▼ はじめに  中西 正司  この冊子は,1991年4月から1992月3月にかけて,ヒューマンケア協会が三菱財団及びキリン記念財団の助成を受けて行った「ピア・カウンセリングの基礎的研究」の成果を収録したものであり,この研究のために組織した研究会での発表をもとに研究会への各参加者が執筆した文章に,当協会の要請に応えて米国ヴァージニア州のエンディベンデント・センター(End Dependetnt Center !) のスタッフであるロリーン・サマーズ(Laureen Summers)氏が寄せて下さった論文を添えて,発行されるものである。  ピア・カウンセリング(Peer Counseling) のピアは「仲間」,同じものを共有する人を意味する。障害者のピア・カウンセリングとは,障害を持つ人に対して同じく障害を持つ人が行うカウンセリングであり,体系的なかたちでは,1988年にヒューマンケア協会が主催した「第一回ピア・カウンセリング集中講座」によって初めてわが国に紹介された。 この時作成された報告書の冒頭には以下のように述べられている。  「ピア・カウンセリングとは,「障害者の自立を援助すべく,障害者によって行われるカウンセリング」と定義されます。但しカウンセリングと言っても,通常の精神面の悩みごとの相談といった意味ばかりでなく,障害者が地域で自立した生活を営もうとする時,直面する様々な問題について相談に乗り,助言したり,適当な情報を与えたりすることも含まれます。すでにアメリカでは,CIL(障害者自立センター)を通じて広く行われている手法ですが,日本ではこの言葉さえなじみが薄く,どういう内容を持ち,どのように有効かといった点については全く知られていません。  ヒューマンケア協会で働く職員の中には,アメリカでCILについて研修してきた者が数名おり,その際,ピア・カウンセリングの有効性を実地に体験して是非日本でも広めたいと考えていました。現在,協会では自立生活プログラムを実施して重度障害者の自立へ向けた努力を援助する一方,個別のカウンセリングも行っており,着々と成果を上げつつあります。また出来るかぎり各地の施設や作業所,学校などに出向いて,ピア・カウンセリングの手法を説明し,有効性を訴えていますが,まだまだ一般に広く浸透するに至っておりません。そこで,講座形式によって多くの人を一堂に集め,ピア・カウンセリングについて勉強してもらおうと計画しました。講座の参加者が,それぞれの地域に帰ってピア・カウンセリングの手法を実践し,広めてくれればいい。それがひいては,各地に障害者の自立の種を撒くことになるのではないか。ヒューマンケアの理想もそこにある,そう考えたのです。」  本報告書にも述べられているように,この集中講座をきっかけに,ピア・カウンセリングは全国各地で行われるようになり,その活動は,新聞などでも何度か取り上げられている。しかし,いまだに社会福祉,リハビリテーション,カウンセリングの専門領域の人々の評価の対象にはなっておらず,その意義が広く認められているとはいえない。障害者の自立生活センターのサービス活動の中で目ざましい成果を上げているこのピア・カウンセリングをもっと多くの人に知ってもらいたいと私達は願っている。現場でこのカウンセリングを実践している障害者に学術研究者を交えて行われた研究会の報告が,国内の自立生活センターの実践に役立てば幸いである。                                 1992年8月 ▼目次 ▼はじめに                            中西 正司  1 ▼目次                              3 ▼1 ピア・カウンセリングの基本理念       アキイエ・ヘンー・ニノミヤ 7  T 歴史的背景 7  U 自立生活モデル                   9  V ピア・カウンセリングの領域と役割                   10  W 今後の展望                   12 ▼2 自立生活センターの活動とピア・カウンセリング        中西 正司  15  T 自立生活センター                  15  U 自立生活センターのサービス                  15   1 介助サービス                             15   2 自立生活技能プログラム                 16   3 ピア・カウンセリング                 16  V ピア・カウンセリングから社会の変革へ                  17 ▼3 障害をもつ人とピア・カウンセリング             安積 純子 19  T はじめに                   19  U ピア・カウンセリングの実際                   20   ピア・カウンセリングのゴール                  20   ピア・カウンセリングの人間観                  20   傷のメカニズム                  21    @アクシデント                 21    A伝染                 22    B抑圧                 22   感情の解放                   23    1.感情の社会的位置                 23    2.なぜ,感情の解放が大切か                 24   ピア・カウンセリングの技術                  24   対等な関係でのピア・カウンセリング                  25    ◎カウンセラーの役割                 25    ◎クライエントの役割                 26   ピア・カウンセラーのロールモデル的位置                  26   ピア・カウンセリングの社会的役割                  27  V 終わりに                  27 ▼4 ピア・カウンセリングの歩み                 野上 温子 29  T ピア・カウンセリングの登場まで                 29   1 登場以前                               29   2 ヒューマンケア協会の設立                       29 3 ピア・カウンセリングの方法論の模索                  30  U ピア・カウンセリング講座の実施 31   1 第一回集中講座 31   2 89年度以降の動き 32   3 長期講座,サポートグループ 32  V ピア・カウンセリングの今後 33 ▼5 自立生活センターにおけるピア・カウンセリングの意義     樋口 恵子 35  T 自分史におけるピア・カウンセリングとの出逢い 35   1 スタートライン 35   2 アメリカへの自立生活運動との出会い 36   3 再評価のカウンセリングとの出逢い 36  U 自立生活センター町田ヒューマンネットワークとピア・カウンセリング 37   1 自立生活センター町田ヒューマンネットワークの設立経過 37   2 町田ヒューマンネットワークの活動内容 38    ・介助サービス  38    ・自立生活プログラム 38    ・ピア・カウンセリング/ピア・カウンセリング集中講座 39    ・海外旅行企画/その他の活動 41 V 個人の変化とピア・カウンセラーの関わり    41  W 終わりに     43 ▼6 自立生活運動におけるピア・カウンセリング      ロリーン・サマーズ 45  はじめに 45  ピア・カウンセリングの理論 45   一対一のセッション One-on-One Sessions                  46   サポート・グループ Support Groups                    46  ピアカウンセラーの資格        46  4つの基本的カウンセリング技術        47   1.注視 Attending 47    ・傾聴 Listening 47    ・フィジカル・アテンディング Physical Attending 47    ・観察 Observing                            48   2.応答 Responding                           48   3.パーソナライジング Personalizing                   48   4.目標設定 Setting Goals                        48  感情の解放 Emotional Release                        49   秘密保持 Confidentaility                         49  オープニングのテクニック        49   1.気を逸らす Present Time                       49   2.質問する Asking Questions                      49   3.楽しい思い出 Pleasant Memories                    50   4.ロールプレイ Role Play                        50  ピア・カウンセリングを通じた内的抑圧の克服        50   自己評価       51  いくつかの忘れてはならない事       51 ▼7 自立生活プログラム,ピア・カウンセリングの実施状況    立岩 真也 53  T概要                                   53   1 自立生活プログラム/ピア・カウンセリング集中講座/長期講座      53   2 各センターにおける概要                        54  U各センターの活動                             55   1 ヒューマンケア協会                          55   2 札幌いちご会                             59   3 町田ヒューマンネットワーク                      60   4 自立生活センター・立川                        63   5 HANDS世田谷                           63   6 その他                                65 ▼8 ピア・カウンセリングに関するアンケートの結果1・<米国>  立岩 真也  67 ▼9 ピア・カウンセリングに関するアンケートの結果1・<日本>  立岩 真也  79 ▼10 ピア・カウンセリング関連の文献の紹介1・<米国>      立岩 真也 89  T 雑誌論文・学会報告                           89   1 概要                                 89   2 内容の紹介                              90   3 障害者に関係する文献                         93   4 検討                                 94  U 書籍                                  95   1 概要                                 95   2 紹介                                 95   3 再評価のカウンセリング関連文献                    97 ▼11 ピア・カウンセリング関連文献の紹介2・<日本>       立岩 真也 99  T マニュアル・解説書                           99  U 報告書                                 101  V 専門書・論文・雑誌記事                         102   1 カウンセリング関連の書籍                       102   2 論文・雑誌記事                            104   3 東京都心身障害者センターでの自立生活プログラム            105 ▼12 将来への展望                        中西 正司 107  T はじめに 107  U ピア・カウンセリングの特質 107  V 自立生活運動の消費者運動的側面 107  W 財政的基盤                               108 ▲1▼ ピア・カウンセリングの基本理念                           アキイエ・ヘンリー・ニノミヤ   障害を持った人による(By)障害を持った人への(To)カウンセリングが障害を   持った仲間の成長となるのが(For)ピア・カウンセリングである。 ■T 歴史的背景  障害を持った市民による社会運動から出発した自立生活(IL=Independet Living)運動は,医療,専門家中心のリハビリテーション,福祉とは対照的に,一般市民そして消費者運動,草の根運動を中心として発展してきました。  経済的強者や権力者が貧困者,弱者に対して慈善を施す福祉から,市民が市民と共に市民生活における社会福祉の相互扶助制度を確立してきたのが近代社会福祉の歴史であり,現在にいたっては消費者中心の社会福祉,つまり在宅社会福祉,コミュニティ社会福祉へと転換しつつあります。  一方,医療においても医師を中心とするハイアラーキー化(階層化)した専門家集団組織システムから患者の基本的人権の擁立を中心とする消費者中心の医療への転換が叫ばれ始めました。これは情報の公開,インフォームド・コンセント(説明の上での同意),患者の選択の自立権,意見を述べる権利等という形で出現しています。  伝統的医療モデルにおいては,医療サービス提供者側が,受益者である患者の自主性,自立性,ひいては市民性を十分に配慮しないで,病気の情報収集,分析,診断,そして治療(Cure)を行うものとされてきました。そこでは,患者は医師専門家集団に依存させられ,病院機関にいる間に個人生活面,身体面,そして精神面まで支配されることが多かったのです。  この医療モデルにおける医療専門家と患者である障害を持った人の関係は次のようなものです。 (A)権力者 対 弱者  医師は法律的な権利を持ち,市民が精神病と診断されかつ入院が必要とあれば強制的に入院・管理できます。また医師は診断書によって病気休暇,医療保険の取得に関わり,さらには司法に対して病気治療の為として法的義務の軽減をも指示することができます。したがって,患者は医師に対して必要以上に卑屈になる傾向があります。  また多くの病院の経営者は医師であるので病院設備の使用から患者の入退院を管理する権利を持っています。その病院を利用する患者は病院経営に参加できず,また治療に関するケース会議にも意見を述べられない例がほとんどです。 (B)聖職者 対 罪人  日本には宗教的,文化的に「病気」,「障害」は罪の結果となったという思想,信仰があります。病気になるのは,悪い事をした天の罰であるとか,前世の因縁で障害を負ったということを,20世紀の文化社会になっても人々は信じていることが多いのです。最近,ある都市でダウン症候群をともなった幼児が母親に殺された事件がありました。その母親は同居している夫の母親に「嫁の血筋が悪い。我が家の血統にきたない血が入ってきた。」と障害を持った幼児を産んだ事を非難されノイローゼになってその幼児を殺してしまったのです。  障害を持った人を治療するのは聖職者である,つまり罪を許す人であるので神様のような存在である場合もある,そのような医師に対して疑問を持ったり,反抗する事は,より多くの罪を犯すのであって許されない,という風潮もあります。この関係においては,患者である人々は聖職者である人を尊敬して従う態度を求められます。 (C)大人 対 子供  病院における医療専門家と患者の対話をよく分析しますと,親が子供と話しているような例が多くみられます。患者は,親に従順で,親の言う通りに行動することが望まれているのです。  カウンセリングのコミュニケーション分析法に交流分析(トランス・アクション・アナリシス)があります。これは親レベル,中立レベル,子供レベルの3つのコミュニケーションの対話を分析するものです。医師の発するコミュニケーションの多くは親レベルから出され,患者のコミュニケーションは子レベルで返されます。この関係が強化されますと患者は医師に対して依存心を無意識的レベルまで強化されていきます。  カウンセリングの歴史は,専門家である医師等による臨床精神分析から始まり,S・フロイトをはじめとする精神分析医らによる精神病分析・治療として発展してきました。そこにおけるカウンセラーと患者・被分析者・クライエントと呼ばれる人との人間関係は,医療モデルによるものが中心でした。  カウンセリングの大きな目的は自己覚知・自己受容を通しての人間としての基本的な成長です。やがてカウンセリングは医師から他の専門職種へと拡大してきました。ソーシャルワーカー,心理分析者,牧師,そして最近では一般市民が勉強してカウンセラーになってきています。そうした中で,それまでの医療モデルに対して疑問が出てきました。自己覚知・受容は他者が指示したり治療することではなく,その人の自律心の成長を援助し個人の主体性,自立生活の換気を促すアプローチが基本であるようになり,クライエント中心のカウンセリングがカール・ロジャーズによって発展してきました。治療(Cure)よりもケア(Care)を大切にして共感性と受容をすることにより,個人を成長させる潜在能力を引き出すアプローチです。これは個人の人格の成長を促すだけでなく,自己決定をもともなうものです。  これに関係するのは,1960年代中頃より公民権運動が北米で大きな社会変革を生じさせたことです。消費者運動によって消費者の権利が法律で保障され,その理念が障害を持った人々の自立生活権の主張ともなってきたのです。その消費者運動は4つの基本権を持っています。  @情報公開の権利。  A選択する権利。  B意見を述べる権利。  C安全を保障してもらう権利。  この障害を持った人々の公民権,そして消費者運動からピア・カウンセリングがセルフ・ヘルプ運動として発展してきました。それは障害を持った人々の相互援助活動として位置づけられてきました。ピア・カウンセリングは障害を持った人々が自分の人格,生活を自己の意思でコントロールする機会をもたらそうとするものでした。したがって医療モデルにおけるカウンセリングと基本的な価値観が異なります。したがってそのカウンセリング・アプローチも異なります。 ■U 自立生活モデル  自立生活モデルにおいては,カウンセラーとそれを受ける人との関係を権利者対弱者,聖職者対罪人,大人対小人関係からその人を解放することが目指されます。したがってピア・カウンセラーは医療モデルにおける専門家でなく,カウンセリングを受ける人は患者ではありません。ピア・カウンセリングは障害を持った市民が障害を持った市民になす相互扶助・成長のサービス関係なのです。  Peer(ピア)は仲間,対等者の意味であり,社会的,経済的,文化的な特性,そして障害という体験的な個性を持つ同志ということです。自立生活モデルにおけるピア・カウンセリングは同地域で生活している障害をもった市民が互いに存在を認め受容し合い,市民としての権利,役割を分かち合うことです。したがって,ピア・カウンセリングは市民啓蒙,そして医療モデルから障害を持った人々を解放していくものであり,ひいては高齢者,患者とよばれる人々と共に社会変革をもたらすものです。ピア・カウンセリングを推進することは市民同士の共感,共生,共働を強化し,市民権を成長させる,市民全体の益になるものです。  すなわちピア・カウンセリングは,ただ単に障害を持った人に障害受容をするだけのカウンセリング機能ではなく,社会人,市民としての権利,つまり消費者としての生活,自立した地域生活全般にわたって情報の交換,援助さらにリファーレル(紹介の活動)をも含むもので,一般のカウンセリングのようにカウンセリング室内だけの対話でなく地域をその場としてなされるものです。ピア・カウンセリングは,住宅,就労,結婚,教育と経済,社会,文化,リクリエーション等々広範囲にわたる相互扶助サービス機能を持っています。  図1のピア・カウンセリングの相互扶助サービス範囲にありますように,内的人格関係においては本能,無意識,意識レベルにおける配慮でその人の生れた時からの人格成長プロセスを分かち合い,個人の人格が育まれてきた家族関係,友人関係,地域環境等の個性と障害を持つ内心的プロセスの分かち合い,そしてスティグマ化された社会のネガティブな価値観からの自己覚知と解放,また身体の一部を失った障害受容のプロセスの分かち合いと,その障害からの解放が実際,ピア・カウンセリングでなされます。  図1・ピア・カウンセリングの相互扶助サービス範囲 ■V ピア・カウンセリングの領域と役割  社会的存在としての人間はミクロ領域とマクロ領域に同時に存在しています。(図2)ピア・カウンセリングは対象者である人間をホーリスティク(Wholistic ),つまり全存在的,総合的に理解していくアプローチです。医療モデルはミクロの方向性を持っていて,専門分化をし,専門別に外科・内科へと,さらに心臓内科・腎臓内科等へと細分化されていきます。科学技術と医学が連携をして,人間を物質的存在と捉え,身体部分別に,また 技術分野ごとに複雑化,細分化してきたのです。いまではDNAレベルでの医学まで登場し,染色体・遺伝子を出生前に診断し,その結果によって妊娠中絶を行うといったことまでが行われるようになっています。こうした方向の技術だけが異常に急発展する中で,人 間がマクロ領域にある存在であること,家族人,地域人,企業人,そして地球人であることを軽視する傾向が特に医療モデルにあります。病院社会はその地域社会から独立して特異な価値観,人間関係を持つコロニー化しています。そこでは患者と呼ばれる市民は身体的治療,またケアーはよくなされていますが,その人の家族,社会,地域人としての社会性,市民性はほとんど配慮されていません。企業に務めていて中途障害を持った人への企業への配慮が欠けているために職場復帰できず失業し,経済活動から疎外されたり,また,入院は単身入院なので家族への連携,配慮が欠け,離婚されていく例も多くあります。現在の医療システムは社会人から社会性,家族人から家族性を奪って,身体的機能の治療に集中しているため,医療プロセスが終っても社会復帰することがより困難となっているのです。またその病院社会は医師を中心とするハイアラーキーをなしており,患者である市民が一番低い地位を与えられていることが多いのです。このミクロとマクロの調和を取り戻すためにピア・カウンセラーは,病院社会においては,患者である障害を持った市民のpeer(仲間)として,市民権,消費者としての権利を行使するための情報を提供したり,患者と呼ばれる市民の基本的人権を擁護しつつ,さらに医療システムを市民中心のサービスシステムに変革していく役割を持っています。  既存のカウンセリングは医療モデルを基本とするアプローチが多く,行動療法,T・A(交流分析),プレイセラピー,アートセラピー,サイコドラマ等,専門分化してきています。ピア・カウンセリングはそれら分化,分裂してきている専門治療を再び総合化,統合化する機能を持っています。なぜなら,ピア・カウンセリングは技術中心ではなく障害という個性の存在全体を分かち共感,共有することによってその痛みや苦しみを共有し,共に負いまたそれを成長へと向けていくエネルギーの根源アプローチだからです。アルコール患者の会でもピア・カウンセリングがなされていますが,多くの場合,行動療法の技術を使っています。それはアルコール依存性の行動をなくす行動療法なので十分効果がありますが,障害を持った人々のピア・カウンセリングとは本質的に異なります。障害を持つ人のピア・カウンセリングは,ただ単にある特定のネガティブな行動をポジティブな行動に移行させるのではなく,障害を持った人の本質的市民生活への援助であり,その人の人格の成長から社会生活への援助へと根本的かつ広範囲にわたってなされるからです。  図2にある人間のミクロとマクロの領域で言いますと,伝統的なカウンセリングは医療モデル中心で,人間・身体・精神と個を中心としてなされ,マクロの方向性を持ったファミリー・カウンセリングも家族間のコミュニケーション,感情の治療までで,その家族の市民権,さらに地域生活における市民としての消費者意識,その連帯,社会啓蒙,改革までをそのカウンセリングの範囲に入れていません。そこでは専門分化されて,コミュニティ・ワーカーはカウンセリング職ではなく,他の専門職と分類されています。ピア・カウンセリングは,実に,この身体器官の障害から身体のケア,個人の精神面,そして家族,地域生活そして社会変革に及ぶものであり,さらに最近ではエコロジーへの参加も必要になってきました。自然を守り,空気や水の汚染を防止することが市民生活の質の向上になるからです。ですからピア・カウンセリングはこのミクロとマクロの領域を十分認識してなすアプローチであるとも言えます。  多くのカウンセリングのアプローチは対象者のみの分析そして治療を行ない,カウンセラー自身は別に自分の事を分かち合う事がありません。そこにおけるカウンセラーとクライエントの関係はまさに医師と患者の関係と本質的には同じです。しかし,ピア・カウンセリングでは,カウンセラー自身の生き方,痛み,障害,そして受容,成長を,障害を持った仲間に共感,共有してもらうことによって,その仲間の生き方,痛み,障害にふれ,共に「仲間(ピア)」意識を持つプロセスそのものがカウンセリングになっています。ですからカウンセラーとその対象者の関係は同じ様な体験をしてきた仲間,友人,そして市民,つまり消費者同士ということになります。  ピア・カウンセリングには共に成長するという特徴があります。それだけでなく障害を持った仲間が障害を受容し,社会参加していくようになると,同じ市民としての共生,共働感がそこに生じてきます。つまり草の根運動になるのです。マクロの領域の地域社会においてはコミュニティ・ワークに参加することになります。したがってピア・カウンセリングは人間性回復へのアプローチであり,そしてさらに市民権獲得のための草の根運動でもあります。 ■W 今後の展望  現在,日本におけるカウンセリングは病院組織等の医療機関または教育機関を中心になされ,市民中心の草の根的カウンセリングは十分芽を出していないようです。実際,多くの障害を持った人々は,病院やリハビリテーション施設,あるいは養護学校,収容施設のような一般社会から切り離された状態でカウンセリングを受けているのが現状です。そしてそのほとんどは医療モデルを使っているので,専門分化され,さらに資格試験等をも要求されています。そこにおけるカウンセリングの効果は個人の痛みを一時的に取り去る事ができても,その障害を持った人が社会参加をして自立していくプロセスを継続して援助することからはかなり程遠いものです。ピア・カウンセリングは病院,福祉,教育機関から市民生活へと一貫してサポートするシステムで,とても有効ですが,そのピア・カウンセラーを雇用することが困難です。その理由は,以下の3つに要約できます。  @日本において市民運動が十分啓蒙されておらず,ピア・カウンセリングの基本理念が十分関係機関に理解されていない。  A現在,医療と福祉,教育,さらに地域生活への協力体制が法的,行政的に確立されていないため,実際にはピア・カウンセリングを受け入れるシステムがない。  B物質的技術に対しては目に見える効果があるが,目に見えない心,連帯感に対してあまり価値がおかれていない。つまりカウンセリングそのものがまだ未熟期にある。  したがって,ピア・カウンセリングを推進するためには,生涯市民教育の中に市民運動をとり入れ,社会全体の啓蒙を行うことが必要です。そして,障害者関係の法律の改正等を行うなど法体制を整え,さらに行政の施策においても,また民間のレベルでもピア・カウンセリングに市民権を与えていくことが必要です。さらに,物,技術中心の生活から心を育てる文化を創り出すことも大切です。  今後のピア・カウンセリングの発展はまさに障害を持った人々の草の根運動にかかっていると言っても過言ではないでしょう。 ▲2▼  自立生活センターの活動とピア・カウンセリング  中西正司  ここではピア・カウンセリングをその活動の中に取り入れることによって,有効に機能している自立生活センターの活動について述べる。 ■T 自立生活センター  自立生活センターとは,障害者ができる限り自己コントロールを行い,地域で生活していけるようにサポートするため,さまざまなサービスや情報を提供する障害者自身が運営する組織である。  JIL(全国自立生活センター協議会)★01では,自立生活センターの基準を以下のように定めている。  (1) 運営責任者と実施責任者が共に障害者であること  (2) 運営委員の過半数が障害者であること  (3) 権利擁護と情報提供を基本サービスとし,且つ次のサービスの内2つ以上を不特定 多数に提供していること @介助サービス  A住宅サービス   Bピア・カウンセリング  C障害の種別を越えサービスを提供していること  さて基本となる4つのサービスの中でピア・カウンセリングはどのような役割を果しているのであろうか。それを知るためには介助サービスと自立生活技能プログラムを概観してみる必要がある。 ■U 自立生活センターのサービス □1 介助サービス  これまで家族の庇護のもとや隔離された施設の中で無為な生活を送ってきた障害者が,地域での自立生活を目指そうとした時,まず必要としたのが介助サービスであった。これまでの公的なヘルパーや私的なボランティアに頼る不安定な生活から,自らが自立生活センターを設立し,サービスの提供者として介助の質と量を決定しようとしたことは大きな進展だった。私達は福祉サービスを利用する消費者としての力を自覚したことを越えて,サービス提供の主体となったのである。  障害者福祉・障害者運動の歴史の中で,障害者自身が福祉サービスの担い手として登場したことはこれまでなかった。またサービスの運営責任を担える存在としてこれまで扱われたことはなかったし,その能力は過小評価されてきた。しかし超高齢化社会を目前にして,わが国でも地域ケアの充実の必要性が認識されるようになり,介助サービスが注目されるようになってきており,その中でも当事者の提供するサービスの質の高さは立証されつつある。これは,公的なホームヘルパー制度の充実したスウェーデンにおいても,いま当事者の主催する介助利用者協同組合が大きな影響を行政に与えており,福祉サービスの転換を惹き起していることと軌を一にしている。★02  ただ,自立生活センターにおける当事者主体のサービスは介助サービスだけではない。障害をもつ当事者の能力が一段と鮮やかに発揮されるフィールドが自立生活技能プログラムやピア・カウンセリングである。 □2 自立生活技能プログラム  重度の障害を持ちかつ地域で自立して暮らすためには,特殊な技能や経験の積み重ねを必要とする。自立生活の経験豊かな障害者が自立生活スペシャリストと云われるゆえんである。  介助を受けて生活するためには的確な指示を与え,時に介助者を励まし,叱り,褒めることが必要である。介助の利用者は雇用者・経営者としての才覚を必要とする。これを獲得するためにはトレーニングが必要となる。この他にも障害が必要とする社会的資源の利用の仕方,車イスを使っての外出,調理等のクラスが必要である。これらを自ら長年にわたる自立生活の経験を経てきた障害者がスペシャリストとして対応するところが,これまでのリハビリテーションの体系を越えるところである。 □3 ピア・カウンセリング  この自立生活技能プログラムのリーダーである自立生活スペシャリストは,単なる生活技術指導者にとどまらない。精神的な面でも自立を支えるピア・カウンセラーとしての役割も同時に必要とされる。この点が自立生活の分野の特殊性ともいえる。  障害を持つ者は「障害」をマイナスのイメージとして持っていることが多い。障害に基づく悲しく痛ましい経験が過去に積み重ねられているためである。また「自分には○○ができない」と諦め,やりたいことでも我慢を強いられてきている。「何時でも何処でもどうぞ来て下さい」と社会が受け入れ態勢を取ってこなかったからである。これらの状況と情報の不足が,障害者の中に防御的で消極的な思考パターンを作り出している。  ピア・カウンセリングの理論が有効なのはまさにこの局面においてである。この理論の前提は,人間は本来知的で創造的で理性的で力強く生きる力を内面に備えているというものである。ピア・カウンセリングにおいて重要なことは,話を十分聞き,自分の問題を自分で解決するよう,自分の力を信頼し,立ち上がれるように援助していくことである。 ■V  ピア・カウンセリングから社会の変革へ  ピア・カウンセリングは障害の原因をその個人の内に探索するのではなく,社会の中や周囲の環境の未整備の状態の中に見いだしていく。その結果,自立生活センターは介助,住宅,公共交通や建築上の障害,職業問題,それに個人や地域レベルでの権利擁護など様々な問題に取り組んでいくことになる。  社会の改革が一歩進むと,それは障害を持つ当事者にフィードバックされ,さらなる自立を促す。それは次の変革を導き,波及的に発展していく。例えばピア・カウンセリングでクライエントの悩みの根源に介助者の不足の問題があることがわかると,これが障害を持つ者に普遍的な問題として自立生活センターで取り上げられ,行政へ要望される。長い戦いを通して介助料の支給制度が確立されると,自立生活をする障害者の生活の質が変わり,教育への渇望が高まる。すると大学入試の筆記の問題,校舎の建築上の問題などが次のステップで取り上げられる。  このようにピア・カウンセリングは自立へのきっかけづくりの場面,次のステップへの転換点で大きな役割を果す。ピア・カウンセリングが有効なのは,同じ障害を持つ者同士であることからくる深い理解と洞察がカウンセラーから与えられるからである。障害者はこれまで親,教師,リハビリテーションの専門家などから指示や助言はいやという程受けたが,話を聞いてもらえることはほとんどなかった。  障害者は自立へ向っての不安を十分に聞いてもらう必要がある。そして自らの内なる力を確信できたとき,自立への第一歩が始まる。感情の解放が特に許されない社会の中で,私達は喜びも悲しみも押し殺してきた。