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子どもを持たないこころ

青木紀久代・神宮英夫 編 2000年3月30日 北大路書房 165頁 定価(1800円+税)

last update: 20170426

この本の紹介の作成:金原由実(立命館大学政策科学部3回生) 掲載:20020801
☆執筆者紹介☆
青木紀久代
1993年 東京都立大学大学院博士課程修了
 現在 お茶の水女子大学助教授 博士(心理学) 
 主著 「拒食と過食」 サイエンス社
    「調律行動から見た母子の情緒的交流と乳幼児の人格形成」 風間書房
    「臨床心理学概説」 放送大学教育振興会

神宮英夫
1977年 東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了
 現在 明星大学教授 文学博士
 主著 「印象測定の心理学」 川島書店
    「はじめての心理統計」 川島書店
    「心理的時間」 北大路書房

小嶋嘉子
1994年 東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了
 現在 東京都立大学大学院博士課程在学中
    社会福祉法人桜ヶ丘記念病院非常勤心理技術員
 主著 「未婚女性の結婚観と子育て観に見る少子化の心理学的要因」 児童育成研究V
    「ライフサイクルの臨床心理学」 培風館
 
はしがき
1章 少子化はなぜ問題なのか 【神宮英夫】
1.少子化の現状 
2.少子化がもたらす影響
3.子どもに与えるこころの問題
4.少子化の原因
5.少子化をなぜ問題にするのか
6.「上」からの対応策
7.「下」からの対応策
2章 「少子化」とライフプラン 【青木紀久代】
1.親になることをめぐるライフサイクル論
2.親になるまでのライフプランの現状と課題
3.親となってからのライフプランの見直し
4.親子関係の清算
5.福祉と心理学の接点
3章 未婚女性の結婚観と子育て観 【小嶋嘉子】
1.自分のために生きる女性たち
2.ナルシズムと現代社会
3.未婚女性の結婚観
4.未婚女性の子育て観
5.子どもに託した自分の可能性
4章 少子化を止めるのために 【神宮英夫】
1.きめの細かい少子化対策
2.福祉心理学と少子化の要因への対応
3.こころに沿った少子化対策
5章 福祉心理学からの提言 【神宮英夫】
1.福祉心理学とは何か?
2.本来の福祉心理学
3.サービスとしての福祉施策
4.福祉サービスへの満足度
5.少子化問題を解決するための福祉心理学
文献 あとがき


はしがき
 現在、日本が直面している少子化の現状に対して危機感が強まっている。実は、少子化だけが問題なのではない。それとともに高齢化あるいは長命化が急速に進行していて、これら2つが絡み合っているところに問題がある。少子化対策は、福祉行政だけの問題ではなく、経済、文教、労働など、多様で総合的な取り組みが必要とされている。一方、子どもを持つか持たないかは、個人が自分の問題として考えるべきで、こころのあり様に問題である。こころの問題は、心理学の研究対象だから、少子化問題をもっと扱い、その成果を積極的にアピールする必要がある。

1章 少子化はなぜ問題なのか

1.少子化の現状
 出生率の減少による少子化の状況が続いている。さらに少子化とともに、高齢化も急速に進行していて人口構造としては逆ピラミッド型をもたらし、結果として人口減少社会となり、このことが社会全般に深刻な影響をもたらすとして心配されている。(p.2-3)

2.少子化がもたらす影響
 少子化がもたらす影響は、経済的にも社会的にも悪い影響を与えている。経済面では、年金・医療・福祉などの社会保障の面で現役・若年層の負担が重くなる、現役・若年層の手取り所得が低下する、労働力人口が減少する、経済成長への影響がある。社会面では、家族の変容、地域社会の変容、子どもへの影響が心配されている。(p.4-7)

3.子どもに与えるこころの問題
 子ども自身に与える影響としては子どもの遊びの変化がある。異年齢集団を構成して遊ぶ機会が不足している。また少子化によって、少ない子どもに対する大人からの過剰なかかわりが、子どもの発達のいろいろな面に悪影響を及ぼす。子どもの人権が侵され、心理的圧迫を感じることになる。(p.8-9)

4.少子化の原因
 少子化の原因として、女性の社会進出による晩婚化と非婚化である。結婚した人は、子どもを理想的には3人近く欲しいと思っているが、実際には2人しか持たない。この理想と現実とのギャップから、子どもが欲しいのに持てない社会・経済面要因がある。この要因は、子どもの養育や教育にお金がかかるからという経済的理由が最も多く指摘されている。(p.10-12)

