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第14章「どうやって民間で合意を形成していくか」


last update: 20170426


第14章

どうやって民間で合意を形成していくか

                               Takehira, Kenichi
                                 竹平 健一

 『NPOが変える!?――非営利組織の社会学(1994年度社会調査実習報告書)』第14章

「みんな住宅展示場に行くでしょう。あそこに行くと家が建っていて,自分の生活スタイルに対するイメージが描けるわけですよ。鍋・釜を買うように住宅を選びに行くわけです。自分のイメージを確認しに行くんです。そういうはなしじゃなくて,地域で時間をかけて,自分たちの地域や環境のイメージを作っていこうとする努力をしよう。だから住宅展示場に行って選ぶんじゃなくて,自分たちで一緒に作っていくという方へ方向転換をしようと私たちは考えるのです。」(小俣氏)

 住環境は,我々の人間性にまで大きな影響を与えるものである。しかし,近年人々の生活様式の変化とともに,居住地が非常に移住性の高いものとなり,住民の住環境に対する愛情が薄らいできているのではないか。そのような中で生まれてきた,統一性のない住居様式やコミュニケーションをもちえない近隣関係は,住居がもはや個人空間をパッケージする器であって,自らの所属する集団への媒体ではなくなっているということを意味する。
 そういう中で現状を危惧し,住民自身の手によるまちづくりを支援する民間ボランティア団体が各地に出来てきている。彼らの運動のテーマはイメージの共有であり,それにより,住民総意型のまちづくりを推進している。
 本章で見たいのは,まちづくりに対して民間組織がどこまで可能性を持っているのかということである。行政が半強制的にまちづくりや街並み作りを推進することはよく聞くが,それは強制であるからこそうまく行くのではないのか。比較的社会的にも善であると認められていて,総意型の賛同がえられやすい福祉等のボランティア活動と比べて,まちづくりは単一の方向性で住民一致を図るのはかなり難しいだろうし,秘めている問題も複雑なのではないか。
 強制力を持たない民間組織がどのように住民の間に溶け込み,住民の合意を形成していくのかという手法,また組織が抱える問題を,インタビューを通してみていきたいと思う。インタビュー中に出てくる小俣氏は「せたがや街並作り支援ハウス」の,野村氏は「集合住宅デザインハウス」の代表である。(両者の概要については第13章)

T 共有できるイメージを作っていく

 我々の普段の生活でまちについて考える機会はそうない。住民一人一人は住居に対する理想・要望を明確に持っていたとしても,総意の形でのまちに対するイメージは表面化して来ない。しかし,まちづくりというものは,地域内の大多数の住民参加が必要なものである。どうやって,個々が考えるイメージを提示してもらい,まとまりのある形を作っていくか。ここでどのような手法が用いられているのだろうか。
小俣「反対反対で一つの建物にすごく目がいってるでしょう,この建物をやっつけなくてはいけないとね。その時に僕らはふっと目をそらしたんですよ。自分が被害を被る可能性があると同時に,いろんな人が同じような境遇になっちゃうんじゃないかと思ったんです。全体で考えて急がば回れだよね。周りから状況作り,それをしないで直接やると,なかなか周りの人が協力してくれないと思うんだよね。(建築協定の際は)はじめ北側だけで反対運動をやっていて,それを南側の全然被害の無いような人のところまで話を持っていった。それは僕が被害者であるから言っているのではなくて,あなたのところだってここに空地がありますよ,狼が来るじゃないけど,みんな同じじゃないかと,それが理解できただけのことなんですよ。それで今回そういう地道な積み上げで,小さな地域だからそういう積み上げができたと思うんですよ。 365日ひざを突き合わせて話しましたから。」