その人生の中で,泣くこと,怒ること,震えることなどすべての感情表現は本来の自分の本性をとり戻す上で必要なことであるという。この理論的裏付けのもとに解放を奨励することは,新しく生まれ変った自分を発見するために重要なプロセスである。 ■注 ★01 「全国自立生活センター協議会(略称:JIL)」は,全国各地の自立生活センターが連帯することにより,組織強化,財政基盤の確立に必要な援助を行い,運営や人材育成,サービスの研究・情報提供を行うことを目的に,1991年11月に設立された組織である。92年4月現在,本文に記した基準を満たして協議会の正会員になっているセンターは,27を数える(正会員の年会費は50,000円。代表:山田昭義(車いすセンター事務局長),事務局長:中西正司 事務局:〒112 文京区関口1-16-1東海文京マンション701 TEL & FAX03-3235-5637) ★02 ラツカ[1991=1991]。 ■参考文献 安積 純子 編 1989 『自立生活プログラム・マニュアル』,ヒューマンケア協会 中西 正司 編 1992 『自立生活への衝撃――アメリカ自立生活センターの組織・運営・財務』,ヒューマンケア協会 Raztka, Adolf D.(ラツカ,アドルフ・D) 1991 Independent Living and AttendentCare in Sweden : A Consumer Perspective.=1991 加東田 博,小関・ダール 瑞穂訳,『スウェーデンにおける自立生活とパーソナル・アシスタンス――当事者管理の理論』,現代書館 United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific 1991 Self-Help Organizations of Disabled Persons. UNESCAP, Bangkok ▲3▼ 障害をもつ人とピア・カウンセリング  安積 純子 ■T はじめに  日本の障害者の運動の中では市民意識の啓蒙や物理的状況の改善などの対社会的な活動が世間の注目を集め,自立生活運動はまるでそうしたものだけであるかのような認識がされてきた。しかしこうした運動★01の中で,当事者者同士が相互に援助しあい,自立生活を実現させてきたその事実,歴史を見れば,明確な理論に基づいてはいないにしろ,実質的なピア・カウンセリングが行なわれてきたと言って過言ではない。仲間同士の相互援助,つまり的確な励ましや,既に施設や親元を離れて生活している障害者がこれから自立しようとする仲間に対して示すロール・モデル(role model,role=役割)的有様など,体系づけられ定義されないながらも,ピア・カウンセリングと呼ぶに値するサポートが実際的に行なわれてきた。その歴史の中から,日本の自立生活障害者の群れが,時代の中に現われ出て来たのである★02。  ただ,これから述べようとするのは,その歴史に学び,手法として体系づけられたピア・カウンセリング理論である。相互援助の方法も,役割意識を固定化するというのではなく,柔軟性をもちながらも,単なる会話や話し合いに流れることのない,特別な時空間,つまりピア・カウンセリングの時空間を作り出すことで,効果は何倍にもなっていく。歪んだ現実,つまり抑圧と傷にみちた状況の中では,私達が本来相互に助け合いたい存在であるということが容易に忘れ去られるのだが,ピア・カウンセリングは,特別な時間を設定することにより,その本質を繰返し取り戻していこうとするのである。  こうした意味でのピア・カウンセリングが,障害をもつ人の間で着目され急速に広まったのは,1970年代のアメリカにおいてであった。黒人解放運動や,女性解放運動などの公民権(人権擁護・獲得)運動を背景に,障害をもつ人の間でも,その人間的尊厳や権利の回復のために,自立生活運動が開始されていく中で,ピア・カウンセリングが障害者リハビリテーションの分野に次第に進出していったのである。  その時まで,障害者リハビリテーションは専門化され,専門家による不可侵の牙城として存在していたのだが,当事者による公民権運動は,その垣根こそ差別,抑圧の壁であるとして,当事者によるカウンセリングの必要性を高く掲げたのであった。ピア・カウンセリングという名称は,A.A(Alcholic Anonymus)やシナノン(Synanon)など,アルコール依存の問題を抱える患者同士のカウンセリング,サポートに範をとったことにも由来するが,自立生活運動の中で,仲間同士の援助の有効性が更に深く認識されることになった。自立生活運動(IL運動)の「当事者こそが,専門家である。」という主張が具体的な形をもったものが,「自立生活センター」の運営であり,ピア・カウンセリングなのである。 ■U ピア・カウンセリングの実際 □ピア・カウンセリングのゴール  ピア・カウンセリングとは,よく似た背景・育ちの歴史,あるいは共通の体験(隔離,被差別)をもつ者同士が,効果的に助け合い,自己信頼を培い,人間関係の再構築を図っていこうとすることである。先に述べたピア・カウンセリングの始まりとなったアルコール中毒からの回復を図ろうとするピア・カウンセリングでは,12ステップに基づく話の聞き合いが主であるが,障害を持つ者達のカウンセリングには話の聞き合いを中心に様々な手法がある。被抑圧状況からの解放のため,具体的には,自立生活に向けた取組みが中心となるゆえに,それぞれの障害の特徴に関する情報の交換や知識の提供から,自立に向けての権利擁護のためのアドバイス,そして個人的な援助,側面からの援助など,そのアプローチは多岐にわたる。そして,その目指すところは,自己信頼に基づいた自己選択と決定が力強くできるようにすることなのである。  ピア・カウンセリングの目的に従ってなされるのは,以下のことである  ○自己信頼の回復のために  ・自分が何を望み,何を必要としているのかを知る。――目標の明確化  ・それを獲得するために,何が妨げになっているかを知り,充分な気持ちを表現する。――感情の解放  ・それが充分になされたあとで再評価を行なう。――目標の修正は必要か,あるいは獲得の方法に他の可能性が探求できるかなど。  〇人間関係の再構築のために  ・自己イメージの一新。  ・関係性の再考と再評価。  ・積極的なサポート関係性をカウンセラーとの間で作り上げ,それを手始めとしてさまざまな人との関係性を作っていく。  以上のガイドラインに着目しながら,ピア・カウンセリングを進めていく。 □ピア・カウンセリングの人間観  ピア・カウンセリングでは確固とした人間観を持つことが必要である。それは,「全ての人間は,知性,創造性,喜びにあふれ,愛し愛されたい,助け合いたい存在である」という,肯定的,積極的な人間観である。これは,人類が他の生物の絶滅の歴史に抗して生き延びてきたことからも,全く疑いようのない真実なのであるが,そうであるがゆえに,全く傷つきやすいという反面を持っている。生れた瞬間から全く無防備に人間のその本質を信じて,愛と創造性を信じてやってきた赤ん坊は,ほとんどの場合,その本質にゆったりとくつろいで生きている親や周りの人々に出会えない。様々な恐怖でカチンカチンになった人々の傷にさらされて,その恐怖と傷を自分の中にも伝染させ取り込んでいく。愛ゆえに,人類は,自立するまでに何年もかかるその子供たちを育んできた。そして,またその愛の傷つきやすさゆえに,人類はいまだ,戦争や飢餓,暴力や虐待などの悲惨な歴史を止めることができずにいる。ピア・カウンセリングはそうした大局的な状況変革のための,ちいさくて,確実な道具である。後ほど,傷のメカニズムを述べるが,ここでは,その人間観をもう一度繰り返しておく。なぜなら,それなくして,ピア・カウンセリングの進展はないのだから。  「全ての人間はあふれるほどの創造力と,知性,喜びを持ち,愛と助け合いたいという気持に満ちた存在である。」  ただ,この人間観を頭の中で廻しているだけでは意味がない。ピア・カウンセラーのトレーニングでは,この人間観を心の底から感じ,理解するために,自分の傷の癒しのために多くの時間が費やされる。傷つけられ,いためつけられ,さげすまれてきた個々の障害者の歴史を振り返るならば,積極的な人間観の構築は容易なことではない。人間的尊厳や誇りなど,全く無きがごとくに扱われ,施設に収容され,親もとに放置され,見せ物にされ,哀れまれ,侮辱されてきた中には,すさまじい劣等感と根本からの自己否定感があるばかりである。それに対抗して,確実な人間観を育てるのに最も力があるのが,ピア・カウンセリングの中で進められる,感情の解放である。 □傷のメカニズム  ピア・カウンセリングで直面するクライエントの傷はいったいどこからもたらされるものなのだろうか?ここでいう傷とは,自己嫌悪,自己否定をもたらす様々な過去の記憶のことであり,人々との快い関係の構築をはばむ,恐怖や不安の投影のことである。傷がもたらす,私達の明晰な思考への妨害は,私達の日常や関係を混乱と混沌に突き落とす。  ピア・カウンセリングの中で行なわれる感情の解放は,この傷からの回復を目的として行なわれる。が,ここではそのまえに,傷とは何かをよく見ておこう。傷は次のようなプロセスで私達の内に深く入り込む。  @アクシデント  子供が親からはぐれてしまうこととか,不慮の事故による喪失感,欠落感,力が及ばないという無力感など,偶然,たまたまにおきた偶然で,私達の心は容易に傷ついていく。しかし,もしうまく感情の解放が行なわれて,癒しの機構がきちんと働けば,アクシデントによる傷は,すぐに修復が可能なのだが,その癒しの機構自体が,社会的なまなざしや抑圧を受け,作動を阻まれている。つまり,人前で悲しみから立ち上がろうとして泣いたり,震えたりの癒しの行為は,全く奨励されないどころか,あきらかにきらわれ,意図的に回避されている。アクシデントによる傷が,それでもいくらか癒されるのは,幼児期の初期のうちで,その後は,癒しの行為自体への抑圧と共に,小さな傷がたまりたまって深い傷となったり,大きな傷となったりしていくのだ。  A伝染  子供の頃なぐられた人は,自分が大人になってから,子供に同じことを繰り返すという心理学上の研究調査がある。ほとんどの親が,自分が小さかった時にされた様々なネガティブな対応――軽いからかいから虐待まで――を自分の子供に繰り返している。これを避けることは困難だ。伝染は,自分が果たせなかった無念の思いを,役割を交代することによって,なんとか,そこから脱出したいとする叫びであるともいう。傷つけられた時に「助けて!」と言えなかった幼い自分を目の前に登場させることで修復の可能性を探ろうというぎりぎりの背水の陣なのだ。例えば,子供に性的虐待を行なう大人の70〜80%が,自分が幼い時にそれと同様の体験をしているという報告は,人間救出への要求を如実に示しているといえる。しかしその方法があまりにも未熟であるために,悲惨な事態が子供たちに伝染し,継承されてしまう。それは暴力だけにとどまらない。無力感や疎外感であっても同様で,子供に繰り言のように無力感を吹き込んでいけば,その傷は確実に伝染していく。あるいは,自分が何もできないと思うがあまりに,がんばりすぎることで,その傷と直面することを避けようとする親を見て育った子は,同じように限界知らずにがんばり続けることによって,自分の存在証明を得ようとするか,あるいは,そうすることさえ放棄して,自分の中に力への恐れを内包させたまま,「おまえはダメだ。」という親の言葉に終生縛られていくかもしれない。伝染が恐ろしいのは,それが自分の救出を求めての無意識の故意であることである。競争に勝つことこそ,人生の最終的ゴールと考える親の元に育てば,その傷は伝染・踏襲されて,人生を戦場視する見方が養われるだろう。  誰にとっても子供時代に最も身近である人からの傷を避けて育つのは不可能である。ピア・カウンセリングに登場する障害者も,もちろんその例外ではない。障害児を初めて我が子にする親にすれば,障害を持った子を産んだ事実は,その直後には,その生涯の最大の失策,不幸の源というふうに傷となるから,その絶望感,してはならない間違いをしてしまったという驚愕や欠落感は,見事に障害者本人に伝染し,障害を持つことによる自己否定感に支配されていく。先天性障害であれば,その動かぬ体や手足,見えない目や,聞こえない耳は,その子にとっては,ごく自然の一部であるはずだが,それがおのれにとっての自然と気づくまでには,親やまわりの人の傷からいかに自由になるかのピア・カウンセリングが繰り返し必要である。  B抑圧  抑圧は,ある組織的な集団が他の集団に一定の傷を集団で伝染させることである。最もわかりやすい例が,白人の有色人種に対する意識的,無意識的抑圧の様々だろう。意識的抑圧の内実としては,ある一定の内的恐怖が探求,解消されることなく外側に対象を求めて表出する時,恐怖は力を持って全く不条理,不定形の抑圧となる。無知ゆえに生ずる抑圧に対抗するために,人類は様々な情報網を作り出し,無知からの脱出を計ってきた。ハイテクが地球の津々裏々に行き渡る現代,原始的な自然に対する畏敬の念も含めて,無知蒙昧な抑圧に対する挑戦が始まっている。しかしそれと同時に,資本の所有を背景とした力の抑圧は,性,人種,障害のあるなし,年令等に関わる様々な抑圧と重なり,ますます全地球的な規模で拡大しつつある。東西冷戦の氷解は一つの人類の英知の勝利であるが,更に拡大する南北問題は,経済的抑圧の悲惨を極めつつある。こうした抑圧の構造が,個々人の中に入り込んで,明晰な思考を妨げること,それが抑圧による傷である。例えば,障害を持つ者は障害を持たない集団の中に少数者として存在し始めることが多く,その抑圧は,集団による力を伴った,厳しく激しいものとなっている。役立たずとか,使いものにならないとかの無能力感に始まる否定感は,障害者の潜在意識までを支配する組織的抑圧である。 □ 感情の解放  1.感情の社会的位置  以上のような傷の様々をどのように癒していくことができるのであろうか?  それをピア・カウンセリングでは感情の解放を通じて行なう。感情の解放,それは体を使ってなされる表現であり,体の中にある生命力に根ざしたパワフルな活動である。  泣く,笑う,震える,あくびをする,汗をかく,癇癪を起こすなど,体を通して表現される様々な感情は,表現されることによって,明晰に,理性的に,考える力を呼び戻してくれる。私達のこの社会と個人の意識内の混乱が,なぜこのようにも恒常的に続いてきたか,その謎をとく鍵が,この感情の解放という点にあることが,ピア・カウンセリング(正しくはそのバック・ボーンとなってきた再評価 re-evaluation のカウンセリング)の歴史の中で,確実に証明されてきた。感情に対する否定的なまなざしは,歴史上一度も疑われたことがなく,そのために感情は,あってはならないかのような扱いを受けつづけてきた。それは個人の中にある大切でパワフルなものであるにもかかわらず,まるで障害のない人々の中の障害者,圧倒的白人社会の中での有色人種,大人社会における少数の若者のように無視され,さげすまれてきたという事実を踏まえ,ピア・カウンセリングでは,その存在を 100%許し,受け入れるのである。一人の人間の内部を社会とするなら,理性的部分,言語を組みたて思考を明確化する部分にだけ価値が払われ,感情については,子供っぽい,大人げない,女々しいなど,社会に存在する抑圧構造をそのまま借り受けた抑圧がなされてきた。悲しい,苦しい,恐い,うれしい,楽しいなど,ほとんどの文化においてそれを感じることまでは許されてきたが,それを表現すること――泣く,笑う,ふるえる,汗をかくなど――は全く否定的なまなざしを注がれてきたのである。  2.なぜ,感情の解放が大切か  障害を持った人の存在が,自然の理の中に必ず一定存在するように,様々な人種が多種多様な文化を作りだし,その総体としての地球がダイナミズムに溢れたものであるように,存在するものを認めること,認めるだけでなく,許し,表現しうるものなら表現することは,存在に対する基本的な敬意の表明である。つまり,誰一人として隔離・排除されたくないのと同じく,一人の人間の中にある感情も存在を認められ,表現されることにより,両輪の一方である理性をさらによく働かせていけるのである。ところが,この社会は,その感情の動きを認めず,それどころか,抑圧の限りを尽くしてきたので,傷から回復する機会をことごとく逃してきたのだ。  ピア・カウンセリングは,感情の解放を正しく道具として使いきることで,明晰で合理的な思考を取り戻そうという機会である。ピア・カウンセリングは,この抑圧的な社会にあっては人為的に作り出す必要のある,特別な癒しの時空間であり,そこから波及する助け合いのネットワーク,サポーティブな人間関係なのである。 □ピア・カウンセリングの技術  ピア・カウンセラーとしての大半は,自分の傷をみつめ,感情を解放し,自分の心にも他人の心にも人間への愛と信頼を取り戻すことにあてられる。それは,下記のような技術を使いこなすための前提となる重要な期間である。  基本的なカウンセリング技術は次の三つである。  1 聞くこと  真剣に,愛を持って聞いているよということを伝える聞き方をすること。あくまでも聞くのであって,好奇心や興味に基づいた質問はしない。穏やかに,ゆったりと聞くこと。  2 的確な受け答えをすること  カウンセラーは,クライエントを誰よりも信頼することが必要である。つまり,クライエントに意見をしたり,批判をしたりすることは避け,あくまでも感情の解放を促すという点に着目した受け答えをすること。そして,受け答えの中に,充分受け入れているよということを示すこと。受け入れられているという安心感は,感情解放のための最も基本的な前提である。  3 問題解決をはかろうとするクライエントに様々な協力,サポートを与えること。  一回の面接で,充分な問題解決の方向を見い出す人もいるが,ほとんどの場合,連続的カウンセリングが必要である。その場合,何を解決しようとするのか,どのような傷を癒そうとするのかなど,目標を立てることが大切である。クライエント自身の立てた目標に合せて,具体的サービスの提供によって,援助可能という場合には,情報の提供や,資源活用も適宜行なう。  これらの基本的技術に加えて,物理的条件整備――安心感がえられ,リラックスできる場の確保――や,日時の打ち合せや,カウンセラー側からの対面中の信頼感の表現などは,さらに基本的なことである。 □対等な関係でのピア・カウンセリング  ピア・カウンセリングの中でのカウンセラーとクライエントは,全く対等な関係で支え合う。もちろん,ある特定の時間内において,カウンセラーとクライエントという援助関係を作りだし,その間においては,クライエントは助けられる側,カウンセラーは助ける側と認識され,その関係の構造は,愛を受ける者と愛を与える者,という関係であるが,愛を与える者は,受けてくれる者があって初めて与えることが可能となるわけで,クライエントの存在なしにカウンセラーはありえない。つまり,一方が一方の存在意義を証明するという点において,全く対等な関係なのである。二つ目に,もっと実際的な意味でピア・カウンセリングは,対等である。“ピア”という言葉にも象徴されるように,そこには専門性の幻想は見事に排除され,ある一定のトレーニングを積めば,ほとんどの障害を持つ人々が,ピア・カウンセリングを行ないうるのである。つまり,ピア・カウンセリングが必要だと感じる者が,最初はクライエントとして話を聞いてもらっても,次には今その時までカウンセリングをしてもらった人の話を聞いてやる立場,つまりカウンセラーとして立つことができるのである。実際,ピア・カウンセラー同士のカウンセリングはカウンセリングの時間を分けあってカウンセリングしあうという文字どおり対等なカウンセリングとして行われることが多い。  カウンセラーとクライエントの役割はつぎのとおりである。  ◎カウンセラーの役割  クライエントを信頼すること。カウンセリングは,クライエントへの信頼に始まり,信頼に終わるといっても過言ではない。人にさげすまれ,否定されてきたクライエントの歴史に終止符を打つためには,クライエントへの信頼こそが重要である。人は信頼されることによって,自分の力の最大を発揮しうる。まずその人間関係の基本をカウンセリングの中に無条件に整えること。そうすることによって,クライエントは自分の全存在を受け入れる手がかりを得る。具体的には,カウンセラーは,あくまで話されている内容がクライエントのものであることを忘れることなく,その傷に巻き込まれることなく,常に注意深く,落ち着いた態度をとること。そしてクライエントに代って物事を決定したり,批判したりせず,あくまでも,クライエントを支持し,励まし,クライエントの人生はクライエントのリーダーシップにかかっているのだという自覚を得るためのサポートに撤すること。(支持や励ましが,過剰な要求がましいものにならないよう,気をつけること。)  カウンセリングの時間はクライエントを愛しきること。人間の本質である,知性,創造性,喜びに満ち,愛と助け合いたさを持ち合った存在であることを,常時自分のものとしていくために,カウンセリングの場は,カウンセラーにとっても,チャレンジングな場である。クライエントの問題のほとんど全ての根底にあるのは,信頼と愛を充分得られなかったための欠乏感からくるものだから,その時間だけであっても,それが否定されれば,非常に効果的なカウンセリングとなる。具体的には,「私あなたを信じ,愛してるょ」,「愛していいんだょ」と言って,手を握ったり,まなざしをきちんととらえたりすることや,感情を解放して,泣いたり,笑ったり,震えたりが始まったクライエントには,それが中断されないように,やさしく励まし続ける。  ◎クライエントの役割  クライエントは,カウンセリングを自ら信頼し,カウンセリングを通じて問題の解決や傷の癒しををはかるのだという,権利と責任を主体的に自覚する。このクライエントの側の自覚の深さと確かさという点に,ピア・カウンセリングと他のカウンセリングの違いがある。クライエントは自覚を持った主体として,カウンセラーの信頼と愛の中に自分の問題と傷を解き放ち,積極的に感情を感じ,表現する。もちろん,そうできない,したくない思いや,恐れを自由に話してよいし,ここは,それを充分に受け止めてもらう時間でもあるのだ。  時間を有効に使い,ゴールを見定める。クライエントはクライエントに与えられた時間を完全に自分のものとする。そのために,カウンセリングで何を話題とするか,ゴールはどこなのかを,考えられる範囲で考えておくとよい。与えられる時間は有限である。その有限な時間を,自分のために使いきることが,クライエントに課せられた唯一の役割といえる。そのためには,自分の考え,恐れ,不安,喜びなどの感情の全てを言語化してよいし,身体で表現することも一つの方法である。例えば,枕やクッションを使って怒りを表現するなど。 □ピア・カウンセラーのロールモデル的位置  ピア・カウンセリングが着目されてきた理由の一つに,歴史上ロールモデルを持たなかった障害者達の生活に,ピア・カウンセラーという目標となりうる主体的生活者を現出させてきたという点がある。今まで,施され,与えられ,助けられるだけだった障害者の世界に,与え助けることのできる存在の登場は,それだけで画期的であった。一方的な関係性を断ち切り,今,自分の持っている資源を最大限に生かすことで,社会的貢献につなげていこうとする,その可能性の探求は疎外感,無力感,自己否定感を共有する仲間たちの間にあって,強烈に生きようとする意志と力を再生させる役割を果たしている。  実際,自立生活センターの中に職域としてピア・カウンセラーが登場する中で,ピア・カウンセラーは自立生活者としての生活モデル的役割を果たし,その体験を伝達して,比類ない効果をもたらしてきた。例えば,自立生活プログラムのクラスにおいて,リーダーをつとめたり,生活技術上のあらゆる相談に乗るという役割の他,ピア・カウンセラーの生き様に,クライエントは,自分の人生に対する重要な励ましやインスピレーションを見ることがある。面接の時間中カウンセラーに質問するクライエントは,彼/彼女に忠告や意見を聞こうというだけでなく,生活をピア・カウンセラーが,一人の先達としてどのようにクリアーしてきたかに全身で注目と敬意を払っているのである。その時必要であると感じたら,自分の人生のいくばくかを分かちあうことは,もちろん大切なことであるが,あくまでも,カウンセリングはクライエントの時間ということを忘れず,クライエントに自分の時間として,それを使うよう注意を返していく。 □ピア・カウンセリングの社会的役割  ピア・カウンセリングがめざすものは,自己解放を通じての社会変革である。カウンセリングの時間中カウンセラーとクライエントである二人の関係は,社会的に一歩踏み出した時,人間関係のモデルとなりうるものである。社会の抑圧や差別を変革するための小さなモデルとなりうる,関係性を作っていくことと,対社会的には,大いなる差別,抑圧の変革の道具として様々な役割をもつ。対等に支えあう関係を実現することによって,それを波及させるために,ピア・カウンセラーは,行政,制度に対する働きかけ,あるいは,他のカウンセリングの紹介なども行う。自立生活を具現化することによって抑圧的社会構造を変革していくために,ピア・カウンセラーの役割は,重要な位置を荷う。 ■V 終わりに  ピア・カウンセリングの基礎となっている再評価(re-evaluation) のカウンセリングは,アメリカでは,ありとあらゆる層に行き渡ってきつつある,力強い実践論である。障害者間だけでなく,若い学生間や,エイズ患者同士,あるいは,ホモセクシュアルであることで,スティグマを貼られた人々同士など,背景,バックグランドを共通とする者同士のサポートグループでの方法論としての他,サポート関係をもつに遠いとされた人々との間,人種差別に閉じられてきた白人と黒人,有色人と白人の関係や,大人と子供,障害を持つ人と持たない人の間にも,真の人間解放とサポート関係を樹立するために,どんどん広がってきている。人類全体が,ピアであることを自覚し,互いに助け合い,感情も理性も丸ごと認めあう社会をつくるまで,ピア・カウンセリングのチャレンジは続いていくのである。 ■注 ★01 具体的には,1970年代初頭に始まる各運動体による映画製作や上映の活動(大阪青い芝の会,福島青い芝の会等),講演会・学習会の開催,また交通機関の差別性を突く公共バスへの座込みや運輸省交渉,教育差別をついての1979年養護学校義務化阻止のための闘争など,当事者の運動は,ラディカルに,継続的に行なわれている。 ★02 安積純子・岡原正幸・尾中文哉・立岩真也『生の技法 「家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(1990年,藤原書店)参照。 ▲4▼ ピア・カウンセリングの歩み  野上 温子 ■T ピア・カウンセリングの登場まで □1 登場以前  これまで障害者を取りかこむ人々は,彼らを保護する立場の人が多く,障害者の多くも,守られ依存する者として,周りの健常者の職員や介助者,親達に,頼っていることが多かった。その結果,こうした人々から一方的に,こうしたらいいとアドバイスされ,激励されることが多かった。問題解決をはかり元気を出そうとがんばってみても,自分の実際生活とはかけ離れていて,余計挫折してしまうというパターンも多かったであろう。  では80年代後半まで日本の中で障害者に対する仲間同士のサポート活動は,どうであったろうか。地域の作業所や訓練施設の中で,先輩格の人が後輩に対し,悩みを聞き,様々なアドバイスをするといったことはおこなわれていた。また地域生活の中でも,障害者運動の中で情報交換や助け合い,悩みを聞き合うなどを通して,権利擁護の戦いや,自立へ向けての運動が取り組まれてきている。また様々な自助グループにも同じことがいえる。ただそうしたものは,明確にピアという視点,カウンセリング(サポート)という視点を持ってはいなかった。  また,わが国で制度化されているピア・カウンセリラーに近いものとしては身体障害者相談員があげられようが,この制度がうまく機能しているかというと必ずしもそうといえないようだ。全国都道府県や各市に障害者センターがあり(一部は市役所内),そこに行政から任命された身体障害者相談員が配置されている。障害種別によって各相談員がおり,この相談員の多くは自らも障害を持つ人であるが,一部健常者で学識経験豊かな人もいるようである。この相談員が全員障害者で,ピアの視点に立って,カウンセリング技術を勉強した人が当っていければ,その存在は価値あるものとなっていくと思えるのだが,障害を持つ相談員が相談に当たる場合であっても,ピアという視点は薄いようである。個々の相談員がどのような人達で構成されているかわからないが,おおむね相談件数が少ないようで,気軽に相談に行きにくい理由があるのではないだろうか。相談員が地域の名士であって,相談しにくい雰囲気がある,場所が遠い,お役所の感じが強い,等といった理由が考えられる。 □2 ヒューマンケア協会の設立  他方,アメリカにおいては1970年代より自立生活センターを基盤に,ピア・カウンセリング(ピア・サポート)活動が取組まれてきたという。日本でこの言葉が聞かれるようになったのは,80年代に入ってからである。83年の日米障害者自立生活セミナーで米国の障害者が来日★01した時に,またミスター・ドーナツの研修生★02などから,ピア・カウンセリングという言葉は伝えられていたと思われるが,それがどのような方法でおこなわれるのか,はっきりしなかったというのが実情だろう。これが日本で実際に行われるには数年を要することになる。  1986年,筆者が運営に関わっているヒューマンケア協会が設立された。その発足時に,事業を展開していく中でピア・カウンセリング(サポート)がどうしても欠かせないものであるとの認識がスタッフの中で共有されていた。例えば,介助サービスを提供していく上で,介助者との人間関係,介助者をうまく使っていく上での様々なピアサポートが必要となる。また,自立プログラムを提供していく上では,介助の場合以上に具体的な悩みや,日常生活上の相談に乗る必要があり,またプログラムを展開していく上で,カウンセリング技術を使うことの有効性が明らかになった。日常的にも事務局に様々な相談者や電話があり,ピア・カウンセリングは,重要な柱となった。  先にも述べたように,これまでも障害者同士によるサポートはあったわけだが,これをヒューマンケアの活動の中にはっきり位置づけるには,どうしたらよいか,スタッフ一同で話し合いがおこなわれた。アメリカの自立生活センターでは,ピア・カウンセリングが事業として機能しているということも知っていた私達は,ピア・カウンセリングを,きちっとした形で位置づけるべきであると考えた。また,ピア・カウンセリングを行う者は,最低のトレーニングを積み,また他の障害者のロール・モデルになれる人が望ましいのではないかということになった。 □3 ピア・カウンセリングの方法論の模索  ではピア・カウンセリングは,どのようであるべきか,どのようなトレーニングを積めばよいのか。次に問題になったのは具体的にどのような方法によってピア・カウンセリングを行うかであった。ピアであっても,支える力と話を聞き援助できる能力(テクニック)を持たなければいけないとしたら,どのようにそれを得るのか。  ピア・カウンセリングでもっとも重要で考慮しなければならないのは以下の諸点である。  @障害者の自立を助けていくものであること  A自己受容し,自己信頼に満ち,様々な困難に立ち向っていけるようにすること  Bピアなので対等性が強調されること  C情報や社会資源の提供ができること  Dカウンセラーとなる人自身が自己を受容し,自信に満ちて生活していること(ロール・モデル)  E社会の変革をうながしていく力となること  これらの目標を達成するカウンセリングのあり様としては,精神分析的アプローチ,行動療法的アプローチ,ゲシュタルト心理学,交流分析等といった従来行なわれているカウンセリングの方法は,セラピー(治療)の要素が強く,高度な学問と専門性を問われ,ピアの視点からはほど遠いものである。また,来談者中心のカウンセリングは共感的理解,自己受容,自己一致の点では,ピア・カウンセリングの中にとり入れられるものが多くあるが,対等性という部分や,抑圧からの解放,自分の力を信じ,パワフルに生きるというアプローチが少ないように思える。  この点,アメリカの自立生活センターの中で使われて来た,再評価のカウンセリングの方法論がよりベターなのではないかという結論となり,幸いにも事務局スタッフの安積がこの手法を学んで来ており,ヒューマンケア協会では,これを生かし,再評価のカウンセリングの方法論をピア・カウンセリングのあり方とした。もちろん,日常のカウンセリングでは,来談者中心の傾聴,受容に撤することもあるし,講座や自立プログラムの中では,エンカウンターや,ロール・プレイ,グループ・カウンセリングなどの手法を組み入れて実施している。 ■U ピア・カウンセリング講座の実施 □1 第一回集中講座  ピア・カウンセリングのあり方を模索し,再評価のカウンセリングを使っていくことが決まった。そして1988年9月,日本で初めてピア・カウンセリング集中講座と銘うってヒューマンケア協会が開催したこの催しにより,ピア・カウンセリングという言葉は定着した。この第一回集中講座の資料の中では,開催のねらいについて次のように述べられている。  「ピア・カウンセリングとは,「障害者の自立を援助すべく,障害者によって行われるカウンセリング」と定義されます。但しカウンセリングと言っても,通常の精神面の悩みごとの相談といった意味ばかりでなく,障害者が地域で自立した生活を営もうとする時,直面する様々な問題について相談に乗り,助言したり,適当な情報を与えたりすることも含まれます。すでにアメリカでは,CIL(障害者自立センター)を通じて広く行われている手法ですが,日本ではこの言葉さえなじみが薄く,どういう内容を持ち,どのように有効かといった点については全く知られていません。  ヒューマンケア協会で働く職員の中には,アメリカでCILについて研修してきた者が数名おり,その際,ピア・カウンセリングの有効性を実地に体験して是非日本でも広めたいと考えていました。現在,協会では自立生活プログラムを実施して重度障害者の自立へ向けた努力を援助する一方,個別のカウンセリングも行っており,着々と成果を上げつつあります。また出来るかぎり各地の施設や作業所,学校などに出向いて,ピア・カウンセリングの手法を説明し,有効性を訴えていますが,まだまだ一般に広く浸透するに至っておりません。そこで,講座形式によって多くの人を一堂に集め,ピア・カウンセリングについて勉強してもらおうと計画しました。講座の参加者が,それぞれの地域に帰ってピア・カウンセリングの手法を実践し,広めてくれればいい。それがひいては,各地に障害者の自立の種を撒くことになるのではないか。