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リプロダクティヴ・ライツ

―世界の法と政策―

リプロダクティヴ法と政策センター 編,房野柱訳 2001/01/01 明石書店,233 p ISBN: 4750313742

last update: 20170426

この紹介の作成者:阪本智也(立命館大学政策科学部)
掲載:20020719

[目次]

序文
T前進への道
 A、リプロダクティヴ・ライツとは何でしょう?
U国際舞台におけるリプロダクティヴ・ライツの歴史
Vリプロダクティヴ・ライツを前進させる際に活用できる法と政策の役割

第一章 人口、リプロダクティヴ・ヘルスおよび家族計画政策
Tはじめに
U人口を、リプロダクティヴ・ヘルスおよびリプロダクティヴ・ライツと関連付ける
V人口、リプロダクティヴ・ヘルス、家族計画に関する法と政策の特徴と範囲
 A、政策の性質 B、保険政策 C、人口と家族計画
W1995年以来の発展
X勧告

第二章 避妊法
Tはじめに
U妊娠を計画する権利
V避妊法へのアクセス
W避妊法の規制
 A、より厳しく規制される、または禁止される B、広告の制限 C、第三者の許可の要求
X強制を示す侵害
Y1995年以来の発展
Z勧告

第三章 妊娠中絶
Tはじめに
U妊娠中絶と人権
V世界の妊娠中絶法概観
W1995年以来の発展
 A、自由化 B、制限
X勧告

第四章 HIV/エイズと性感染症(STIs)
Tはじめに
U女性の権利とHIV/エイズ
 A、HIV感染症の予防における差別 B、エイズに感染した女性に対する差別
VHIV/エイズに対処する政府の行動
W1995年以来の発展
X勧告

第五章 リプロダクティヴ・ライツに影響を及ぼす有害な伝統的慣行
    −女子割札/女性性器切除(FC/FGM)
Tはじめに
U人権の枠組みの中の女子割札/女性性器切除(FC/FGM)
 A、被差別の権利 B、生命および身体的完結性への権利 C、健康への権利 D、特別な保護に
 対する子供の権利
V女子割札/女性性器切除(FC/FGM)の法的状態
W1995年以来の発展
 A、最近の法律以外の発展
X勧告

第六章 レイプおよびその他の性暴力
Tはじめに
U性暴力を受けずに暮らす女性の権利
V女性に対する性暴力を永続させる法、政策および慣行
W1995年以来の発展 
X勧告

第七章 婚姻および家族法
Tはじめに
U国際人権法の下での婚姻と家族法
V婚姻と家庭の中での女性の権利侵害
 A、婚姻の成立−婚姻に同意する権利
 B、婚姻の中での権利−配偶者の不平等な地位
 C、夫婦間レイプおよびドメスティック・ヴァイオレンスからの保護
 D、家族計画における差別
 E、財産の所有および相続における差別
 F、離婚における差別
W1995年以来の発展
X勧告

第八章 思春期の若者
Tはじめに
U思春期の若者のリプロダクティヴ・ライツ
V思春期の若者の性に関する権利とリプロダクティヴ・ライツの弱さ
W法と政策における思春期の若者の権利
 A、リプロダクティヴ・ヘルスケアへのアクセス
 B、性に関する健康とリプロダクティヴ・ヘルス教育を含む教育
 C、若年結婚
 D、若年出産と避妊法
 E、危険な避妊中絶
 F、HIV/エイズと性感染症(STIs)
 G、性暴力
 H、女子割札/女性性器切除(FC/FGM)
X勧告
 A、リプロダクティヴ・ヘルス
 B、教育
 C、若年結婚
 D、性暴力

 

序論
 リプロダクティヴ・ライツは、国内法、人権に関する国際文書、ならびに国連で合意されたその他関連文書ですでに認められた人権の一部をなす。(P15)

T前進への道

 1994年の国際人口開発会議(ICPD)の勢いに乗じて、女性の性に関する権利とリプロダクティヴ・ライツを概観とするために初めて開かれた世界会議、北京会議では、女性の地位を向上させるにはリプロダクティヴ・ライツが中心になることが確認されました。(P16)
 リプロダクティヴ・ライツとはなんでしょう?(P18)
 リプロダクティヴ・ライツは、ほとんどの人権の原則にしっかりと根づいています。この権利によって守られる利益は多様です。しかし、おおざっぱに言えば、リプロダクティヴ・ライツには二つの原則があります。つまり、リプロダクティヴ・ヘルスケアの権利とリプロダクティヴの自己決定の権利です。(P18)

 1、リプロダクティヴ・ヘルスケアへの権利
  リプロダクティヴ・ヘルスは、女性が安寧を得るための基本のひとつです。(P18)
  リプロダクティヴ・ヘルスケアの権利は、生命と健康を守る国際人権文書の規定に基づいています。(P19)
  リプロダクティヴ・ヘルスケア・サーヴィスを提供する国家の義務は、特に非差別の原則に基づいています。(P20)
  リプロダクティヴ・ヘルスケアは女性の安寧にとって基本的なものですから、国家はリプロダクティヴ・ヘルスケアがすべての女性にとって利用でき、アクセスできるものであることを保障するための特別措置をとらなければなりません。(P20)
  「女性条約」の遵守をモニターする国連機関の女子差別撤廃委員会(CEDAW)は、リプロダク ティヴ・ヘルスケアに関する政府の義務を扱っています。

 2、リプロダクティヴ自己決定の権利
  リプロダクティヴ意思決定の権利は、家族を計画する権利、リプロダクティヴ意思決定において干渉されない権利、女性の性に関する生活またはリプロダクティヴ生活に悪影響を及ぼすあらゆる形態の暴力および強制を受けない権利に支えられています。(P21)

