HOME > BOOK >

『国際化時代の女性の人権――両性の平等と自立』

日本弁護士連合会・両性の平等に関する委員会 編 19971225 明石書店,AKASHI人権ブックス4
http://www.akashi.co.jp

last update: 20170426

この本の紹介の作成者:高木亜古(立命館大学政策科学部) 掲載:20020715

【目次】
はじめに
第一章 労働
一. 働く女性をめぐる法改正の基本的視点
二. 均等法の抜本改正
三. 労働基準法の改正
四. 雇用形態による差別
五. 家庭責任を有する労働者に対する施策
第二章 家族・性と生殖に関する権利
一. 民法改正
二. 養育費支払い確保
三. 性と生殖に関する権利
第三章 女性に対する暴力の実情
  一.日弁連における女性に対する暴力撤廃の取り組み
  二.女性に対する暴力撤廃のための現在までの日弁連の提言
  三.わが国の女性に対する暴力の実情
  四.行動網領における女性に対する暴力撤廃への取り組みとわが国の施策
  五.女性に対する暴力の撤廃への提言
第四章 税制・年金・福祉
一. はじめに
二. 税制
三. 年金
四. 児童福祉
第五章 教育
一. はじめに
二. 男女共学
三. ジェンダー・フリー教育
第六章 政策決定への参画
一. 基本的視点
二. 各分野の現状
三. 女性の参画の阻害要因
四. 参画推進への提言


【要約】
はじめに
・女性の権利は法的な立場から見れば、戦前に比べて飛躍的に進展し、また女性差別をなくすことは国際的な取り組みである。(p5)
・日本では男女雇用機会均等法などのが成立するなど対策はこうじられているが実効性に問題があったり等依然として性差別は残っている。(p6) 

第一章
一.働く女性をめぐる法改正の基本的視点 
@働く女性の現状…
・働く女性は年々増加しており、1996年現在では全体の4割である。しかし、女性の就労のうち3分の2が非正規雇用者(パートタイマー、派遣、契約社員等)という不安定な立場にある。(p18)
・女性の賃金は男性を100とした場合、約50強である。(p21)
・格差の背景→歴史的な女性蔑視の考えが尾をひいている。(p21)
  性別役割分担意識「女性は家庭」
A均等法改正案について…
・職場で女性が平等に働くために、女性の人権が確立されるのに役立つ法案の必要性(p24)
・均等法・労働法の改訂は女性にかかる職場・家庭責任の分析にたって男女ともに生きがいを持って働き人間らしい生活を送ることができる観点からなさらなければならない。(p27)
二.均等法の抜本改正
@均等法改正に向けた運動と到達点(p28〜p31)
A間接差別の禁止(p32)
・女性が転勤を基準とする不利益扱い「総合職」「一般職」
B積極的差別是正措置
・「過去の差別がもたらしている現在の弊害を除去し機会均等を実質的に実現・確保するための特別措置」(p34)
Cセクシュアル・ハラスメント(p35〜p37)
・セクハラは男女が平等に働く労働環境を奪うものであるので使用者はこれを防止する措置をこうじなければならない。
D救済機関
・ 「現行の救済制度は両当事者の同意によって初めて開かれる朝廷であるが、これに実効性がないことは明らかである」(p37)
E違反者に対する制裁規定(p38)
三.労働基準法の改正
@労働基準法の本質
・「最低の労働基準を法律で定め、当事者はさらに労働条件の向上を図るように努めることとされている」(p39)
A女子保護規定(p40〜p44)
・女性の保護規定が緩和されつつある。(p41)
・時間外・休日労働は諸外国に比べて多い。(p42)
・一日の就労時間の漸進的短縮及び時間外労働の短縮が必要(p44)
・深夜労働(p45〜p47)
B労働時間
・裁量労働(p47〜p48)
・変形労働時間(p48〜p49)
・労働時間の短縮(p49)
C母性保護(p50)
四.雇用形態による差別
@増加し続ける不安雇用の背景―労働の規制緩和(p51)
・「女性の労働市場への進出は、パートタイマー、派遣、契約社員、臨時社員など雇用の多様化とともに進行している。この10年間に増えた女性雇用者の3分の2は非正規雇用である。」(p51)
 A パートタイム労働(p52〜p54)
・日本のパートタイマーの特徴
パートタイマーの77.7%は有配偶者で約半数が家計のたしにするために働いている。(p53)
・今後の課題…国内法を整備する(p54)
A派遣労働
・一般派遣の9割が女性(p55)
・労働者派遣法改正と今後の課題(p56)
B契約社員等(p57〜p58)
五.家庭責任を有する労働者に対する施策(p58〜p64)
・「大きな家庭責任を負担している女性が働きつづけるために家庭生活との両立を支援する諸制度が一層充実されなければならない。」(p59)
A育児休業(p60)
B介護休業(p61〜p62)
C公的施設・サービスの充実(p63〜64)