ヒューマンケアの理想もそこにある,そう考えたのです。」★03  地域で自立生活をめざしている人,仲間の相談を受ける立場にある人という参加資格で呼びかけた第一回集中講座は,全国各地から受講希望者があり,定員を30人にしぼっての開催となった。 □2 89年度以降の動き  ヒューマンケア協会の主催による集中講座は第一回にひき続き91年度まで,毎年一回開催され続けている。  そして,88年の講座に参加し感銘をうけた「札幌いちご会」会長の小山内さんが,89年8月末に札幌で集中講座を開催し,これも91年度まで毎年行われている。また,91年度には旭川でもはじめて開催された。  さらに,90年には89年のいちご会の講座に参加した広島の竹中さん(車椅子使用で聴覚障害を持つ)が実行委員会を設けて集中講座を企画し,広島市で開催,聴覚障害者をその輪の中に加える,新しい試みを行い成功している。  また,90年1月に発足した「町田ヒューマンネットワーク」でも,この事業に取り組み,3泊4日の自主講座を開いている。この上記4団体は継続して集中講座を開き,ヒューマンケア協会,町田ヒューマンネットワークでは,講師派遣をおこなって来た。  この他の動きとしては,90年8月に関西の「京都自立センター」,「大阪中部障害者解放センター」,「大阪行動する障害者応援センター」,「メインストリーム協会」(神戸市)の4団体が共催で,京都で集中講座を開催した。91年1月には東京都清瀬療護園で初めて施設での講座が持たれた。また3月には名古屋市の「AJU自立の家」で開催,92年9月には長野においても初めて開催され,確実にその輪は広がっている。 □3 長期講座,サポートグループ  集中講座の多くは,ヒューマンケア協会,町田ヒューマンネットワークの共催の型をとり,そのスタッフが講師に当たっており,これまで集中講座のリーダーとなる人員は少数の限られた人だけであった。そこで,ピア・カウンセリングのリーダー,自立生活プログラムのリーダー等の人材養成のために,ピア・カウンセリングの基礎となっているコウ・カウンセリングの手法をきちっと勉強してもらうことをねらいに,ヒューマンケア協会では,集中講座とは別に長期講座を89年度から開催するようになった。週一回,3ヵ月間,40時間の講座を修了して,ピアカウンセラーとして活躍し始めた障害者の数が増えつつある。各地の自立生活センターの中でピアカウンセラーとして有給で働く仲間も生れている。  さらに,40時間の長期講座を終えた自主的サポート・グループも90年後半より生れ,91年度には毎月一回欠かさずこのグループの会合が行われ,学習の場,情報交換の場として生かされて来ている。  各地域においては,集中講座に毎年連続して参加する人も現れ,ピアカウンセラーとして力をつけ,地域のリーダーとして,相談役として,又自ら一人暮らしを開始するなど,様々の形で活躍,動き始める人々が現れてきている。 ■V ピア・カウンセリングの今後  ピア・カウンセリング講座のこれまでの経過をみると,どこかで集中講座を受けた人が,その有効性と心地よさを目の当たりにして,これを自分の住む地域でも,ぜひ開催し仲間に伝えたいと各地に広げていったものばかりである。彼らがすばらしいと思えたのは,感情の解放の心地よさをこの講座で経験しえたからであり,またこの講座が仲間同士で支えあうセッションを大切にしているところにあったと思う。91年11月の第3回全国自立生活問題研究会★04でも初めてピア・カウンセリングのイントロダクションが行われ,「ピア・カウンセリングとは何ぞや」を体験する機会が持たれた。  92年度には,上記団体以外に,すでに,東京都板橋区,静岡県,埼玉県,九州などで新たに集中講座開催の計画が立てられている。  これまで,全国各地で集中講座に参加した障害者の数は,およそ 340人。長期講座を終えた人は,都内だけでも30人にのぼる。  1986年,東京八王子市にヒューマンケア協会が誕生し,ピア・カウンセリングを事業の重要な柱の一つとしてから5年,この間全国各地に障害者の手による自立生活センターが誕生し,ピア・カウンセリングという分野は,自立生活運動の大きな柱の一つとなり,確かな地位をしめるようになってきている。そして,自立生活センターだけでなく,障害者の世界に,ピア・カウンセリングは根づきつつある。  ヒューマンケア協会や町田ヒューマンネットワークが進めて来たカウンセリングの手法は,多くの障害者に自信と自己受容と,心地よさ,対等性のすばらしさを味わわせ,生きていく上での大きな支えとなった。だが,ピア・カウンセリングの方法論は,ヒューマンケア協会や町田ヒューマンネットワークのやり方がすべてではない。仲間による仲間のためのサポートが行われること,障害を受容し,自信に満ちた生活を送っていくことができるための相談活動が各地に広まっていくことが望まれるのだ。そして,その動きは,このピア・カウンセリング集中講座が土台となって,各地で,各施設で始まっている。以前の健常者や第三者から一方的に指示され励まされ,がんばることが最上のことという解答ではない,仲間同士のサポートが広まっていくことは確実である。  各地にたくさんのピア・カウンセラーを育て,その人達がネットワークを組んで活躍していけるような組織作りを進めていくことも,今後の新たな課題であろう。 ■注 ★01 米国の約10名の障害者を招き,東京・横浜・名古屋・大阪・京都・北九州市でセミナーが開催された。東京でのセミナーの報告として障害者自立生活セミナー東京実行委員会編・発行『自立への胎動「「日米障害者自立生活東京セミナー報告書』(1983年,61p.)この内容を含むより全体的な報告として日米障害者自立生活中央セミナー実行委員会編・発行『日米障害者自立生活セミナー報告書』(1983年,99p.)。 ★02 「財団法人広げよう愛の輪基金」と「日本リハビリテーション協会」の主催によって1981年度から障害を持つ人の海外での研修が始まった。その研修報告として『自立へのはばたき――米国留学研修報告』(日本リハビリテーション協会)。1980年代にかけての米国での自立生活運動と,その日本の障害者運動への影響については立岩真也「「出て暮らす」生活」(安積純子他『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』,1990年,藤原書店)の第2節「「欧米の,特に合衆国の自立生活運動」を参照されたい。 ★03 ヒューマンケア協会発行,『ピア・カウンセリング集中講座――自立への大いなる歩みを進めるために』,1988年,p.5. ★04 主催:第3回自立生活問題研究全国集会実行委員会 後援:東京都・東京都社会福祉協議会・キリン記念財団・朝日新聞厚生文化事業団・NHK厚生文化事業団 1991年11月23日〜24。場所:東京戸山サンライズ。この時に発行された資料集として第3回自立生活問題研究全国集会実行委員会発行『自立生活NOW資料集』,1991年,102頁(事務局:第一若駒の家 〒192 東京都八王子市本町29-1 0426-26-2113)。「ピア・カウンセリング入門講座」についてはpp.87-96。 ▲5▼ 自立生活センターにおけるピア・カウンセリングの意義 樋口 恵子 ■T 自分史におけるピア・カウンセリングとの出逢い □スタートライン  自立生活運動におけるピア・カウンセリングを語る前に,自分にとってピア・カウンセリングがどういう意味をもつものとして現れたのか,一人の障害者の軌跡として整理してみたい。  私は1951年に生まれ,1才半でカリエスにかかった。私の記憶は,上半身のコルセットに身を包んだ自分と他の家族を比べ,なぜ他の人にはコルセットがないのかと感じたところから始まっている。幼稚園,小学校と普通児の中で過ごし,中学校時代にカリエスが再発し,肢体不自由児施設で寝たきりの三年間を過ごす。普通児の中にいて,何か孤立感を味わっていたが,施設に入っても,この人たちとも私は違うという思いをもっていた。  その当時の障害児教育の目標は,特殊な技能をもち,健常者社会にくい込んでいける人に育てることにあった。高い教育を受け,スペシャリストになるか,編み物,和裁,洋裁などの手仕事を身につけ自営をするかといった選択肢しかなかった。中学部を終えると何人かは隣接された職業訓練校に入った。私は15才で自分の人生を決めるのが恐かったし(職業を選ぶことは人生の大きな方向を限定することだと思っていた),手仕事をしながら一生を送ることに納得できなかった。しかし,自分がどう生きるべきかもわからず,以前一度逢ったことのある車いす使用者で,社会的に生き,輝いてみえる大人だった彼に手紙を書いた。「あなたの人生だよ。自分の好きなように生きていいんだよ。障害者だからって気にすることはないよ。勉強したいのなら進学して,自分の道をみつけるまで勉強しなさい。あなたは名前の通り,とても恵まれた人なんだよ」といった暖かい返事をもらった。「ああ,自分を解ってくれる人がいる。」「私は私のやりたいように生きていいんだ」という思いは,それまで誰からも味わったことのない心休まるものだった。これが,まわりの状況によって自分の道を選ぶことなく,自分の可能性を信じていくことのスタートラインだった。高校,大学へと進み,知恵遅れの人たちとの出逢いで,彼らに仲間としての連帯感をもち,また,自分ができるサポートをみつけたことで,私の方向は大きく変わった。税理士になって経済的自立をめざそうとしていたが,一転して,知恵おくれの社会教育,福祉の分野へ入っていった。そして,もっと重度の人たちとの関わりをもちたいと町田市福祉部の始めた在宅訪問事業へと関わっていった。健常者のスタッフと共に,就学経験もなく,家族としか接したことのない人たちの訪問をし,楽しい経験をしたり,外へ連れ出す活動を続けた。その中で私が見出した役割は,仲間として障害者に接すること,健常者のスタッフに対して,サービスの対象者としてだけでなく,一個の人間として認め,対等に関わってほしいということを実践を通して伝えることだった。 □アメリカの自立生活運動との出会い  私達が在宅訪問から発展して通所施設づくりを始めた頃(70年代後半),アメリカの自立生活センター(CIL)の活動や自立生活が日本に紹介され始めた。そして1981年,私はバークレーを訪れ,バークレーCILを訪ねた。重度の障害者が各部門でいきいきと働き,活気にあふれていた。ガレージの女性が油で顔や手を汚して奮闘しながら車の後部にリフトをつける工事をしており,”すごい”,”パワフル”の一言だった記憶がある。また,アメリカの自立生活運動のリーダーたちは「障害はパワーだ,エネルギーだ」と力強く語り,障害の見方が常に否定的だった自分にとって衝撃だった。83年には自立生活運動のリーダーたちが来日し,障害をもつ当事者が主体的に活動する自立生活の必要性,有効性を説いてまわった。  これら一連の自立生活運動が,同じ地域に住み,じょうずに自己主張ができない存在とされている知恵遅れの人たちにとって,どういう意味をもつのか?知恵遅れは自己主張できない存在ときめつけることに対する疑問も含めて,私はアメリカに興味をもち始めた。ミスタードーナツ障害者リーダー育成アメリカ留学のチャンスをものにし84年から1年数か月をアメリカで生活し,社会の成立や文化の違い,それに伴う障害観の違いなどを体験した★01。こうして知恵遅れの人たちのさまざまな活動の場と自立生活センターを中心に学んできたが,双方で感じたことは,当事者のパワーと可能性は他のどんな専門家にも勝るということである。ピアであるから越えられ,創られる関係が沢山あった。  自立生活センターでのピア・カウンセラーの働きぶりや自立生活技能(ILS=Independent Living Skills)クラスでピア・カウンセラーと共に行動する中で,カウンセラーがいかに障害を受容し,自己を肯定的にとらえられていることが重要であるかを感じた。その上に必要な情報をもっていること,問題解決のための手段を多様に紹介できることが技術として加わるのである。 □再評価のカウンセリングの出逢い  障害を受容し,自己肯定するために,具体的にどうすればよいのか,自立生活プログラム実施にあたってさまざまな模索をしてきた。ありのままの自分を語ってみる。人からほめ言葉をもらう。自分の障害に気付いた時のエピソードを語る。障害をもって生きてきたことのプラス面,マイナス面を語る等々。  この時,再評価のカウンセリング(RC=Re-evaluation Counselling)に出会った。このカウンセリングでは,「人間の本質は生まれたままの赤ん坊の姿」だと言う。自分に対する絶対の信頼と愛に満ちた存在で,感情をありのままに伝え,自己主張する存在だと言う。  私達は障害者として生きてきたことで,あまりに沢山の否定的な評価(あれができない,これができない,かわいそうに,普通とは違うんだから――・)を受けて,自分の心,感情を凍らせて生きてきた。過去を振り返っても何も生まれない,泣かないで我慢して頑張ろう,感情を表さないで理性的にと要求されてきた。感情を表現することの快さや意味がつかめるまで,隋分と時間を必要とし,これまで身につけてきた自分のパターンとの戦いだった。そして傷ついた時点に戻って感情を開放することでわかったことは,傷つけられた時の事を忘れたり,凍結させて思い出さないようにしているが傷はいやされていないということだった。どんな時でも自分を守るために最大の努力を払ってきた自分だったことに気付き,その自分に対する愛おしさ。今の社会の価値観にふりまわされないで新たな視点をもつこと。自分がもちえたものを積極的に評価すること,つまり障害は個性。また,施設や医療機関の利用者に対する非人間的な扱いに対し,声を出して変えてゆこうというエネルギーがわきあがってきたことである。がまんして社会に合わせるのではなく,自己主張して社会を変える力を自分の中に感じることができた。これが,「障害はパワーだ,エネルギーだ」という言葉にインパクトを受け,本音でそう言えるものを捜し求めてきた私の到達点であり,出発点である。 ■U 自立生活センター町田ヒューマンネットワークとピア・カウンセリング □1 自立生活センター町田ヒューマンネットワークの設立経過  現在(92年1月)日本国内に20ヶ所程度の自立生活センターが存在している(日本自立生活センター協議会(JIL)調べ)。その設立の経緯は,在宅障害者の生きがいの場づくりから派生したもの,共同作業所など働く場を母体としたもの,ケア付き住宅から発展したものなど,様々である。  83年にアメリカの自立生活運動のリーダーを招いて全国数箇所でもたれた日米自立生活セミナーは,これらの自立生活センターづくりに大きなインパクトを与えたと思われる。また,81年から10年にわたって障害者リーダー育成米国留学がミスタードーナツの基金によって行なわれ,年間10名の障害者がアメリカで生活し,学んで持ち帰った自立生活運動の息吹きも確実に芽を育んだ。町田市での私達の活動もこうした流れの中にある。  東京都町田市は,35万の人口をもち,これといった産業もない,都心への通勤者の多い地域である。「緑と車いすで歩けるまちづくり」をスローガンに,74年には「福祉環境整備要綱」が作られ,公共建築物の整備は他市に比べ進んでいる。また,親の会の活動で共同作業所や緊急一時保護所や生活寮,通所施設などが作られている。反面で,当事者主体の運動は育ちにくく,行政と親によって作られている印象を受ける町である。地理的に神奈川県と隣接しており,自立生活の場として町田を選んで引っ越してきた重度障害者もいる。  こうして町田に移ってきた人,そして以前から町田に住んでいて何かやりたいと思っている障害者,合せて6人が集まり,やりたいことをもちより,活動の柱だてをした。どんな障害をもっていても,当たり前の市民として自立した生活ができるような援助システムを作ろう。活動を通して障害者が元気にパワフルになるよう,あくまでもやりたいことからスタートし,”…すべき”とか”…ねばならない”ではなく楽しみながら活動する集団を作ろう。こうした理念を私達は共有していた。準備期間を経て,91年4月,「町田ヒューマンネットワーク」が設立されることになったのである。  ヒューマンネットワークはまず町田市のヘルパーの状況の調査を行った。また教育・就労・介助・所得保障・住宅・町づくりなどに関する当事者側からの質問状を作り,市長,市議全員に対し,回答を求めた。同時に,いくつかの基本的な日常的な活動を始めていったのである。次にこれらの諸活動について,そしてそのピア・カウンセリングとの関わりについて紹介することにしよう。 □2 町田ヒューマンネットワークの活動内容 ・介助サービス   朝起きてから,夜就寝するまでの生活に必要な身辺介助(衣服の着脱,洗面,排泄,入浴,食事)と移動介助,洗濯,掃除,買物,調理などの家事援助などを行なう介助者を派遣し,自立生活を可能にする援助を行なっている。一時間 750円プラス交通費の実費を介助者に支払う有料制をとっている。介助は障害(児)者を対象としており,自分たちのノウハウを伝えることができる。そして介助こそが障害者が障害から解放される具体的方法なのである。  一般的には介助コーディネーターと呼んでいるが,障害をもつコーディネーターは利用者のピア・カウンセラーであり,障害のないコーディネーターは介助者側のピア・カウンセラーである。双方の関係をとりもつだけでなく,トラブルが生じたとき,それぞれの側から,何が問題なのかを出しあい,本来のあり方をみつけていかなければならない。  こうした日常的な介助者・利用者との関わりの他,私達は,介助の方法を一番知っているのは障害者であるという認識を基本にして,障害者,介助者双方の出席で,介助講習会を,年2,3回シリーズで行なっている。介助実技の場面では,介助者も介助される立場を必ず体験してもらい,受ける側の精神的なものを味わってもらう。  まだまだ始まったばかりだが,これまで与えられる側にしかいなかった障害者が,受ける側,供給する側でもあるという二面性をたたかわせて解決策を導き出し,質の高い介助システムをつくり出していこうとしている。 ・自立生活プログラム  若い障害者や,障害者となって年月の浅い障害者など,障害の受容が困難な状況にある障害者に対して,生活技術を習得する場を自立生活プログラムと呼んでいる。  少人数のクラス形式で,6〜8人の障害者にピア・カウンセラーが加わり,週1回3ヵ月をひとくぎりとしたクラスである。参加者は養護学校,専門学校の生徒や,卒業後,共同作業所や通所施設へ通っているような在宅障害者,入所施設で生活している障害者などさまざまである。プログラムでは,自他の区別,障害の受容(いつ障害者としての自分を意識したか,その時どんな気がしたか,障害を持っていやだったこと,良かったこと等),日課の管理,短期,長期の目標の設定,介助者の見付け方,付き合い方,トラブルの解消,生活管理(健康維持,障害の把握とつきあい方)調理,性について,生活の拠点をどう作り,制度を活用して生活していくかなどをディスカッション,ロールプレイ,フィールドトリップなどを適宣取り入れながら行なっていく。  このプログラムの中でピア・カウンセラーは重要な役割を果たしている。ピア・カウンセラーは,カウンセリングへの参加者と同じく障害をもち,一歩先に自立生活を始めている仲間として,参加する障害者自身が,自分で問題を解決し,自分の人生を目標をもって力強く歩むことができる存在であるという信頼感をもって援助する人である。そして,障害者が自立して生活する上で,必要な情報をもち,必要に応じて紹介できる社会資源を知っていることが必要である。これまで障害者は常に健常者に近づくことを求められ,障害をもった自分をだめな存在と思わされてきたが,ピア・カウンセラーは障害を自分の個性として積極的に受け入れ,人生をエンジョイしている,参加者にとってはロール・モデル(role-model・お手本)である。ピア・カウンセラーは他者に対し,否定的な評価をしないことを原則としている。  プログラムでは集団であることの意味を最大限に生かすよう心がける。例えばほめあいセッション(参加者のすてきなところを一人ひとりが率直に言う)はこれまで,障害のある体を醜い,愛される対象ではないといった否定的な評価しかできなかった人が,無条件でほめられることの快さから「自分をもっと認めてあげていいんだな」と思えるようになったり,障害からくる動作の一つも,他人は個性ととらえていることがわかるなど,とても有効である。  こうしたグループでのプログラムと別に「個別プログラム」がある。障害者が自分の目標を設定したり,解決したい問題に向けて個別に関わるものである。住宅はどう見つけるのか,どんな改造をすれば一般の住宅で暮らせるか,自立生活を始めるにあたって,住宅,所得,介助,就労,諸制度の活用について等,きわめて個別的な関わりである。それぞれの課題に応じ,その分野が得意なピア・カウンセラーが関わる。情報提供の他に個別の課題を通して,積極的な自立生活のイメージや,自分の選択,決定に対して自己信頼をとり戻せるような精神面へのアプローチも随時行なっていく。  さらに障害を持つ当事者に対するプログラムの他に「親プログラム」を実施している。障害(児)者をもつ親に対して行なうプログラムという位置づけをしており,主に自立生活プログラムの参加者の親を対象としている。4〜5回をひとくぎりとして,@自己信頼の回復,A個の確立,B自分自身の選択と決定による人生,といったことがらについて,再評価のカウンセリングを基本にしつつ,ディスカッション,プレゼンテーションの手法も取り入れて行なっている。  ここでは個の存在としての自分を出し合うことが重要である。親たちの集まりでは,自己紹介といっても,子供の障害であるとか,問題だけを話し合うのが常である。そこで,名前,呼ばれたい名前,どこで何をしている人か,このプログラムに参加した目的は,自分のためにどのような時間をもっているかなど,親としての自分ではなく徹底して個人に焦点をあてる。自分の子供が障害児だと判ったときを思い出し感情を表現する。夫,親,親類,知人など,まわりの反応からどんなことを受けとってきたかを出し合う。  障害児の親として受けてきた社会の抑圧――社会の迷惑な存在をつくってしまった,誰も解ってくれないという孤独感,自分が一人でで子供の面倒をみるしかない,みるべきという社会の視線――からの解放。毎回障害をもって地域に自立した生活をもっている障害者をゲストに招き,親子関係や,さまざまな生き方を語ってもらう。  これらを通して,子供と自分とは当然個別の存在で彼/彼女なりの生き方をしていくだろうという信頼感と,私は私の人生を生きるんだという目標の設定までをめざしている。 プログラムを終えた後はピア・サポートグループとして月1〜2回程度の集まりをもっている。その中から親のピア・カウンセラーが育っていって拡がっていくことを目標としている。 ・ピア・カウンセリング  カウンセラーとクライエントが一対一で人間関係のトラブルや内面的問題の解決に向けて取り組む。私たちは障害をもって生きてきたことで,いろいろな行動パターンを身につけてきており,それは自分が今以上に傷つかないための,自分を守るためのものと思い込んでいる。傷ついた感情を心の奥底にとじこめ,凍らせているがその傷自身はいやされていないのである。そして「何をやってもダメだ」,「私にはできっこない」などの思いがぐるぐるまわっている。  個々人がもっている無力感,挫折感,自己否定感などの感情の解放を許す。自分を「・…すべき」でしばらず,感情をすなおに表現すると,涙になったり,震え,あくび,冷汗,笑いなど,さまざまな身体状況を伴ってでてくる。これらの感情の解放のあとには,自分はいつも自分にとって必要なことを精一杯やってきたし,自分のままでいいんだという思い,――自己信頼をとり戻す ――人を愛したいと望んでいるし,人とつながって豊かに生きていきたいと思いを確認できる。無力感がなくなっていき,創造的にものをとらえられるようになる。人に対しても,相手のもつパターンと人間の本質の違いを分けて考えられるようになり,怯えたり,卑屈にならずに対等な関係を作れるようになる。 こうした日常的なカウンセリングの他,ヒューマンネットワークでは,ピア・カウンセリング集中講座を,年に1回3泊4日の合宿形態で行なうほか,各地での集中講座に講師を派遣している。自己の解放と援助の仕方を学び,互いに助け合える確かな方法として,着実に拡がっているが,全国的にみて,感情の開放認め合いながら,ピア・カウンセラーとして活動できる人材が少なく,各地にカウンセラーを育てることが急務となっている。 ・海外旅行企画/その他の活動  現状では,私達の社会は障害者にとってはなはだ住みにくい社会で,それはあたかも障害がすべての原因であるかのように言われているのだが,果たしてそうなのか。一定アクセスの整った地域に,短期間でも身を置くことでみえてくるものがある。社会の側がつくった障壁(階段や利用できない公共交通機関など)とそれらが解決されて残るものが何なのかといったことを具体的に理解することが出来るのである。  また,アクセスが容易になった地域に生きる障害者の自己イメージは極めて積極的で活発である。彼らと交流することにより,自分たちを弱い者として落とし入れているハード面,ソフト面の構造に気づき,自分たちが声を大きくして社会を変えなければ,後に続く障害者に障害を残すことになるということがわかってくる。障害をパワーにかえ,エネルギーにかえるきっかけを海外旅行を企画する中で作っていくこと。これが目標である。  その他にも,私達は,障害者の生活を市民の当たり前の生活に近づけるべく様々な活動を行っている。  路線バスにリフトをつけてほしいという要望を市やバス会社に出す一方,実際に路線バスを使って花見などの楽しいイベントを組んだりもしている。  また,男性障害者に対して同性介助の保障として,男性ヘルパーを雇用するよう市に対して要請したり,朝,夕方のヘルパー派遣など,これまでの9時から5時までという時間帯を超えた,フレキシブルなヘルパーの採用の要望を行なっている。  また,ヘルパーの対応や介助料のことで行政に対して疑問を抱えている人にピア・カウンセラーとして付き添い,市の窓口に出向いたり,障害者個人の権利を守るための活動をしている。  ■V 個人の変化とピア・カウンセラーの関わり  これまで町田ヒューマンネットワークに関わってきた障害者の中から,ピア・カウンセリングが有効に機能した人を数人例に出し,ピア・カウンセラーの関わりを追ってみたい。 □ Mさん(18歳)  彼女は,養護学校を卒業し,自分の目標を見出だせないでとまどっていた。私達との最初の関わりは,90年のアメリカ旅行と同時期の自立生活プログラムだった。  91年4月から実習生という位置づけで毎日きてもらい,ワープロでの書類づくりなどを教えながら手伝ってもらっていた。その後福祉機器メーカーから,事務員に誰か雇いたいという要請があり,Mさんと調整の末,アルバイト兼実習で週3日間通うことにし,ときどき雇用主と話し合いをもち,他の日はこれまで通り,実習とILプログラムで通ってきていた。  対人関係や社会経験の少なさからくる緊張が,いろんな人と関わらなければ成立しない日常の中で徐々に解放されてきた。近くの福祉専門学校の社会福祉主事コースを受験することなど,将来を見すえた資料提供をし,Mさんの受験意志がかたまった(遠くの学校へ行く気だった)。小論文の添削などの援助も数回した程度で今春合格した。お母さんは親プログラムに参加している。 □ Sさん(21歳)  自立生活プログラム第一期から参加してきたが,コミュニケーションが難しく第一期はあまり積極的ではなかった。ピア・カウンセラーと電話で話せたことがきっかけとなり,ILプログラム以外にも週一回定期的にピア・カウンセリングを受けにくるようになった。  話したいことをカウンセラーに向けて話せるようになってから,トーキングエイド(コミュニケーションのための自助具)を使いこなすようになり,また,文字や名称の確認をするスピーチ・セラピー(言語療法)を障害者から受け始めた。このあたりから参加が積極的になってきた。91年にはピア・カウンセリング集中講座にも緊張のあまり嘔吐を繰り返しながら参加,徐々に自分のペースをもっていった。アメリカ旅行にも参加し,帰国後は日頃通っている作業所の仲間達に対するアメリカ旅行の説明会をもったり,積極的である。家にいることが一番好きだった人がグループホームへ週2泊したり,とても変化してきた(母の言)。お母さんは親プログラムに参加している。 □ Yさん(20代後半)  Yは,ピア・カウンセリング集中講座で毎回体に変化が起こる。その変化を,感情の解放を求めているためのものと認められるようになって,これまで閉ざしていた感情の扉を少しづつ開け始めている。短大を卒業し,一般就労をした経験があり,社会や家族の障害を否定した常識と自己の間に葛藤があり,定期(一ヵ月2回程度)的なピア・カウンセリングの中で怒りの表現を糸口に感情を解放してきている。  近くの保険会社から,コピーなど簡単な,しかし時間のかかる仕事をパートでやってくれる人はいないかとの照会があり,呼ばれた日に行くというかたちだが,収入が少し得られるようになってきている。  ILプログラムに2期参加した後,1年後,親から離れて自立生活をする決意をし,ILプログラムで知的障害をもつ人たちの援助をしたいと,実習生としてILプログラムを担当してくれている。 □ Kさん(30代後半)  5人の子供を産み,障害が重度化し,電動車いすを使用するようになったが,障害を受容すること,そして社会との関わりで困難を感じていた。ケース・ワーカーの紹介でたずねてくるようになった。「ここで思っていることをしゃべったり,泣いたりすると元気になって,また戦場(地域)へ戻っていける」とたびたび来所,「今年(91年)はとぶぞ」と決めて新幹線で毎月日帰りで旅行をしたり,毎週夜開かれる事務局会議に参加してきている。ピア・カウンセリング集中講座や長期ピア・カウンセリング講座(ヒューマンケア協会主催)に出席。「子供がケンカしたり,いじめられて母の胸に戻っておもいっきり泣いて,ケロッとしてまた遊びに戻っていく,私にとってヒューマンネットはそんなところ」と言う。  Kさんに対しては,個別にではなくみんなの中で励ましたり,あなたのままでとてもすばらしいロールモデルだよ,と力まないような援助をしてきた。また,ある会社の若い女子社員に対して行なった福祉講座の中で,自分の体験を話に行ってもらうようプロモートしたりしてきた。「これからはピア・カウンセラーとして使ってほしい」という要望を出してくれるなど,力強いメンバーになっている。 ■W 終わりに  町田ヒューマンネットワークの活動を通して導き出されたピア・カウンセリングは,自立生活センターの活動の基本である。また一人ひとりの自己変革の手段として,ピア・カウンセリングは大きな役割を果たしている。これまでとりこまれてきたパターンから自由になり,「人間の本質」と向かいあい,一人ひとりを変えるという着実な方法で,社会変革をすすめているのである。  自立生活センターは,これまでサービスの受け手としてしか扱われてこなかった障害者の役割を捨て,障害をもつ当事者の感性とニードを生かし,地域活動の拠点として位置づき,社会を変える当事者集団の機能を果たし始めている。自立生活センターで働くすべてのスタッフは,ピア・カウンセリングという門をくぐってサービスの提供の場に存在していくべきではないだろうか。  自己信頼をとり戻し,自信をもって活動できる人は,他の仲間の存在を充分に認められるし,問題にぶつかり,越えようとする人の力を信頼し,その人のペースを待って援助できるのではないだろうか。また,アサーティブな(assertive =はっきりとした,断固とした)態度で自己主張をし,「…すべき」というべき論ではなく,一人ひとりの個性で,楽しみながら参加し,夢を実現し,元気になっていく集団,自立生活センターの運営論にピア・カウンセリングは欠かせない。  また,障害者の人権復権の大きな手段として,介助は欠かすことはできない。これまでの与えられるだけの介助から,創り出す介助へという移行過程には,利用者であり,提供者であるという二つの側面をぶつけ合い,人間を見つめながら,質の高い介助を追求していかなければならない。そして,行政に対し,それをぶつけ,政策提言をし,よりよいものを創り出す力にしていくことである。  個々のもつ障害を越える時,そこに出されたいくつもの手(援助)がプログラムとなって,また,仲間に返していく担い手として育っていく。自立する時,何が必要かを一番知っているのは障害者自身なのだから。★02 ■注 ★01 この時の経験を記したものとして樋口恵子「アメリカ,見て歩き」(『リハビリテーション』274号〜285号の連載)。なお第5章の注01・02(p.34)も参照のこと。 ★02 町田ヒューマンネットワークの年会費は正会員2400円,賛助会員1口3000円(他に団体会員がある)。1992年4月1日現在の会員数は正会員248人,賛助会員217人,団体会員27団体。会員には機関誌『町田ヒューマンネットワーク・ニュース』が送られる。92年4月からの新事務所の住所は町田市中町3-5-12NMHビル101。 ▲6▼ 自立生活運動における     ピア・カウンセリング       [寄稿論文]                                ロリーン・サマーズ  PEER COUNSELING IN THE INDEPENDENT LIVING MOVEMENT   Laureen Summers                               阿部 司訳 ■はじめに  ピア・カウンセリングは同じような背景や経験を持つ者同士が行なう,非専門的なカウンセリングである。筆者の知る限り,ピア・カウンセリングは学問的に認められてはいないが,人間同士で情報を分かち合い,情緒的サポートをし合う過程であることに変わりはない。障害を持つピアカウンセラーはロール・モデルの役割を果たし,情報や体験を共有し,人が自分の人生を肯定的かつ自立的に管理できるように援助する。ピア・カウンセリングの参加者は,快適で使いやすい住居や移送手段の発見,介助サービスの選択,適切な技術の利用,助成金の獲得,個人及びコミュニティ・レベルでの権利擁護,適切な職業訓練や雇用の発見など,様々な問題に取り組む。ピア・カウンセラーは体験や情報を分け与えて,参加者の必要を満足させる有効な資源の発見を助ける。 ■ピア・カウンセリングの理論  住居や雇用,生活資金などについて建設的決断をするために,人は明解かつ合理的な思考に導かれなければならない。ピア・カウンセリングの理論は,人間が巨大な創造力や合理的思考,生きる熱意や,より良く生きる能力を備えていることを前提とする。こうした力強い,内部能力に基づく活動の邪魔をするのは,痛ましい体験と適切な情報の欠如である。このせいで,どの人の心にも防御的で臆病な体系ができあがってしまう。こうした体験を論じ合い,ストレスに満ちた状況を解消する機会を持てなければ,多くの決定は明解で合理的な思考ではなく,痛ましい感情に基づくものになりやすい。  