 まちというものを普段から強く意識している人はそういないだろう。そこに起こりうる問題もあまり意識はしていない。危機感が,まちに対して何かしらの意識を持つきっかけになる。危機意識が浸透し,お互いが自分のまちという意識を持つことで,共通の仲間意識が生まれ,まちに対する積極的な姿勢も生まれてくるであろう。ただここで言われているのは,問題が起こった時に,問題が起こった場所をどうかするというだけではなく,それがどこにでも起こりうることであることを自覚してもらうことによって,まち全体のあり方を考えていくきっかけにしていくということである。

小俣「やっぱりお互い自分たちの地域のイメージをお互い時間をかけて作って行く。ただ何年度の予算でここまでやらなきゃならないというのではなくて,それこそやはり労力のかけかたは違うけど,長い時間をかけて共有していくということかな。」

小俣「我々のメンバーの不動産屋は(一般の)仲介も担当しているけれども,処分していくという方向で物事を考えるんじゃなくて,そこにその人を住まわし続けるにはどうしたらいいかという考え方なんです。確かに処分してしまったほうが得な場合もあるかもしれない,でも住むということを前提としていれば,少々損をしてもこういうふうにしたらいいということでアドバイスしていく。一番得する方法を教えてくれと言われれば,不動産屋ですから普通は「こんなとこ住まないで売ったほうが得ですよ」と言うよね。でもそうではなくて「Aさん(家を売れば)3億得られるけど,ここで築いた人間関係はそれ以上の価値があるよ,どっちを選ぶ」と言えるようにと僕らのメンバーは思っているんです。」

 何年後何十年後のことを考えるとまちづくりに対する意識は全く違ってくると彼らは話した。現状だけを考えるのではなく,ずっと住み続けることを考えてもらうこと。その中でまちづくりに対するイメージを作っていってもらい,共有していく。個別の問題だけを見ていくと利害の一致はなかなか見出せない。将来を考え,地域全体のプランを考えていくことによって,合意を形成し,そこから個別の課題を見ていくことによって,全体として調和したまちづくりが可能になるし,深刻な対立も生じにくくなる。
 そのためには,長い時間をかけて粘り強く話し合うことが必要とされる。ここで民間組織の強みが現れている。短期的な結果を気にせずに,じっくりと問題に取りかかることができるという点である。行政が強制力を発揮して行うまちづくりでは一定の成果はあげられるが,元来まちというものは住民のものであり,まちづくりは住民総意の形またはそれに限り無く近い形が望ましい。これを可能にするのは,十分納得のいく話合いと住民相互の信頼関係の中から生まれたまちづくり運動であり,民間組織の行うまちづくりこそその理想型になりえるのではないか。

U 一人一人に合わせて対応する

 まちづくり運動は集団での目的達成をめざすが大方の一致を得られる方針を作り出すのは難しい。それに対応した一つの手法をTに見たが,それでもなお,さまざまな個々人の事情や思惑がある。運動の趣旨が自分の利益でないと判断したものは,当然運動への反対者となるであろうし,損益併せ持つものは無関心を装うかもしれない。他に事情があってまちづくりに関心が向かわないこともあるだろう。活動家はどのようにして,住民個々人の要求を調停し,ある場合には抑制し,参加を促し,合意の形成を促しているのだろうか。

 1 外郭者の取り込み

野村「大事なことはサブリーダーの養成だろうね。リーダーの養成ではないんだ。実はサブリーダーなんだ。この人はこういう人材なんだなと目をつけて,この人にこれをやってもらいましょう,あの人にはこれをやってもらいましょうとバンバン言ってしまうんだよね。摩擦は生じるよ。生じるけども,大事なことは,そうやって核の外郭にいる人たちを汲み出すことなんだよ,中心軸にいる人でなくて。外郭の人材を掘り下げて,この人たちに問題意識をもたせて,団地の中にネットワークを作り出す。そうすると問題が共有化できるわけ。… ある人から見ると,いつもウダウダ話してばかりだと言うかもしれないよ。でもそれが大事なんだよ。今日のご飯はなにとか,肝心なことをしゃべる前にあちこちぐるぐるしゃべるんだ。だけど見てるんだ,その人はリーダーになれそうかどうかを。どんどんしゃべらせて,何を考えているのか聞き出したりね。だから全然まちづくりの話をしなくてもいいんだよ。団地内の草花とか,そういう知識も必要なんだ。」

