りと、貴大学の考えを明らかにしていただくよう求めてきました。又、開催予定だという市民公開シンポジウムについても、その意図と内容等についての説明を求めていました。しかしながら、何の返答もいただいておりません。今回の市民公開シンポジウムの日程、詳しい内容についての正式な連絡さえありませんでした。
 市民からの意見書、及び公開質問状には一切答えず、一方で「市民公開」と謳った集まりを開催するというその過程を見るだけでも、今回の「市民公開シンポジウム」がまやかしであることは明白です。

2.田中医学部長は、開会挨拶の中で、情報公開の重要性に言及した後で、「市民公開シンポジウムをもった目的は、この治療法・診断法について市民の皆さんによく知って、理解していただきたい。その上で、『私はこう思う』という点を、皆さんから私共に情報発信していただきたいということだ」と述べられました。
 しかしながら、実際に永田氏、竹内氏から発表された内容は、簡単な診断手順と臨床実施を正当化する理由だけで、貴大学が実際に行おうとしている臨床実験に伴う副作用、インフォームド・コンセントの手順や書式など具体的かつ詳細な情報は全くなく、情報公開に値しないものでした。又、この技術の当事者である障害者・患者本人や女性をシンポジストに加えてしかるべきだと思いますが、それもなされていません。さらには、障害者・市民が会場から発言を求めて挙手し続けていたにもかかわらず発言させない、あるいは発言した場合も真意を歪曲し、真剣に取り上げないなど許せない対応でした。強く、抗議します。

3.当日の参加者の過半数は、鹿児島大学医学部の学生が占めていました。シンポジウムへの参加を単位の一つとして設定し、学生を半強制的に出席させることで、あたかも多数の市民の参加を得たかのように見せようとの姑息な意図は明らかです。もちろん、この件について医学部学生に公平な情報を開示し、その問題点について考える機会を与えることは大切なことです。が、一般市民を対象と標榜したシンポジウムとは、別個に行われるものだと考えます。

4.前述の優生思想を問うネットワークの「意見書」及び質問について、この場での回答を御願いしたところ、永田氏は「どのような団体か分からなかったのと、私の名前が間違っていた。だから答えられない。」と回答されました。
 しかしながら「意見書」には、ネットワークの事務局及び連名団体すべての正式名称と連絡先を明記してありました。又、『永田行博』を『永田博』と誤記したのはこちらの注意不足でおわびいたしますが、そのために答えられないなどとは多くの市民の意見を軽視したものであり、断固抗議いたします。
 田中医学部長の回答も、「倫理委員会終了後の記者会見をもって情報公開と考えている」などの発言に明らかなように、私達市民の意見に耳を傾けようとの姿勢に欠けるものでした。誠実な対応を求めます。

5.閉会挨拶の中で田中医学部長は、「本日の公開シンポジウムの成功を踏まえて、医学倫理委員会での最終的論議に入る」旨の発言をされました。しかしながら、これまで述べてきましたように、今回のシンポジウムは、市民への情報公開という意味でも、市民の意見を聞くという意味でも全く不十分なものです。医学分野の中でも、あるいは市民レベルでももっと時間をかけて、より幅広い論議が必要です。医学倫理委員会の中で拙速な議論、結論を出すことがないよう、重ねて要望いたします。


採録:利光恵子(立命館大学大学院先端総合学術研究科
UP: 20070322 REV:
出産・出生とその前後  ◇生存学創成拠点
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