ピア・カウンセラーの役割は,助言を与えることではなく,人が状況について考え,それについての感情を説明,克服し,そうすべきか自分で決断を下せるよう,奨励することだ。この自由を与えることで,ピア・カウンセラーは参加者が自分で責任をとれるように援助しているのである。自立した思考は内面の洞察を促進し,洞察は行動の変化を引き起す。  判断を控え,耳を傾けることが重要だ。障害を持つ人々は,家族や教師,サービス提供者の助言を嫌と言うほど聞かされている。自分の言うことを聞いてもらえることはほとんどなく,自分の人生について最適な判断を下す選択肢も少ししか与えられない。自立的思考を奨励されないために,われわれは,住居や雇用,生活費,社会参加に関して自分に適切な選択をする能力があるかどうか不安に感じている。障害を持つ人々は,障害者としての生活についての感情や体験,そして自立生活の成功を左右する問題について話し合う機会が必要だ。 □一対一のセッション One-on-One Sessions  一対一のセッションで,ピア・カウンセラーは生活の状況や問題点,夢などについて,相談者に話をするよう勧める。ピア・カウンセラーは,相談者の資源認知と目標設定を援助することができる。セッションを続ける中で,目標の達成状況,新たなストレス状況が発生したかどうか,うまくいっていることは何か,その他のことを相談者に質問する。一対一のセッションは時にサポート・グループより安全で,綿密な作業をする時間が増える。特に涙や怒り,笑いなどがなければ治癒しない深い傷を相談者が負っている場合はそうである。 □サポート・グループ Support Groups  このやり方は,障害を持つ様々な人々と接触して,体験を共有したり互いの問題解決を助け合ったり,サポートや友情を提供する機会が得られる。サポート・グループでは目標設定も重要で,参加者は達成したことの共有を求められる。サポート・グループは単なる会合を越えた社会的側面もあり,参加者が連れたって買物や社会活動に出掛けたり,情報を交換したり,楽しみあったりする。個人は自己信頼を確立し,孤立を避けるために必要なことや力を認識し始め,グループの一員となる。 ■ピアカウンセラーの資格  親密で肯定的関係を打ち立てることは,どんな人にとっても重要である。適切な職業・生活環境を育てるのは,互いに助け合い,できるだけ相手にとっていい人間であろうとする努力だ。どんな人も,ともに働いている人々や友人たちから大切に思われている,個人としてつながっていると感じるとき,いっそう生産的となり,成功もする。  自立生活センターにいるピアカウンセラーは,障害を持ち,自分自身のライフスタイルや生活向上について選択する責任を自ら負っている人々である。彼らは,基本的な傾聴と注視の技術を,障害との共存から得た個人的体験と結合する。自立生活のコミュニティを支援し,必要ならピア・カウンセリング参加者に紹介できるような地域の資源やプログラムについて広い知識を持つ。  障害者としてのピアカウンセラーは,情緒的レベルで,障害者であるとはどういうことか,また自分を否定的に捉えることが多く,積極性に乏しいのは何故かをよく知っている。障害を持つ人々に対する対応が混乱していたり,横柄だったりする社会で自分の障害に対処してきたピアカウンセラーは,否定的態度を克服するのに必要な共通体験や援助を提供することができる。地域の中で自立した個人として生きるために何が必要かについて理解を分かち合い,またあらゆる障害者が知らなければならない権利や公的援助について情報を提供できる。  ピアカウンセラーのために毎月行われるサポート・グループは有益であり,セッションの場ともなりうる。他のセンターのスタッフの参加も有益な場合がある。カウンセラー同士が互いの仕事を論じ合い,カウンセリング技術を分かち合える。ピアカウンセラーは他人の問題や傷をただ傾聴することが期待されているが,それは自分自身の問題や傷と似ていることが時にあるので,その問題や感情についてカウンセリングを受ける機会をすべてのカウンセラーが必要としている。この種のグループでは,参加者は互いに耳を傾け,サポートし合う。これは,非判断的傾聴や相談者に対する客観的サポートの邪魔になりかねない,カウンセラー自身の感情を明らかにするのに役立つ。 ■4つの基本的カウンセリング技術 1.注視 Attending  注視とは注意を向けることだ。相談者が,自分の感情は大事なものでカウンセラーが時間を割くに値すると感じるようにしむけなければならない。相談者が,自身の状態についての感情や考えを容認できるという気になりさえすれば,ピアカウンセラーに進んで自分自身をさらけだすものだ。 注視には3つの方法がある。 ・傾聴 Listening  ピアカウンセラーは,意識的に注意深く聴くことによって,ただ助言を与えることしか関心が無い者にカウンセリングを受けた場合よりはるかに深く,相談者に自身の状況を考察させることができる。あらゆる人に,それぞれの状況に適した力を与えることが重要だ。ピアカウンセラーは決断を下してはならないが,様々な示唆を提供し,相談者にとって最高の選択ができるように仕向けることは可能である。ピアカウンセラーが良く聴くために以下の行動が有効である。  −相談者の表情に注目していることを示す  −短くコメントする(分かります,とか,もっと話して,など)。あるいは身体に触れたり,微笑むことは,カウンセラーが相談者の話に関心を持っていることを示す  −あなたはうまくやっていると保証してやること,緊張が和らぐ ・フィジカル・アテンディング Physical Attending  受容的かつ魅力的な環境を作り,セッションには熱意を持って臨み,相談者がくつろげるようにすることで,相談者が自分は歓迎されている,受け入れられていると感じるように仕向けることができる。 ・観察 Observing  相談者についてさらに多くを発見する重要な方法が,その態度や表情,声の調子,身振りなどに注目することだ。  ピアカウンセラーは,様々な感情表現,使われた様々な言葉に耳を傾ける。これも,相談者がどう感じているかを知る手がかりになる。 2.応答 Responding  カウンセラーは以下の語句を使って相談者の話の中に入る。  「分かります」  「そのことをもっと話してください」  「私はあなたの味方です」  「さぞ(恐ろしかった,辛かった,大変だった@……)でしょうね」 「そんなことになってお気の毒です」 3.パーソナライジング Personalizing  相談者が抽象的な話をしている場合,その状況を自分に引き付けるように促す。そうすれば,その状況で自分ならどうするかを説明できる。そこでピアカウンセラーは次のように言う。  「……の体験をあなたがどれほど強烈に感じているかは理解できます。あなたも同じような経験がありますか? あなたならどう処理しますか?」 4・目標設定  目標設定により,相談者がどれほど自立に向かって前身したかを測定できる。目標は,カウンセリングのセッションの後に設定し,セッション中の議論を反映するものでなければならない。ピアカウンセラーも相談者も,ある特定の情報を調べ,人と接触し,ミーティングを開くことになるだろう。各目標に向けた,毎週達成するステップを計画する。フォローアップのセッションでは,目標の再検討と,目標達成のためのステップを達成したかどうかの検討を行う。相談者がステップを達成できなかった場合,何が邪魔をしたかについてカウンセラーは相談者と優しく話し合う。  目標は毎日,毎週,毎月,毎年,あるいは5年,10年単位で設定する必要がある。自分自身の一番愛する人との関係についても,家族についても,所属しているグループや住んでいる町,国,また世界全体についても定めることができる。あらゆるレベルで目標設定を行えば,目標の力が強化される。すべてのレベルの目標を統合できれば,その目標も一層有効になる。  目標設定では,ごく卑近な目標しか設定しないといつまでもぐずぐずと達成できないが,遠い目標なら,近い目標を達成して次の目標に取り組むという気になるという体験をすることが多い。 ■感情の解放 Emotional Release  ピア・カウンセリングでは,泣いたり笑ったり,あくびをしたり,身体を震わすなど,感情の解放がカウンセリングでは役に立つことを発見してきた。感情の解放は,人が自然に考え,活動する能力を高める。心の障壁に閉じ込められた感情は,合理的思考を阻害する。だからこそ,建設的思考より,感情を阻害した結果起きる行動が多いのである。  泣いたり笑ったり,心の奥底の感情を解放することは,有益な行動を妨害する原因となり,傷ついた感情や緊張を解きほぐす。その結果,人は臆病や困惑に立ち向かい,これまで考えもしなかった生活領域にあえて踏み込むようになる。  多くの人は,感情の爆発を互いに抑制しておけば,気まずい思いをしなくて済むと考えている。この考え方は基本的に後ろ向きである。感情の解放は内在的な治癒の過程である。たとえば,赤ん坊は傷つけられたら泣く。泣き続けることが許されれば,すぐにも痛みから回復するだろう。なぜなら,傷つけられたという体験にまつわる痛みや不安,混乱をそうやって解きほぐすことができるからだ。  恐い思いをした幼児も,許されれば泣き叫び,身体を震わせ,汗をかく。どれも恐怖を克服する手段である。怒った子供はかんしゃくを起こす。何か困ったことがあると,その困り事が無くなるまで,子供はしゃべりまくり笑いまくる。こうした感情の爆発はすべて,それぞれの体験の緊張を解きほぶす自然な方法である。大人として,またピア・カウンセラーとして,われわれは各人が自然な治癒過程に戻る手助けをすることができる。 □秘密保持 Confidentaility  相談者とピアカウンセラーが話し合った時間は決して口外しないことが大切である。状況を完全に理解し,解決するためには,家族や友人たちと問題について話し合うことも必要かもしれない。このことは,カウンセリングのセッション以外には決して漏れないと確信した相談者自身以外には,誰も口外してはならない。ピア・カウンセラーが何かの問題解決に助けを必要とする場合は,スーパーバイザーに個人的に相談するだけに限る。 ■オープニングのテクニック  以下のテクニックは,ピア・カウンセリングのセッションで相談者が安心でき,リラックスできるようにするのに役立つ。 1.気を逸らす Present Time  相談者がカウンセリングを受けに来る時,問題が非常に深刻で恐ろしく思われる場合がある。セッションを始める際,相談者を絶望感から遠ざけ,リラックスすることに集中させるようにするのがいい。たとえば部屋の色や絵画,あるいは着ている衣服など,身の回りのことを相談者が話題にするのがよい。 2.質問する Asking Questions  相談者に安心感を持たせるもう一つの方法は,ピアカウンセラーのことを質問するよう仕向けることだ。ピアカウンセラーがどこに,誰と住んでいるか,恋人はいるか,子供はいるかなどといった質問から,ある種の障害を持つ人々の生き方を真似したいといったものまで,様々であって構わない。ピアカウンセラーと相談者とで生活について話し合うことは,互いを知り,信じ合う,優れた方法である。 3.楽しい思い出 Pleasant Memories  このテクニックは,自分自身について語ることが困難な人の場合に有効である。以下は,その際にするとよい質問例:  −ピクニックに行った時のことを覚えていますか  −最近行った旅行のことを話してください  −最近,いい映画を見ましたか  −友達のことを話してください  目先の問題から関心を逸らすと,相談者は合理的思考やより良い生き方を取り戻すようになり,より深いレベルでのカウンセリングが可能になる。 4.ロール・プレイ Role Play  相談者が他人との関係で揉めごとを解決しようとしている場合,ピアカウンセラーがロール・プレイを行うのが役に立つ。これは,相談者が言いにくかったり,やりにくかったことを,相手に言ったり,やってみる機会を与える。 ■ピア・カウンセリングを通じた内的抑圧の克服  われわれは,成功するためには一生懸命働かなければならない社会に生きている。仲間に認められるためには,何らかの物理的・精神的地位に就かなければならないという考えに慣らされてきた。社会はわれわれにある一定の方法で教育を受け,一定の環境で生活し,誰からも尊敬される仕事に就き,肉体的にも完璧で健康でなければならないと教えている。誰にも人と違うところがたくさんあって特別な存在なのに,その違いを迷惑に思うように教えられている。  障害を持つ人々は,自分の人間としての価値について多くの否定的見解を聞きながら成長することが多い。彼らは,ニーズが多すぎるので,社会の独立した,生産的メンバーになることはできないと教えられている。人と見かけが違ったり,行動が違うとか,他人と同じほど精神的に機敏ではないという理由で,同情される。介助者は,受け手と介助内容を話し合わずに介助したり,直接のコミュニケーションは不可能だと思い込んでいることが多い。こういう扱かわれかたが長かったので,障害者は本当に他の人より劣っていると信じるようになる。自分たちのまわりにいる人々の意見や態度を心の中に作り上げてしまうのだ。それは,自分は非障害者より劣っているとか,あまり価値はないと信じたり,住居や職業,介助などで自分の本当の望みより低いところで済ませてしまったり,自分自身を批判したり,全く同じ状況の他人を攻撃したりすることに現われてくる。  人は自分自身や自分の行動に誇りを持てなければ,他人を援助することは難しい。自分自身を悪く思ってしまうと,他人にも同じように嫌な思いをさせようとする。生活について,よい選択をすることも難しくなる。  ピア・カウンセリングの参加者は,心から尊敬されない扱われ方がどんなものか,それについてどう感じるかを説明することで,こうした感情を明確にする機会を持つことができる。また自分の身体や,他人から受けた処遇についての感情,障害についての思いを話し合うことができる。また自分の夢を語り,その夢を実現させるための目標設定ができる。障害を持つ人々が自分自身の感覚の力で物を考え,行動を始めれば,自分自身も他人にもより敬意と親切心を持って接することができる。人を抑圧する者は,苦痛な体験が原因となってそうしているということを,忘れてはならない。人は傷つけられると,他人を傷つけたくなる。最初に抑圧のパターンが出来上がっていなければ,どんな社会の人も抑圧されることに同意したり,抑圧者としての行動に同意したりはしないものだ。  子供は虐待されたり,尊敬や愛情が少ししか注がれないと,苦しみ,混乱する。若い精神は,人間についての誤った考えを吸収しやすくなる。こうした無力感や混乱は,特に容貌や能力が人と違っている相手に対して,不注意で独断的な態度をとらせることになりやすい。ヒューマン・コントラディクション(contradiction=反駁)が行われないので,抑圧が続く。注意深く,サポーティブなカウンセラーは,これまであまり大切にされてこなかった人に,コントラディクションを提供する。優しさと気遣いは,怒った人がその怒りを克服し,自分自身や他人についてもっと人間的な見方ができるように仕向けるのに役立つ。 □自己評価  相談者は,自分自身にも力があり,よい点があると気付くようになると,自分自身にも,自分の実績にも誇りを持ち始める。ピアカウンセラーは,人が自分の長所を誉めるのを奨励すべきである。相談者の問題・紛争への取り組みや解決能力を,常に誉める。また相談者は自分がどの程度前進したかを語り,自信を言葉に現し,自分自身を本当に愛していると口に出して言う。自己評価は,自分が実はいかにいい人間で,能力があるかに気付かせるために重要である。 ■いくつかの忘れてはならない事 1・すべての人間は善良である:行動が非合理的だったり,破壊的な人間も,昔の辛い体験についての感情のせいでそう行動しているに過ぎない。ピアカウンセラーは,こうした感情を克服し,より合理的な行動を開始する機会を提供する。感情は,行動の根拠としては信頼すべきではない。 2・あらゆる人間は,過去のどの時点においても,その時に利用できる資源を用いて最適の行動をしてきている。誰も他人から非難されたり,咎められたりするいわれはない。われわれの仕事は,より優れた資源を見つけたり自分自身をサポートしたりするのを援助することにある。 3・どんな状況にあっても個人がイニシアティブをとって,それに責任を持つことは常に可能である。障害を持つ多くの人々は,無力だとか頼りないと決めつけられてきたために,この考え方がなかなか理解できない。自分がいかに能力があるかを悟ると,より多くの責任を引き受けるようになるものだ。 4・判断を下さず傾聴することは,合理的に考え行動する能力の回復を助けるのに極めて重要である。ピアカウンセラーは資源を提供できるが相談者に助言を与えてはならない。敬意を持って話を聴いてもらえて,しかも助言は受けないということは,それだけで人の思考を大いに助ける。こうした体験を持つことは,自分の思考がいかに話相手の反応を恐れる気持ちで邪魔されていたかをはっきり知ることになる。  自立は,人の生活に関するあらゆることに及ぶ。どんなライフスタイルを選ぶか,から,援助――肉体的であれ,精神的,あるいは金銭的であれ――提供者の管理まで様々である。障害を持つ人々は,自分の受ける援助の種類を選択する権利も,それをどのように受けるかを計画する権利も持っている(たとえば,介助サービスの必要な人は,一番よい方法でアテンダントを訓練することができる)。ピア・カウンセリングは,自分のニーズは何かを決める際に人を助け,その一方で人が自分の生活に責任を持つように奨励することができる。  本論文に示した材料のほとんどは,再評価カウンセリングの理論モデルに基づく。私は他のカウンセリング資料を自由に借りて,ピア・カウンセリングの概念の全体的モデルを作ろうと試みた。内容の一部は,ワシントンDCの自立生活センターのピア・カウンセリング・マニュアルに掲載されている。 ▲7▼ 自立生活プログラム,     ピア・カウンセリングの実施状況                                    立岩 真也 ■T 概要 □1 自立生活プログラム/ピア・カウンセリング集中講座/長期講座  「ピア・カウンセリング」自体は,自立生活センターの活動の中に組入れられており,その一部をなしているが,きまったプログラムとして定まった期間なされているというわけではない。特に自立生活センターの活動との関わりでは,「自立生活プログラム」の方法論として,手法としてまずある。自立生活プログラムは,在宅の障害者,施設に居住する障害者で特にこれから自立したい人に対して行われるプログラムであり,1つのシリーズが1週に1回,12回ほど(5回・10回といったセンターもある)。  ピア・カウンセリングの手法を学び習得すると同時に,これを体験する試みとしてヒューマンケア協会がまず行ったのが「ピア・カウンセリング集中講座」である(野上論文)。ここではピア・カウンセリングとは何かのイントロダクション,紹介が行われる。2泊3日〜3泊4日。ヒューマンケア協会主催の講座には全国各地から参加者が集まり,その参加者が自らの住む場所でカウンセリング講座を行うというかたちで広がっていった。ヒューマンケア協会はこうした講座に講師を派遣してきた。  ただこの集中講座自体はそう長い時間をかけて行われるものではない。ヒューマンケア協会が1989年から始めた「ピア・カウンセリング長期講座」は,ピア・カウンセラーを養成するための講座であり,週1回で3か月計40時間ほどの課程である。  このように日時が予め決まった講座・プログラムの他,ヒューマンケア協会,町田ヒューマンネットワーク,自立生活センター・立川等では,個人に対する自立生活プログラム,あるいはカウンセリング(ピア・カウンセリング)を行っている。例えば,ヒューマンケア協会では,91年5月に相談室「ピア」の運営を開始した。また町田ヒューマンネットワークでも89年以降,ピア・カウンセラーがスタッフとなって有料の相談業務を始めている。  なお,ここに掲載する諸機関の他,「全国自立生活センター協議会」に寄せられた情報(91年末)によれば,自立生活プログラムを行っている機関として,街かど自立センター(東京都三鷹市)、第一若駒の家(八王子市),わらじの会(埼玉県春日部市),AJU自立の家(名古屋市),クリエイティブサロン(東大阪市),メインストリーム協会(兵庫県西宮市)があり,また,ピア・カウンセリングを行っている機関としても,えーぜっとの会(大阪府豊中市),メインストリーム協会があるが,今回はこれらの活動内容を把握することができなかったので省略してある。またピア・サポートグループの活動についても以下では扱っていない。何より,日常的な活動としてのピア・カウンセリングそのものの実施の状況にはほとんど触れることができていない。別の機会に補いたい。  以下これらの実施の状況を報告するが,まず開始の年と92年初頭までの活動の概要について簡単にまとめておく。この資料を作成するにあたっては,各機関の機関誌を利用し,さらにヒューマンケア協会の野上温子氏(第4章担当)の協力を得た。 □2 各センターにおける概要 ・ヒューマンケア協会(八王子市)  ILプロ:1986〜199205  13回  集中講座:1988〜1991  4回(第4回は中級者対象)  長期講座:1989〜199205 4回 ・札幌いちご会  集中講座:1989〜1991  3回 ・町田ヒューマンネットワーク  ILプロ:1990〜199207 5回 親プログラム 1回  集中講座:1990〜199206 3回 ・自立生活センター・立川  ILプロ:1991〜1992  4回  ILプロ集中講座 91  1回(3日間)  集中講座:1992     1回 ・HANDS世田谷  ILプロ:1991     3回(5回・4回・4回/回) 並行して親プログラムも ・自立生活企画(東京都田無市)  ILプロ:1992年度は準備期間として各地の自立生活プログラム等に参加予定 ・広島  集中講座:1990〜1991  2回 ・京都  集中講座:1990     1回 ・旭川  集中講座:1991     1回 ・名古屋 集中講座:1991〜1992  2回 ・長野  集中講座:1991     1回 ・板橋  集中講座:1992新規予定 ・静岡  集中講座:1992新規予定 ・埼玉  集中講座:1992新規予定 ・新潟  集中講座:1992新規予定 ・岐阜  集中講座:1992新規予定 ・熊本  集中講座:1992新規予定 ・大分  集中講座:1992新規予定 ・自立生活問題研究会 イントロダクション:91 1回 ・清瀬療護園 集中講座:1991   1回        ILプロ:1992   1回 ■U 各センターの活動 □1 ヒューマンケア協会(東京都八王子市) ★自立生活プログラム 01 19860707-1008 八王子@ 5人 (延べ36名)   居住形態・金銭管理・自己認知 12回シリーズ 1週間に1回   自立プログラムの説明・目標を設定/居住形態――どのような住居で生活したいのか  /フィールド・トリップ――外出の中で何が学べるか/調理――軽食を作る/金銭管  理/フィールド・トリップ――銀行の機能を知ろう/自己認知――様々な視点から見  た自分/介助者,ボランティアとの人間関係/公的サービスについて/調理――昼食  を作ろう/フィールド・トリップ――計画を立て,町に出よう/目標の再確認・今後  について   ※「自立生活プログラムについて」「日程」『ヒューマンケア・ニュース』01:03,  「自立生活プログラム第1期終了」02:07,安積純子「自立生活プログラム第1期を  終えて」02:07-08,本間良之「自立プロに参加して」02:08 02 19870403-0612 相模原  6人(延べ70名)   ケア付住宅での介助者との人間関係・自己認知・主張 14回シリーズ(内4回ヒュー  マンケア協会出張)   ※「第2期自立プログラムのお知らせ」『ヒューマンケア・ニュース』安積純子「   「脳性マヒ者が地域で生きる会」からのILP出張要請に答えて」03:01『ヒューマ  ンケア・ニュース』03:03 03 19870428-0728 八王子A 6人   自己受容・対人関係・トラブル処理・恋愛 12回シリーズ 04 19871007-1223 八王子B 7人   自己主張・自己受容・自己信頼・調理・フィールドトリップ 12回シリーズ 05 19881111-19870210 八王子C 7人   目標設定・差別を考える・セクシュアリティ 12回シリーズ   短期・長期目標の設定/目標達成の計画作り/フィールドトリップ――町田の美術館  ・障害者の店見学/個別プログラム(手紙・計算)・差別を考える/交流会/介助を  人に頼むノール・プレイ/クリスマス・パーティ/男らしさ・女らしさについて考え  る/調理/セクシュアリティ(妊娠と出産)/フィールドトリップ――国分寺ワーク  センター見学/目標達成を振り返る   ※『ヒューマンケア・ニュース』10:05-06(感想) 06 19890517-0802 八王子D 5人   社会資源・権利について考える  07 19900418-0710 90年度1期 八王子E 8人   人間関係を作るには 第一若駒の家との共同プログラム@ 08 19900912-1205 90年度2期 八王子F 5人   家族との関係/介助について 12回シリーズ 第一若駒の家共催A 09 19910123-0313 90年度3期 八王子G 5人   金銭管理について 第一若駒の家共催B 10 19910418-0711 91年度1期 国立 8人 第一若駒の家と共催   ピア・カウンセリングを使った自立プログラム 12回シリーズ   担当:境屋・山上昌子 国立市の障害者スポーツセンターで   『ヒューマン・ケア・ニュース』18:4-5(報告・感想) 11 19910905-1128 91年度2期 国立   自分の要求や気持ちをうまく伝える 12回シリーズ   国立の障害者スポーツセンターで 12 19920130-0319 91年度3期   様々なテーマに取り組む 8回シリーズ 13 19920507-  92年度1期 国立市の障害者スポーツセンターで  ※87年7月 練馬区で出張講座 「自己信頼ILプログラムとは」 3回 参加者40人  ※90年の「第一若駒の家」(八王子市内の通所訓練施設)主催の自立生活(外出)プロ  グラムに協会のケアスタッフが介助者として参加   『ヒューマンケア・ニュース』18:4,5(報告・感想) ★ピア・カウンセリング集中講座 01 19880911-0913 王子スポーツセンター 30人    講師:ジュディ・ヒューマン,ペグ・ノゼック   主催:ヒューマンケア協会 後援:朝日新聞厚生文化事業団   参加者:3日間を通しての参加者約30名 北海道・名古屋・大阪等   0911午後 ワークショップ「自他紹介」 講師:野上温子        ワークショップ「いろいろなカウンセリング」 講師:野上温子   0912午前 ワークショップ「ピア・カウンセリングの理論とデモンストレーション」        講師:安積純子        ワークショップ「聞くことと受容」 講師:安積純子     午後 記念講演「自立生活のためのピア・カウンセリング」講師ペグ・ノゼック        対談「ピア・カウンセリングの有効性と今後」        ペグ・ノゼック ジュディ・ヒューマン 安積純子 中西正司   0913午前 デモンストレーション「ピア・カウンセリングの実際」        講師:ジュディ・ヒューマン        ワークショップ「自立生活プログラムにおけるピア・カウンセラーの役割」        講師:安積純子 樋口恵子   ※報告書有。我妻武「ピア・カウンセリングに参加して」『いちご通信』76(198901   10):11-13(『リハビリテーション世界会議報告書』(199002)から抜粋) 02「ピア・カウンセリング集中講座'89」   19890813-0815 新宿区立身障センター 30人   主催:ヒューマンケア協会・新宿身障明るい街づくりの会   0813 1300-1330 オリエンテーション      1330-1500 フリートーキング「自立生活とピア・カウンセリング」      1515-1700 ワークショップ1「自他紹介・リレーションを作るために」      1800-   予約による個別カウンセリング   0814 0930-1015 講義「カウンセリングってどんなこと」      1015-1230 ワークショップ2「グループカウンセリングの実際」      1330-1500 ワークショップ3「ピア・カウンセリングの基本となる技法」      1515-1700 ワークショップ4「感情解放のデモンストレーション」      1800-2000 親睦パーティ   0815 0930-1230 ワークショップ5「自立プログラムとピア・カウンセリング」   ※感想:『ヒューマンケア・ニュース』12:02-03 03 19901117-1119 新宿区立身障センター 30人   共催:ヒューマンケア協会・新宿身障明るい街づくりの会   後援:朝日新聞東京厚生文化事業財団   定員:30名(先着順締め切り) 参加費:6000円(3日分)   参加資格:自立生活を実践している障害者あるいはしようとしている障害者   資料代:400円 宿泊:20名まで(1泊2800円で予約)戸山サンライズ   パーティ参加費:2000円 参加締め切り:1115   1117 1330-1500 ワークショップ「自他紹介」――リレーションを作る      0515-0700 基本となる方法「ピアカウンセリングのために」      1930-2100 希望者を対象に個別のカウンセリング   1118 0900-1130 ワークショップ「ピアカウンセリングの実際」――デモンストレ            ーションとミニセッション      1320-1600 ワークショップ「サポートグループ」      1615-1700 安積の話 カウンセリング・セッション 安積の説明 互いの長            所を誉め合う   1119 0900-1130 ワークショップ「ILPをどう進めるか」   ※以上『第3回ピアカウンセリング集中講座報告書』   「一層実践面を重視した内容,感情解放のテクニックとグループサポート・ワークが  大きな柱」(p.02)『ヒューマンケア・ニュース』14:07(案内)『ヒューマンケア  ・ニュース』16:03-04(感想)   ※この時のアンケートの全てを整理しコンピュータに入力してあり(回答数20・名前   は伏せてある・入力は立岩が担当)必要な人に提供可能。質問項目は   01 3日間を通して,心に残ったプログラムはなんでしたか。   02 デモンストレーションについてどう感じましたか。   03 サポート・グループについてどう感じましたか。   04 こういうことをしたかった,時間が足りなかった,など,希望や気付いたことを    お聞かせください。   05 介助者,会場など,全体の感想はどうでしたか。   06 これから継続の養成講座(3ケ月)を開催したら,参加してみたいですか(12月    から開催予定) 形式として,どんなものが参加しやすいですか 04 19911213-1215 受講経験者対象=ピア・カウンセリング中級講座 定員20名    場所:戸山サンライズ    アメリカからのゲスト:レスリー・マクガバンが参加した回も   ※『ヒューマンケア・ニュース』017:06(お知らせ)    『町田ヒューマンネットワークニュース』,『ヒューマンケア・ニュース』20:04-   05(山上昌子「ピア・カウンセリング講座を終えて」) ★ピア・カウンセリング長期講座 01 19891012-19900123 八王子台町身障者センター 6人   講師:安積 週1回 12回   「本格的なピアカウンセリング講座としては初めての試みだったが,1名は介助動物  の協会を設立し,2名はILプログラムのリーダーとしての活動を始めるなど大きな  成果を上げている。」(『ヒューマンケア・ニュース』14:03)   『ヒューマンケア・ニュース』13:05(報告) 02 19910117-0328 大和田市民センター 6人   感情の解放/人間の本質/サポートを得ること,あげること/アプリケーション/パ  ターン/障害をもっていること/カウンセラーであること・年齢への抑圧/信頼する  こと/力について/様々な抑圧(人種,性etc)…2回連続/リーダーシップ   ※安積執筆の資料あり 03 19910904-1127 ピア・カウンセリング初級長期講座 週1回 12回 12人   参加者は皆ピア・カウンセリングを知っている人達   『ヒューマンケア・ニュース』20:04-05(山上昌子「ピア・カウンセリング講座を終  えて」) 04 199205-07 週1回 ★相談室「ピア」 199105開始 相談内容:1.障害者の自立に関すること 介助,住宅,仕事,年金など,自立についての問題 2.家族関係 3.心の相談 4.性の問題 5.お年寄りの問題など 相談日,時間:月曜〜金曜 午後1時半〜4時 1回1時間以内 あらかじめ予約をとること 0426-23-3911 費用:初回,本会々員の場合無料 会員外と2回目以降については 1時間700円 担当者:本会のスタッフで研鑽を詰んだピア・カウンセラーがあたる ※『ヒューマンケア・ニュース』017:08 □2 札幌いちご会 ★ピア・カウンセリング集中講座 01 「ピア・カウンセリング集中講座'89」 19890827-29   会場:道立社会福祉総合センター(札幌市)   受講料:障害者7500円 同伴介助者6000円(宿泊・資料代含む)   主催:札幌いちご会 八王子ヒューマンケア協会   協力:朝日新聞東京厚生文化事業団・北海道・札幌市   後援:北海道社会福祉協議会・札幌市社会福祉協議会・道立福祉村・メビウス   記念講演講師:ジュディ・ヒューマン(が参加不可能になりジューン・ケイルス)   シンポジウムパネラー:安積純子・野上温子・小山内美智子 参加者:25名   ※「ピア・カウンセリング’89来て下さい!!」