U国際舞台におけるリプロダクティヴ・ライツの歴史

 リプロダクティヴ・ライツが最も長い間認められてきた人権に基づいていることは明らかですが、生殖の問題で女性が選択を行う権利が国際的に明確に承認されたのは、1968年後半のことです。(P23)
 この権利は少し形を変えて、国連婦人の10年(1976年〜1985年)の中で1979年に採択された「女性条約」で認められました。(P23)
 1992年、リオデジャネイロで開催された国連環境開発会議は、その「アジェンダ」の中で、子供の数と出産の間隔を決定する権利を繰り返し述べています。(P24)
 1994年のカイロにおける国際人口開発会議(ICPD)は大きな転機となりました。「ICPD行動計画」は、初めて「リプロダクティヴ・ライツには、国内法、国際人権文書およびその他の合意文書ですでに認められているある種の人権が含まれている」と述べました。(P24)
 1995年、北京会議は、カイロで採択された原則を再確認する二つの文書、「北京宣言」と北京行動綱領」として知られる文書を生み出しました。(P26)
 1995年以来、国際社会は国際法の下でリプロダクティヴ・ライツに対する認識を拡大し、国際会議でなされた宣言へのコミットメントを再確認してきました。(P26)
 1999年7月、「ローマ条約」採択一年後に国際社会はリプロダクティヴ・ライツの重要な問題に関して文書の折衝を行うために再び集まりました。(P27)

Vリプロダクティヴ・ライツを前進させる際に活用できる法と政策の役割

 各国政府による法と政策は、人々の行動に影響を与えるような枠組みを作り出します。(P28)
 正式の法と政策は、女性のリプロダクティヴ・ライツの推進に対する政府のコミットメントを示すものとして重要です。(P28)


第一章 人口、リプロダクティヴ・ヘルスおよび家族計画政策

Tはじめに

 この章ではリプロダクティヴ・ヘルスおよびリプロダクティヴ・ライツに関する政策と人口政策との関連性を調べます。次に、人口とリプロダクティヴ・ヘルスに関する法と政策の特徴を調べて、1995年以来の発展の例を挙げます。最後に、女性のリプロダクティヴおよび性に関する健康ニーズを包括的に扱い、すべての保健サーヴィスの提供を受けることができる権利を基礎としたアプローチを含む人口とリプロダクティヴ・ヘルスに関する法と政策の必要性を強調する勧告で締めくくります。(P36)

U人口を、リプロダクティヴ・ヘルスおよびリプロダクティヴ・ライツと関連づける

 1994年の国際人口開発会議(ICPD)で、各国は、女性の人権の推進と保護は人口と開発の問題を扱う政府の努力の中心でなければならないことに同意しました。結果として生まれた「ICPD行動計画」は、男女平等、公正、女性のためのエンパワーメントに関して前例のない注目を集めました。
 「ICPD行動計画」は、女性のエンパワーメントと自治およびその政治的・社会的・経済的および健康上の地位はそれ自体非常に重要な目的である」という進歩的意見を表明しています。(P37)
国際人権規範は、それら規範の実施に必要な法と政策の正確な内容を定義するというよりは、幅広い原則を規定しているので、各国政府の大きな課題の一つは、人権を推進し保護するような人口とリプロダクティヴ・ヘルスに関する適切な法と政策を開発することです。(P39)

V人口、リプロダクティヴ・ヘルス、家族計画に関する法と政策の特徴と範囲

 A、政策の性質
 人口とリプロダクティヴ・ヘルスの問題に関して行政の行動から生じる問題は、既存の法律が新しい政策に合うように修正されなければ、その結果起こる矛盾が不確実性を生むこともあり得るということです。(P40)
 B、保健政策
 保健政策は、国の公衆衛生制度の基礎、保護サーヴィスの経費と範囲および保健医療提供者の規制の仕方を説明していることがしばしばあります。(P41)
 同様に、保健政策は、政府が提供する保健サーヴィスの経費を規定することもしばしばあります。(P41)
 C、人口と家族計画政策
 リプロダクティヴ・ヘルスと家族計画は、人口政策の中で扱われることがしばしばあります。それらは主として人口増加率または減少率と関係しているので、人口政策は必ずしも包括的な保健医療とリプロダクティヴ意思決定への女性の権利を中心としているわけではありません。(P42)

W1995年以来の発展

 ブラジルは、人口抑制の手段として家族計画を行うことを人に強制したり要求することを禁じる「家族計画法」を1996年に可決しました。(P46)
 1996年に、ペルーの保険省も、「1996年から2000年までのリプロダクティヴ・ヘルスと家族計画プログラム」を承認しました。(P46)
 ガーナの保健省は、1996年に、リプロダクティヴ・ヘルスケア提供問題を直接扱う「リプロダクティヴ・ヘルス・サーヴィス政策」を出しました。

X勧告
 各国政府は、生殖年齢をすべてのこじんとカップルに、広範囲で質が高く、料金が手頃な性に関する健康とリプロダクティヴ・ヘルス・サーヴィスへの普遍的アクセスを確保する包括的な法と政策を採用するべきです。(P47)
 人口、リプロダクティヴ・ヘルスおよび家族計画政策は、リプロダクティヴ・ライツのあらゆる側面を実施するための財源と施設の公正な配分を確保するべきです。(P48)
 人口、リプロダクティヴ・ヘルスおよび家族計画を規制する際、各国政府は法と政策が、自由に情報を得たうえでの選択と同意、非強制、秘密保持、プライヴァシーの保護、非差別、そして質の高いケアの統合を保障しなければなりません。(P48)
 各国政府は、家族計画を含むリプロダクティヴ・ヘルス・サーヴィスに関する情報とアクセスに対する法的・医学的・臨床的・規定的障害を除去するべきです。
 各国政府は、NGOと協力して、妊産婦、乳幼児および子供の死亡率の大幅な低下を目的とした政策と計画を開発するべきです。(P48)
 NGOは、人口、リプロダクティヴ・ヘルスおよび家族計画に関連したすべての政策が、女性のリプロダクティヴ・ライツを推進し、保護し、実現するために、その政策の内容や、実施されたときの影響を評価するべきです。(P48)