 まちに対する意識が高く,よりよい方へと考え,引っ張っていく人もいる。しかし,まちづくりを行うに当たっては,その他大勢の外郭にいる人達に問題を気付かせ,話合いの場に参加させることが必要である。野村氏は地道な対話の中からその人の考えていることを見抜き,サブリーダーという役割付けを行って,外郭の人を取り込んでいる。この手法を用いた場合,反対者の場合でもただ参加せずに反対しているのと違い,参加者からの意見として反対が出るわけだから,まちについてお互いがもっているイメージが明確化し,討議されることによって共通の理想イメージが形成されるようになる。そうしてえられた共通イメージがその実現のための行動力を生み,まちづくりを活性させるのである。
 2 無関心者の取り込み

小俣「反対の人たちと,どうでもいいという人たちの家庭状況をいろいろ分析したんですよ。つまり住民の境遇別のグループを作ったわけなんです。… 建築協定がいいとか悪いとかという話よりも,自分自身の今の心境・境遇が,あなたたちと一緒に(まちづくりを)やれる状態ではないんだと線を引かれるんですよ。そこに長く「住む」ということをキーワードに僕らはまちづくりというものに関わってまして,そのために僕らは反対運動をしてきたわけです。だから未亡人の人たちにも,安心してここに住んでもらうために,未亡人の持っている悩みというものを解決しないとね,理想のまちづくりなんてことを言ったって賛成してもらえないと考えたわけです。じゃあ,いったい未亡人の人たちっていうのは,何に不安があるのか,ということを未亡人グループを作って,未亡人だけのところへ,弁護士さんだとか他の都市計画の人というわれわれ(せたがや街並作り支援ハウス)のメンバーが行って,お茶を飲みながら話をしたと。それでその未亡人は,自分が死んだあとの土地の問題だとか,相続問題とかそういう財産のこととか法律のことにすごく悩んでいて,心配しているんですよね。ですから,ああじゃあそういうところには弁護士に行ってもらおうとか,その人の悩みを解決してあげることで少しずつ我々と心を打ち解けて行けるようになったんです。だからはじめから「建築協定」と言って,それで最後まで押しまくって,まちづくりに賛成か反対かと迫ったわけではなくて,急がば回れという言葉がある通り,自分自身一つ一つの問題を解決しながらいろんな人と話をして,勉強してまちづくりというものに参加すれば,自分自身も豊かになるだろうと,そして安心して住めるだろうという実感をもってもらったんです。」

 誰もが,住みよいまちを望んでいるだろう。しかし同時に誰もが様々な問題を抱え,まちづくりの優先順位は低くなっている。特に相談する相手の少ない老人や未亡人といった人たちにそれは顕著である。そこで,一つ一つの問題を共有し,解決の手伝いをすることにより,少しでもまちに対して関心を向ける余裕をうみださせようとする。世田谷まちづくり支援ハウスでは,多彩な専門家集団を活用して,住居のことに限らずさまざまな身の上相談を聞き,それについてともに考え解決することによって,信頼を得,まちづくり運動を推進してきた。彼らの具体的な活動成果は,世田谷区内下馬地区での建築協定(→第13章)であるが,これを締結するために,彼らは1年間の月日を要している。つまり,それだけ足しげく通い,打ち解けることによって初めて,核心に迫ることができたのである。