『いちご通信』078(19890610)p.6   「ピアカウンセリング集中講座に参加して」『いちご通信』080(19891110):09-10(ジ  ューン・ケイルスの感想) 02 「第二回北海道ピア・カウンセリング集中講座」19901027-29   会場:北海度難病センター 主催:札幌いちご会・ヒューマンケア協会   講師:安積純子 27名参加   オリエンテーション,ロールプレイ,デモンストレーションなどのワークショップを  中心にピア・カウンセリングについての講義+交流会   ※『第2回北海道ピア・カウンセリング集中講座報告書』,小山内美智子「第二回ピ  アカウンセリング集中講座のお誘い」『いちご通信』085(19900910):21,相馬正明   「第2回ピアカウンセリング集中講座報告」『いちご通信』086(19911110):30-31   小山内美智子「心を開くことから」『いちご通信』087(19910110:01,安積純子「北  海道でのピア・カウンセリング――リーダーとして」『いちご通信』087:07 03 第3回集中講座 19911102-04 主催:札幌いちご会・ヒューマンケア協会   『ヒューマン・ケア・ニュース』19:02 □3 町田ヒューマンネットワーク ★自立生活プログラム 01 19900629- 週1回全12回 メインテーマ:「1人暮らしのイメージと実際」   受講者:8名(女5・男3) ピア・カウンセラー:田村・堤・樋口   ※『町田ヒューマンネットワークニュース』010:13 02 19910111-0329 週1回全12回(→<参考>↓)   ※『町田ヒューマンネットワークニュース』014:03-04 感想:04 03 19910712-199110 週1回全12回 テーマ:「生活を楽しむために」   ※「フィールドトリップに行ってきました」『町田ヒューマンネットワークニュース』   16:4(報告:関根) 04 19920116-0402 週1回(木曜日)全12回 テーマ:「自分の世界を広げよう」   参加者6名   ※田村和久「可能性を信じて冒険を――第4期自立生活プログラム(ILP)を終え  て」『町田ヒューマンネットワークニュース』19・20:6 05 199207 - 予定 週1回全12回 受講料12000円 <参考>「町田ヒューマンネットワーク 第二期 自立生活プログラムのご案内  町田ヒューマンネットワークでは発足以来,障害者が自立して生きる地域作りを目指して,様々な取り組みを行っています。障害を持つ仲間に対しての自立生活プラグラムを通して“自立して生きる”ことのイメージや,すでに一人暮しをしている人たちの次のステップ“生活の質”を見つめています。  障害を持ち自立して生きるピアカウンセラーと一緒に3ヶ月の自立生活プログラムを体験してみませんか。 日時 1月11日より毎週金曜日PM1:30〜4:00 (一部AM10:00〜4:00) 会場 市民サロン,公民館など 定員 10名 参加費 10,000円(分割可) 参加資格 自立生活を実践している障害者,または目指している障害者 申込方法 12月25日までに電話又ははがきで参加の有無をご連絡下さい 主催 町田ヒューマンネットワーク  自立生活プログラム 日程 日時(金1:30〜4:00) テーマ・内容 1/11 自己紹介 目標設定  自己紹介,自立生活プログラム中に獲得したい目標を設               定する   1/18 対人関係@  介助の頼み方を中心に 1/25 フィールド・トリップ 寒さに負けず思いきり楽しもう! 2/1 生活の工夫 衣服,身辺用具のちょっとした工夫で暮しやすく 2/8 健康管理@ CPの緊張を解く,リラックスの仕方 PTを招いて 2/15 調理実習@  電子レンジを使った料理 2/22 対人関係A  家族,近所つきあい等 3/1 性の話  初歩の性知識 愛を伝えるロールプレイ 3/8 健康管理A  栄養管理,薬のこと,過労,睡眠,体力コントロール,               二次障害 3/15 調理実習A   栄養バランスを考えて 3/22 一人暮しに必要な手段 自立している障害者の体験談を聞く 住居,所得,介助               等総合的に 3/29 終了パーティ 反省会 3ヶ月を振り返って,どこまで目標を達成できたかを話               し合う」 ・親プログラム 01 19910703-0724 4回 障害者(児)親を対象としたプログラム   参加者4名 担当:樋口   ※『町田ヒューマンネットワークニュース』16:5(報告:樋口) ★ピア・カウンセリング集中講座 01 第1回ピア・カウンセリング集中講座   19900517-20 主催:町田ヒューマンネットワーク 共催:市民サロン   後援:朝日新聞関東厚生文化事業団 場所:大地沢青少年センター   参加者:14名 町田・狛江・世田谷・相模原等近隣地域からの参加が中心だったが    静岡・大阪・北海道からの参加者もあり   スタッフ・介助者:15名(1日参加も含め)   ※『町田ヒューマンネットワークニュース』009:01-02(感想:02)『ピア・カウン  セリング集中講座報告書』 02 第2回ピア・カウンセリング集中講座   19910606-09 主催:町田ヒューマンネットワーク 3泊4日   宿舎兼会場:町田市内の重度障害者授産施設「花の家」   助成:朝日厚生文化事業財団 講師:安積   20名定員 35名応募 キャンセルあり 希望者全員28名で   参加費:10000円(送迎・食事・パーティ参加費・資料代・介助などの実費)   主催:町田市民サロン 共催:町田ヒューマンネットワーク   ※『町田ヒューマンネットワークニュース』014:??(案内)『町田ヒューマンネット  ワークニュース』15:01-02(報告),菊池洋子「ピア・カウンセリング集中講座に参  加して」,『CILたちかわ通信』04:06-07 03 第3回ピア・カウンセリング集中講座   199206 ★ピア・カウンセリング 「ピアカン集中講座以降,事務所に訪ねてくる人が増えていますが,その中でも@精神的な悩みや個人の生活上のこと(プライベートなこと)が中心で,A3回以上継続して相談(カウンセリング)を希望する場合,1時間 700円。同時に,専従職員が相談に応じるのではなく,ピア・カウンセラーを養成し,その人たちにパートタイムで相談業務に携わってもらおうと考えています。そのため,介助派遣の場合同様,利用者,カウンセラー(パート)双方から50円の事務手数料をいただきます。」『町田ヒューマンネットワークニュース』009:06(198900618) □4 自立生活センター・立川 ★自立生活プログラム   スタッフ 高橋修:自立生活プログラム・コーディネイター   吉川順理:自立生活プログラム担当   ※『CILたちかわ通信』05:02(19911030)   年に3回の連続講座と1回の集中講座 01 91年度第1期自立生活プログラム 910417-910619 全10回   01:910417 ゲスト:樋口恵子 自己紹介/New & Goods/目標の設定   ※『CILたちかわ通信』03:04-05   02:自立生活って? 03:制度学習(松本正夫) 04:障害の受容(樋口恵子)   05:介助者との関係づくり 06:フィールド・トリップ   ※『CILたちかわ通信』03:12(活動記録)   07:健康の管理 08:障害者と性 09: 10:まとめと今後について   ※『CILたちかわ通信』04:12(活動記録) 02 91年度第2期自立生活プログラム 910926-1128 全10回   内容:制度・介助者との関係づくりなど 受講料10000円   ※『CILたちかわ通信』04:02(案内) 03 91年度第3期自立生活プログラム 920123-0326   ※「自立生活プログラムの今」『CILたちかわ通信』07:01 04 91年度第4期自立生活プログラム 9205-   内容:自立生活を始めるための必要な基礎知識の学習など   ※『CILたちかわ通信』07:06(案内) ** 自立生活プログラム・夏季集中講座   910821〜23 八ケ岳荘(山梨県) 参加者8人   ピア・カウンセリング,ミニセッション,ロール・プレイ,制度についての学習…   ※『CILたちかわ通信』03:03(案内),井内ちひろ「自立生活プログラムに参加  して――CIL・立川 夏期集中講座」,『CILたちかわ通信』05:04-05 ★ピア・カウンセリング集中講座 01 920821〜23 場所:立川市中央公民館   ※『CILたちかわ通信』09:03(案内) □4 HANDS世田谷 ★自立生活プログラム 01 199109- 5回 本人30名 親30名 02 199112- 5回 本人30名 親30名 03 199202ー 5回 本人30名 親30名 <参考>1991年度スケジュール[基本的に親も同じプログラム] 9月     本人(30名)         親(30名) 01 自己紹介    自己目標設定 02 自分の受けている制度確認    出きる限り制度を受けていく 03 対人関係         対人関係    介助の頼み方/近所との付き合い    子離れのすすめ/我が子意識の改革    家族(親)            介助者のとらえ方 04 調理実習    自分で作る時/介助者と作る時 05 自立している人の生活状況    人を呼ぶ/ビデオを観る    住宅所得制度/介助 〇12月     本人(30名)         親(30名) 01 自己紹介    自己目標設定 02 家族の問題         家族の問題    金銭管理/制度面での管理       子の自立性を高める/子供がもらってい    家の改造/介助者と親との関係     る制度を本人に渡す/使いやすい家にす                       るには/介助者との関係 03 健康管理         健康管理    自分の身体の構造           アテトーゼの発生/病気と障害の違い    二次障害/薬の副作用    医者の怖さ/薬の副作用 04 性の問題      性の知識/愛の伝え方    歴史的タブーの問題 〇2月     本人(30名)    親(30名) 01 調理実習    栄養のバランス/簡単な料理    自己工夫 02 手続きの仕方について    行政制度/窓口の対応    銀行その他の手続き 03 介助者の集め方  介助者の集め方    自己主張/ビラ作戦  介助料の必要性/親と介助者の違い    介助者とボランティアの違い 04 一年を振り返って    反省会 どこまで目標を達成したか話し合う □その他 ★京都 ピア・カウンセリング集中講座 199008 京都自立生活センター・大阪障害者解放センター・大阪行動する障害者応援セン    ター・メインストリーム協会・ヒューマンケア協会 参加者30人 ★広島市 ピア・カウンセリング集中講座 01 19900914-0916 主催:広島実行委員会・ヒューマンケア協会   082-261-4750 FAX082-263-8524 参加者30人 02 19911011-1013 主催:広島実行委員会・ヒューマンケア協会   沖縄・大分・福島・広島から参加者を迎える 初の試みとして4名の聴覚障害者の参  加を得る ※報告書有→第10章,『ヒューマン・ケア・ニュース』19:02 ★長野ヒューマンネットワーク ピア・カウンセリング集中講座 01 19910913-0915   主催:長野ヒューマンネットワーク 0262-23-7909 ★旭川 ピア・カウンセリング集中講座 01 19911026-1028 主催:旭川実行委員会・ヒューマンケア協会   0166-24-4971(ふれあいセンター:上西)   参加者20名,介助者30数名,カメラマン1名,ビデオ制作3名   『ヒューマン・ケア・ニュース』19:02  ★名古屋 ピア・カウンセリング集中講座 01 199103 主催:AJU自立の家 ★自立生活問題全国集会(東京)  ピア・カウンセリング入門講座(19911123-1124) 講師:山上昌子・安積遊歩(純子) 助手:関根善一・堤愛子・佐藤侑子 担当者:堤 愛子  1123 午後22:45-5:30  @ピア・カウンセリングとは  2:45ー3:15  Aリレーションをつくる 3:15-4:45  B傾聴と受容・ミニセッション 4:45ー5:30  1124 午前9:15-12:00  @デモンストレーション  9:15ー10:00  Aミニセッション・質疑応答 10:00ー10:30  Bピア・サポート・グループ 10:30-11:30  Cこの2日間で学んだ事 11:30-12:00 ※第3回自立生活問題研究全国集会実行委員会『自立生活NOW資料集』:87-96 ★清瀬療護園 ・ピア・カウンセリング集中講座  199101   初めての施設での講座(ヒューマンケア協会から講師派遣) ・自立生活プログラム  19920226- 清瀬療護園自治会の要請により 5回 日本社会事業大学の教室を借りる      (自立生活センター・立川から講師派遣) ▼8▲ ピア・カウンセラーへのアンケート     の結果・1 <米国>                                    立岩 真也  ヒューマンケア協会は,1980年8月,米国旅行の際にヒューストンCILとILRU(Independent Living Research Utilization ヒューストン 所長はMargaret Nosek)を来訪し,主旨を説明し,質問紙を置いて,この二つの機関及び他の自立生活センターのスタッフとして活動しているピア・カウンセラーの回答を依頼し,郵送してもらった。得られた回答数は15だった。  以下はこれを簡単にまとめたものである。各質問に自由に答えてもらうというかたちをとっているため,もともと集計が困難であるということもあり,以下は,比較分析といったものではなく,カウンセラー達が何を感じているのか,何を私達に伝えたいのか,カウンセリングをどようなものと考えているのか,どのようなものとして行われているのか,回答そのままに近いかたちで掲載したものである。ただ,いくらか整理し,適宜省略などを行って,並べ換えてはある。一人の回答者が複数のポイントをあげている場合が多いので,その合計は,回答の数と一致するものではない。翻訳は阿部司氏と立岩が行った。一部読み取りが困難なものがあり,正確には訳せていない。この意味でも,あげられる数は正確なものではない。  まず,回答者の属性は以下のようなものである。問1以降で付されている番号は,ここでの番号に対応している。 01 4肢マヒ              女 AdLib, Inc. ILCenter 02 ポリオ               男 モンタナ・Independent Living Project 03 先天性奇形             男 サンフランシスコ自立情報センター 04 先天性障害左腕が短く肩関節機能不良?女 シェナンドーILセンター 05 視覚障害              女 P・A・C・E,CIL 06 視覚障害              男 ノース・フロリダCIL 07 視覚障害              女 ワシントンCIL 08 ORTHOPEDIC         女 PARAQUAD(バラクワォッド) 09 ORTHOPEDIC NEURO(MS) 男       〃 10 筋ジストロフィー          男      〃 11 風疹による生まれつきの聴覚障害DEAF 男      〃 12 脳性マヒ              男      〃 13 聴覚障害 脳性マヒ         女      〃 14 障害なし 障害を持つ人と結婚    女      〃 15 聾唖                女 PROGRESSIVE INDEPENDENCE  障害を持つ人の家族が1人いる他は全て障害者。視覚障害3名,聴覚障害3名。性別では男性7人,女性8人。全員が自立生活センターのスタッフとして働いている。7人がパラクオッド(Paraquad ミズーリ州,セントルイス)に所属。 ■01「どれくらいの期間ピア・カウンセラーをやってきましたか」 回答数15  長い人で15年(14),以下11年(11),10年(06),9年(10),8年×3(03・07・13),5年×2(05・12),4年(15),3年×3(01・02・04),1年×2(08・09)。平均は6.3年。ピア・カウンセリングの歴史が長い分,当然のことながら,日本に比べて経験年数は長い。 ■02「なぜピア・カウンセラーになったのですか」 回答数15  「問題解決を助けるが好き」10,等援助したい(02・15),援助するのが好き等といった回答が以下の7人を含め10人。「人の相手をするのが楽しい」01「他の障害者と一緒に仕事をし,彼らの問題解決を助け,自己擁護のためのサポートを提供したかった」03「自分の能力で創造的エネルギーを生かして,人を何らかの形で助けたかった」04「他の障害者の障害への適応(障害の受容)を援助することに興味を持ったから」06「MSに関係する問題を解決するのを手助けしたい」09「私を助けてくれた人に多くのことを負っている,助けが必要な人に同じことをしたい」11「Paraquadにやってくる脳性マヒの人に対するロール・モデルとして活動するため」12  次に,上の回答と重なるが,分かち合うこと(share)をあげた人が5人と多い。「視覚障害を持つとはどういうことなのか,同様の障害を体験しつつある人々と共有できるから。私自身が役に立つと感じた生活上のテクニックや,自助の方法,共感などを与えることもできる。その基礎は,自立生活の哲学もしくは障害者の生活に直接影響する議論を障害者がコントロールすることへの配慮及び共感」05「私の経験をシェアするため」13「障害を持つ人間として私が学んできたものを他の人々と分かち合うため」08「障害をもって生活することについての同様の経験を別の障害を持つ人と分かち合うことが私自身にとって力になると感じる」10「彼等が事に気持ちよく接するには,ロール・モデルになるためには,誰かの障害を共有するのに替わるものはない」09  他には以下のようなものもあった。「自分も障害者なので,彼らに何が起きているのか理解できる。必要とあれば機関に紹介したり,話を聴くだけでよければ聴いてあげられるし,権利擁護活動もできる。彼らから学ぶこともある」01「四肢マヒの私の夫と結婚したいと思った時,障害を持つ男性と結婚している女性がとてもサポーティブだった。それは私にとってとても価値があった。なぜなら,障害者の潜在能力に気付いていない他の人達が私が彼と結婚することを思いとどまらせようとしたから」14 ■03「どこで,どれくらいの期間,ピア・カウンセリングを学びましたか」 回答数15  @所属するセンター等でのセッション,プログラムを受けたと答えた人が,Bの3人を含め8人と多い。「36時間のピア・カウンセラー養成講座を受講」03「Paraquadの訓練プログラム,14時間のコースで勉強」14「ウィスコンシン州マディソンの自立生活センター,Access to Independeneesでピア・カウンセリングのプログラムを4セッション」05「8〜10時間のセッションで初期トレーニング。その他専門的ワークショップ,トレーニングセッション」15「毎週2〜4時間のカウンセリングの訓練をセンターで。それ以前はカウンセラーとして働いていた。カウンセラーとピア・カウンセラー両方の職務を行なう立場だった。現在はセンターの常勤職員。ボランティアとして働いたこともある。有給で働くのがベストと思う」09  Aまた特に訓練を受けていないが,自立生活センターで働くことの中で身につけたと答えた人もBの1人を含め5人いた。「知識は経験から得ている。ワークショップに参加して情報をセンターやクライエントのために持ち帰る」01「自立センターでの仕事やケア提供関係の様々な活動を20年以上やった経験から」02「特にピア・カウンセリングのための正式の訓練は受けていないが,私のところの自立生活センターのプログラムには親しんでいる」08「3か月間仲間を観察することによって学んだが,私が何を教えるのかの大抵のことは経験を通してわかっている」07  Bこうした訓練・研修と同時に,あるいはそれを受けず(1人…ただしこれもAに含まれるとも言えよう),大学で学んだと答えた人が5人いた。「ピア・カウンセラーとしての正式の訓練を受けたことはない。しかし職業的なバックグラウンドとしてソーシャルワークの修士号を取っている」13「どこでも研修は受けていない。受けたいと思うが,センターのあるのが田舎なので無理。障害を持つ人々に関する心理学や教育の講座,職場でのワークショップは受けた。大学で勉強もしたが,真の経験は,毎日,人々を相手にする仕事の中から得ている」14「大学院で心理学を専攻していたが,研修場所を探していた時,W(ワシントン)CILの話を聴く。研修をWCILで行ない,ピア・カウンセリングは職場で身につけた」10「PARAQUADで約11年前にピア・カウンセリングのワークショップに参加した。しかし,これまでずっと聴覚障害をもって働いてきた多くの経験がある。カウンセリングの修士号を持っている」11「ミネソタ州の Mankato州立大学のカウンセリングの修士号を取るための実習生の期間の一部としてピア・カウンセリングを勉強。実習生の期間はミネソタ州の自立生活センターで」12 ■04「どのような種類の方法 method をピア・カウンセリングに応用していますか」 ■05「なぜ上記の方法をピア・カウンセリングで使うのですか」 両者回答数13  カウンセリングをする時の態度として答えた人が多い。日本での質問に対する反応と同様,どのように答えたらよいかとまどった人が多かったようだ。問05を,ある方法の他の方法に比べた場合の利点としてでなく,「カウンセラーとしての経験から」06「問題解決のため」09等と回答してきたものもあった。これらは適宜省いている。  答え方が分散したのは,ピア・カウンセリングが特別の手法によって定義されるようなものではないことにも由来しているだろう。「特にない。クライエントのニード,どんな人かに合わせて,ピア・カウンセリングを行なう」理由は「人によって事情が大きく違うから。忍耐を必要とされることも,厳しく対処すべき時もある。カウンセラーの必要とされる度合いも違う」01,とか,「ここで言いたいことがよくわからない。私達の仲間は障害者や障害を持つ人の家族の成員である。彼らだけが彼らが経験してきたことについて議論する」14,理由は「誰よりも彼等が取り組むべきことについて理解しているから。それゆえに,ピア・コンサルテーションを求める人は彼らのピアを信じることができその自己評価を再び高めることができるのだ」14といった回答があったのはこのことを語っている。  多かったのは,体験の共有,共感,分かち合いといった回答(4人)。「効果的な傾聴(listening) 及び共感を育てることによって関係作りをすること。経験の共有を行なうが,個々の状況や性格の違いも尊重する」05,理由は「上記のやり方がうまくいくこと,また決定権を当事者が握るという自立生活哲学にも合致することを発見したから」05,「共感,コミュニケーション,体験の共有」06,「分かち合うこと」11,「共感を示すこと。状況を共有すること」09  その他の回答のいくつかを参考のために記す。「障害者と1対1で1時間のミーティングをする。私の手法は,個人の問題認識や問題解決技能強化の援助と,適当ならば目標達成のための期限設定の援助。このやり方はクライエントによる選択を重視し,個人が感情を共有できるようにし,障害克服のための技能強化を助ける」03→理由「集中的に,時間を限ったやり方が一番効果的」  「生活上の問題の解決を私に求めるような状況には距離を置くように努めているが,なかなか難しい。というのは,私は,自立の必要を強く信ずるあまり,相談者の自立をめぐる問題の現在の情緒的処理能力以上に激励をしてしまいがちになるからだ。多くの人々にとって,自分ができると考える以上にカウンセラーが「プッシュ」してくれるなら,大いに助けとなるが,どの人にもそれがうまくいくとは限らない。私は相談者が自分の欠点を受け入れるように奨励するが,それは,実践の一部としてであって,夢を諦めさせるためではない」04→理由「自分の生活に変化をもたらすのは自分しかいないとことを認識する手助けをしたい。援助や,装具の提供,激励などはできるが,自立自助の精神や,最終的決定・責任はクライエントから来るものでなければならない」04  「私は自分自身を「ピア」すなわち,同様の感情や経験を持つもう一人の人物と見なしている。そうした感情や体験はクライエントと共有する。また,学問的訓練も受けているが,それは,人を総合的に見る時,また障害その他が本人にどんな影響を与えているかを遠近法で見るのに役立つ。精神的・物理的障害にもくじけない,クライエント固有の「自己」発現を援助する。すなわち,社会的偏見ではなく,自らの価値に基づく自己評価である。私は,クライエントに,自分も幸せになれること,障害のせいで,そのことが妨げられはしないことを学んでほしい」07  「他者に対してインフォーマルで傾聴しようとする態度をとる。彼らがどういうことあるいは問題と闘っているのかを表現するよう力づける。手や行動やあるいはどのようにするかのデモンストレーションといった方法を使う」08その理由として「人を快くすること,裁かれているということなく自由に質問をしたり自分の感情を表現しようとする気にさせることが非常に重要だと思う。別のやり方でものごとをいかにするかを体をつかって示すのは問題解決のために有効」08。「参加者が議論を方向づけることを認めること。問題解決の「方法」を教えるあるいはデモンストレートすること」09「傾聴,そしてケア」11  「最初のミーティングは他の人を知る機会,どこに住んでいるか,何をしているか,家族のことや,どのような娯楽や趣味をもっているかを知る機会である。私はまた自分自身についての同じ情報を分かち合い,そして互いに一緒に話している人が話したいどんなことについても議論する」10→理由「一緒に仕事をしている私と同じレベルの人に当てはまると信じるから。それは経験と感情を共有することをおおいに容易にする」10 ■06「どのような状況下でピア・カウンセリングは効果的ですか」 回答数14  「どんな状況でも」と答えた人が4人(13他)。他にはカウンセリングを受けようとするクライエントの積極的な姿勢をあげた人が7人と多い。「その気になった時」2人。「多くの状況で。しかし,特に参加者が参加することを「選ぶ」場合」09「積極的な変化を求め自立を高めようとする時,彼らは変わることができるのだということ,彼らが感じる恐れが正常なものであること,をわかるためにサポートを必要とするだろう」10「対象者が自立を本当に理解し,信念を持ち,生活に望むものを得ようという気になった時,誰か話を聞いてくれる人,選択肢を見つけるのを助けるだけで,何もかもしてくれるわけではない人を必要とする時」04「ピア・カウンセリングを求める時。専門的な心理学的カウンセリングが必要な場合は,ピア・カウンセリングは有効でない。(しばしば,補助的に利用されるが)クライエントが自立を強く求める場合,あるいは自分の障害を心地良く思っていない場合などは有効」05「障害者が人生からより多くを引き出そうとするのを助ける時」06  次に,新たに障害を持った時という状況をあげた回答が多い(3人)。「突然の事故などで障害を持った時」01「障害者になったばかりで,同じ障害を持つ人々と交流する適切な機会に恵まれなかった人の場合,有効なことが多い」05「新たに持った障害の受容に困難のある人あるいは自立技能習得の必要がある時」15  またカウンセリングを行う場,設定を回答した人も4人いる。「グループや個人,時には家族」07「救急のあるいはリハビリテーションの病院あるいは施設でも行うこともできる」08「一対一のディスカッションあるいは一人または二人のピアとの障害者を持つ人との小さいグループがとても効果的。私達は私達のオフィスで人々の家で病院でナーシング・ホームで行っている」14「どんなところでも! セッションの中で目と目のコンタクトを持つことは本質的。間に机やテーブルがないようにすること」11  他に「自宅で生活するために個人的介助が必要な時。様々な理由がある」01「短期的なサポート提供や,自己主張・問題解決の技能を教えるのに効果的。個人の努力の評価にも役立つ」03「似たような障害を持つ二人の人が共通の経験を「分かち合う」時に」12 ■07「どのような種類のクライエントに対してピア・カウンセリングは効果的ですか」  回答数14。「新たに障害を持った場合」05という問06と同じ回答が1つあるが,他は「進んで求める人」等,クライエントの積極性をあげた人が多く12人。「自立技能の向上を願う,障害を持つあらゆる人。彼らは自分の目標を達成してしまえば,以降は自力でプログラムを立てられるようになる」01「クライエントが他の障害者と障害を持つが故の体験を自分から進んで共有する用意のある時,効果的。また,仲間と話をする機会も必ず作ってあげなければならない(家族や,施設の職員などに妨害されてはならない)。彼(彼女)が生活上の問題を自分から進んで検討し,様々な選択を考慮する気持ちがある時,ピア・カウンセリンクは効果的となる」03「新しいことを学び,物事を自分でやることに動機と興味を持っている人」04「自分自身を向上させようという気持ちのあるクライエント」06「意義のある人生の選択を必要としている/求めている,あるいは変えようとしている――例えばもっと自立したライフスタイルや,新しい仕事」08「好奇心があり,積極的で,障害を人生のより小さいファクターとしようとしている人が理想的だが,意欲のある人なら誰にとっても利益がある」09「新しいアイディアに対してオープンであり他者から学ぼうとする人。クライエントが自身でピアに話したいに違いない,それは他に強制されるものではない」10「ピアに合うことに興味を持つ人」12「メッセージに対して動機をもち受容的である時」13「ピア・コンサルテーションを求めるように動機づけされている時」14「自立を望むクライエント」15「本当に助けを必要としている人」11  逆に,「自分は不幸だとか,不幸でなければならないと思っている人」07という答もあった。 ■08「ピア・カウンセリングを行う時,どのような態度をとりますか」 回答数14  判断を避ける,巻き込まれ(involved)ないという回答がまず3人。「安定的態度を保つよう努める。まず自分の問題を良く知る。他人の問題に巻き込まれない」01「なるべく判断を避け,私とクライエントの体験は違うかもしれないと思うようにしている」03「判断を下さず傾聴」07  他には,クライエントを受容できるような,リラックスさせられるような態度,積極的な態度,そのために自身が自身に対して肯定的であることがあげられる。「楽しく,興味を持ち,明るく」06「ユーモアのセンス。相手が私といて楽しく感じられるようにしたい」04「批判的でなく恩きせがましくなく開かれた,友好的な態度を保つようにする。そうすることで考えや経験を共有することができ,互いに学ぶことができる」08「思いやり。クライエントに対する信頼,信用,安心感を伝えるようにする。また,一緒にやれば必ず良くなり,問題が解決できることを確信させる。クライエントが,本来そうであるように評価されていると感じさせること」07「彼らを支援したいのだということ,そしてその人の価値,信念,物事のやり方を尊重しているということ,を示すような他者に対する関心を持つ態度」10「ロール・モデルであること」11・13「積極的なケアリング,援助」15「障害とともに暮らすことへの誠実なアプローチ,積極的な姿勢。自分自身について良く感じていない人は良いロール・モデルではなく,ゆえによいピアではない」14  またピアの関係も強調される。「相手と共にいようと努める。カウンセリング中は他のことを頭から追い出す」04「「ピアの関係」を発展させるのが基本的態度。状況に対する私の対処法がクライエントの選択と必ずしも一致しないことを常に心に留めておく。「ピアの関係」はパートナーシップであり,自分自身はファシリテイター(援助者)」05「私達は多くのものを共有しているゆえ有意義なあり方で誰かのために「そこにいる」ことができるのだということ」09 ■09「ピア・カウンセリングを行う時,何が一番大切ですか」回答数14  多かったのは「聞くこと・傾聴(いずれもlistening)」,あるいは相手が話せるようにするというもの(6人)。「聞くこと…。私は人にこうしろ,というような指示はしない。示唆するだけで,最後の決断は彼らがする」01「良い聴き手であること,簡単に判断を下さないこと,他者の問題に解決策を与えようとしないこと。クライエント自身で解決策を発見できるよう援助する方がよい」03「傾聴の技能…判断を控えること」05「傾聴」11・15「人が言う必要のあること聞かれるべきことを何でも言う気になるような信頼の関係を発展させることが重要」08  他には以下のような回答があった。「理解」04「共感」05・06。「障害,社会資源についての知識」06「トピックに対して最善のピアになろうとすること。普通は障害が合っていることが有益だが,いつもそれが求められるわけではない。例えば,脊髄損傷の人は介助者を見つけ管理することについて別の障害を持つ人と議論することができる」14「ロール・モデルの効果」12「ケアすること」11「カウンセラーが本当の「ピア」たること。すなわち,障害を持ち,自己洞察力があって,自分に自信を持ち,頼りになることを相手に伝え,クライエントに他とは異なる視点を証明してやれる能力」07「他の障害を持つ人が最大限自立できるように自分が自立的に生活する上での経験,うまくいったことや失敗を分かち合おうとする欲望」10「援助するが,依存的関係を促進しないようにする」15「問題解決能力,自分自身の障害を心地良く感じること(必ずしも常に必要というわけではない),誠実,心を開くこと,自立哲学への理解,相手の秘密を尊重し,守る」05 ■10「カウンセリング全般の中でピア・カウンセリングはどういう位置を占めていますか」  対等性,経験の共有01,目標志向性09,専門的な知識を要しない13といったピア・カウンセリングの特質を述べたものをここで置けば,まず,重要なものとして位置づけられていること,受け入れらつつあることを述べたものが5人と多い。  「1つのリハビリテーション計画の一部として法律的にも認められている」02「ピア・カウンセリング及び自立生活運動の評判は,過去10年間に良くなっている」05「次第に受け入れられてきている」13「次第に受入れられつつある――とてもゆっくりとではあるが。Paraquadは現在,このサービスをリハビリテーションの局面にある障害者に対して供給することで病院から支払いを受けている。こうした支払いを受けている自立生活プログラムを他に米国では知らないが,支払いを受けている他のセンターもあるに違いないと思う」14「非常に重要で,専門的カウンセリングの達成できない成果を上げられると思う」15「非常に重要!」11  次に専門的カウンセリングとの補完的な関係を述べた回答が6ある。