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『〈老い衰えゆくこと〉の社会学』

天田 城介 20030228 多賀出版,595p.


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天田 城介 20030228 『〈老い衰えゆくこと〉の社会学』,多賀出版,595p. ISBN:4-8115-6361-1 \8925  [amazon][kinokuniya] ※ a06

  *第3回日本社会学会奨励賞[著書の部]受賞

文献表、言及などはこちらも参照ください→http://www.josukeamada.com/bk/books1.htm


■内容

□「BOOK」データベースより
 本研究では“老い衰えゆくこと”を単に老い衰えてゆく当事者の身体に帰属・完結する個別的な現象として理解するのではなく、成員間の関係性を変容させる出来事として照射し、そこでの相互作用及び相互作用過程を社会学的に分析・記述することを主題とする。本書は一貫してこの立場から論考している。

□「MARC」データベースより
 老い衰えてゆく当事者と、彼・彼女らに介護を提供する成員たちとの関係性はどのように変容していくのか。老い衰えてゆくという現実はどのようにして行為遂行的に作り出されているのか。これらを社会学の視座から明らかにする。

□田賀出版のHPより(http://www.taga-shuppan.co.jp/books/books.php?id=582
 本書では、痴呆や慢性疾患を抱えて生きる高齢者、あるいは彼/彼女らを介護する人々の視点に徹底的に照準化した上で、そうした当事者から見た〈老い衰えゆくこと〉の生活世界を剔出し、高齢者が老い衰えゆくなかで人間と人間の関係性がどのように変容していくのかを鮮明に析出している。加えて、本書では施設介護、在宅家族介護、高齢夫婦介護という三つの実際の現場におけるインテンシブなフィールドワークに基づいた緻密かつ大胆な実証研究が展開されていると同時に、その結果を踏まえた上で新たな理論的地平を切り拓いている点こそ、本書の紛う方なき功績である。
 本書は、以上のような理路を経た上で、はじめて〈老い衰えゆくこと〉を「政治的出来事」として照らし出した先駆的研究である。その意味で、社会学や社会福祉学や看護学などの領域の研究者のみならず、実際に高齢者福祉の現場で働く人々、あるいは自ら老いを迎えつつある人々や親の老いを看ている人々にとって必読の書である。


■目次

序章 研究の目的と意義
  第1節 〈老い衰えゆくこと〉へのまなざし
  第2節 本研究の主題設定と方法論
  第3節 本研究の構成

第一章 視座とアプローチ―自己と他者
  第1節 自己と他者―「再帰性」の視点から
  第2節 「絶えざる・寄る辺なき再帰性による物語」
  第3節 「儀礼」と「物語」の解読
  第4節 方法論における〈視線〉の二重性―社会学の「語る」場所

第二章 老年学の現在
  第1節 高齢社会の歴史性
  第2節 老年学の現在
  第3節 高齢社会における「再帰的エイジング」
  第4節 〈老い衰えゆくこと〉の社会学に向けて
  第5節 老い衰えゆく自己と他者

第三章 施設において老い衰えゆく身体を生きるということ―「痴呆性老人」によるアイデンティティ管理と施設介護
  第1節 〈老い衰えゆくこと〉と相互作用秩序―「施設」におけるケアという現実
  第2節 ロビーにおける「痴呆性老人」間の関係性分析
  第3節 「痴呆性老人」における/をめぐる相互作用の諸相
  第4節 施設介護における「痴呆性老人」へのケアの実践の構築

第四章 在宅にて老い衰えゆく身体を生きる家族を介護するということ―「痴呆性老人」と家族介護者の相互作用過程
  第1節 〈家族〉による介護の困難性
  第2節 「痴呆性老人」と家族介護者における相互作用過程―「痴呆性老人」と「家族」の視点から解読するケア・ストーリー
  第3節 家族介護における相互作用ダイナミズム
  第4節 在宅家族介護における「痴呆性老人」へのケアの実践の構築

第五章 老い衰えゆく高齢夫婦の〈親密性〉の変容―〈老い衰えゆくこと〉の意味をめぐるエスノグラフィー
  第1節 老い衰えゆく自己と他者―高齢夫婦の〈親密性〉の社会的帰結
  第2節 老い衰えゆく高齢夫婦をめぐる〈親密性〉の変容
  第3節 高齢夫婦の〈親密性〉の達成―せめぎあう〈老い衰えゆくこと〉という現実
  第4節 高齢夫婦介護における老い衰えゆく人々へのケアの実践の構築

第六章 老い衰えゆく身体を生きる―〈老い衰えゆくこと〉の困難と可能性
  第1節 「市民社会」における〈老い衰えゆくこと〉の構成
  第2節 〈老い衰えゆくこと〉の語り難さ・語り得なさ
  第3節 〈ケア〉の困難と可能性―暴力としての介護

終章 〈老い衰えゆくこと〉の社会学による新たなる地平へ
  第1節 本研究の結論―「再帰的エイジング」を超えて
  第2節 〈老い衰えゆくことの可能性〉と〈ケアの可能性〉の基底的条件
  第3節 いくつかの提言―実践的可能性に向けて