第二章 家族・性と生殖に関する権利
一.民法改正
@ 現状
・「日本国憲法は、個人の尊厳と法のもとの平等を基本とし、家族法を個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならないとしている。」(p67)
・女性の社会進出が進む中、両性の実質的平等を求める声が高まり、また結婚観・離婚観が変化してきたため現行家族法の見直しが必要(p67)
 A 問題点
・婚姻年齢 (p68)
・再婚禁止期間 (p69)
・夫婦の氏 (p70)
・別氏夫婦の子 (p71)
・非摘出子の相続分差別 (p71)
・財産分与(p72)
・離婚制度(p73〜p74)
 B 課題と提言
・「わが国の家制度はばだまだ根深い。」(p76)
二.養育費支払い確保
@ 現状(p77〜78)
  ・母子家庭が増加、離別母子世帯の収入は一般世帯の30%程。また母親の健康破壊も著しい。(1994年)
  ・非親権者の養育費負担は極めて少なく、離別背世帯の70%程は養育費の支払いを受けていない。
A 問題点
  ・女性差別撤廃条約16条一項「男女は結婚をしているか否かを問わず、子に関する事項について親として同一の権利を有し、責任を負う。」と規定
  ・有子夫婦の離婚では主として未成年子の養育は女性の負担で、母子家庭の水準はきわめて低い。
  ・養育費をめぐる問題のひとつに養育費に関する民法等の諸規定が十分でないため、よい句碑の支払いについて具体的な取り決めをせずに離婚するケース、また取り決めをしても確実に履行しないケースが多い。(p78〜p79)
B 日弁連の活動 (p80〜p83)
C 法改正の動き・提言・ガイドライン・税制について(p84〜85)
三.性と生殖に関する権利(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)
@ 定義(p85〜p86)
 ・ リプロダクティブ・ヘルス→性と生殖に関する健康(p85)
・ リプロダクティブ・ライツ→性と生殖に関する権利
身体と性に関する女性の自己決定権(p86)
・ 女性と男性の間に性によるさまざまな不公平がある。
 A 歴史的背景(p87)
 B 問題点(p88)
 C 避妊と中絶の権利(p89〜p92)
・ 中絶の処罰と合法化(p89)
・ 堕胎罪と自己決定権(p90〜p91)
・ 優生保護法の改正と問題(p91)
・ 避妊について(p91)
・ 男女共同参画2000年プランについて(p91)
 D 不妊治療と生殖技術
・ 不妊治療はもっぱらよいこととされていたが、不妊治療は何がどこまで行われているかが不明確(p93〜p94)
・ 生殖技術に関する法的問題(p95)
T 「赴任治療の行うことのできる施設を制限」
U 「生殖技術により出生子供の人権との関係では、誰が親なのか、自分の出自を知る権利はどうなるか。」
V 「事実上本人の承諾なしで行われていると考えられる実際の人間の受精卵を使った実験は許されるだろうか。」(p95)
  ⇒何がどこまで許されるかを議論する必要性がある。」
 E 性教育(p96〜p98)
・ 「性教育の内容は、妊娠・中絶・避妊の正確な知識を教えるとともに性的な役割分担の見直しを含む対等な男女関係のあり方をないように含むものでなくてはならない。」(p98)
・ 「少女たちの性が以前より一層商品化されている。」(p98)
・ 「性教育とともにHIV/AIDSに関して、日本でもジェンダーの視点にたったエイズ教育が行わなければならない。」(p98)