「日々の生活の中でこそ一番重要だと思う。もっと深い情緒的・医学的問題の場合は,より専門的なカウンセリングが必要になる」04「専門的セラピーと,その状況に特別な理解を要する人々の間をつなぐ橋」06「ピア・カウンセラーは自立生活の原理を強化し,ロール・モデルとしてサポートするために,他の専門家と一緒に働く」08「専門的なカウンセラーの指揮のもとで働く準専門家と見られている」10「准専門家的技能と考えられる」03「Paraquadのピア・カウンセラーは自立生活のスペシャリスト(ILS)をサポートする」12 ■11「ピア・カウンセリングをピア・サポートとどのように区別していますか。」  専門的な訓練の有無(ピア・カウンセリング=PCの場合必要),PCは問題解決を志向するといった回答が多かった。「ピア・カウンセラーは必要とされた時には人に挑戦する責任がある。PS(ピア・サポート)を与える人はそうした影響を与えないかもしれない。ピア・カウンセラーは普段は他の専門家,すなわち自立生活の専門家と働いている」08「「サポート」は理解と共感を示すことであり,「カウンセリング」は問題を定義しそれを解決すること」09「PCは1つのゴールを設定するが,PSは様々な障害者が必要に応じて利用する継続的システム」02「PCにはカウンセラーがクライエントのニードや問題,関心に「沿う」という関係が含まれる。相互的問題解決の機会ではない。PSは相互援助の機会。対象者は2人またはグループになることもある。どちらの場合も,参加者はニードを共有し,サポートや激励を互いに提供し合う」03「PCは,個々の様々なトレーニングを受けねばならない。PSは,人が2人出会い,積極的に交流する時,いつでも自然に生じる」05。同様に前者は「コミュニケーション技能の正式なトレーニング」を必要とする06,「教える技術があり,それによってクライエントは勇気づけられるといった意味合いがある。「カウンセリング」ではクライエントが何かを変えようと自分でゴールを設定する」07  他には,「PSとは,まったく同じ問題を体験し,そのことを語れる人間同士のサポートの性格が強い。PCも良く似ているが,私にはセンターがバックにあるので,資金とか権利擁護の問題解決を援助できる点が違う」04「PSはグループ,PCは1対1」15といった回答があった。  また,PARAQUAD所属の5人は同じだと答えた(以下の14の他10・11・12・13)。「同じ。私達はそれをピア・コンサルテーションと呼んでいる。なぜなら,私達のところのピアはカウンセラー――大学でカウンセリングで学位をとるプログラムで訓練を受けた人――ではないから。私達は彼らをピア・コンサルタントと呼んでいる。なぜなら,彼らは障害を持って生活していく中での実践的なアイディアや経験について相談を受けているからである。カウンセリングを必要とする場合,私達のスタッフは専門家によるカウンセリングを提供した経験を持つ」14 ■12「なぜピア・カウンセリングは障害を持つ人に対して効果的なのですか」 回答数15  ロール・モデル,似たような経験を持つことによって理解できる(持たないものは理解できない),経験の共有といった回答がほとんどだった。「我々も障害者だから彼らは話しやすい。障害を持たないものは,障害者の感情や健常者の世界で毎日直面する問題などを充分に理解できない」01「多くの非障害者は,障害を持つ者が直面する感情的あるいは態度上の障壁を理解していない。障害に関係した問題を体験していない人々は,障害者にとって非常に重要なことをあまり重大に考えないことが多い。障害を持っていると言うだけでも大変で,話を聞き,勇気づけてくれる人がいるだけで充分な場合が多い。我々のほとんどは,全く同じあるいは同様の体験を持つ人々に深い共感を抱くものだ」04「自身も障害者のゆえに,より良く理解できる」05「障害者の体験を持つ人は,新たに障害者となった人に共感を示すことができるから」06「障害をもつことで似たような経験を共有」13「障害者は障害にどう対処すべきかについて障害者を持つ人からの方がよく学ぶことができる」14「「同じところ」にいて,障害の体験を持つ者は,そうでない者とは違ったものの見方をするし,より信頼できる」15「多くの障害者はロール・モデルに会い,学ぶことがなかった。ピア・カウセンリングはこうしたモデルを提供する」08「誰でも積極的なロール・モデルを必要としているから。障害を持つ人の中には他にそうした人を持たない人がいる」09「ロール・モデル」10「他の障害者の話をよく聴き,相手の体験を認め,情報資源を分け合い,問題解決可能な方策を採る,滅多にない機会だから」03  他には,「仲間(ピア)同士の1対1のカウンセリングで,1方が他方に優越するといったことがないから」01。 ■13「ピア・カウンセラーはアカデミックな資格を持つ必要があると思いますか」  回答数15。基本的に必要ではないとした回答がほとんどだった(14人)。「必要でない」06・13「必ずしも必要でない」15「全く必要ではない。障害を経験することが最も重要なファクター」14「思わない。実際,専門教育(ソーシャルワーカー,あるいはカウンセラー)は,カウンセラーとクライエントの間に垣根を作りかねない。カウンセラーがクライエントに対して「セラピスト的(治癒的)態度」を取ることにもなりうる」03「個人的には思わない。私の知識は,クライエントに接することで得たもの。研究会や委員会,ワークショップへの参加,様々なところから情報を得たりもした」01「訓練は必要だが,学問的な経歴だとか資格とかいったものは不必要」02。  他方,部分的な意義を認めたものもかなりあった(5人)。「必ずしも学位は必要ないが,効果的なカウンセリングや聞く技術,コミュニケーション,アサーティブな態度,難しい情緒的問題,などへの対応について,訓練を受ける必要がある。ピア・カウンセラーがこの線に沿ったワークショップを受けられればと思う」04「思わない。しかし,学問的裏づけは非常に役立つ場合もある。もっと重要なのは,クライエントに対する態度,自立哲学への献身,そして障害を嫌と思わないことである」05「必ずしも必要ではないが,「カウンセリング」をどう定義するかによって異なる」07「必要ではないが,専門的な資格を持とうとするなら益があるだろう」11「心理学と人間の発達についてのある程度の知識を持つことは重要と考える」08。 ■14「ピア・カウンセラーとしてどのような人が適していますか。」  聴く,判断を避けるといったクライエントに対する態度(を持てる人)といった回答が8人。「良い聴き手」02・05・11・13「優れた傾聴の技術を持つ人…独断的でない」06「聴く技術」04「セッションに自分の問題を持ち込んだり,邪魔したりせずに相手の話をよく聴くことができ,助言を与えずにいられる人」03「他者の価値と考えを尊重する人,他者と容易に関係をとれる人」10「判断を避け,共感的であること」05  他に多かったのは,障害を受容できているといった回答だった。以下,列挙する。「障害を受容」02・06・08・05「自分の生活や障害について認識」03「自分の障害や生活状態を快適と感じているか,そうしようと努力している人。ある種の恐怖感を克服し,何かを達成するところまで行った人」04「自立生活をうまく送っている人」08「自身,自立していること」01  「心理的に感情的に安定している人」08「感情的に成熟した人」10「柔軟」11「対人関係が良好な人,面倒見が良く,正直,ユーモアのセンス,コントロールされる必要のない人」02「ユーモアのセンス」04  「コミニュケーションの技術を持つ人」12・13「経験を積んだ者。障害者問題に,知識だけでなく,深い関心を持つこと。1対1の相手もできるが,話すこともでき,必要とあれば断固とした態度もとれること。クライエントのプライバシーを尊重し,それを守る努力をする人」01  「誠実で,自立哲学に傾頭」「学べるものもあるが,簡単には獲得できないものもある。学問的裏付けは,非常に役立つ場合もある」05  「障害をもっている人,あるいは障害を持つ人の家族の成員。彼等はきっと障害者をもって生活することによく適応してきたに違いない。彼等は自分自身や他の人々に対して積極的な態度をとるに違いない。彼等は他の人達が自立を達成するために,自らの成功とフラストレーションを分かち合うよう動機づけられているに違いない」14 ■15「自立生活に対してピア・カウンセリングはどのような意義を持っていますか」  回答数14。先頭に挙げる6つの回答をはじめ,自立生活にとって本質的,その一部であるとされている。「本質的。自立生活のスペシャリストとしておおいに使った。ピアは実践的な自立生活の技術を教えることに卓越しており,私が一度に多くの人と仕事するのを助ける」10「自立生活の一部! 障害を持つ人は他の障害を持つ人と感情や経験を共有するべきである」11「自立生活訓練の鍵。ピア・カウンラーは自立生活の技術を教える」12「自立生活運動の一部。なぜならそれは消費者主権の哲学の一部だから」13「これなしに自立生活サービスを供給することはできない。それは自立生活の根であり基礎である。障害者とその家族は他の障害者とその家族と自助の哲学を分かち合う」14「重要な鍵になりうる。人が失望したり恐れたり,非常に恥じたり,悲しみに打ちひしがれたり,病気で参ったりした後,その程度がひどすぎると,世間の諸施設や環境では救いにならない場合がある」07「自立の哲学を毎日の生活に組み入れる手伝いをする」05「CILのクライエントの障害受容や適応を助ける。また障害者同士なので,将来起こりうる問題を説明して上げられる」06  「ILセンターを通じて提供されるサービスで,クライエント主体でありクライエント自身を自立計画設定の主人公とする」03「どうやって学んだらいいか判らない人のための手段。援助を求めたり話相手を見つけられる場所。自分自身について気持ち良くなれる1つの方法。自分が1人でないことを発見できる場所」01「考え方や,目標,夢,毎日の生活に激励を与える誰かがいること」04 ■16「どのようにピア・カウンセリングは訓練されますか」 回答数15  各自立生活センターで訓練プログラムを行っている。「対人関係の技能,悲しみへの対処法や,コミュニケーションその他アルコール依存症や薬物中毒,自己評価等の現行の訓練・教育を10〜20時間,最初に受ける」03「わがセンターのやり方やペーパーワークについて訓練を受けている。実践的訓練の場が無いわけではないが,ここからは遠すぎ,予算が限られていて受けられないことが多い。「一か八か」の現場訓練を受けている。この点の解決のために,他のセンターとネットワークを組んでいる」04「2〜8時間のセッションを極力活用して訓練を行なっている。私は,テキストを点字にして(あるいはテープで),視覚障害者を訓練している」05「対人コミュニケーション技能や,地域の資源を利用し,様々な障害について権利擁護を行なう」06  以下はPARAQUADのスタッフ。「ピア・カウンセラーの役割の説明,コミュニケーションの技術のレヴュー,受容できる状況のためのロール・プレイング」08「1)親密の必要 2)効果的な傾聴の技術 3)いかに助言するか 4)他者の価値をいかに尊重するか 5)いかに危機的な状況を扱うか 6)ピア・コンサルタントの適切な役割」10「自立生活にかかわることについて話す……17グループの状況のロール・モデル化を通して」12「9〜10時間の訓練セッション」13「ピアを訓練するには,はじめは,シンプルな訓練プログラムが一番よいと思う。彼等が行う各々のピア・コンサルテーションのあとで彼等をフォロー・アップする」14  他に,「W(ワシントン)CILでは,スタッフのピア・カウンセラーは心理学の修士号を持っている。ボランティアのカウンセラーは学問的訓練は要求されず,ピア「カウンセリング」よりもピア「サポート」を提供している」07 ■17「あなたもまた別のピア・カウンセラーからピア・カウンセリングを受けますか」  回答数14。受けていないとした人が9人(08・10・12・13及び以下の5人)。「私自身は受けていない。クライエントのことでスーパーバイザーに援助を求めたことはあるが。他人のための権利擁護活動をしているので,そのやり方を自分についても応用している」01「受けていない。ただセンター内で他のカウンセラーからピアサポートは受けている」03・02。同様にこれをインフォーマルな形で受けているとした人が1人(09)。他に「受けていない。ただ,専門のカウンセリングセンターで,有料でカウンセリングを受けている。これは自分と自分の体験の理解に役立ち,私のカウンセリングをより有効なものにしていると思う」04「受けてない! 自立生活がたった10年の歴史しかないのだ。もっとずっと若かったから受けることも出来ただろう」11  他の回答は以下のようなもの。「受けたことがある」06「他の障害者や他の妻たちからいつも学んでいる。いつも何か新しいことを学んでいる――そして私は私が出会った新しい情報を他者に伝えることができる」14「時々ある。常にグループで話し合い,時には他のサポートが必要になる」15 ▼9▲ ピア・カウンセラーへのアンケート     の結果・2 <日本>                                    立岩 真也  次に,ヒューマンケア協会が主催し,既にピア・カウンセリング講座を受講するなどある程度知識・経験のある人を対象として1991年12月13日〜15日に行われた「第4回ピア・カウンセリング集中講座」の参加者にアンケートした結果を報告する。先の米国でのアンケートについてと同じく,似た回答を列挙するといった操作にとどめてある。文意が損われない範囲で,文章の一部を省略したりしているものがある。  回答を寄せたのは15名,障害の種別では脳性マヒ者8人,その他が7人,性別では女性12名と女性が多かった。平均年齢は33.9歳。内訳は,20〜24歳が1人,25〜29歳が4人,30〜34歳が2人,35〜39歳:4人,40〜44歳が4人。 ■01 これまで何時間位(又は何年位)ピア・カウンセリングを勉強しましたか。  回答の方法が一定でないが,集中講座を2回という人が6人と多く,他の数人もそれを時間に換算して答えているようだ。ヒューマンケア協会の集中講座が88年に初めて行われたことを考えれば当然である。他にコウ・カウンセリングも受けてきたと答えた人が2人,集中講座1回と長期講座を1シリーズと答えた人1人等。 ■02 なぜピア・カウンセリングを勉強しようと思いましたか。  @「自分をかえたかったから」「障害を持った仲間のためというより,自分のために勉強したいと思った」「いつも自分の感情(とくに苦しい,とにかくやしい,怒りたいetc.)をストレートに出すことが出来ず,悩み苦しみそこから開放されたかったから」「どうしたら抑圧された感情を開放させていけるか知りたかったから」「私の解放と自己変革につながる」等,自分に引き付けた回答が11人と目立った。  A他にカウンセリングをする立場からの回答が4人(1人は@の回答も)。「障害をもった立場からできる仕事であるように思った」「仲間同士でサポートしあえるこつのようなものを勉強できればと思って」「障害者でなければできない仕事(職業?)と知ったから」「今後の福祉相談を受ける仕事に役立てようと」。  また,はじめは何だかわからなかったが,あるいは気軽な気持ちで受けてみて,参加してみてその効果を認めたという回答が5人。 ■03「なぜピア・カウンセラーになろうと思いましたか」 回答数14  問2の回答が自己のこととして語っていたものが多かったのに対して,この問の回答はそれを受けて,「他の人が」「他の人にも」「他の人も」という回答になっている(13人)「今どんな立場であっても自分らしく各人が生きていくためにはサポートが必要で私もサポートしあえる1人になりたかったから」「他の障害者もどんどんパワフルになって,共に社会を変える一員として育ってほしいと思ったから」「なろうとは思っていないが,苦しんでいる人の話を聞くぐらいだったらやれるんじゃないかと思う」「心身とくに身体に対して今のままでいいんだよ,在りのままのあなたで充分で,あなたのことはあなたが一番よく知っている,あなただからうまくやれてこれた,あなたの人生はあなたがリーダーシップをとっている,などのことばがけにどれほどのピア(私も含めて)がうえているか,そんなあつい想いをかなえあって行きたい」「自分も元気になりたいし,多くの人間に広めたいと思います」「あらゆる障害者がありのままの自分を肯定し,自由になれるよう手助けをしたい」「みんな素晴らしいものを持っているのに,その人の傷が邪魔をして,その素晴らしいものを出せないと感じていたので,みんなの素晴らしいものをひき出せる事ができたらなあと思いました。自分も含めて…」「自分の生き方を肯定し,前向きに生きたいと思い,また,そういう生き方があることを多くの仲間たちへ伝えたいという,気持ちから…」  他に「新しい職業の一つになる可能性があり,職に就きたいという希望があったので」他,仕事として,自立生活プログラムの担当者になったので,といった回答が3(うち2は同時に上段の回答と併記)。 ■04「他のカウンセリングの勉強をしたことがありますか。それはどんな手法ですか」  回答数15。@「なし」とした人が9人。Aコウ・カウンセリングの経験があるとした人が3人。B他には「ケースワーク論を少し」「心理学全般を広く浅く」「応用心理学を通信教育で」「社会教育団体のやっているカウンセリング」,以上4人(1人はAと併記)。 ■05「どのような状況の下でピア・カウンセリングは有効でしょうか」  質問の意図が伝わりにくかったようだ。@わからない,が2人,他にも2人が質問の意味がわからないが,と答えている。A「どんな状況下でも有効」といった回答が3人,うち1人は「傷をもっていないピアなんていないから」。  B多く(9人)は,クライエント側の置かれた状況として答えた(アンケート依頼者の意図もここにあるのだろう)。「助けを必要としているとき」「勇気が欲しいとき,壁を越えたいとき」「自分に自信が持てない障害者や誰か話を聞いてくれる人を求めている障害者に有効」「・障害者が自分の障害を否定しているとき/・障害者が一般常識にかんじがらめになっているとき」「同じ障害者の意見を聞きたい時」「信頼して話す相手が見つかりにくい状況」「自分がどうにもならないとき」「・思いなやみ苦しんでいる時。・自分の話をゆっくり聞いてもらいたい時(言語障害等を含む)」「自分の生き方を見つめる時」。状況の厳しさを答えるものが多いが,同時に事態の打開に向かう能動性も指摘されている。もちろん,両者は矛盾しない。  C他には,カウンセリングが行われる状況設定を答えた回答が2(うち1つは@Aを併記)。「落ち着ける状況」「安心できる状況」。 ■06「どのようなクライエントに対してピア・カウンセリングはより効果的でしょうか」  回答数14。2通りの回答があった。  @「自分で感情をおさえている人」「・自分の感情を正直に出せずにいる人達。・自分自身のかかえている問題に対し解決策を見い出せずにいる人。」「自分を信頼できない人」「心に深い傷を持っている人」「「心」病んでいる人」「・障害者が自分の障害を否定しているとき/・障害者が一般常識にかんじがらめになっているとき」(問05と同じ)。以上6。  A他方で,「現在の人を何とかしたいと考えているクライエント」「自分の感情を出せる人」という2つの回答。一見反対のことを述べているようだが,問05への回答と同様,そう違ったことを述べているわけではない。これは次の4つの回答に現れている。  B「自分をとり戻したいと思いながら一人ではそれができない人」「自分の悩みをみつめて乗り越えようとする勇気があるけれど,サポートを必要としているクライエント」「すなおな人が有効的だと思うのですが,すなおでない人も時間をかければ有効になるのでは」「悩んでいる人。求めている人」  他には,「コミニュケーションに障害をもつ人に対して」「この様な質問はしない方がよいと思います。私は良いクライエントではないので」といった回答があった。 ■07「ピア・カウンセリングをするとき一番気をつけることは何ですか」  カウンセラーとして:回答数15  @まず「まきこまれないこと」とした回答がAの最初のものを含め5つ。「相手のパターンにまきこまれないこと。自分のパターンを出さないこと」「相手の感情に巻きこまれないことです。自分の意見や感情を出さないことです」「相手にまきこまれずにていねいに相手の話を聞く」「相手の感情にまきこまれず,どこが,その人のターニング・ポイントになるかを注意しながら,感情の解放を促す。終わったら忘れるよう努力する」  A次に以上を含め,「聞くこと」,それによってクライエントの感情の解放(discharge)を容易にすることがあげられる。「クライエントをしっかりみつめること。相手のコトバの内容を理解しようとするのでなく感情の起状をみつめること。巻き込まれないようにすること」「愛をもって,話をよく聞いて上げること」「クライエントの話を妨げない」「クライエントの言いたい思いをききとる。ディスチャージをしやすい環境にする」「相手の感情を楽に(自然に)出させてあげられるようしっかりサポートする。※言語障害の重い人の(話をきく)カウンセリングを行う時には,しっかり聞いている,理解しているということを復唱することで示してあげる。大きくうなずく」「クライエントを認め,その人の本質をひき出すこと」「安心させること」「クライエントの話を傾聴し,励ましながら肯定する」「カウンセラーに徹する。問題点(解放点)を見つける。パターンを見つける。」「クライエントをホジティブな発想とみちびく」「クライエントの話は絶対口外しないこと。この時間はクライエントが自由に使えるように配慮すること」  クライエントとして:回答数14  @カウンセラーを信頼することが4。A自分の感情を出すことが11。このうち,両者を併記したものが2つ…B。  @「カウンセラーを信頼すること」(2)  A「感情を出して話をする」「一番気にしていることをぶちまける」「自分の歴史を遡って,本来の自分をみつけるために時間を使う」「自分の心にすなおになること」「感情を押えない」「自分に集中して感情をみつめ,その時のおもいをコトバにすること(カナしいとかヤメロとかあっちいけとか)」「自分を見つめ,ありのままの感情を表現する」「思いのままの自分を示す」「自分に正直になる」「話したいことを話す」  B「カウンセラーを信頼すること。何が傷になっているかに気付き,早くディスチャージ出来るようになること」「相手を信頼し,思いのままの自分を示す」  他に,「気をつけることなど基本的にはないはずですが…。私はカウンセラーに色々と気を使ってしまうので,まだまだだめですね」 ■08「感情の解放ができましたか。そのときどんな気持ちになりましたか」  ちょっと,を含めて14名ができたと答えた。「最初はとまどいがあった。今までよそおってきた自分の方が楽だったので,自分を変えることに意味が見出せるまで,クライエントの時間が苦痛だった」「他人のデモンストレーションを見ているうちに,だんだん感情が自然にわいていて,体,全体で泣いていました。その人達のデモンストレーションが自分の人生とダブって見えました。そして,なぜ,自分が泣いたのか,何が負担になっていたか,その後,わかりました。その後,あの時のような,号泣きがないので,どんな気持ちになりましたかといわれてもよくわかりません」「疲れたような,すっきりしたような」「気持ちはすっきりした。ホッとした」「きもちいい。もっももっとわめきたい。頭の中がかるくなる(おわったあと)」「これが本当の自分なのだと感じ,リラックスした気分になりました。でも,その後,ひどく疲れ,頭痛がすることもあります」「笑いの解放……最高 泣く……3回くらいできたが,いまだに変な気分です 怒りの解放……いい気分 ☆怒りやおそれを思いきり出すことで,ウソのようにそのことに対する自分のこだわりが消え,新しい気持ちで同じ相手や状況に接することができます」「素直になれた気がした」「すっきりする」「きもちがらくになった」「スッキリとした。とても良い気持。・自分に勇気と自信がわいてくるような感じになる」「ディスチャージした時は,堰をきってという感じで感情が溢れ出し,その後は眠りからさめた時のような,まどろんでいるみたいな状態になる」「まだ難しいです。でも,なんとなく気が楽になってきました。自分は自分だから,無理して人のペースに合せなくて良いんだと思えるようになってきたこと」  他方,「解放はまだできていません。しかし,無理に解放しなくてはと思わなくなりました」 ■09「ピア・カウンセリングを受けて自分が変わったと思いますか。どのように変わりましたか」  「そんなに変わらないと思うが,ちょっと自信がでてきた」を含めれば全てが「変わった」と答えている。以下は全ての回答(文章の一部を省略した)。  まず,自信,言いたいことが言えるようになったという回答が多い。「自分に自信が持てるようになってきました」「カウンセリングに少し自信がついた。次に進める気がした」「自分に自信をもち,肯定できるようになった。物事を前向きに考えられるようになった」「気持ちが大きくなり,自分自身に自信が持てるようになった。少しずつではあるがやさしいだけではなく,”怒る”ことも出来るようになった」「底にあった大きな傷が見えた時,傷の原因を掘り下げようという勇気が湧いてきました」。「ステレオタイプ的な発想がへった」といったものもあった。  次に上記(の少なくともいくつか)も含め対人関係について記したもの。「前は感じることができなかった人の「心(気持ち)」が,今は感じるとることができるようになりました。(まだほんの少しですが)。今も,悩まされている職場の人間関係がうまくやってゆけそうな気持ちになってきています」「人の話をよくきけるようになった。勇気をもてるようになった。自分の気持ちを大切にするようになった」「思っていることが話せるようになった」「確かに自分の言いたい事を言えるようになって来たと思います。勿論,完全ではありません」「人間関係の作り方。外側から見ても変わっていないかもしれないが,自分ではずい分楽になった。相手に求められていることが判っても自分がそうしたくなければ断っても人間関係がまずくなるということはないということがわかったし,自分らしさを保つことができるようになった」「つれあいの様々な傷などにまきこまれないうにするようになってきた。私は私,とおもえ,少しずつうごけるようになってきた。少しずつだったけどイヤなものは嫌といえるよになってきた。どんなことが主体的に生きることだか少しわかってきた」「☆自分が直接の手助けやアドバイスができなくても,安心して「聞く」ことができるようになった。☆他人が泣くことがこわくなくなった。☆自分を楽しませることにうしろめたさがなくなった」 ■10「ピア・カウンセリングが単なる相談と違う点はどこですか」 回答数15  @クライエントが自分で解決を見出す点をあげたものが7。「解決方法を自分で発見していくこと」「カウンセラーの力だけではなく,その手助けで,自分から自信をつけていくところ」「☆問題を解決するのはあくまでクライエントであり,クライエントを信頼すればいいということ。☆カウンセラーとクライエントが対等だということ」「アドバイスをしない。答は自分で見つける」09「自分から問題を解決していけるようにする」「自分の問題点や方向性を,自ら見いだしていくこと」14「カウンセリングは自分の意見を言わないこと」  A感情の解放をあげたものが5。「「心」の解放が目的」「言いたいことを吐き出し感情を解放するところ」「すなおになれるところ」「一定のわくにとらわれずたとえ解決策が見い出せなくとも親身になって聞いてあげる,あげられる関係が作れるという点」「自分を解放していく事によって,他の人も解放できる原動力となります」  Bクライエントとカウンセラーとの対等性をあげたものが3。「クライエントとカウンセラーは対等で,問題を解決するのはクライエント」「同じ立場でものを考えられる事」「自分の中にある問題をさぐり解決する力をクライエントが持っている」 ■11「ピア・カウンセリングとピア・サポートを貴方はどのように区別していますか」  回答数13。わからない3(うち,ピア・サポートがわからないが1)。  @ピア・カウンセリングを心理的な側面を中心とするものとして,ピア・サポートを情報・行動面を重視するものとして捉えた回答が5。「Cは心理的なところから,Sは肉体的かつ制度的なところから助け合う」「情報サービスはPS」「心理的な援助と制度とか介助の援助(ソフトとハードの違いだと思います)」「Cは自分をとりもどすこと。PSはやりたいことをやること」「PCは自分を見つめ直すため。PSは自分の時と同様に他者のカウンセリングを補っていくこと(かな?)」  @個人と集団という違いとして捉えたものが4。「PCは個人と個人のカウンセリングだけど,PSは複数によって助け合ってのカウンセリング」「PCはクライエント自身が自分の問題と向い合う場。PSはお互いが問題を共有する場」「私にとってPCはワンウェイでカウンセラーをすることを意味し,PSはそんな中で疲れた自分を仲間の中におき,リラックスし,また仕事PCへ向う力を養うところ」「PCは,傷や問題点を捜し出して具体的にする。PSは,同じような傷や悩みを持っている人達が互いに励まし合う」  A他に「現時点で違うものと思っていなかったのだが,Cのほうがその気でやらなければ出来にくいかな,かまえる様な感じ」といった回答。@の回答でもこれと近いことが述べられている。 ■12「ピア・カウンセリングはなぜ障害者に効果的なのだと思いますか」  障害者に対する抑圧の大きさ,それによって感情を表わすのが難しいことを述べた回答が多い。「抑圧があまりにも大きいから」「障害者だけではないと思うが,共通して差別されてきた経験というものを持っているから」「障害者は常に差別され,抑圧され健常な人々に比べより多くの痛み苦しみをかかえているから」「心の「キズ」や「パターン」が多いから」「感情をあらわすことができない」「障害」というものに対しての否定的な人間関係の中で,周囲の考え方に惑わされずに生きていくのに,効果があるのではないかと思います」「障害者は長年家族や社会に遠慮しながら生きてきたので,自分の意志を出せない人が多いと思います。ピア・カウンセリングを受けることで,障害がある自分を素敵な人間だと思えるようになってくるから」「「生まれてきたこと」を含め,その存在自体あまりにも否定され続けてきたから。そしてまた健常者がどれほど理想的なことを言っても,しょせん「健常者のいうこと」としか思えない現実があまりにも多いから」。以上8。  また同じ障害を持つピアという点で答えた回答が2。「障害者が持つ傷は,障害のない人の傷に比べて特殊性があるので」「障害者の持っている傷は,他の人達の傷に比べて独自性を持った傷だから」  他に,「ディスチャージしやすい人が多い」「「「心」の自由が目的だから。自縛しない,自由な心が,心の中にこだわりのない人であり,こだわりのない人生が送れるから」「特に障害者に効果的というわけではなく,同じような社会的抑圧の中にいた人たちが,互いに助けあえるカウンセリングの方法だと思う。But あえて言うなら,人間の本質は生まれた瞬間の自分だということ――障害はその後作られたきたもので,人間の価値に違いはない。」「ピアだから。時間をわけあうことで対等だから」「相手への安心感と同じ立場でものを考えられる」 ■13「貴方はピア・カウンセリングを将来,給料のとれる仕事としていきたいですか」  回答数14。すでに仕事の一部としている人が1人,「はい」「出来れば…」と答えた人は5人,(自分はともかく)一般論として肯定した人が2人だった。否定的な意見はない。 他方,「わからない」「(今は)何とも言えない」が4人,「(今は)その気はない」と答えた人が2人。 ■14「ピア・カウンセラーとしてふさわしい人とはどのような(経験,経歴,人柄など)人だと思いますか。」回答数13。  @「どんな人でもなれると思う」「経験はある程度必要ですが,あとは,そのクライエントの人格に合った人格の人だと思うので,どんな人がふさわしいとは言えません」。 以上2。  A自立した生活を送っている人と答えたのが2。「障害をもち家族から独立し,自立的に生活している人」「地域の中で,自分なりの生活を送っている人」  B他は,カウンセラーの人柄あるいは他者に対する態度として答えた人。「人生を積極的に生き,自分の体験を大切にしていける人」「人間のすばらしさを実感できる人で,相手の話を誠実に受けとめられる人」「人間を愛せる人」「心の「いたみ」を知っている人。愛することのすばらしさを知っている人」「自由で柔軟な人。自身を否定しない人」「話を聞いていられる人で感じがよく的確にものをとらえられる? でも何よりものんびりした人かな,ホッとできる」「自己をおさえられる以外は適性なし」「一つのものごとにとらわれない幅広い心と経験を持った人。気持ちのおおらかな人」「経験は勿論のこと,人柄だと思いますが,まず,クライエントを裏切らない人」「自分の気持ちに余裕があり,相手を受けとめることが出来る人」 ■15「自立生活においてピア・カウンセリングの果たす役割についてお答えください。」  回答数14。@13の回答が「自信」「自己確信」(それによって自立生活が実現できる)のといった方向のものだった。「☆ひとひとつの場面でできないことはあっても,精神的な強さを身につけられるから困難にむかっての解決法も見い出す力を備えられる。☆自分がありのままで常に賢明に生きているという自己信頼が持てる」「発想をポジティブにして生活へむかう」「私自身は,自信がない人間でしたので,自信をつけるのに役立てています」「自己を出させてくれる」「ロールプレイなどにより,自己の可能性・能力を再認識することが出来,自分自身に自信がもてる」「自信を持つ事によって,自立心を深める役割を果たします」「自己確信を各自の中に生じさせていく」「自信をもたせること」「・地域で生きていく上でかなり有効である。何故なら自分で自分に自信をもつことができるものだから…。/・絶対にお互いに否定しない,意見を言わないそんな場がとても大切だと思います」「☆周囲の考えや様式にとらわれることなく,自身のライフスタイルを作るエネルギーになる。☆日常生活にさまざまにキズついたりつまづいたりしても,セッションを通じて解放している」「自分の進む道を見付けやすくなる。出てくる問題点の解決の糸口が見つかる。生活の支え」「精神面の充実」「今の日本で障害者が自立生活を実現させるには,設備や周囲の人達の理解の面で不備な点が多く,それに対抗するには心身共にエネルギーを消耗し疲れてしまいます。疲労した心を回復させ,いつもパワフルな状態を保てるように,ピア・カウンセリングの役割があると思います」  A他に「体験のわかち合い。知恵,情報の提供。