HOME >

第12章「社会福祉協議会に未来はあるか」


last update: 20170426


第12章

社会福祉協議会に未来はあるか

                             Yamaguchi,Tomoya
                              山口 智也

 『NPOが変える!?――非営利組織の社会学(1994年度社会調査実習報告書)』第12章

 行政サービスだけに頼ることなく,主体的に福祉活動に参加し,活動する団体や個人が多く見られるようになった。そしてこれらを含むボランティアの力は神戸の震災の救済により威力を発揮し,政府においてもボランティア活動をこれからの社会において重要な力であると認識し,政府はこれらに援助すべきであるという態度をかためた。しかしこれらの力をより効率的かつ最大に発揮させるために,それらを総括的に育成,支援し,さらには活動に地域性を持たせるためにも,各福祉団体間の連絡,調整を行う存在が必要になるだろう。これは震災の救済活動においても欠落していたもので,今その見直しが叫ばれている点でもある。そこで今回そういった役割を期待できる組織の1つとして,「社会福祉協議会」(略称,社協)に着目してみた。
 社会福祉協議会は1952年の発足以来,調査,総合的企画,連絡,調整,助成,普及,宣伝等の事業を通じて民間地域福祉活動の中核としての役割を果たすという理念のもとに活動を続けてきた民間団体である。そういった意味では社会福祉協議会は民間のボランティア活動を取りまとめ,盛り上げていく上で期待される存在であるといえる。しかし現状はというとそれぞれの地域によって異なるだろうが,その目的と期待にもかかわらず,なかなかうまくいっていないようである。それはなぜだろうか。そして今後社会福祉協議会はどうあるべきなのだろうか。千葉市社会福祉協議会を中心とした調査をもとにみていこうと思う。★01
 以下,A・Bさんは千葉県社協の職員,C・Dさんは千葉市社協の職員,Eさんは(社協以外の,社会福祉法人格をもたない)民間福祉団体の関係者である。

T 千葉市社会福祉協議会

 まずはじめに社会福祉協議会というものがどういうものなのかを説明する必要があるだろう。後でも述べることになるが,一般的に社協の存在自体,またその活動内容についてあまり知られていないことが,社協が思うように成果をあげられない1つの原因になっているからである。また,社協について知っていても民間団体だとはなかなか思われないようである。

 B「ボランティアやってる人はけっこう知っていたりするんですけれども,やっていな  い人になると社協活動はおろか,社協自体についても知らないんですよね。「シャキョウってのは何だ」って言って,「社会教育かな」なんて間違えちゃうような,まだそんなもんなんです。」

 E「ほとんど行政の一部みたいな感じがあるんだよね。本来(社協は)直接サービスも   やって,地域の福祉団体を育成していくための核になんなきゃいけないんだけど。」

それは社協の体質自体に原因があるように思われる。それらも含めて今回調査の対象の中心になった千葉市社会福祉協議会の紹介を通じて社協というものを見ていこうと思う。

 1 社会福祉協議会の歴史

 発足は,1952年である。終戦直後の非常に厳しい混乱の中から人々が立ち上がろうとしている時に,GHQの方から「社会福祉協議会」というものを設立して福祉の充実にあたるようにという指示があったのである。このようにして生まれた社会福祉協議会は,1962年にはその活動の骨格ともなる基本要項を打ち出した。その理念には民間福祉活動の中核として調査,総合企画,連絡,調整,助成,普及,宣伝などの事業を展開していくことがうたわれており,それに基づいて活動を展開してきた。しかし,現代の社会福祉活動に合わなくなった部分がかなりあったため,1990年に国が社会福祉事業法を大きく改定したのを受け,1992年にはそれを新しい形につくりかえた。法改正では市町村社会福祉協議会を在宅福祉サービス等の実施団体の1つとしてとらえ,供給体制の整備を図るため,「社会福祉を目的とする事業の健全な発達を図るために必要な事業」および「社会福祉を目的とする事業を企画し,及び実施する」よう努めることが新たに明記された。そのため新しい基本要項は,これからの福祉は地域福祉,在宅福祉を進めていくということで,その中心に在宅福祉サービスを盛り込んだ内容になった。つまり社会福祉協議会は時代にあった形につくりかえられながら,今日に至っているわけである。

1951 社会福祉事業法の制定   (千葉市社協の歴史)
1952 千葉市社会福祉協議会発足
1955 地区部会設置
1962 全国社会福祉協議会基本要項の制定 1967 社会福祉法人として認可を受ける
1977 県社協指導による「地域ぐるみ福祉
   推進事業」の展開
   ボランティアセンター,地区部会,
   事務局職員体制の整備が進む
1990 社会福祉事業法の改正
1992 全国社会福祉協議会基本要項の改正 1992 千葉市が政令指定都市になり
   千葉市社協が県社協と同格になる

