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■NPOによる市場,企業活動の監視

※立岩真也・成井正之 19960229 「(非政府+非営利)組織=NPO,は何をするか」
 (千葉大学文学部社会学研究室『NPOが変える!?』,第1章)より

 「Tでは供給主体としてのNPOの存在意義についてみた。ここでは営利企業と
NPOは供給主体としてひとまず同格であり,その上で両者が比較されたのだが,
それと別に,NPOの市場に対する活動という側面がある。
 経済学では市場メカニズムでうまくいかない部分として,「完全情報の欠如」
「外部不経済」等があげられることを述べた。市場で起こるこのような問題に直接
的に介入する活動,その活動の主体としてのNPOがある。なお以下では,NPO
がとりあげ介入の対象とする「問題」が,上で指摘されているより広い範囲のもの
であることも合わせて述べる。
 まず「完全情報の欠如」(情報の非対称性)がある。ある種の商品について,消
費者は十分な情報が得られないことがある。また「外部不経済」が存在する。企業
はそれを知って行っている場合もあるし,意図しない,予期しない結果として不利
益を与えている場合もある。また,不利益自体を認識していない場合もある。
 このような問題がある時,その問題に対応し,市場・企業を監視し,制御する主
体として一つあるのは政府である。後にも述べるように,政治の領域は唯一,強制
力を付与された領域であり,強制力を背景に監視・制御がなされるべき場合(それ
は少なからずあるだろう)には,政治的な関与が要請される。
 しかし,まず第一に,そうした政治領域の介入の必要性を訴え,要請し要求する
主体としてのNPOの役割がある。法律の制定・改善を要求し,その履行を求める。
裁判所に問題を提起し,法的な制裁を要求する。またそのために必要な情報を入手
し,案を作る。こうした活動を個人で行うのは難しい。その活動主体としてのNP
Oの役割がある。
 と同時に,NPOが政府と独立に独自に果たしうる役割もある。意見が一致せず,
なかなか政治的決定・規制・制裁に至らない場合もある。また,どこまで規制すべ
きか,微妙な場合も多い。政治領域の介入の前に,それと同時に,並行させ,組み
合わせて,民間の活動が行われてよい。
 消費者は限られた情報しか得ることができない。一人一人の消費者が通常行える
ことは限られている。情報を入手し,それを消費者に理解可能なかたちにして提供
することによって情報の欠如(非対象性)の問題はかなりの程度解決される。十分
な情報さえ入手できれば,消費者は問題のある商品に手を出すことはしなくなり,
その商品は売れなくなり淘汰される。情報自体の入手については法的な強制力を必
要とすることもあるだろう。だが,自発的な情報提供が一般化され(問題のない,
あるいは自信のある商品であれば販売戦略上も情報を提供するはずだ),自発的に
情報を提供しないということ自体がマイナスに評価されるようになれば,強制力を
介することなくかなりの情報を入手することもできよう。
 実際,日本の消費者運動は,隠されている商品の質を明らかにする,明らかにさ
せる活動を行ってきた。現在でもその意義が失われたわけではなく,むしろ医療と
いった領域では,依然として何が提供されているのか消費者にはよく見えず,この
問題に対する民間の活動が始まっている★08。これらは「情報の非対象性」という
問題に対する対応と言える。
 だが,NPOが行えることはこれに限られるものではない。「外部不経済」の問
題についても,ある条件さえ存在するなら,一定の対応が可能である。その条件と
は,消費者が外部不経済をもたらすような商品を選好しない消費者であることであ
る。もし消費者がこのような消費者であれるなら,外部不経済についての情報が適
切に提供されれば,その情報にもとづいて消費者は消費行動を行うようになる。つ
まり,外部化されていた部分が,情報の介在,そしてそれの消費者の選好への繰り
入れによって内部化され,外部不経済を生じさせる財が市場において淘汰されるこ
とになる(ことがありうる)。★09
 そして企業が「社会的責任」を考慮するなら(考慮せざるをえないなら),こう
したNPOの活動は企業にとって迷惑なものであるとは限らない。市民が組織する
NPOが企業にアイディアを提供したり,NPO自らが企業に社会貢献の機会を提
供するなどして,市民の側から企業に働きかけている。
 このような働きかけがでてきたのは1970年代ぐらいからだろう。1970年代以降消
費者運動,反公害運動の盛り上がりに基づく企業の社会的責任論議が起こった。こ
れらの論議はやがて企業そのもの,高度経済成長そのものへの批判となっていった。
こうした批判に対し企業は,環境保全や公害防止対策,省資源・省エネルギー,消
費者窓口設置やアフターサービスの徹底,地域社会対策としての工場等の施設公開
等々といった広範囲にわたる対策をもって答えていった(電通総研編[1991:48])。
つまり,市民の声を反映するようになったのである。そして今では企業は積極的に
社会貢献をしたいと思っており,その方法を模索している。このように変わってき
た背景には,前に述べた潮流の他に,企業自身が,「無公害」や「環境にやさしい」
という言葉の持つ宣伝効果に気付いたことがあげられる。そして,このような企業
に援助を依頼したり,社会貢献をするためのアイディアを提供したりすることは,
NPOと企業の両方にとって利益あることとなったのである。
 さらに,このような手法を,商品自体の製造・使用がもたらす問題だけでなく,
もっと広い範囲に用いることができる。問題化され介入の対象になるのは,商品の
供給自体がもたらす不都合(「外部不経済」)だけではない。商品の質として直接
に現れない企業行動の問題(あるいは意義)について知り,それを消費行動に反映
させていくことによって,企業の行動全体を変えていくことも可能なのである。
 この部分でもNPOが果たせる役割は大きい。(こうした活動の主体として,政
府以外に,NPOだけがあるわけではない。企業行動を監視する企業といったもの
を考えることはできる。だがTに見たように,営利企業は利益を出すことが求めら
れているために本来の目的を遂行しにくいという限界があるなら,こうした活動の
主要な主体としてはNPOが指定されることになる。)企業の事業内容,雇用の仕
方,等々についての情報を収集し,それを消費者に提供し,消費者がその情報に基
づいて消費行動を決定することによって,企業・市場をコントロールする,等。こ
れらについても米国等で種々の事例がある★10。
 私達の国の社会運動は,長らく,市場を前提としそれをコントロールしていくと
いう発想をしなかったから,こういう活動はまだそれほど盛んではない。米国の場
合には,市場経済を積極的あるいは消極的に承認した上で,それをどう制御してい
くか考えるのに対して,少なくとも理念としては別の経済体制を想定してきた日本
の社会運動にはこういう発想はあまりなかった。だが,それも徐々に変わってきて
いる。この時,様々な手法を考案し,あるいは学び,その実現を可能にする仕組み
を作っていくことが求められる。」