 3 反対者の説得

小俣「絶対反対という人たち,例えば業者とつながっている人や金をもらっている人はいるわけですよ。そういう人というのは,声が大きくて,恰幅いいように見えて,みんなの前で真っ先に発言して,奥さん方を押えつけちゃうような威力のある人なんだけど,いるんだ,政治家みたいなね。そういう人にはそれ以上のそういう力を持っている人,だから私は政治家を知っているんだとかね,そういう権力を振りかざすような人にはもっと権力をもっている人を連れてくる。僕は人間には必ず弱いところがあるんじゃないかと考えたんだよ。絶対反対って言っている人だってだれかとは仲間になりたい,同意したいんじゃないかと。だからそういう権力を振り回す人には,もっと権力を持っている人たちを連れてきて,「まあ君,もっと話を聞いてやりなさいよ」というように言ってもらった。だから,だれがだれに弱いかを発見して,その人間を連れてきたということが突破口になっていったわけです。」

 賛成者がいれば反対者がいる。それゆえまちづくりを推進していくのは難しい。ここで,小俣氏等は,あえて自ら進んで説得をするという立場を取っていない。つまり彼らは,地域の人の感情・境遇を把握したうえで,その人一人一人にみあった人を連れてきて,すこしでも対話する機会を設けようとしたのである。反対者・無関心者の立場から言えば,ただまちづくり何とかグループのメンバーで,運動の真っ先を走っている人から「お前は間違っている,あんたの言ってることはおかしい」と言われても納得して賛成の方向に進む可能性は低いだろう。そこで彼らは,このグループの外部にいる,その人にとって重要な意味をもつ人に依頼し,話をしてもらった。反対している人は,自分が反対している当の相手に説得されるのではなく,別の立場の,しかも自分にとって重要性を持つ人から話をされることによって,提案を受け入れやすくなる。

V 専門家として

 ここで取り上げている2団体は,ともに専門家としてまちづくりに携わっているのだが,いきなりまちづくりの専門家というものが現れても,一般の当事者はそれをどこまで信用できるだろうか。特に専門家が当事者でない場合,まちの問題に対して専門家は部外者であり,住民は簡単に信頼を寄せてはくれないであろう。彼らは,コンサルタントとして活動していくに当たって,どのような理念をもち,具体的な活動を行っているのか。
 重要なことは,彼らは決して自分たちが中心になってこれをこうしたいと主張してきたのではないということだ。野村氏はだれかがいくら尻をたたいてやったところでそんなまちづくりは成功しないと言い,あくまで住民の協調型自主運営を求めている。
 ただれそれは,ほおっておけば意見が出て,プランがまとまっていくということではない。住民が参加し,次第に合意を形成していくプロセスに対する援助がなければ,まちづくりは進展しにくいと考えている。そしてその援助には(いわゆる「建築家」としてのではないにしても)相当の専門的な技術が必要なのだと,そしてそれを提供するのが自分達だと考えているようだ。

野村「その時になってどうしようといっても遅いんだよ。利害が出ちゃっているから,建物を建てること自体が嫌だとかさ。でっかいのが嫌だとか。言ってみれば,地域エゴだとか,自分自身のエゴというものに問題は発展していくでしょう。その時にどうしようといっても個人的な問題に入っていくんだから問題は解決していかないよね。だから私が言っているのは,できるだけ最初から全体のプログラムを組む。そして全体のプログラムを見て,いつの段階から入っていけばいいのか,どんな内容で入るのか,出会いの形から入っていくのはいつごろどうやったらいいか,参加の形態はどうやって引っ張っていったらいいのかとか……」