 2 組織

 社会福祉協議会は,組織的には,全国社会福祉協議会(全社協)→都道府県社会福祉協議会→市町村社会福祉協議会という縦の組織化がなされている。しかし千葉市は1994年度より政令指定都市となったため,他の政令指定都市と同様に千葉市社協は都道府県社協と同レベルで扱われるようになり,千葉県社協の直属ではなくなった。ここでは社会福祉協議会の組織づくりの1例として,千葉市社協の組織概要を見てみよう。

「千葉市社会福祉協議会とは…市内の地区部会(地区社会福祉協議会),自治会,ボランティア団体等の福祉関係住民組織と公私の社会福祉関係者による協議体で,その地域社会における,住民の積極的な福祉活動への参加,社会福祉を目的とする事業の連絡調整を行いながら,独自の地域福祉事業を企画・実施することによって,住民の福祉の増進を図ることを目的とする民間団体である。」(「千葉市社会福祉協議会基本構想」,1992年)

 選出分野  理事(人) 評議員(人)
@地区部会   2   8
A公私社会福祉事業施設及び関係団体   3   8
B民生児童委員等社会福祉奉仕者    4   8
C町内自治会連絡協議会関係者   1   6
D社会福祉関係行政機関職員   3   3
E学識経験者   3   7
   計 16  40
    ただし評議員はCに「等地域団体関係者」を加える。

理事(執行)16名 事務局本部 17+〔2〕名
 会 長 1 区事務所 17名
 副会長 3 全社協派遣 1名
 常務理事2 計 35+〔2〕名
評議(議決)40名
監事     2名
全社協派遣 1
  事務局長
総務課 6(兼1) 総務係 3
 事務局次長 経理係 2(兼総務課長)

地域福祉課 9 業務係 4心配事相談所〔1〕
地域係 4ボランティア
               センタ−〔1〕
区事務所 中央区 3
         (任意設置) 花見川区 3
稲毛区  3
  ※ 〔 〕は嘱託職員をいう。 若葉区 3
緑区  2
美浜区 3
 「社会福祉協議会」としての民間性を出すため,理事,評議は,様々な分野の人々によって構成されている。表にあるように,行政の人もいれば,福祉ボランティア関係者もいるし,民生委員もいるといった具合になるべく幅広く網羅しようとしている。それはまた,民間性と同時に様々な組織のネットワーク化にもつながると市社協では考えている。
 また千葉市が政令指定都市となり,現在6区制が敷かれていることにも対応して,区事務所をおいてよりきめ細かく対応できるように足もとの整備を図っている。いずれは各区に独立した社協が組織され,各地域の業務は各区の社協が担当し,市全体にまたがるものの調整等が市社協の仕事になるという形になるはずだが,今はその準備段階で,区事務所はそれまでの仮の形という位置づけであり,いずれ区社協へと成長していく予定である。組織としては過渡期にある。
 さらに密な地域福祉体制を整えるために千葉市社協では市内の地域地域で「地区部会」を作るように指導している。それは千葉県下で展開している三層福祉圏構想に対応したものと思われる。その内容は10の市町村を「広域福祉圏」,各市町村を「基本福祉圏」,それをさらに細分化した小学校区ごとを「小域福祉圏」としてそれぞれを組織化していこうという試みである。それと照らし合わせると地区部会は「小域福祉圏」としてとらえることができるだろう。53校ある市立の中学校の校区ぐらいを単位として,それぞれの地域での地域福祉を推進する組織として地区部会(現在44)があり,市社協はその組織作りを側面から援助している。組織造りに際しては理事や評議委員同様,民間性を持たせ情報を交換しやすいように,できるだけ様々な分野の人々が関わるように心がけている。

 D「将来的には60ぐらいできれば市内全域が網羅できると思うんですけれども,こればっかりはこうすれば簡単にできるってもんじゃないですから。地域の人達のいろんな権力の重なり合いとか,派閥争いとかそういうのがあって,できない地域っていうのはできないんですよ。で,今ある44の地区部会での活動としましては…敬老会ですとか障害者との懇親会であるとか,地域の子どもたちを集めた映写会だとか,そういうのをやってもらえるように市社協ではこういったのがありますよって情報提供したりとか,例えばある地区部会でボランティア講座をやるというような事業に対して補助金を出したりとか,広報誌を出すと言ったらそれに補助金を出すといった形で,直接的なバックアップではなくて,側面的な援助をすることによってその住民の方々自身が動くことで,福祉に関心を持ってくれるように努力しています。」
−「地区部会の規模を小学校単位にまでおろすということは考えてますか。」
D「将来的には地区部会が市内に 100ぐらいできるといいですね。今,千葉市内の市立の小学校は 113校ありまして,そのくらいになりますともっと密な交流とか,事業にしても細かくてもっと多くの人が多くの機会に参加できるようになるんじゃないかなと思ってるんですが。でもなかなか人を動かすっていうのはうまくいきませんから。」