第三章 女性に対する暴力の実情
一.日弁連における女性に対する暴力撤廃の取り組み(p101)
二.女性に対する暴力撤廃のための現在までの日弁連の提言(p104)
・ 女性に対する暴力を根絶するべきである
・ 暴力を撤廃するための政策・法的措置が早急に求められる。
@夫婦間暴力(p104)
Aセクシュアル・ハラスメント(p104)
B強姦(p106)
C人身売買(p107)
D観光売春ツアー(p108)
E従軍慰安婦問題(p109)
三.わが国の女性に対する暴力の実情
@実態
・ 女性に対する暴力として、夫による暴力、セクハラ、強姦、ポルノ、人身売買、売春ツアー、軍事的性奴隷が問題とされているが、これらが女性に対する人権侵害であるとの認識はまだまだ乏しい。(p110)
四.行動網領における女性に対する暴力撤廃への取り組みとわが国の施策
@女性に対する暴力の定義(p117)
・ 「起きる場所の公私を問わず、女性に肉体的・性的又は心理的な傷害もしくわ苦しみをもたらすおそれのある、ジェンダーに基ずくいかなる暴力をも意味し、例えば、家庭内暴力、性犯罪、セクシュアル・ハラスメント、売買春等を含み、さらに、そのような行為をすると脅すこと、強制又は自由の恣意的な略奪も含む」(p117)
A戦略目的ととるべき行動(p117〜p119)
B「男女共同参画2000年プラン」におけるわが国の実施政策(p119〜p120)
・ 施策の柱「女性の人権が推進・擁護される社会の形成」のなかに「女性に対するあらゆる暴力の根絶」と「メディアにおける女性の人権の尊重」を位置づけて、それぞれの具体的施策を展開(p120)
五.女性に対する暴力の撤廃への提言(p122〜)
@課題
・ 実態把握のための調査研究。
・ 暴力の防止・救済機関
・ 裁判所における性に基づく偏見の撤廃〜ジェンダーバイアスを取り除く
・ 憲法規定の抽象的な男女平等、個人の尊厳の学習にとどまることなく、女性に対する暴力根絶のための具体的な内容を盛り込んだものでなければならない。(p125)
A夫からの暴力(p126〜p131)
B強姦(p131〜p138)
・ 女性の性的自由や性的自己決定権に対する重大な侵害
C基地と女性に対する暴力(p135〜p138)
・ 1995年9月4日沖縄で起こった米海兵隊による少女強姦事件
D従軍慰安婦(p138〜p149)
・ 軍事内部または軍の管理下に性処理目的で置かれた女性。女性を男性の性に奉仕する「モノ」とする
・ 日本は慰安婦に対して処罰義務を果たしていないことを理由に賠償義務を負うとの考え方があり、今後さらに検討が必要。
第四章 税制・年金・福祉
一.はじめに
  ・ 男女共同参ビジョンより「男女に中立的に見える法律や制度であっても、それらが社会の中で実際に機能した結果として、女性に対する差別や男女の固定的な役割分担の維持・強化につながることがある。」(p163)
  ・ そして男女共同参画2000年プランにおいては「税制、社会保障制度、賃金制度など、女性の就業をはじめとするライフスタイルの選択に大きなかかわりを持つ諸制度・慣行についてさまざまな世帯形態間の公平性や諸外国の動向などにも配慮しつつ、個人のライフスタイル選択に対する中立性の観点から総合的に検討する。」と規定されている。(p163〜p164)
二.税制
 @ 税制の現状と問題点
・ 現在の日本の税制は、基本的に個人単位なので制度自体に男女の差はない。しかし実際は「男女が外で働き、女性が家事・育児を担い補助的に外で働く」という世帯を基本としているので実質的には個人単位から世帯単位に修正されている。(p164)
・ 給与所得者の税制
  T 高額所得者ほど有利である
 U 共働き夫婦は妻が141万を超えて働くと家事等の「内助の功」
は評価されない。税制上の優遇措置がなくなる。
 V 控除制度によって女性が直接的利益を受けることができない。
 W 家族のプライバシーが侵害される。
 X 性別役割分担を助長する結果になっている
  ・ 事業者の税制
家族事業者の税制は原則として給与は経費にならず、例外的に経費と認められるにすぎない。
・ 寡婦・寡夫控除の問題
  夫と死別・離婚した女性は税制上優遇され、逆に非婚の母は最も高い税制を課している。 
 A まとめ(p171)
  ・ もっとも優遇されるのは「婚姻届を出した法律の家族」
 だから必然的に「男は仕事・女は家庭」という性別役割分担を固定化することになっている。
→制度の見直しが必要
三.年金
  @ 現在の年金制度の概要[1997年](p172〜)