 野村氏はまちづくりの専門家として住民の中に入り込む際,「人間関係のデザイン」を重視してきた。つまりどこで住民にまちづくりを意識させるかということから,いつ参加を促すきっかけを与え,どのあたりから具体的な問題に取りかかるのかというところまでを前もって計算しているのである。そしてそういう全体のプログラムを組むことによって,段階的な住民の信頼を獲得していく。Tでも見たことだが,「その時」になってからでは遅い。遅くならないためには,全体を見通したプログラムが必要なのである。
 住民の参加を促すための手法も用いられる。集合住宅デザインハウスでは,単なる会議や会合ではなく,ワークショップ(→第13章)という形をとり,住民をいかに参加させるかをうまく考えたプログラム(例えば自分たちが住んでいる周辺の音をテーマに歩き新しい方向から自分の住居を考えたり,その人の持つまちのイメージを工作にするといった試み)を行っている。また定期出版物を発行したりして,コミュニケーションの充実を図っている。彼らは住民が参加しやすいプログラムを組む。彼らが参加することに慣れ,住民の自主的な運動が展開していくことを期待しているのだ。つまり自分たちはきっかけを与えることに専念しているともいえる。

野村「大事なのは,今何をしているかだ。肩書きなんか関係ない,相手にしてくれないよそんなの。私は東大を出て都市工を出ましてこうやってこうしてますってことを言えば言うだけしらけてくるよ,そんなの。そんなことをしょっちゅう言っていると癖になって,自分のことを客観的に見ることができなくなるんだよ。現場と離れちゃって。現場というのはもっとドロドロしたもので住民と一体になることが大事なんだよ。」

 野村氏はある大学で講師をやっており,また建築家でもあるため,ある意味では権威を持った立場にある。そこでその肩書きをまちづくり運動の際に利用するのか,という質問者の問に対する野村氏の答えが上である。このように専門家は,自分がまちづくりの中心であるという意識を持つことは必要ない。彼らに必要なのは住民間の潤滑油になることである。そして住民の組織作りを手伝うという気持ちであり,肩書き,権威等々によってではなく,あくまで実践において住民の信頼を得ようという態度である。

W 時間とお金という問題

小俣「自分の仕事を僕は1年間やりませんでしたからね。僕は10日かけて何か一生懸命やっていると1日くらいは人は来てくれるだろうと思いました。自分は昼間仕事しててさ,人に昼間ただで来いって言うわけにはいかないですよね。やっぱり自分が犠牲払っているということを人が見れば,だれか助けてくれるだろうというところはありますよね。」

 小俣氏同様,野村氏も「(活動に捧げる)時間はすべてだ」と語っている。住民の間の合意を徐々に形成しながらのまちづくりを行おうとすれば,それに中心的に関わる人の普段の経済活動が困難になるほどまちづくりには時間がかかるということだ。

野村「割に合う合わないというのとは違う分野の話だろうね。コストのことを考えると全  然割に合わないだろうな。… 自分がこういうのが必要だと思い込んでいるから,そういうことが割に合わないと考え出すときりがないんだよ。自分の預金を切り崩してまでやっているわけだよ,今までかせいできた金をね。必ずいつか何かになるんじゃないかというような夢みたいなことをしているのかもしれないけどさ。自分の生活を切り崩してたってこれは自分にとって大事であると思い込んでるわけ。」

小俣「僕らにも悪いところはあるね。今ボランティアみたいになっているけど,専門家は専門家として堂々とお金をとって言わないと,責任をもったことも言えないんだよね。職能としてアドバイスすることやコンサルトすることにお金を取ることになれていないんだよね。情報とか知識を与えてお金をもらうことになれていないんです。その辺が自業自得になっているんです。お金に関しては本当に歯にものが挟まったようになるんですけど。」

 この活動は,お金を得られるからやるというものではないし,お金を得られないからやめるというものでもない,と言う。しかし,生計をたてるための仕事の時間も削り,この活動自体のためのお金もかかる。両氏が所属する2団体は,共に公益信託「世田谷まちづくりファンド」(→第13章)から助成金を得ている。しかし,それは活動を行うにはまだまだ十分ではなく,彼らの経済的負担はかなり大きい。
 小俣氏はいずれはコンサルティング業務の報酬という形で資金運用をしていきたいと言う。職能とそれに対する報酬という形をとり,仕事には責任も負うというかたちができることによって,信頼も獲得されていくと考えている。しかしまちづくりの専門家に対する認識はいまだ低い。