ロールプレイの場の設定」 ■16「どのようにして日常ピア・カウンセラーとしてのトレーニングをしていますか。又,今後どのようにしていきたいですか。」回答数15  @セッションの機会を持ちたい,増やしたいなどという回答が10。「@週1回以上セッションの機会をもつ。Aピアサポートの集まりの中で積極的にデモセッションをする。Bコウ・カウンセリングのワークショップに参加する」「今後,定期的にセッションの時間を持ちたい」「サポートクループに参加したい」「常に色々な経験を持つ人と数多くのセッションをすることを心がけ実行する」「もっともっと回数を重ねたい」「ピア・サポート・グループ(月1回)継続クラス(月1回)月1〜2回のセッション」「☆今後,セッションを週1〜2回にふやしていきたい」「時間をみつけながら極力,カウンセリングを受けるようにしている。できれば定期的にカウンセリングを続けたい」「最近は夫婦間でセッションをし合ったり,ハグをしたりしております。今後は友人間でも,日常的にセッションできような場を作れたらよいと思います」「時には,人の話をきく時にカウンセラーのつもりになって聞くようにしています。最近は夫とセッションをし合ったり,ハグをしたりしています。今後,日常的にも友達同士で気軽にセッションをできる場を作れたらなあと思っています」  A日常の生活の中でといった回答が3。「自分のパターンがだいぶ見えてきたので,この自分のパターンを少しでもこわせたらと日常の生活の中でも意識して行動したいと思っています。また意識して人の話を聞きとること」「具体的にはしてませんが,出来るだけアサーティブな自己主張を心がけています」「これといって日常的にはしていません。子供を相手に何かやれたらいいナァと考えています」  B「特にしていない」「していない」。以上2。 ■17「貴方はどのような頻度で,他のピア・カウンラーからピア・カウンセリングを受けていますか。」回答数11  @集中講座でと答えたのが3。「集中講座で」「集中講座の時以外受けていない」「今までは講座の時しか受けなかった」  A現在受けていると答えたのが2。「月1〜2回」「度々」「頻度は決まっていないが,精神的にしんどくなってきたら,受けるようにしている」  B今後のこととして答えたのが2。「月1回のカウンセリングの時間を持ちたい。今,思案中」「ピア・サポートにはなるべく出るようにする。今後レギュラーセッションをくんで行きたい」  C受けていないと答えたのが3。「3,4年に一度にこれからなるかもしれないが,今特に受けていない」「あまりない」「まだない」 ……  アンケートの結果は以上である。ピア・カウンセリングに参加した人達が何を思っているか,ピア・カウンセリングがどのように受け止められているかを知る参考にはなると思う。また,ピア・カウンセリングを行うあるいは受ける際の,講座を受講するあるいは開催する際の参考にしていただければと思う。  質問項目が同じではないことを考慮しても,米国での結果と比較すると,日本でのピア・カウンセリングが,心理的な側面,とりわけ感情の解放という点を強調したものであること,集中講座の受講者もそのようなものとして受け止めていることがわかる。また,まず自分自身の解放の手法としてこれが捉えられていることもわかる。  これは,第一に,このアンケートが,ピア・カウンセリングの手法のデモンストレーションを行う,体験する集中講座の際に行われたということにもよろう。というより,今までのところ,日本でピア・カウンセリングが体験されるのは,日常的な業務の中でよりもむしろこうした集中講座においてであるということであろう。  そして第二に,むしろこちらが大きな理由だろうが,これまでの章で何度も述べられているように,ヒューマンケア協会他におけるピア・カウンセリングが,コウ・カウンセリング,再評価のカウンセリングという手法を取っていることにもよると思う。米国でのピア・カウンセリング,とりわけ障害者のピア・カウンセリングは,その基本的な姿勢として再評価のカウンセリングと共通するものを持っていることは認められよう。それにしても,米国において,ピア・カウンセリングは,障害という体験の共有,ロールモデルとしてのピア・カウンセラー,クライエントに対する傾聴といった,よりシンプルな要素によって定義づけられるものだというなのだと思う。さらにそれは,具体的な情報の提供や問題解決への支援といった,より広い活動を包摂するものである。このことは次の章での文献の検討によってもある程度確かめられることである。  これから時間が経過し,さらに自立生活運動が展開していく中で,ピア・カウンセリングは,ピア・カウンセリングのオリエンテーションとしてだけではなく,実際に,自立生活センター等の日常的な活動で行われていくようになるだろう。この時,それは当然,各人の必要を把握し,資源の配分についての助言や,権利の擁護の活動といった側面を合わせもっていくものになる。自立生活プログラムがグループに対するものだとすると,より個別的な援助活動として利用されるようになるだろう。その時に,カウンセラーの養成に何が必要とされるか,あるいは,ピア・カウンセリングがピア・カウンセリングであるための最少限の条件として何が共有されることになるか。これは,確かにこうしたカウンセリングを必要とする人達,ピアであるクライエントとカウンセラーが,自立生活運動とピア・カウンセリングが拡大していく中で,見出していくことだろうと思う。 ※回答の全て(及びヒューマンケア協会主催の第3回・第4回集中講座の感想を求めたアンケート結果)はコンピュータのファイル化(MS-DOS TEXTFILE)されているので,要望があればお送りする(ただし,個人名は伏せてある)。また米国でのアンケートの回答に同封されてきたいくつかの資料(今のところ翻訳はされていない)もある。これも求めがあれば提供する。 ▲10▼ ピア・カウンセリング関連文献の紹介・     T <米国>                                  立岩 真也  ここでは,米国におけるピア・カウンセリングに関する研究論文・報告と関連著作を紹介する。92年の初めまでに収集しえたのはわずか(論文・報告が7本)で,多くはまだ手元にない。したがって以下はあくまでとりあえずの報告であることをお断りしておく。 ■T 雑誌論文・学会報告 □1 概要  1987年以降,1992年1月までの約5年間の社会科学関連の論文の書誌情報を収録したデータベースSSCIでピアとカウンセリングの語で検索した結果(PEER* and COUNSEL*=PEERで始まる語とCOUSELで始まる語の両方を持つ文献),ピア・カウンセリングに関係する論文,学会報告の抄録が36あった。入手できたいくつかの論文の参照文献リストを見ても,87年以前にも多くの論文が発表されていることがわかるが(これらを見る限りでは1975年頃から論文が現れている),今回は利用した学術情報センターのデータベースの制約上,87年以降に限ってある。  題名から推察する限り,その主題は以下のようなものである。  大学生2,黒人の学生,メキシコ系&黒人の大学生,マルチカルチュラルな大学での,マイノリティの学生,ハイスクールの学生,青年の性犯罪者,等,学生・子供・青年関係が14本あり,以下のエイズ教育6を含めると20になる。掲載元の雑誌も教育関係の雑誌が多く(J COLL STUD:8 J ADOLES H:2 CHILD YOUTH:1),青少年の教育や青少年の抱える問題に対してピア・カウンセリングを使用する試みが多いことをうかがわせる。  他には,アルコール,ヘルス・ケア,糖尿病者,マルチカルチュラルなピア・カウンセリング,ナーシング・ホームの居住者,薬物,「薬物・アルコールの乱用者」,高齢者(2),高齢者を介助する家族,青年のためのエイズ教育(同一の著者によるものが6),若い母親,障害者の女性,精神病者,以上が20本。  このように見ると,米国で行われている(あるいはその適用を想定されている)ピア・カウンセリングは,米国の現在の社会事情を反映したもの,社会問題に関するものが多いことがわかる。また,後にも述べることだが,学校の生徒の学習の支援やエイズに関する教育等にピア・カウンセリングの適用が検討されていることをみると,かなり広い遺棄でこれが用いられているらしいことが推察される。 □2 内容の紹介  次にまず私達が入手できたものについて紹介を行う(東大医学部図書館・東京都社会福祉協議会福祉情報資料室を利用)。全体の忠実な紹介,要約ではないが,米国におけるピア・カウンセリングの用いられ方について知る参考にはなるのではないかと思う。 ★SCHARLACH, ANDREW E. 1988 PEER COUNSELOR TRAINING FOR NURSING-HOME RESIDENTS,,GERONTOLOGIST, V28, N4, P499-502.  ナーシング・ホームに新たに入居してきた高齢者に対して,ピア・カウンセリングのトレイニング・プログラムを受けたピア・カウンセラーがカウンセリングを行った場合と行わない場合(統制群 control group )とを比較し,いくつかの点でピア・カウンセリングの利点を検討したもの。同時にピア・カウンセリングの訓練を受けた人とそうでない人の比較も行われている。 ★RICKERT VI; GOTTLIEB A; JAY MS 1990 THE EFFECTS OF PEER COUNSELORS UPON CONDOM ACQUISITION, CLIN RES, V38, N1, PA39-A39. ★RICKERT VI; JAY MS; GOTTLIEB A 1990 THE EFFECTS OF A PEER COUNSELED AIDS EDUCATION-PROGRAM UPON, ADOLESCENTS KNOWLEDGE, ATTITUDES AND SATISFACTION, CLIN RES, V38, N1, PA39-A39.  いずれも学会報告の要旨。エイズ予防のための青年に対するコンドーム使用を促す教育プログラムを専門家とピア(知識を持つ同年輩者)によって行い,これら二者間及び行わない統制群との間の効果の差を調べたもの。教育を行った場合,教育を行わない場合に比して専門家による場合もピアによる場合もほぼ同じ効果があるという結果を報告している。 ★RUBENSTEIN, ELAINE ; PANZARINE, SUSAN; LANNING, PATRICIA 1990 PEER COUNSELING WITH ADOLESCENT MOTHERS - A PILOT PROGRAM, FAMILIES IN SOCIETY, 71-3:136-141.  メリーランド大学・ボルティモア大学での出産前及び親となるプログラムの中の付加的なサービスとしてPeer Companionship Projectを2年間に渡って試験的に行った。その目的は,学校への就学を継続させ,避妊により妊娠を繰り返すことを防ぎ,より上の年齢の母親に対しては就労の訓練と経験を提供すること。臨床ソーシャル・ワーカーがプログラムに関わり,参加者に必要なサービスを提供。18歳以上の6人がピア・カウンセラーとして選ばれ,2時間の訓練セッションを3回受けた後,6か月間のプログラムに参加。訓練セッションでは,いかに「氷を壊す」か,積極的な傾聴,共感を示すこと,信頼とその限界を教えることに重点が置かれた。またピア・カウンセラーには賃金と経費が支払われた。他方,15歳以下の妊娠第三期の社会的に孤立している女性12人がカウンセリー(カウンセリングを受ける者)として選ばれた。カウンセラーは毎週最大2時間カウンセリーの家庭を訪問。共通の経験を利用し,傾聴,共感的な理解を重視。助言することは避ける。  カウンセラーのためのミーティングが月に2回もたれた。目的は,1カウンセラーとカウセンリーの接触を監督すること。ロール・プレイングを用いた。これは状況と反応をより具体的にできるため。2様々な話題に対する情報を提供し,議論の場を設けること。3グループの結合を高め,その過程でメンバー相互のサポートを強化すること。食べ物が提供された。他方,カウンセラーとカウンセリーを一緒にしたミーティングがレクリエーションと教育を兼ねて行われた。  ケース・スタディ。17歳の高校生の母親であるカウンセラーSとそのカウンセリーT。彼女は彼女自身のように15歳で既に妊娠している女性を助けることができるのではないかと感じてプロジェクトに参加した。彼女は,妊娠中,誰も話しかける人がいなかったこと,ほとんど誰も自分が感じていることについて聞いてくれなかったことを語った。Tは,プロジェクトに参加した当時カウンセリーの中で最も若い12歳,妊娠第三期だった。Tの母親はTよりも話す相手を必要としているようだったので,グループのリーダーの援助を得て彼女は,別の話し相手を得た。SがTのピアであって母親のピアではないことを両者が理解すると,Tはより心を開いて自身のことを語るようになった。ウィンドウ・ショッピングに行き,出産の恐怖を語る。このことを報告した後,Sと仲間のカウンセラー(コウ・カウンセラー)達は,あるセッションの全てを出産の経験を議論することにあてた。誰もが一度に自分の「話story 」をしようとし,共有された経験の爆発は非常に強いもので,その場はカオスの様相を示した。彼女達はグループに強い絆を感じた。Tの出産後,Tと母親は以前よりうまくいくようになった。Sは出産の前からTが学校に戻った時に子供の面倒をみてくれるシッターを探すのを手伝い,また,出産後の避妊についての情報の提供,サポートを行った。それがTの言の通りに実行されていないことがわかると,カウンセラーのグループのメンバー達はカウンセリー達にこのことを尋ねた。セッションでそれが様々であることがわかると,カウンセラー自身のバース・コントロールのあり方が話し合われ,カウンセリー達の行動が理解されることになり,彼女ら自身,バース・コントロールを欠かさないよう気をつけるようになった。プログラムの終了までには,SとTは,「本当の友人」になり,もう「カウンセラー」としてでないとしても,TはSを見守ろうとするようになった。Sと仲間のカウンセラー達は,このプログラムによって,2人は新しく友達になり,十代で母親になったという特別な経験を分かち合うことができたと感じた。彼女達は自身と同様,若くして妊娠した人を援助することができたことに誇りを感じた。  1年後,カウンセラー達は妊娠せず,2年後,全てのカウセラーはハイスクールあるいはGEDを終え,1人が妊娠した。3年目,新たな妊娠はなかった。2人が大学へ,1人は看護婦になる勉強をし,2人が職を得た。2年目に妊娠した一人は職を得られないままだった。1人は州から出,フォローすることができなくなった。彼女らは自己信頼を,そして誰かを援助し責任ある仕事をすることができることによる力を感じた。  1年後,6人のカウンセリーの間に再度の出産は見られなかった。この後の追跡は行われなかった。彼女らは話すことのできる年齢の近い人を得たことで,孤独を感じることが少なくなったことを報告している。何か家庭で危機が起こった時,彼女らはカウンセラーを訪れた。プログラムを行うソーシャル・ワーカーよりも彼女らの方が素早く対応できたのである。子供が生まれた後,カウンセリーは育児の問題,家庭内の問題でより頻繁にカウンラーを頼った。  この最初の6か月の経験の後,第一に,1人のカウンセラーが2人のカウンセリーを毎週訪ねる(対象の拡大,仕事として成り立つように)ように,第二に,カウンセラーに対する1時間のスーパービジョンの後,カウンセラーとカウンセリーを一緒にした1時間ないし1時間半のミーティングを毎週行うという変更を加えて,再度プログラムが行われた。最初のプログラムの設計ではカウンセラーのグループが非常に結束力が強くてカウセリーを隔週のグループに馴染ませることが難しかったからである。  12人のうち11人のカウセンリーについて1年間追跡調査が行われ,このうち1人が再度妊娠し,全ての者が学校にいる。もう1人は別の地域で養子としてケアされているためわからない。カウンセラーについてはさらに2年間インフォーマルなかたちで追跡された。それが出来たのは,カウンセラーが自らプロジェクトに関わるソーシャル・ワーカーと関係を持とうとしたからである。4人が職を得,再度妊娠した1人を含む2人が職を得ていない。24月の間に全ての者がハイスクールを終え,36月の間に新たな妊娠はなく,少なくとも2人がカレッジにいる。多くの者は互いに会っていて,親密な関係を築いている。また多くがまだ友人となったカウンセリーと会っている。  多くのピア・カウンセリングのプログラムは,諸文献においては青少年に対する介入モデルとして扱われてきたが,このプログラムは,特に再度の妊娠を防ぐことに焦点を当て,学校を終えることを援助しようとした,カウンセラーに対するグループ・インターベンションと,カウンセリーに対する情緒的なサポートと積極的なロール・モデルを強調するピア・カウンセリングである。実験的なプログラムは,妊娠している若年の女性,あるいは母親に対するものだったが,年齢の高い人に対しても有効である。  こうした結果はプログラムが有望なことを示すが,もっと注意深く検討されねばならない。カウンセラーはうまくいっている人から選ばれたのであり,これが妊娠や学校についての成功を説明するかもしれない。また少人数であること,統制群がないことは我々の発見の信頼性を減じるものである。またカウンセリーについては資金がつかなかったため,1年間しかその後を追うことができず,その後に起こったかもしれぬ妊娠については利用できない。にも関わらず,この革新的なモデルは効果的だと思われる。試験的なプロジェクトに基づいて,著者らは現在,より厳格な評価が可能な設定とより長いフォロー・アップの期間を持ったより大きなプログラムを行っている。デイ・ケア,医療的なケア,住宅に関する援助の紹介を行う予定である。最初の妊娠を防ぐため,年上の妊娠したことのない若年者によるピア・カウンセリングの効果を測るために,このプロジェクトの参加者には妊娠したことのないハイリスクのカウンセリーが含まれている。 □3 障害者に関係する文献  障害者に関係するものとしては以下の論文・報告がある。 ★NOSEK MA; FUHRER MJ; GERKEN L; RICHARDS L 1989 THE DEFINITION OF PEER - CONSUMER PERSPECTIVES AND SIGNIFICANCE IN THE DELIVERY OF COUNSELING-SERVICE, INTERNATIONAL JOURNAL OF REHABILITATION, V12, N2, P212-213.  私達の主題に直接に関係する論文だが,未入手。 ★HOBART SC; GORMAN KK; FRECH FH 1988 USING A PEER COUNSELOR WITH DRUG ALCOHOL ABUSERS IN A REHABILITATION HOSPITAL, ARCH PHYS M, V69, N9, P737-737.  学会報告の要旨。薬物・アルコールの濫用者に対するピア・カウンセリングの試み。飲酒運転で対麻痺になったアルコール中毒からの回復者で,アルコール依存症者に対するカウンセラーの資格を持つ人がピア・カウンセラーとなり,脊髄損傷者のリハビリテーション病院の薬物・アルコール使用者に対してピア・カウンセリングを行う。使用の程度とその健康や生活様式に対する影響の自覚を高めることを目的とし,18人中9名が使用量を減らしたこと等を報告。 ★SAXTON MARSHA 1991 RECLAIMING SEXUAL SELF-ESTEEM - PEER COUNSELING FOR DISABLED WOMEN, SOCE:WESTERN JOURNAL OF MEDICINE, V154, N5, P630-631.  特集「女性の視点」の一部。著者※はボストンのProject on Women and Disabilities のスタッフ。性に対するステレオタイブが障害者の性,性を論ずることに対して抑圧的であり,専門家がそれから逃れられていない。それに比してピア・カウンセリングは有効である。専門家によるパンフレットや教育ビデオはインパーソナルで疎遠な感じだが,「あなたはできる,私ができるのだから」というピアからの励ましは,非常に助けになる。ピア・カウンセラーは実際の経験から得た情報を提供することが出来,信頼を促す。現実的なオプションを,創造性と実験へと動かすことができる。  話題を予め設定して,また話題を選択できるようにして週1回,12週間の夜の集まりを実施した。笑い,かなりの困惑,いくらかの涙,互いが感情を分かち合うことにおいて,自分を開放したり危険を引き受けることに対する大きな賞賛が見られた。この集まりの後,多くの参加者は,信頼と驚きをもって,障害を持っての性が,働きや親密さを少なくするものとして見られる必要はなく,創造性やパートナーとのより高められたコミュニケーションのための機会であることを認めた。障害をもって性的な親密さを継続することが出来るだけでなく,時に行動を規定する堅固な文化的な観念を超え,新しい人間の繋がりを追求することができるようになった。自立生活運動において,ピア・グループとピア・ヘルプを励まし,いかなるピア・プログラムがクラエイントにとって有効であるかを知り,それを紹介することが必要とされている。(※「生まれる子と生まれない子――障害者に対する生殖技術の応用」(リタ・アルディティ他編,ヤンソン由美子訳『試験官の中の女』,共同通信社,1986年,所収)の著者でもある) □4 検討  これらの文献に取上げられているピア・カウンセリングは,本報告書で報告されている再評価のカウンセリング,コウ・カウンセリングの基本的な前提と手法を用いるピア・カウンセリングよりも広く,こうした特定の手法を基礎とするカウンセリングというよりは,カウンセラーとして同年配であったり,同じ属性の持つ者,同じ問題を共有する者が行うカウンセリングといったもののようだ。例えば,「(私達の)ピア――年齢,階層,知識におけるピア――に対してカウンセリングを行うために積極的な傾聴と問題解決の諸技術を用いること」等と定義されている。  多くの論文は,カウンセリングを行わない場合,あるいは専門家によるカウンセリングを行った場合との,2つあるいは統制群を含め3つの場合の有効性の比較研究の報告といったものが多い。そこでは,何らかの指標を利用した測定,あるいは具体的な結果の比較が計量的に行われる。  そして多くは既に存在するピア・カウンセリングの実態を検討したものというよりは,調査・研究のために新たにピア・カウンセリングの状況を設定するといったアプローチが多い。とはいっても,それらの多くは実践的な問題関心に支えられているものであり,先にみたように,調査プロジェクト自体が一定の問題解決を図っているものもある。ただそれらにしても,こうした専門論文・報告にあげられるのは,専門家,担当者がプログラムを設定するというものである。これは一つに,論文や学会報告として発表される研究という性格を持ち,比較のためには人為的に集団を研究者が設定する必要があるということから来るものだろうし,一つには,年齢等の対象者の属性によるものでもあろう。特に青少年あるいはナーシング・ホームに入所する高齢者等の場合には,ピア・カウンセリングを行う環境を行政や施設の担当者が設定するといったことが行われていると思われる。 □5 ピア・サポート  以上と別にピア・サポートについての論文は25件あった。タイトルからその対象者をみると,糖尿病患者,体重減少者,地域に暮らす患者,高齢者に対する家族の介助者(同一の著者のものが3),女性を虐待する男性(同一の著者のものが4,その論文に対する論文が1),妻を虐待する男性,青年,虐待や放棄の見られる家族,学級におけるチューターのプログラム,聴覚・視覚障害者,高齢の女性の電話(3件),といった具合である。 ★TOSELAND RW; ROSSITER CM; LABRECQUE MS 1989 THE EFFECTIVENESS OF PEER-LED AND PROFESSIONALLY LED GROUPS TO SUPPORT FAMILY CAREGIVERS, GERONTOLOGIST, V29, N4, P465-471.  高齢の親を介助する女性56人について,専門家がリードするグループ,ピアがリードするグループを設定し,週2時間8週のプログラムを実施。両者とも対照群に比べ,心理面,パーソナルな変化,社会的なサポートにおいて効果があったが,二者の比較では,専門家がリードする集団では,前二者においてより効果があり,ピアがリードするグルーフではインフォーマルな社会的サポートの広がり(ネットワークのサイズ)においてより効果があった,といった結果が報告されている。 ■U 書籍 □1 概要  次に米国内で発行された単行書のデータベースLCMBで検索を行った。1992年2月にPEER COUNSEL・HELP・SUPPORTという語で検索すると,104件あった。このうち,データベースから削除されているものが1件,無関係な文献が3点あり, 100点が残る。またドイツ語(Harvey Jackins の訳書)・スペイン語・中国語の文献が各1点あり,英語の文献は97点である。この中には,カウンセリング一般の書物ではないかと思われるものもかなり含まれている。さらに,再評価のカウンセリングを主導するHarvey Jackinsの著作が7点ある。これは別に扱う。そしてキリスト教関係と思われるものが20点あった。  子供,学生,青年等に関係するものが34点。教室内での同輩の子供が学習の手助けをするといったものがいくつかある(例えば「Peer teaching : to teach is to learn twice」といったもの)。中には「非行の防止」「薬物」に関するものもある。その他カウンセリングの対象者が明記されているものとしては,女性に関するものが1,高齢者に関するものが1。他に「アルコール,ドラッグ」「エイズ」「ストリート・ギャングとドラッグ」。 □2 紹介  ピア・カウンセリングを固有に主題としていると思われるいくつかの書籍を選んだリストを以下にあげる。 ★Samuels, Mimi & Samuels, Don 1975 The complete handbook of peer counseling, foreword by Marshall I. Farkas, Miami, Fla. : Fiesta Pub. Corp., Educational Books Division, 191p. ; 20 cm PRCE:$5.95 ISBN:0884730255 ★Gray, Harold Dean & Tindall, Judy A. 1978 Peer counseling : in-depth look at training peer helpers, Muncie, IN : Accelerated Development, xiii, 258p. ; 23cmPRCE:$7.45 ISBN:0915202131 ★Gray, Harold Dean & Tindall, Judy A. 1985 Peer counseling : in-depth look at training peer helpers VOL :pbk. EDTN:2nd ed, Muncie, Ind. : Accelerated Development , xiv, 330 p. ; 23 cm ISBN:0915202522 ★Tindall, Judith A. & Gray, Harold Dean 1989 Peer counseling : in-depth look at training peer helpers 3rd ed, Muncie, Ind. : Accelerated Development Inc., xx, 420 p. : ill. ; 23 cm ISBN:0915202859 ★Burchett, Harold Ewing 1979 People helping people, Chicago : Moody Press, 127p. (p. 123-127 blank for "Notes") : ill. ; 22cm PRCE:$6.95 ISBN:0802464572 ★Myrick, Robert D. & Erney, Tom 1978 Caring and sharing: becoming a peer facilitator, Minneapolis :Educational Media Corp., v,216p.:ill.; 22cm ISBN:093279601X ★D'Andrea, Vincent J. & Salovey, Peter 1983 Peer counseling : skills and perspectives Palo Alto, Calif. : Science and Behavior Books, xvii, 205 p. : ill. ; 23 cm PRCE:$9.95(pbk) ISBN:0831400641 ★Pankowski, Joseph & Rice, B. Douglas 1981 Report from the Study Group on Peer Counseling as a Rehabilitation Resource / study group chairman, Joseph Pankowski ; university sponsor, B. Douglas Rice, Eighth Institute on Rehabilitation Issues, May 26-28, 1981, Chicago, Illinois PUBL:[Little Rock?] : Arkansas Rehabilitation Research and Training Center, University of Arkansas, Arkansas Rehabilitation Services, viii, 51 p. ; 28 cm VTTL:AD:Peer counseling as a rehabilitation resource Institute on Rehabilitation Issues (8th : 1981 : Chicago, Ill.).Study Group on Peer Counseling as a Rehabilitation Resource <> ★Tindall, Judy A. & Gray, Harold Dean 1985 Peer power : becoming an effective peer helper VOL :pbk. : v. 1 ; pbk. : v. 2 EDTN:2nd ed Muncie, Ind. : Accelerated Development ,2 v. : ill. ; 28 cm ISBN:0915202530 ; 0915202549 ★Myrick, Robert D. & Sorenson, Don L. 1988 Peer helping : a practical guide, Minneapolis, MN: Educational Media Corp., viii,120p. :ill. 22cm ISBN:0932796249 ★Sturkie, Joan 1987 Listening with love : true stories from peer counseling EDTN:1st ed San Jose, Calif. : Resource Publications , viii, 232 p. : ill. ; 24 cmPRCE:$16.95 ISBN:0893900990 ★Sturkie, Joan 1989 Listening with love : true stories from peer counseling VOL :pbk. Rev. and expanded ed San Jose, Calif. : Resource Publications, PHYS:viii, 255 p. ; 23 cm PRCE:$9.95 ISBN:0893901512 ; 0893901504 ★Kehayan, V. Alex 1992 Partners for change : a book of positive strategies and prevention programs for peer leaders and professionals : program guide, Rolling Hills Estates, Calif. : Jalmar Press ISBN:0915190699 ★Phillips, Maggie & Sturkie, Joan 1991 The peer counseling training course / by Maggie Phillips ; revised and expanded by Joan Sturkie, an Jose, Calif. : Resource Publications, 188 p. ; 30 cm ISBN:0893901857 □3 再評価のカウンセリング  LCMBで検索された再評価のカウンセリング,コウ・カウンセリングについての著作は10。全てがHaryey Jackinsの著作あるいは共著になるものである。ここにはドイツ語訳1点が含まれる(日本語訳については次項であげる)。これにLaureen Summersがあげており,ここに含まれない3点,The Reclaiming of Powerの背表紙に記載されていたもの([]内の価格・内容説明と発行年不祥の6点),を加えて以下に掲載する。 