『ALSマニュアル――ALSと共に生きる』
アメリカALS協会
The ALS Association 1997 "Living with ALS : What's It All About ?",
The ALS Association
=19971201 遠藤明訳,『ALSマニュアル――ALSと共に生きる』,
日本メディカルセンター 1800円 ※
□補助呼吸の種類
「人工呼吸器は携帯用の器械で、肺の運動を補助し、呼吸するのを助けます。ALSの進行を止めるものではありませんが、あなたが移動するのを助け、呼吸する能力について思いわずらう必要がなくなります。このような器械は車椅子にバッテリーでつけることができ、ほとんどどこへでも行くことができるようになります。
このようにした人たちは、とくに家庭で生活できる場合は、生活の質に満足しています。家庭で15年も呼吸器で生きている患者がおり、他に重大な病気が起きなければさらに長生きします。家族は通常この選択を支援しますが、介護の負担は相当なものになります。
アメリカでは、5〜20%のALS患者が人工呼吸器を計画的につけます。医師が人工呼吸器をつけさせた経験があると、この割合は高くなります。これまで(p.121)は多くの患者が事前の計画なしに、緊急入院の結果として人工呼吸器をつけています。たまたまそうなったというわけです。
何が自分にとってもっともよい選択かをあらかじめ決めてください。緊急時に決心しないでください。生命を支える人工呼吸器は1日ほとんど24時間続けられ、自立呼吸はわずかの時間か、もしくは全くなく、人工呼吸器なしでは生きられません。
もういらないと決心すれば、呼吸器は外され、安らかに過ごすための薬を使うことができます。多くの患者は気管切開を伴わない人工呼吸器だけを使います。そうでない人は永久に人工呼吸器を使い続けます。」(pp.121-122)
□人工呼吸器について決心する
「人工呼吸器をつけるかどうかを決心するのは困難なことですが、あらかじめ選択肢をよく考えたうえで計画すればあわてずにすみます。この節では様々な選択肢と補助呼吸について説明します。次に掲げるのはあなたが考えるべき選択肢です。
・人工呼吸器を使わない。代わりに必要に応じて苦しみを和らげる治療を行ったり、薬を飲んだりします。呼吸症状が始まったらホスピスケアを求めるのもよいでしょう。
・自立呼吸に戻れる見込みのあるときだけ一時的に人工呼吸を使う。たとえば風邪をひき、肺炎になったようなときです。数日間集中治療室で過ごすことによって元の元気で自立した生活に戻れるなら、人工呼吸器を使います。通常気管切開は必要ありません。
・連続して人工呼吸器を使う。あなたが活動的ならこれは適切な選択肢です。しかし、医師と話し合って回復不可能な昏睡状態に陥ったようなときには生命維持装置を外すという制限をつける人も大勢います。ALS患者の中には、気管切開を受けずに非侵襲的な人工呼吸だけを使う人もいます。鼻のマスクを使って補助呼吸を行い、数ケ月から数年生きる人もいます。(p.127)
1.考えなければならない要因
必要な情報と忠告を医師にもらった後、あなたは人工呼吸に関する決心をしなければなりません。あなたは家族のこと、得られる社会資源のこと、長い病院生活の可能性を考慮しなければなりません。
家族や友人は、誰かがいつもそばについている決断をしなければなりません。家族であなたの世話をする人は、必要なことをよく覚えておき、自分のことを後回しにしなければならないこともあります。とりわけ家族はあなたのケアをする決心をしなければなりません。負担は非常に重いものです。在宅ケアを調整して、一人の人にだけ重荷を負担させないようにします。
もしケアがうまくいけば、人工呼吸器を使っているALS患者は何年も生きます。ジャックは何年も家庭で人工呼吸を行っています。彼の24時間のケアは家族に非常な努力を強いますが、家政婦も雇っています。
ソーシャルワーカーはどのような支援が得られ、障害年金などがもらえるか教えてくれます。あなたは、在宅ケアに何が必要かを決め、健康保険、地域の支援団体、家族の蓄えを確認します。介護者が得られないなら、家庭での人工呼吸は現実的ではありません。しかし、援助をさがせば得られることもあります。在宅ケアが無理でも病院でなら人工呼吸を受けることができます。在宅で人工呼吸ができないなら、人工呼吸を選択しない人もいます。
長期の人工呼吸を始めようとするときに考えなければいけないのは次のようなことです。
・医師はそうするよう勧めていますか。
・あなたと家族はそう望んでいますか。
・必要な資源、とくに世話をしてくれる人がいますか。
・あなたと家族、友人は必要な技術を学ぶことができますか。
・長期の人工呼吸の費用をまかなえますか。
・家庭で暮らすことができますか、病院にいなければなりませんか。
この決定は非常に個人的なものです。現実に根ざし、他人への負担を考え、自分の生活の質の低下を考慮しなければなりません。人工呼吸器がなければ長くは生きられませんが、呼吸不全が起こったときに薬を飲んで苦しみをやわらげ、ホスピスのサービスを受けることもできます。
2.在宅人工呼吸
在宅人工呼吸を行う決心をするときには、次のことを確かめてください。
・生きることに希望を持っている。
・病状は安定的かつゆっくり進行している。
・少しは日常生活のことができる。(p.128)
・意思伝達することができ、必要なケアを指示できる。
・あなたと家族はこの選択肢をよく理解している。
・家族は必要なときに助けてくれる。
・装置と介護者の費用をまかなえる。
・経験ある医療チームがいる。
・非侵襲的人工呼吸を試してみることができる。
次のようなことがあれば、在宅人工呼吸はやめた方がいいかもしれません。
・機能障害が高度である。
・意思伝達がよくできない。
・生きていく気持ちが少ない。
・精神状態がはっきりせず、自己決断できない。
・介護者がいない。
・必要な費用をまかなえない。
・経験ある医療チームが得られない。
・非侵襲的人工呼吸を試しに使ってみる能力がない。
在宅人工呼吸で起こりうる問題
・生活の質が落ち、威厳を失う。
・5〜10%のALS患者は、意思伝達できない状態に陥る。
・入院生活を送らなければならないかもしれない。
・家族の生活が破綻するかもしれない。
・費用が膨大になるかもしれない。
・医療や地域の資源の負担になる。」
この部分は「自己決定」→「言説 医療・米国」で引用
●立岩の文章における言及
[205]人工呼吸器をつけた「人たちは、とくに家庭で生活できる場合は、生活の質に満足しています。家庭で十五年も呼吸器で生きている患者がおり、他に重大な病気が起きなければさらに長生きします。家族は通常この選択を支援しますが、介護の負担は相当なものになります。/アメリカでは、五〜二〇%のALS患者が人工呼吸器を計画的につけます。医師が人工呼吸器をつけさせた経験があると、この割合は高くなります。これまでは多くの患者が事前の計画なしに、緊急入院の結果として人工呼吸器をつけています。たまたまそうなったというわけです。/何が自分にとってもっともよい選択かをあらかじめ決めてください。緊急時に決心しないでください。生命を支える人工呼吸器は一日ほとんど二四時間続けられ、自立呼吸はわずかの時間か、もしくは全くなく、人工呼吸器なしでは生きられません。/もういらないと決心すれば、呼吸器は外され、安らかに過ごすための薬を使うことができます。多くの患者は気管切開を伴わない人工呼吸器だけを使います。そうでない人は永久に人工呼吸器を使い続けます。」(The ALS Association[1997=1997:121-122])