第二章 避妊法

Tはじめに

 女性がそのリプロダクティヴ生活を計画する能力は、インフォームド・チョイスができる状況で提供される広範囲の避妊法へのアクセスを得ることにかかっています。(P58)
 この章では、女性が自分に合う避妊法を選択する力に関する法と政策の影響を概説します。まず、女性の避妊法へのアクセスの権利に対する国際的な法的支えを見直し、女性が直面しつづけているアクセスに対する障害のいくつかを調べることから始めます。また、インフォームド・コンセントなしに女性に強制的に避妊を押しつけることを政府が認めている例も検討します。そして、この五年間における法と政策の展開と技術的進歩について報告し、勧告でこの章を終えます。

U妊娠を計画する権利

 女性の性に関する権利とリプロダクティヴ・ライツには、妊娠を計画する権利が含まれています。これはリプロダクティヴ自己決定の基本的側面です。自分の子供の数と出産の間隔を「自由に責任をもって」決定し、そうするための情報と教育を受ける権利は、1968年テヘランで開催された国際人権会議で国際社会によって初めて明瞭に述べられました。(P59)
 リプロダクティヴ自己決定への女性の権利の尊重も、各国政府に、避妊法を与える前に女性の完全なインフォームド・コンセントを確保することを要求しています。(P60)

V避妊法へのアクセス

 多くの国々の政府は、公衆衛生施設で避妊具の配布に関わっています。(P61)
 多くの国々で、避妊法への完全なアクセスを規定する政策があるのにもかかわらず、政府は家族計画を願っている人々のニーズに応えることができないでいます。(P61)

W避妊法の規制

 各国政府は普通の薬品と同様に避妊器具を規制しています。レッテル、薬の調合および新薬の承認に関する法や規制は、したがって避妊法にも適用されます。ある種の避妊法を特に規制している国々もあります。(P62)
 リプロダクティヴ・ヘルス、人口および家族計画政策には、避妊法とその使用に関するガイドラインまたはプロトコールが含まれていることがよくあります。(P62)
 女性の広範囲な避妊法の選択へのアクセスに対する障害を置いている政府もあります。(P62)
 A、より厳しく規制される、または禁止される方法
 最も規制されている避妊法の一つは不妊手術です。この家族計画法は、いくつかの国々で違法になっています。(P63)
 緊急避妊ピル、ミニピルおよびコパーT子宮内避妊リングを含む緊急避妊の使用を厳しく規制し、違法とさえする保守勢力があります。(P63)
 B、広告の制限
 世界には避妊具についての情報の普及に制限を課している国々もあります。(P64)
 C、第三者の許可の要求
 女性が、避妊法を受ける場合、事前に夫または親の許可を得ることを要求している国々もあります。(P65)

X強制を示す侵害

 インフォームド・コンセントなしに妊娠を妨げる方法が押しつけられるとき、リプロダクティヴ自己決定への女性の権利は侵害されます。避妊法の強制に関する女性の権利侵害の例は世界中でたくさん見られます。(P66)

Y1995年以来の発展

 1995年以来、避妊具へのアクセスに影を及ぼす重要な法と政策の展開がありました。(P68)
 1999年に、日本は経口避妊薬の使用を許可しました。(P68) 
エチオピアは、1998年の「布告」で避妊法の広告と推進を禁じる刑法の規定を廃止しました。(P68)
 最近、世界中でいくつかの国々が、緊急避妊(EC)として許可するか、またはECを政府規制の家族計画サーヴィスに統合するかして、ECの使用をはっきりと許可しました。(P68)
 最近、科学者たちは、エイズおよびその他の性感染症(STIs)のような病気を予防する避妊技術、特に女性がコントロールする方法を開発するための研究を強化してきました。(P69)
 女性がコントロールするもう一つの避妊法である女性用コンドームは、最近広く認められています。(P69)

Z勧告

■避妊具に関連して制限的法や政策が効力をもつ国々において
 各国政府は、過度の規制、第三者の許可の要求および避妊具に関する情報の普及の禁止を含め、避妊法に関する制限を撤廃するべきです。(P70)
 NGOは、制限法または避妊具に関する規制を緩やかにするための効果的提唱運動を行うために、法的・医療的グループとの連合体を結成するべきです。(P70)
 家族計画団体は、法律により許可されたできるだけ広範囲な避妊方法を提供し、これらの方法について正確な情報を利用者に提供するべきです。(P70)

■医学的に承認されたすべての避妊具が合法である国々において
 各国政府は、それぞの方法に関連した利点と危険性についての情報のみならず、広範囲な避妊法へのアクセスを確保するべきです。(P70)
 家族計画サーヴィスは、既婚・未婚や年齢を問わず、それを望むだれにでも提供されるべきです。(P71)
 各国政府は、避妊法の質を規制し、効能、安全性および利用者による完全なインフォームド・コンセントを適切に守る手段を実施するべきです。(P71)
 NGOは、すべての避妊法に関して正確な情報が入手でき、完全なインフォームド・コンセントの下で避妊具が使用されることを保障するために活動するべきです。(P71)
 家族計画団体およびその他のリプロダクティヴ・ヘルスケア提供者は、完全なインフォームド・コンセントのための正確な情報とともに、広範囲な避妊法を提供することを保障するために活動するべきです。(P71)

第三章 妊娠中絶

Tはじめに

 この章では、妊娠中絶を人権の枠組みの中に置き、1995年以来の法的進展に重点を置いて、世界中の妊娠中絶を規制する法と政策の型を検討します。妊娠中絶の制限が女性の健康と権利に及ぼす破壊的影響を考慮して、妊娠中絶をすべての女性にとって安全なものにするために、そしてすべての女性がアクセスできるものにするために、各国政府とNGOの行為者たちの間で一致した努力をするよう勧告します。(P85)