地区部会の組織化のねらいは,地域での福祉サービスをそれぞれの地域に任せることで,
千葉市内で一律化して行うサービスよりもその地域性に合った,ニードに即した決め細か
いものにしていこうということである。

 −「それぞれの地区に対して,こういうことをしなさいとかいう指示をしたりはしない  んですか?」
D「うちのほうでは地区部会に対してあまり多くを注文しないようにしているんですよ。とにかく事業を進めてもらえばいいということで,お金は出すけれども口は出さない主義で事業を進めてもらってますから。その地区のやり方とか地域の実情にあわせてやってもらってます。」

B「指導助言的にですね,こういう活動をしたらいいんじゃないかっていう。会合やなんかには呼ばれることがありまして,そういう要請があれば出かけて行ってそういう話はしてきますけれどもね。まあいわゆる情報提供レベルでしかしないですね。」
−「何をやるにしてもその地域にまかせるということですか?」
B「小地域福祉圏というものをつくったこと自体が,その地域地域の特性を生かしたものでいこうという考えなものですから,その場その場で一律化しないでっていうことがありますので,そんなに活動についてあれをやんなさい,これをやんなさいって縛れないわけですよ。」

 3 財源

 民間の非営利団体が直面する最大の困難はやはり財源の確保であろう。千葉市社協においてもそれはたしかに当てはまる。しかし,その問題は他とはちょっと違った様相を呈している。普通こういった団体が抱える悩みはその圧倒的なお金の無さである。だが千葉市社協の1994年度の事業計画書によると,その予算はなんと約10億円である。お金が無いなどと口にできないような額ではあるが,事務局員の言葉を借りると「足りてるっていう表現はきわめて難しい」。なぜかは,下記の表を見ればわかるであろう。
                                
予算総額 1,040,945 (千円)
         年間一人
 会費 32,472   住民会費    200円
  特別会費   3,000円  
   賛助会費  10,000円
委託金   580,493   市委託金 575,011 千円
補助金   338,942   市補助金 331,830 千円
配分金    33,872
償還金     200
負担金    39,827
繰入金    11,000
雑収入    2,632
繰越金    1,500
 (千葉市社協「平成6年度事業計画書,一般会計・特別会計収入支出予算書」より)

 注目してもらいたいのは委託金の欄である。約10億円の予算のうち6割近くが委託金でありそのほとんどの出所は千葉市である。千葉市社協は市から委託事業をうけおうことでその分の委託金をもらっているわけだが,その事業内容は主に時間外保育事業(305,767千円)とホームヘルプサービス事業(258,038千円) である。事業費のおおかたはそれぞれの事業に携わる保育者やヘルパーの人件費にあてられている。
 また補助金についても同じようにそのほとんどが市からのものである。そしてその用途は主に市社協で働く事務局員の人件費である(300,820千円)。
 委託金と補助金を足すと約9億円になり,社協独自の活動を展開するのに使えるお金は残りの1億の中からということになるのである。そうなってくると,他にお金のかかる事業をやりたくてもなかなかやりづらくなり「足りてるっていう表現はきわめてむずかしい」ということになる。結局市から以外の財源はほとんど無いに等しいため,民間の団体でありながら行政の下請け的な業務が多くなってしまい,民間性を生かせず,どうしても行政色が強くなってしまう。かといって市からお金をもらわなくては人件費も出ないし,何もできないというジレンマに陥っているといってよい。このような状況の社協は千葉市社協に限ったことではないと聞く。社協の財源確保の問題は民間団体としての社協という存在それ自体の危機を孕んだものだといえる。したがってこの問題はU−4で,インタビューの内容を交えながら考えていきたいと思う。