あとがき
文献


■引用

◆引用 http://d.hatena.ne.jp/K416/20050621
 「ここで決定的に重要な要件は、「他者の有する意味の秩序」である。しかし本質的に私にはその他者の意味の有する意味の秩序を完全に把握することは不可能である―私にはそれは分からない!
 であるからこそ、我々が他者に対して「分からない」と言うことは、我々はそれによってむしろ「いつか分かるかもしれない」という希望を―到達不可能ではあるが、それ自体を希求する希望を―あらわしているのだ。」(p.543)

◆引用
 →立岩 2006/03/25「天田城介の本・1」(医療と社会ブックガ イド・58),『看護教育』47-03(2006-03):-(医学書院)

 第二章 老年学の現在

 「近代社会における「暦年齢の絶対化」によって「老人」は匿名的カテゴリーとして構築され、それは同時に「老人神話」をも創出した。ところが、1970年代における「老人」から「高齢者」へのネガからポジへの価値転換はかつての高齢者像の呪縛からの解放を謳いながらも、いよいよ他者のケアに依存しなくては生きられない状態となった「老い衰えゆく」人々を「医療」「福祉」の世界に囲い込む結果となった。」(p.108)

 終章 〈老い衰えゆくこと〉の社会学による新たな地平へ

 「現代の老いを生きる人々は、老年期においても絶えず自らの身体を制御し、かつての価値や制度を吟味・改編の対象としつつ、自らが何者であるかを自問・再認する<再帰的自己>であることを暗黙のうちに命令されている。[…]こうした「絶えざる・寄る辺なき再帰性による物語」としての自己は、自らの存在が価値あるものであることを証明しようとしてアイデンティティ管理に躍起になり、また自己内部の<他者>としての発見とパラレルな形で、自己外部にある<他者>を発見/創出する[…]そして更には<他者>として発見/創出された人々は自らの自己の否定性を何とか返上しようと更なるアイデンティティ管理の実践へと囚われてしまう[…]」(p.518)

 「結局のところ、「痴呆」とは<自己同一性>規範を参照・媒介にすることで「自己や心を喪失する」「病気」であるかのように見え・思え、その結果「痴呆」と名付けられており、その機制はそうした<生>をあたかも彼岸へと変移したしたものとして、あるいは死よりも否定的な<生>として了解することを基盤として成立しているのである。
 とすれば、これまで先行研究で指摘されてきたような医療化によって「痴呆」が作られたという「テクノロジー決定論」は論理的な説明力を欠いており、むしろ近代社会が<自己同一性>とその前提たる全能的不死観としての<生>を欲望するがゆえに、「医療化」が産出・徹底化され、「痴呆」が作りあげられた、と考えるべきであろう。
 すなわち、先述したように、高齢社会における近代的自己の人生全般への拡大化・普遍化によって登場した「主体的高齢者」と、医療化によって「発見」された「痴呆性老人」は、言わば<自己同一性>の原理を母体として生み出された双生児・分身なのだ。」(p.531)

 そういうことではある。…。で、…。

 「<老い衰えゆくこと>をめぐるケアを媒介にした間身体性、すなわち「応答可能性としての主体」どうしの<あいだ>では、高齢者が「存在していること/存在してきたこと(be)」によって、あるいはその来歴によって、介護提供者も自らの「存在していること/存在してきたこと(be)が身体に繋ぎとめられ、また他者が語る言葉や声にもならない呟きや嘆きや叫びを通じて、お互いに「他者がいまここに現に・共に生きて在ること」を肯定することが可能化するのである。」(p.533)


■書評・紹介

◆立岩 真也 20060325 「天田城介の本・1(医療と社会ブックガイド・58)」『看護教育』 47(3)

鷲田 清一 20031221 書評
 『朝日新聞』2003-12-21
 (1)『レイアウトの法則 アートとアフォーダンス』(佐々木正人著、春秋社・2300円)
 (2)『午後の蜜箱』(稲葉真弓著、講談社・1700円)
 (3)『<老い衰えゆくこと>の社会学』(天田城介著、多賀出版・8500円)
 「ものの、ひとの、肌理(きめ)に深く感応した書物を三つ。(1)は、「輪郭と言語」に拉致された「物」の世界から、「もの」の肌理が錯綜(さくそう)し変圧しあう知覚と表現の風景を取り戻す、生態心理学の成果。ひとの小さな行為への、骨太の問いかけと繊細な感度とひとを深く愛(いとお)しむ心とが美しく織りあわされている。かつて哲学のものとされた世界への「驚き」が、いまはこの、世界の出現を再定義しようという研究に充満している。
 (2)は、独り暮らしのなかの物と音と空気のひそやかな触感をなぞり、絡まりを拒みながらほのかに惹(ひ)かれ揺らいでしまう、他者との不安定な距離感を描いた短編集。(3)は、特養でのフィールドワークをもとにした痴呆(ちほう)性老人介護の研究。言葉の刃とそれを収める諦(あきら)めとが交錯する高齢者の「親密性」の肌理について、私はうんと年下の研究者からたっぷり教わった。」

◆200506 「第3回日本社会学会奨励賞【著書の部】受賞者「自著を語る」/受賞作:天田城介,2003,『〈老い衰えゆくこと〉の社会学』多賀出版」
 日本社会学会発行『社会学評論』221号(Vol.56, No.1)


■言及



*作成:中倉 智徳 
UP:20090310 REV:20090710,20100717
天田 城介  ◇老い  ◇身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
 
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