U妊娠中絶と人権

 安全で合法的な妊娠中絶への女性の権利の国際的な法の支援は、数多くの国際条約およびその他の文書に見出すことができます。妊娠中絶を選ぶ権利は、リプロダクティヴ意思決定における自治、差別からの自由、健康と生命の保護の保障に支持されています。(P85)
 A、リプロダクティヴ意思決定における自治の権利
 この権利は、妊娠中絶を含めて家族の規模をコントロールするすべての安全かつ効果的な手段へのアクセスの資格を女性に与えます。最後に、人が自分の身体、特にその生殖能力について行う決定は、私的な意思決定の領域にあることは明確なので、妊娠中絶を選択する女性の権利はプライヴァシーの権利によって守られます。(P86)
 B、非差別への権利
 制限的妊娠中絶法は、女性に対する差別の一形態です。保護される人権の享受において差別を受けないことは、すべての主要な人権文書で保証されています。(P86)
 C、健康への権利
 国際法は、「到達できる最高の水準の身体的・精神的健康」への権利を女性に保障しています。(P87)
 D、生命への権利
 生命への権利は、「世界宣言」と「自由権規約」を含むほとんどの主要な人権文書で保護されています。この権利は従来、国家による恣意的な処刑からのみ個人を守るものと解釈されてきましたが、「自由権規約」遵守を監視する機関である人権委員会は、各国政府に「生命を維持することを目的とした[積極的措置]をとるよう要求しているもの」と解釈しています。(P88)

V世界の妊娠中絶法概観

 中国、フランス、ロシア、南アフリカ、およびアメリカ合衆国を含むこれらの国々では、女性は理由なしに妊娠中絶を受けることができます。しかし、法律によって定められた手続き上の要件はすべて守らなければなりません。(P90)
 世界の21%の人々は、幅広い社会的・経済的根拠による妊娠中絶を認めている14カ国で暮らしています。これらの法は、妊娠を最後まで続けることが社会的・経済的状況、年齢、既婚か未婚か、生きている子供の数などを考慮することが医療従事者には認められています。(P90)
 世界の人々の約13%の母国である53カ国においては、女性の健康が脅かされているときにのみ妊娠中絶を受けることができます。(P90)
 世界の人々の約26%が女性の生命を救うためにのみ妊娠中絶を認めるか、その手続きをまったく禁止している74カ国に暮らしています。(P90)

W1995年以来の発展

 このセクションでは、最近五年間にあった国内妊娠中絶法の発展を概説します。
 A、自由化
 世界の異なった地域の少なくとも5カ国が、最近妊娠中絶を自由化する法律を施行しました。(P94)
 1996年、アルバニアは、妊娠12週までは理由に関して制限なしに妊娠中絶を認める1991年の保険省の指令を法律に制定しました。(P94)
 1996年にブルキナファソは、女性の生命または健康が危険にさらされているとき、および胎児に重大な障害があるときには妊娠のいかなる段階でも妊娠中絶を認めるために、その刑法を改正しました。
 (P94)
 カンボジアは1997年に、妊娠中絶法をかなり自由化しました。(P95)
 ガイアナでは、「危険な中絶による死亡と併発症をなくすことによって安全な母性の達成度を高める」ことをひとつには意図した1995年の法律が、妊娠8週までは理由に関して制限なしに妊娠中絶を認めています。(P95)
 南アフリカが1996年に施行した「妊娠中絶に関する選択法」は、世界で最も自由な妊娠中絶法の一つになりました。(P95)
 B、制限
 2カ国が最近、妊娠中絶法を制限しました。(P96)
 エルサルヴァドルは1997年に、妊娠中絶の禁止に対するすべての例外を撤廃するために刑法を改正しました。(P96)
 ポーランドでは、1996年に採択された中絶自由化法が、1997年に憲法裁判所により無効にされました。(P96)

X勧告

■妊娠中絶法が制限的である国々において
 各国政府は、理由に関して制限がないか、あるいは広い根拠に基づいて妊娠中絶を認める法律を施行するべきです。(P98)
 各国政府は、現在法の下で認められている狭い根拠に基づいて妊娠中絶を受ける女性のニーズに答えるために、安全で質の高い妊娠中絶サーヴィスが適切に提供されることを保障するべきです。(P98)
 主たる法律施行者は、妊娠中絶に関する刑法のできるかぎり自由な解釈を反映する手続き上のガイドラインを出すべきです。(P98)

■妊娠中絶法が自由である国々において
 各国政府は、年齢、人口、収入、既婚・未婚、教育程度に関係なくすべての女性に質の高い妊娠中絶サーヴィスへのアクセスを確保するために活動するために活動するべきです。(P99)
 国内保健プログラムは、既存のリプロダクティヴ・ヘルス・プログラムの中に妊娠中絶サーヴィスを統合するべきです。(P99)
 NGOは、女性と保健医療提供者に、妊娠中絶が法の下で認められていることを確実に知らしめるために活動するべきです。(P99)

第四章 HIV/エイズと性感染症(STIs)

Tはじめに 

 この章では、HIV/エイズとの関連で女性の健康と権利を調べ、これまでにとられてきた法と政策の取組みの型を検討します。また、1995年以来の世界の国々の発展の例を論じ、ジェンダーに敏感なHIV/エイズ予防と治療の政策の採用とHIV/エイズに感染した人々を差別する法の改正に関する勧告を提供します。(P111)

U女性の権利とHIV/エイズ

 A、HIV感染症の予防における差別
 「北京行動綱領」は、女性の社会的従属と男性に対する不平等な力関係が、HIV/エイズにかかりやすいことの重要な決定要因であると認めています。(P112)
 質の高いリプロダクティヴ・ヘルスケアへのアクセスの欠如によって、女性の性感染症(STIs)は発見されないままになり、そういった女性がますます生理学的にHIV感染症にかかりやすくなっています。(P113)
 B、エイズに感染した女性に対する差別
 多くの国々の法律および習慣は、女性が平等な人権を享受することを否定しているため、女性は、HIV/エイズに感染した人々にしばしば向けられる差別に特に影響されます。(P114)
 女性が財産を所有する権利を否定しているような差別的法律があるところでは、HIV/エイズに感染した女性は家を出て行くように強いられ、法の下では何の権利もありません。同様に、家庭内のパートナーが犯す犯罪を、犯罪として認めることも追求することもしない国々では、HIV/エイズに感染した女性が配偶者によって虐待されても、国からの保護をほとんど受けることができないかもしれません。(P114)

VHIV/エイズに対処する政府の行動

 多くの政府は、HIV/エイズに対処する包括的国内政策を策定しました。その政策の多くは、女性の特別なニーズを中心としたジェンダーの部分を有しています。(P115)