小俣「まちづくりということをひとこと言っただけでみんなが金をバンバンくれるように  なればと思う。NPOじゃないけど,地元の企業や銀行が地元で得たお金を地元の環境作りのために還元したり,建築協定地域のように5階建てられるのにあえて3階にするという地域には5階6階建てている地域よりも税金を安くしてあげるとか,建築協定地域やそういう協議会のできた地域には優先的な融資がされるとかいう,飴と鞭をあげないとだめなんじゃないかと思います。そうしないと,今は土地は金なりみたいになっているでしょう。」

小俣「行政のほうがなにか財団を作ったりね,建築業界がまちづくり融資財団みたいなのを作ってお金をもらうっていうのも業者のほうが大変だよね。何かそういうお金のルートを作らないと僕らみたいなボランティアはねえ…」
−「ではアメリカのNPOのように個人からの寄付も考えていらっしゃいますか。」
小俣「建築協定の 500人余の住民から会費を集めてもいいかなと考えています。その辺は思案のしどころなんですよ。でも国民性が違いますよ。地域でまちづくりをするときにお金を出すというような訓練はされていないよね。本当に大変です。そういうときに企業とかが先行投資でお金を出したりね。だから本当に見通しはないんだな,賃金に関しては。住民はなかなかお金を出さないしね。だから本当にリスクをしょって長い時間をかけてやっていくんだと,そういう言葉が住民から出れば,自分でお金を出して時間や労力をつぎ込んでやるということになるんだろうけど,なかなかそういう状況には今なっていないね。本当にケツに火がつかないとお金も労力も出さないね。」

野村「バックアップする助成制度もほしい。私のやっていることというのは… 居住者にとってみれば定住化がはかられる。公団にとってもこれから存続して民営化をどうしようかという問題もあるしさ。強引にやるというしかたから,やっぱり住民の力をうまく利用しながら住宅の更新を公団も考える時期だと思うんですよね。そのためにはNPO的な存在で,調整能力を供給したい。… 私は自分たちを供給したいんだよ。」

 個人会費・寄付を今のところあまり期待できない。またまちづくりに対する財政的な優遇措置,活動や活動団体に対する援助が少ない。だが,このようなまちづくりの方法に利益はあるのだから,その利益を増やすためにも,相応の経済的支援,対価の支払いがあってよい。それができないのは,私達が,ハードのため,建物を建てたりするのにはお金を使っても,それ以上のメリットがあるかもしれない,このようなソフトなまちづくりのあり方にお金をかけるという考え方に慣れていないということかもしれない。

おわりに

 まちづくりというテーマで全員一致は難しい。またそれを民間が担う時,強制力を行使することもできない。しかし粘り強い説得や人間臭い手法により大方の合意を形成するのは可能である。そして単に努力と根気だけでない,それなりの戦略があることがわかった。
 まちづくり運動はだれのためのものか。行政が勝手に行うものではないし,専門家が自分たちの主張を声高に叫ぶものでもない。住民自ら,自分のまちを作り出すしかないのである。小俣氏,野村氏双方とも常にそれを言われていたし,結局それがなければ始まらないのである。ただ専門家が,住民の知りえない情報や技術を提供し,またコミュニケーション過程の手伝いをすることがかなり有効であることを,今回の調査で確信した。
 最後に,お二人に理想のまちづくり運動について聞いてみた。

小俣「運動することによって住民みんなが自信を持てるというか,その地域に住んでいるということが喜びになるという運動の仕方をしたい。成果を期待するのではなくて,人間関係のネットワークみたいなことが一番大切なのかなあと思います。だから無理しないでやろうと思っています。」

野村「やさしくお互いが住環境の長所短所を認め会い共有化する。そして問題を共有化しながら,どうしたら解決できるかという目標を作るということが大切なんです。」


REV: 20170426
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