 4 活動内容

 千葉市社協を知るには,やはりどうしてもその活動内容を知らなければならないだろう。千葉市社協の委託事業以外の主な活動を紹介してみたいと思う。

(1) ボランティアセンター
 社協の中でボランティアを担当している部門は,「千葉市ボランティアセンター」。市社協の建物の1室にあり,センター長とコーディネーターともう1人職員とがついて3名体制でやっている。システムとしては,直接ボランティアセンターがニードを受けたり,ボランティアを斡旋するのではなく,各区の事務所がボランティア・ニードの窓口になる。各区の事務所にボランティアがこういう時に欲しいといった依頼をすると,それがボランティアセンターにファックスで届く。ボランティアについては,登録の際に登録用紙に希望する活動内容に丸をつけてもらい,そのままコンピューターに入れる。現在1千人弱位の個人登録がある。その中からそのニードに合うボランティアを検索してピックアップするという形にしている。例えば中央区から老人ホームでの活動者が欲しいといったニードが届いたら,老人ホームの活動を希望する人を一覧にして,それを再度中央区の事務所の方にファックスで送る。そうすると,中央区事務所の職員が個別に「いついつなんですけれども,御都合はよろしいですか」といった感じであたる。そして,中央区でニードが起こった場合には中央区のボランティアの人を中心にお願いするというようにしている。交通費の面も配慮し,できるだけ近くて活動しやすい人を選ぶということである。「ボランティアの数としてはニードに対して一応斡旋はできていますので,…ニードに対するボランティアさんの充足という点では,今のところ大丈夫」(Dさん)という状況のようだ。
(2) ボランティア講座
 登録ボランティアを増やすための市民に対するPR活動として,ボランティア講座を1994年度は15本(各区2本づつ・市社協で3本)行なっている。『市政だより』(全戸配布の広報誌)で呼びかける。受講者が賛同すればボランティアセンターに登録してもらう。
(3) 社協だより
 『社協だより』を年2回,おおむね6月と12月に発行している。全世帯が対象で30万部ぐらい,『市政だより』と同様,新聞の広告と一緒に折り込みで入れて配布する。
 「年2回というのは回数が少ないと思っているんでいずれはもっとどんどん増やしていきたいなっていうことと,作り方についても少しづつ変化させていますね。なんとなくヤボったいのをヤボったくないように洗練されたスタイルにしていこうとしています。例えば字ばっかり多すぎないように写真やイラストを入れたり,わかりやすい言葉にしていくとかね。良く変化しているかどうかっていうのは賛否分かれるところだろうけれども,まず社協っていうのがどういうものか知ってもらわないといけないからね。」(Dさん)

(4) その他PR
 『市政だより』でボランティア講座の受講を募集する他,「福祉のまちづくりキャンペーン事業」というので各区の事務所で場所を借りて,社協の活動を紹介をしたり,子どもたちに作ってもらったポスターを「福祉のまちづくり推進月間」の11月にいろんな箇所に張ってもらってPRしたり,「ボランティアのつどい」(1994年の秋はジャスコの一角を借りた)で,ボランティアの活動を紹介している。

U 社協の抱える問題点

 何度も言うようだが,「社会福祉協議会」はその理念においてはれっきとした民間団体である。それにもかかわらず,ほとんどの地域の社協はいくつかの理由から,その民間性を十分に発揮できていないのが現実であり,これが社協にとっての最大のトラウマになっていると言ってよいだろう。Uでは,その問題と原因についてふれようと思う。

 1 民間性について

 T−3でも,社協は「民間性を生かせずどうしても行政色が強くなってしまう。」と述べたが,ここで言う「民間性」や「行政色」とは具体的には何なのか。社協ではそのあたりをどう捉えているのだろうか。インタビューをもとにみてみよう。
 まず民間性を生かした活動の仕方とはどのようなものなのだろうか。

 A「行政は法律に定められた一定の枠の中で,その目的にしたがって予算の許す範囲内で仕事をしていきますから,行政の仕事はどうしてもその予算の枠に1つは縛られますね。それから柔軟性を持って少数者のために積極的に関わりを持つということは行政の立場としてはやりにくい。そして財源は税金をもとに仕事をしていますから,むやみに税金をあげて事業を拡張するということはできませんからね。そういう枠の中,制約の中で行政は仕事をしていますから,もっとやってあげたいなと思ってもできないことがいっぱいあるわけですね。それが私たちが普段抱いている「行政はなかなかやってくれない」という批判の声が出てくる原因になるんでしょうけれども,これも批判していても仕方がない。行政はそういう性格を持って仕事をしていますから,全部私たちが望むことをやってくれるのというのは,期待するほうも無理だと思うし,期待されても困るわけですね。それでは行政のできない部分をどうカバーしていくかということになると,民間の活動に委ねるしかないし,期待するしかない。行政はやろうと思っても十分にできないから,放って置いたら私たちはいつまでたっても十分な福祉を満喫することはできないわけで,その行政ができない部分を自分達でやっていくしかないわけですね。その自分達でやっていく部分っていうのがいわゆる社協活動になるわけです。」
−「具体的にはどういうことですか?」
A「例えばホームヘルプサービスでは,いま行政のヘルパーさんは8時間労働なんですけれども,8時間ばっちり1人の対象者に関わりが持てるわけじゃないんですね。1日の中でせいぜい2時間が限度。何人も抱えてるわけですから,毎日じゃなくて週に1回行って,しかも2時間しか関わりを持てないのが現実なんです。24時間介護が必要だとしても行政はそれだけしかできてないんです。ですから同じホームヘルプサービスやるにしても社協がやるとするならば,行政ができない時間帯(17時以降)にズラしてやってみる。昼間みてもらう団体,夜にみてもらう団体,それから深夜にみてもらう団体がそれぞれ存在することで24時間援護体制っていうものができてくると思うんですよ。それがお金を出してやるから全部お前のところでやれよって言われたら,福祉のサービスが偏ってしまうわけでしょ。そういうことを役割分担してやってはじめて,安心して暮らせる体制ができると思いますね。」