W1995年以来の発展

 1995年以来、増加する流行病に応えて、多くの各国政府が、HIV/エイズ感染者に対する差別に対処するだけでなく、感染を予防し、HIV/エイズを治療するための法律的、政策的およびプログラム的イニシャティヴに着手してきました。(P117)
 ジンバブエ政府は、地方を基礎とした数多くのプログラムを通して、HIV/エイズと闘おうとしてきました。(P117)
 1999年、ロシア連邦保健省は、HIV陽性の子供と妊婦のための特別センターを設ける命令を出しました。(P118)
 1995年、香港は中国に返還される前に、「身体障害差別法案」を可決しました。(P118)
 ボリヴィアでは、政府が1996年に「HIV/エイズの予防とケアに関する規則」を採択し、健常者、感染者、発症者の権利と義務を述べました。(P118)
 1996年、ポーランドでは、保健省が「HIV感染症の予防とHIV/エイズに感染または発症している人々のケアのための国内計画」を導入しました。(P119)

X勧告

 各国政府とNGOは、HIV/エイズの危険と感染を避けるためにとることができる措置について、その情報の普及を目的とする効果的な教育、アウトリーチ・プログラムを開発するべきです。(P120)
 各国政府は、HIV/エイズに感染した人々のニーズに応える、思いやりのある支援的な法律、政策、プログラムを開発し、保健医療や教育、雇用などへのアクセスにおける差別を含めて、そのような人たちに対するあらゆる形態の差別を法的に禁止するべきです。(P120)
 各国政府は、基礎保健医療サーヴィス内にHIV/エイズとSTIsに関するガイドラインやカウンセリング・サーヴィスを開発し、HIV/エイズに感染した利用者の治療に関わる沽券医療従事者のための訓練を確保するべきです。(P121)
 供与国政府および国際団体は、抗レトロウィルス剤を含め、薬物治療への差別のないアクセスを確保できるようしえんすべきです。(P121)

第五章 リプロダクティヴ・ライツに影響を及ぼす有害な伝統的慣行
    −女子割札/女性性器切除(FC/FGM)

Tはじめに

 本章では、FC/FGMを人権の枠組みの中に置き、1995年以来の発展に重点を置いて、FC/FGMを扱おうとする法律や政策の型を検討します。勧告は、FC/FGMの慣行を中止するための多面的な戦略的取組みを開発することを目的として、各国政府およびNGO行為者に提供されます。(P131)

U人権の枠組みの中の女子割札/女性性器切除(FC/FGM)

 FC/FGMは、女児や同意をしていない女性に行われるとき、国際および地域文書で守られ、国際会議文書で再確認されている数多くの人権を侵害します。この人権には、非差別の権利、生命と身体的完結性への権利、健康への権利、特別な保護を受ける子供の権利が含まれます。(P131)
 A、非差別の権利
 FC/FGMは、あらゆる形態の差別を受けない権利を侵害します。(P131)
 B、生命および身体的完結性への権利
 FC/FGMは、生命身体的完結性への権利を女性が享受することを脅かします。(P132)
 C、健康への権利
 FC/FGMは、女性と女児の健康への権利の享受も妨げます。(P133)
 D、特別な保護に対する子供の権利
 国際社会は普通、FC/FGMを子供の権利の侵害とみなしています。

V女子割札/女性性器切除(FC/FGM)の法的状態

 FC/FGMは、少なくとも世界18カ国で法的または行政的措置によって禁止されてきました。これ措置の大多数は5年間で採択されました。しかしアフリカでは、FC/FGMを禁止するいくつかの法的措置が30年以上も前からありました。(P135)
 FC/FGMが広まっているかもしれない移民社会を持つ、「受入れ国」といわれる非アフリカ諸国も、その国際線内においてこの慣行を防止するための法的手段をとってきました。(P136)
 1990年代は、FC/FGMの慣行をやめさせることを目的とした法的・行政的活動の強化が見られました。(P136)

W1995年以来の発展

 1995年以来、12カ国がFC/FGMを犯罪とする法的・行政的措置を採択しました。(P137)
 オーストラリアでは、1994年から1997年の間に、8つの州と地域のうち6つがFC/FGMを禁止する法律を採択しました。(P137)
 カナダは、1997年にその「刑法」を改正して、「悪質な暴行」の定義を「定まった医学的理由のために必要とする以外に、人の大陰唇、小陰唇または陰核の全体または部分を切除、封鎖または切除するために」とられた行為にも適用すると規定しました。(P137)
 エジプトでは保健省が医学的目的ではないFC/FGMを禁止する法令を1996年に出しました。(P138)
 セネガルは1999年にその「刑法」を改正し、「女性の性器の完結性を侵害もしくは侵害しようと企てるいかなる者も・・・・・6ヶ月から5年の禁固刑により処罰される。」としました。(P139)
 1998年、タンザニアはその「刑法」を改正し、女子割札を引き起こすいかなる者も5年から15年の禁固刑およびまたは30万シリング(約373米ドル)の罰金により処罰できることを規定しました。(P139)
 A、最近の法律以外の発展
 法律そのものが人々の行動を変えるものではないことを認識して、多くのアフリカ諸国はFC/FGMの慣行を防ぐ異なった取組みを捜し求めてきました。これらの取組みの中のあるものは、先に述べた刑法を補うために意図されたものであり、またあるものはそのような法律の代わりに採用されたものです。(P140)

X勧告

 各国政府は、国の憲法に女性と女児の権利の保護が含まれていることを保障するべきです。そのような保護は、女性と女児が有害な伝統的慣行を受けない権利を特に認めることができます。これらの規定は、女性と女児にその慣行を受けることを要求するかもしれない慣習法や宗教的戒律に対して支配権を持つべきです。(P141)
 もし適当であるならば、各国政府は以下を条件として、FC/FGMの慣行に対して刑事上の制裁を確立するべきです。(P141)
 各国政府は、FC/FGMの慣行を廃止する手段として、市民的損害のための訴訟および子供の保護手続きを含む非刑法的メカニズムの適用を探求するべきです。(P142)
 各国政府は女性の経済的自立を達成する能力を妨げる法律を廃止し、女性の経済的自立を推進する積極的手段をとるべきです。(P143)
 NGOは、FC/FGMの慣行を廃止することを意図した法律の内容に影響を及ぼすために、その専門知識を利用するべきです。(P143)
 NGOは、FC/FGMの慣行を廃止するために、司法制度と国際人権メカニズムを利用する方法を考えるべきです。(P143)