5.少子化をなぜ問題にするのか
 結婚するかしないか、子どもを持つか持たないか、この種の問題は、個人の自己決定権に関わる問題である。個人の生き方の多種性に対して、問題視すること自体が問題ではないかという議論がある。実際、社会や国の問題として少子化が議論されることに「国家主体の考え方はやめてほしい」とか「子どもの問題を労働力や財源の手段として考えてほしくない」という指摘がある。(p.13-14)

6.「上」からの対応策
 従来の少子化への対応策は、表面的な質問内容に対する調査研究によって何らかの枠組に見合ったものが取られてきた。いろいろな規範理論に基づいた「上」からの対応策がほとんどで、これらがほんとうに一人ひとりのこころに沿ったものになっているかどうかは、疑問である。(p.15-18)

7.「下」からの対応策
 子どもを持たないというこころの働きや状態を明らかにする調査・研究を行うことによって、より効果的で効率的な対応策が取れる可能性がある。この記述理論に基づいた「下」からの対応策が重要である。人のこころは千差万別であるが、そのなかにはいくつかのプロトタイプがあり、これに見合った対応策を考える。(p.19-20)


2章 「少子化」とライフプラン

1.親になることをめぐるライフサイクル論 
@エリクソンの心理的発達課題 Aその他の20代から30代の心理的発達課題のモデル B諸理論からみた子どもを持つことの意味がある。(p.22-37)

2.親になるまでのライフプランの現状と課題
 子どもを持つことを自己のライフプランにどう取り込むかという問題は、実に多様な選択肢があるが、それらはどれもその後の生活にかなりの影響を持つことは確かである。現代的既婚夫婦の現状について個別的な例を挙げる。事例として既婚で子どもを持たない(以下、DINKS)男女6名を取り上げた。(p.38-39)
(1)DINKS女性の事例
事例A 出産への準備は万全です(p.40-41)
事例B 子どもは欲しいけれど、見通し困難(p.42-44)
事例C 子どもが欲しいけれどできない(p.45-47)
(2)DINKS男性の事例
事例D 父親になる心構えはばっちりです(p.48-50)
事例E 計画は妻任せ(p.51-53)
事例F 夫婦で子育てを楽しみたい(p.54-57)
(3)事例のまとめ(p.58-60)

3.親となってからのライフプランの見直し
 実際に子どもを産み育てている人たちは、出産前までに持っていたライフプランをどのように見直し、立て直しているのであろうか。(p.61)
(1) 母親の事例
事例G 子育てを終えたあとの人生(p.62-66)
事例H ずっと仕事は続けます(p.67-70)
(2)父親の事例
事例I 子育ては思っていたよりずっと大変(p.71-73)
事例J 生まれちゃったものはしょうがない、共働きでやりきります(p.74-77)
(3)事例のまとめ
 すべての事例を通じて、子育ての負担は軽減を望むが子育ての質や水準はできるだけのことをしたいという、子どもを持つ際の矛盾欲求がみられる。子どもへの愛情とは何か、金銭的な価値観で愛情をはかることが、知らず知らず社会にしみ込んでいる現状を、今一度見直すことが求められている。(p.78-80)

4.親子関係の清算
 少子化の社会動向のなか、いじめや不登校を皮切りに、思春期・児童期の心身症、あるいは乳幼児の虐待、母性拒否症候群など、家族の子育て機能の低下が取りざたされている。子どもを持つことの現在から未来への展望が、自らの過去とどのように接点を持ちながら生じているのか、そしてその清算を行うことでそれらがどう変容していくか。(p.81-82)
(1) 心理相談事例
事例K 望まれずに生まれた私が、のぞんで授かった子ども(p.83-86)
(2) 面接の過程で
子育てを通して、けっして過去に引きずり込まれることのない、たしかな自分が育つという自信が持てるようになり、母子関係の行き詰まりもしだいに解消していった。(p.87-88)
(3)みずからを過去から未来へとつなぐ子育て体験(p.89)

5.福祉と心理学の接点
 多様な生き方が容認されるべき社会にとって、子どもを持たない人生あるいは、結婚しない人生など、それぞれの人生における心理的生涯発達のプロセスをより詳細に理解していくことが、これからますます重要になる。きめの細かい福祉と心理学接点は、おそらくこのあたりに見いだせるのではないか。(p.90-91)


3章 未婚女性の結婚観と子育て観

1.自分のために生きる女性たち
 従来にような夫のため・子どものため・家のためにみずからの人生を捧げるという「良妻賢母」としての生き方が唯一の生き方ではなくなってきている。女性たちが「自分のため」に
生きることを始めた。また、結婚による制約感を意識するものが、とくに首都圏の女性に多くなってきている。(p.94-95)

