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『新しい家族のための経済学――変わりゆく企業社会の中の女性』

大沢 真知子 19980901 中央公論社,中公新書

last update: 20170426

この本の紹介の作成:岡田恵(立命館大学政策科学部3回生)

掲載:20020816

あらすじ

 高齢化、少子化の進行に伴って生産人口が減少する一方で、女性の高学歴化は進み、就業意欲も高まっている。女性の労働市場参入によって、税収は増え、家計所得が増加し、社会保障負担も減少するにもかかわらず、なぜ女性は非正規労働、補助的仕事に就かざるを得ないのか。働く女性を巡る家族関係、雇用制度、社会システムをアメリカと比較しつつ検証する。福祉政策を基盤とする新しいパラダイム構築に向けた具体的提言。

序章
第一章
女性労働者はなぜ必要か
○ 経済発展とはたらく女性の増加
○ 女性の社会進出をもたらす、見えない力
○ 日本は例外なのか
○ 経済が女性労働者を必要とする理由
第二章
変化したアメリカ女性の生き方
○ 戦前の変化
○ 戦後の変化
○ 最近の変化―揺り戻しか?
○ 家庭回帰の意味
第三章
日本の女性労働はこう変わる
○ 若い女性の将来予測、日米の違い
○ 急速な経済発展と女性の就業機会の変化
○ 世代別で見た働き方の変化
○ 就業と子育ての問題
○ 再就職のパターン
○ 高学歴化の進展
○ 高まる専門職志向
○ 労働市場の構造的な問題
第四章
日本的雇用慣行のなかの女性労働者
○ 日本的雇用慣行とは何か
○ ほかの国にもある長期勤続制度
○ 日本的経営と女性
○ 欧米社会にもあった結婚退職制度
○ 日本は若年労働力不足にどう対処してきたのか
○ 若者の労働市場の変化と教育制度
○ 情報化と高卒労働市場の変容
○ なぜ新技術は高学歴労働者の需要を高めるのか
○ 日本の教育制度の特徴と問題点
○ 日本の労働市場の変化
第五章
経済環境の変化と日本的雇用慣行
○ 成長神話の崩壊と職場の高齢化
○ 欧米に比べて安かった資本コスト
○ コスト条件の逆転と成長神話の崩壊
○ 変わる経済環境、変わらない制度
○ 非正規労働者増加の経済的要因
○ パート


序章
1997年の山一證券の倒産を経て〜
○戦後から現在にかけての日本経済の変化
戦後、企業と労働者の間に暗黙のうちに結ばれていた社会的な契約に、今大きな変化がある。
戦後、家族が安心して暮らせるのは夫の雇用が保証されているという暗黙の了解があるためで、雇用保証の見返りのために、夫は会社に尽くし、運命をともにしてき、国は企業の支援政策を行い、妻は家事労働に専念した。このため、夫は外、妻は家のウチという関係が出来上がる。
しかし現在では、日本経済も変化し、女性の社会進出も進み、共働きを前提とした個人を重視した家族関係が出来上がってきている。
○ 女性労働者を必要とする社会の到来
女性の高学歴化、就業意欲の高まり、少子化、が表面化する。日本の経済は、女性労働者を必要としているが、パートタイム労働者として扱っていることが多く、中核の雇用保証のある仕事には男性がついている。アメリカとの違い。
○ 男性中心の雇用制度の問題点


○ 時間の価値の変化
○ 家族の変化と社会保障
○ パラダイムシフト


第一章 女性労働者はなぜ必要か

○ 経済発展とはたらく女性の増加
経済発展とはたらく(既婚)女性との数との間にはU字型の関係があるといわれている。経済が発展途上で農業が中心の段階と先進的な段階とで働いている既婚女性の数が増える。(仕事の内容は違うが)
会社組織に雇われている雇用者をフォーマル部門で働いている労働者、それ以外をインフォーマル部分で働く労働者として区別している。先進国では、途上国と違って、フォーマル部門で働く女性の数が多いが、育児と仕事を同時に行うことができないという問題点がある。出生率が減ったり、離婚率が上昇したりする原因にもなっている。家族の形態の変化による、高齢化、貯蓄率の低下、
医療費、社会保険料の負担、若年の労働者不足による経済の活力が失われている現状と同時に日本経済社会は、女性労働者を必要としている。

○ 女性の社会進出をもたらす、見えない力
経済の発展は、世帯所得の上昇をもたらすだけでなく、女性の就業機会を拡大し、女性の市場賃金率を上昇させている。労市場で働けば得られる賃金が高いため、妻は家にいる時間を節約して外で働くほうが合理的となった。それは他方では、育児から女性を遠ざけ、出生率の低下につながった。女性の高学歴化も特徴である。

○ 経済が女性労働者を必要とする理由
日本、アメリカにおいても経済が発展する過程で女性の社会進出と出生率の低下といった現象は避けがたい経済変化である。経済変化には、
@産業構造の変化、
=生産の中心が製造業からサービス業へと移行し人手を必要とする労働需要が増え、女性の雇用就職率が拡大される。
A経済における労働需要の質的な変化、
=知的労働者を経済が必要としていることが、性差よりも個人差を重視する傾向にある。
B若年労働力不足、
C女性の職場参加の増大がもたらす消費や税収へのプラス効果
=生産者を重視する社会から消費者を重視する社会が景気回復につながる
D高齢化社会、
Eパートタイム就業などの労働時間の短縮、
=先進国にみられる特徴、余暇時間を増やすことは男性も女性も仕事と余暇(生活)、家族、家庭を大事にする新しい働きからが求められている。¥