第六章 レイプおよびその他の性暴力

Tはじめに

 この章は、特に女性に対する性暴力と、それがリプロダクティヴ・ヘルスと性に関する健康に及ぼす影響を中心とします。レイプ、強制妊娠およびその他の形態の性暴力を人権の枠組みの中に置き、女性に対する性暴力を永続させている既存の法律、政策および慣行を調べます。そして、女性に対する性暴力およびその他の形態の暴力を撤廃することを目的として、1995年以来の法的展開も検討します。
 最後に、そのような暴力を永続させる法的・文化的規範を撤廃し、性暴力を含むあらゆる形態の暴力から女性を守る法律の採択に向けて活動するために、各国政府とNGOに宛てた勧告で締めくくります。(P154)

U性暴力を受けずに暮らす女性の権利

 国際社会は、レイプおよびその他の性暴力を含むジェンダーに基づく暴力を受けない女性の権利を明確に認めてきました。(P155)
 性に基づく差別は、ほとんどすべての人権条約で禁止されています。(P156)
 1998年に採択された「ローマ条約」は、国際人道法の下では初めて、レイプ、性奴隷化、強制売春、強制妊娠、強制不妊手術およびその他の性暴力を、人道違反でありかつ戦争犯罪であると明確に定義しています。(P156)

V女性に対する性暴力を永続させる法、政策および慣行

 レイプは個人としての女性に対する暴力行為として起こるのですが、戦争、政治的抑圧および民族浄化の武器としても用いられます。(P157)
 世界のどの国でも、公式にはレイプをはじめ少なくともいくつかのその他の性暴力を不法としていますが、多くの場合、特にレイプの申し立てが男性と女性の間の関係の「私的」領域に関連しているときには、法の執行は散発的であることがよくあります。(P158)
 女性に対する暴力を容認する別の法律として、強姦犯人が犠牲者と結婚することによって刑事責任と処罰を回避することを認めるものがあります。(P158)
 女性に対する暴力や性暴力を公然と容認する法律に加えて、裁判所の手続き規則または証拠の規則も女性に対する暴力の文化を永続させることがよくあります。(P160)

W1995年以来の発展

 エクアドルでは、国家議会が1998年4月に「刑法」の改正を承認し、「性的攻撃」を定義し、それに対する制裁を規定しました。(P161)
 コロンビアの1997年の法律は、レイプに対する処罰を重くし、もし被告がその犯罪の犠牲者と結婚とすれば処罰を免れることができるという以前の規定を廃止しました。(P161)
 中央・東ヨーロッパの2つの国が最近、自国から他国への女性の人身売買を扱う法律を可決しました。(P161)
 最近、多くの国の政府でとられている措置の1つが、ドメスティック・ヴァイオレンス、すなわち、家庭内で起こる暴力に対する制裁を規定する法律を通過させていることです。(P162)

X勧告

 各国政府は、レイプ、性的攻撃、性的搾取およびセクシュアル・ハラスメントを含む女性に対する暴力行為の加害者に対し、適切な厳しい処罰を有する法律を制定し、施行するべきです。(P164)
 各国政府は、刑法に見られる夫婦間レイプの除外、「名誉殺人」のような女性に対する暴力を容認することによって女性を差別する法律、および、もし被害者と結婚するなら被告をレイプの告訴から免除する法律を見直し、改正するべきです。(P165)
 各国政府は、女性に対する性暴力とその他の形態の暴力の状況に効果的に対処するために、法律執行者、司法関係者、保護医療提供者を敏感にし、訓練するためのプログラムを創設するべきです。(P165)
 各国政府はそのようなプログラム、特に小学校・中学校の児童・生徒を対象としたプログラムの考案、実施、評価において、女性に対する暴力を扱うNGOと協力するべきです。(P165)
 NGOは、あらゆる生活の領域において女性を暴力から守る法律の可決を推進する提唱運動を行い、既存の法律と政策についてはその実施を監視するべきです。(P166)

第七章 婚姻および家族法

Tはじめに

 婚姻と家族の下での女性の権利は、自分の生活をコントロールし、任意の情報を得たリプロダクティヴ・チョイスを行う能力に大きく影響されます。この章では、婚姻と家族内における女性の国際法的保護を検討し、婚姻をする際、婚姻中および婚姻の解消の際にその権利の完全享受に対して直面する障害を調べます。そして、1995年以来の発展を検討したうえで、婚姻および家庭の中における女性の平等を確保するための政府の行動に対する勧告で締めくくります。(P177)

U国際人権法の下での婚姻と家族法

 婚姻と家庭の中での女性の権利は、国際法の下で明確に認められた女性の地位に関する最初の人権でした。人権法の下で婚姻を支配している基本原則の1つは、何人にもその意思に反して婚姻を強いることはできないということです。(P177)