★08 医療の場での「消費者主権」を巡る問題について 立岩[1996b]でごく簡単
にだが述べた。「医療人権センターCOML」について田中伸尚[1992:136-149]。
堀越・根本編[1991],根本+アルス[1993]等が,医療関連領域で活動する組織
を紹介している。もちろん,その多くは民間の内部で完結する運動を行なっている
のではない。後論にも関わり,どこが何をどこまで行なう(べきな)のかが問題に
なる。たとえば薬害エイズ(東京HIV訴訟原告団[1995:286]に関連書籍が14冊
あげられている)について考えること。
★09 環境に対する企業の取り組みについて調査し,その結果を消費者へのガイド
ブックとして提供している団体の刊行物として,ごみ問題市民会議[1991][1993
],グリーンコンシューマー・ネットワーク[1994]。環境倫理を企業に遵守させ
るために活動する団体として「バルディーズ研究会」(NGO活動推進センター編
[1994:227]に紹介)がある。Hollender・グループ環編[1995]は様々な行動の手
法,活動団体を紹介している。石井[1995]がこうした問題領域の分析を目指して
いる。
★10 「倫理的」な資本主義の使用法について Lowry[1991=1992]。米国のNP
Oのボイコット運動について青木[1993a][1993c],秋山[1993],柏木[1993b]
[1993c],デアンジェリス[1993]。


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