1973 The human situation, pbk. Seattle: Rational Island Publishers, xii,270p ; 24cm ISBN:0911214038 ; 0911214046 [cloth:$7.50 pbk:5.00 Theoretical Articles from 1962 to 1973] 1975 Foudamentals of Co-Counseling Manual, Rational Island Publishers [54p.,pbk :$2.00 The Priciples Guiding the Re-evaluation Counseling Communities] 1975 Die menschliche Seite der Menschen : die Theorie des Re-evaluations Counse ling / von Harvey Jackins ; [Ubersetzung von Evi Schulte]Seattle, Wash. : Rational Island Publishers , xii, 102 p. : ill. ; 22 cm OR:Human side of human beings Human side of human beings <> German and English 1977 The upward trend pbk. Seattle : Rational Island Publishers , viii, 419 p. ;23 cm ISBN:0911214577 ; 0911214453 [cloth:$10.00 pbk:$7.50 Theoretical Articles from 1973-1977] 1978 The human side of human beings : the theory of re-evaluation counseling pbk. EDTN:2nd rev. ed Seattle : Rational Island Publishers, c1978(1981 printing) PHYS:xii, 105p. : ill. ; 21cm ISBN:0911214607 ; 0911214623 (hard) 1979 Rough notes from Buck Creek I / by Harvey Jackins and others pbk. EDTN:Re v. ed Seattle : Rational Island Publishers vii, 456p.;23cm ISBN:0911214526 [cloth:$20.00 pbk:$15.00 Transcription of the Famous First Workshop] 1979 The Human Side of Human Being, Rational Island Publishers 1981 The benign reality pbk.EDTN:1st ed Seattle : Rational Island Publishers , x, 680 p. ; 24 cm ISBN:0911214763 ; 0911214771 [cloth:$18.00 pbk:$15.00 Re-evaluation Counseling Developments from 1977-1981] 1983 The Reclaiming of Power, 397p., Rational Island Publishers 1985 The rest of our lives pbk. EDTN:1st ed Seattle : Rational Island Publish ers, x, 522 p. ; 24 cm ISBN:0913937053 ; 0913937061 1985 The human side of human beings : the theory of re-evaluation counseling, Seattle : Rational Islands Publishers, xii, 102p: illus; 22cm AD:Re-evaluation counseling [cloth:$4.00 pbk:$3.00 An Introduction to Re-evaluation Counseling] 1987 The longer view pbk. EDTN:1st ed Seattle : Rational Island Publishers , x,366 p. ; 24 cm PRCE:$15.00 ; $12.00 ISBN:0913937177 ; 0913937185 1989 Start over every morning pbk. EDTN:1st ed Seattle : Rational Island Publ ishers , c1989 x, 407 p. ; 24cm PRCE:$15.00 ; $12.00 ISBN:0913937363 ; 0 913937355 ・・・・ Guidebook to Re-evaluation Counseling, Rational Island Publishers, 60p., pbk:$2.00 [The Priciples Guiding the Re-evaluation Couseling] ・・・・ Quotes, 129p.,pbk:$2.00 [Analects, Epigrams, Positive Directions and Pithy Comments] ・・・・ Rough Notes from Liberation I & II / by Harvey Jackins and others, Approx. 500p., cloth:$20.00 pbk:$15.00 [Transcription of the Famous First Workshop] ・・・・ Rough Notes from Calvinwood I / by Harvey Jackins and others, 290p., cloth :$15.00 pbk:$10.00 [The Beginning Formulations of General Liberation. Transcription of the First Classroom Teachers' Workshop] ・・・・ Zest is Love, 141p., cloth:$5.00 pbk:$3.50 [Poems] ・・・・ The Meaningful Holiday, 43p., cloth:$2.50 [Poems]  Rational Island Publishersの住所は P.0.Box, Main Office Station Seattle, Washigton 98111, USA ▲11▼ ピア・カウンセリング関連文献の紹介・    U <日本>                                    立岩 真也 ■T マニュアル・解説書 ▽自立生活プログラムに関するマニュアルとしては以下のものがある。 ★安積純子 編集責任者 19890920 『自立生活プログラムマニュアル』,ヒューマンケア協会,83p.,1300円(〒260円)   序文/第1章 目標設定/第2章 自己認知/第3章 健康管理と緊急事態/第4章  介助について/第5章 家族関係/第6章 金銭管理/第7章 居住/第8章 献立  と買物と調理/第9章 性について/第10章 社交と情報/ILプログラム受講表/  自立生活技術の評価 ▽本報告書にも寄稿していただいたLaureen Summersの文章が以下に訳されており,これ がいくつかの報告書に転載されている。 ★Summers, Laureen The Peer Counseling Program 198808(再版199010) ヒューマンケア協会訳,ヒューマンケア協会,33p.(ヒューマンケア協会 19881200 『ピア・カウンセリング集中講座――自立への大いなる歩みを進めるために』:31-61他に再録)   1.ピア・カウンセリング/2.ピア・カウンセリングの基本概念/3.ピア・カウンセリ  ングにおける人間関係/4.カウンセリングのプロセス/5.カウンセラーとしてしては  いけないこと/6.その他のカウンセリング理論 ▽ヒューマンケア協会を初めとするピア・カウンセリングにおいてその基本的な方法論と なっている再評価のカウンセリング(re-evaluation counseling),コウ・カウンセリ ング(co-counseling)については次の翻訳がある。 ★Jackins, Harvey 19811107 The Art of Listening, California Nental Health  Association=「聞くことの大切さ」,ヒューマンケア協会訳・発行,20p.   誰かが耳を傾けなければ/私達の本質は,素晴らしい/知性への妨害/人間は良きも  の/回復するプロセス/出来事,そしてそれが伝染すること/組織的な抑圧も/多く   の人が学んでいる/内容は普遍的である/人は人である/カウンセリングの仕方/ど  のような態度か/自信を与えること/高い期待をかける/コミットメント/愛/する  価値のあること/本当に生きる ▽また,米国の障害者の自立生活センター運営については次のものが参考になる。自立生 活研究所(ILRU)・ヒューストン自立生活センター(HCIL)・パラクォッド(PARAQUAD) ・インパクト(IMPACT)の自立生活プログラム※やピア・カウンセリングについての情 報(リーダーの講演,質疑応答)が掲載されている。またいくつかのパンフレットが翻 訳されている。この一部を紹介する。 ★ヒューマンケア協会 19901101 『自立生活への衝撃(インパクト)――アメリカ自立生活センターの組織・運営・財務』,132p.,1000円   ※この言葉は米国では日本とは別の意味で用いられているようだ。「@理事会の51%  は障害者でなくてはならない。A重要な決定をくだす幹部の少なくとも一人は障害者  でなくてはならない。B職員の少なくとも1名は障害者でなければならない。C多様  なサービスの少なくとも一つ以上を行っている。」の4つの要件を全部満たしている  のが自立生活センター,全部は満たしていないのが自立生活プログラムとされている  (ILRU(INDEPENDENT LIVING RESEARCH UTILIZATION=自立生活研究所)のPeg   Nosekの説明(p.25))。あるいはプログラムの中で要件を全て満たしているものをセ  ンターと呼んでいるようにも解せる(p.29-)。私達が使う自立生活プログラムにあた  る言葉としては,「自立生活技術トレーニング」「自立生活技術クラス」が用いられ  ているようだ。またLex Freeden, Laurel Richards, Jean Cole,and David Bailey "A Glossary for Independent Living"(高橋由和訳「自立生活用語集」(p.5-9)で  は,「自立生活プロジェクト」の特定の形態(非営利的,非居住型のプロジェクトで,  障害を持つ利用者によって運営)が「自立生活センター」と呼ばれ(p.7),さらに  「重度の障害を持つ人が比較的依存的な生活状態から,より自立した状態へと移るの  を援助するプログラム」として「自立生活移行プログラム」が定義され,その基本的  なサービスとして「自立生活技術トレーニング」があげられている(p.8-9)。  ・「自立生活技術トレーニング − 障害を持つ人が自立した生活を送れるよう技術を  身につけるためのトレーニングコースを提供しています。その中には公共交通機関の  利用方法,個人の家計管理,無理解な,あるいは差別的な扱いに対する対応の仕方,  その他。」  ・「ピア・カウンセリング − 障害を持つ人が,他の地域で自立生活を営む障害を持  つ人に働きかけるサービスを提供しています。その目的は,障害を持つ人がしばしば  突き当たる問題を解決することです。たとえば新たに生じてきた障害に対する調整や,  生活の仕方の変化を経験すること,地域サービスをより有効に活用できるように学ぶ  ことなどです。」(以上,ILRU FIELD WORK A National Technical Assistance Pro- ject for Independent Living "AN ORIENTATION TO INDEPENDENT LIVING CENTERS" (高橋由和訳「自立生活センターのしおり」(p.10-14)のp.12)   ヒューストン自立生活センターのピア・カウンセリングについてp.67-70,他。 ■U 報告書 □1 ヒューマンケア協会 ▽ピア・カウンセリング集中講座に関する報告書として ★ヒューマンケア協会 19881200 『ピア・カウンセリング集中講座――自立への大いなる歩みを進めるために』,61p.,1000部 198905増刷500部,500円   「第1回ピア・カウンセリング集中講座」の記録   目次:序文p.01/目次p.02/写真p.03〜04/講座の意義とねらいp.05/日程p.07/各  講座のねらいと概要p.08〜24/受講者の感想p.25〜29/Summers,Laureen THE PEER    COUNSELING PROGRAM 「ピア・カウンセリング・プログラム」p.31〜61 ★ヒューマンケア協会 198912 『第2回ピア・カウンセリング集中講座報告書』,500部, ★ヒューマンケア協会 199103 『第3回ピア・カウンセリング集中講座報告書』,150部,35p.   序文p.01/今回講座の狙いp.02/ピアカウンセリングQ&Ap.03-12/受講者の感想   p.13-15/付録「今回講座のテスキトp.16-25 ▽また自立生活プログラムの報告としては ★ヒューマンケア協会 19880000 『報告 第三期自立生活プログラム』,ヒューマンケ ア協会 ▽他にヒューマンケア協会の5年間の活動をまとめたものとして次のものがあり,その中 で自立生活プログラム,ピア・カウンセリング集中講座実施の概要についてまとめられ ている。 ★ヒューマンケア協会 19910622 『ヒューマンあれこれ――五周年記念会員所感集』,  60p. □2 町田ヒューマンネットワーク ▽集中講座の報告として ★町田ヒューマンネットワーク 199012 『ピア・カウンセリング集中講座報告書』,86+24p.,1000円   はじめに/「受容・傾聴」ピア・カウンセリングの基本/人間の本質/感情の解放/  ピア・サポート/カウンセリングのいろいろ/セッションについてのQ AND A/自  立生活プログラム/具体的なピア・カウンセリグ/お手紙/ピア・カウンセリング集  中講座アンケート/Summers, Laureen The Peer Counseling Program<テキスト>  「ピア・カウンセリング・プログラム」24p. □3 札幌いちご会 ▽集中講座の報告として ★札幌いちご会 『「街で生きるぞ!」北海道ピアカウンセリング集中講座89報告書』 600円(なおこの報告書の中のジューン・ケイルス(全米CIL副代表)の集中講座での講演「自立生活のためのピアカウンセリング」が『いちご通信』080:05-08,081:03-06,082:03-06に再録されている) ★札幌いちご会 19910110 『いちご通信』087 第一部 いちご通信87/第二部 第2回北海道ピア・カウンセリング集中講座報告書,500円   ピア・カウンセリングの効果/かんそうぶん(参加者)/おはなし(集中講座から)  1.性の問題 堤愛子 2.労働の問題 安積純子/かんそうぶん(ボランティア)/ピ  ア・カウンセリングとは(Summers, Laureen The Peer Counseling Program(ヒュ  ーマンケア協会訳の抜粋) □4 その他 ★広島ピア・カウンセリング集中講座実行委員会 1992 『'91ピア・カウンセリング集中講座報告書』,24p.,1000円   感想文集p.1-19/ピア・カウンセリングとは(Summers, Laureen The Peer Counsel  ing Program(ヒューマンケア協会訳の抜粋)p.20-22/アンケートp.23-24 ★第3回自立生活問題研究全国集会実行委員会 19911123 『自立生活NOW資料集』:87-96「ピア・カウンセリング入門講座」(講座の内容については第7章を参照のこと)   ピア・カウンセリングの意味/「障害者だけ」の意味/「自立生活プログラム」にも  応用/講座日程 安積遊歩「受容・傾聴――ピア・カウンセリングの基本」(この部  分は町田ヒューマンネットワーク199012『ピア・カウンセリング集中講座報告書』か  ら転載…ピア・カウンセリングとは/自分の問題と他人の問題を区別する/カウンセ  ラーとしてしてはいけないこと) ■V 専門書・論文・雑誌記事 □1 カウンセリング関連の書籍  筆者はカウンセリングの専門家ではなく,確かなことはわからないが,いくつか文献を見る限りでは,一般に販売されているカウンセリング関係の書籍にまとまった記載のあるものはないようである。  目にとまったものとして,藤田雅子編著『福祉カウンセリング』(内山喜久雄・高野清純監修 実践・カウンセリング5,日本文化科学社,1990年,205p.,1700円)にピア・カウンセリングについて3箇所で触れられているのでこれを紹介する。 ★「身体障害者の領域では,ピア・カウンセリング(peer counseling)と呼ぶ方法が取り入れられつつある。同じ障害をもつ人がカウンセラーとしての資質を獲得しカウンセリングに当たる。結婚カウンセリングやキャリア・ガイダンス(就職相談・進路相談)を初め,人生のエポックや日常の生活に,有効なピア・カウンセリングを取り入れたいものである。」(第1章「福祉カウンセリング:福祉における心理的援助」(執筆:藤田雅子)の4「福祉カウンセリング:心理的援助の方法」の4)「福祉におけるユニークなカウンセリング」の(3)「ピア・カウンセリング」の全文(p.26) cf.(1)自助グループによるカウンセリング(2)リハビリテーション・カウンセリング(4)痴呆老人のカウンセリング:リアリティ・オリエンテーション(5)親の離婚に伴う子どものカウンセリング(6)死別カウンセリング) ★「同病の連帯感,親近感によって,仲間同士で相談にするということで,専門家が果たし得なかった,医療上,生活上,仕事上の問題を解決に導くというケースがしばしばある。  たとえば,車椅子常用者の運転免許取得,スポーツへの参加,脊髄損傷者等の排尿処理の具体的指導,アミューズメントの情報,その他社会生活や仕事で門外漢には見えにくく,細部にかかわる知恵袋をそれぞれもっている  施設では,共同生活上の制約,自治会,サークル,年齢差,社会経験の個人差等が,人間関係のさまざまな糸のつながりと絡んでいる。施設内の仲間に限らず,地域で生活する身体障害者との交流をも含めて,仲間同士のカウンセリングを形あるもにすることが望ましい。」(第4章「心身障害児・者の日常生活における福祉カウンセリング」の5「身体障害者の授産施設」(執筆:川原直治)の3)「重度身体障害者に対する心理的援助の留意点」の(2)「ピア・カウンセリング」の全文(p.104) cf.(1)言語障害と傾聴) ★「(3)混乱の時期  現実の進行と共に次第に完治への望みが薄くなっていく。その現実を否認することも次第にできがたくなり,攻撃性が高くなったり,抑鬱や逃避の傾向が生まれたり,時には自殺企図もあると言われる。  私たちの心理的サポートは必要である。しかし生半可な姿勢はむしろ患者の反発となる。五体満足なのに先生が何で私の気持をわかるのかといわれたこともある。共感というが体験の共有がなければ真の共感はないともいわれる。私たちが努力しても患者側の拒否反応が強く,外からの援助のむつかしさを痛感することが多い。  そのような経験の中からピア・カウンセリング(peer counseling,仲間同士のカウンセリング)という用語が生まれ,その実践も行われ始めている。以前から障害者自身あるいは障害児の親の体験をした先輩が,入口にいる後輩によきアドバイスをあたえうることが知られていた。そのことから,障害者がカウンセリングを学び,未熟な障害者に対するカウンセラーになるということが実践されはじめている。」(第5章「人生のエポックと心身障害児・者の福祉カウンセリング」(執筆:高松鶴吉)の4「中途障害者の障害受容」,「中途障害者の障害受容の過程」の(3)の全文(p.137)) □2 論文・雑誌記事 ▽各自立生活センターの機関誌(『ヒューマンケア・ニュース』『町田ヒューマンネット ワークニュース』『いちご通信』『CILたちかわ通信』等)における案内・報告・感 想の記事については「実施状況」の章に紹介してある。 ▽私達の知るところではピア・カウンセリングの実際について,本格的に扱った論文はな い。自立生活プログラムについては以下のものがある。前2者はプログラムの全容を紹 介したものというよりは,自立生活プログラムの支える理念,基本的な姿勢といったも のを抽出し,考察したものである。最後のものは本報告書のデータも使用して,自立生 活プログラムを概観したものである。 ★岡原正幸・立岩真也 19901025 「自立の技法」,安積・岡原・尾中・立岩『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』,藤原書店:147-164 ★石川准 1991 「二つの選択――ある自立生活プログラムの実践から」,『あくしょん』13:28-31 ★谷口明広 19911026 「自立生活プログラムの現状と課題」,第2回自立生活問題研究集会実行委員会 発行『自立生活NOW'91』(165p.,大阪府堺市百舌鳥梅町4-804大阪府立大学社会福祉学部定藤研究室):39-46   1.はじめに/2.自立生活プログラムの定義と実践(カリフォルニア州ロスアンジェル  スのDuarrell McDaniel Independent Living Center で行われている「自立生活技術  プログラム」と「障害者自立生活問題研究所」での「自立生活教育プログラム」を紹  介)/我国における自立生活プログラムの課題と展望 ★立岩真也 19920925 「自立生活プログラム――自立生活運動の現在・2」,『福祉労働』56 ▽ヒューマンケア協会のピア・カウンセリングの中心的な役割を担っている安積(純子あ るいは遊歩)の文章・ 講演,安積へのインタヴューのうちいくつかをあげる。 ★安積純子 1984 「性と結婚」,仲村優一・板山賢治編『自立生活への道――全身性障害者の挑戦』(全国社会福祉協議会,334p.,1500円):208-218 ★安積純子 1986 「アメリカ研修旅行の中で」,『リハビリテーション』281(1986-2・3):30-33 ★安積純子 1989 「性をタブーにしないで」,『ナーシング』9-8(1989-8):70-73 ★安積純子 19900415 『「障害は私の個性」――共に生き,共に学ぶ』,神奈川県高等学校教職員組合・高等学校教育会館,神高教ブックレット16,29p.(講演の記録) ★安積純子 19901020 「<私>へ――三〇年について」,安積・岡原・尾中・立岩『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』,藤原書店:19-56 ★安積純子 19910210 「人に「助けて」と言える人ほど強いのだと思います」(私の言いたいこと),『クロワッサン』(318・1991-2-10):5 ★安積純子(文:山崎満喜子) 19910901 「人は人の中で癒される!」,『アルコール・シンドローム』(アルコール問題全国市民協会出版部』,700円)34:75-79(ドキュメント人間の尊厳・第二部2) ★安積遊歩(話) 199203 「自由と愛に身をゆだねるために――内と外との抑圧をひもとくコウ・カウンセリング」,『NETWORKちきゅう 女性・環境・教育』7・8:11-23(91年3月の「『個人』を育て合うネットワーク講座」での講演 ★安積遊歩・岩井美代子(インタヴュー) 199203 「コウ・カウンセリングの会」,『くにたちウィ・アー』3:19 □3 東京都心身障害者センターでの自立生活プログラム ▽当事者によるプログラムではないが,東京都心身障害者福祉センターで行われてきてい る自立生活プログラムに関して以下の文献がある。 赤塚 光子 1982 「在宅重度脳性まひ者を対象とした自立生活プログラム」 『肢体不自         由者の参加促進技術』:91-103 東京都心身障害者福祉センター ――――「 19880901 「重度障害者の在宅生活をささえる教育プログラムの実際――東         京都心身障害者福祉センターの「自立生活プログラム」」 三ツ木編         『続自立生活への道』,全国社会福祉協議会,264-298 ――――「 1988 「「自立生活プログラム」に参加した6人の青年の生活」 『あくしょ         ん』8:32-35 赤塚 光子・三ツ木 任一 1983 「重度脳性マヒ者の自立をめざす教育についての実証的         考察」 『日本特殊教育学会第21回大会発表論文集』:168-171 ――――「 1985 「自立をめざす教育のあり方――重度障害者を対象とした「自立生活         プログラム」の経験から」 『肢体不自由教育』71:58-61 ――――「 1986 「重度障害者の在宅生活を充実させる教育プログラムの展開――精神         薄弱を伴う事例への適用とその結果」 『日本特殊教育学会第24回大         会発表論文集』:308-039 ――――「 1988 「終了生の生活状況にみる「自立生活プログラム」の効果」 『日本特         殊教育学会第26回大会発表論文集』:308-309 赤塚 光子・三ツ木 任一・古牧 節子・寺山 久美子 1979 「重度障害者の在宅生活を         充実させる教育プログラム(1)(2)(3)」 『日本特殊教育学会第17回大         会発表論文集』:238-243 三ツ木 任一・赤塚 光子 198102 「在宅重度脳性マヒ者を対象とした自立生活プログラ         ムの試み」 『はげみ』156:10-17→障害者自立生活セミナー実行委員         会編[1983:68-76] ――――「 1981 「学卒重度脳性マヒ者を対象とした自立生活プログラムの試みとその         効果(1)(2)」 『日本特殊教育学会第19回大会発表論文集』:208-211 ――――「 1982 「学卒重度脳性マヒ者を対象とした自立生活プログラムの実証的考察         (1)(2)」 『日本特殊教育学会第21回大会発表論文集』:168-171 ――――「 19900616 「「自立生活プログラム」の構想と具体的展開」 『東京都心身障        害者福祉センター研究報告集』20:35-77 「自立生活プログラム」の仲間たちの会 19900825 『自立生活をめざして』 117p. 「自        立生活プログラム」仲間たちの会,連絡先:343 越谷市大里221-50 三        ツ木任一方 0489-78-9094 「東京都心身障害者福祉センター職能科では,昭和55年4月から平成元年3月までの9年間,「重度障害者の在宅生活を実現させる教育プログラム(通称,自立生活プログラム)」を実施しました。/本プログラムは,主として肢体不自由養護学校を卒業した脳性マヒの人たちの,学校生活から社会生活への効果的な橋渡しを意図したもので,学校教育とは一味違った,問題解決の体験を通して主体的に学習する機会でした。/プログラムを修了した61名のほとんどは,それまでの依存的な親がかりの生活から脱却して,自分の意志と責任に基づいた自律的な生活に移行していく契機をつかむことができたと思われます。そして「自立生活プログラム」の意義と成果は,一人ひとりのその後の生活,生き方に示されているはずです。」(三ツ木任一「まえがき」,『自立生活をめざして』p.1より) ▲12▼ 将来への展望                                    中西 正司 ■T はじめに  社会福祉六法を見てもわかるように,わが国の福祉は施設収容がその基本となっている。収容施設を有する法定施設には厚生省からの援助が集中的におりている。近年改正された身体障害者基本法においても,障害者は自立することを求められ,その基本には障害は欠陥であり,それを克服し,矯正すべきだとの考え方がある。ここで重要なことは社会の欠陥については一言も触れられていないことである。これは相も変わらぬ医療モデルの中で障害者福祉が語られていることを示している。病人や弱者として障害者を見る視点からは自立生活運動は語れない。 ■U ピア・カウンセリングの特質  自立生活運動の一翼を担うピア・カウンセリングとよく対比される相談員制度を例にとってみても医療機関から地域福祉行政へ,地域福祉行政から民生委員へ,そしてそれを補完するものとしての相談員という位置付けで医療モデルを脱していない。  これに反して,自立生活運動は個人レベルの自己解放・自己認知・自己確立をもって始まる。個が解放されて初めて相手の心を解放させることができる。解放された個は社会の中に暮す個であり,家庭,そして学校,そして地域社会,そして県,そして国家,そして地球,最後に自然界に属する個でもある。個人は常にそこで生起するあらゆる問題と無関係ではあり得ない。  これまでの医療モデルでは,カウンセラーは自分自身悩みを持ち解放されないまま,相手(クライエント)の心の中を分析し,問題を過去の中に見つけようとする。相手と人間的な接触や関係を持たず電話番号も知らせない。極力その場限りの関係にとどめようとする。  これに対して自立生活センターでのピア・カウンセラーは同じ障害を持つ者同士共に問題を分かち合い,共に成長していこうとする。同じ地域社会で暮し,その社会を共に変革していこうとする。 ■V 自立生活運動の消費者運動的側面  自立生活センターでは照会サービスを含むあらゆる情報が提供される他,住宅探しや改造のサービス,交通機関を使いやすくする活動,職業の斡旋,制度を有効に使うための援助や改革への取り組み,介助者の照会や派遣サービスを提供する。  地域に住む障害者の生活上の不安はすべてとり除かれ,自らの生き方を何の制約もなく選ぶことができる。自立生活センターの運営規約には「運営委員の半数以上は障害者であること」と明記されている通り,消費者の意見は十分運営に反映される。上記の要件を満たせず良いサービスを提供できなかった自立生活センターは需要を満たせないため亡んでいく。一方行政の医療モデルにおいては全くそういった意味でのチェック機構は働かない。  個人から発した問題から波及して地域へと人間の輪を広めていく自立生活センターの活動は,必然的に親・学校・公共交通機関といったように問題をかかえる対象の改善を追っていく社会運動へと展開して行く。自立生活センターでピア・カウンセリングを行ったピア・カウンセラーは,勿論一人で上記の全ての分野の相談に応じられるわけではない。そこでそれぞれの分野に詳しい他のピア・カウンセラーにも依頼していくことになる。自立生活センターには多くのピア・カウンセラーが必要となる。  この自立生活センターの活動はコミュニティ活動だとも云えるし,情報を提供し,選択肢を与え,安全性を与えるという意味で消費者運動であるともいえる。 ■W 財政的基盤  個人の障害者に対して介助料,住宅費,ピア・カウンセリング料などの必要な費用が行政から支払われ,消費者が自由な選択肢の中から選びそれを買うことによって形成されるのが本来の地域(コミュニティ)サービスのあり方である。行政が一方的に下ろしてくるサービスからは個人は決して解放されることはなく,抑圧を受け続けることになる。  そこで今求められることは,自立生活センターをこのようなコミュニティ活動の中核として認め,そこに地域行政の財政からの援助をし,自己解放された地域住民の活力を呼び入れることにより地域社会を再構築することである。 ■参考文献 安積 純子 編 1989 「自立生活プログラム・マニュアル」,ヒューマンケア協会 厚生省社会局厚生課 監修 1990 「身体障害者相談員手帳」,第一法規出版 中西 正司 編 1989 「自立生活への衝撃:アメリカ自立生活センターの組織運営・財           務」,ヒューマンケア協会 DeJong, Gerben 1979 The Movement for Independent Living:Origins,Ideology and            Implications for Disability Research. University Centers            for International Rehabilitation, Michigan ■著者紹介 ●中西 正司 ヒューマンケア協会事務局長,全国自立生活センター協議会事務局長 ●アキイエ・ヘンリー・ニノミヤ カナダ合同協会宣教師,神戸聖隷福祉事業団,関西学       院大学 ●安積 純子 ヒューマンケア協会スタッフ,日本コウ・カウンセリング協会ファシリテ       イター 共著書『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』        (藤原書店,1990年)  ●野上 温子 ヒューマンケア協会事務局次長,日本カウンセリング学会会員 ●樋口 恵子 町田ヒューマンネットワーク事務局長 ●立岩 真也 東京理科大学・東洋大学・横浜国立大学非常勤講師 専攻:社会学 本報       告書に関連するものとして,共著書『生の技法』(藤原書店,1990年),       「自立生活運動の現在」(『季刊福祉労働』現代書館,1992年〜連載)他 ■諸機関連絡先 ●札幌いちご会 〒003 札幌市白石区東札幌2条5-2-5漢太郎ビル          001-831-3790 Fax 011-813-4506 郵便振替 小樽4-17095 ●自立生活センター・立川 〒190 立川市錦町1-23-2レジデンス錦203          0425-25-0879 Fax 0425-22-6144 郵便振替 東京0-554244 ●町田ヒューマンネットワーク 〒194 東京都町田市中町3-5-12NHMビル101          0427-24-8599 Fax 0427-24-7996 ●HANDS世田谷 〒158 東京都世田谷区中町5-35-5          03-5706-5859 郵便振替 東京5-164223 ●ヒューマンケア協会 〒192 東京都八王子市寺町23          0426-23-3911 Fax 0426-23-7348 ●全国自立生活センター協議会(JIL)事務局 〒112 東京都文京区関口1-16-1東海        文京マンション701  & Fax 03-3235-5637 1992年9月1日 発行 編集 ヒューマンケア協会・立岩真也 発行 ヒューマンケア協会 〒192 東京都八王子市寺町23番地 0426-23-3911 ピア・カウンセリング研究報告書 自立生活への鍵 1992年9月 発行・ヒューマンケア協会