V婚姻と家庭の中での女性の権利侵害

 婚姻と家庭の中における女性の人権の国際的保障にもかかわらず、女性は婚姻と家庭の中で人権の侵害に直面しつづけています。差別は、婚姻と家庭を規制する多くの国々の法律にしみ込んでいます。
 それは、婚姻と家庭生活の制度を形づくる文化的、社会的、慣習的規範に対する公の許容的な態度に表れています。女性の権利を擁護する法律を採択した国々でさえ、これらの法律を適切に実施していないことがよくあります。(P178)
 A、婚姻の成立−婚姻に同意する権利
 婚姻を支配する法と慣習の下で、婚姻の成立に新郎新婦の同意が必要とされない国々もあります。その代わりに、新郎新婦の家族によって、婚姻する当事者の同意なしに婚姻の契約が交わされることがあります。これは慣習法や宗教の戒律が婚姻と家庭に関連する事柄を支配することを認めている国々によくある事例です。(P179)
 B、婚姻の中での権利−配偶者の不平等な地位
 女性は婚姻中にも夫との平等を享受することを妨げられることがあります。多くの法律が女性の夫への従属性を明確に規定しています。(P181)
 C、夫婦間レイプおよびドメスティック・ヴァイオレンスからの保護
 既婚の女性は、家庭において性暴力を含む暴力にしばしば遭遇します。この状況をさらに悪化させているのが、夫婦間レイプおよびドメスティック・ヴァイオレンスを容認する法律や、またはこういったことから女性を守ることができない法律、あるいは法律の欠如です。(P182)
 D、家族計画における差別
 婚姻におけるもう一つ別の型の差別は、既婚の女性が避妊法を入手したり妊娠中絶を受けたりする場合、事前に夫に知らせ、その同意を得るという要件です。(P182)
 E、財産の所有および相続における差別
 ある国々の財産法は、婚姻関係を解消する力だけでなく、婚姻関係における女性の役割をさらに弱いものにしています。(P183)
 F、離婚における差別
 婚姻に差別が存在するのと同じように、女性は離婚においても差別されることがしばしばあります。(P184)

W1995年以来の発展

 婚姻および家庭の中での女性の権利については、立法部と司法部の双方で議論が続けられ、法改正のテーマとなっています。この5年間の変化の大部分が、社会のすべての部門における女性の人権の国際的承認の高まりと一致しています。(P185)
 コロンビアは1996年に、家族の住まいに関する不動産の譲渡の際には両配偶者の署名を要求する法律を制定し、それによって共有財産における女性の利益を保護してきました。(P185)
 グァテマラでは1998年に「民法」が改正され、その中の差別的法律の全部ではありませんが、多くを撤廃しました。(P185)
 エジプトでは、2000年に制定された家族法が、夫の同意のあるなしにかかわらず、女性が離婚する事を可能にしました。(P186)
 トルコでは女性活動家の何年にもわたるロビー活動の結果、議会は1998年、ドメスティック・ヴァイオレンスを受けている家族の構成員はだれでも暴力の加害者に対する保護命令の申請を提出することを認めるドメスティック・ヴァイオレンスに関する法律を承認しました。
 ジンバブエの最高裁判所による1999年の決定は、この国で認められている慣習法が、長子である女性が父親から相続を受けることを妨げ、年下の兄弟に有利になるように適用されることを認めました。(P187)

X勧告

 各国政府は、国際法の下で、婚姻と家庭内の非差別の保障と矛盾する宗教的戒律または慣習法の、法的効力を否定するべきです。(P188)
 各国政府は、将来の配偶者同士の自由な合意なしに結婚をすることを禁止するべきです。(P188)
 各国政府は、18歳未満の子供の結婚を禁止する法律を制定するべきです。(P188)
 各国政府は、家庭内の暴力を禁止する法律を制定し施行するべきです。(P188)
 各国政府は、女性が避妊法を得、または妊娠中絶を受けるために、夫の同意を要求するすべての法律を改正するべきです。(P188)
 各国政府は、女性の財産および相続の権利を守り、あらゆる市民的事柄に、女性と男性に同一の法的能力を認めるべきです。(P188)
 各国政府は、男性より女性を劣等とみなすような考え方を反映する慣習的規範に反対するべきです。(P189)

第八章 思春期の若者

Tはじめに

 この章ではまず思春期の若者のリプロダクティヴ・ライツの保護のための国際人権法の基礎を論じます。つづいてなぜ思春期の若者のリプロダクティヴ・ライツが特に傷つきやすいのかを論じます。そこには、思春期の若者のリプロダクティヴ・ライツのいくつかの特有の側面、つまり、リプロダクティヴ保健医療へのアクセス、性に関する健康およびリプロダクティヴ・ヘルス教育、若年結婚、避妊法と若年出産、危険な妊娠中絶、HIV/エイズと性感染症(STIs)、性暴力と女子割札/女性性器切除(FC/FGM)の分析が含まれます。そして最後に、各国政府がリプロダクティヴ・ヘルスのあらゆる領域における思春期の若者の特別なニーズを認め、リプロダクティヴ・ライツを保護し、すべての思春期の若者に包括的なリプロダクティヴ保健医療を提供するために活動するよう勧告します。

U思春期のリプロダクティヴ・ライツ

 リプロダクティヴ・ヘルスを含む健康への思春期の若者の権利は、1990年の「子供の権利条約」で初めて国際的に承認されました。その協約により、「子供の権利条約」の規定は普通、18歳未満の者に適用されます。(P200)
「子供の権利条約」は、思春期の若者のリプロダクティヴ・ヘルスと性に関する健康に関連した重要な要因である性暴力と虐待を明確に認めた初めての国際人権規約です。(P201)国際人口開発会議(ICPD)と北京会議で、各国政府は「子供の権利条約」で明確に述べられたリプロダクティヴ・ライツの多くを再確認しました。(P201)
 条約の実施を監督する義務を負っている国連の人権条約委員会は、思春期の若者のリプロダクティヴ・ライツを認め、尊重する必要性を強調してきました。(P201)

V思春期の若者の性に関する権利とリプロダクティヴ・ライツの弱さ

 思春期の少女には、成人女性と似たようなリプロダクティヴ・ヘルス・ニーズがあるのですが、その年齢と生活環境のために、ニーズが満たされることを保障する自己決定権がより制限されている傾向にあります。(P202)
 社会の保守的要素が思春期の若者のセクシュアリティ、特に未婚の思春期の少女のセクシュアリティを認めないことがしばしばあります。(P203)
 思春期の若者がそのリプロダクティヴ・ライツを行使することを妨げるかもしれない社会的、文化的要因を一層ひどいものにしているのが同様の結果をもつ法的・政策的障害です。(P203)