B「例えば9時から5時までじゃなくて,それを延長して,民間だからこういうことが できるんですよとか,日曜でもできますよっていう,型にはまらないでできるんだっていうものを展開していくのが,つまり民間組織としてこれだけの幅広い活動をできるんだっていうふうにもっていくのが,社協のあり方,民間性だと思うんですよ。…行政ではできない部分を民間活動としてこれだけカバーできるんですよっていう形で,社協を打ち出して行くのが理想なんですけれども,なかなかどうしても行政的になっちゃうわけですよ。」

 以上から社協が考える民間性というものが少しは理解できたかと思う。しかしこのような理想としての民間性が,なかなかうまく実現されないのはなぜであろうか。いくつかの理由が考えられると思うが,その組織的な面での原因をまずあげてみたい。

 2 組織づくり

 千葉市社協ではT−2で述べたように地区部会の組織化や理事,評議の選出にあたって,様々な分野の人に参加してもらっている。それは地域社会に住む人々のネットワーク化を図ることによって民間としての体質づくりを目指しているからである。それは次のインタビューからも分かるであろう。

 −「地域福祉を考える上でよく出てくる言葉なのですが,「ネットワーク」ということ  についてはどのようにお考えですか?」
 D「ネットワークというのは組織づくりという意味で使っています。理想としてはすべて人間が生活していく中で必要である社会組織すべてを取りこんで,横のつながりをつくっていくというのが理想的なネットワークだとは思うんですけれども。うちとしては地区部会をつくるときにできるだけ多くの人に関わってもらうというか,そうすることで横のつながりをとりあって1つの福祉を向上させて行くということですね。」

 しかし社協のこのような組織づくりに対して反論もある。

E「彼らの考えてる民間っていうのは,町内会とか老人会とか,それから地域の名士的 な人を呼ぶんだよね。ボランティア会の会長とか市会議員とか…。福祉の利用者っていうか当事者っていうか,そこのところは入らないのよね。結局チャリティー・オーガナイゼイションていうのかな,地域のなかでボランティアやってますよっていう…。町内会で民生委員しているとか,町内会長とかっていうのは,すごく障害者とか高齢者は気の毒な人達だからそれに対して援助してあげてんですよみたいな視点でしょ。そういうのが中心になって社協なりを構成しているから,障害者や高齢者は福祉の利用者であるとか年末の手当をあげる人達であるとかね,そういう位置づけでしかないのよね。地域ケアを一緒に作って行こうとかね,サービスを一緒にやって行こうとかっていう発想がないのね。悲しいことなんだよね。」

 地域福祉を障害者や高齢者と共に,みんなで作りあげようという姿勢ではなく,「与える福祉サービス」という位置を保っているとすれば,結局行政サービスとなんら変わるところはなく,本当の民間性は発揮できないのではないだろうか。

 3 職員の構成

 職員の構成に関しても「行政色」を疑いたくなるような一面が指摘できる。

 E「全社協(全国社会福祉協議会)もほとんど厚生省の天下り化してきたよね,この頃は。ここ1年ぐらいかな,そういう傾向が強まってきたのね。管理職なんか全部が厚生省の天下りが占めるようになってきた。その意味では(行政の)縛りが強いよね。」