・ 公的年金制度は被保険者が老齢になったとき、障害になったとき、または志望した時に年金給付を行い、被保険者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上を図ることが目的
  種類は三種類@)第一号被保険者A)第2号被保険者B)第3号被保険者
  A 現在の年金制度の問題点と提言(p173〜p179)
・ 年金の問題点(p173)
  T 女性年金の抱える問題(p173〜p174)
i)男性に比べ低い
A)第3号被保険者は納付なしに年金の受給権が与えられる。
B)高齢離婚・元パート・元専業主婦は就労を継続した元夫の年金額に比し、著しく低い給付
C)妻が夫に扶養されていることを前提とした遺族年金のありかた
・ 働いていた女性の年金額の低さ(p174)
・ 第3号被保険者の取り扱いについて(p175〜p176)
・ 「年金の分割」について(p176〜p177)
・ 遺族年金のありかた(p178)
 B まとめ 
・ 「ライフスタイル選択の多様の中で、加入者間の公平・労働供給を阻害しないこと、長期的財政の安定などを考慮し、世帯単位ではなく、個人単位の年金制度に改革していくことが必要である。」(p180)
四.児童福祉
 @ 総論(p181〜p183)
 ・ 男女共同参画ビジョンは「育児については社会が支援するものであるから、子どもが健やかに生み育てられる環境を整備し、仕事と両立が図られるように努めなかればならない」(p181)
A 児童福祉施施策の変遷(p183〜p186)
B 児童福祉法改正の動き(p187〜p189)
C 女性の権利と保育システム(p189)
D 児童扶養手当(p190)
第五章 教育
一.はじめに
 ・ 男女共同参画ビジョンより「家庭、学校、地域、職場で行われている教育や学習は人々の意識に男女の平等や女性の人権の尊重を寝づかせるとともに、女性が社会のあらゆる分野で力をつけ、その責任を果たし、また男女が家庭・地域にも主体的に参画していく上できわめて重要な役割を持つ」(p197)
二.男女共学
 @ 普通科ならびに普通科を含む総合制高校における問題点
三.ジェンダー・フリー教育
 @ 教育における男女平等(p208)
 A 隠れたカリキュラム(p209)
 B 教科書における男女平等(p210)
 C ジェンダー・フリー教育の必要性(p210)
 D 自治体・海外の取り組み(p211)
 E 提言(p212)
第六章 政策決定への参画
一.基本的視点
 ・ 「憲法は人権及び法の下の平等を保障し、われわれが賛成権等を有することをうたっている。また女性差別撤廃条約は、締約国に対して、あらゆる分野における女性差別を撤廃し、両性の平等の実現を確保するように求めている。したがって、女性が平等に政治・経済などの社会的分野に進出し、政策決定に参画することは当然のことである。だが現実にはほとんど実現していない。」(p213)
 ・ 「政府は政策決定における両性平等の実際的実現を確保しなければならない。」(p214)
二.各分野の現状
 @ 政治
  ・ 女性の政治的意識は男性に比べて投票率も上回っており、高い。
  ・ 国政への参画状況は衆議院議員が4.6%。参議院議員13.5%
[1996年10月現在](p216)
  A 司法(p214〜p221)
・ 司法試験合格者・裁判所・検察官・弁護士・弁護士会
  B 行政(p222)
・ 国・地方
  C 企業(p224)
  D メディア(p225)
E 労働組合(p226〜p227)
三.女性の参画の阻害要因(p228)
 @「性別役割分業意識がつよく、しかもこれを支える税制・年金制度であること」
 A「育児・介護などの家庭責任に関する男性の分担と社会的支援体制が不十分である。」
 B「男性中心の組織運営であること」
 C 政策決定における女性の参画が先進諸国中最低であり、途上国と比較しても低い。
四.参画推進への提言
・ 「性別役割分業を打破し、女性が社会進出を果たすにはジェンダー・フリー教育のみならず、社会的・経済的枠組みさまざまな方策で変革せねばならない。」(p230)
・ 仕事をしながら安心して子供を産み育てる条件整備、労働時間を短縮し男女ともに家事・育児・介護を担える制度を充実していくことが基本である。また、男性の家庭責任分担にたいするポジティブアクション(男性を家庭や地域へ、女性を社会へ)とそれぞれを参画誘導していくことが大切である。

……以上……

REV: 20170426
日本弁護士連合会  ◇フェミニズム (feminism)/家族/性…  ◇2002年度講義関連  ◇BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)