W法と政策における思春期の若者の権利
 A、リプロダクティヴ・ヘルスケアへのアクセス
 思春期の若者のリプロダクティヴ・ヘルスケア・ニーズは、文化、年齢、および既婚か未婚かによってさまざまですが、すべての思春期の若者は料金が手頃で、質の高いリプロダクティヴ・ヘルスケア・サーヴィスを必要としています。(P204)
 思春期の若者のセクシュアリティについては議論があり、この年代の人たちのリプロダクティヴ・ニーズと性に関するニーズについては一般的に知識が欠如しているために、若い人たちのための適切なリプロダクティヴ・ヘルスケア・サーヴィスを有しているのは、世界の中でもわずかな国だけです。(P205)
 B、性に関する健康とリプロダクティヴ・ヘルス教育を含む教育
 教育は、リプロダクティヴ・ライツへの権利を成就するための必要条件です。教育があれば、若い人々は性に関する権利やリプロダクティヴ・ライツを含むさまざまな利益や権利を行使し守るための情報を得ることができます。(P206)
 正規の教育と並んで、性や生殖の問題について若い人々に教育を施すことも等しく重要です。多くの国々は、セクシュアリティについて思春期の若者を教育することは、早い性行動を奨励することになるという誤った仮定の下に、正規の教育の場でそのような教育を施すことに抵抗しています。反対に、性教育は実際に性行動を遅らせる効果があることをさまざまな研究が示しています。(P208)
 C、若年結婚
 18歳前に結ばれた婚姻は、普通若年結婚と考えられます。若年結婚は、若い女性の特に教育の点から見た完全な発達、経済的自治、身体的・心理的に悪影響を及ぼし、そのことによって生涯に否定的結果をもたらすかもしれません。(P209)
 さたに、子供または思春期の少女が幼くして婚姻を強いられ、性的関係に対する同意を拒否したり、また承知の上でそれに同意するにはあまりにも幼すぎるとき、そのような婚姻の結果は性暴力となるかもしれません。(P209)
 D、若年出産と避妊法
 思春期の少女は生理学的に出産するだけの成熟度に達していないことがしばしばあるので、若年出産は妊産婦死亡率と罹病率の高さに関連します。(P210)
 思春期の若者の間の性行動と無計画な妊娠の割合が高くなっている今、若い人々の避妊具へのアクセスを確保することがきわめて重要です。(P210)
 E、危険な妊娠中絶
 世界中の思春期の少女は、質の高い、避妊法を含む秘密のリプロダクティヴ・ヘルス・サーヴィスと情報に対して、成人よりもアクセスが少ないために、不当に危険な妊娠中絶の犠牲者になっています。(P211)
 妊娠中絶が不法であり、厳しく規制されているかまたは何らかの人口部門にアクセスできないような国々では、思春期の少女は、特に親の同意を必要とするなどの制限がさらに増えるために、アクセスはさらに少なくなります。(P212)
 F、HIV/エイズと性感染症(STIs)
 1998年のHIV感染者3000万人のうち少なくとも3分の1が10歳から24歳でした。さらに、毎年3億3300万人の新たなSTIs患者の約半数が25歳以下の人々です。若い女性は、年上の女性よりも抗体が少ないので、特にSTIsに感染しやすく、未熟な子宮頸部が感染源にさらされると、病気に感染する可能性が高くなるのです。若い女性を危険にさらす生理学的要因に加えて、思春期の少女は性暴力の搾取、早い性関係の開始、そして自分より年上であることが多いパートナーに安全なセックスを交渉する能力がないために、思春期の少年よりもHIV/エイズやSTIsにかかりやすいのです。(P212)
 G、性暴力
 思春期の若者に対する性暴力に関する研究はわずかしかないのですが、これまでに行われた研究は、世界中の思春期の若者がレイプ、性的攻撃、近視姦、商業的性搾取、そして性奴隷化を含むさまざまな形態の性的虐待にさらされる非常に危険な状況にあることを示しています。(P213)
 そのような虐待を扱う用意のできていない保健医療提供者や法律施行者がいることによって、公にすることへの恐怖心はさらに高まります。(P213)
 H、女子割札/女性性器切除(FC/FGM)
 女児がFC/FGMを経験するのは、4歳から12歳までの間が最も一般的です。FC/FGMは、思春期の前または思春期の間にもっとも頻繁に起こるので、思春期の少女は、生殖年齢に入り性行動を開始するときに、この伝統的慣行に特に悪影響を受けます。(P214)
 FC/FGMの慣行は、女児および若い女性の人権侵害となります。それは、あらゆる形態の性差別を受けない権利、生命と身体的完結性への権利、健康への権利を侵害します。(P214)

X勧告

 A、リプロダクティヴ・ヘルス
 各国政府は、既婚・未婚を問わず、妊娠している思春期の少女のための出産前後のケアを含む避妊法および妊産婦保健医療への普遍的アクセスを提供するべきです。(P215)
 NGOは、思春期も若者の特別なリプロダクティヴ・ヘルス・ニーズに対して、各国政府と社会全体が敏感になるよう活動するべきです。(P215)
 家族計画団体は、特に思春期の若者に向けたサーヴィスを提供するべきです。(P216)
 B、教育
 各国政府は、初等教育への就学が一般的でないところでは、両性のためにこれを義務化する法律を制定し、中等教育・高等教育レベルを通して女児のための教育を奨励する政策を策定するべきです。(P216)
 各国政府は、あらゆるレベルの教育における性教育および生活技術プログラムも開発し、実施するべきです。(P216)
 各国政府は、特に思春期の若者を対象とした性感染症(STIs)およびHIV/エイズ予防のための教育キャンペーンを始めるべきです。(P216)
 C、若年結婚
 各国政府は、女性と男性の結婚最低年齢として18歳を採用し、結婚最低年齢に関する新法または既存の法律を施行し、すべての結婚に適用できる一律の法律の制定に向けて活動するべきです。(P216)
 各国政府は、将来配偶者となる者の同意があって初めて婚姻が成立することを保障する法律を制定し、施行するべきです。(P216)
 D、性暴力
 各国政府は、レイプ、近視姦および人身売買を含むあらゆる形態の性暴力に対して女児と思春期の若者を保護する必要性に関して、保健医療提供者および法律施行者を含めて地域社会を敏感にするプログラムを創設するべきです。(P217)


……以上……


REV: 20170426
子/育児  ◇フェミニズム (feminism)/家族/性…  ◇BOOK  ◇2002年度講義関連 
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