 −「社協で働くようになった理由は何ですか?」
B「私はそうじゃないんですよ。県からの,行政からの派遣なんですよ。県庁からの派遣でここのポストに来まして,福祉もそんなに長くないんですよ。実際の話がほんとに行政の福祉に取り組んだのは何年もないんですよ。県の人事移動でこういう立場に来たわけでして,ホント全く素人的な者なんですよ。だからどうしても行政とのアレが出ちゃうんですよ。私の所属からしてね。… ここ(千葉県社協)では事務局員30人位のうち行政からの派遣は5人程いますよ。事務局長から総務部長,地域福祉部長,それから福祉人材センターとか社会福祉研修所の所長も県庁からの派遣なんですよ。だからそういう人達の人件費もそのままついてきているんですよ。市町村においても事務局長なんていうのは3分の1ぐらいは行政からの派遣でしょ。それで人件費は行政がもってるっていう。それが現実なんですよ。ですから社協は民間団体だとかなんとか言っても,やっぱり行政色が強くなっちゃうんですよ。そうすると行政の下請けじゃないかって言われても当然なんですよね。私のとこのポストなんかもう10年以上,ずっと県から派遣された人間のポストなんですよ。そういうふうになっちゃってて,だいたい2年交代で行くでしょ。そういうふうにやってるもんですからね,なかなか民間活動って言ってもねえ。まあ行政のほうからやって来て,来たら来たなりのことはしますけどね。… 行政では,農業だとか環境だとか,あとは税金みたりなんかしてますけどね,そういう人がパッと福祉に動かされたりするわけですよ。そうするとそこで福祉に関する言葉なんか1つも知らなくても,そこから1からスタートですからね。きつい面もありますが,それなりに対応しちゃいますけどもね。」

 市社協においても同様のことが言える。

 −「行政から派遣された職員が多いことで行政色が強くなってしまったりしませんか?」
 D「全くないとは言えないですけどもね。うちは管理職がみんな市の出向職員になってますから。局長と次長と課長2人,それから各区の所長が全部市の執行職員になていますから。…市役所は全部で8千人の職員がいるんですよ。そのうち今の管理職を与えなきゃならない層は1番多いんですよ。40代が1番多くて。市役所が大きくなるときにドカンと採ったからポストが足らなくなったんでしょうね。」

このように事務局の管理職のほとんどが行政からの派遣であるという体質は,これでも民間団体と言えるのだろうかと疑いたくなるようなものである。しかもそれらの職員の人件費は全て行政サイドから出ており,さらに数年たてばまたもとの県庁なり市役所なりに戻るのであれば,当然福祉に対する態度,やる気にも影響が出てくるのではないだろうか。

 4 財源の問題

 T−3で述べたように千葉市社協の1994年度の予算約10億円のうち約9億円は千葉市からの委託金と補助金で占められている。つまり民間性がどうこうと言ったところで,財源的にみても社協独自の事業がなされているとは言えず,やはり行政の下請け的色合いが濃くなっているのは否めない事実である。

 B「今の体制っていいますか,資金面だとかなんかでいったらそれだけのことができないってことで,チラシで福祉情報の提供だとかなんてぐらいのことになっちゃって,ボランティアグループの登録なり斡旋なりするとか,そういう面ぐらいのものしかなかなか社協っていうのはできないのが現状なんですよ。… 行政ではできない部分を民間活動としてこれだけカバーできるんですよっていう形で,社協を打ち出して行くのが理想なんですけれども,なかなかどうしても行政的になっちゃうわけですよ。」

 依託金より補助金が欲しいという意見もある。

 C「個人的な考えでは補助金が欲しい。社協としてやろうとするときには社協独自の事業として考えたい部分があるよね。委託金もらって委託事業をやってるだけじゃだめなんだよ。… 市で大きな網をかぶせて,その中のきめ細かさっていうのはうちでやっていかなきゃならない。それでうまく補完しながらやっていくのが理想だと思う。きめ細かくいくには市からの下請けじゃなくて,同じ育成支援の事業をやるにしても社協としてのカラーを出したいなと。それが結果的に,うちに関心を持ってくれるようにもなるしね。会員になっても,「あれ,俺達の金はどこに使われてんのかな」なんて思われても困るし,やっぱり胸張って自分達が支えてんだよっていうのはね,うちの事業をいいものをやっていかなきゃいけないと思う。」

 しかしその出所が千葉市からと限定されてしまえば,やはり行政の縛りが強くなってしまい,委託事業とたいして変わらなくなってしまうように思える。

D「結局市から補助金をもらうということだと,その補助金を出すところの言うことを聞かなきゃならないんですよね。そうするとこれはやっちゃダメ,これもダメっていう縛りが多くなっちゃうんですよ。」