第二章 変化したアメリカ女性の生き方

○ 戦前の変化
先進国では、事務職か、専門職が典型的な女性の職業。働きながら仕事を覚え、一人前になる仕事では、会社がこの費用を負担するため、短期にやめる可能性が高い女性は、事務の能力は会社の外で身につけられ、女性側も仕事を一度やめてももう一度資格や経験を生かして、働けるというメリットがあった。

○ 戦後の変化
男女雇用機会均等法。アファーマティブアクション。女性が高度に専門的な教育を受け、キャリアを積み重ねるなかで、市場生産をあげていった結果、利潤追求を目指す企業にとって、女性を雇い、その能力を活用することが経済合理的な活動になった。日本と違い、男女の賃金格差はなく、他人に家事を任し、労働市場で働くほうが合理的となった。

○ 最近の変化―揺り戻しか?
変化しているのは表面的だけで本質的には変わっていないのでは。妻が会社で昇進しても家庭での育児や家事負担は減っていない。育児や家事の負担の不公平。社会進出は増えても女性の経済的な地位は向上していない。賃金格差はまだ大きかった。入り口での男女差別は減少したが、組織の中には女性を排除する傾向。

○ 家庭回帰の意味
ゆり戻しという女性の社会進出が進みすぎた結果、離婚率の上昇、家族の崩壊、この反省から女性は家庭に回帰し始め出生率も回復した。
新しい家族の価値、すべてにおいて男性と平等を望むフェミニズムではなく、家庭と職場とどちらも大切にする生活のバランスを保った。家庭と仕事の両立を望む女性の抱える問題は、結婚相手である男性も当事者である。日本にも両立させる時代へと変化している。

第三章 日本の女性労働はこう変わる

○ 若い女性の将来予測、日米の違い
就職状況では、男女差があり、厳しい現状。結婚か、仕事かを選択しなければならないことが多い。日本では、結婚して、夫が高収入であれば苦労して就業するよりも、専業主婦になったほうがよいと考える傾向が多い。

○ 急速な経済発展と女性の就業機会の変化

○ 世代別で見た働き方の変化
世代が若くなるにしたがって独身者比率が多くなり、雇用者として働いている女性の割合も上昇。晩婚化傾向。初めての子供を産む年齢の遅れ、勤続年数が長くなる、結婚前に働く女性の数の上昇、しかし結婚出産後も働きつづける女性は少ない。

○ 就業と子育ての問題
女性の就業継続が難しい理由のひとつは仕事と子育てを両立できる環境が整っていないこと。フルタイムで働けるかどうかは親が同居しているかにかかっている。個人にあわせた保育所や環境の整備が必要と同時に、職場での働き方や、労働市場の構造に目を向ける必要がある。

○ 再就職のパターン
再就職時の職業は、条件や賃金において低位の仕事につく場合が多い。専門技術職の場合は変化しない。専門的な仕事を除いて新卒で入社する労働市場と就業中断後の再就職の労働市場には大きな差がある。

○ 高学歴化の進展
男女の差は存在。就業の中断の経済的ロスや、教育の経済効果を下がらせる。進学率の男女差にもつながる。職場の情報化は高学歴労働者の需要が高めている。

○ 高まる専門職志向
女性の働き方に大きな質的変化。個人差が大きくなってきている。若年労働者不足が今後深刻化するにしたがって、単純な専門職は派遣労働者のような外部の労働市場から調達し、大卒の女性にはより高度な専門性が要求されるようになる。女性労働者として一くくりにはできない。

○ 労働市場の構造的な問題
男性の終身雇用的な働きかたも女性の就業形態に影響を与えているが、女性の問題すべてが制度や労働市場の構造的なd問題ではない。日本的な雇用慣行も現在かわりつつある。
第四章
日本的雇用慣行のなかの女性労働者
○ 日本的雇用慣行とは何か
終身雇用、年功型賃金、企業別組合。この制度が戦後、日本の経済成長を支えて、私たちが暮らしの安心を得たもの。日本人の長期勤続の傾向を支えているのは、組織に対する帰属意識もさることながら、賃金や処遇制度によってそれを経済合理的な行動とする誘因が働いているからである。

○ ほかの国にもある長期勤続制度
採用されたことが雇用保証につながると考えるのではなくて、自分が会社にとって有益な存在となることによって、長期勤続制度を作り出すと考える。

○ 日本的経営と女性
女性を正社員として雇うからには、貢献が期待でき、戦力として使える人物であることが前提。しかし、企業の人件費による地賃金制度や処遇制度の問題が、女性を短期補助的な労働者として活用し、合理的な人事管理制度を作り出していたことにも問題がある。

○ 欧米社会にもあった結婚退職制度

○ 日本は若年労働力不足にどう対処してきたのか
○ 若者の労働市場の変化と教育制度
○ 情報化と高卒労働市場の変容
○ なぜ新技術は高学歴労働者の需要を高めるのか
○ 日本の教育制度の特徴と問題点
○ 日本の労働市場の変化

 コメント:略

……以上

REV: 20170426
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