2.ナルシズムと現代社会
 みずからが人生における重要な選択を行うことによって、引き受けていくことになる心理的発達課題が何も実行に移されないままに、自己の有能観が維持される状態は、個人のナルシシズム的な心理を顕在化させる可能性が大きい。現代社会は、このような特性を持ち合わせたナルシシズム的な社会ではないか。(p.96-100)

3.未婚女性の結婚観
(1) 年代別結婚観の違い
未婚女性の結婚観について年齢を追う毎の変遷をみると、多様化する生き方のもとで、ライフスタイルの選択肢をまえにいろいろなことをできるだけ経験したいと考えている現代女性にとっては、結婚はその選択肢をある程度切り捨てることであり、可能性をあきらけることになる。逆に、若いうちは、結婚を現実的な問題として考えられず、先延ばししているだけだ。いざ結婚を現実的な問題として考えた時に、現実の生活に比べて自由のなさ、制約の多さに初めて気づき、女性たちはその狭間で葛藤を抱えている。(p.101-105)
(2) 未婚女性の考えている結婚への制約とは
事例A 制約感に窮屈さを感じながらも「でも、それはそれで楽しいかな」と(p.106-107)
事例B 束縛は感じるが、悔いない人生を送るためにも結婚したい(p.108-111)

4.未婚女性の子育て観
(1) 子育ても人生の選択肢の一部
事例C 女である以上は産んでみたい(p.112-118)

5.子どもに託した自分の可能性
 女性は子どもを一人産んで、自分があきらめてしまった可能性をそこに見て満足するというナルシシズム的な心理にとどまらざるを得ないのが、現状である。これが少子化につながり、一人っ子の増加の要因になっている。(p.119-120)


4章 少子化を止めるのために

1.きめの細かい少子化対策
 現在行われている少子化対策は、基本的には2つの考えに基づいている。一方は、すでに行われている「エンゼルプラン」を充実されるもの。他方は、「男女共同参画社会」に実現。また、2000年から「新エンゼルプラン」がスタートした。児童手当の増額や乳児保育の充実が行われる。(p.122-125)

2.福祉心理学と少子化の要因への対応
 根本的な少子化の原因や要因を明らかにしていく必要があう。このことによって、真にきめの細かい、そしてこころに沿った少子化対策を立てることが可能になるだろう。これが、福祉心理学からの少子化問題に対する基本的な考えである。(p.126-128)

3.こころに沿った少子化対策
 子どもを持つか持たないかは自己決定権にかかわる問題で、その人のこころのあり方がその決定には重要な役割を果たしている。こころが原因の問題は、当然こころを考えてみる必要がある。福祉心理学として、心理学の枠組みのなかで少子化問題を考える。こころに沿った少子化対策を考える。(p.129-136)


5章 福祉心理学からの提言

1.福祉心理学とは何か?
 単純には、福祉心理学は、福祉の現場を研究領域とした心理学を意味している。なんらかの問題をもっている人が、その問題を乗り越えたり受け入れたりして、よりよく生きるということが本来福祉がめざしていることである。心理学もよりよく生きることをめざしており、このことを阻止する要因を明らかにしたり、どのような心理的・社会的・物理的環境を整えればよいかを考える。(p.138-140)

2.本来の福祉心理学
 よりよい福祉をめざした心理学的研究、これが福祉心理学である。積極的な寄与や貢献を心理学が行う必要がある。(p.141-142)

3.サービスとしての福祉施策
保育対策、健全育成対策、障害児対策、母子保健対策、母子(父子)家庭対策(p.143-148)

4.福祉サービスへの満足度
 日本の福祉の現状に国民が満足しているかといえば、必ずしもそうではない。福祉の見直しのためのプランがいくつか提示されていることからも考えて、必ずしも満足していないのが現状である。(p.149)
(1) きめの粗い福祉サービス
事例A 車内生活4年(p.150-151)
事例B 自由なまま死にたい(p.152-153)
(2) 福祉サービスを受ける・拒否する(p.154-156)
(3) 福祉担当職員とのトラブル(p.157)

5.少子化問題を解決するための福祉心理学
 福祉サービスを受ける人のこころの問題を考慮したサービスの提供とその運用という視点に立って、少子化問題への対策を考えてみる。(p.158-160)

文献 あとがき


……以上。コメントは紹介者の希望により略……


REV: 20170426
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