B「やっぱり財源的に苦しいもんですから,どうしても事業をやるについては行政の補助金を受けて活動するっていうのがほとんどになっちゃいますからね。そうするとやっぱり行政からの口出しの,行政の意向に添ったものになって,社協独自の民間的な活動っていうのはなかなか難しいんですよ。」

 他に手立てはないだろうか。会費収入を増やすことも考えられる。全国の82%の社協で会費を集めており,年額 900円以上の社協は22.8%だという(塚口[1994:36])。現在の千葉市社協の会費は1人年間 200円である。このようなお付き合い程度の額から,例えば 500円位まであげてもよいのではないだろうか。しかしそのためには,住民に社協の役割を理解してもらうため,より積極的な活動を展開し,それをPRする必要がある。それではじめて,多くの住民が社協活動に賛同し,納得して会費を払ってくれることになるからであるが,それもなかなか難しいようである。

 B「我々が言うのも何ですが,何をしているかっていうのが一般の人には目に見える形で見えないんですよ。なかなか難しいんですよ福祉っていうのは。具体的にこういう活動をして,それだけの見返りを例えば障害者に対してやってますよとかっていう活動をするのには相当のお金がなくちゃいけないわけなんですね。それは行政がやっていくもんじゃないかっていうのもありますから。社協が会費を集めるだけの何をやってるんだということで,見返りとしてのものがあるかどうかって言われてもちょっとね。お金を出すからには見返りがなくちゃっていうのが今の風潮にはありますから。まあ,なくちゃいけないんですけれどもね,本来社協というものにも。… ですから PR活動にしても広報誌の全戸配布とか,社会福祉大会のような行事とかいろいろやってますが,それを全部に浸透させるっていうまでにはなかなかいかないんですよ。」

 結局独自の財源として会費収入を増やすということはあまり考えておらず,やはり行政からの援助に期待してしまうのである。

B「会費が住民の方の協力を得て上げられればいいですけれども,住民の方もそうは納得しないでしょうから,そうなるとやっぱり人件費は行政からの援助がないとこの運営は難しいんじゃないかと考えますよね。」

V 社協の今後

 社協はその発足からして,GHQの指示による政府主導のものだった。つまりはじめから主体性の無い民間団体として,民間性の限界を抱えていたとも言える。社協はこのままでよいのだろうか。理想としての「民間」と体質としての「行政」の間で揺れたままで,たいしたことも成しえずに存在だけの機関として終わってしまいはしないだろうか。この際社協は自分達の立場をより明確にしていくべきである。それができなければその存在すら危ういと思う。なぜならその莫大なお金を他の民間福祉団体に回したほうが,よっぽど効率的かもしれないからだ。しかしこれだけの組織がせっかくあるのだから,これを無くしてしまうのはもったいない話で,何とか生かしていく方法はないだろうか。そこで,社協が今後,その存在価値を示して行くにはどうしたらいいか,考えていきたい。

 1 直接サービス

 E「社協でもいろんなのがあるのよね。非常に限りなく民間に近いとか…。社協は必ずしも悪じゃないんだけれどもね。福祉公社つくって介助サービスやってる所もあるし。別府社協なんてのは 365日(1日に)3回食事サービスなんかやってて。椅子に座っていることはよくない,みんな直接サービスに出ろといって,介助であろうが食事であろうがみんな率先して車運転して在宅訪問したりとか。本来社協っていうのはそうあるべきだと思うのね。そういう目的でつくられたものなんだけれども,結局何もやれないで年度末の共同募金集めたりとか歳末慰問金手当を配ったりとかね,他に例えば障害者が車購入するときに3%の低利融資する世帯更生資金の貸し付け業務だとか,そういう行政の委託業務だけをやるような社協がほとんど多いのよね。… これから社協をもっと良くしていくにはどうしたらいいかって考えたときに,まずは直接サービスをやることだと思ってんのね。そうするともう老人や障害者の日常問題にどうしても直面せざるを得ないのね。実際にうち行って見ちゃったらね,手を貸してやらざるをえないのね。そういうふうに今は机上の空論なわけよ。」

 社協はその発足の理念から,福祉の「なんでも屋」的なイメージがあるかもしれない。しかしそれが逆に,住民には何をやっているのかが具体的に見えないという側面があるのではないだろうか。社協活動の住民への可視性を強め,さらに福祉のニードを実感するためにも,活動の目玉となるような直接サービスを行うことが必要になると思われる。(となると,冒頭で私が述べた「社協本来の役割」からは離れてしまうことにもなるのだが。)
 千葉市社協の場合,直接サービスはどのようになっているのだろうか。直接サービスの1つであるホームヘルプサービスは行政委託事業であり,しかも派遣の決定権を持っているのは行政のほうで,市社協は派遣を請け負っているだけである(他には,地区部会のレベルで給食サービスが行われている)。社協がサービスを提供していると言いにくいし,市民にそう受けとめられているとも言えない。

 2 行政との関わり 

 Uでは社協と行政の関わりについて,資金と天下り職員という点から指摘した。
 なにも行政からの援助をもらうのをやめろとまでは言わない。千葉市社協を見るかぎり,行政からの委託事業であるホームヘルプサービス(平成5年度派遣回数15,281回)や時間外保育(平成5年度,61施設,児童数 約3,200人)はそれなりの成果をあげている(千葉市社協「平成5年度事業報告書」)のも事実である(それが他の民間福祉団体と比べて効率がよいかどうかは別として…)。 
 ただ,社協が福祉問題に対してより柔軟に対応できる組織になるためには,米国のNPOのように財源を複数化することが重要であろう。そしてそのためには助成に関する情報を自分達で集め,それに積極的に接触していく姿勢が望まれる。社協には組織としてそれだけの情報収集能力があるだろうし,実際にそうやって独自の財源を確保している社協もいくつかの地域ではあるようなので,決して無理な要求ではないはずである。もしそれができないようであれば,民間団体としての役割という理想は捨てて,行政の下請け団体として委託事業をいかに効率よく展開できるかということに徹したほうが,『社協だより』のような実際効果のあるかどうかもよく分からない間接的サービスに多額のお金を使うよりよっぽどよいのではないだろうか。
 行政からの派遣職員について言えば,本人達には別に悪気はないのであろうが,社協での仕事に対してもっとプライドを持って携わってほしいものである。

 E「社協の人達がやっぱりプライドを持ってやらないといけないよね。行政の天下りで自分達はどうこうっていう,彼ら自身もそう思ってるわけよ。それであるかぎりはいいサービスなんかできっこないわけだから,自分達は地域のサービスの先駆けだとか,役立てる存在なんだっていうプライドを持たなきゃいけないと思う。」

 ただ,地域福祉の領域が専門でない職員が派遣され,何年かたつともとのところに戻っていってしまうということだと,プライドを持ってよい仕事をしてもらおうにもなかなか難しいかもしれない。とすると,職員の調達方法自体を再考しないといけないということになる。

おわりに

 この報告の全編を通して,私は「もっと」という言葉を頻繁に使用してきた。それらはけっして私1人だけのだけの「もっと」ではない。地域の福祉の現場で直接に介護サービス等に携わっている人々や,きめ細かな福祉サービスを必要としている高齢者や障害者の人々の社協に対する期待の声であると言ってよいだろう。調査を進める中,私の胸には,社協で働く職員にはこういった人たちの何とかして欲しいという期待と,切羽詰まった感覚が伝わっていないのではないか,行政からの補助金(人件費)の上にあぐらをかいてしまっているのではないかという不安が常にあった。それは今も変わってはいない。特に今回インタビューに協力してくださった職員の方々は皆,社協のあるべき姿と現在抱える問題点というのは十分に把握しているようだった。にもかかわらず,それを解決するための手立てはどうなっているのかと尋ねると,決まって「残念ながらまだ成しえていないのが現状なんです。」との言葉が返ってきた。そのたびに私は「何をやってるんだ社協!」と叫びたくなったものだ。千葉市社協にしてみれば「やっと足もとの組織が出来てきたところなのだから,その上でどれだけの活動ができるかはこれからだ。」という反論があるかもしれない。しかしそれならば,今後の活動展開が多くの期待に応えられるものになるのか,それともただの「金喰い虫」になるのかを楽しみに見ていようではないか。社協が民間福祉活動の中核となりうるかどうかによって,これからの地域福祉の状況は大きく変わってくると思われる。時期的にみても今せっかくボランティア活動が注目を集めているのだから,それらをさらに盛り上げてよりよい福祉社会をみんなの手で築くため,ここらでひとつ「社会福祉協議会」にがんばってもらいたいものである。



★01 社会福祉協議会と在宅福祉との関わりについて沢田[1988],地域での福祉活動と社会福祉協議会との関係について沢田編[1991],等。また全国社会福祉協議会が発行している『月刊福祉』には,各地域の社会福祉協議会の様々な活動が報告されている。『そよ風のように街に出よう』36〜39号(1988〜1989年)に特集として「障害者と社会福祉協議会協議会運動シリーズ」がある。等々。ただし,本報告はインタヴューと千葉県社協・千葉市社協が出しているいくつかの資料だけに基いて書かれている。


REV: 20170426
社会福祉協議会  ◇この報告書の目次へ 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)